いつの間にかビッチになってた件について 作:naonakki
ようやく待ちに待った放課後です。
今日は生徒会のお仕事で兄さんに会うことができませんでしたからね。こんなことなら生徒会に入らなければ良かったです。
私は早く兄さんに会いたい欲求を隠しきれず鼻歌交じりにスキップ気味に廊下を進んでいく。
……それにしても私も早く兄さんにこの想いを伝えなくてはいけませんね。兄さんはとても優しくて格好いいですからね。他の女に盗られることだけは避けなければいけません。
問題は私たちが兄妹であるということ。流石の私でも実の兄にこんな気持ちを抱いていることが異常だと分かっています。しかし関係ありませんね、愛があれが大抵の問題は乗り越えられるでしょう。それに私にこんな気持ちを抱かせた兄さんが悪いのですから。
怖いのは兄さんに拒絶された時でしょうか。想像するだけで死にたくなるほど恐ろしいです。しかし私も女なら覚悟を括らなければなりませんね。
……それにもしもの時は無理やり力づくにでも。非力な兄さんでは私に手も足も出ないでしょうし。
まあ、流石にそれは最終手段ですがね。とはいえ、嫌がる兄さんを徐々に私色に染めていく……、それはそれでありですね……。
そんなことを考えていると、ようやく兄さんの教室に到着しました。妄想はいったん捨て去り、制服が着崩れていないか確認し、髪が乱れていないか確認する。そして高鳴る鼓動を感じつつ教室内をそっと覗く。
しかし教室内に兄の姿はなく、まばらに残った生徒同士が談笑している光景が映る。
……おや? 少し遅くなってしまいましたでしょうか? 確かに今日の終礼はいつもより長めでした。それが災いしたのでしょう。
まあ、いないのであれば仕方がありません。私も早く帰りましょう。兄さんも今日は用事がないはずなので先に家に帰っているのでしょう。
落胆しつつも、すぐに気持ちを切り替え回れ右して靴箱へ向かおうとした時、
「それにしても今日の森宮君凄かったね……。凄いエロかったというかさ。あんなに胸元さらけ出しちゃってさー!」
「だよね!? 朝からあんなの見せられたせいで私しばらくムラムラしちゃってたよ。」
「ねー、やっぱり森宮君ってビッチなのかな? 童貞捨てたいとか言ってたし、あの上田と佐々木と遊びに行ったみたいだし。これまでそんな素振りなかったけど。」
「どうだろうね? ……私、明日試しに森宮君を誘ってみようかな? ワンチャンあるかもしれないし!」
「え、ずるいっ! 私も混ぜて! 森宮君って見た目凄い恰好いいし!」
……は? 何を言っているの?
兄さんが? ビッチ? 童貞を捨てたい? 遊びに行った?
急いで振り返り、先ほどの会話をしていたであろうグループに目を向ける。
そこには五人の女子グループがいて、皆等しく興奮し盛り上がっていた。中には机の上に座り下着が見えることも厭わず下品な会話をしている。教室内に残っている男子生徒はそんな女子生徒達に軽蔑の目を向けている。
「すみません。一年の森宮舞香と言います。兄のことでお話していたようですけど、詳しく聞かせてもらっていいでしょうか?」
普段は関わりたいとも思わない人たちですけど、やむを得ません。兄さんの為です。
その後、私は今日教室であった兄さんの信じられないような言動の一部始終を聞いた。
「う、嘘です。……に、兄さんがそんなふしだらなことを。」
目の前が真っ白になり、立ち眩みをしてしまう。信じられない、いえ、この人たちは嘘を言っているに違いありません。でなければ本当に兄さんは……
「いやいや、私たちも信じられなかったけど、全部本当のことだよ。逆に森宮君、家で何かあったのってレベルだし。」
「そうだよねー、ほら、これが証拠の写真。」
「あっ! あんた何撮ってるのよ、盗撮じゃない!」
「え、あ、あはは。まあまあ、あんたらにもこの写真あげるからさー。」
「なら許す!」
ぎゃははと品の欠片もない笑い声が響く中で、私の視線はスマホの画面に映った兄の姿にくぎ付けだった。それはこれまで何度も何度も見てきた兄さんの姿だった。しかし胸元を大胆に開け、さらにそれが普通でしょと言わんばかりの自然な表情を浮かべるその姿は最早見慣れた兄さんのものではない。
……確かにこんな格好をしていたら、女子達に性的な目で見られても仕方がありませんが。
……。
……っは!? いけません、私まで写真に魅入ってました。
気付かない内に全身が熱くなり息が荒くなっている自身を恥じ、気持ちを切り替える。
……きっと、何か訳があるに違いありません。私がそれを問いたださないといけません。そう、ゆっくりとじっくり、ね……ふふふ。
「あの、すみませんが兄が遊びに行った場所を教えてくれませんか?
……後、私にもこの写真ください。」
写真は必要ないんじゃないかって? これは兄さんがふしだらな行為をしていたという証拠を確保するためです。それ以外の意図など絶対ありません。絶対です。
……あぁ、いい。やはりいい。
俺は今、女子三人と町中を歩いている。
この充実感たまらない。さらには……
「ねーね、森宮君! 森宮君って普段家で何かしてるの?」
そう言いながら佐々木さんが真横に移動してきて、俺の顔を下から覗き込んでくる。うわぁ、顔小さいしまつ毛長いし目もパッチリしてて可愛い……。化粧もしているみたいだけどこれ素材も絶対いいやつだ。まさか俺のクラスにこんな逸材がいたなんて……。これまでギャルというだけで見向きもしなかった自分を殴りつけてやりたい。
「ていうか森宮君って今まで彼女いなかったの? そんなに恰好いいのに。」
逆サイドからは上田さんが同じくピタリと真横に移動してきて……いや、僅かに体をくっつけてきてる!?
柔らかい感触と共にほのかな温もりが制服越しに伝わってくる。上田さんも佐々木さんに劣らず可愛い、いや美人といった表現が似合うだろうか。スラリとした手足と凹凸のはっきりとしたボディーラインがなんとも言えない妖艶な雰囲気を醸し出している。
……あかん、これ俺の理性がもたないわ。これまで彼女がいたことがなかった俺に女子への免疫なんてあるわけもなく振り回されっぱなしだ。
「……ええとその、そう言えばこれからどこ行くんだ?」
だめだ、舌も上手く回らなくなってきた。態度もオロオロしてしまっている。情けなさ過ぎて泣けてくるわ。折角、俺にも春が訪れかけているのに。
「あー今日はね、行きつけのカラオケに行くよー。」
「うんうん、とっても良いところだよ! 防音性もバッチシだしね。」
なるほど、カラオケか。予想通りだな。
大丈夫、こういう時に備えて女子受けしそうな歌は練習を繰り返している。
……本当、あの努力が無駄にならなくても良かった。
カラオケなら大丈夫という安心感から先ほどに比べると多少の心のゆとりが生まれる。ここはずっと気になっていたことを思い切って聞いてみよう。
「そういえばさ、急に俺を誘ってくれたけどどうして?」
この俺の問いに、両サイドにいた二人がキョトンとした表情を浮かべお互いを見つめた後、心底おかしそうに笑いだすと
「いやいや、そりゃああんなこと教室で堂々と言われたら、女としてこっちも黙ってられないよー?」
「だよねー、実際みんな森宮君の事気にしてたしねー。」
……何のことだ? 教室で堂々? 今日一瞬教室が静まり返った時のことか?
でもあんなこと毎日言ってるから違うよな? うーん?
……うまく言えないけど、今日の朝から何か俺と周りで根本的な何かがずれているような気がするんだよな。後もうちょっとで分かりそうなんだけどな。
俺が珍しく頭を働かせていると、上田さんが急に顔を俺の顔に近づけてくると、
「……ふふ、緊張しているようだけど安心して? 私、すっごい上手だからさ? うまくリードしてあげるからね。」
不意に甘い吐息と共に色っぽい声色でそんなことを囁かれるものだから、全身に電流が流れたように硬直してしまう。耳がじんじんと熱くなっているようだ。心臓もそんなに早く動いて大丈夫と心配する程度にあり得ないスピードで脈打っている。
……リア充、素晴らし過ぎるだろ。
そして上田さんの言葉は俺にとっては朗報だった。どうも上田さんは歌がとても上手であり、うまくリードしてくれるらしい。だが、安心してくれていいぞ上田さん。デュエットの練習もバッチシだ!
「そっか、実は俺も結構自信あるんだよ。一緒に楽しもうな!」
歌に関してはちょっとした自信があったので、いつもの調子で言えたぞ! 緊張もほぐれてきた。このまま何とか良い雰囲気にもっていきたいところだ。
しかし、
「え? え? でも初めてなんだよね?」
「上手なの? え、どういうこと?」
なんか、上田さんと佐々木さんが物凄い食いついてきたんだが。二人ともなぜか顔を赤くして興味深々と言った風に顔をグイッと近づけてくる。
ちょ、近い近いっ!? せっかく緊張が取れてきたのに、またリスタートさせる気か。……うむ、これが幸せな悩みというやつだな。
「まあ確かに(女子とカラオケは)初めてだけど、結構友達とかと一緒に練習してたし、後はまあ一人でもちょこちょこ練習してたからな。」
俺のこの言葉に二人の顔がどんどん赤くなっていく。なぜだ。
「へ、へー? 友達と一緒に? 一人で? へー? ふーん?」
「な、なんというか結構思ってたよりレベル高いんだね? うちらがリードされたりしてね。」
「そうかな?」
レベル高いってどういうことだろうか? 一人で歌を練習するのってそんな異常なことなのだろうか?
しかし、二人の興奮は収まらないようで上田さんに至っては、なぜかもじもじとしだしたんだが。顔を赤くしてもじもじするとか童貞殺しにも程があるから是非やめて頂きたい。嘘です、もっと続けてください。
「はいはい、私の存在忘れないでよね。二人ともくっつきすぎだし。」
ここで、美穂が現れ二人を無理やり引きはがしてくる。二人とも「あぁ」と名残惜しそうな表情を浮かべるものの、美穂の腕力には敵わなかったようでされるがままだ。いや、美穂の腕力は本当に洒落にならないからな。さっきそれを思い知った。
「かずも変なこと言わない!」
「……え? なんで?」
なぜか美穂に怒られた。相変わらず訳が分からん。
「はい、着いたよ! ここのカラオケが最高なんだよね!」
「いやー楽しみだね!」
「……。」
上田さんと佐々木さんはテンションマックスといった感じだが、美穂は逆に何かを警戒するようにカラオケの建物を見つめている。俺もその視線につられて案内されたカラオケを見つめる。
てっきりチェーン店にでも行くのかと思いきや、あまり馴染のない店だった。個人店だろうか? まあ二人が最高というなら魅力的な何かがあるのだろう。
その後、マナーが良いとは言えない従業員の案内に従って部屋に入っていく。
中は割と普通のカラオケルームだが、ソファが少し広めなことが特徴的だろうか。しかし、ここのカラオケって他の部屋もいくつかあるみたいだけど、中が完全に見えないようになってた。トイレとか行った時、部屋番号を忘れたら戻れないじゃないか、なんと不親切な。しっかり部屋番号を覚えておこう……。
「あ、俺ちょっと先にトイレ行ってくるわ」
「はいはーい。」
「……。」
いくら歌に自信があるといっても、少なからず緊張はする。というわけでみんなに断りを入れてトイレに行き、今一度気持ちを整える。
……よし、俺よ。ここが男の正念場だぞ。ここで上田さんと佐々木さんと仲良くなり、リア充への一歩を踏み出すんだ。
というわけで準備も整い、少々薄暗い廊下に出て、歩を進めていくと、なんと前から上田さんが歩いてきた。
「あれ? 上田さんもトイレ?」
俺がそう問いかけるも、上田さんからの返事はない。そのままゆっくりとこちらに歩いてくる。近づいてきて分かったが、上田さんの顔は赤くなり、息もハァハァと荒くなっている。
走りでもしたのだろうか? 理由はさっぱり分からんが。
「どうしたの上田さん? もしかして体調でも悪い?」
俺がそう問いかけると、なんと上田さんは急に俺の腕を掴むと、そばにあった部屋に押し込んできた。女子とは思えない力強さで押し込まれたため、抵抗もままならなかった。
……え? 急に何だ?
急展開過ぎて思考が追い付かない。
訳が分からず上田さんの方を見つめると、上田さんは後ろ手で扉を閉めると、ニヤリとした表情を浮かべこちらを見つめてくる。
「ふふふ……、本当はちょっとだけ歌ってからのつもりだったけど、ごめんもう我慢できない。これも私をその気にさせた森宮君が悪いんだからね。」
「え……何のこと? ていうかここ違う部屋に勝手に入ったらまずいんじゃ?」
「安心して、部屋はこことさっきのところで二つとってあるから。」
……なぜ?
そんな疑問を口にする前に衝撃的光景に俺の全意識がもっていかれる
プチプチ……
なんと上田さんが、シャツのボタンを上から順番に外していっているではないか。
……母さん、こういう時、男の子はどうすればいいですか?