こんにちは、メデューサです。
……夏です!暑いです!
私の部屋はエアコンを導入していないので扇風機が最強の冷房機器だけど、あったかい空気をかき混ぜてもあんまり意味が無いんですよね……。
それでも使わないよりマシなんだけど……。
……チャイム?
誰だろう?邪神ちゃん……じゃないよね、邪神ちゃんならスマホで私の方を呼び出すはず。
「はーい、どちら様……遊佐さん!」
「お久しぶりです、メデューサさん」
お客様は氷族の遊佐さんでした。
魔界のいろんなところを回っていた時に知り合いになった方です。
いつもは妹の氷ちゃんと一緒なんだけど……。今日はそうじゃないのかな?
「どうぞ、上がってください」
「お邪魔します」
あ、涼しい……。
氷族の方は冷気を出して周囲を涼しくすることができるのです。
この時期にはとても羨ましい能力ですね。
人間を石にする能力なんかじゃ、どう考えても暑さには対抗できないし……。
「飲み物出しますね」
「ありがとうございます。……できれば麦茶以外でお願いします」
「あ、はい……。じゃあジュースを……」
遊佐さんに限ったことではないけど、砂糖入りの麦茶は嫌がられることが多いです。
こんなに美味しいのになんでだろう?謎です……。
「ところでどうしたんですか?なにか人間界に用事でも?」
「実はわたくしではなく、妹の用事で。わたくしはそれについて来たんです」
「氷ちゃんの用事、ですか?」
「ええ、こちらのアパートに住む知人に呼ばれたと言って」
魔界の方の知り合い……邪神ちゃんかな?氷ちゃんと知り合いだったみたいですね。
「せっかくだからと思ってここまで一緒に来たのですが、お隣にメデューサさんが住んでいらっしゃるようなので。この暑さですからね、わたくしはこちらに寄らせてもらいました」
「ありがとうございます、本当に……」
遊佐さんの優しさが心にしみます……。
「人間界に引っ越していたんですね、メデューサさん」
「はい、少し前から。そういえば遊佐さんたちには連絡してなかったですね……ごめんなさい」
「いえいえ、お気になさらず」
全くの予想外というわけでもないですしね。メデューサさん、いつも人間と仲良くしてみたいと言っていましたし。
「人間界のこの暑さは大変でしょう?私達ならともかく……」
「そうですね……。石化能力は生活には役立ちませんからね」
これもよく言っていたことですね、石化能力のこと。でも相変わらず卑屈さは感じません。
自分の能力のせいで仲良くしたいはずの人間と顔を見せあって話せない……。普通なら暗くなってしまいそうなものだけど……。
メデューサさんは昔から、そういうものだからと笑っていました。
諦めるというよりも、いつかなんとかなると信じているような……。確信にも近い希望を持っているような……。そんな印象を受けたのは今でも覚えています。
「でも人間界に来て、私の目を見ても石化しない人と出会ったんですよ!」
「そんな人間がいるんですか!?」
メデューサさんの能力は人間であれば誰にでも効くものだと思っていましたが……。
「あ、いえ……その方の能力というわけではないんです。私と会う時に前もって石化防止のパワーストーンを買っておいてくださって」
そういうことですか……。びっくりしました……。
「私に向かって目を見せても大丈夫だよって言ってくださったのが、すごく嬉しくて」
「そんな方がいらっしゃったんですね」
「はい、ゆりねさんっていう女の子なんです」
本当に嬉しかったんでしょうね、目が輝いてます。
「大変といえば、人間界ではレベルアップも大変なのでは?戦うことも少ないでしょうし」
「それが魔界とあんまり変わらないんです、私も驚いたんですけど」
「そうなんですか?」
なんだか意外ですね。
「メデューサさんが魔界にいた時はたしか……レベル40後半でしたよね」
「はい、48でした。人間界にきてから一つ上がって49になったんです」
「本当に人間界でもレベルが上がるんですね……」
一体何をしたのかしら。
「そうなんです。この辺りでは近所の家庭のゴミを所定の場所に集めて回収してもらうんですけど、そこにカラスがたくさん群がってくるんです」
「カラスって……あのカラスですか?」
カラスという名の凶暴な獣……とかではなく?
「あのカラスです。それを追い払ってたらいつの間にか上がってました」
「ず、随分と経験値がもらえるんですね……」
「数が多いんです。ゴミを集めるってことは、カラスにとってはエサが一箇所に集まるってことですから」
なるほど……。話を聞くだけでも魔界とは随分と経験値事情が違うのですね。
「それにしても邪神ちゃんからの呼び出しかぁ……」
氷ちゃんをゆりねさんに紹介するのかな?
「邪神、さん……ですか?たしかに妹もそう言っていましたが……。お知り合いの方ですか?」
「え?ええ、幼馴染です。このアパートで魔界に住む知り合いがいるのは私と邪神ちゃんだけのはずですから……」
「そうだったんですね」
「さっきお話をしたゆりねさんの部屋に住んでいるんですよ。……ん?」
……そういえば邪神ちゃんってたしか。
「あの、失礼ですが氷族の方って一応下級悪魔……でしたよね?」
「そうですね。成人すれば上級悪魔の方にも引けを取らなくなることが多いですが」
……まずいかもしれない!
「遊佐さん、私達も氷ちゃんの所に行きましょう!」
「……?突然どうしたんですか?」
「邪神ちゃんは、その……強きを助け弱きを挫くタイプでして……。立場や見かけで相手を判断するタイプでもありまして……」
「妹を虐めるような方だと?」
否定したいけど……。できない、よね……。
「はい、多分……というか間違いないかと……。ゆりねさんが一緒のはずだから、そこまで酷いことにはなっていないと思うんですけど」
氷ちゃんだって強いし、怪我をしたりはしてないと思うけど……。
「そうですか……。妹が虐められているかもしれないとなれば……」
「急ぎましょう!」
「ええ!」
「ちょっと邪神ちゃん、無理にやらせちゃダメでしょ。かわいそうよ」
「いーんですの、こいつは下級悪魔なんだから。お前も上級悪魔様に貢献できて嬉しいよなー?」
ほんと便利だなー氷ちゃん。居るだけで涼しいし、かき氷は作れるし。こうして雪まで降らせられるんだもんなー。
夏はずっとこいつをこき使ってやろうかなー。
……ん?
「ちょ、ちょっと寒すぎですの……もうそのくらいでいいぞ……」
「止める気無いみたいよ。相当あんたにムカついてるみたいね」
はぁ~?下級悪魔のくせに?
「もういいって言ってんだろ!やめて帰れよ!」
「やめなさいよ、邪神ちゃん」
「うるせーですの!こっちは上級悪魔だぞ!」
下級悪魔の分際で……。邪神である私に向かってなんなんですの、その目つきは。
……?
「オメーみたいなチビに掴まれたところで怖くもなんとも……なっ!?」
こいつ……こっちの腕を凍らせてきやがりましたの!
「こんの……クソガ……」
「そこまでです!」
「そこまでだよ邪神ちゃん!」
「キ……えっ?メデューサと……誰?」
やっぱり邪神ちゃんは氷ちゃんを虐めてました……。なんだかなあ……。
「確か邪神さんでしたか……。妹に手出しをするのは許しませんよ!」
「大丈夫!?氷ちゃん!」
ちょっと怯えちゃってる……よしよし……。自分の能力が強力でも、暴力を振るわれるのは怖いよね……。
……でもこれ、多分助かったのは邪神ちゃんの方です。
「いらっしゃい、メデューサ」
「あ、ゆりねさん。お邪魔してます……」
ゆりねさんは突然の乱入者にも全然動じてない。さすがの冷静さです……。
「ご紹介しますね。こちら、氷ちゃんのお姉さんの遊佐さんです」
「はじめまして、わたくし遊佐と申します」
「氷ちゃんの……。ゆりねです、よろしく」
「オメーら私を無視して話を進めてるんじゃねーですの!あと邪神さんじゃない!さんをつけるなら邪神ちゃんさん、だ!」
「うるさいわよ、二人に助けられておいて……」
やっぱりゆりねさんにもそう見えますよね……。
「はぁ?私が下級悪魔に負けるっていうんですの?」
「ええ。今のはどうみても返り討ちにされるパターンだったわね」
「私もそう思うよ、邪神ちゃん……」
「メデューサまで!?こっちは上級悪魔だぞ、こんなモグラ顔に負けるわけねーですの!」
……あ。ちょっとまずいかも……。
「ゆりねさん、私は大丈夫だけどゆりねさんはなにか羽織ったほうが良いかもしれないです……」
「え?……そうね」
あーあ……。邪神ちゃん、氷族の人の地雷を踏んじゃたみたいね。
それにしても、夏に上着を着ることになるなんて。
「今モグラと言いましたか……?我々氷族が最も気にしていることを……」
「さむっ!?……ちょっと、これシャレになんねーですの!」
氷ちゃんの冷気もすごかったけど、こっちの遊佐さんの冷気は段違い。
ふわふわした雰囲気でいることが多いメデューサも、少し緊張した様子でこっちを気にしている。
「大丈夫ですかゆりねさん?」
「ええ。すごいのね、遊佐さんって」
「はい、成人した氷族の方の力は上級悪魔にも匹敵しますから」
上級悪魔……邪神ちゃんクラスってことね。……そもそも邪神ちゃんに強さを感じたことがあまりないけど。
「一応、もう少し防寒しましょう。毛布お出ししますね、押し入れですか?」
「ええ。ありがと、メデューサ」
私がうなずくと、メデューサはいそいそと毛布を出して持ってきてくれた。
どこぞの上級悪魔と違って気が利くわね、どこぞの上級悪魔と違って。
「チャーンスですの!」
メデューサが氷ちゃんから離れたのを好機と見たのか、邪神ちゃんが跳び上がった。
あー……これダメなやつだわ。やられ役の行動だわ。
「姉の来訪で油断しやがったなモグラ顔ー!姉の方はともかくどうみても貧弱な妹は楽に仕留められますの!妹さえやっちまえば悲しみに心を砕かれた姉など打ち倒す必要すらなくなる!つまりたった一撃で私はお前ら姉妹に完全勝利を収めることになるんですの!どうだこの完璧としか言いようのない私の作戦は!さぁくらえ!必殺!ドロップキーッ……」
邪神ちゃんがグダグダ言っているうちに、遊佐さんが氷ちゃんをかばうように立つ。
「はっ!」
「冷たっ!……へ、あれ?え?え?」
彼女の腕の一振りで冷たい風が勢いよく邪神ちゃんに向かい、ドロップキックの勢いを削いでしまった。
「ふっ……」
焦った様子の邪神ちゃんに遊佐さんの吐息が吹きかけられる。
氷漬けになった邪神ちゃんはそのまま落下して……真っ二つに砕けちゃった。
お手本のようなやられっぷりね。
「だから言ったのに……。邪神ちゃん、大丈夫……じゃないよね……」
緊張を解いたメデューサは、邪神ちゃんを心配しつつも大して焦ってないみたい。
調子に乗った邪神ちゃんが返り討ちにされる光景は見慣れてるって感じね。
「申し訳ありません、ゆりねさんを寒がらせてしまって……」
「気にしないでください、誰でも言われたくないことはありますから。こちらこそ、邪神ちゃんが氷ちゃんを突然呼び出したのに涼しくしてもらって、助かりました」
四人は朗らかな雰囲気を形成してますの……。氷漬けにされた挙げ句、真っ二つにされるという被害を受けた私を他所に……。
「それにしても姉妹なのに種族というか……生き物自体が違くないですか?」
「ああ、氷族の方は成人する時に遊佐さんのような姿に変わるんですよ。そして……」
「そのときに名前をもらい、一人前の悪魔となるのです」
つまり氷ちゃんはまだ一人前じゃないってことか……。妹から撃破する作戦そのものは間違ってなかったみたいですの……。
「成人してなくても強さは十分にあるんですけどね。向かい合ってのやり合いなら、氷ちゃん一人でも邪神ちゃんを氷漬けにすることはできたんじゃないかな……」
……このモグラ顔にそこまでの力があるというのか……。
「邪神ちゃんの腕を簡単に凍らせてたものね。……ところで、氷ちゃんに付ける名前……浩二なんてどうでしょう?」
遊佐の妹が浩二……。
遊佐……浩二……。
「お、女の子の名前ではないような……」
「あ、あはは……」
というかメデューサ!ゆりねのセンスに苦笑いしてる暇があったら私を助けろ!
「……邪神ちゃん、聞こえてる?私としてはそろそろ助けてあげたいんだけど……」
そうそう!それを待ってましたの!
「まだ助けなくても良いんじゃない?」
ゆりねめ、余計なことを……。
「というかですね……。実は、遊佐さんの氷はなかなか溶けないからすぐには助けられないんです……」
「へえ。氷族の人の氷はやっぱりすごいのね」
「妹に凍らせられたのであれば、わたくしの氷よりは早く溶けるのですが……。無理に割ろうとしたりするよりは、溶けるのを待ったほうが賢明だと思います」
え、じゃあまだこの状態が続くんですの……?
「まあ死んじゃうわけじゃないし……。もうちょっと我慢しようね、邪神ちゃん」
メデューサ、それが親友に対しての扱いなのか……。
「妹もゆりねさんが好きみたいですし、またお邪魔させていただいてもよろしいでしょうか」
「ええ、いつでも来てください」
「良かったね、氷ちゃん」
良かねーだろメデューサ……。お前の親友を氷漬けにするような奴らだぞ……。
……あぁ……意識が……薄れて……。
もう……ダメ……です……の……。
「邪神ちゃん、寝たら死んじゃうわよ」
……死なねーよ!
読んでいただき、ありがとうございました。