こんにちは、メデューサです。
ゆりねさんのお部屋にお邪魔している私の隣で、邪神ちゃんがしょぼくれています。
その理由は至って単純。
「パパとママは、どうして娘である私の顔を見にこないんですの……」
……と、いうことです。
邪神ちゃんからすれば寂しくてもしかたないけど……。
「しょうがないよ、邪神ちゃんのお父さんもお母さんも忙しいんだから」
「邪神ちゃんと違ってな!」
慰める私に、先にゆりねさんの部屋に遊びに来ていたミノスが続きます。
バッサリ言っちゃってるけど、否定できないのが悲しいところ……。
「私が暇してるだけの悪魔だと言いたいのか……」
「その通りでしょ」
ゆりねさんも容赦ないです……!
「メデューサ、邪神ちゃんをなんとかできねーかな?」
「うーん、なんとか……かぁ。こうなっちゃった邪神ちゃんは結構強情なんだよね……」
ミノスとメデューサが相談中。
たしかに、邪神ちゃんはめんどくさい子よね。
でも一応試してくれるみたいね、メデューサ。
「邪神ちゃん、ご両親は忙しいけど私たちがいるじゃない。ねっ?」
「お前は私の親じゃね~じゃん……」
言うと思った。
メデューサもそう言われると思ってたのか、やっぱりと言わんばかりの表情。
「さしもの邪神ちゃん係もお手上げだな」
「なにそれ?」
邪神ちゃん係?
「魔界学校の頃にさ、めんどくさい性格の邪神ちゃんと凄くいい感じにやり取りできてたのがメデューサだったんだよ」
「邪神ちゃんの手綱を握る係ってこと?」
「別にそういう係があったわけじゃないけどな。なんとなくそう呼ばれてたんだよ」
「私を聞き分けの悪いやつみたいに言うな!」
みたい、じゃなくて事実でしょ。
「うーん、私としては仲良くしてるだけのつもりだったんですけど……」
メデューサとしてはあんまり嬉しくないみたい。
係とか言われると仕事みたいだし、それが好きじゃないのかしらね。
「ところで、邪神ちゃんのご両親って何をしてる方なの?忙しいって言ってたけど」
「でかい事業をやってる人なんだよ。邪神ちゃんはお嬢様って感じだな」
「お、お嬢様!?これが!?」
ゆりねさんがこんなにびっくりしてるのって、初めて見たかもしれません。
「これとはなんだこれとはー!」
まぁ、普段の行い的にお嬢様という感じじゃないですからね……。口調はともかく。
「詳しく教えなさいよ、邪神ちゃん」
「言いたくねーですの」
「なんでよ?」
「邪神ちゃんは、ゆりねちゃんが自分を見る目が変わっちゃうのが嫌なんだよ」
「ち、ちげーし!そんなんじゃねーし!」
焦ってますね。ミノスの言ったことが図星だったみたい。
他人には、自分は魔界の農林水産省的な所の一番偉い人の娘なんだぞって自慢することもあるのに。ゆりねさんは特別なんでしょうね、やっぱり。
「へぇ~。邪神ちゃんも、可愛いところあるじゃない」
「違うって言ってんだろ、ゆりね!」
可愛いなぁ、邪神ちゃん。
「メデューサも!微笑ましそ~に見るのをやめろ!」
「まぁ邪神ちゃんのツンデレは置いといて。電話でもしてみりゃいいんじゃねーの?」
「ツンデレじゃねーよ!……いきなり電話したら仕事の邪魔になっちゃいますの……」
とか言いながらかけてるし。
たまに会いたくなる気持ちはあたしにもわかるけどな。
「かかった!……出た!もしも……し……切られた……」
うわぁ、これはキツいな……。
「げ、元気出して邪神ちゃん。きっとほんとに忙しかったんだよ!ね?」
「うぅ、メデューサ……」
あまりの不憫さにメデューサが邪神ちゃんを抱きしめて……。
これはいつものことだな。
なんとかして邪神ちゃんを元気にしてあげられないかな……。
……そうだ!
「邪神ちゃん!」
「なんですの?」
「一緒にお食事に行こう!」
こういうときは、美味しいものを食べて元気を出すのが一番!
「……お金がねーですの」
「私がおごるから!」
「行きますの」
……反応が早い!
「どこの店に行くんだ?」
「最近この辺に来るようになったおでんの屋台に行こうかなって。ミノスも行く?」
「おう、行く行く!」
「じゃあ一緒に行こっか。ゆりねさんは……」
「私はいいわ、レポートが終わってないのよ。三人で行ってきて」
「あ、そうだったんですね。すみません、忙しいのにお邪魔しちゃって」
「いいのよ。邪神ちゃんをなんとかしてくれる方がありがたいし」
「そ、そうですか……」
たしかに、ヘコんでる人がいたら集中できませんよね。
……心配するにしろ、鬱陶しがるにしろ。
「あ、そうだ。出かけるなら注意するのよ」
「注意……ですか?」
不審者でも出るのかな?
「最近、変な人がウロウロしてるらしいわ。全身黒ずくめでガスマスクをしてるとかなんとか……」
「なんだそりゃ?」
「まあ、三人とも魔族だし心配ないだろうけど……」
ガスマスクというと……ひょっとして。
「わかりました、気をつけておきますね。じゃあ行こっか邪神ちゃん、ミノス」
「おう!」
「うん。じゃあゆりね、行ってきますの」
このおでんうめ~ですの。
またこの店におごられに来てやってもいいな!
それにしても……。
「こんな時にあのお方がいてくれれば……」
「あのお方……。あぁ、先生だね?」
「先生が邪神ちゃんにドロップキックを授けてくれたんだもんな」
魔界学校に通っていた時の先生。いわゆるお師匠様ですの。
「お師匠様にドロップキックを強化してもらえればなー。ゆりねなんて一瞬で殺せて、親に文句の一つも言いに行けるのに……」
「あたしはそうは思わないけどな」
「私も」
……?
「なんでですの?いくらゆりねが強くたって、ドロップキックが強くなれば……」
「なんだかんだ言って、ゆりねちゃんとの生活を気に入ってるんだろ?」
「邪神ちゃん、ゆりねさんのこと大好きだもんね!」
……なっ!?
「何言ってんですの!んなわけねーだろ!」
「この前だってゆりねさんのために必死になってたじゃない」
「この前って……ゆりねちゃんがインフルエンザになったときの?」
「い、いや……あれは……!」
やめろ!私の恥部を晒そうとするんじゃねー!
「私の部屋に駆け込んできたとき、ゆりねさんが死んじゃうかもしれないって泣きそうになってたんだよ」
「あたしが合流したときも焦りまくってる感じだったけど、そんなにだったんだな。……へぇ~」
「たのむ、やめてくれー!」
にやにやした顔でこっち見んな!
というか、私を慰めるために食事に来たはずなのに、なんでからかわれてるんですの!?
「も、もういいだろ!私は充分元気になりましたの!」
さて、焦る邪神ちゃんに引きずられるように帰路についたのですが。
……前の方から、ガスマスクをつけた黒ずくめの人影が私たちに近づいてきます。
きっとあれが……!
「なんだあの人……」
「ゆりねさんが言ってた人かな?」
「変質者ですの……」
「こんばんは、邪神ちゃんとミノスちゃん、メデューサちゃんだよね?」
ガスマスクの子が話しかけてきました。
原作知識で誰だか分かっていても、威圧感がすごいですね。
「ち、違いますの……」
邪神ちゃんがごまかそうとしてます。
「なんで嘘つくんだよ邪神ちゃん?」
「バッカおめー!不審者に名前教えるとかありえねーだろ!」
「うん、私たちがその三人で合ってるよ」
「メデューサ!?」
「私たちのことを知ってるみたいだし、隠してもしょうがないよ」
「……相変わらず危機感がねーやつですの」
「わたしペルセポネ二世。お母様のお使いで魔界からやってきたの」
「ペルセポネっつーことは……」
「あたしたちの先生の……」
「お嬢さんってこと?」
二世ちゃんが頷きます。
「そのマスクはなんなんですの?」
「人間界の空気が汚れてるから、ってお母様が言ってたから」
「いや、私たちが影響受けてないんだから大丈夫だろ……」
「そっか。じゃあ……」
邪神ちゃんに言われて、二世ちゃんはガスマスクを外しました。
……わぁ、すごく整った顔。
「ホントだ、なんともな……ゴフッ!」
な、なんともなくないみたい!
「うわわ、やっぱりガスマスクつけておいたほうが!」
「大丈夫……。これはただわたしが虚弱体質なだけだから、心配しないで……」
「いや、そこまで虚弱なら心配もするだろ……」
ミノスの言う通りです。
ほんとに大丈夫なのかな?
「おもしれー、こいつちょっと押しただけで吐血してますの!」
「邪神ちゃん、ダメだよ酷いことしちゃ!」
二世ちゃん、咳き込んじゃってる……。
「ごめんね、邪神ちゃんが……」
「き、気にしないで。二人とも優しいんだね、お母様が言ってたとおりだ」
「二人って、メデューサとミノスのことか……。私は優しくないとでも言いたいのか……」
……私は邪神ちゃんのことを優しいと思ってるけど、今の所業はどう考えても優しくないです……。
まあそれは置いておいて。
「先生が私たちのことを話してたの?」
「うん、困ったちゃんの邪神ちゃんと仲良しでいてくれてるって」
「困ったちゃんとはなんですの!」
「いや、困ったちゃんだろ。邪神ちゃんはさ」
「特にメデューサちゃんは邪神ちゃん係なんて呼ばれてるんだって言ってたよ」
「え……そんなことも言ってたの?」
「うん。暴走しがちな邪神ちゃんとすっごく上手に付き合ってるって」
な、なんだか恥ずかしいです……。
「……あ、ごめんなさい。係って言われるのは好きじゃなさそうってお母様が言ってたのを忘れてた……」
「たしかにあんまり好きじゃないけど……。嫌いっていうほどでもないから、あんまり気にしないで」
「ところで、師匠のお使いってなんですの?」
「邪神ちゃんに完成版ドロップキックを教えてあげなさいって」
「完成版?邪神ちゃんが使ってるドロップキックは未完成ってことか?」
「うん。邪神ちゃんが繰り出してるのはただの飛び蹴りでしょ?」
ドロップキックという言葉の意味合いとしては、ただの飛び蹴りでも間違ってないけど。
先生が邪神ちゃんに伝えたいのは、違う動作からのドロップキックなんでしょうね。
「完成版ドロップキックってのはどういう技なんですの?」
「それは……」
二世ちゃんが高く跳びました。
「こういう……」
前宙をして、その勢いを落下の勢いに加えて……。
「技だよ!」
飛び蹴りを繰り出しました!
……邪神ちゃんに向かって。
「ゴーフル!」
「じゃ、邪神ちゃーん!」
邪神ちゃんが悲鳴を上げて吹っ飛んでいってしまいました……。
「すげー。邪神ちゃんのしょぼいドロップキックとは雲泥の差だな」
「たしかにすごい威力だね。……どうしたの、二世ちゃん?」
着地した二世ちゃんがしゃがみ込んじゃってます。
たしかこれって……。
「脚が折れちゃった……」
「だ、大丈夫!?……じゃないよね……」
「虚弱体質ってレベルじゃねーぞ!」
「しばらくすればくっつくから大丈夫……」
「メデューサ、これ邪神ちゃんが習得したらヤバいんじゃ……」
「うん、ひょっとしたらゆりねさんが殺されちゃうかも……」
原作で殺されてなかったわけだし、多分大丈夫だろうけど……。
やっぱり心配です。
「くそー、これほどのダメージをくらうとは……」
あ、邪神ちゃんが戻ってきました。
これが完成版ドロップキック……。凄まじい威力ですの。
「邪神ちゃん、大丈夫?」
「おう、だいぶ遠くまですっ飛ばされたけど……。しかしこの威力のドロップキックであればゆりねも……!」
これはつまり、ついに魔界に帰れるときが来たというわけですの!
「すげーな二世ちゃん、さっすが師匠の娘ですの!それじゃ、早速その技を教えてチョーヨンピル!」
「う、うん……」
「邪神ちゃん、お前……。さっきまで二世ちゃんの虚弱体質をバカにしといて……」
「やっぱり変わり身早い……」
ミノスとメデューサが私の世渡りの上手さに感動してますの。
ところで!
「完成版ドロップキックはどれぐらいで覚えられるんですの?一週間?一ヶ月?」
「ほんの八十年もあれば習得できるよ!」
……は?
「は、八から十年……ですの?」
多分そう聞き間違えたに違いないですの!……それでもクソなげーけど!
「八十年だよ」
「えっと、たしか日本人女性の平均寿命がだいたい八十七歳だから……」
……詳しいなメデューサ。
「今のゆりねちゃんの年齢を考えると……」
「ゆりねの寿命を待ったほうが早いじゃねーか!」
あぁ、ようやく見えた希望の光が消えていきますの……。
「でもよかった、ゆりねさんに向かって完成版ドロップキックが繰り出されることはなさそうだね」
「ああ。よかったな邪神ちゃん!」
メデューサもミノスも、好き勝手言いやがって……!
「なんにもよくねーですのー!」
読んでいただき、ありがとうございました。