「お兄ちゃん……起きて」
その声に反応し目を開けると目の前に妹がいた。カーテンの隙間から射す光がピンク色の髪を反射させている。
「おはよう、璃奈」
「うん。おはよう、お兄ちゃん」
だが、異様に顔が近い。
「璃奈……さすがに高校生になったんだから同じ布団に入るのはやめような?『男女7歳にして席をおなじくせず』と言う言葉があるように、こういう事はいけません」
「お兄ちゃんが起きないからだよ。璃奈ちゃんボード『プンプン』」
怒って頬を膨らませたような絵を顔を合わせる。プンプンと言っても可愛さが勝り、少し寝ぼけていた頭を覚ましてくれる。
「起こしてくれてありがとな。それに、ボードが無くても思ってることくらいわかるさ」
そう言いながら頭を撫でる。俺たちの両親は多忙であり、無理してでも家にいる時間を作ってくれた。だから、俺も親の負担を少しでも減らすために料理とか家事とか頑張ってたけど今では妹である璃奈の方が料理も得意だから掃除や洗濯しか家での立場が無い。
「朝ご飯食べよ?」
「あぁ、そうだな」
そして、璃奈の作った朝食を食べ着替える。食べている時に味噌汁も作れなかった頃を思い出すと成長を感じて心の涙が流れた。
「お兄ちゃん大丈夫?」
ひょこっと顔を出してくる。うん可愛い
「よし、用意も済んだし行くか」
「うん」
鍵を閉めたら学園に向かって歩き始めた。車や電車等の生活音が響く通学路を歩く。璃奈は同好会の朝練習で早く、俺は早く行く必要は無いが電車の時間があるから仕方ない。璃奈が変な奴に絡まれないか心配とか、下心のある奴が寄ってくるのが心配とかそういう訳では無い。ボディーガードと言うんだ。しばらく歩いていると
「あ、りな子~。それに先輩も~」
「璃奈さん、先輩、おはようございます」
朝から元気な声が聞こえてくると思ったら、璃奈の友達である中須かすみと桜坂しずくが挨拶をしてくる。同好会に入ってからはメンバーとして、友達として璃奈と仲良くしてくれて、友達が少なかった頃と比べると日々の生活も明るくなって……兄さん嬉しいよ
「あっれ~先輩。何を泣いてるんですか~?もしかして、かすみんに朝から会えて嬉し泣きですか?」
「うん……嬉しいよ」
「へ?な、なな何言ってるんですか!先輩」
「お兄ちゃん……?」
かすみは意図しない返答に戸惑い、璃奈は目を開き驚いたような表情を見せる。
「ははは……」
しずくは困った様な顔を見せつつも、戸惑うかすみと璃奈を眺めて楽しそうだった。
賑やかな朝の風景だと思いにふけっていたら
「あ、かすみさんに璃奈さん、そろそろ練習の時間が」
「なんですって」
「急がないと。お兄ちゃん、行ってくるね」
「頑張ってこいな」
「うん」
同好会の部屋に急ぐ妹達に手を振って見送る。俺も授業で出されてた課題を終わらせようと教室に向かった。
同好会の部屋では、とある話題で盛り上がっていた。と言っても話をしているのは、天王寺璃奈、中須かすみ、桜坂しずくの3人だけである。
「やっぱり先輩は良いですね。かすみんの良さを分かってくれてます」
腕を組みながらウンウンと頷きながら誇らしげに話す。
「璃奈さんのお兄さんだもんね。それに、私達に限らず人気あるよ。演劇部の方でも音響機材とかの調整を頼む事も多いから、そう言う所とで憧れる人は多いんじゃないかな?」
「しず子、そんな事言ったら璃奈子が」
しずくの発言を聞き、かすみが璃奈の方を見ると
「お兄ちゃんが………」
感情表現が得意でないと言っている璃奈の顔が誰が見ても分かるくらい沈んでいる。
「璃奈子はお兄ちゃんっ子何だから……でも、早く手を打たないと危ないのは確かだよね」
「うん」
沈んでいる璃奈の横で、かすみとしずくは良い案を考える。兄も璃奈と同じく電子機器等に強く、3年生と言う事もあり、教師陣から頼られる事も多く知ってる人は多い。同好会だって、ライブ時の照明や音響機器を手伝ってもらう事が何度もあり、下手したら同好会にもライバルがいる事になる。
「せつ菜さんだと、ロボットアニメの話題で盛り上がってましたし、彼方さんは物凄く懐いてますし、愛さんに至っては雷が落ちた時に……これは秘密だって言わ…あっ」
「しず子……それまでにしないとしず子が」
と言われ、しずくが璃奈を見ると泣いている顔のボードを手にしたまま動かなくなっている璃奈の姿があり
「璃奈さぁぁぁぁぁぁん」
しずくの叫び声が響き渡った。璃奈が意識を取り戻すまで少し時間が必要だった。
「とりあえず、これからどうしていくべきなのか話しましょう。璃奈子が先輩の事が好きな事は薄々気付いてましたし」
「そうだよね。璃奈さんってお兄さんの前だと表情豊かだから」
「でも……私は妹だから………」
俯きながら呟く。妹だから……家族だから許され無い恋。その心に偽りは無いが、世間が……常識が許してはなかった。そんな璃奈の肩を持ちかすみは問いかける
「りな子……恋に妹も何も関係ないんだよ。確かに許されない恋かもしれないけど、想いを告げる事くらいは許されるよ」
それでも璃奈自身の性格から決めかねていると、かすみは璃奈の肩から手を離し立ち上がる。
「なら、先輩をかすみんが貰っちゃっても問題ないですね」
「え………?」
突然のかすみからの告白に戸惑いを見せる。
「先輩はかすみんの事をよく見てくれてますし、可愛さを分かってくれる数少ない人ですし、ライバルが出てこない内に告白した方が良いじゃ無いですか。そして、先輩と恋仲になって……」
と、手を頬に当て妄想に浸る。璃奈はかすみからの告白に戸惑い、何も出来ていなかった。
「その様子ならかすみんが貰っても良いみたいですね。じゃぁ、かすみんは先輩に告白してくるので」
そう告げると部屋を出ていった。自分の好きな……憧れている兄が取られてしまうと思ったが動けなかった。
「璃奈さん……」
呼ばれた方にはしずくが少し考えたような顔をしながら話し出した。
「兄妹同士で好きだって言うのは他所から見たら変かもしれないよ?でも、璃奈さんがお兄さんの事を好きなら自分の想いを告白するべきなんだよ。兄妹だからって断られるかもしれないけど、自分だけ抱え込み続けるよりも少しでも告白してスッキリするべきだと思うんだ」
告白せず、ずっと1人で悩んでいるより告白した方が少しでも楽になると。
「素直になっても……良いのかな?」
「うん」
その頷きが……肯定が背中を押してくれた。璃奈は立ち上がり兄の元へ向かおうと部屋を出ると
「やっと出て来た」
廊下の壁に背中を預けていたのは先程出ていったはずの、かすみだった。
「なんで……?」
「ここまでしないと、りな子なら素直にならないなって思ったの。確かに先輩の事は好きだけど、りな子の事も友達として好きだから応援したいって思ったの」
「かすみちゃん」
「だけどね、私だって先輩の事を諦めた訳じゃ無いから少しでも隙を見せたら奪っちゃいますからね」
「………うん。私だって負けないから」
「じゃぁ、行った行った」
かすみから背中を押され催促される。かすみのライバル宣言を受け璃奈の心の中では気持ちが固まっていった。想いを告げること……そして誰にも負けない事を
兄は情報室で提出用の課題をまとめていた。情報室の中には1人しかおらず、キーボードを打つ音だけが響いていた。その音をかき消すかの様に扉を開く音が聞こえた。
「お兄ちゃん!」
扉を開けたのは璃奈であり、その顔は決意に満ちていた。
「ん?璃奈か、どうしたんだ?」
兄の声を聞くと璃奈は兄の元へと走り出し胸に抱きついた
「り、璃奈?」
顔を上げ兄の顔を見据えると話し出す
「あのね、お兄ちゃん。お兄ちゃんの事が大好きだよ」
顔は赤く染まり、そして今までで1番の笑顔だった。