【ガンカタ】さくら・ぶれっと 〜剣と魔法のファンタジー世界でどちらも使えない町娘の私はガンカタ(拳銃)で戦う。自分の生い立ちを知りたいだけで、英雄だなんて呼ばれたくないってば〜【15000PV突破】 作:くろひつじ
フリドールの街門で見慣れた門兵さんに挨拶した後、まっすぐオウカ食堂のフリドール支店に向かった。
相変わらず壁一面の笑顔の私にお出迎えされたけど、今はそんな事どうでも良い。
お店の売り場に、探し求めた白猫がちょこんと座っていた。
「おや、マスターか。久しぶりだニャッ!?」
「あはは! ネーヴェ! 久しぶり!」
抱き抱えて、雪の中にも関わらずくるくる回る。
頭を撫でたり喉元をくすぐったりして
「マスター、今日は一段と楽しそうだな?」
「あのね! 海の中を通ってきたんだよ!」
「ああ、列車に乗ったのか。どうだった?」
「最っ高だった! 今度ネーヴェも一緒に乗ろう!」
「それは構わないのだが……少し落ち着けマスター。死人が出るぞ?」
「……は?」
ほれ、と前足が向けられた先には。
血だらけで仰向けに倒れているシルビアさんの姿があった。
雪の上に『
……うん。落ち着いたわ。
「ネーヴェ、元気にしてた?」
「ああ。マスターも元気そうで何よりだ」
改めてハイタッチ。ついでに肉球をぷにると、少し嬉しそうに喉をゴロゴロ鳴らされた。
「お店の方はどう?」
「繁盛している。連日売り切れが続いているのが問題だな。やはり現地で食材を調達できるメニューを考えるべきだな」
「なるほろ? て言うか、どうせもう考えてあるんでしょ?」
「そうだな。オークと鶏の代わりに雪熊と一角ウサギを使おうと思う。そうなれば列車で運ぶのは調味料だけで済む」
なるほど。鶏と一角ウサギは味も似てるからね。
雪熊はフリドールの定番食材だから、オークより手に入りやすいし。
「さっすが。頼りになるわ」
「シルビアも優秀ではあるからな。問題点と解決策を同時に提案してくれるので話が早くて助かる」
「……あー。そういや優秀ではあるんだっけ」
「ああ、優秀ではあるんだがな」
雪の上にぶっ倒れている変人を見て、揃ってため息をついた。
「それよりさー。お店ってまだ安定しないの?」
「マスターは気が早いな。流石にまだ無理があるだろう。せめて一ヶ月は様子見だな」
む。そんなにかかるのか。
あーでも確かに、王都でもそのくらいの間はどたばたしてたなー。
「……そっか。まーしゃあないか」
「だが、今日はもうピークも過ぎた。少しくらい外しても問題は無いだろう」
「お、まじか! じゃあちょっとデートしようか!」
「ああ、久々に共に出かけようか」
「んじゃ、ネーヴェ連れてくねー!」
中の人に声をかけ、ネーヴェを内ポケットに入れた。
嬉しそうに顔を出してる姿を見て、ついつい撫でてしまう。
あーもー。可愛いなー。
「そだ、近くに良い感じの花畑があるの知ってる?」
「話には聞いているが行ったことは無いな」
「んじゃ行ってみよっか!」
「ああ。悪くないな」
ネーヴェとイチャイチャしながら、街の外へ向かった。
歩くこと二十分ほど。
目的地に到着した。
相変わらず一面の花畑だ。
咲いている花も色とりどりで、はらりはらりと降り
ネーヴェもほう、と感嘆の声を上げて、するりと肩まで昇って来た。
「これは美しいな。素晴らしい景色だ」
「でしょ? ここ、ネーヴェと来たかったんだー」
「そうか。想い出を共に出来るのは幸福な事だな」
「にひ。私もそう思う」
ここだけじゃない。私の好きなもの、好きな場所、好きな人達。
全部、一緒に想い出にしたい。
思い返すだけで幸せになれるような、そんな日々をネーヴェと過ごしたい。
ここに来たのだってそうだ。
ネーヴェと入れば、どんな所でも幸せな記憶として残る。
嫌な事も全部、上書きしてしまえば良い。
「……ここさ。セッカと二回目に会った場所なんだよね」
「ほう。例の白い少女か」
「うん。だからちょっと、私的に微妙な場所だったんだけど、ネーヴェと来れたから良かった」
「……そうか。マスター、私は幸せだぞ?」
「えへへー。私も幸せ」
顎下をくすぐり、うにゃんと返される。
あーもー。可愛いなー。うりうり。
しばらく草原に咲く花を見て回って、日が落ちてきたのでフリドールに戻ることにした。
店舗には向かわずに、ちょっと寄り道。
前回来たタルトの美味しいお店に来てみた。
ドアを開けると、暖かな空気が流れてくる。
ほっと一息ついて、店員さんに声をかけた。
「すみません、猫も一緒で大丈夫ですか? 使い魔なんですけど」
「使い魔でしたら大丈夫ですよ。お好きな席にどうぞ」
「ありがとうございます」
前回座った席に着いて、同じベリータルトと紅茶を頼む。
ネーヴェは机の上にちょこんと座り、顔をぐしぐしと洗い出した。
「ネーヴェってさ。ご飯食べることは出来るの?」
「人間と同じものは食べることが出来るな。体内で魔力に変換されるがな」
「へー。んじゃ、タルト半分こしよっか」
「いや、流石に半分は私には多いだろう。一口分けてくれればそれで良い」
「あ、たしかに。じゃあ、一口あげるね」
ここのタルトは美味しいし、ネーヴェと一緒だともっと美味しいと思う。
「マスターはその、何だ。いつもこんな感じなのか?」
「うん? どゆこと?」
「いや、私は楽しそうなマスターしか知らないのでな。距離感も近いし、好意的な感情も読み取れる」
「んー……どだろ。ネーヴェは大好きだけど、他のみんなも好きだよ?」
私の知り合いは良い人ばっかりだ。
たまに暴走するけど、それでも大好きな人達。
それは私の宝物。決して忘れることの無い、大事なもの。
「分かんないけど、私はネーヴェが好きだよ」
「……そうか。私も好きだよ、マスター」
「ふへ。知ってる」
「ああ、私も知っているよ」
穏やかに言いながら、頭を
うわー。モフりたい。感情のままにモフりたい。
これはあれかな。誘ってるのかな。
いや、人前だからさすがに我慢するけど。
「お待たせしました。ベリータルトに紅茶です」
「わ。ありがとうございます」
「小皿もお付けしましたので、良ければお使いください」
「どもですー!」
受け取った小皿にネーヴェの分を切り分け、手を合わせる。
「ん? マスター、なんだそれは」
「ああ、食事前の決まりっていうかね。いつもやってるの。命を頂くから、いただきますって」
「なるほど。良い習慣だな。では私も……む?」
前足を合わせようとして上手くいかず、両手で手招きをしている。
なんだこの可愛い生き物。
「ふふ。じゃあ、言葉だけ」
「……そうだな。では」
「「いただきます」」
この日食べたベリータルトは、先日の何倍も美味しく感じた。