あいつとの出会いは中2の秋。場所は学校の屋上だった。
「ふわぁ…」
いつもの放課後。あくびをしながら俺はいつものように屋上で漫画を読んでいた。ぼっちな訳じゃない。多くはないが友達はいる。だけど他の友達は部活。俺は帰宅部。だから一人なのである。じゃあ何で帰らないのかって?帰っても一人だからだ。両親は海外で働いている。だから帰っても一人だ。
「おー…マジか…あの時、あいつが言ってた言葉の意味ってこういうことだったのか…」
俺は伏線が回収されたシーンを見てテンションが上がる。テンションが上がるとつい口ずさんでしまう。いつものことだ。
「ちょっと!そこのあなた!」
「ん?」
突如、屋上に知らない声が響き渡った。俺が顔を上げるとそこには小柄で黒髪ストレートロングの右の髪を一房くくったヘアスタイルの女の子がいた。
(やっべ…)
俺は心の中でそう呟いた。俺の目の前にいるのは中川菜々。この学校の生徒会長である。とても真面目でルールを守るしっかり者の生徒会長として有名なのである。今、俺は本来なら学校に持ってきてはならない漫画を持って来てしまっている。つまりピンチである。
「もう下校時刻ですよ!何をしているんですか!?」
「え!?マジ!?」
俺は慌てて辺りを見回す。辺りを見回すともう日が沈んで真っ暗になっていた。俺としたことがつい漫画が面白過ぎて夢中になって時間を忘れてしまってた。って!んなこと言ってる場合じゃねぇ!どうにかしてバレねぇように帰らないと!
「す、すいませーん…もう帰りまーす…ハハハ…」
俺は漫画を後ろに隠しながら立ち上がる。ここでバレたらもうここで漫画を読めなくなる!それだけは絶対に嫌だ!
「何か隠してません?」
「べ、別に…隠してないよ…?」
「嘘です!目が泳いでます!」
「バカヤロー!これはあれだよ…常に目を泳がすことで視力を上げる特訓なんだよ!かの徳川家康もやってたんだぞ!舐めんなよ!」
「何ですかそれは!いいから早く見せなさい!」
「ちょっ!待っ…」
中川は漫画を持っていない左手を掴まれ引っ張り出された。そして中川は即座に俺の後ろに移動する。
「これは!?」
くそっ!バレた!最悪だ!ラノベって言って誤魔化すか!?駄目だ!中身をチェックされたら終わりだ!どうする!?
「今、人気の霊術戦線じゃないですか!」
「はい…?」
俺は唖然としてしまう。てっきり俺は怒られると思っていた。だが怒られるどころか俺の漫画を見て中川は目を輝かせていた。え?どういうこと?誰かこの状況、説明してくんない?
「あなたも好きなんですか!?霊術戦線!」
「え…ま、まぁ…アニメ見て面白いと思って…」
「私もなんです!面白いですよね霊術戦線!」
「あ、ああ…」
急に早口になる中川。あまりに予想外な展開に俺は戸惑ってしまっていた。
「主人公の浦河総司の必殺技!霊魂聖王拳!凄くかっこいいですよね!」
「あ…うん…」
「後、赤羽浅海の必殺技も私、好きで…」
なんか霊術戦線のことを語り始めちゃったんですけど!?でもわかる!俺もその2人の必殺技が好き!
「10話の作画、凄いよかったですよね!後、獅子神の声優があの岳山さんで!それからそれから!」
作画とか声優とか言い始めちゃったよ!間違いねぇ!中川は俺と同じアニオタだ!しかもかなりの!マジかよ!あの生徒会長がアニオタとか!信じられねぇ!
「あのシーン最高ですよね!」
「分かるわ!あのシーンは見てて鳥肌たったわ!」
中川がアニオタだということに驚いていた俺だったが、すぐに意気投合してしまっていた。
「それからですね…」
「って!どんだけ喋ってんだよ!お前が喋ってから1時間以上は経過してんじゃねぇか!下校時刻がどうとか言ってた奴はどこのどいつだ!」
「はっ!」
はっ!じゃねぇよ!ていうか俺も俺で何で今まで止めずに話を聞いてたんだよ!でもこいつの言ってることめっちゃ共感できるんだよなー…
「あっ!学校に漫画を持ってくるなんてどういう了見ですか!?」
「今さらかよ!気づくの遅すぎんだろ!」
「とにかく校則違反です!没収します!」
「校則違反って…お前…下校時刻を破ってまで霊術戦線を語りまくった生徒会長にそんな権利があると思ってんのか…ていうか中川も下校時刻破ってんじゃねぇか…」
「ゔっ…」
俺の言い分に中川は何も言えなくなってしまう。まぁ元はと言えば俺が学校に漫画、持って来たのが悪いんだけどよ…だからって生徒会長が没収する以前にアニメの話をするっていうのも色々と問題だろ。
「ま、まぁ…今回は痛み分けってことにしようぜ…じゃあ俺はこれで」
「待ちなさい。それで逃げられると思ってるんですか」
アニメの主人公みたくかっこよくその場から立ち去ろうとした俺だったが中川に右手首を掴まれてしまう。行けると思ったんだがなー。
「今回のことは見逃すので連絡先を交換して下さい」
「はい?」
「連絡先を交換して下さいって言っているんです!」
「いや…聞こえてるっつーの…何でお前と連絡先を交換しなきゃいけないわけ?」
「せっかく同志を見つけたんです。せっかくなので好きなアニメを語り合えたらと思いまして」
「いつから俺とお前が同志になったんだよ」
「同志とはいつからなるとかそんなのじゃありません。いつの間にかなっているものなんです」
「名言風に言えば誤魔化せると思ってんじゃねぇぞ」
「仕方ありませんね。今回の件は私にも非があります。今から先生に謝ってきます」
「冗談っすよ姉御。もう姉御はいつも冗談を真に受けちゃうんですからー。俺はもう生まれた時から姉御のことを同志って思ってるんですよー。」
「調子がいいですね…」
俺は先生にこのことをバラされるのを回避する為に中川と連絡先を交換することを決めた。俺はポケットから携帯を取り出す。
「そ、その携帯カバーは!」
俺が携帯を取り出した瞬間、俺の携帯カバーを見た中川が反応を示した。なんか嫌な予感するんだけど…
「転シスじゃないですか!」
転シスまで知ってやがるとは…あんまり知名度が高くねぇのに。ちなみに転シスとは転生したらシスコンの魔王になってましたというラノベのタイトルの総称である。
「転シスもいいですよね!特に3巻の…」
「この期に及んでまだ語る気かお前は!」
これが俺と中川との出会いだった。でもこの出会いが俺の運命を変えることになろうとは思いもしなかった。
そして次の日
「昨日の坂魂。よかったですよね」
「ねぇ。何で当たり前のように俺の隣にいるわけ?」
昼休みの食堂。なぜか中川は俺の隣で弁当を食べていた。ちなみにうちの学校には給食はない。弁当持参か食堂である。
「何を言ってるんですか。私たちは同志なんですよ。私たちは生まれた日は違えどもアニメを語る時は同じ日、同じ時を願わん。そう誓いあったじゃないですか」
「そんな誓い立てた覚えはねぇよ。何だよそのエセ三國志」
「桃園の誓いならぬ、楽園の誓いです。アニメこそ私たちの辿りついた至高の楽園なんですから」
「その理屈がわかる自分がいんのが悔しいわ」
俺は中川の意見に反論できなかった。確かにアニメこそ至高の楽園だわ。
「つーかそんなにアニメを語りてぇなら部活、そういう部活を作りゃいいだろ。そうすりゃお前と同じアニメ好きの奴だって集まるだろ」
「生徒会長としての仕事がありますし、そんな時間はありません。それにそういう部活を作ったら親にバレる可能性もありますし」
「お前の家、アニメとか駄目なの?」
「ええ。両親が厳しくて。だから親がいない時に見ているんです」
「大変なんだな。お前ん家」
「そういうあなたはどうなんですか?両親が何か言ったりとかはしないんですか?」
「特にねぇな」
というか俺は一人暮ししているから親に何か言われるとかもない。別にいたとしても何か言ってくるような親じゃねぇし。
「はっ!あなたの家にアニメのグッズやラノベを置かせてもらうことってできますか!?」
「おい。人の家を倉庫代わりにしようとしてんじゃねぇよ」
「勿論タダとは言いません!今なら霊術戦線の限定グッズをあなたに差し上げます!」
「なっ!?」
限定グッズと聞いて俺は心動かされる。アニオタは限定という言葉に弱い。こいつオタクの心をわかってやがる…なんて恐ろしい奴だ
「それによく考えて見て下さい。あなたの知らない作品があったら、それをタダで読むことだってできるんですよ」
「はっ!」
中川はさらに追い討ちをかけて来る。その言葉を聞いた途端、俺の心はさらに動かされる。アニオタは漫画やグッズなど様々なものにお金をかける為、お金の消費が激しい。だが中川の要求を呑めばタダで未知なる名作と出会える上に読むことができる。こんな
「しゃぁねぇな…わかったよ」
「本当ですか!?」
「ああ。あんまりたくさん持ってくんじゃねぇぞ」
「わかりました。じゃあアニメのグッズやラノベを置かせてもらうこと、私の好きなアニメの録画。お願いしますね」
「おい。さりげなく条件を一つ増やしてんじゃねぇよ」
そして土曜日
「おおっ!あれは私の好きな圧倒的劣勢の状態から覚醒して相手を上回るシーン!」
「興奮し過ぎだろ…」
今日は朝から俺の家でのアニメの鑑賞会だ。中川は俺が録画しておいたアニメを見てかつてない程、喜んでいた。そりゃそうだろうな。両親の目を気にせずアニメを見れんだからな。
「つーか勇気あるよな中川って。いきなり男の家に遊びに来るなんてよ」
「緊張しなかったと言ったら嘘になりますけど、それよりも大好きなものを共有したいっていう気持ちの方が強かったんです」
「別に俺じゃなくてもいいだろ。他にもアニメ好きな友達とかいるだろ」
「いないことはないですが、声優とか作画とかまで語れる人はあなたぐらいしかいないんですよ」
「それはめっちゃわかるわー」
俺の友達の中にもアニメ好きはいても、声優や作画とかまで語れる人っていないんだよなー。まぁ俺も最初はそうだったしな。
「いやー!最高でした!」
「それは何よりだな」
あれからぶっ続けでアニメを見る中川。好きなアニメを見ることができて中川は満足そうな笑みを浮かべていた。
「もうお昼ですね。せっかくなので私がお昼ご飯を作りますよ」
「え?いいの?」
「ええ。あなたには色々とお世話になっていますから」
「じゃあ頼むわ」
俺がそう言うと中川は台所に行って料理を作り始めた。ラッキー。楽できるわー。
と俺は思っていた。
「何これ?」
だが中川の作った料理は毒々しい紫色をしており、食べてはならないと本能が俺に言っていたからである。
「ミネストローネですが?それが何か?」
「いやミネストローネって赤いはずだよね?何で紫色なの?」
「普通とは違うミネストローネを作ってみようと思いまして」
「違うっていうか、全く別の物になってるよね」
「そうですか?どう見てもミネストローネだと思うのですが」
俺はこの時、理解した。中川は料理は好きだが料理がド下手であるということに。しかも自覚がないということは味見とかはしてねぇってことを。この後、俺は勇気を振り絞って中川の作ったミネストローネを食べた。食べた瞬間、綺麗なお花畑が見えた後、ぶっ倒れた。
「そ、そんな…まさか倒れる程、美味しかっただなんて…!?」
(アホなのか…こいつは…)
この後、なんとか俺は中川の料理を完食した。
そしてここから中川に振り回される生活が始まって行く。
「あっ!入場特典被りました!」
「俺は別のがきた」
「あっ!コルイちゃんじゃないですか!交換して下さい!」
「嫌だよ。俺はコルイ推しなんだよ」
特典をコンプリートする為に何度も緒な一緒に映画に行って一喜一憂した。そして映画を見終ってからいつもボロ泣きした。
「こ、これが同人即売会…ここは楽園か何かですか…!?」
2年の冬には同人即売会。冬コミに行った。冬コミの会場を見て中川は目を輝かせていた。
「よしっ!買いまくりますよ!」
「いい加減にしろよコノヤロー。もうお前の買ったグッズとラノベのせいで俺の部屋がいっぱいになってんだよ」
「では行きましょう!」
「ナチュラルに無視してんじゃねぇ。聞こえてんだろ」
同人即売会で中川が大量に買った同人誌のせいで俺の部屋が中川の買った同人誌でいっぱいになった。
「それじゃ次は霊術戦線のオープニングいきます!」
(上手すぎだろ…)
カラオケにも行った。勿論、歌う曲は全部アニソン。つーか歌唱力がマジで半端ねぇ…カラオケに来たといういよりもライブに来たみたいだった。
「ついに来ましたよ!あのアニメの聖地に!」
(元気あり過ぎんだろ…)
聖地巡礼にも行った。ただ中川の奴、元気過ぎる。俺は周り過ぎてもう疲れてクタクタになってのに。しかも中川はすっごい乗り気で聖地巡礼の為のしおりまで作ってたしな。
中川に出会ってから俺は中川にずっと振り回わされてきた。でも悪くない気分だった。むしろ楽しかった。俺の中で中川と過ごした日々は大切なものになっていった。
そして3年の夏。ここで俺に転機が訪れた。
「これが中学生活最後の夏コミですね」
「だな」
今日は夏コミ。そして俺たちは電車で帰っていた。
「にしても多いな。流石は夏コミ」
「席。譲りましょうか?」
「気にすんな。もう2駅で俺たちは降りるんだから」
俺はそう言ってこのまま立ち続けることを伝えた。つーか女を差し置いて座れるかってーの。
「今年は受験で冬コミには行けねぇな」
「仕方ありませんよ。大事な時期なんですから」
「そんな大事な時期に夏コミに行ってるけどな」
「ちゃんと勉強はしていますので問題はありません。そういうあなたはどうなんですか?」
「俺も問題はねぇよ」
面談の時にこのまま成績をキープできれば推薦で受かることができるって言われてるしな。
「中川は虹ヶ咲学園だっけ」
「はい」
「虹ヶ咲って確か色んな分野のスペシャリストを育成する学校だよな。何でそこを選んだんだよ?」
「夢があるんです」
「夢?」
「私、スクールアイドルになりたいんです」
「スクールアイドル…お前が?」
俺は驚きを隠せないでいた。まさか中川がスクールアイドルを目指していたなんて。そんなことこいつは一度も言ったこともなかったのに。
「ええ。昔からやりたいと思っていたんです」
「そうか。まぁ頑張れよ」
「あなたは何か夢はないんですか?」
「俺の?」
「私も話したんですから聞かせて下さい」
「そう言われてもなー…」
俺は自分の夢について考える。だが考えても何も思いつかなかった。
「特にねぇな」
「あなたらしいですね」
「ほっとけ。つーか中学の時点で何か夢がある奴の方が少ねぇだろ」
俺たちがこれからのことについて話していた。
その時だった、
「うぉっ!?」
突如、電車が揺れた。立っていた俺はバランスを崩してしまう。
「ふぅ…危なかっ…た?」
俺はバランスを崩したが中川の座っていた窓に両手をつくことで事なきを得た。だが別の問題が発生していた。
それは、
「「っ!?」」
俺がバランスを崩したことで俺の顔が中川の顔と至近距離にある状態になっていた。それはさながら恋愛漫画のによくあるシュチュエーション。壁ドンのように。
「わ、悪ぃ…!!///」
「い、いえ…!!///」
俺は慌てて中川から離れた。ここから気まずくなって俺と中川は話すことはなかった。
そしてその夜。
(あいつって…あんなに可愛かったっけ…)
家に帰ってから俺は中川のことばかり考えるようになってしまっていた。
(そっか…俺、中川のこと好きなんだ…)
普段は真面目で落ち着いてるけど、好きなことになるとすっごく楽しそうに話す。俺は部屋の窓の景色を見ながらそんな中川の姿を思い出していた。
(ど、どうしてしまったんでしょう…ドキドキが止まりません…!!///)
私は家に帰ってから彼のことばかり考えてしまうようになりました。
(あれは私の好きなシュチュエーションの一つ…壁ドン…!!///)
私は恋愛漫画でよくあるシュチュエーションがまさか現実で起こるなんて…
(私は彼のことが好きになってしまったようですね…)
私は部屋の窓から外の景色を眺める。そして彼と過ごした日々を思い出しました。
あれから中川と喋ることが少なくなった。受験のせいで忙しくなったのもある。でも一番の理由は中川と面と向かって話すのが恥ずかしくなったからである。
そして
「中学生活もこれで終わりか…」
時間はあっという間に過ぎ季節は春を迎えていた。今日は卒業式。俺は教室で最後のホームルームを受け、友達と記念写真を撮った後、3年間の世話になった屋上へ移動した。
「そういやここで出会ったんだよな」
俺はいつも漫画を読んでいたスペースを見つめながら中川との出会いを思い出していた。
「帰るか」
俺は家に帰ることにする。校舎を出て校門が見えて来た。
その時
「「あっ…」」
俺は中川とばったりと遭遇してしまう。俺は何て話せばいいかわからず困惑してしまう。
「よ、よう。久しぶり」
「え、ええ…」
なんとか話を切り出したが、俺はこの後の会話が続かず何を話せばいいのかわからないでいた。
「まぁ何だ…スクールアイドルになるのはすっげぇ大変かもしれねぇけどよ。お前なら絶対になれるよ。だから頑張れよ」
「あ、ありがとうございます…あなたも高校生活を頑張って下さい。」
「お、おう…」
「それでは…私はこれで」
「ああ…じゃあな」
そう言うと中川はそのまま走り去って行った。俺はそんな中川の背中を見つめたままその場で立ち尽くしていた。
(あいつは自分のなりたかった夢を掴もうとしてるんだ…その邪魔はできねぇ…これでよかったんだ…)
そして月日は流れる。
「ふわぁ…」
季節は秋。俺は高校生になってから半年が経過した。俺はコラボカフェの帰りだった。高校に入ってからも俺のアニオタライフは変わらなかった。
「あれから半年か…」
そう。中川がいないということ以外は。あれから中川とは一度も会っていない。高校は別になったけど、俺の通っている高校と虹ヶ先学園はそんなに離れていない。だから会おうと思えば会える。けどあいつの夢を邪魔できない。だから連絡しないって決めた。そう決めたのに…
「なんか…虚しいな…」
凄く寂しかった。むしろ会いたくて会いたくて仕方なかった。あいつがいないとこんなに寂しくなるなんて思ってもみなかった。
「ん?」
俺は向こうの通りが騒がしいことに気づいた。何かイベントでもやってんのか?俺は声のする方へと向かって行く。
「多いな…一体、何のイベントだ?」
俺は声のする場所に着いた。そこには大きなステージがあり、ステージの前には男女問わず、多くの観客がいた。
「皆さん!今日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございます!虹ヶ先学園スクールアイドル、優木せつ菜です!」
「え…?」
俺は驚きのあまりその場で固まってしまっていた。なぜならステージに立っていたのは中川だったからだ。
「今日は新曲を歌いたいと思います!聞いて下さい!」
中川がそう言うと曲が始まっていく。そして会場中はヒートアップしていく。そんな中で俺は中川の歌とダンスに見とれてしまっていた。俺と一緒にいた時には見せたことのない中川の姿に。そして俺は嬉しかった。中川が夢を叶えたことに。
(そうか…これが俺の夢か…)
ステージで踊る中川の姿を見て俺は気づいた。俺の夢が何なのか。
「皆さん!今日はありがとうございました!」
俺が考え事をしている内に気づけばライブは終わっていた。観客たちは拍手を送っていた。
ライブが終わって観客たちが帰る中。俺はその場で待っていた。
「いた」
しばらくすると黒髪の三つ編みに、眼鏡をかけ、虹ヶ先学園の制服を身に纏った少女が俺の視界に写った。だが俺はすぐにあれが中川だというこに気づき近づいて行く。
「優木せつ菜さん。ですよね?」
「っ!?」
俺は声音を変えて中川に話しかけた。話しかけた瞬間、中川は体をビクッと震わせた。
「ちちち、違います!私は…えっと…その…」
「どんだけ動揺してんだよ。そんなんでスクールアイドルが務まんのか。中川菜々」
「え!?何で私の名前を…ってあなた!」
「よう。久しぶり」
自分の名前を知っていることに中川は動揺を隠せないでいた。だがすぐに俺だということに気づいた。
「見てたぜライブ」
「み、見たんですか!?」
「ああ。すっげぇよかったぜ」
「そ、そうですか…ありがとうございます…」
「にしても優木せつ菜って…芸名までラノベの登場人物にするとか。もっとマシな名前はなかったのかよ」
「べ、別に私がどんな芸名にしようと私の勝手じゃないですか!」
俺が優木せつ菜という芸名に対して指摘すると、中川はムキになって反論する。
「そ、それよりなぜ私のライブを?」
「カテコイのコラボカフェに行った帰りにたまたまお前がライブをやっているのを見てな」
「い、行ったんですか!?カテコイのコラボカフェ!?」
「何だ行ってなかったのか。意外だな」
「し、仕方ないじゃないですか!スクールアイドルの活動が忙しいんですから!」
「俺は相変わらず帰宅部だから行き放題だけどな」
俺がそう言うと中川は顔を可愛いらしく膨らませながらこっちを睨んでいた。悪かったよ。俺が悪かったから。許してくれって。
「なぁ中川。この後、時間あるか?」
「え?ありますけど…どうかしたんですか?」
「ちょっとお前と行きたい所があるんだ」
俺は中川をある場所へと連れていく。
「ここって…」
俺が中川を連れて来たのは俺たちが通っていた中学校の屋上。俺と中川が始めて出会った場所だ。
「あの…なぜここに?」
「覚えてるか中川。俺たちが出会った時のこと」
「きゅ、急にどうしたんですか…?」
俺が急に出会った頃の話を始めた為、中川は困惑していた。それでも構わず俺は話を続けていく。
「俺はあの頃、お前のことを噂通りのお固い生徒会長だって思ってた。けどあの日、俺の中でお前の印象が変わった。普段は真面目で大人しいけど好きなものに対しては夢中で楽しそうに話す女の子だって知った」
俺の脳裏には中川と出会った時のことが浮かんでいた。
「それからお前と一緒に過ごすことが多くなっていった。そっからお前に振り回わされる日々が続いた。けど楽しかった。最高に楽しかったんだ」
「え…!?」
「でも高校に入ってから寂しかった。俺はこの原因にすぐに気づいた。お前がいなくなったのが原因だってな」
俺は右手を自分の胸に当て、高校に入ってからのことを思い出しながら言った。
「本当はお前に会いたかった。でもお前がスクールアイドルっていう夢があって。俺はその夢を邪魔しないって決めてた。でもお前のライブを見て考えが変わった」
俺はさっきの中川のライブでの出来事を思い出す。
「さっきのライブ、本当に凄かった。でも同時に嫌だったんだ。お前がたくさんの人に見られてることが。俺のことだけ見てて欲しいって思ったんだ」
「そ、それって…!?///」
俺のそう言った瞬間、中川は俺が何を思っているのか理解する。
「好きだ。中川」
俺は大きく深呼吸する。そして俺は中川に告白した。
「返事。貰えるか?」
俺が中川にそう尋ねると中川は顔を真っ赤にしながらも、黙ったまま首を縦に振って、返事をするという意思を見せた。
「わ、私も…好きです…あなたのこと…!!///」
「え!?」
俺は中川の返事に驚きを隠せないでいた。俺のことを好き!?マジで!?つーことは俺たちって両想いだったってこと!?
「私だって…寂しかったんですよ…ずっとずっと…あなたに会いたかったですよ…」
「なっ!?」
上目遣いをしながら目を潤ませながら中川はそう言ってくる。や、やべぇ…可愛い過ぎる…反則だろ…
「もう寂しい思いはさせねぇよ」
「へっ!?///」
中川に抱きつくと、中川の耳元に口を近づけ俺はそう囁いた。
「俺は今まで夢なんてなかった。けどお前のライブを見てわかったんだ。俺の夢が何なのか」
「あなたの夢…!?」
「ああ。俺の夢はお前を幸せすることだってな」
「私を…!?」
「だから俺のものになれ中川。俺だけ見ろ。俺がいなくなったら生きられねぇぐらいお前を虜にしてやる」
自分で言うのもアレだが俺はキザな台詞を中川の耳元に囁いた。つーか。めっちゃ恥ずかしい。
「はい。お願いします」
中川が返事をすると俺は中川から離れる、中川の両肩に自分の両手を置く。少し中川の顔を見つめた後、俺は自分の唇を中川の唇へと近づいて行く。中川も俺がしたいことを理解したのか目を閉じて目を瞑る。
「「ん…」」
そして俺たちは互いの唇を重ねる。俺たちはしばらくの間、互いの唇を離すことはなかった。
「「ぷはっ!」」
これ以上は息が続かなかったので、俺たちは唇を離して酸素を補給する。
「アイドルにこんなことをするなんて。もう引き返せませんよ」
「引き返すつもりなんてねぇよ。進むだけだ。お前と一緒にな」
「あなたって人は…」
「お前の方こそいいのかよ。バレたらスクールアイドルとして色々とまずいだろ。」
「構いません。進むだけですから。あなたと一緒に」
「俺の台詞を真似してんじゃねぇよ」
中川は俺に向かって拳を突き出し、俺と同じ台詞を口にした。
「まぁいいや。とりあえず」
俺はポケットの中からスマホを取り出し操作する。そして俺は中川にスマホの画面を見せる。
「霊術戦線のイベントのチケットが余ってんだ。一緒に行かねぇか?」
「あ、当たったんですか!?」
「ああ。勿論、無理にとは言わねぇけどよ。お前はスクールアイドルの活動もあるんだしよ」
「行きます!たとえライブがあったとしても!」
「行くなよ。それでもスクールアイドルかよ」
「何を言っているんですか。ライブよりもデートの方が大事に決まってるじゃないですか」
「彼氏としては嬉しいけどよ。自分の夢を犠牲にすんなよ」
「わかっていますよ」
「ならいいいけどよ」
「それに…」
「ん?」
「恋愛禁止と知りながら、こっそりと付き合うアイドルもいいと思いまして」
「お前…本当にスクールアイドルか…?」
危ない発言をする中川に俺はこいつが本当にアイドルなのかどうか疑ってしまっていた。
「あ。それとこれから二人きりの時は私のことはせつ菜と呼んで下さい」
「はぁ!?何でだよ!?」
「いいじゃないですか。彼女のお願いを聞くのが彼氏ですよ」
「わかったよ…じゃあせつ菜」
「はい」
「途中まで一緒に帰るぞ」
「はいっ!」
また俺はせつ菜に振り回わされる日々が始まるのか。
でもこれがいい。これがいいんだ。