【ガンカタ】さくら・ぶれっと 〜剣と魔法のファンタジー世界でどちらも使えない町娘の私はガンカタ(拳銃)で戦う。自分の生い立ちを知りたいだけで、英雄だなんて呼ばれたくないってば〜【15000PV突破】   作:くろひつじ

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特別番外編「じゅーん・ぶらいど」後編

 

 王都に到着した馬車は門前でチェックを受けなけならないと言うことだったので、アデルさん達とはそこで別れる事になった。

 特に何事も無くお喋りしてただけだったけど、結構楽しい時間だったな。

 

「いや、本当に助かったよ。ありがとう」

「ありがとうございました! 格好良かったです!」

「またどこがでお会いしましょう、英雄様」

「おう、またな、嬢ちゃん」

 

 口々に別れの言葉を伝えられたので、大きく手を振って返しておいた。

 しばらく王都に居るならまた会えるかもしんない。

 ちょっと楽しみが増えたなー。

 

 さてと。ちょうど忙しい時間帯も終わったことだし、オウカ食堂を覗きに行こうかな。

 ご飯も食べてないからお腹空いたし。

 それに、出来るだけたくさんの人にドレスを見せないといけないからね。

 ……知り合いに見られるのは嫌だけど。

 

 

 

「つー訳なのよ。フローラちゃん変わってくんない?」

「お断りします。そのドレスはオウカさんに似合ってますよ?」

「いや、それはない」

 

 ちょうど休憩に入っていたフローラちゃんを捕まえて一緒にご飯を食べながら。

 何気ない様子を装って話を振ったらキッパリと拒否された。

 くそう、だめかー。

 

「可愛いのに……普段から着てみたらどうです?」

「これめっちゃ動きにくいんだって。料理も出来ないし」

「あー。まあ確かにそうですね」

 

 のほほんとご飯を食べながらフローラちゃんが頷く。

 マジでね、結構めんどくさいのよ、この服。

 ひらひらは可愛いけど、私には向いてないと思う。

 

「そう言えば、レンジュさんがお店に来ましたよ」

「え。レンジュさん、来たの?」

「オウカさんが居ないと知るとすぐに帰りましたけどね」

「……そっかー」

 

 既に来てたのか。何かこう、複雑な心境だな。

 見て欲しいような、見られたくないような。うーにゅ。

 でもせっかくのドレスだし、見てほしい気はする、ような。

 

「ぬあー。何でこんなに悩んでんだ私」

「え。まさか自覚が無いんですか?」

「は? なんの事?」

「……いえ。面白いから教えません」

「なんだそれ。意地悪さんめ」

 

 指でむにむにとほっぺたをつつくと、ちょっと嫌そうな顔をされた。

 

「食事中にやめてください。それより、今日は暇なんですか?」

「んー。一応街をぶらぶらする予定。嫌だけど」

「ああ、宣伝ですもんね。ついでにうちの宣伝もします?」

「する必要ないと思う」

 

 むしろ王都でオウカ食堂知らない人っていないんじゃないだろうか。

 まさかこんな事になるなんて、最初は全く思って無かったなー。

 

「よし、ご馳走でしたっと。じゃあ適当に街を回ってくる」

「はい、お気をつけて。あまり暴れないでくださいね」

「何よいきなり。そんな事しないってば」

 

 いや、もう暴れた後ではあるけど。

 でも王都でそんな事にはならないも思う。

 思いたい。大丈夫だよね?

 

「んじゃまたね。お仕事頑張りすぎないでね」

「……善処します」

「おい。定時には上がれよ?」

「……はい」

 

 軽く脅しをかけて店裏の休憩所から出た時。

 

「あれ。レンジュさん?」

「おおっ!? こんな所に居たんだねっ!!」

 

 ばったりと、さっき話題に上がってたレンジュさんに遭遇した。

 いや多分これ、私を探してたんだろうけど。

 

「やっと見つけたっ!! 今日も可愛いねっ!!」

「えーと。ありがとうございます」

「そんで、その。ええっと……」

「…………」

 

 二人して押し黙る。

 何となく俯き気味で、何だかそわそわする。

 レンジュさんも落ち着かないようで、目をキョロキョロ泳がしてるし。

 いや、なんだこの空気。

 

「……あー。この服、どうですか?」

「めちゃくちゃかわいいねっ!! お姫様みたいっ!!」

 

 おお。一瞬でいつものテンションに戻るのはさすがだなー。

 やっぱりこっちの方が気楽だわ。

 

「いやいや。縁起でも無いことを言わないでくださいよ」

「何ならこのままお持ち帰りしたい……くら、い……」

 

 言いながら失速して、また目を逸らされた。

 やめて。自爆しないで。巻き込まないで。

 うわあ、変な想像しちゃったじゃん。

 顔がめっちゃ熱いんだけど。

 

「……お持ち帰り、したいんですか?」

 

 ちょっと上目遣いになって聞き返す。

 てか何聞いてんだ私。

 ここはツッコミ入れるところだろ。

 

「……ごめん、まだ無理。心の整理が追いつかない」

「え、あ、はい。その……私もです」

 

 こないだの一件以来、いつもこんな感じだ。

 もやもやして、そわそわして、落ち着かないのに。

 でも何か、嫌じゃないって言うか。

 

 レンジュさんと、もっと一緒に居たい。

 そんな強い想いが込み上がってくる。

 

「えっと……ごめんだけど、待っててくれるかな?」

「う……はい、待ちます」

 

 何をとは言わないけど。

 たぶん、考えてる事は同じだろうし、うん。

 

 元々、レンジュさんの事は嫌いじゃなかった。

 ダメな部分はあるけど尊敬できる人だし、一緒に居て楽しいし。

 何より、私を好きだって言ってくれるのが嬉しくて。

 

 でも、何か。その頃と今だと、好きって気持ちが違うって言うか。

 他のみんなも好きだけど、レンジュさんはちょっと違うんだよね。

 上手くは言えないんだけども。

 

「えっと。会えて、嬉しかったです。探してくれたんですよね?」

「……にゃははっ!! 王都中を走り回ったよっ!!」

「うわあ。お疲れ様でした」

「会いたかったから頑張ったんだよっ!!」

 

 腰に手を当てて胸を張るレンジュさんは、普段通りを装ってくれている。

 それに甘えて、私もいつも通りの対応を返した。

 今はそれでいいんだと、そう思う。

 この先で多分なにか変わるんだろうけど。

 でも今は、このくらいで良い。

 

「それじゃまたねっ!!」

「おっと。また唐突ですね」

「仕事残して来ちゃったからねっ!!」

「またですか……まあ、頑張ってください」

 

 ちょっと呆れながら笑うと、レンジュさんはニカッと笑い返してくれた。

 そして、こちらに背中を向けて、一言。

 

「そのドレス、本当に似合ってるよ」

 

 そう言い残して、最速の英雄は姿を消した。

 

 うわ。うっわあ。心臓がヤバい。ばっくんばっくん鳴ってる。

 たった一言、褒められただけなのに。

 言われ慣れてるはずなのに。

 くそう。何だよこれ。調子が狂う。

 こんな気持ち、私は知らない。

 

「むぎゅう……ちょっと、休憩してから行くかー」

 

 このまま街に行く訳にも行かないし。

 私は両手で胸元を抑えながら、フローラちゃんの所に戻ることにした。

 

 いつか、遠くない未来に。

 たぶん、何かが変わる予感を抱いたまま。

 


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