第一回 狂った世界の楽園で 前編
「モォォォォ」
重低音の鳴き声、聴いただけなら誰でも牛だと思うことだろう、白の身体に黒が混ざった乳を絞り出される家畜。
「おーハナコ、今日も元気そうだな!、よしよし」
しかし、俺の牛は
見てわかるところをあげると、人間のような瞳、歯は牛と人間の間みたい、村の人達からは確か、異獣、だったかな、化け物のほうがわかりやすいとは思うが、まぁそんなことはどうでもいいんだ。
大切なのは、俺がこいつを愛している、家族だと思ってるってのが一番だ。
「おぉ、
おじいちゃんの声がした、ハナコの小屋から出て、外にいたおじいちゃんに朝の挨拶をする。
腹筋が割れ、鍛えられている、しかしその身体からは肉が削がれ骨が浮き出て、それでもおじいちゃんはたくましく今、そこに元気に笑顔で立っている。
「おはよう、どうしたんだ、おじいちゃん」
「おはようじゃ、なに、今日も欠かさずにハナコの世話をしておるようで何よりじゃ」
おじいちゃんは《俺がハナコから生まれた》ところを発見し、ハナコと一緒に暮らしている、家族は既に亡くなり、村からも村長なのに除け者、ハナコがいた危険な異獣が出る場所に来たのも死ぬためだったらしい。
だけど今は俺を立派に育てるために残り少ない命をなんとか保たせてくれている、俺はそれに報いたい。
「どうした?」
あ、ちょっと考えすぎていたな、おじいちゃんが心配そうに俺を見つめている。
「ごめん、ちょっと考え事していたわ、おじいちゃん、ありがとうな、これからもよろしく」
「な、なんじゃい突然!、照れるじゃないか」
「あはは!、ごめんごめん」
「ちょっといつまであの気味が悪いやつらいなくなるのよ」
「わかんねぇよ、村長はあそこの無駄に腹筋割れてるジジイだし、あぁこえぇこえぇ」
小声で言ってるが、村のやつらの声が聴こえてくる、まったく、せっかくいい雰囲気だってのに、水をさすような内容が入ってくるな。
「のう、彦星や」
「何時も通りにおじいちゃん置いて別の人が善いところに行けとでも言うつもりかな、何時も通りにお断りだよ」
「じゃがの、ここは知っての通りお前に対して風当たりが強い、何時までもいたら何時やつらが襲いに来るかわからんぞ」
確かに、やりそうな奴らだよな、まぁだからといってハナコをじいちゃんの村長権限無しのところに移すのは悪手だよな、なんてたってこんな世界なわけだか。
「……じいちゃん、ここって、何時からこうなってるだったかな」
俺は空を見上げる、話で聞いた青い何処までも続く空はなく、そこには膜のようなモノで覆われている、この地下深くにある
「そうじゃのう、かれこれ10年か、お前を見つけたのとほぼ同じ時期じゃな」
おじいちゃんも膜で覆われた空を見る。
悲しそうに、おじいちゃんは目を細める。
「空から降ってきたんだってね、流れ星が」
「そうじゃ、それをきっかけに謎の生き物としか思えぬモノに儂の家族は殺されたんじゃ、そしてあのような、あのようなモノが出来上がったんじゃよ」
目線を下ろす、そこには都庁のシンボルのようなモノ、確か元の名前は、とうきょうとちょうしゃ、だったか。
そんな名前だったが、今はあのようなおぞましい肉のような植物のようなモノと元の無機物が融合した、人々は
「なぁ、おじいちゃん、神護区、だったか、そいつらのところならおじいちゃんも普通に暮らしてけるとは思わないか?」
神護区塔の名前の由来ともなっている
何故神護区だけが安全なのか、それはわからない、ただ場所はわかる、一回行ったが通行止め、謎だ、謎すぎて考えるのもバカらしい。
「そうじゃな、儂も前はあそこの警視総監をやっておったからのう、じゃが、じゃがの、儂はあやつが好かん」
「あやつ?」
「そうじゃ、あやつは」
じいちゃんの言葉を遮るように、ドタドタと、集団の足音がこの村に近づいてくる。
「神護区防衛隊である!ここに彦星なる者がいると聞いてこのような下劣な地に踏み入った!、速やかに名乗り出よ!」
なんだ、俺をご指名みたいだが、ま、ここは黙って、
「こ、こいつです!」
「そうです!、あいつが彦星です!」
あ、うん、やっぱり捨てやがったよあいつら、さてどうしようもねぇなこれ、ばっちり俺に指向けてるもんあいつら。
そして兵士の皆さん即座に俺とじいちゃんを囲むように移動して銃口向けてきたよ。
「同行してもらうぞ、逆らえばどうなるかわかってるだろう」
「なっ!?、きさ」
俺はじいちゃんの口を手で塞ぐ、どう見ても一触即発ってやつだ。
「兵隊さん、大人しくついてけば良いんだよね、こんなへんぴな場所すぐに去ると良いですよ」
「あぁ、こんな場所すぐに出ていくさ」
あぁ早く出て行け、ハナコがバレる前にな。
「そ、そこの小屋に化け物がいるんだ!、一緒に退治してくれ!」
「なんだと?」
「やっべ」
そうだよなあいつらうっとおしそうにしてたんだ言うに決まってるよな、あぁクソどうする、あぁだこうだ言って時間稼いでもハナコは知能高くないんだ、何をどうすれば切り抜けられる?。
「……
じいちゃんが懐から鍵を取り出した、鍵?、鍵……そういえば小屋の中に扉があったな、もしものとき以外は開けるなって言っていたやつ、これが
「案内する、ついてきてほしい」
俺はじいちゃんをおいて、小屋に6人の兵士を連れて中に入っていく。
奥にはハナコがいる場所だが、向かうのは入ってすぐのところにある鉄製の扉だ。
頼む、合っていてくれよ、あんな状況じゃじいちゃんに聞くこともできなかったからな。
ガチャリ、鍵はスルリとハマり、回すとロックが外れる音がした、扉を開け、俺は兵士達を連れて階段を降りていく。
降りて2分ほど経ったところで階段が終わり、部屋が見えてくる、暗い地下の中で、俺は奥に進んでいくと、
「ギギギィィィィ!!」
異獣だ、異獣の声が聴こえてきた。
「これは、本当にいるようだな、各員、戦闘準備!」
兵士の一人がそう言うと、他の兵士も銃をスライドさせ、引き金に指を入れ直し、告げた兵士は懐中電灯に明かりをつける。
声がするほうに近づいていくと、鎖がジャラジャラと擦れる音が響いてきた、どうやら捕縛されているようだな、まぁこんなところに放し飼いされてるわけがないか、仮にそうだったら、まぁ、
「ギギギギギィ!」
「これはまた、Bクラスの異獣か」
音の発生源までたどり着き、懐中電灯に檻の中の鎖に繋がれた異獣が照らされる、狼と人間を足したいわゆる童話の狼男って感じだ、大きさは大人の兵士達を見下ろすほどに大きいが、よくて2メートル、普通に大きな男程度の身長だ。
「構え!」
兵士達が懐中電灯を持った兵士の号令と共に、兵士達は銃口を異獣に向ける。
さて、どれくらいのモノだ、その銃は
「撃てぇ!」
薬莢をバラ撒き、銃口から弾丸が大量に放たれる、5人そこらの一発が異獣の心臓と頭を撃ち抜く、一発一発が大きな穴が異獣に空き、異獣はその身体を叫び声あげることなく、地面に倒れ伏した。
え、なにその威力、そんなものを人に向けようとしていたの、馬鹿じゃないの怖いわちびるわ。
「……ふぅ、さて彦星、これでもう
威圧するように、殺気を込めた目で、俺に質問する兵士。
「もちろん、さ、早いところ連行しろよ、それが目的だろ」
表面上は冷静に、かといって何の反応無しなのは逆に怪しいから怖がるように足を震えさせ、汗をかく。
「そうか」
俺は兵士に囲まれながら、無事外に出た、見た感じ調べられてはいないようだ、よっぽど調べたくはないようだな。
「彦星」
じいちゃんは心配そうに、いや心配してるのだろう、まぁ明らかに歓迎って雰囲気ではないからな。
「大丈夫だよじいちゃん、大丈夫だから」
「おい、行くぞ」
俺は兵士達に囲まれながら村から離れていく、ハナコが心配だが、いつかは帰ってくると、そう誓い、今は従い、神護区に向かっていった。