怯えながら指揮を執る   作:haku sen

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結末を書いていて、遅くなりました。
多くの感想、評価ありがとうございます。そして、誤字報告も本当にありがとうございます。中々、手直しが出来ないこの身にとっては、感謝しきれません。

今回も例に漏れず、キャラ崩壊注意ですが、そもそも、キャラに違和感があるなと思うところ多々あるかも知れませんので、ご了承下さい。




指揮官は悩み、勘違いする

 

 重桜領内、その中心にある島に聳え立つ巨大な桜の木と、その周囲に広がる豊かな町並み。

 その中でも一際目立つ建物がある。それは、時代錯誤とも言える巨大な『城』だった。

 真下から見上げればその天辺を見ることは叶わず、視界の半分をその城が覆っている。

 まるで、自分が小さくなってしまったかのような……そんな感覚に陥ってしまう。

 

 それと同時に細部まで意匠が施された外装は見惚れるほど。

 土台となる石垣をもってしても、一つ一つが光沢を放っているかのように美しく、寸分の狂いも無い、完璧な造り。

 

 それほど、この『城』は芸術的な要塞を誇っていた。

 

 何度もここには訪れているのに、まだ見惚れてしまうのはこの国の人間性なのか。

 或いは、記憶の奥底に眠る故郷の憧憬が蘇る由縁か。

 

「──官……指揮官! 聞いているか?」

 

 その言葉と一緒に肩に感じるちょっとした重みと、涼やかな匂いが鼻腔を擽る。

 反射的に振り返って見れば、江風(かはかぜ)の端正な顔が間近にあった。

 

「っ、あ、わ、悪い。少し、ぼーっとしていた」

 

 余りにも突然の事に、身体ごと後方へと引いてしまう。

 その反応に江風は、少々怪訝な表情を浮かべた。

 

「……大丈夫か? 私は用があるのでここまでだが……長門様たちのところまで送った方が良いか?」

 

「あ、ああ、いや……大丈夫だ」

 

 一度、落ち着きを取り戻すために一拍置いて、返事をした指揮官。

 その時、大丈夫という言葉に江風の眉が微かに動いたのに気がついたが、余りもの機微で一瞬だったために、気のせいかと内心首を捻る。

 

「……そうか。では、くれぐれも長門(ながと)様と陸奥(むつ)様には粗相(そそう)のないように」

 

 それだけ言うと、江風はくるりと反転して来た道を戻っていく。

 そんな江風の背中を見送りつつ、指揮官は「あっ」と思わず声を上げた。

 

「ああ、江風。朝、言い忘れていたが……その、朝食を用意してくれて、ありがとう。久方ぶりに温かい朝食を食べられたよ」

 

 ふと思い出したかのように、指揮官は柔らかく、一息吐いた後の弛緩しきった状態でそう口を開いた。

 

「────っ……気にしないで。好きでやったことだから」

 

 相も変わらず素っ気ない(・・・・・)江風は、背を向けたままそう言葉を零すと、先ほどと変わらない足並みで歩いて行く。

 

「……そうだった。江風はああいう性格だったな」

 

 記憶の中にある静止画と台詞の数々が疼き、冷静沈着でクールなイメージのある江風が、今の江風の背中と一致する。

 

「まだまだ……先は長そうだ」

 

 溜息とともにそんな言葉が出てくる。

 仮に、ゲームの友好度で表すのならば、きっと『知り合い』という文字が浮かんでいるのに違いない。

 

 改めて現実を突きつけられた気がした指揮官は、少し冴えない表情を浮かべながら、内城へと足を踏み入れていく。

 

 そんな時、ふと思った。

 

 実際、ゲームのような対応になったとして、自分は彼女たちに何を求めているのだろうか?

 

 病的な愛? 無条件の好意? 掛け替えのない伴侶?

 

 最初はそうだったかもしれない。そういった邪な気持ちがあったのは間違いない。

 

 だが、今は違う。

 違うとハッキリと声を上げて言える。

 

 自分が彼女たちに求めているのは────。

 

「……いかんな、気持ちを切り替えなければ」

 

 これから、人に……それも立場上、目上の存在と会合するというのに、沈んだ気持ちのまま会うのは当然、失礼にあたるだろう。

 それこそ、江風が言った「粗相のないように」という忠告を守れていない。

 言い表せない不快感を胸の奥底に押し込み、外面だけでも取り繕うと意識を無理矢理でも上げさせる。

 

 そして、目の前に現れるのは長い、長い──気が遠くなるほど上へと続く昇り階段。

 正直、もうこの時点で外面が剥がれかけていたのは間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──これより、第五回定例会議を始める。司会進行役は変わらずこの加賀(かが)がやらせていただく……と、言っても一回目の議題から変わらんがな」

 

「あ、書記の青葉(あおば)です。バッチリと記録するんで、よろしく!」

 

 重桜寮にある会議室。そこには重桜所属の精鋭とも言える『KAN―SEN』たちが集結していた。

 

 重桜が誇る航空戦隊を纏める赤城(あかぎ)加賀(かが)を筆頭に、戦艦部隊を纏める金剛(こんごう)伊勢(いせ)

 重巡及び軽巡部隊からは高雄(たかお)神通(じんつう)が来ており、駆逐艦部隊からは時雨(しぐれ)綾波(あやなみ)──の変わりに夕立(ゆうだち)が参加していた。

 

 この錚々(そうそう)たる各艦種の代表格がそれぞれに分かれ、コの字型に並べられた長机を仕切りに膝を向き合わせる風景は、有無も言わさぬ圧があった。

 

「えーっと、加賀先輩ちょっと良いですか?」

 

 正に、これから会議が始まらんとしている雰囲気の中で、おずおずと挙がる手。

 そこにいる全員の視線とまともに受けて、少し気まずそうにする彼女──五航戦、瑞鶴(ずいかく)は困惑気味に司会進行役を務める加賀に問うた。

 

「何だ、瑞鶴。お花でも摘みに行きたくなったか?」

 

「違います! それってトイレ──じゃなくてっ! あの、何で私がここに居るんでしょうか?」

 

 周りを見れば、どう考えても自分がここにいる理由が分からない。

 各艦種の代表でもなければ、並ならぬ戦果を挙げたわけでもない。

 無論、他の航空戦隊に負けず劣らずの実力はあると自負しているが……それとこれとは別だ。

 

「ああ、そうか……そうだったな。というか、翔鶴(しょうかく)から何も聞いてないのか?」

 

「へっ? 翔鶴姉?」

 

 何故、そこで姉の名が出てくる。

 そもそも、この会議と翔鶴()に一体何の関わりがあるというのだろうか。

 

「何処で聞きつけてきたかは知らんが、翔鶴(あいつ)がどうしても……と言うものだから、わざわざ末席を用意してやったのだが……」

 

「……あっ」

 

 本来、そこに座っているのは瑞鶴ではなく、その姉──翔鶴(しょうかく)だった。

 だが、ある出来事(・・・・・)によって翔鶴は風邪を引いてしまう。

 

 折角用意をした末席。一つだけ空席があるのは如何せん違和感を感じる加賀。

 どうしようかと悩んでいれば、翔鶴の妹、瑞鶴がいるではないかと思い当たり、白羽の矢が立った。

 

 そして、理由が分かったと同時に瑞鶴はふと思い出して、ある方向を無意識に見た……見てしまった。

 

「──ふふふっ、どうしたのかしら、瑞鶴?」

 

 サッと目線を横にずらして赤城を視界に入れないように努める瑞鶴。

 その、ある出来事の原因であろう赤城は知らぬ存ぜぬの態度を貫いていた。

 というか、瑞鶴もその場にいたため、ハッキリと犯人は分かっているのだが……如何せん、完全な縦社会である航空戦隊では文句も言えないだろう。

 

「後で、お見舞いにでも行ってあげるわ。後輩の面倒ぐらい(・・・・・)は見ないと……ねぇ?」

 

「いや、それは──……はい、ありがとう、ございます」

 

 両肩に手を乗せられたかのような圧を赤城から感じ、耐えきれなくなった瑞鶴は早々に白旗を揚げる。

 目を伏せながら、ごめん、翔鶴姉。……と、瑞鶴は心の中で今頃、寝込んでいる姉に謝るのだった。

 

「ふん、風邪などと……それでも重桜の航空戦隊か、情けない。会議が終わったら叩き起こしてやろう」

 

 正に、鬼か悪魔……という言葉が出てきそうな加賀の発言ではあるが、この会議後、翔鶴の部屋には献身という言葉が良く似合う加賀の姿があったという。

 

 そんなツンデレ? のような加賀の言葉を最後に、何処からか咳払いが聞こえてくる。

 それを切掛けとして、加賀は話しを本筋に戻すことにした。

 

「さて、瑞鶴以外は分かっていると思うが、改めて今回の議題を伝えておこう。それは──秘書艦についてだ」

 

「秘書、艦……ですか?」

 

 え、そんなことで五回もやるほど長引いているの? と、瑞鶴は第一にそう思う。

 寝込んでしまっているが故に、翔鶴から事前に何も聞けなかった瑞鶴は、この錚々たるメンバーが会合するこの会議をもっと大きいものだと見ていた。

 それこそ、今後の重桜艦隊に関わる……ひいては重桜の未来に直結する話しだと思っていたのだ。

 

 だが、実際蓋を開けてみれば『秘書艦』という役職を決める話し合いだという。それも、第一回目から変わってないらしい。

 

 故に、問う。問わずにはいられない。

 

「あの、もっとスケールの大きい話し合いじゃないんですか? もっと、こう、何て言えばいいんだろう。その、今後を左右する話しとか」

 

「何を言っているの? これほどスケールの大きい話しはないじゃない」

 

「……えっ?」

 

 あたかも当然のようにそう言い切った赤城に、瑞鶴は唖然とした。

 そして、周りを見てみれば赤城と同意見だと言わんばかりの反応を示している。

 中には、瑞鶴に眉をひそめ、怪訝な表情を浮かべている者もいた。

 

 あれ、私が可笑しいの? 秘書艦てそんなスケールの大きい話しだったっけ?

 

 気がつかない内に洗脳ともいえることが始まっているのを、瑞鶴は知らない。

 後に、これと同じようなやり取りを新人の駿河(するが)も味わうのだが……それは、また別の話しだ。

 

 勿論、そんな頭を悩ませる瑞鶴を待っているほど、彼女たちに時間はない。

 故に、加賀はそのままこの議題についての進行を始める。

 

「まず、秘書艦についてだが……まあ、指揮官の身の周りの世話や日頃の業務の手伝いだな。秘書艦の制度自体、もう長門様たちに許可を頂いている。後は誰にするか……という所まで話したが、誰か意見はあるか?」

 

「──一つ、良いでしょうか?」

 

 先ほどの瑞鶴とは違って、自身に満ちた声と真っ直ぐと綺麗に伸びた挙手。

 

神通(じんつう)か、どうした?」

 

 川内型二番艦、神通。二水戦旗艦でもある彼女は知恵にも優れており、このような場において有力な発言を出来る数少ない人物でもあった。

 

「前回、提案させていただいた秘書艦の交代制度……そちらは、どのように?」

 

「ああ、勿論組み込ませて貰った。詳細はこの資料を見てくれ。青葉」

 

「……えっ! 私がやるの!?」

 

「お前の他に誰がやる? 書記兼雑用だろう?」

 

「えー、でも、それは──あー、はいはい。分かった、分かりましたよ! だから、その形代をしまって下さい」

 

 青葉は今にも文句を良いそうな表情を浮かべながら、十枚ほどの束になったA4サイズの紙束を加賀から受け取る。

 その資料が青葉の手によって全員に配られ、手元に渡った者から順次それに目を通していく。

 

「ふむふむ……一週間で交代ですか……まあ、妥当でしょう」

 

 神通は自身の案が良い方向に機能していることを確認出来ると、少し口角を上げた。

 

 最初は代表を一人選んで、その者を秘書艦にするということであったが、各方面から不満と批判の声が続出。

 これに関しては、大鳳(たいほう)隼鷹(じゅんよう)などの我の強い者は勿論のことが、それ以外にも鈴谷(すすや)能代(のしろ)足柄(あしがら)といった、大人しい者からも反発があり、その案は破棄された。

 

 この時、瑞鶴は長年の疑問が晴れた気がした。

 何故、あの時、仲間の多くが重桜寮内で『断固反対』と言ったプラカードを持った、デモ活動紛いのことをしていたのか、ずっと疑問に思っていたのだ。

 というか、姉に手を引かれて困惑しながら参加した覚えがあり、真実を知って何とも言えない気持ちなる。

 

 そんな瑞鶴を除いて、全員が資料の内容に首を縦に振る中、早々に資料を閉じると手を挙げる人物が一人。

 

「あの、私しからも一つ宜しくて?」

 

 高速戦艦として名高い、金剛型巡洋戦艦一番艦──金剛が白手を嵌めた手を伸ばす。

 重桜の装いとは毛色が違う軍服と、輝くような黄金色の髪。

 この中では、際立つほど他の重桜艦たちと差違が目立つ金剛だが、誰もそれを異質などと思っていない。

 

 建造場所は違えど、彼女は立派な重桜艦であり、重桜たらしめる実績と信頼があった。

 そんな彼女が片眉を少し下げて、加賀と赤城がいる方向に視線を向ける。

 

「これ、一週間で変更するのは良いとして……指揮官に負担が増えません? だって、一週間経った後にまた仕事内容を教える必要があるのでは? 各々、優秀であることは存知ありますが、一週間そこらで、やっと秘書艦の仕事に慣れるのではないかと」

 

 金剛の言うことは至極真っ当の事だ。

 いくら、『智』に優れている赤城や神通だとしても、そう簡単に秘書艦としての責務を全う出来るかと言われれば、本人たちも首を縦には振れないだろう。

 

 何せ、誰もやったことがないのだから。

 

 ほんの少し前まで、セイレーンの研究や軍事連合(アズールレーン)への対応に追われ、このような会議を開く余裕すらなかったのだ。

 今となっては、新人教育や重桜の内情に着手出来る余裕があるため、このように秘書艦という言葉も出てきている。

 

「……それなら、最初に選ばれた者がその内容を他の者たちに教える……と、言うのはどうだろうか? 誰しも最初は不慣れだろうが、事前に予習が出来ていれば、そう業務に遅れは取るまい」

 

「ふーん……悪くないんじゃないか? 私もその案は良いと思う。幸い、ウチの指揮官は優秀だしなぁ」

 

 高雄の案を伊勢が後押しするように肯定を示した。

 

 確かに、それならば悪くない。

 多少、不都合が出てくるかもしれないが、そこは随時適応して行けば良いだろう。

 

 伊勢が賛成したのを皮切りに、殆どの者が首を縦に振り始める。

 

 現状、これ以外の妙案が出てこないのを確認した加賀は、これを可決しようと口を開きかけたその時。

 

「──で、その最初(・・)は誰がするんだ? 夕立(ゆうだち)、そういうのは苦手だからパス」

 

 欠伸を零しながら眠たげにそう言ったのは白露(しらつゆ)型四番艦、夕立だった。

 今回、委託に向かった綾波の代理として参加した夕立は【ソロモンの狂犬】という二つ名に恥じない、噛み付いた疑問を提示してみせる。

 

 無論、それに反応を示すのは彼女しかいない。寧ろ、これで反応を示さないわけが無かった。

 

「──ふふっ、ふふふふっ! それは、勿論この赤城よ? 私以外に適任はいるかしら?」

 

 誰よりも指揮官を愛していると豪語する彼女にとって、秘書艦は喉から手が出るほど欲しい立場。

 それを手にするならば、どんな汚い手を使おうとも赤城は躊躇わないだろう。

 現に、猛反発してくるであろう大鳳を含む『やべーやつら』をこの場に呼んでないどころか、何かしら任務を押しつけて近寄ることすらさせてなかった。

 

 そのとばっちりに綾波などが巻き込まれているのだが、そんなこと頭の片隅に追いやられている。

 

 ──ただ。それで決まれば五回もこの会議を開いていない。

 

「──いや、ここは拙者が言い出した手前……責任持って指揮官から秘書艦の仕事を教えて貰う所存だ」

 

 自信に満ちた声が会議室に響く。

 凛とした佇まいに、武人として気迫が伝わってくる力強い彼女の、高雄の出で立ちは思わず首を縦に振りそうになる迫力があった。

 

 しかし、それに臆する者はここにはいない。

 

「──計略定まって、兵動く……最善の選択をするのが私の信条です。だからこそ、その役目は私が、私こそが完璧に出来ると自負しましょう」

 

 何処からともかく取り出した扇子を広げ、不敵な笑みを浮かべながら神通は大胆にも啖呵を切る。

 だが、その言葉は間違っていない。

 それぐらいの成果と実績、そして彼女の圧倒的な指揮能力を持ってすれば、正しく完璧に熟してみせるだろう。

 

 だが、彼女だって黙ってはいない。

 

「──いいえ、私こそが相応しいと思いますわ。何も、書類だけが秘書艦の仕事ではありませんのよ? 紅茶の注ぎ方から出し方まで、一つの所作すらも作法があるのを分かっていまして?」

 

 異例なカンレキを持つ金剛だからこそ、持ちうる唯一無二の武器。

 確かに、と言わざるを得ない説得力がそこにはある……ように思えた。

 

 三者三様、意見が違えばそれは対立しないわけがない。

 そして、女三人寄れば、という言葉がある通り、会議室は違う方向性に姦しいものへと変貌する。

 

「秘書艦になるのは私よ!!」

 

「いや、拙者だ!」

 

「私にお任せ下さい!」

 

「私こそ相応しいですわ!」

 

「──あぁ、もうっ! 聞いちゃいられないわ!」

 

 火花を散らす四人に突如としてバンッ! と強く机が叩かれた音が割って入る。

 流石に会話の中で異音がすればそちらに注意が向かずにはいられない。

 

 四人は、否、全員がその異音へと視線を向ける。

 視線が集まる中心には、今まで沈黙を保っていた白露型二番艦、時雨の姿。

 

 叩きつけた両手を離すと、腰に手を当て溜息と一緒に言葉を零した。

 

「大の大人が揃いも揃って、言い争いをしてんじゃないわよっ。子供じゃないんだから、ここは公平をとって投票制にでもすればいいじゃない」

 

 投票制、その言葉に殆どの者が代表者を決めようとしたときの二の舞になるのでは、と予想をして反論の言葉を言おうとした。

 だが、それよりも前に時雨の言った言葉に違う方向性で捉えた者がいた。

 

「投票制? ……なるほど。つまり、『秘書艦総選挙(・・・・・・)』を行う……ということですね?」

 

「……へっ?」

 

 何を言っているのだろうか、この軍師(じんつう)は。

 

「え、いや、別に選挙とかそういうのじゃなくて──」

 

「──へぇ……私は良いわよ? まあ、結果は分かっているでしょうけど……ふふっ。ねぇ、加賀?」

 

「……まあ、ちゃんと公平に決められるよう考えよう」

 

 赤城の言葉に答えを濁した加賀は、そのまま手を数回打ち鳴らして、注目を集める。

 

「時間がもうない。よって、今回の会議はここまでとする。投票制……『秘書艦総選挙』は前向きに検討させてもらおう。この件は追って連絡するので、今回は解散だ。各自、持ち場に戻るといい」

 

 端的に加賀はそう言うと、足早に会議室を後にした。

 それを皮切りに、他の者たちも会議室から出て行く。

 

 そして、最後に残ったのは自分の発言によって結果的に置いて行かれた時雨と、途中から机にうつ伏せで寝る夕立だけ。

 

 

「──って、夕立(アンタ)! 会議中に寝てんじゃ無いわよ!」

 

「んあっ? ……終わった?」

 

「終わったじゃないわよ! このバカ! アンタのせいで大変なことになったじゃない!」

 

「はぁ? 何言ってんだ? ……てか、終わったんなら帰って良い?」

 

「ああっ!! もう、なんで綾波は委託に行ったのよっ!!」

 

 叫ぶ時雨と、それに耳を塞いで鬱陶しそうに顔を顰める夕立。

 だが、この時、誰も予想だにしなかっただろう。

 

 まさか、この秘書艦選挙が鉄血をも巻き込む一大事になるなど、誰も知るよしも無い。

 

 

 

 




ちょっと、長くなった上に最後の方は少し飛ばし気味になってしまいました。
次回の辺りに鉄血のキャラを出そうと思っていますが、如何せん重桜の出したいキャラが多くて……タグ詐欺にならないよう早急にぶち込みますので、ご容赦を。

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