堀越の助手 ~俺は天才技師のもとで暴れまわる~ 作:エタノールの神様
台本形式を廃止。
1940年九月。僕ら十二試艦上戦闘機設計班は十二試艦上戦闘機が急降下すると起きる金星エンジンの過回転問題を改善すべく、2号機を用いて試験を繰り返していた。
僕は自動ピッチ戻し装置(姿勢計器と連動して急降下の際自動でプロペラピッチを下げる装置)を搭載することによってパイロットに負担をかけずに急降下できるようにした…はずだった。
ビーッビーッ
おっ無線が来た!どうかな?満足してもらえてるかな?
『はい、堀越の助手です』
『十二試艦上戦闘機二号機よりテストパイロットの奥山です。』
『自動ピッチ戻し装置の調子はどうだ?』
『それがですねえ。全然改善されてないです。むしろ悪化してます。』
『え?』
うっそだあ!風洞実験でもプロペラピッチを下げればエンジンの過回転は押さえられてたはずなのに!
『何て言うか…過回転自体はなんとかなってるんですけど…降下した意味がないって言うか…加速が悪くなってるんですよ。』
『ほうほう』
『はっきりいって降下するときだけ発動機に出力制限掛けた方が早い気がします。』
『ピッチはどうしたら良さそうですか?下げ角を緩めた方がいいですか?』
『そうですね。緩めた方が良さそうです。』
そっか。空戦で降下する時ってスピードがほしいときだよね。スピード潰したらダメじゃん。
十二試艦上戦闘機の降下制限速度は900km/hちょい。水平最高速度付近の560km/h辺りでスピードを落としてたら敵機に追い付けないじゃん。
『調整するので一旦着陸してください。』
『了解しました。』
奥山大尉が乗る十二試艦上戦闘機二号機が着陸コースに入ってきた。
ブロロロロロロロロ
ギュイイイイ
おおおおお結構なハードランディングだな。絶対怒ってる。そうだね飛行機乗りにとってスピードっていうのは生死を分ける大事なものだもんね。そりゃあ怒るよね。
「奥山大尉、お疲れ様。はい、麦茶」
「ありがとうございます。」
「早速だけど計器のビデオテープ持ってきて貰える?」
「ここにありますけど」
「ありがとう!とりあえずいれて見てみよう。」
そう言って僕らはテントにある三菱謹製カラービデオプレイヤー(箱形)にビデオテープをセットし、再生する。
「奥山大尉、三回目の降下でなんかこっち突っ込んできてると思ったら照準器に僕を収めてたんだね。あとで写真銃を確認して君の上官に報告しておくよ。」
「構いませんが?」
「…肝が座ってるなあ」
「乙飛卒ならみんなこのくらい肝が座ってますよ。」
「乙飛ってそんなに環境悪いの?」
「私が視察に行ったときは半グレが大半でしたね。なんとかまっすぐに育ってる子も固くなっちゃってて…」
「乙飛の扱いを改善してやれよ海軍上層部…」
「でも操縦技術は甲飛よりいいんだからビックリですよね。中国戦線でもエリートのはずの甲飛卒ばっかり落ちて逝くそうで…」
「甲飛乙飛とは」
「ついでに言うと甲飛の待遇もかなり悪いのでその改善も頼みたいです。」
「海軍上層部ェ」
そんな雑談をしながら僕らはビデオを見る。
「エンジンの方で対応はできないんですか?」
「それ今僕も同じこと考えた。金星60型系列で試してみる。でも現状は自動ピッチ戻し装置に頼るしかないね。ピッチ設定の調整いれてみよう。」
「その金星60型系列を十二試艦上戦闘機の制式採用に間に合わせてくださいよ?」
「はは、それは無理だ」
「なんでですか?」
「この十二試艦上戦闘機は制式採用を待たずに実践配備される見込みが大きいからだ。」
「まだ試作四、五号が製造中なのにですか?」
「九六式艦上戦闘機の陳腐化が著しいんだろう。一応水平飛行で500km/hでないことはないが航続距離が短いからな。」
「はあ。整備士さん!飛行試験六回目行きます」
「おうよ!」
自動ピッチ戻し装置の調整を終え、十二試艦上戦闘機二号機が離陸する。
ブロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ
そしてピッチ設定調整の結果を調べるべく十二試艦上戦闘機二号機を操る奥山大尉は機体を急降下させた。
そのとき事件は起こった。
そしてそれはほぼ一瞬の出来事だった。
バーーーン
「何が起きた!」
大きな音と共に、色々と金属片が落ちていく。
十二試艦上戦闘機二号機が空中分解したのだ。
そんなはずはない…堀越主任の指導のもとほぼ僕が設計した十二試艦上戦闘機にそんなことが起きるはずがない…機体強度には細心の注意を払ったんだ…、
私はそんなことを思い、ふと我に返り、あわててその場にいた目のいい飛行機乗りに大声で聞く。
「大尉!大尉は!」
「大尉は脱出しましたよ!ほら、パラシュートが開きました!」
奥山大尉は緊急脱出に成功した。しかし、
「ぶら下がってる?」
「パラシュートの帯が金具のところでちぎれてる!」
なんと大尉のパラシュートの帯は固定具とパラシュートを繋ぐ肩の上のところの大きな円い金具のところで大尉側の帯がちぎれ、大尉はその金具に掴まって降下していた。
大尉の顔を見るととても苦しそうで、たびたび上を見上げて手の様子を確認していた。
「頑張れ!頑張れ大尉!」
「諦めちゃダメだ!地上はもうすぐだぞ!」
「頑張れ大尉!」
「頑張れ!」
一方地上の人間はと言うと大尉がそのままパラシュートに掴まって地上まで降りてこられるように必死になって大尉を応援している。しかし大尉の体は少しずつ海へと流されていく。
「浮き輪だ!浮き輪をもってこい!」
「絶対に大尉を助けるんだ!」
「カッター出せ!」
大尉を尊敬する部下たちは大尉を助けようと浮き輪をもって海に向かう。
ああ良かった、これで大尉は助かる。そう思った瞬間だった。
「大尉ー!!!!!!!」
その大声が聞こえた時、私の目には大尉がパラシュートから手を離し落ちていくのが見えた。
ほぼ自分が設計した戦闘機が、戦闘でもないのに、たかが急降下をしただけで人を殺してしまったという事実は、僕を失意のどん底に叩き落とした。
次回、制限か、やり直しか。
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