憧れの仮想世界で   作:オリver

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今回はキリト視点から始まります。
第三話どうぞ。


第三話 キリトとラインハルト

 浮遊城アインクラッド第三層。

 SAOのβテストが開始して一ヶ月が経過した現在の最前線だ。

 

 

 この層のデザインテーマは<森>である。

 大量の樹木がフィールド中に配置されているせいか、フロア全体が鬱蒼とした雰囲気に包まれているのが特徴だった。

 

「シャァッ!」

 

「シッ!」

 

 その第三層の南エリア<迷い霧の森>で俺は、森にふさわしい巨木のモンスター相手に大立ち回りを繰り広げていた。

 <エルダー・トレント>

 枯れ木のような見た目の植物型mob<トレント・サプリング>がポップしてから時間経過で進化し、その強さはその辺の通常mobと一線を画している。

 フロアボス一歩手前、といったところだろうか。

 

  一人で戦うには厳しい相手だったが、俺はこの場から逃走するつもりはなかった。

 <エルダー・トレント>は強モンスターであるのと同時に、出現確立の低いレアmobでもあるのだ。

 経験値はかなり多めにもらえるし、ドロップ品<エルダー・トレントの根>は有用で、プレイヤー間で高値で取引されるほど。

 どうせ死んだって始まりの町に死に戻りするだけなのだから、ここはいけるところまで挑戦するべきだ。

 そう思いこうして戦っている訳なのだが、

 

「うぐっ」

 

 ガキン、と愛剣アニールブレードが堅い表皮に弾かれ、その衝撃で俺はよろよろと数歩後退してしまう。

 と同時に俺が先ほどまで立っていた場所に、地面から先の尖った何本もの根が飛び出し空を切った。

 そのまま同じ場所にいれば戦闘不能、まではいかなくとも大ダメージを負っていただろう。

 

 完全に死角である地面からの特殊攻撃。

 同じ位置に少しでも留まると発動する上に予備動作がほとんどなく、あまり動かないタンカーはもちろん、俺のような動き回るアタッカーでも気を抜くと一撃もらってしまう。

 

 複数人いると狙いが分散されるため、誰かが攻撃を受けている間に他の仲間が本体に切り込むことができるのだが、生憎今は俺ただ一人。

 つまり、一瞬も止まること無く、相手の枝による通常攻撃をいなして本体の弱点の、まるで目のように光っているウロを攻撃しなければならない。

 ちなみにそこ以外のところを攻撃してもダメージ判定にはならず、さっきのように剣が弾かれてしまう。

 

 

 ひとまず崩れた体勢を整えるために5メートル程離れ、根っこ攻撃の射程圏外へと出る。

 相手が回復行為を始める前に、剣をライトグリーンに輝かせながら思いっきり跳躍。

 突進系ソードスキル<ソニックリープ>。

 前に振りかざされた枝の合間をくぐるように刃を若干軌道修正しながら俺は猛然と飛び込んだ。

 

「ギギャァァァア!」

 

 見事弱点に命中し相手がスタン状態になるが、こちらもソードスキル発動直後なので動けない。

 これで外していたら根と枝でたこ殴りという目も当てられない状況になっていた訳だが、命中したので良しとしよう。

 合計八回弱点に命中させたので、相手のHPはもうレッドゾーンに突入していた。

 あと一撃入れれば倒せる。

 

 そう計算しつつ体の硬直時間が終わった直後に今度は真上に思いっきり跳躍した。

 

 ザクザクと地面から突き出してきた根を視界の端にとらえながら今度は単発系ソードスキル<バーチカル>を発動し、ウロ目がけて思い切り剣を振り下ろした。

 

「はぁぁ!」

 

  直後、<エルダー・トレント>の断末魔、少し遅れてポリゴンの破砕音が森の中を響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 勝利の余韻に浸りつつ獲得アイテムの確認をしていると、索敵に他のプレイヤーの反応があった。

 濃い霧の中、うっすらと見えてきたのはよく言うと親しみやすい、悪く言うと平凡な見た目をしたアバター。

 一ヶ月前、βテスト開始直後に会ってからよくつるんでいた友達、ラインハルトだった。

 

「あれ?キリトじゃん!お前こんなところでまた籠もってたん?相変わらず暇人だなー」

「それ、ダイブ時間毎日15時間越えのライにだけは言われたくないんだけど…」

「細けーことは気にすんな」

 

 手をパタパタと振り笑いながらそう返してくるライことラインハルト。

  総ダイブ時間じゃβテスター全体でも上位に入るであろう俺でさえ一日五時間くらいで限界なのに、その三倍の時間ログインしているこいつは頭おかしいと思う。

 

「しかも、そのほとんどを生産系スキルや趣味スキルに費やしてるんだから、ほんともったいないよなー…普通に外で戦っていればレベル的に間違いなく攻略組になれるのに」

「おい、思考が全部漏れてるぞキリト…いいんだよ、俺は剣を振るより商売している方が楽しいんだから」

 

 自分がやっていることを馬鹿にされたふうに感じたのか、そう言うとぷいっと顔を背けふて腐れたように地面を蹴った。

 そんなつもりはなかったんだが、確かにそういう風にとれる発言だったかもしれない。

 以後気をつけないと。

 

「悪い悪い。でもせめてこうやって一人で外出るときは索敵くらいとっとけ。後ろ、来てるぞ?」

「すかさずトレイン!」

「少しも躊躇がない、だと…?」

 

 すぐに俺の後ろに回りこんできた。

 しかも経験値をたかるつもりなのかこの一瞬のうちにパーティ申請まで送ってくる。 

 もちろん即破棄。

 

「キシャァァァァァ!」

 

 そんなことをしている間に蜘蛛型mobがこっちに飛びかかってきていたので、筋力値にものを言わせ後ろにいたライを前に突き出した。

 

「ぎゃァぁぁぁぁああ!?気持ち悪い!こっち来んなぁぁぁ!」

 

 防御系ソードスキルラインハルトバリアー(仮)は効果てきめんだったようで見事俺は無傷。

 盾役のダメージ(主に精神面)は計り知れないが。

 じたばたと暴れるライにタゲが移ってる間に後ろからツンツン突っつきあっさり倒すことができた。

 

 

「キ、キリト…お前その勇者顔にあるまじき鬼畜ぶりだなぁ…」

 

 げっそりとした顔で「死ぬかと思った」と呟いている姿を見ているとさすがにやり過ぎた気がして申し訳なくなってきた。

 先に仕掛けてきたのはあっちの方だけど。

 

「わ、悪い。でもどうしてフィールド出てきたんだ?」

「ちょっと落ちてる素材拾いに来たつもりが、迷って帰れなくなったんだよ!この森マップも使えないし、どうしようかとうろちょろしてたらお前がいたから、せっかくだし寄生して経験値稼ごうかと」

「死に戻りすればいいじゃん。手伝おうか?」

「お前その取り出した剣をどうするつもりだ!刺す気か!刺す気なんだな!?」

「斬るんだよ」

「同じだ馬鹿!」

 

 ライはびくついた表情でザザッと後ずさりをする。

 別に痛い訳じゃないのに大袈裟だ。

 確かにあまり気分のいいものではないけど。

 

「じゃあやめとくか」

「ほっ…」

「攻撃したら俺がオレンジになっちゃうからな」

「気にすんのそっちかよ!」

 

 血も出ないし痛みも無いゲームの中だと人を攻撃することに普通忌避感はあまりない。

 プレイヤー間でデュエルもするし、PKだって普通に行われている。

 ライは戦闘関連全体があまり得意じゃ無いらしく、プレイヤー間での争いも好まない傾向があった。

 相手を攻撃するのも、自分が攻撃されるのも両方嫌いらしい。

 でもだからっておとなしい性格、というわけでもないんだよな。

 単にびびってるだけのようだ。

 

「わかったよ、この先に簡単に死に戻りできる場所があるからそこに行こう」

「え、そんなとこあんなら早く言えよ!全く…すぐそこ行こうぜ!」

「ああ」

 

 ラインハルトは、自分がこのあと紐なしバンジーをやるはめになることをこの時はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カァンカァン、と金属と金属がぶつかり合う甲高い音が借りている工房内を響き渡る。

 俺の目の前に置かれている見た目がちょっとダサい剣はキリトの物だ。

 <アニールブレード>+6、内訳は<鋭さ>+3、<丈夫さ>+3。

 そして今<鋭さ>を+4にするべく俺は槌を振るっている。

 

 カァァン!と一際高い音が鳴り響き、きれいなエフェクトが溢れる。

 

「よっしゃ成功!」

 

 おもわずガッツポーズ。

 八割の確率で成功する依頼だったのだが、それでも嬉しいものは嬉しい。

 鍛冶スキルを取ってて一番楽しい瞬間だ。

 達成感に包まれ強化した剣をしげしげと眺めていると、ガチャリ、と正面の扉が開けられた。

 入ってきたのは全身黒ずくめに統一して中二病感満載のイケメソ。

 キリトだった。

 

「ライー強化そろそろ終わった?成功した?」

「もちろんもちろん。ほれ」

 

 剣を鞘に戻しキリトに向かってひょいっと放る。

 キリトも代金である二百コルを俺に向かって投げてきて剣と金が空中で交差する。

 片手で剣を受け止めるキリト。

 両手で取りに行ってこぼす俺。

 

「硬貨二枚も同時に俺が取れるわけ無いだろ馬鹿キリト!」

「…聞いてて悲しくなってきたんだが」

 

 うん、俺も言ってて悲しくなってきた。

 

 

 キリトとはさっきたまたまフィールドで会った。

 そのあと一緒に帰ってきたはずなのに、俺はなぜかどうやって戻ってきたのか全然覚えていなかった。

 疑問に思ってキリトに聞いてみても、気まずそうな顔して謝ってくるだけなのでよく分からないし。

 なんとなく思い出すべきではないと本能が告げているからそれ以上詮索しないことにしたけど、いまいち釈然としない気持ちだ。

 

「あ、そうだ。クッキー焼いたんだけど食う?」

「おっいいな。今日は何味?」

「コーヒー風味にしてみた。甘さ控えめにしておいたからキリトも気に入ると思うぞ」

 

 俺は商売用に鍛冶スキル、自分用に料理スキルを取っている。

 あと一つのスキル欄は色んな生産スキルと趣味スキルを試していた。

 料理はなかなかおいしく作れるようになったので商売にしようと試してみたが、現実で食べられなくなるからという理由で残念ながらあまり売れなかった。

 それでもクッキーやケーキなんかおやつ系はそこそこ人気があったから、鍛冶の依頼のついでにお茶受けなんかでサービスとして無料で出すようにしている。

 評判は上々だ。

 

「うまいな」

「だろ?自信作だからな。…ところで、今日やけに強化や研磨の依頼多いんだけどなんかあんのか?」

「今日の夕方、ボス攻略しに行くんだよ。知らなかったのか?」

 

 初耳です。

 まあ攻略なんて俺に関係ないしね。

 

「がんばってこいよー。ラストアタック取っちまえや」

「今まで全部取ってるから今回も行けるさ」

「うわっ…俺だったら絶対お前をレイドからはじき出すわ」

「まあ、恨み買ってる自覚はある」

 

 ポリポリと頬を掻いて微妙な表情をしているが、よく考えたらこれ超すごくね?。

 だって、みんなが狙っているはずのラストアタックを決めるなんてかなりの腕前が必要なはずだ。

 今日も<エルダー・トレント>を単独撃破したって言ってたし、もしかしてこいつむちゃくちゃ強い?

 

「じゃあ、そろそろ攻略会議があるからもう行くな。クッキーご馳走様」

 

 キリトはそう言って立ち上がり、すでにスイッチが入っているのか真剣な顔立ちで出て行った。

 「行ってらー」とひらひらと手を振り見送る俺。

 

「…ボス戦か」

 

 自分で参加する気は無い(たぶん参加させてもらえない)が、心躍る響きではある。

 …見に行ってもいいかもしれない。

 後ろから見学していれば邪魔にはならないはずだし。

 キリトが本気で戦っている所も見てみたい。

 

「…よし」

 

 ボス部屋までたどり着けるか分からないけど、とにかく行ってみよう。

 そう決意して、俺はさっそく普段使わないポーション類なんかの準備を始めた。

 たまにはこういうのも、いいかもしれない。

 

 




次回辺りでβテスト編終わると思います。
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