そして、遅くなってすみません!
最近学校が忙しくて……
なかなか早く更新できないかもしれませんが、これからもこの小説を読んでくださると嬉しいです。
第7話どうぞ。
2022年11月21日
始まりの町は広大な広さを持つと共に、様々な施設や初期クエストが用意されている。
例えば、相互扶助組織【MTD】が拠点としている黒鉄宮。
内部には犯罪者プレイヤーを収容出来る牢屋が存在する。
昨日捕まえたクレーマーの男も今頃そこで頭を冷やしていることだろう。
また、プレイヤー全員の名前が書かれた【生命の碑】が存在するのもここだ。
死ぬとご丁寧に横線が引かれるおまけ付きだ。
茅場さんマジ悪趣味。
他にも、呪いの解除や武器への祝福の付与ができる教会、数え切れない程の武器屋、防具屋、道具屋、宿屋などなど。
それだけたくさんの建物があれば、当然多くのNPCが町中に配置されている。
数多いるNPCの中からクエスト依頼者を見つけるのははっきり言って大変だ。
しかも、始まりの町のクエはそのほとんどが初心者に優しいチュートリアルクエなため、安全かつ、かなりのお得仕様となっている。
俺はβ時代に探しまくったから、たくさん知ってたけどね。
もちろんガイドブックに全部書き記しました。
間違った方向の廃人プレイがこんな形で役立つとは思わなかったなぁ。
その中で、特に優遇されているのが生産系スキルのクエだ。
スキルの簡単な紹介をしてくれるのだが、クエが終わると最低限必要な道具をただでくれるのだ。
鍛冶なら一番ランクの低い槌、簡易炉、砥石、それと鉱石をいくつか。
料理だったら包丁、フライパン、鍋、加えて食材を少々。
農耕なんてクワやじょうろどころか小さめだけど畑まで貰えちゃう。
そこにお得感を感じたのか、最近農家を目指すプレイヤーが増えてきている。
人数が多いということは、疑問や不安が増え、そして同業者間の争いが起きやすくなる訳で。
そうなる前になんとかするのが俺の役目である。
「はーい、それではこれから農業講習会を始めさせてもらいます。講習って言っても基本は疑問に答える形で行くから、分からないことがあったらガンガン質問してってください」
ざっと二十人ほど集まったプレイヤー達がパチパチとまばらに手を叩くが質問しようとする人はまだいない。
最初に発言するのって恥ずかしいし、相手に手の内を見せるようで嫌だよね。
しょうがないな。
「まず、俺はここに集まっている人が全員ガイドブックを熟読していることを前提に話をするんで、そこんとこはよろしくっす。最初は現在の高額レート農作物を教えるから、必要な人はメモ用意しといた方がいいぞ」
おい後ろの二、三人。羊皮紙買い忘れたからって葉っぱ拾うんじゃねぇよ。
「ポーションの材料になるシュナク草とリアリィの花はガイドブックに書いてある買い取り価格の1.5倍で売れるな。最近薬学スキル取る奴が増えてきたから。あと、食材としてはクル芋、オレイア、タンガル、キャロルが人気だから高い。俺個人としちゃ調味料としてアビルパ豆とサグの葉が欲しいから、それらは俺の店に持ってきてくれりゃ高めに買い取らせてもらう」
生産職の人数が増える利点はプレイヤー間のアイテム取引が盛んになることだ。
それだとNPCを経由しないから買う方も売る方もどっちも得をする。
農耕スキルを選択したプレイヤーは少なくないが、作物アイテムの需要は生産プレイヤーの間では高いから競争し合っても利益は間違いなく出るはずだ。
ガリガリガリ!と書き殴る音が響き渡る。
あ、葉っぱ破れちゃってるじゃん。
どんまい。
「質問ある人ー?」
同業者が多くてもこれならある程度儲けられそうだと安心したのか、前列にいた奴が控えめに手を上げた。
「ミルキアの実は人気ないんですか?」
「甘味か。デザートの研究はそれなりに進んでるし、これから価格は伸びると思うな」
打てば響くように俺が答えると、それを見た他の奴らもちらほらと手を上げ始めた。
「肥料はどのくらい与えればいい?」
「一日一回で十分。それ以上やっても意味ねぇよ。あと、肥料は余った作物を使って自分たちで作った方が市販の物より効果が高いから試してみてくれ」
「種を蒔いても育たない時があるんだけど、なんで?」
「たぶん耕した判定が出てねぇんじゃねぇの?土の色が変わって無けりゃ耕したことになってねぇから確かめてみて」
「じゃあじゃあ俺も質問!」
「あたしが聞く方が先よ!」
みんなぎゃあぎゃあと押し合いへし合い、俺に迫ってくる。
怖えよ。
これはまた長くなりそうだ、と心の中でこっそり嘆息。
まだまだ訪れそうにない俺の休息に思いを馳せつつ、押し寄せる質問を次々に捌いていった。
朝から三時間以上質問攻めにあって現在の時刻は午前11時。
俺は自分の露店へと戻ってきていた。
「あーあ、疲れたぁ……」
「店長、呼びました?」
「あっくん。ライはんはため息ついただけとちゃいまっか?」
ポツリと呟いた俺の言葉に反応した茶髪の少年と、ツッコミを入れた太り目のおっさん。
二人ともうちの店の店員だ。
現在も絶賛営業中。
少年の方、あっくんは俺が名前を呼んだと勘違いしたらしい。
プレイヤーネームが『AAAA』、読み方がああああだからな。
この名前、彼はどんだけ早くSAOをやりたかったんだろうか。
あっくんは間違えたことに気づいたのか、えへへと照れ笑いを浮かべ俺たち三人はほんわかとした雰囲気に包まれる。
ジュージューうるさい肉の焼ける音と、ピッピピッピやかましいコマンド入力音のBGMがその空気を見事に台無しにしているが。
「ライはん、今日は休みの日だったのに来てもろてすまへんなぁ。人手が足りなくなってしもうて困っとったんや」
申し訳なさそうな表情をしたおっさん―――ダイゼンさんは、食材を持ち込んできたプレイヤーとトレードをしながら俺に謝ってくる。
心がこもってないように感じるかもしれないが、俺としては客が押し寄せている中で手を止められる方がずっと困るのでなんの不満もない。
「いや、休みの日でも結局忙しいから別にいいんだけどさ……さっちゃんとカマンさんはどこに行ったの?」
今日からうちで働き始めた女の子と固定メンバーの巨漢オネェをキョロキョロと探していると、それに気づいたあっくんが高速コマンド入力をしながら答えてくれた。
ながら会話がデフォのうちの店員たち。
もちろん俺もだけど。
「サチさんは慣れてないせいか具合悪くなっちゃったみたいで、カマンさんが宿屋に連れて行きましたよ?」
「ああ、なるほど。確かに最初はこのコマンド入力酔うよな……じゃあまだピークの時間帯で使うのは無理か」
「辛くて来なくなったりしたら困りますしね」
うん、それは本当に困るな。
というのも、この人数で切り盛りするのもそろそろ限界に近いのだ。
一人一人の負担がやばぁい。
それに、あっくんとカマンさんは料理人志望。
料理スキルなんてもう十分過ぎるほど上がったし、二人とも早く自分の店を持ちたいはずだからあまり長く留まらせる訳にはいかない。
早く後任を見つけないと申し訳ない。
ちなみにダイゼンさんは食材の買い取りをしてくれている。
金勘定が好きらしく、しばらくはここで働いてくれるらしい。
この人いないと店が機能しないだろうから本当に助かる。
「にしても、カマンはん遅いでんなぁ……そろそろお昼時やさかい、早く帰ってきてくれへんと困りますわぁ」
「そうだなー……あ、帰ってきたみたいだぞ」
遠くの方で2メートル越えの巨漢がこちらに走ってくるのが見える。
巨体に似合わないナヨナヨした女の子走りのせいで一瞬奇行種巨人なのかと思った。
その謎の威圧感のせいか、モーセの十戒のごとくプレイヤー達が左右に割れて道が出来る。
なんかちょっと壮観だった。
「ごっめーん遅くなっちゃって!あ、ライちゃんも来てたの?ちょうど良かったわぁん!宿屋行く途中のかわいい服屋さんでライちゃんに似合いそうな上着があったのよ!」
俺の存在に気づいた、プレイヤーネーム『Camembert』ことカマンベールさんが嬉しそうにウィンドウを操作し始める。
ていうか普通に寄り道してさぼってんじゃねぇよ。
早く仕事に戻れや、と心の中で文句を言いつつも口には出せない俺マジチキン。
だってこの人でかくて怖いんだもん。
「カマンさん、もうフリフリした服は止めてって……あれ?普通にかっこいい。なんで?」
手渡されたのは、紺色がかった色のおしゃれなジャケットだった。
試しに羽織って、後ろの建物のガラスで自分の姿を確認してみる。
ぱっとしない見た目の俺と、なんか今どきっぽくてイカすジャケット。
うん、着られている感満載です。
「あたしもピンクのかわいいレースにしようと思ったのよ。そしたら店主のアシュレイちゃんがそっちを勧めてきたの」
「ああ、あの人の店のか」
グッジョブ、アシュレイさん。
あとは俺が着こなせるくらいかっこいい男だったら完璧だったな。
そこまでは面倒見切れねぇか。
「この服いくらだった?」
「それがただでくれたのよん。ライちゃんにはお世話になってるから、お金はいらないって」
「おお、そりゃまたずいぶんと太っ腹でんなぁ……あれ?ライはんどこ行くんでっか……って決まっとるか」
「普通に貰っちゃってもいいと思いますけどねぇ。店長って意外と頑固ですよね」
「ピークの時間までには戻るから、三人ともそれまでよろしく頼む」
「「「了解」」」
あと一時間もすればお昼時。
ぱっと行ってぱっと帰ってこよう。
そう思い、人通りの少ない裏路地に入りショートカットをしつつ、俺は服屋へと急いだ。
基本プレイヤー達は圏内でも圏外でも防具を装備している。
普通のおしゃれ目的の服を持っている人は少ない。
お金に余裕が無い、というのも理由だろうけどそもそも服装に無頓着な奴が大半だ。
SAO買ったのって大体が重度のゲーマーだからな。
臭いや汚れも付かないし、着替える必要もないなら防具が一着あれば十分なのだ。
そんな中、最近大通りの端の方に開店した露店、アシュレイ衣服店。
なかなか厳しい営業になるんじゃないかと俺は心配したんだけど、今はそれなりの売り上げはあるそうだ。
少数だが女の子やおしゃれ系男子に強い支持を受け、口コミで人気が広がりつつあるらしい。
売り物の服をいくつか見せてもらったことあるけど、スキルがまだ低い割に完成度も高い。
服なんて気にしたこと無いから、トレンドがどうとか詳しいことは分からんけど。
店に着いたのはいいが、アシュレイさんは用事でもあったのかお出かけ中らしい。
臨時に雇ったのだろうNPCが店番をしていた。
いいなぁ、好きなタイミングで出かけられて。
俺の店も料理スキルが必要じゃなかったらNPC雇えるんだけどな。
料理も服みたいに作り置きが出来れば大丈夫なんだけど、まぁ無理だよね。
とりあえずアシュレイさんをギリギリまで待つことに決めて、服を物色する。
が、五分も見てたらすぐに飽きた。
女の人ってよく買う訳でも無いのに何十分も服見てるけど、あれ何が楽しいんだろ?
手持ちぶさたになり、大通りを行き交う人たちをぼんやりと眺める。
と、その中に趣味の悪いバンダナをした野武士面のプレイヤーを発見した。
相手もこちらに気づき、人懐っこい笑顔を浮かべて駆け寄って来る。
「よぉ、三日ぶりだなライ!相変わらず疲れた顔してっけど、ちゃんと休んでんのか?」
「うす、クライン久しぶり。大丈夫だって、無理はしてねぇから」
「ほんとかよ。いっつも忙しそうに走り回ってるじゃねぇか……βテスターだからって、正規プレイヤーに尽くさなきゃいけない義務なんてないんだぜ?」
そう言って心配そうに顔をのぞき込んでくる。
いい奴だな、クラインは。
自分や仲間達のことだけでいっぱいいっぱいなはずなのに、俺のことまで気にかけてくれる。
「……あ、そうだキリトにクライン報告メール送んなきゃ。えーと、『クラインなう』、と」
「いや、なんでだよ」
「なんかキリトの奴お前のこと気にしてたみたいだから、様子教えときゃ安心するかなって」
「あいつ、あの日のことをまだ……」
そう言ってクラインは悲しそうに目を伏せる。
つられて俺も暗い気分になりそうになったが、ぴろん、頭の中に響いた電子音で現実に引き戻された。
「あ、返信来たぞ。『クエストボスなう』、だってさ」
「なう!?なうってどういうことだよ!?戦いながら何悠長にメールなんか打ってんだよ!」
「『事故るなよ』って返しとくわ……あ、『了解、ところでクライン元気そう?』だって。クライン元気?」
「元気だよ!ってああ!だからメール打つんじゃねぇよ!キリトが反応しちまうだろ!」
俺の肩をがっくんがっくん揺さぶり送信するのを全力で阻止するクライン。
このくらいの揺れなら入力できないこともないけど、別に怒らせたい訳じゃないので止めとく。
「でもさ、これで返信なかったらクラインに何かあったんじゃないかって心配するんじゃね?」
「キリトが圏内に入ってから連絡すりゃいいだろ!」
「あ、そうか」
「全く……それより、クエストボスってそんなに余裕で倒せるもんなのか?」
「そりゃクエストによるって」
フレンド追跡でキリトの現在地を確認してみると、マロメの村の近くにいることが判明。
「この位置なら逆襲の雌牛クエだな。時間はかかるけど比較的簡単なクエだし、キリトなら余裕だろ」
「迫り来る猛牛を避けながらメール打ってんのかと思うと背筋冷えんだけど」
「まぁβテストの時は単調な攻撃しかなくて、俺でも倒せるくらい弱かったし心配ねぇって。ちなみにクリア報酬はおいしいクリーム」
「あいつ甘党なのか?」
「確か辛党。でも向こうにはまともな飯屋ないから、クエストで手に入る調味料って貴重だぞ」
始まりの町と同様に、この先進んでもNPC経営の料理店はろくなものがない。
キリトも一日パン一個とかそんな食生活を送ってるのだろうか。
俺の作った料理を食わせてやりたい。
アイテムウィンドウの共通タブを作って置かなかったことにちょっと後悔した。
「キリトの奴、苦労してんだなぁ」
「うまい飯って大事だよな」
「だな。……そういや今更なんだけどよ、ライはなんで服屋にいるんだ?あとそのジャケット似合ってねぇよ」
自覚はしてたけど、他の奴に言われるとむかつくな。
返品しに来たことを説明しようとした瞬間。
ひどく慌てた表情で大通りを駆けていく知り合いが目に止まった。
「クライン!このジャケットをアシュレイさんに返しといて!」
「え、急になん……わっぷ!っておめぇどこに行くんだよ!」
服をクラインの顔に投げつけて、彼女の後を追う。
俺の方がレベル的に敏捷値は低いだろうが、彼女は人混みに阻まれて立ち往生していたため、すぐに追いつけた。
間を縫うように走り出そうとする茶色っぽいフードをむんずとつかみ、声をかける。
「アルゴ!フィールドに向かってんのか!?ならこっちの道の方が早い!」
「っ!?ライライ!案内頼ム!一刻を争うんダ!」
女の子特有の小さく華奢な手を掴み、路地裏へと引っ張る。
始まりの町は俺にとっての庭だ。
情報屋のアルゴでもずっとこの町にいた訳じゃないから、町の構造なんかは俺の方がずっと詳しい。
入り組んだ道を、俺は迷うこと無く突き進んで行く。
「何が起きた!簡潔に説明しろ!」
後ろを着いてきているアルゴに、顔を向けずに質問を飛ばす。
「オレっちの名前を騙って嘘の情報を流した奴がいル!」
「どんな!」
「西の森の奥の洞窟に隠しログアウトスポットがある、だそうダ!それを信じて一人、ビギナーさんが向かったらしイ!」
「なっ……やばいだろそれ!あそこの洞窟はモンスターがアクティブ状態だし、推奨レベルは5以上だぞ!」
「分かってル!だから急いでるんダ!」
路地裏を抜け、フィールドへと続く門の目の前に着く。
そのまま立ち止まることなく、門を抜け草原を全力で駆けて行く。
ここまで来れば、もう俺の案内は必要ない。
「アルゴ、お前の方が速いから先に行け!俺もすぐ行く!」
「分かっタ!ありがとナ、ライライ!」
「おう、無理すんなよ!」
アルゴは弱いわけではないが、誰かを守りながら戦うには向いてないビルド構成だ。
ビギナーを庇えば彼女自身にも危険が及ぶ。
俺が早く追いついて、モンスターのタゲ取りをする必要がある。
未だにレベルがたったの3だったことを呪いながら、しかし今それを嘆いても状況は何も変わらないと思い直し、遠ざかる小さな背中をあらん限りの力で追いかけた。
頼む、間に合ってくれ……!
作物の名前?大体適当です。
最後の方、プログレッシブの漫画の内容を使っています。
本当は漫画だと11月19日の出来事なんですが、日にちを勘違いしてて、21日にせざるを得ませんでした。配慮が至らずにすみません。
さて、次回は最強のビギナー、Aさんの登場です。
あと、オリキャラの紹介ってした方がいいですかね?
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