【ガンカタ】さくら・ぶれっと 〜剣と魔法のファンタジー世界でどちらも使えない町娘の私はガンカタ(拳銃)で戦う。自分の生い立ちを知りたいだけで、英雄だなんて呼ばれたくないってば〜【15000PV突破】 作:くろひつじ
翌朝。まだ眠たい目を擦りながら階段を降りる。
朝御飯は大きなウインナーをパンで挟んだものだった。
サンドイッチの仲間なのかな、これ。
トマトケチャップと粒マスタードがのっている。
このウインナー、どうやらおかみさんのお手製らしく、色んなハーブが入っている。
肉の臭みは無いのに旨味が強くて、噛むとパリッと割れて肉汁がじゅわっと溢れる一品だった。
ケチャップの甘酸っぱさとマスタードの辛味が程よく、癖になる味だ。
むう……王都にきて美味しいものばかり食べてるなあ。
頑張って再現しないと。
ギルドに顔を出すと、待ち構えていたグラッドさんに後ろ襟を掴まれた。
……またか。
「おはよー。何? ぶち抜くわよ?」
「何じゃねえ。お前、昨日何があった」
顔近づけないで。怖いから。
「十英雄から呼び出しくらった」
「……それで?」
「特に何もなかったわよ。釘刺されただけ」
「そうか……ところで、黒髪の少女が空を飛んでったって報告が上がってんだが」
あ。しまった。忘れてたわ。
「はい、それ私です」
「……お前なあ。自重しろ、マジで」
「いやぁ、色々と試してたら、何か飛べちゃった」
「そんなんだから呼び出しくらうんだろうが」
いやでも、悪いことはしてないから大丈夫。
大丈夫なはず。大丈夫だったらいいなあ。……大丈夫だよね?
あとで騎士団が捕縛に来たりしないよね?
「んー……おかしいなー。普通にやってるだけなんだけど」
「おかしいのはお前の普通の基準だ」
「私自身は至って普通の町娘です」
「その自称は捨てるべきだと思うけどな」
「えぇ」
ぶらーんぶらーん揺れながら腕を組む。
掴まれるのに馴れてきたのが少し悲しい。
でも、なんと言われようと私自身は極普通の町娘なんだけどなー。
持ってる武器がおかしいだけでさ。
掴まれた猫みたいに伸びていると、不意にギルドのスイングドアが勢いよく開かれた。
何事かと思って慌てて目を向けると、筋骨隆々なドワーフさんの姿。
あれ。エリーちゃんのお父さんじゃん。
すごい息切らしてるけど、何かあったのかな。
「グラッド!!」
「ガレットか。どうした?」
「エリーがゴロツキ共に連れてかれたらしいんだ!!」
え、うそ。エリーちゃんが?
「なに!? ……まずいな。朝一で魔物狩りを行う予定だったはずだ。騎士団もギルドも人がいない」
「騎士団の方でも同じ事を言われたが……奴らの溜まり場とか知らねえか!?」
「数が多過ぎてさすがに分からん。こっちからも人を出して探すしかないが……」
……えーと、うん。ついさっきさ。自重しろとか言われたけど。
これは、仕方ないよね。
て言うか、止めたらぶん殴る。
「グラッドさん。私、ちょっと用事が出来たから行くわ」
「こんな時に何を……いや、そうか。俺は俺でやることがある。何かあったら言えよ」
「ん。じゃあね」
手を離してもらい、そのままギルドを飛び出して駆ける。
「リング、検索」
「――検索中……発見」
「王都は人が多いし、空から行くよ」
「――承知:Sakura-Drive Ready」
「Ignition!!」
跳ねる。壁を蹴り、さらに高く。
屋根の高さまで跳び、ブースターを展開。
そのまま王都の空を飛ぶ。
「リング、検索結果を直接見ることはできる?」
「――可能:マップ作成、展開します」
視界の端に映し出される王都の概略図。
中心が私として、この緑の点がエリーちゃんか。
この場所……こないだの路地裏か?
て事は、またあいつらか。
魔力を廻す。出力を上げて上昇し、建物の隙間を縫って加速。
流れていく視界の中、見つけた。
やはり先日の路地裏で、猫系亜人の少女が数人の男に囲まれている。
下に向かって、加速。建物の壁に足を着け、駆ける。
地面が迫る。壁を蹴り、跳躍。そのままエリーちゃんを掻っ攫い、すぐに再加速。男達から距離を離した。
ガリガリと、ブーツが石畳を削って火花を散らす。
桜色の魔力光が尾を引いて、軌跡を描く。
「エリーちゃん!! 大丈夫!?」
「え、オウカさん!? はい、なんともないですけど……」
良かった。見たところ怪我もないようだ。
何とか間に合った。けど。
全身の魔力が迸る。
「てめえらぁ……生きて帰れると思うなよ……!!」
盛大に巻き上がる薄紅色。
腹の底が燃える。頭が冴える。
こんな幼い女の子を狙いやがって。
二度と同じことが出来ないように分からせてやる。
足を開き、腰を沈める。左手は前へ。右手は逆手に頭の横に。
いくら人が相手だと言えど、容赦はしない。
持てる全力で、殲滅する。
「え、あの、オウカさん?」
「エリーちゃん、ちょっと下がってな」
「ちょ、待って待って、何か話がおかしいです!!」
「……うん?」
なんか。空気がおかしいような。
「お、おい、何だ、どうしたってんだよ?」
「……まさかエリーちゃん、親父さんに何も言わずに出てきたとか?」
「あ……そういえばお父さんに何も言ってなかったかも」
「……。説明してもらえる?」
サクラドライブを解除した後に話を聞くと、エリーちゃんはお父さんへのプレゼントを用意していたらしい。
彼らはその手伝いをしていただけとか。
で、エリーちゃんがうっかり何も言わずに家を出て、彼らと合流したところを他の人に見られたのだろう、という話だった。
「……お騒がせしてごめんなさい」
「……いや、こっちもごめん」
あっぶな。殴る前に止めてくれて良かった。
「おい、この人が……」
「ああ、リュートの言ってた……」
「マジかよ、あんなナリでか」
なんかひそひそ話はされてるけど。そんなことより。
「勘違いしてごめんなさいでしたっ!」
とりあえず全員に全力で謝罪。
思いっきり頭を下げた。
「いや、いいんだけどよ……」
「てかもしかして私、前回も何か勘違いしてた?」
「ああ、エリーちゃんがうっかりガラス瓶割った時の話か?」
「……まじか。本当にごめんなさい」
そういう事らしい。
この人たち、見た目は悪そうだけど、実はめっちゃ良い人達なのかも……。
ほんと、止めてくれて良かったわ。
その後、エリーちゃんをギルドに連れていった。
そこで感動の再開ストーリーがあったりなかったりするけど、あまりにアホらしいので割愛。
エリーちゃんが今回の件を詳しく話したおかげで彼らに対する周囲の認識が良い方向に変わり、そして周りの私に対する扱いが危険物扱いに変わった。
……不満ではあるが、今回は私が悪い。
甘んじて受け入れよう。