こんにちは、メデューサです。
私は今、魔界に帰ってきています。
……邪神ちゃんに愛想を尽かしたわけじゃありませんよ?
実は、あるイベントに出場者として呼ばれたのです。
そのイベントというのが……。
『本年度の魔界カワイイ子選手権グランプリは……』
あ、司会の方が言ってくれましたね。……というか、マイクの音量大きいです!耳がキンキンする……。
どうして私がこんな選手権に出ているのかと言うと、私のファンだという方がエントリーの手続きをしちゃっていたそうなのです。
私にファンって……。まあ、メデューサちゃんは可愛いから分からないでもないですが。
……いえ、これは転生者特有の一歩引いた視点での感想ですよ?うぅ、なんかナルシストみたいで恥ずかしい……。
そ、それよりも!グランプリは誰になるんでしょうか。
『メデューサちゃんです!』
なんと、グランプリは私でした!
……。
えっ?
「えぇっ!?」
グランプリ!?私が!?
うわわ、なんだか凄い歓声が上がってる……。
……ん?あそこのお客さんたちが持ってる団扇……私の絵?
私のファンってあの中の誰かなのかな?なんだか恥ずかしいです……。
「おめでとうメデューサ!」
「おめでとう!」
周りの子が私に声をかけてくれました。
嬉しいけど、自分から参加したわけじゃないのにグランプリを持っていくなんてちょっと申し訳ない気持ち……。
いえ、こういう考え方をするほうが失礼でしょうね、今は遠慮なく喜びましょう!
「ありがとうみんな!」
『見事グランプリに輝いたメデューサちゃんには、賞品としてこちらの品物が送られまーす!』
「ありがとうございます!」
なんだか大きな袋を係員の方から貰えました。中は見えません、まるで福袋みたいです。そしてやっぱりマイクの音大きい……。
選手権は特にハプニングもなく終わりました。
この後はどうしようかな?せっかく魔界に帰ってきたんだし、久しぶりにミノスに会いに行こうかな。
……あれ?前の方から走ってきたのは……。
「やったなメデューサ!」
「ミノス!来てたの?」
「この選手権に出てるって聞いてさ。せっかくだから見にきたんだ」
わざわざ会場まで見にきてくれてたんだ。
ちょっと照れくさいけど、やっぱり嬉しい!
「しっかし、優勝なんてすげーじゃん!賞品ってなにを貰ったんだ?」
袋の中身は私も気になるし、開けて確認してみましょう。
「えっと、洗剤でしょ……ティッシュでしょ……。それから……なんだろこれ、すごい物騒なことが書いてある……」
「あーそれか。今魔界で流行ってるんだぜ、中身はちゃんとしたものだから無駄にもならないしな」
「へぇ~」
あ、裏側にちゃんと注意書きがありますね。
「人間界に戻ったら邪神ちゃんにも見せてあげよっと」
「邪神ちゃん、こういうの好きそうだもんなー」
「喜んで使いそうだよね」
「そういえばさ、邪神ちゃんはまだ人間界にいるんだろ?」
「うん。それがどうかしたの?」
「メデューサがあっちに引っ越したのはわかるよ、人間が好きだし。でも邪神ちゃんはなんで戻ってこないんだ?」
ん?たしかミノスにも、私が引っ越すって伝えた時に邪神ちゃんの事情は説明したはずなんだけど。
「えっと、言わなかったっけ?邪神ちゃんを呼び出した人が帰還の呪文を知らなくて……」
「あぁいや、そうじゃなくて。なんで呼び出した人間をやっつけちゃわないのかって思ってさ」
あ、そういうことか。
「ゆりねさんが……あ、邪神ちゃんを呼び出した人の名前ね。その人がすっごく強いの」
「ふ~ん。すごく強い、ね……」
ちょっと腑に落ちない様子。
ミノスはとっても強いですからね、悪魔が人間に勝てないっていうのがピンとこないんだろうな。
「ま、いいや。あたしも今度久しぶりに人間界に行ってみようと思ってるからさ、その時は観光案内でもしてくれよ」
「もちろん!いつでも連絡して!」
ミノスと一緒に人間界を見て回ったら、きっと楽しいだろうな。
楽しみが一つ増えました!
「あ、そうだ。これ……いっぱいあるからミノスも使ってよ」
「いいのか?サンキュー!」
せっかくなので賞品をお裾分け。ほんとにいっぱい入ってました、洗剤とティッシュ。
昨日はあの後、陽が落ちかけていたのでメデューサをあたしの家に泊めてあげた。
「もうちょっとこっちにいてもいいんじゃねーか?まだ午前中だぜ?」
「うん、でも邪神ちゃんたちにも早く品物を渡してあげたいから」
相変わらず律儀だなー。腐るものじゃないんだし、ゆっくりでもいいと思うけどな。
「泊めてくれてありがとう、ミノス。ごめんね、夜中まで話し込んじゃって」
「気にすんなって、メデューサならいつでも大歓迎だからさ。話すのも楽しいしな」
ほんとに楽しそうに話すんだもんな、メデューサ。
あれじゃ、釣られてこっちまで楽しくなっちゃうっての。
「それじゃ、またね!」
「おう、またな!」
にしても……自分と目を合わせて話してくれた人間か。石化防止の下準備をしてただけっつっても、そりゃ嬉しいよな。あいつの昔からの夢がかなったんだもん。
……ゆりねちゃん、か。弱いとはいえ魔族の邪神ちゃんも手こずってるらしいし、ちょっと興味が出てきたな。
「邪神ちゃん……。ほんっと、あんたって子は……」
キッチンジロウでお昼を食べた後、公園で暮らすぺこらにお弁当の差し入れをした帰り道。
邪神ちゃんがどこかに消えた後、私より少し遅れて部屋に帰ってきた。……口にお弁当の食べカスを付けて。
「お、落ち着けゆりねー!あの、その……そう!これはぺこらが悪いんですの!あいつがいらないって言ってたから純粋な私はそれを素直に信じただけで……」
私の目の前で見苦しく言い訳をする往生際の悪い邪神ちゃん。
「どう見ても強がりだって、あんたも分かってたわよね?」
差し入れのお弁当を拒めるような状態じゃなかったでしょうに。
ぺこらがいらないって言ったからダンボールハウスの前にお弁当を置いてきたけど、あの子相手なら強引に受け取らせるくらいで良かったのかもしれないわね。
さて、電話で注文し直したお弁当が出来上がるまでには時間があるし……。
お仕置きの時間ね。
なんで私が怒られてるんですの……。
悪魔として天使に敵対するのは当然のこと……。だからゆりねがぺこらに渡した弁当を横取りするのも当然のことなんですの……。
だいたいあいつが魔女の施しはいらないとかほざくのが悪いだろ!私は無実ですの!
それなのになんで私が怒られなきゃならねーんだ!ゆりねの奴は何も分かってませんの!バールなんて構えやがってー!
……え?
「ゆ、ゆりね?なんでそんなもん構えてるんですの?」
「このバール、この前あんたが買ってから一度も活用できてないでしょ。だから今、私があんたに使ってあげるわ」
「ま、待ちますの!話せば分かる!」
「問答無用」
あ、ダメだ……。これ容赦なく打たれるやつですの……。
「ぐえぇー!」
ああ……私、ゆりねのフルスイングで宙を飛んでますの……。バールの直撃で背骨をめちゃくちゃにされた状態で居間を飛び出ましたの……。そのまま玄関も横切りましたの……。ついにはドアに激突しましたの……。ドアを突き破って外廊下までふっ飛ばされましたの……。
「きゃあっ!?じゃ、邪神ちゃん!?」
メデューサの悲鳴が聞こえる……。これが走馬灯ってやつか……。
「だ、大丈夫……じゃないよね……」
なんか、随分とはっきりした走馬灯ですの……。
……あ、本物だ。ちょうど魔界から帰ってきたみたいですの。
「邪神ちゃん、今日はなにをやっちゃったの……?」
メデューサのやつ、私がなにかやらかしたって確信してますの……。合ってるけど。
「ぺこらに差し入れたお弁当を邪神ちゃんが横取りしちゃったのよ」
「ゆりねさん」
「おかえりなさいメデューサ。上がっていいわよ」
「あ、はい。お邪魔します」
……私は?放置?
「ちょっと待ってて、邪神ちゃん。荷物置いたら部屋まで運ぶからね」
よかった、見捨てられたわけではありませんでしたの。
「もうちょっとほっといてもいいのに」
ゆりねには見捨てられてましたの……。
「よかったわね、あんたに優しいメデューサが帰ってきて」
ほんとだよ!
邪神ちゃん、ぺこらちゃんを虐めてたみたいです……。
お弁当を横取りって……地味だけどぺこらちゃんにとってはすごくえげつない……。
「それで注文し直したお弁当が出来上がるまでの間、邪神ちゃんにお仕置きをしてたってわけ」
「な、なるほど……」
私たちの視線の先には、邪神ちゃんの激突で大穴が空いた玄関のドア。
そして、会話の声に混じって邪神ちゃんのうめき声が部屋に響いています……。
「それじゃあ、これからぺこらちゃんのところに行くんですよね?私もぺこらちゃんに渡したいものがあるので、代わりに行ってきましょうか?」
「そう?……いいえ、私も一緒に行くわ。お弁当を置いて帰ってきちゃった私にも、ちょっとは責任があるし」
ぺこらちゃんって結構強がりだし、しょうがない気もするけど。
「そうですか?じゃあ一緒に行きましょう。邪神ちゃん、行ってくるね」
「ベートの散歩もしてくるから、すぐには帰ってこないわよ。私たちが出かけてる間に体を治して、夕飯の準備を進めときなさいよ」
ベートっていうのは最近ゆりねさんが飼い始めた犬です。……魔獣に見えるけど、犬として飼ってるから犬ってことでいいんだと思います。
「い……行ってらっしゃいですの……」
二人とも出かけちゃいましたの……。哀れにも傷ついた私を放置して。
まさか、このままどんどん私の扱いが軽くなっていずれ……。
「い、胃痛が……」
ガ●ター10はどこに置いたっけかな……。
あ、ありましたの。あとはコップと水……。
「ふぅ、落ち着きましたの。……ん?」
なんですの、この紙袋?
メデューサが持ってきたのかな?……開けちゃおーっと。
おっ、手紙……魔界カワイイ子選手権?ああ、魔界に呼ばれた用事ってこれのことか。
「読んじゃお……なになに?『この度は魔界カワイイ子選手権での優勝、誠におめでとうございます』……優勝!?メデューサが!?」
……賞金!賞金はいくらですの!?
特別なお金であれば、親友である私にも分け前があるはずですの!
「『つきましては、賞品として同梱の品をお送り致します』なーんだ、賞金はないのか」
シケた大会ですの……。
まあいいや……で、同梱の品物ってのは?
洗剤……ティッシュ……すげー庶民的ですの……。
ん、なんですのこの小瓶?
……こ、これは!
私とゆりねさんはキッチンジロウでお弁当を受け取り、今はぺこらちゃんの住む公園に向かっています。
メンチカツ弁当のいい匂い……。
「それにしても、メデューサはどうやってぺこらにご飯を食べさせたの?あの子かなり強情に見えたけど」
「え?ああ、あの時はぺこらちゃんが倒れちゃいそうでしたから。とにかくおうちにつれてきて、お話とかする前に食べてもらったんです」
今思えば、ちょっと強引だったでしょうか。
「へぇ。結構押しが強いところもあるのね、メデューサって」
「あはは……邪神ちゃんにもよく言われます」
あ、着きました。この公園にいくつかある段ボールハウスの一つにぺこらちゃんが住んでいるそうです。
うぅ、お腹が空きました……。
魔女の施しとはいえ、何故あの時さっさと食べてしまわなかったのでしょう……。
そのせいであの悪魔に貴重な食事を奪われて……ぺこらはお馬鹿だ……。
「ぺこら、いるかしら?」
「ぺこらちゃん、いるー?」
おや、魔女と……優しい方の悪魔ですか。
「……何か御用ですか?」
「これ、新しいお弁当。悪かったわね、邪神ちゃんが酷いことしちゃったみたいで」
「あ、新しいお弁当!……はっ!で、ですから魔女の施しなど……」
「だから、私は魔女じゃないわよ」
「まだしらを切りますか、悪魔と結託しておいて……」
「ぺこらちゃん」
「な、なんですか?」
今度は悪魔の方が……。
「お腹空いてるんでしょ?」
「それは……そうです、が……」
「これはゆりねさんが、ぺこらちゃんがお腹空いてるだろうって思って買ってきたんだから。思いやりの気持ちを受け取っても、罰は当たらないんじゃない?」
う……。ま、まぁ……用意していただいたものを突っぱねるのは失礼ですし……。
「……分かりました、ありがたく受け取らせてもらいます」
「はい、どうぞ」
「あと私の方からなんだけど、用事で魔界に行った時に貰ってきた洗剤とティッシュ。よかったら使って?」
「ど、どうも……」
「食べ物じゃなくてごめんね、食事を作りすぎちゃったりした時は持ってくるから。……いつもってわけにはいかないと思うけど」
「いえ、そこまでしてもらうわけには……」
「そう?じゃあ……私の自己満足に付き合ってもらうってことで、ね?」
「は、はぁ……」
「ぺこらも、メデューサの押しの強さにはたじたじね」
うぅ……たしかに魔女の言う通りです。というか……。
「私はお前に対してもたじたじですよ、花園ゆりね……」
「そう?まぁいいわ、それじゃあまたね、ぺこら」
「またね、ぺこらちゃん」
「はい。……あの、わざわざありがとうございました」
「うん!」
ぺこらと別れてメデューサと一緒にベートの散歩をしている最中、私は気になったことを聞いてみることにした。
「そういえば、魔界には何をしに行ってたの?」
「実は、いつの間にか魔界カワイイ子選手権っていうのに出場することになってまして……」
そんなのあるんだ……。
まあ、この子の容姿なら呼ばれて当たり前でしょうね。
「ふうん。それで……結果はどうだったの?」
「その……優勝、できました」
「そうなんだ、おめでと」
「ありがとうございます。さっきぺこらちゃんに上げた品物が優勝賞品なんですけど、ゆりねさんたちの分もありますから……部屋に戻ったらお渡ししますね」
洗剤とティッシュか……。まあ絶対無駄にはならないけど、随分と庶民的なのね。
……食事はこれで良し!ったく、ゆりねは悪魔使いが荒いですの……。
まあそれも今日限りだし、許してやりますの。
メデューサの持ってきた袋に入っていた薬品、猛毒くん……。
こいつをゆりねに出す料理にだけ混入すれば完璧ですの!
お、二人が帰ってきましたの。
「それでですね、面白いジョークグッズが一緒に入ってて……」
「ふーん、そうなんだ……ただいまー。上がってちょうだい、メデューサ」
「はい、お邪魔します。あ、いい匂い……」
「おかえりですのー。夕飯のカレーができてますの~」
「ご苦労さま。メデューサも一緒に食べましょ」
「わぁ、ありがとうございます!」
メデューサよ、お前の協力のおかげで遂に魔界に帰れますの!
「ど、どうしたの邪神ちゃん?こっち見つめて……」
ふ……さすがメデューサ。成功するまでは計画を気取られてはいけないということか。
「それじゃあ食べましょうか。……いただきます」
「いただきます!……美味しい!やっぱり邪神ちゃんのカレーは最高だね!」
「いやぁ、それほどでもありますの。……ほらほら、ゆりねも早く食べますの」
「ええ、そうね」
そうそう、そのまま口に運んで……入れた!
「……うっ!」
やった!大成功ですの!
「美味しい!」
……えっ。
「いつにも増して美味しいわ。すごいわね、邪神ちゃん」
バカな!猛毒だぞ!?スプーン一杯でサタンを即死させる代物だぞ!?それを一瓶丸ごと使ったのに……。
ん?裏の説明シールの一番下……。
……ジョーク賞品!?中身は美味しい調味料!?
「メデューサ、この薬って……」
「あ、それ魔界で流行ってるジョークグッズなんだって。面白いでしょ?」
お、お前ー!?
「ああ、そういうこと……」
「ひっ!?」
ゆりね、いつの間に私の背後に……。
猛毒くんの小瓶を手にとった邪神ちゃんが突然震えだしました。
え、もしかして……。
「邪神ちゃん、それ本物の毒だと思ったの……?」
「メ、メデューサ!お前、私を騙したなー!?」
「そ、そんなつもりじゃ……」
説明はちゃんと読もうよ、邪神ちゃん……。
「邪神ちゃん。……分かってるわね?」
「か、堪忍や……。堪忍したってや……」
「ダメ」
あ……ゆりねさんが邪神ちゃんを持ち上げて……。
「や、やめますの!やめ……あー!」
「じゃ、邪神ちゃーん!」
外に投げ捨てた……。
あぁ、邪神ちゃんが窓ガラスを突き破って……二階から地上へ落ちていきます……。
痛そう……。でも悪いのは邪神ちゃんだし……しょうがない、のかな……?
「うぅ……」
クソいてぇ……。
体中にガラスの破片が突き刺さってますの……。早く止血しないと……。
あ……二階で二人が話をしてますの……。
「あの、ゆりねさん……。今回のことは私にも責任があるし、ガラス代は私が弁償しますから……」
「ダメよ。勝手に勘違いして私を殺そうとしたのは邪神ちゃんなんだから、ガラスの修理代は邪神ちゃんのお小遣いから出させるわ」
……まず金の話かよ!
「そう、ですか……。あ、さっき言ってた洗剤とティッシュ……どうぞ使ってください」
「ええ、ありがと」
……次はおすそ分けの話かよ!私の心配の優先順位低すぎだろ!
つーかメデューサ、修理代を私に払わせるのを受け入れてんじゃねーですの!金くらい出せよ!
「邪神ちゃん、聞こえてたわよね?それくらいじゃ死なないでしょ?ガラス代……ちゃんと弁償しなさいよ」
自分で投げたくせに……。
「あ、ドアの方も弁償するのよ」
厳しすぎだろ……。でも……もう……逆らう気力が湧きませんの……。
「は、はい……。分かり……ましたの……」
読んでいただき、ありがとうございました。