【ガンカタ】さくら・ぶれっと 〜剣と魔法のファンタジー世界でどちらも使えない町娘の私はガンカタ(拳銃)で戦う。自分の生い立ちを知りたいだけで、英雄だなんて呼ばれたくないってば〜【15000PV突破】   作:くろひつじ

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49話

 

 氷のように研ぎ澄まされた瞳が私を射抜く。

 先程まで喋っていた人とは、まるで別人みたいだ。

 空気が重い。呼吸が出来ない。まるで、何かに締め付けられているかのよう。

 

 

「……抜かないの?」

 

 

 言われ、慌ててホルダーから拳銃を抜く。

 ヤバい。良くわからないけど、この人本気だ。

 

「じゃあ、行くよ」

 

 ふらりと揺れ、倒れ込むように駆け出す。

 うわ、はやっ!!

 

「リング!!」

「Sakura-Drive Ready.」

 

「Ignition!!」

 

 桜色を曳きながら、即座にブースター点火。

 私が真横にスライドするのと、私がいた場所を斬光が走り抜けるのは殆ど同時だった。

 

 

 思考を切り替える。

 アレは、敵だ。

 

 

「理由は分からないけど。やるってんなら、踊ってやるわ」

 

 ブースターから弾丸に切り替え、乱射。

 足止めに放たれたそれらは全て斬り落とされた。

 

 予想内。ブースターで間合いを放し、切り替え、撃ち続ける。

 最大圧縮した弾丸を織り混ぜた弾幕を、斬り、避け、(よど)みなく間合いを詰めてくる。

 

 反応が良すぎる。最大圧縮した弾は避け、通常弾だけ斬り払い、そのまま前進してくる。

 

 遠距離は駄目だ。いずれ間合いに入られてしまう。

 ならば。

 

 体勢を低く。脚を開き、左手は前に伸ばす。

 右手は逆手に顔の前に置き、視線は敵を捉えたまま。

 

 大きく踏み込む。左手を曲げ、肘を打ち出す。

 容易(たやす)く内側に流され、その勢いを借り、少し間合いを離しながら回転。

 右の拳銃を振り回すも、躱される。更に廻り、腹を狙った回し蹴り。

 一歩下がって避けられた。

 

 くるりと回り斜めになりながら再接近。斜め下から銃底を打ち上げる。

 刀の(みね)で軌道を逸らされるが、地に手を着き、体勢を整える。

 足元を狙った水面蹴り、当然のように跳ねて回避され、その隙に銃撃を浴びせるも、刀の刃を合わせ、魔弾は二つに斬り裂かれた。

 

 化け物か。この距離からの銃弾を視認して斬りやがった。

 

 着地後、踏み込んで来る。それに合わせて回転、遠心力を乗せた左の銃底、それを囮にした、右手で本命の射撃。

 どちらも踏み込みを鋭くして避けられた。

 反応が、間に合わない。

 

 右手を掌打で弾き飛ばされた。

 苦し紛れに引き戻した後頭部を狙った左手は、見えていたかのように肘に止められる。

 

 近接。吐息を感じるほどの近さ。

 がら空きになった私の胸元を目掛け、軽く開かれた手が伸びて行き。

 

 

 

 

 揉まれた。

 

 

 

 

「ぎゃあああああああああっ!!」

 

 咄嗟(とっさ)に繰り出した平手は、乙女の敵の頬を見事に捉えた。

 たぶんそれは、私の生涯最速の動きだったと思う。

 

 

 

「ごめんごめんっ!! 手が勝手に動いちゃってネッ!!」

「ふぅぅぅぅぅぅっ!!!!」

 

 

 現在、カエデさんを盾に籠城中。

 くそう。一度ならず二度までも……まじ許さん。

 

「ま、とりあえず目的は果たせたからいいんだけどねっ!!」

「……変態」

「いやそっちじゃなくてねっ!? やっぱりオウカちゃん、アレイみたいな動きするんだなってねっ!!」

「……あー、なんかトオノツカサさんにも言われた気がしますね」

 

 なんだっけか。トオノリュウがどうとか。

 

「多分、基本的な戦闘データの元になってるのがアレイなんじゃないかなっ!! 力の流れの効率の良さが半端ないからねっ!!」

「……え。そんな事を見る為にわざわざ刀を抜いたんですか?」

 

 それ、普通に見せるだけじゃ駄目だったんだろうか。

 

「いやいやっ!! 何気にこれ、かなり重要な話でねっ!?

 アレイの戦闘行動を知ってる人しか戦闘記録とか作れないでしょっ!? でもオウカちゃんは今十五歳だよねっ!?」

 

 ……あ、そっか。勇者が召喚されたのは五年前だから。

 

「最初っから知ってる訳がないじゃんって話っ!!

 て事は、オウカちゃんが生まれた後に誰かが何かしたってことになる訳でっ!!

 そいつが偽英雄の黒幕じゃないかなーってねっ!!」

「おー。まさか、そこまで考えていたとは」

 

 超テンションで跳ね回りながら喋ってるけど、内容はかなりマトモだった。

 ちょっと認識を改めた方が良いのかもしれない。

 

「いやまあ考えたのはアレイだけどねっ!!」

「あー。納得しました」

 

 上がりかけた評価が元の位置に戻っていった。

 やっぱこの人、ただの変態だわ、うん。

 

「ありゃっ!? なんかめっちゃ警戒されてないかなっ!?」

「むしろ警戒しない理由がないです」

「ただのスキンシップなのにっ!! ねえカエデちゃんっ!?」

「え。私は全力で拒絶するけ、ど」

「て言うかガチッぽくて怖いです」

 

 まじで。本気でセクハラしてるようにしか見えないんだって。

 女同士のスキンシップとかいうレベルじゃないもん、この人。

 

「えええええっ!! つまんにゃーいっ!!」

「……で、もう帰っていいですか?」

「やっ!! 最後にもう一個っ!! 個人的な希望なんだけどもっ!!」

「……聞くだけ聞きます。なんですか?」

 

 

 

「またいつか、オウカちゃんが私の世界まで踏み込んできたら」

 

 人差し指を口元に当ててウインクしながら。

 

「もう一度、戦おうね?」

 

 

 

 

 それは、イタズラを思いついた子どものような笑顔で。

 だけど眼だけは、とても鋭くて。

 まるで獣の威嚇のような、そんな笑い方だった。

 ……こわっ。

 

 

「……勝てる気しないんで、次は全力で逃げます」

「にししっ!! ま、それでもいいんだけどねっ!!」

「じゃ、今日は帰りますね。何かあったら情報を共有しに来ますんで」

「うん、また、ね」

「また近い内に遊びにおいでっ!!」

「……セクハラしないなら考えておきます」

 

 カエデさんに向かって頭を下げ、そそくさとその場を立ち去った。

 

 

 

 うひゃー。あれだね、英雄ってメチャクチャだわ。

 手汗がヤバい。動悸も凄い。バレなかっただろうか。

 

 世界最強の一人、コダマレンジュ。

 全ての生き物の中で最速を誇る『韋駄天(セツナドライブ)』の加護を持つ英雄。

 

 さっきの戦いでは、その加護を一切使っていなかった。

 そもそも、彼女からしたら戦いですら無かったのだろう。

 私の全力を軽く(あしら)っていた。

 

 私の世界に踏み込んできたら、か。

 音を置き去りにする速さ。その世界は、どんな光景なんだろうか。私には考えも及ばない。

 あんな風にしてても、英雄なんだなあ、あの人。

 

 いや、それ以前に乙女の敵だけど。

 次何かあったら全力でアレイさんに泣きついてやる。

 

 

◆視点変更:コダマレンジュ◆

 

 

「いやあ、久々に本気だしちったっ!!」

「お疲れ様でし、た」

「あれ、ビームヤバいねっ!! 当たったらツカサっちでも穴空くんじゃないかなっ!!」

「それがあの速さで連射、だから、ね」

 

 さすがに、ただの町娘と呼ぶには過剰戦力だ。

 当初、カノンちゃんが警戒していた理由がよく分かった。

 アレは一般人が持っていい力の範疇(はんちゅう)を超えている。

 

「アレイがアタシに任せた理由がよっく分かったかなっ!!

 手加減間違えたらどっちか死んじゃうからねっ!!」

「……私なら迷わず、逃げるか、な」

 

 うん。確かに魔法使いに取っては天敵かもしれない。

 不規則な高速機動に、即席の障壁なら容易く貫通する遠距離攻撃。

 しかもそれが途切れなく飛んでくる。あれは少し厄介だった。

 

「まぁでもっ!! いい子だから大丈夫だと思うよっ!! ちょっと危なっかしいけどねっ!!」

 

 戦闘状態に入ったあの子は、恐怖を感じていなかった。

 本能的に死を避ける為の反射行動すらなく、ただ淡々と最適な動きを繰り出すだけの戦闘スタイル。

 アレは、危険すぎる。力が及ばない時、その行動原理は致命となる。

 

「うん……出来るだけ、フォローしたいけ、ど」

「まっ!! 憎まれ役はアタシがやるからねっ!! 他は任せたっ!!」

蓮樹(レンジュ)さん、そういうの似合わないけど、ね」

「本来ならアレイの専売特許だからねっ!! 柄じゃないっ、てね!!」

 

 あの人はいつもそう言いながら、皆の重荷を自ら背負っていく。

 英雄達のリーダーとして。大人として。保護者として。

 なら少しだけでもアタシが引き受けてやらないと、いずれ潰れてしまうだろう。

 

「……言いそうだ、ね、それ」

「さておきっ!! とりあえず、アタシはアレイにご褒美貰ってくるかなっ!! カエデちゃん、ばーいばーいっ!!」

 

 さて、何を強請(ねだ)ってあげようか。

 本当なら何もいらないけど、要求しなければまた抱え込んでしまうだろう。

 酒か、ツマミか。その辺が妥当かな。

 

 しかしオウカちゃん。楽しみだな。

 いつかアタシに追いつけるだろうか。

 その時はまた、刀で語り合いたいものだ。

 

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