そんな彼女は、大学が始まって二年が経った現在、容易に触れることが出来ない距離を感じさせる存在なっていた。
これは、そんな彼女の秘密のお話――
講義が終わり、大学を早歩きで出る。
彼女が通っていた高校は規模も生徒数も多く、多様な学科をそろえており、個性のある生徒が多く在籍していたが、それと比べても大学は煌びやかさと多彩さを持っていると彼女は思っている。
大学という広い敷地に、各学科によって個性を変える建物が点在、先生と生徒が基本だった高校とは違い、同じ講義をとっても年齢の幅が存在し、各自の価値観に委ねられた私服で生活する様は彼女にとって好ましく思えるものだ。
そんな彼女が、わき目を振らずに走っている理由。
それは、大学での彼女を知っている人達から信じられない物だった。
「ただいま帰りました」
都内もセキュリティの高い女性専用のマンション。その一室が中川菜々の現在の住居である。
帰宅した彼女は、持っていた荷物を丁寧に片付ける。シャワーを浴び、薄くしていたメイクを落とすとルームウェアに着替え、スキンケアを行う。そして、冷蔵庫から飲み物と、作り置きしていた食べ物を取り出しテーブルに並べると、テレビの電源を付けた。
黒の画面に明かりが付く。手慣れた手つきで奈々はリモコンを操作し、動画投稿サイトを大きなテレビのディスプレイに表示した。
移されたのは……【機動戦士ガンダムOO】であった。
「間に合いました!」
手に持った飲料には金色の麒麟。並べられた食べ物は濃い味付けのされたツマミ。テレビから流れるのは名作であるが、古いアニメ。
そう、彼女の秘密は…………趣味がアニメ、漫画だという事であった。
「ワタシと同じ読みのキャラが出ると聞きましたが、何方でしょう」
そう呟きながらパクリとツマミを頬張る。
中川奈々が作ったツマミは、【白菜と鶏むね肉の味噌ぽん和え】
白菜と鶏肉を使い、健康に気を使っている事がわかるそれは、彼女の真面目さを表している。
シャキリとした白菜がしっとりとした鶏肉と合わさり、口を楽しませる。材料と混ぜていたポン酢は後味をスッキリとしたものに変え、味噌の濃さがビールに手を伸ばさせる。
わざわざジョッキに移した金色の飲料をゴクリッと呑む。
シュワシュワとした炭酸が口内を刺激し、ビールの苦みが食欲を加速した。
動画が終わり、時間は約一時間が経とうとしていた。
食べ終えた食器を洗い、PCの電源を付ける。
PCを操作し、表示するのは彼女が先ほど見ていた動画投稿サイトだ。マイクを調整し、用意していた画像を探す。
時計の針が20:00を指した。その瞬間、中川菜々の切り替わる。
【配信】優木せつ菜、語らせて頂きます!
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「こんばんは! 優木せつ菜です! 本日はさっき見たアニメについて語らせてもらいます!」
中川菜々は二つの顔を持っている。
一つは、謹厳実直な大学生の中川菜々としての顔。
もう一つは、ネットアイドルでありオタクとしての【優木せつ菜】の顔
これは、スクールアイドルが存在しない世界線の彼女