思っていた以上に多く反響があって、嬉しいと同時に更新頻度がそう早く無いので申し訳ない限りです。
今回も例に漏れず、キャラ崩壊注意。
明朝、まだ日が昇り始めて間もない頃。
司令部前にて、二人のある『KAN―SEN』がお互いに牽制するように仁王立ちしていた。
「──これはこれは、
派手な色合いの着物を妖しくはだけさせ、闇夜でも良く見える紅い瞳を爛々と輝かせる彼女──重桜の最新型装甲空母である
「ふふっ、ふふふふふっ……決まっていますわぁ? こうして、
「へぇー、
「別に大したことではないわ。指揮官様のためなら……指揮官様の血と肉になるのならば、ワタシはこの身すら差し出すつもりよ?」
「うふ、ふふふっ……それについては大鳳も同意見ですよぉ~? ──じゃあ、失礼して」
「待ちなさい! このアバズレ!」
平然と素通りしようとする大鳳を瞬時に伸ばした尻尾で拘束する赤城。
「ねぇ? 今の会話で何処に失礼する要素があったの? 馬鹿なの? 阿呆なの? 頭の中にまでその贅肉が詰まっているのかしら?」
「その言葉、そっくりそのまま自分に返ってきているの……分かっています~?」
「ふふふふふっ……言うじゃない、大鳳。いいえ──お邪魔虫と言った方が良いかしら?」
「うふふふふっ……この場合、どっちがお邪魔虫なんですかねぇ~?」
またもや、睨み合い、互いに牽制し、相手の出方を探り始める両者。
二人にとって、先ほどの言い合いは軽いジャブのようなものだ。それに、似たようなやり取りをほぼ毎日やっている。
故に、ここからが本番だ。互いの目的は
──指揮官の寝込みを襲う……起こしに行こうとする側と。
──指揮官の寝起きを襲う……安眠を妨げる不遜な者を阻もうとする側。
大鳳としては、何とかして寝込みを襲い、この溢れる愛をぶつけたい。
赤城としては、折角の逢い引きを誰にも邪魔されたくない。
故に、ここに赴いた大鳳。
故に、ここで待っていた赤城。
それは、最早必然。ぶつかり合って当然の結末。
両者がぶつからない理由が無かった。
「いい加減、どちらが指揮官様に相応しいか……分からせてあげる」
「分かるも何も……
「ふふふふふふっ」
「うふふふふふっ」
今にも互いに艤装を展開しそうな、剣呑な雰囲気が二人を中心に広がる。
空気が軋み、大気が揺れ、温度が急激に冷えていく……ような、錯覚を覚えるほど、赤城と大鳳の間に重苦しい空気があった。
それは、少し離れた重桜寮の者たちが気づくほど。
「──ひぃっ!? な、なに、この感じ……?」
「ぅ……うへ、うへへ…‥
「……何か、イラッとする」
「──んぎゃぁぁぁぁ!? な、何をするんですか、
まあ、新人の島風と駿河以外の者たちは既に慣れてしまっており、「ああ、またあの二人か」ぐらいにしか思われていない。
中には、それを目覚まし代わりにしている五航戦がいるとかいないとか……。
そんな、今まさに式神を展開しそうな殺気立つ両者の間に、凛とした声が響いた。
「──朝から
「…‥
白を基調とし、セーラー服と巫女服を組み合わせたような服装に身を包んだ一人の少女──
重桜を代表する巫女である
それ故に、赤城と大鳳は目を細め、嫌な予感がするとばかりに警戒の色を示した。
そもそも、ここに来るまでの道は大鳳の後ろにあり、赤城の後ろには艦隊が出撃するための埠頭がある。
司令部に来るにはその二つのルートしかないため、必然的に二人の内、どちらかは確実に江風の存在に気がつくはずだ。
だというのに、二人とも声をかけられるまで気配すら気がつかなかった。
そして、何より江風は二人の間に入るようにして登場している。
両者の間にあるのは、
つまり、江風は司令部から出てきたということになる。
「江風、アナタ──」
「ああ、分かっている。無論、規約には反してない」
赤城が言わんとしていることを瞬時に察した江風は、赤城が言うよりか前に口を開き、自身の正当性を示した。
「今日は
「…………ええ、勿論分かっていたわよ?」
「流石にそれは無理があると思うの」
数秒固まった後に薄く笑いながら肯定をした赤城に対して、大鳳は若干引き気味にそう言った。
余りにも分かりやすく、そして、清々しいほど真っ赤な嘘だった。
それには、思わず江風も軽く溜息を吐く。
「はぁ……赤城さん、今日は確か大事な会議を開くとか言っていたが……その準備は済んでいるのか?」
「ええ、そっちの準備は万端よ? まあ、加賀に任せたのだけど」
ある意味、赤城がこの場にいる理由だろう。
「
そんな二人の会話をぶった切るようにして、大鳳は声を上げて指揮官を探す。
折角ここまで来たのだ。
せめて、その姿を一目みたい。話しがしたい。身を寄せたい。あわよくば、襲いたい。
当初の予定とは違うものの、そのぐらいはしたいと思う大鳳は髪を揺らしながら、首を振り、瞳を動かし、獰猛な肉食獣のように鼻息を荒くする。
それについては、赤城も同意見なのだろう。何も言わず江風に鋭い視線を向けた。
「ああ、指揮官なら武道場にいる。朝食の準備が出来たから、今から呼びに行こうとしていたところだ」
江風が武道場の方を見ながら言えば、二人も同じように木々に被れて見える、武道場の屋根を目視した。
「武道場? そう……指揮官様ったら赤城を置いてそんな所に──は?」
「ああ、指揮官様! 今すぐにでも大鳳が汗を流して差し上げて──え?」
ほぼ同時に首を回転させ江風を見る赤城と大鳳。
並のホラー映画より恐怖を掻き立てる二人の動作に、江風は思わず、ビクリと肩を跳ね上げた。
「うふ、うふふふふっ! ……大鳳、聞き間違えたかしら~?」
「ねぇ、今、朝食って言ったの? 誰の? 何のため? まさか、指揮官様のなんて言わないわよね?」
「……なっ!? そっ、そんなわけっ! ……い、いや、そう、なるか……? だが、これは、その、迎えに来た延長というか、役目に含まれるというか……」
何だろう、この溢れ出る初々しさは。
咄嗟に否定をしたと思ったら、今度は少し頬を赤く染めてゴニョゴニョと言い始めた江風。
羞恥に悶えつつも、満更でもないように少しだけ口角を上げている江風を見ると、何とも言えない気持ちになる二人。
普段の江風からは考えられない様子に、困惑と若干のもどかしさが胸を擽る。
通常であれば敵意を剥き出しにしていたであろうが、如何せんこんな初心な姿を見ると、逆に複雑な気持ちになる二人であった。
「んんっ! ……少し取り乱した。取り敢えず、私は指揮官を迎えに行ってくる」
「──いえ、私が迎えに行くわ。元々、用事があったからここに来たの」
「……そうか? なら、赤城さんに頼もう」
丁度良い、言わんばかりに薄ら笑みを浮かべてそう提案した赤城に、江風は少し訝しながらも、その提案に乗る。
「抜け駆けは許しませんよ~? その役目、この大鳳がしますわぁ~」
無論、そんな会話を大鳳がみすみす見逃すわけもなく、同類だからこそ赤城の意図を理解した大鳳は、赤城の進路を塞ぐようにしてそう言った。
「ふふふっ、そこを退きなさい──お邪魔虫?」
「それは、こっちの台詞ですよ~? ──女狐が」
またもや、火花を散らし始める二人。
否、二人が同じ場所に、同じ目的で、同じ考えである以上、二人は必ずぶつかり合うであろう。
それが、指揮官ともなればきっと際限無く、争い続ける。
「結局、どっちなんだ? 時間に余裕はないんだが……やっぱり私が行くぞ?」
「ふふふふふっ!!」
「うふふふふっ!!」
「……後で文句は受け付けないからな」
場所は移って、件の武道場には指揮官が中央にて胡坐をし、目を閉じていた。
それは、所謂
本来のものとは違うかもしれないが、指揮官は良く精神統一を図るため、この武道場にはよく坐禅をしに来ていた。
それは、主に考えをリセットするためでもあり、今一度、自分を見つめ直すためでもある。
「すぅー、はぁー……すぅー、はぁー」
固定的な考えや既存の考えをしていては、奴ら──セイレーンに太刀打ち出来ない。
それで、彼女たちに怪我をさせる……最悪の場合は轟沈させた、なんてなれば、自分は一生顔を上げて生きていくことは出来ないだろう。
「すぅうう……はぁあ……はぁあ、すぅうう」
……自分は本当にこのままで良いのだろうか。
今のところ何も問題ないように見えるが、きっといずれかは浮き出てくるだろう。
所詮、現状は悪いことを棚上げしているだけに過ぎない。
これから──
「──すぅぅぅぅぅ……はぁぁぁぁぁ」
「あー……
閉じていた瞼を上げ、気まずそうに横を見れば剣道着を着たまま、同じように坐禅をする彼女──
「……ふん、もう集中が解けたか? それでは、あてを……この『鬼』を従わせることは出来んぞ」
だらしない、と呟いてまた坐禅に戻ろうとする鬼怒。
本当であれば、指揮官もそのままその言葉を受け止め、坐禅に戻っていただろうが、どうも今回は気が散ってしまっているようだった。
無論、それに気がつかないほど鬼怒は鈍感では無い。
鬼怒は瞼を閉じながら軽く溜息を吐くと、坐禅をしながら問いかけた。
「……言いたいことがあるなら、ハッキリ言え」
自分のようにハッキリとモノを言えばいい。
口籠もり、頭を低くして、こちらの様子を伺う様は指揮官のあるべき姿では無い。
そういった言葉の裏に隠れた意図を指揮官は感じとったのか、彼は覚悟を決め……だが、やっぱり言い出しにくそうに口を開いた。
「その、あー……──鼻血、出ているが……大丈夫か?」
「……気にするな。名誉の負傷という奴だ」
鼻血に名誉の欠片も無いと思う。
だが、それを口に出せるほど指揮官は豪胆では無かった。
そもそも、彼女たちが使う武道場にお邪魔させて貰っている立場で、ああだこうだ言う資格は無いだろう。
ましてや、ここを管理する鬼怒にそんなことでも言えば、きっと横に置いた竹刀が振るわれかねない。
故に、言い出しにくく、及び腰になったのも仕方なかった。
何とも言えない雰囲気が二人の間に……武道場内に広がる。
方や気まずそうに、方や恥ずかしそうに、二人ともそわそわして落ち着かない。
──やはり、言うべきではなかったか。
──ヤバイ、どうしよう。理由がバレなければいいけど。
指揮官は相も変わらず彼女たちの関係性に頭を悩まし、この状況に苦悩する。
対して、鬼怒は妄想ばかりがフラッシュして、迫り来る煩悩に悶々としていた。
お互いがお互いの出方を見ながら、どう打開するべきか考えていると、正に鶴の一声が武道場に響く。
「──
入り口に立つのは睨み合っているであろう赤城と大鳳を置いて、迎えに来た江風だった。
若干、頬が赤い気がするが、走ってこちらに来たのだろうか。
「もう、そんな時間か。今、行こう。鬼怒、鍛錬の邪魔をして悪かった」
「……フッ、別にこういう日があっても悪くないだろう。何時でも来ると良い」
お互い、先ほどのことは無かったことにしよう。そうしよう。
……そんな言葉が二人の会話から溢れ出ている気がした。
だが、それは二人だけの話し。江風からすればそんな舞台袖のことなど知る由もない。
「鬼怒さん。鼻血が出ているが、大丈夫か?」
「気にするな。名誉の負傷という奴だ」
「鼻血に名誉の欠片も無いと思うが……それより、拭いた方がいい」
何故かぎょっとする指揮官を尻目に、江風は手拭いを鬼怒に差し出した。
それを、恥ずかしそうに受け取り鼻血を拭き取る鬼怒。
ある意味、江風が一番ハッキリとモノを言うタイプだと分かった瞬間だった。
「すまない、助かったぞ……これは、洗って返そう」
「別に気にしてない……が、今は時間無い故、助かる。では、行こう、指揮官。朝食が冷めてしまう」
「あ、ああ、分かった」
終始、江風を中心としたやり取りは終わりを告げ、武道場にまた静かな時間が訪れる。
そこで、改めて鍛錬をしようと鬼怒は竹刀を持って立ち上がろうとした瞬間。
何か慌ただしく武道場に近づいてくる気配を感じた。
「──指揮官さまぁ~!! この赤城がお迎えに参上いたしましたわぁ~!!」
衣服を乱れさせ、所々汚れや傷をつけた赤城が凶暴な笑顔を共に武道場に現れる。
まるでセイレーンと戦闘し終えたような姿に、思わず鬼怒は唖然としたまま固まってしまう。
「……指揮官様? ねぇ、指揮官様は何処なの? 赤城が来たのに何で指揮官様がいないの? ねぇ、教えて、鬼怒?」
いや、そんなことを言われても……と、いう言葉を飲み込んで鬼怒は先ほど江風が来たことを話すのだった。
赤城発案、重桜司令部の鉄の掟。※一部抜粋。
一つ・許可無く入るべからず。(許可申請は赤城、もしくは加賀まで)
二つ・無闇に近づくことべからず。
三つ・帰還及び委託など、任務以外で入るべからず。
四つ・必要以上に指揮官に近づくべからず。
五つ・必要最低限しか指揮官と話すべからず。
六つ・赤城と指揮官の会話を邪魔するべからず。
七つ・赤城と指揮官の逢い引きを邪魔するべからず。
八つ・赤城と ──いい加減にしろ、この女狐。
よろしい、ならば戦争だ。
──以上、中央掲示板にて貼り出された鉄の掟。
「因みに、後どのくらいあるんですか? 青葉、気になります!」
「そうね……後、五十個ぐらいかしら?」
「……はい?」
「五十個ぐらいよ」