怯えながら指揮を執る   作:haku sen

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大変、遅れてしまって申し訳ございません。
でも、頑張ります。どうにか、完結まで頑張ります。



指揮官は知らず、執務をする

 鈴谷(すずや)熊野(くまの)は互いに見合わせる。

 余りにも異質で奇妙。誰がこんな状況を予想出来ただろうか。

 

 二人の視界の先にいるのは、同じ重桜艦隊所属の飛鷹(ひよう)型航空母艦二番艦──隼鷹(じゅんよう)

 それに並び立つのは、鉄血艦隊所属のP級装甲艦──プリンツ・ハインリヒ。

 

 一体全体、何の巡り合わせでその二人が一緒にいることになる?

 

 鈴谷は分からないだろうが、熊野はついこの前まで使節部隊の一員として、ハインリヒとは顔を合わせている。

 顔を合わせ、言葉を交わし、そして意気投合。話してみて分かった。

 

 彼女は、誰とでも仲良くなれる。

 

 熊野自身、コミュニケーション能力は高いと自負していたが、ハインリヒのそれは群を抜いて高いと言わずにはいられない。

 流石に抜きすぎて、少々ヤバイのでは? と思う場面もあったのは言わぬが花というヤツか。

 ただ、ビスマルクやペーターの苦労は計り知れないだろう。

 

 底なしに明るく、表裏が無いハインリヒ。

 だからこそ、ハインリヒが重桜(こちら)の誰かしらと一緒に出歩いていることは、割と予想できたことだ。

 まあ、まさか初日から出歩いているのは度肝を抜いたが、それは一旦置いておいて。

 

 問題は、その横にいるが隼鷹だということ。

 

 何故、隼鷹。何故に、彼女。

 

 指揮官が関わらない状態でも、何処か病的なヤバさを感じるのが隼鷹だ。

 

 筆頭として赤城や大鳳、他にも見え隠れしている存在はいるだろうが、それでも、指揮官が関わらなければ大人しく、頼りになる存在であるには違いない。

 

 それこそ、赤城などが良い例だ。

 重鎮にして、知将。無敵艨艟(むてきもうどう)と謳われる第一航空戦隊であり、重桜の要たる航空隊を纏める鬼才。

 もし仮に、指揮官という存在がいなければ、きっとその立場は赤城が務めていただろう。

 

 一応、隼鷹も頭が上がらない存在であると認識しているらしいが……そこに指揮官の指揮の字でも関われば豹変してしまう。

 

 重桜でも手がつけられない存在である隼鷹が、一体全体どうしてハインリヒとショッピングするような事態になるのか。

 というか、そもそもああいう風にショッピングしていること自体、初めてみる。

 

 いやいや、そういうことを考えている場合ではなく。

 

「鈴谷、一応指揮官に連絡しといてくんない? 後、三笠大先輩にもヨロ」

 

「あ、うん。それは構わないけど……もしかして、熊野。話しかけるつもり?」

 

「そりゃあ、見過ごせないっしょ? 今のところは仲良さげだけどさ……いつ爆発しても可笑しくないじゃん?」

 

 今のところ、問題なさそうに見えるが、何らかの切っ掛けで隼鷹が暴走しても可笑しくない。

 そこに、鉄血(てっけつ)との確執でも知られてしまえば、表向きには同盟国となっている鉄血にも攻撃しかねない。

 

 もし、そうなれば鉄血との戦争は避けられないはずだ。

 

 ……冷静に考えてみると、想像以上にヤバイ状況なのでは?

 

「爆発って、そんな……まあ、でも気をつけてね? 報告が終わったら直ぐに行くから」

 

「うん、ヨロシクー」

 

 携帯電話を取り出す鈴谷を背にして、熊野は軽々しい足取りで二人に近づいていく。

 ただ、その足取りに対して内心は不安と、どうやって声をかけようか、という悩みが渦巻いていた。

 

 下手をすれば戦争。下手をしなくとも外交問題。

 

 想像以上に困難な状況に陥ってしまった気がしてきた熊野は、一旦様子見をしようと、人の流れに混ざって二人に近づいた。

 

 明らかに目立つ格好の熊野ではあるが、人混みに紛れて死角に行けば、余程のことがない限りバレることは無いだろう。

 

 声が聞こえる範囲まで近づき、聞き耳を立てる。

 

「──これ、何て言うの?」

 

「それは、扇子よ。こうやって……扇いで風を起こすの」

 

「うわぁ……! 私、この魚の模様が付いてるのが良い!」

 

「えっ……別に買わないけど」

 

「えぇっ!? なんでっ!?」

 

 あれ? 思っていたのと全然違う。

 

 会話を聞いた熊野は不躾な視線を向ける通行人のことなど気にせず、表情を歪めて頭を抑えた。

 

 もっと、こう……何て言えばいいのか。

 あの隼鷹だ。あの隼鷹で間違いないのであれば……もっと、トチ狂った言動をするのではないのか。

 指揮官を【オサナナジミ】などと妄言し、もう過去の遺物とかした都合の良い創作の世界のような妄想を喚き散らす……そんな人物だったハズだ。

 

 なのに、何で普通に会話をしているのだろうか。それも、今日あったばかりの鉄血艦(ハインリヒ)と。

 

 いや、確かに隼鷹は狂ってはいるが、一番狂ってはいるが、それでも彼女なりの線引きがあるのを熊野は思い出した。

 

 戦場においては味方として、戦友として、頼りになる。姉である飛鷹と一緒に出撃するものなら、百戦錬磨と名高い重桜の航空戦隊としての実力を遺憾なく発揮するだろう。

 

 そして、コミュニケーション自体は普通に問題ない。ある程度、地雷を踏まないように言葉を選ばないといけないが、そこまで酷いわけではなかった。

 何より、睦月(むつき)型の園児()たちが怖がらず、普通に対話及び一緒に遊んでいる瞬間を何度も目撃されている。

 

 つまり、人格や表面的な性格はまだ大丈夫だと判断出来るのだ。

 ただ、指揮官が絡むとヤバくなるだけで、本当に関係が無い場面なら問題ない……のかもしれない。

 

 と、なれば納得が行く。

 隼鷹にとって、今のこの状況は大丈夫な分類に入っているのだろう。

 ならば、後は上手く誘導しつつ、鉄血が指揮官と何ら関わりの無いことだと……鉄血は味方だと、教え込まなければ。

 

 あくまで推測に域を出ないが、幾分かマシになった表情を浮かべて、熊野は顔を上げた。

 顔を上げて固まる。

 

 ──炎が揺らめいたような光を持つ四つ目の機械と目があった。

 

「……あっ」

 

 蛇のような形をした鉄の塊がゆっくりと動き、首を斜めに傾ける。

 その動作はまるで、人が首を傾げるのと同じように思えた。

 

「ん? どうしたの、アイゼンくん──クマノ!? うわぁ! クマノっ~!」

 

「ちょ、まっ──ぐぇっ!」

 

 アイゼンの様子に気が付いたハインリヒは視線の先にいた熊野に気が付くや否や、喜色満面の表情を浮かべて熊野を抱きしめた。

 

 自身よりも遙かに大きいと思われる二つの塊が顔を覆い隠し、口や鼻を塞ぐ。

 息が出来ない。いや、何とか出来ているが圧倒的に足りていないのは確かだ。

それに、ただでさえ少ない酸素に混じってイイ匂いが脳内を犯し、思考を惑わせる。

 

 だが、熊野がどうにかしようとするよりかも先に。

 

「~~~~っ!? いっ~たぁ~~!!?」

 

 突如としてこめかみを抑えながら、痛みに悶え苦しむハインリヒ。

 どうして、苦しみだしたのか分かっている熊野は咳き込みながらも、どうにか呼吸を整えて、ため息交じりに言った。

 

「げほっ……ん、あぁ、んっ……だから、前も言ったじゃん? 角には気をつけな(・・・・・・・・)って」

 

 熊野は自身の頭から伸びる角の先を触りながら、困った表情を浮かべる。

 視線の先に、涙目になりながら頬を膨らませて、こちらを睨め付けるハインリヒの姿があったからだ。

 

「もうっ、角なんて反対! そんなもの外すべきだよっ!」

 

「いや、取り外せるものじゃないからね? てか、(コレ)は私のチャームポイントでもあるんだし、マジ外すとかあり得ないから」

 

 仮に外せるとしても絶対に外さない。何が何でも外してなるものか。

 と、そんなことよりも。

 

「あー、えっと……久しぶり、じゃん? 隼鷹さん」

 

 先ほどから、こちらの様子を探っているような視線をハインリヒの背後から向ける隼鷹。

 そんな親しいわけでも、語り合ったわけでも無いが、それでも同じ重桜艦隊の仲間。

 それなりに顔を合わせているし、一緒に任務も何度か行っている。

 

 故に、敵意などは無いはずだが……果たして。

 

「……ええ、久しぶりね。派遣前の任務以来かしら」

 

 意外と普通だった。

 少し言い淀んだような気もしたが、さして気になるようなことでも無い。

 というか、派遣前に行った安全航路確認任務でのことを覚えていることに驚いた。

 

 そこで、熊野は思う。

 

 隼鷹は自身が思い描いていたような人では無いのかも知れない、と。

 

 上面や噂に惑わされて、彼女のことを無意識のうちにそう思っていたのかもしれない。

 今、考えれば彼女の好きな物や趣味嗜好など、全く知らないのだ。

 それで、皆が言っているから彼女はそうなんだ、と決めつけるのは間違いだ。

 

 熊野は、表に出さないように反省する。心の中で自分自身を戒めて、考えを改める。

 

「ねぇ、隼鷹さん。今、何してんの? てか、二人はどういう関係?」

 

 幾分か砕けた口調と態度。

 さっきとは打って変わって馴れ馴れしい態度で問いかけたのだ。

 敢えて、そう言った態度を取ってみた熊野に対して、隼鷹はさして気にした様子もなく答えた。

 

「今? 今は指揮官(オサナナジミ)を探しているの。ハインリヒはそれを手伝ってくれているのよ」

 

「……ん? え?」

 

 あれ、何だろう。少し雲行きが怪しくなってきた気がした。

 

「そうそう、そうなの! えっと、ジュンヨウがいう、そのオサナナジミ? っていう人を探しているの!」

 

 熊野は自身の直感が、もの凄い勢いで警報を鳴らしているのが分かった。

 何か、取り返しの付かないようなことが起こりそうな気がして堪らない。

 

「小さい頃にした結婚の約束とか、永遠の愛を誓ったとか……とにかく、こっちでいうフィアンセみたいなもの何でしょう? 道すがらいっぱい思い出を聞いたの! もう、聞けば聞くほどキュンキュンしちゃって! こんなの応援しないわけには行かないよね!」

 

 鼻息を荒くし、何処か純情な乙女のような表情を浮かべるハインリヒ。

 それには、アイゼン君も引き気味なのか、少しだけ距離が開いた気がした。

 

「フフッ……ちょっと恥ずかしいから、余り大声で言わないで」

 

「あ、ごめん。でもでも! 何か嬉しくなっちゃって!」

 

 ここだけ見れば、仲睦まじい友人同士との恋バナに花を咲かせる純情乙女の会話に聞こえる。

 しかも、その二人は同盟とはいえ異国同士。

 もし仮に、両国の仲を周囲に表すというのならば、これほど良いモデルケースは無いだろう。

 

 だが、違う。決定的に何かがズレている。

 

 いや、もう完全に洗脳されてない、これ?

 

 熊野は思う。これ、絶対にヤバイヤツだ、と。

 

 出来るのならば、今すぐにでもここから逃げ出したい。何もかも投げ出してしまいたい。だって、今日休みなんだし。

 

 仮に休みじゃないとしても、こんなのに関わりたく無いと心底思う。どう考えても面倒事になるのは目に見えているんだから。

 

 もしかすれば、ハインリヒの誤解を解ければどうにかなるかも知れないが、どう誤解を解けば良い?

 

 隼鷹が言っていることは全て妄言だと言えばいいのだろうか。

 隼鷹が言っているオサナナジミとは指揮官のことで、そもそも自分たちにオサナナジミなどいう概念はあり得ない、と言うべきなのだろうか。

 

 いや、これがまだペーターやヒッパーならば直ぐにでも勘づいて、こんな風には成っていなかっただろう。

 それはそれで、余りいい方向には行ってないだろうが。

 

 どうする、どうすればいい? 

 

 このまま、指揮官のところに連れて行くべきか? いや、それだと内輪揉めをハインリヒに見せることになる。

 そんな痴態を鉄血側に知られるわけには行かない。

 

 そもそも、指揮官ありきで重桜内部の関係性が成り立っているという状況を知られるのはマズイ。

 もし仮に、指揮官が人質にでも取られれば……いや、寧ろ一致団結しそうな気もしなくも無いが、余り弱点をさらけ出すのは良くないだろう。

 

 なら、この状況をどうにか出来るかと言えば、自分には無理だと熊野は思う。

 そもそも、どうやってこれを収拾つければ良い?

 

 もう適当に理由をつけて逃げ出してしまおうか、と考えていた熊野だったが、近づいてくる気配に顔を向けて絶句する。

 

「──あらあら、隼鷹さんと熊野さんじゃないですか~? こんな所で何をしてらっしゃるんですぅ? それに、アナタは……鉄血の人ですよね~?」

 

 妖艶に着崩した派手な色の着物を身に纏った黒髪の美女。

 間延びした男性に媚びるような口調で話す人物など重桜においてただ一人しかいない。

 

大鳳(たいほう)……っ」

 

 すっと隼鷹の目が細められる。

 そこにあるのは間違いなく敵意だった。

 

「隼鷹さん、もしかして、またアレ(・・)ですか? もう勘弁してくださいよ~? それに、客人まで巻き込んで……ああ、指揮官様もきっと頭を悩ませていることでしょうに……」

 

「……チッ、頭の軽い雌鳥が。私たちの邪魔をしないでくれる?」

 

「どちらかと言えば、その言葉はそっちでしょう? トチ狂ったお馬鹿さん?」

 

 突然として現れた大鳳。

 そして、そうそうに始まった二人の罵り合い。

 ぽかーんとしているハインリヒを余所に、熊野は事態が更にややこしくなるのを予期した。

 

 そんな時、ふと大鳳の後ろでこちらの様子を見守るようにしている人物を発見する。

 

 その人物──何処か窶れた様子の飛鷹(ひよう)はこちらの視線に気が付くと、心底申し訳なさそうな表情を浮かべて、目を伏せた。

 

 何があったかは知らない。だが、そこはどうにかしてでも止めて欲しかった。

 

 睨み合う両者。その間に挟まるように立つ熊野。

 

 もう、どうしていいのか分からず混乱していると、唐突にハインリヒが手を叩き、声を上げた。

 

「分かった! 彼女は──恋敵ねっ!?」

 

「早く、鈴谷、早く! てか、助けて!? 三笠大先輩呼んできて!!」

 

 

 

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