【ガンカタ】さくら・ぶれっと 〜剣と魔法のファンタジー世界でどちらも使えない町娘の私はガンカタ(拳銃)で戦う。自分の生い立ちを知りたいだけで、英雄だなんて呼ばれたくないってば〜【15000PV突破】 作:くろひつじ
「オウカちゃんっ!! 五月の二十三日は暇かなっ!?」
「は? 今のところ予定はないですけど……どしたんです?」
オウカ食堂で売り子をしていると、店に来たレンジュさんがいきなりそんなことを聞いてきた。
相変わらずヒマワリみたいに元気な笑顔だなー。良き良き。
「ぃよしっ!! そんじゃアタシとデートしよっ!!」
「デート? どこ行くんですか?」
「特に決めてないっ!!」
「……えぇ。何か怖いんですけど」
ただの勘だけど、何か企んでる気がするんだよなー。
普段なら予定聞いてきたりしないし。
でもなんだろ。二十三日って何かあったっけ。
五日はタンゴノセックってのをやったけど。
「大丈夫っ!! 怖くないからっ!!」
「分かりました。何かあったらアレイさんに言います」
「安定の信用の無さだねっ!?」
「そりゃないですよ。普段の行動を改めてください」
隙あらばセクハラしてくるからなーこの人。
最近はちょっと減ってきたけど。
でも代わりになんかこう、二人きりだと雰囲気変わるって言うか……
何か、迷ってるような、そんな感じなんだよな。
んー。丁度いいし、その時聞いてみるかなー。
「んじゃ二十三日に。王城行ったら良いですか?」
「いやいやっ!! 私が迎えに行くから家にいて欲しいなっ!!」
「お。りょーかいです。んで、買ってくんですか?」
「オウカちゃん特製弁当をひとつっ!!」
「はーい、まいどー」
お代を受け取り、代わりに特製弁当を手渡す。
「ありがとっ!! じゃあまたねっ!!」
レンジュさんはそのまま、ニコニコ笑顔で帰って行った。
……んー。やっぱなんか変だなー。
普段ならもうちょい雑談して行くはずなんだけど。
んにゅ。まぁ気にしても仕方ないか。とりあえず売り子に専念するかー。
そんで、五月二十三日。
身支度を済ませてお弁当を作った後、部屋で本を読んでいるとコンコンとドアがノックされた。
しおりをはさんで本を閉じ、玄関へと向かう。
「レンジュさん、思ってたより遅かったです……ね?」
「ごめんねっ!! ちょっと手間取っちゃってっ!!」
ドアを開けるとそこには、見慣れない姿のレンジュさんが居た。
普段の騎士団の服じゃなくて、袖や裾がふわふわしてる可愛いワンピース。
それに白い麦わら帽子。どこかのお嬢様みたいだ。
うわぁ。何か凄いレアっていうか……気合い入ってる?
普段は二人で出掛ける時でも騎士団服なのに。
「どしたんですかそれ。珍しいですね」
「たまにはオシャレしてみようかなってねっ!!」
「んー。まぁ可愛いからなんでも良いんですけど……私もオシャレした方が良いです?」
「オウカちゃんはそのままでも美少女だから問題ないよっ!!」
断言されてしまった。
美少女では無いと思うけど、このままで良いっていうなら別にいっか。
「んで、どこ行くんです?」
「にひっ!! ちょっと良い場所見つけたからさっ!! オウカちゃんにも見せたいなってっ!!」
「お。それは楽しみですねー。よろしくお願いします」
「じゃあ早速行こうかっ!!」
私の手を取ると、レンジュさんはハイテンションで歩き出そうとして。
そのまま階段を踏み外した。
「うおわっ!?」
「うぎゃあ!?」
釣られて落ちかけて、手すりを握って踏ん張る。
ギリギリで踏みとどまると、レンジュさんは頭を打ったらしく、頭を抱えてのたうち回っていた。
「いたあああっ!?」
「あーもう、何してんですか……大丈夫です?」
手を差し出すと掴んできたので、勢いを付けて引っ張り上げた。
レンジュさんがふわりと起き上がり、段差があるせいでそのまま私の胸元にすぽっと納まる。
とっさに抱きかかえると、レンジュさんはそっと抱き締めて来た。
……ん? なんだこの状況。なんでハグしてんだ私たち。
とりあえず離れようとして、痛みのせいか潤んだ黒瞳で見上げて来るレンジュさんに。
つい、見とれてしまった。
普段見ることの少ないしおらしい表情。泣き出しそうな顔で、じっと上目遣いに私を見つめて来る。
「……レンジュ、さん?」
「…………」
思わず漏れた言葉に対して、無言。
ただじっとこちらを見上げて来ているレンジュさんに、何とも言えない感情が溢れてきた。
とくん、と感じる鼓動は、どちらのものなんだろうか。
なんだコレ。なんか、変だ。けど。
ドキドキして、モヤモヤするけど。
嫌な気分じゃない、かもしれない。
「あの、レンジュさ――」
不意に肩に手を置かれ、レンジュさんがすっと背伸びする。
唇の横に、温かな何かが触れた。
「…………え?」
いま、私、キスされた?
自分でも、顔が赤くなってるのが分かる。
心臓がうるさいほど速い。
え、いや、ほっぺにちゅーくらい何度もされてるのに……
なんだコレ。なんだコレ!?
「……あの、えっとレンジュ、さん?」
「にっ……」
私の声に、レンジュさんは。
「にゃああああっ!!!!」
絶叫を残して逃げだした。
……は? え、何だ、今の。
えーと。レンジュさんが転びかけて、何とか阻止して、抱きかかえて、それから。
抱き合って。お互いに見つめ合って、なんとも言えない雰囲気になって。
そして、唇の端に、優しくキスをされた。
「……なんなんだ、これ」
胸がドキドキする。いつもの事なのに、なんで?
両手で胸を抑えながら、とりあえず部屋に戻ってベットにぽすりと座り込んだ。
ちょっと、落ち着くまで、ここにいよう。
◆視点変更:コダマレンジュ
(ヤバいヤバいヤバいっ!! やーらーかーしーたーっ!!!!)
加護を使い、全速力で王城の自室に駆け込んだ。
心臓が早鐘を打っている。
この感じだと顔どころか首まで真っ赤になっているだろう。
雰囲気に流されて感情が制御出来なくなった。
何とか我に帰ることが出来たけど、そのままオウカちゃんの前に居るのは、いくら何でも無理だった。
恥ずかしさのあまり、ベッドの枕に顔を押し付ける。
どうするべきか。何かフォローを入れないと行けない。
でも今は唇に残った感触とオウカちゃんの声で頭の中がいっぱいだ。
他には何も、考えられない。
(うぅぅ……ダメだこれ。こんなにマジだったのか、アタシ……)
多少の自覚はあったけど、ここまで好きだなんて思ってなかった。
まだ大丈夫だと。何に対してか分からないけど、そんな言い訳を続けて来ていたのに。
これはもう駄目だ。決定的だ。誤魔化しようが無い。
悔しいが、認めざるを得ないだろう。
ぼふっ、と頭から湯気がでた気がした。
ポンコツになった頭と心を抱えて、アタシはベッドの上で悶え苦しんでいた。
∞∞∞∞∞∞∞∞
五月二十三日。地球では、キスの日として知られている日。
デートのお礼として、じゃれ合いの一環でキスでもしてみよう。
レンジュは確かに、その程度にしか考えていなかったのだが。
こうして、二人の歯車は噛み合ってしまった。
この物語の結末は、まだ誰も知らない。