ラブライブ!~虹ヶ咲学園合同企画集~【完結】   作:薮椿

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Miles Smiles

 みんなは劣等感というものを感じたことはあるだろうか。勉強、スポーツ、料理や歌、ダンスなど生きてきたなかで色んなこと、色んな場面で比べられてきたが、俺は多分人一倍そういったものが大きい。なぜかと聞かれれば一つ年が上の幼馴染が無自覚な“天才”だからであろう。成績優秀、容姿端麗と才色兼備な彼女こそが、幼馴染みにして姉的存在であり、大人気なもんじゃ焼き屋の看板娘。それが「宮下 愛(みやした あい)」という人間だ。

 

「愛さんさぁ、今度スクールアイドルになろうと思うんだよね」

 

 家が近く、帰宅時間も同じとなると必然的に駅から一緒になる。となるとおしゃべりな彼女はその日あったことを嬉々として語ってくるのだ。そして今日見せられたのは一つの映像、それも彼女の通う虹ヶ咲学園で撮影された一人の女性が映るものだった。僅か2分弱の短い動画だったが、彼女は全力で歌って踊って一般生徒(かんきゃく)を魅了していた。映像からは「せつな」と呼ばれて、周りの人の具合からもゲリラ的な事が伺える。そして場所が学校であるということからネットで話題のスクールアイドルというのが見てわかる。

 

「……なに言ってんの?バスケットボール頭に当たったりした?病院行く?」

「愛さんだって短い高校生活をパーっと舞いたいの。それに、ちゃんと目上の人は敬いなさい」

「愛(ねぇ)がそれを言う?」

「アタシはちゃんと敬ってま~す」

「まあ愛姉は綺麗だから人気はでると思うよ。でも部活の助っ人もやって家の手伝いもしてるだろ?勉強もしなきゃなのにそんなに色んなことしてる暇あるの?」

 

 そう聞くと一瞬難しい顔をしたが、すぐに笑顔に戻り「大丈夫!」と笑ってみせた。

 付き合いの短い人や彼女の事を深く理解できていないと“無理をしているんじゃないか”とか“虚勢を張っているだけ”なんていう人がいるが()() ()()という人物は無理や努力をしなくても「やればどうにかなる」を素でやる人なのだ。

 そして、愛姉がやりたいと言ってできなかったことは何も無い。テストも「今回はだめだった」と言いながら平均点なんか余裕で越していたり、「初めてなんだよね」と不安そうな顔をしながら助っ人にも関わらずMVPに輝いたこともあった。

 そんな彼女と知り合ったのは小学校の頃。気の弱かった俺はみんなの荷物持ち、遊ぶときですらいつも省かれていた。いつも通り荷物を持たされて下校していた俺を見つけ、上級生を黙らせた彼女は俺をどこに行くにも連れまわした。彼女はいつでもどこでも人に人に囲まれ賑やかにしていたのを覚えている。そしてそこに付いて回る俺は常に彼女(みやしたあい)と相対的な評価をされるようになっていた。だが彼女はそんな外野の事なんてなんのその。むしろ肉親であるかのように扱い、俺も親しみを込めて「愛(ねぇ)」と呼ぶようになった。

 そんな凄い人がにいると背伸びの1つや2つくらいしたくなものだ。寝る間も惜しんで勉強して、無理を押し通して練習し、彼女の隣にいても宮下 愛(みやした あい)という人物が笑われないような人間になろうと弱い自分を常に殺していた。その甲斐があってかスポーツでのスカウトといった形で都内有数の進学校に行くことができた。

 だから一緒だった進学先も高校からは別々になったのだが、ここでほんの少しだけ彼女が遠くなってしまったように感じたのだ。まあ親族ではないのだから年齢的な事も含めれば当たり前な事かと自分の心に言い聞かせ、納得していた。それなのに今度は「スクールアイドルになる」と言ってきた。そこには俺の知らない愛ねぇがいる気がしてならない。俺の知らない別の何かにしか思えないのだ。

 流石にここまでくると俺が反対していることに気が付いており、先程とは違う少し儚げな笑みを浮かべると俺の双肩をがっちり掴む。好奇心と、確かな情熱と、夢への希望に満ち溢れた眼差しをしている。長い付き合いの中でそれは初めて見た感情だ。

 

「この娘ね、せつ菜ちゃんっていうの。ウチのスクールアイドル同好会のメンバーらしいんだけどね、凄かったんだよ!歌もね、ダンスも愛さんとは比べ物にならないくらい!」

「愛ねぇだって十分凄いよ」

「ありがと!それに、君も同じくらい、ううんそれ以上に凄いよね!でもね、せつ菜ちゃんを見てそれだけじゃなかったの。アタシもね、こーなりたいというか、みんなをね太陽みたいに明るく笑顔にさせたいって思ったの!」

「……、」

 

 

“みんなを笑顔にしたい”

 

 

 これだ。これが彼女を俺の知らないものにした。俺の愛姉はそんなことを言葉にしなかったし、言わなくても笑顔にしていた。現に俺がその一人だ。愛姉がいなければ俺はイジメられていたし、ここまで頑張れていなかった。

 

 

 

 

 俺は愛姉に笑顔にしてもらった

 

 俺は愛姉がいたから笑顔になれた

 

 俺は愛姉がいなければ笑顔になれない

 

 だから俺は……

 

 俺は愛姉が──

 

 

 

「俺は愛姉がやりたいなら反対はしないよ」

 

 嘘だ。あの笑顔を、愛姉を誰かに取られたくない。ずっと俺を笑顔にして欲しい。もう誰かの為に笑顔を振りまいて欲しくないし、俺以外の人を笑顔にして欲しくは無い。もうこれ以上俺の知らない“宮下 愛”を、俺との距離を離したくない。我が儘(わがまま)なのは分かっている。考え方が3歳児のガキなのも分かっている。それでも俺は彼女をスクールアイドルにさせたくない。

 だけど、俺を笑顔にしてくれたように誰かを笑顔にしない宮下 愛(かのじょ)は宮下 愛ではない。みんなの手を引っ張って、背中を押して、手を差し出してこそホンモノの宮下 愛なのだ。

 だからこそ、俺は俺を押し殺しす。そんな彼女の為に先を歩き、背を預け、手を繋ぐ。宮下 愛が誰かを笑顔にするのであれば俺が彼女を笑顔にする。そうありたいし、そうであって欲しい。だから嘘でも彼女のやりたいことを俺は否定しない。

 

「うん、知ってた。だからね、やろうと思うんだって報告」

「俺が反対しても愛姉はやるでしょ?」

「もち!」

 

 「でもね」と肩を離して再び歩き出した彼女は振り返る。背中の太陽が眩しくて表情は確認できない。でも、笑っていることは分かる。

 

「愛さんにとって太陽は君だよ」

 

 オレンジに染まる空のなか、宮下 愛という(スクールアイドル)は色褪せることなく輝いていた。

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