超遅いですね。
第八話どうぞ。
あっちなみにアスナ視点から始まります。
イノシシ型のモンスターを躱しつつ鬱蒼とした森を抜け、やっとたどり着いた洞窟は不気味な雰囲気を漂わせていた。
薄暗い洞窟内はじめじめとしていて、ベタッとした重い空気が肌に纏わり付く。
たかがゲームくせにやけにリアルに作られている。
宿屋に戻りたくなる気持ちをぐっと堪え、さらに奥へと足を進める。
なぜこんな所に来たのかと言えば、ある噂を聞いたからだった。
西の洞窟には、隠しログアウトスポットが存在する。
この噂を信じているかと言えば、半分以上は信じていない。
だが一刻も早く現実へと帰らなければ、取り返しのつかないことになる。
帰れるわずかな望みがあるのなら、この場所にかけるしかなかった。
私は今までエリート街道を突き進み、親の期待にも当たり前のように答えてきた。
そしてこれからも進学校に入学し、有名な大学に進み、親の勧める会社に就職する、そうなるはずだった。
それがこんな、息抜きにやったゲームに閉じ込められるなんて形で壊されるなんて認められる訳がなかった。
親は私に失望するだろう。
親戚や学校のライバルたちは、私のあまりにも不幸な境遇に哀れむか。
あるいは、馬鹿なことをしたものだと嘲笑うか。
たぶん、両方だろう。
……そんなの、耐えられない。
本来、今日は学校で模試がある日だ。
高校受験だってもう間近にまで迫っている。
これ以上、時間を無駄にするわけにはいかない。
「……急がなきゃ」
まだ、今日帰ることができれば間に合う。
沈んでいた気持ちを鼓舞し、自分から離れた位置に現れたモンスターから逃げるように、大きな道ではなく脇の小道を選び駆けていく。
しばらく進むと、これまでの細い通路とは違う、空洞のように広がった部屋にたどり着いた。
人工的な石造りの壁と床に囲まれ、壁面にはたいまつが何本も設置されていて視界も明るい。
明らかに何か目的があって作られたような場所だった。
「本当に、あった……!?」
部屋の中心には祭壇らしきものもある。
おそらく、あそこがログアウトスポットだ。
はやる気持ちを抑えられず、部屋の中心へと駆け出す。
しかし、祭壇しか見ていなかったせいか。
私は、自分の真上から迫り来る巨大な影にすぐに気づくことが出来なかった。
瞬間。
轟音と共に、まるでトラックにでも撥ねられたかのような大きな衝撃が全身を駆け抜けた。
「かはっ……!?」
目の前に突然降り立った巨大なモンスターが振り抜いた棍棒が直撃し、体がくの字に折れ曲がる。
たっぷり2、30メートルは飛ばされ、地面に何度もバウンドし、入り口付近でようやく止まる。
追撃をかけようとこちらへ迫ってくる二足歩行の巨大なモンスターが目に入り、慌てて立ち上がろうとしたが何故か体が動かなかった。
必死に手足に力を込めるも、まるで金縛りにでもあったかのように重く、反応してくれない。
ちらり、と視線をの左脇にずらすと、表示された体力ゲージは真っ赤に染まっていた。
私は死ぬの?
こんなにあっけなく?
何も、できずに?
「い、嫌……」
嫌だ。
わたしの人生を。
戦い続けた15年間を。
こんな無様に終わらせるのは、絶対に――――
しかし、無情にも化け物は、私の命を刈り取ろうと棍棒を振りかぶる。
もうだめだ、と諦めかけ目と瞑ったその時。
「うおぉぉぉぁぁぁぁあああ!」
そんな、半ばやけになったかのような叫び声と共に。
一人の男が私の頭上を飛び越え、緑の軌跡を描いてモンスターの胸に剣を突き立てた。
全力で走り続けて20分、俺はようやく目的の洞窟へと到着した。
辿り着いたのはいいが、洞窟内を進んで行くとβ版とは違い道が複数に分かれていた。
中はダンジョン扱いとなっているためフレンド追跡は使えないし、メールも送れない。
つまり、アルゴがどの道を進んだか分からないのだ。
さて、どうしたもんか。
よく考えたら、アルゴがビギナーと同じ道を選んだ保証もないんだよな。
なら、端の道からしらみ潰しに探した方がいいかもしれない。
そう思い、一番左側の大きな道を進もうとした、その時。
ドゴォォン!と耳をつんざく衝撃音が、一番右端の通路の奥から響いた。
「っ!?こっちか!」
急いで道を変え、音源の方向へと走る。
その先で見えたものは。
棍棒を高く振り上げた状態の巨大なコボルトと。
HPが残り数ドットの状態で倒れ伏しているプレイヤーだった。
気が付けば、体が自然に動いていた。
恐怖を振り払う意味合いを込めた雄叫びを上げ、俺はモンスターへ猛然と飛びかかる。
突進系ソードスキル【ソニックリープ】を発動させ、剣はコボルトの胸元に突き刺さった。
「グルァァァァアアア!?」
モンスターの悶絶した絶叫が響き渡る中、続けて剣が今度は青い光を帯びる。
単発系ソードスキル【スラント】を、突き立てた状態で発動。
斜めに振り抜いた剣の勢いのままコボルトの体を蹴り飛ばし、その反動で転がるように距離を取る。
わずかに遅れて横凪された棍棒に紙一重で当たらずに済んだのは、ただ単に運が良かっただけだろう。
背筋に冷たい物を感じながらも、俺はすぐに体勢を立て直して部屋の奥へと逃げる。
当然巨大コボルトは、攻撃したことで憎悪値が高くなっているこちらを追いかけてくる。
これで、モンスターをビギナーから引き離すことに成功した。
「おいっ大丈夫かあんた!今のうちにポーションで回復しろ!」
「……ポー、ション?」
「え、冗談だろ……?っと、アルゴぉ!こっちだ、こっちに居たぞ!そいつ回復してやってくれ!」
部屋に入ってきたアルゴがビギナーに駆け寄る姿を視界の端に捉えつつ、俺は振り回される棍棒を全身全霊を込めて避けまくる。
反撃なんて考えていない。
攻撃に回る余裕なんてなかった。
そしてアルゴの奴、ビギナーとは違う道に行ってたんだな。
しかし、なんでここが分かったのだろうか。
遠いとこにいたら、あの衝撃音聞こえないんじゃ?
あ、俺の叫び声か。
「ライライ、遅くなってすまなイ!良かっタ、ビギナーさん生きてるナ?」
ビギナーにポーションを飲ませつつ、肩を貸すアルゴ。
これで一安心だ。
俺はまだまだ危険なとこにいるけど。
「ひぇぇ!?棍棒が鼻先掠めたああああこええぇぇ!」
俺はバックステップで攻撃を避けていたが、くるりと体の向きを変え敵に背を向け全力で逃げ始める。
二人はすでに部屋の端の方へ避難していた。
「ていうかアルゴ、このでっけぇコボルトなんなんだよ!俺のさっきの攻撃でもほとんどHP減ってねぇぞ!?ってぎゃあああああ!!今、頭上ちょっと掠めたぁあああ!?」
「オレっちだって、こんな場所があるなんて知らなかったんダ!そいつはたぶん何かのイベントボスダ!」
その言葉を聞いて、自分の顔が急速に青ざめていくのを感じる。
最も、少しだけそんな予感はしていた。
ソードスキルを2発、クリティカルでヒットさせたにも関わらず、モンスターのHPは一割程度しか減っていなかった。
俺は第一層で手に入る武器としては最強を誇るアニールブレードを使っていたにも関わらず、だ。
自分のレベルが低いことを計算に入れたって、普通にポップするこの洞窟のモンスターなら半分近く削ってたっておかしくない。
こいつの……【コボルトウォーリア】のステータスが異常なのだ。
「じゃあ、早くこの部屋から出よう!そうすりゃこいつだって追ってこれな「バタン!」なんで入り口の扉閉まってんだよちくしょおおおぉぉ!」
閉じ込められた!?
アルゴがすぐに確認に向かい押したり引いたりしているが、びくともしないようだ。
一瞬そっちに気を取られたせいか。
俺は、ボスモンスターが今までと違う動きを見せていたことに気づけなかった。
嫌な予感がして慌てて振り向いた俺の顔に、モンスターの膝蹴りが突き刺さる。
「あがっ!?」
相手はそれだけでは動きを止めない。
地面すれすれに構えられた棍棒が赤い光を帯びる。
逃げようと思っても、先ほどの攻撃で硬直した体は動かない。
まずい。
こんなろくに防御できないも状態でソードスキルなんてまともに受けたら、冗談抜きにHP全部持って行かれかねない。
だからといってどうしようも無く、俺はせめてクリティカルは避けてくれと心の中で祈ることくらいしかできなかった。
にも関わらず、
「……え?」
命を刈り取らんとする一撃【アッパースイング】は俺の元へと届かなかった。
目の前を閃光が閃き、棍棒は大きく軌道を変え、コボルトはバランスを崩しよろめく。
「……なんだ、案外簡単に発動できるのね」
なんかとんでもないこと言ってる気がするが、聞き間違いだろうか?
そこに立っていたのは、俺たちが助けに来たはずのビギナーだった。
もしかしなくても、ソードスキルをぶつけて軌道をそらした?
それ以外考えられないよな。
しかしそんな高度な技、キリトくらいしかやっているのを見たことが無い。
と、そこまで考えたところでビギナーのHPバーがまだイエローゾーンだったことに気づき、手を取って急いでその場を離れる。
言いたいこと、聞きたいことは山ほどあるが、それは後回しだ。
急いで扉から戻ってきたアルゴとバトンタッチして後ろへと下がる。
「ちょっと!なんで追撃入れられるのに逃げるのよ……むぐっ」
「体力回復してないのに前に出てきたら危ねぇだろ馬鹿!それと助けてくれて本当にありがとうございますマジで死ぬとこでした!」
罵倒とお礼の言葉を口にしながらポーションを二つ取り出し、一つをビギナーの口に突っ込む。
なんか不満そうな顔してるけど気にしない。
俺もぐいっとあおって、じわじわと回復していく自分のHPバーを確認する。
それを見て、思わず安堵の息がこぼれる。
よかった、なんとか死なずに済んだ。
さっきのはやばかったなぁ。
走馬燈とか見えててもおかしくなかったわ。
余裕が出てきたので戦っているアルゴの方を確認するが、さすがに俺よりレベルが高く、戦闘経験が豊富なだけあって敵の攻撃はほとんど躱し切れているようだ。
ただ、彼女は敏捷特化型だからダメージディーラーとしては期待できない。
俺のビルドも似たようなもんだけど。
それに射程が短い短剣を使っているのも地味に痛い。
懐に入り込めば攻撃できるが、それだけ自分も攻撃をもらうリスクが高くなる。
相手は蹴りなんか放ってくるくらいだし、予想できないような攻撃も多い中でそれは無謀な行為だ。
なら、ダメージを与えられるのは俺と――――
「……ごめんなさい」
「……ん?」
考え事をしてたからポツリと呟かれた言葉に一瞬反応が遅れる。
「さっきの女の人は、私がこの洞窟にいることを知っていた。あなたたちは助けに来てくれたのよね?……巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」
ああ、そういうことか。
「気にすんなよ、ていうかむしろ俺の方こそ助けられちまったしなぁ。さっきのすごかったな。ぶっつけでソードスキル出したんだろ?」
「こんなことできたって、元の世界には帰れないわ。……隠しログアウトスポットって、本当は無いのよね?」
「……ああ」
「なら、どうせみんな死ぬのよ。遅いか早いかの違いだけで……だから、私はここで死んでもかまわない。でも、あなたたちは……痛ぁ!?」
なんだグチグチと陰気くさいこと言いやがって。
腹が立ったから脳天に拳を振り下ろす。
ダメージ判定がでないギリギリの線だ。
訳が分からないと言いたげな顔がさらにかんに障り、つい語調が荒くなってしまう。
「死んでもいいなんて、んなこと冗談でも言うんじゃねぇよ」
「冗談なんかじゃ……」
「ならお前は、こんな形で人生終わってそれで満足なのかよ!……悩んでることがあるなら後で聞いてやるから、今は戦いに集中するぞ」
俺たちのHPバーは八割方回復している。
逆にアルゴはかすった攻撃で少しずつ削られ、残り六割ってところだ。
そろそろ交代時だ。
「おいあんた、ちょっと指貸せ。戦う前に必要なことだから」
そう言って俺はビギナーの指を動かしウィンドウを可視化にして――あ、アスナって名前なんだこの子――アイテムのトレードを行う。
操作任せてたら終わるのなんていつになるか分からんしな。
そして、俺から送ったそこそこ強い防具に加え、細剣【ウインドフルーレ】など全部装備させる。
装備が変わり、かぶっていたフードも無くなる。
あっ超可愛いこの子。
さっき叩いてごめんね!
心の中でこっそり謝っとく。
ちなみに、ここまでの作業にかかった時間約二秒。
「え?今何が起こって」
「頼む、一緒に戦ってくれ」
めまぐるしく変わった自分の姿に若干混乱していたアスナの両肩を掴み、その目をじっと見つめる。
アスナも、真剣な顔つきになり、生来の芯の強さを窺える双眸でこちらを見返してくる。
「本当は、ビギナーを危険な目に遭わせるなんて間違っている。でも、俺とアルゴだけじゃHPの回復が間に合わないんだ。それに、ダメージを与えるのだって難しい。あんたのさっきみたいな鋭いソードスキルなら十分通用する。俺が全力でカバーするから、攻撃役になってくれ」
「任せて」
無茶を言っている自覚はあったのに、アスナは全く間隔を置かずにそう答えた。
強いな。
俺なんてβテスターのくせに大分びびってんのに。
「俺があいつのタゲ取るから、お前はどんどん打ち込め!行くぞ!」
そう言い残して俺は先にモンスターの元へ走り出す。
続けてさらにウィンドウを操作しながら、だ。
そして後ろから聞こえてきた「タゲ……?」という呟きは幻聴だと信じたい。
まぁ、ガンガンいこうぜ!の指示は伝わったのだからなんとかなるだろう、たぶん。
「アルゴ、一旦下がれ!」
「ごめんナ、ほとんど削れなかっタ!無理するなヨ!」
「ああ!スイッチ!」
最後になんとか短剣をたたき込むアルゴ。
そのアルゴを狙って放たれた棍棒を、俺は恐怖を押し殺し、逃げずにガードした。
タイミングちょうどに左手に出現した盾で。
ぴたり、とモンスターの動きが止まる。
おそらく、盾持ちとそうでないプレイヤーへの行動パターンが違うAIだったのだろう。
データ処理に時間がかかっているのだ。
「はああぁぁ!」
アスナはその隙を見逃さず、モンスターの脇腹に単発スキル【リニアー】を打ち込んでいく。
やっぱ速ぇな。
俺はというと、先ほど走っている最中に【料理】スキルと入れ替えた【盾装備】を外し、代わりに【隠密】を選択する。
もちろん熟練度は0だが、アスナへの憎悪値が溜まり、俺へのタゲが外れた状態なら有効だ。
棍棒を上から思い切りたたき付ける【ダウンショット】がアスナに向けて発動する瞬間に、俺はこっそり忍び寄ったモンスターの無防備な背中に、V字に切りつける【バーチカルアーク】を発動した。
「ガァ!?」
コボルトウォーリアのソードスキルは中断され、術後硬直が起きる。
アスナは側面に回り込み攻撃している。
敵のHPがどんどん減っていくのが分かる。
よし、うまく行っている。
これも、アスナが休むこと無く攻撃を続けてくれるおかげだ。
コボルトがソードスキルを打ち込まれて怯む隙があるから、俺の得意技、ウィンドウ操作によるスキルと装備の高速変更が生きてくる。
この技術は、接近戦にめっぽう弱いという俺の致命的な弱点を補うためにβ時代に開発したシステム外スキルだ。
毎日毎日練習して、もうほとんど画面を見なくても操作できるようになった。
ちなみに、正式サービスが始まり料理コマンドを打ちまくっていたらさらに速くなった。
モンスターのAIは、武器や装備の変化に合わせた行動パターンを持っている。
それをかき回し、ちゃんとした動きをできなくする。
複数人でスイッチするよりもさらに寸前のタイミングで突然戦い方が変わるもんだから、敵の混乱の度合いはさらに強い。
俺が強くなるんじゃなくて、相手を弱くするのだ。
搦め手。
それが、戦闘センスの無い俺に残された唯一の道だった。
HPが半分を切った瞬間、コボルトウォーリアはその場で回転し棍棒を思いっきり振り回し始める。
範囲攻撃だ。
「アスナ!一旦離れろ!」
俺はアスナとは逆方向に距離を取りつつ、【隠密】を外し新たに【投擲】をスキルスロットに入れ、左手に持っていた盾と投擲用のピックをクイックチェンジで入れ替える。
投擲ソードスキル【シングルシュート】をボスの目元に向かって発動。
クイックチェンジからのシングルシュートを五回ほど繰り返した所でコボルトウォーリアは回転を止め、こちらを睨み付けてきた。
おっかねぇ!でも計算通り!
タゲはこちらに移ったようだ。
こちらへ怒りの形相を浮かべて走り寄ってくる間に、スキル欄に再び【盾装備】を入れクイックチェンジでラウンドシールドを装備する。
敵の後ろを虎視眈々と付けてくるアスナに思わず笑ってしまった俺は悪くない。
おそらく、俺を攻撃した瞬間の硬直を狙って攻撃するつもりなんだろう。
全く頼もしい限りだ。
平行に振り抜くソードスキル【レベルアタック】をへっぴり腰になりながらもなんとか盾で受け止めると同時に反動で後ろに思いっきり跳躍する。
「アルゴ!スイッチ!」
「任せロ!」
術後硬直したボスの体に、俺のすぐ後ろまで来ていたアルゴの【サイド・バイト】とアスナの【リニアー】が前後で挟み込むようにたたき込まれる。
俺はさらに距離を取りつつ【盾装備】を【投擲】に以下略。
盾で防いだにも関わらずそこそこダメージを食らっていたのでポーションを口にくわえながらピックを投げまくる。
二人共うまく連携出来ているようで、コボルトウォーリアのHPはついにレッドゾーンに突入した。
あと少し、と希望が見えてくる。
だが、これまでの経験からそうすんなりと行くはずがない、ともなんとなく感じていた。
「ウグオオオォォアアアアアアア!」
俺の懸念は的中したようだ。
コボルトウォーリアはアスナとアルゴを振り払うように腕を振り回し始める。
二人がバランスを崩したたらを踏んだ瞬間、巨体が空へと浮き上がった。
「……は?」
物量的におかしいだろ、と言わんばかりの高さに跳躍したコボルトウォーリアは重力に従って落下を始める。
体勢が崩れていなかった俺は、巨体が地面に着地する直前に真上にジャンプする。
部屋全体を揺るがすような振動が地面を伝い近くにいた二人を襲い、その体を硬直させた。
―――スタン状態か!?
動けない状態でソードスキルでも打たれたらまずい、致命傷となり得る。
俺はボスを引きつけるべく、ピックを投擲しながら走り寄る。
盾は耐久値がぎりぎりだから使えない。
そこで、俺が新たに変更したスキルは【武器防御】。
コボルトウォーリアは俺の方へと向き直り、【ダウンショット】を放つ。
そこに合わせるように、少し体をずらしながら水平切り【ホリゾンタル】を発動した。
ガキィィン!と武器と武器とがぶつかり合い、現実だったら肩が外れるんじゃないかと思うほどの衝撃が走った。
思わず武器を握っていた手を離してしまい、愛剣アニールブレードは俺の遙か後方にまではじき飛ばされる。
「あ、危ない!」
「早く逃げロ!ライライ!」
二人の悲痛な声が聞こえるが、俺自身は意外なほどに冷静だった。
不思議と、ここに来てようやく恐怖が無くなった。
人間、引けないときになるとがんばれちゃうものらしい。
時間がゆっくりになるのを感じながら、生き残るべく次の行動に移る。
衝撃で動かない右腕ではなく、左手でウィンドウを操作する。
武器を無くした俺にすでに勝利したと確信しているのか、コボルトウォーリアはニヤリと獰猛に笑った……ように見えた。
先に硬直が解けた俺は迷うこと無く敵の懐へ飛び込む。
棍棒が頭を掠めたがもう気にしない。
右手を思い切り突き出す。
握るは短剣。
昨日、リズからもらった代物だ。
発動するは、ただ一回切りつけるだけの【シングルエッジ】。
ダメージにはほとんどならない。
でも、それで十分だ。
クリティカルに入って、相手が怯んだのだから。
時間は稼げた。
あとは―――
「「はああああああ!」」
スタンが治った二人がなんとかしてくれるだろ。
いや、最後の最後で他力本願だな。
まぁ、十分働いたしもういいよな?
さすがにちょっと疲れた……
バシャアアン、とコボルトウォーリアを形作っていた大量のポリゴン片が宙を舞う中、俺は明滅し始めていた意識を完全に手放した。
料理スキル熟練度オワタ。
さて今回、文章が大分長くなってしまったのですが、言い訳するとこんなに戦闘を長引かせるつもりはなかったんです……
当初の予定;ラインハルトがアスナを助ける→でも戦えないからピンチ!→アスナが回復し颯爽と敵を倒す→やべっアスナさん超かっこいい!
なのに、どうしてこうなった。
はい、敵を強く設定しすぎたせいですね確実に。
アスナさん一人じゃさすがにレベル的に無理なんで、サポートにライライ入れちゃったら思ったよりも目立っちゃった。あれ?
こ、こんなはずじゃ……
感想や一言コメント、指摘などいつでも待ってます。