いつの間にかビッチになってた件について   作:naonakki

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第四話

 上田さんのしなやかな細長い指によって、ひとつ、またひとつと、ボタンが外されていく。その度にシャツの下からシミ一つない白くキメ細かい肌が徐々にその姿を現す。そして服の上からでも存在感を示していた面積少なめのセクシーなデザインの真っ黒な下着に包まれた大きくたわわな胸も同時にその顔を覗かせてくる。

 

 「ちょちょちょちょ、何してるんだよっ!?」

 

 バッと全速力で顔を逸らし、そう叫ぶ。

 あまりの事態に心臓は早鐘を打ったように全身に響きわたり、顔にカーッと熱が帯びていくのを感じる。

 

 な、なんだこれ!? 夢? 夢なのか!? 楽しいカラオケタイムはどこへ行った?

 

 あまりにあり得ない状況に思わずそう思い、チラリと上田さんがいる方向に視線を向ける。決して上田さんの胸を見たかったからではない。しかしそこには、変わらずボタンを外し続ける上田さんがいた。急いでまた顔を背ける。

 

 ……や、やっぱり現実だ!? ていうか上田さん胸でっか!? 

 

 女性の胸などスマホの画面で見慣れていたはずだが、現実のものを見た瞬間、これまで感じたことのないほどの劣情と興奮に襲われる。理性がどうにかなりそうだ。やっぱり現実最高……じゃなくて!

 これは流石に何かおかしい。ドッキリか? 罠か? それとも最近の暑さのあまりとうとう幻覚を見だしたのか!?

 

 「……ちょっと。……やめてよ。あれだけビッチみたいに振舞ってたくせに今更そんな純情ぶった反応しないでよ……。」

 

 思考をフル回転させている俺の耳にそんな言葉が入り込んでくる。

 しかしその言葉の意味がよく分からず、いったん思考を中止し、再び恐る恐る上田さんの方へ顔を向ける。

 そこには、当然だが部屋の薄暗い照明に照らされた上田さんがいた。

 既にシャツのボタンを全て外しきっており、その下の素肌が小さなへそまで含めて丸見えである。そこまで来るとシャツを羽織っていることが裸よりも寧ろいやらしさを強調しており、本人の妖艶さとの相乗効果もあってその魅力をより高みへ上げている。その男の理性を壊滅させかねない姿をした上田さんは、顔を真っ赤に染め、「ハァハァ……」と荒い息遣いをついている。

 そして、妖しく光る眼でこちらを舐めるようにじっと見つめてきて

 

 

 

 「……余計に興奮しちゃうじゃん?」

 

 

 

 え? と口にする暇さえなかった。

 

 ドンッ!

 

 急に詰め寄ってきた上田さんに肩を強く押されてしまう。

 いきなりのことであり反応できずそのまま後ろにあったソファに倒れこんでしまう。そしてそこへ間髪入れず上田さんが俺のちょうどへそ下あたりを跨る形で乗ってきた。軽く柔らかいその体は驚くほど熱く、その熱が俺へと流れ込んでくるような感覚に陥る。

 最早頭の中は真っ白であり、何かを思考する余裕はなかった。ただ呆然と発情した上田さんを下から見つめることしかできなかった。

 

 「……はぁはぁ、じゃあお望み通り森宮君の童貞頂きます♡」

 

 しかし、その放たれた言葉によって俺も我に戻る。

 童貞……だって? 俺の童貞を頂きますだって?

 

 「ちょ、ちょっと待って!? いや、どういう状況!? 多分、滅茶苦茶嬉しい状況にあるっぽいけど、せめて状況を理解したいんだけど!?」

 

 そんな俺の叫びを聞いた上田さんはキョトンとした表情を浮かべるもすぐにその口角をニヤリと上げると、顔を俺の耳元まで近づけてくると、

 

 「……ふふふ、緊張しすぎて混乱してる? いいわよ? 状況を教えてあげる。といってもすごいシンプルよ? ……これから私と森宮君でとても気持ちいことをする。……ただそれだけよ。」

 

 全身が雷に打たれたようだった。痺れるとはこういうことを言うのだろう。

 童貞の俺でも流石に今の言葉の意味は理解できた。

 ……あぁ、そうか。俺もようやく大人になる時がきたのか。

 経緯は一から十までさっぱり分からないが、それもまた青春の一ページとして……

 

 いや、やっぱり経緯くらいは知っておきたい!

 

 童貞ほど初めてのシチュエーションに夢を持っていると聞いたことがある。俺はそんなことないと馬鹿にしていたが、今ならその気持ちが分かる気がする。流石に何が起きているか全く理解できずに童貞卒業なんてしたくない!

 

 「ちょ、ちょっと待って。一回落ち着いてもらっていい? 状況は理解できたけど、この状況に至った経緯も知りたい。」

 

 そう言って上田さんをやんわりと退けようとした。しかし

 

 「だーめ。もう我慢できないって言ったでしょ? 経緯なんて後でいくらでも説明してあげるから。」

 

 俺の両腕を上田さんの手で抑え込まれてしまう。抵抗しようにも上田さんの力が強すぎてびくともしない、ソファに腕を縫い付けられているようだ。

 ……な、なんでこんなに力が!? 

 しかし驚く間もなく、俺の顔に影が落ちる。上田さんがその小さな顔を俺の顔に近づけてきたからだ。それに伴い、ハラリと柔らかく艶のある黄金色の髪が俺の頬を優しく撫でてくる。経験なんてないが不思議とこれからキスされるのだと分かった。意図せず上田さんの健康的な桜色のプルプルとした唇に視線が吸われる。

 とても柔らかそうだ。

 

 ゴクリ……。

  

 俺は覚悟を決めた。逃げられないならしょうがない。今を思い切り楽しむ。そう意識を切り替える。

 ……そうだよ、こんな綺麗な子に童貞もらってもらえるなら何でもいいじゃないか。

 そうやって吹っ切れたらなんだか急に興奮と期待感に包まれてきた。

 ……キスの味はレモンの味なんて言うけど実際はどうなのだろうか? 

 そして、その先はいったい……。

 

 俺が上田さんを押しのけようとしていた腕の力を抜いたことで、上田さんもこちらが合意したと受け取ったのだろう、静かに目を瞑ると僅かに突き出した唇を俺の唇にゆっくりと焦らすように近づけてくる。

 

 そして

 

 

 

 「ちょっと待ったあああ!!」

 

 

 

 バタンッ! と大きな音を立て、部屋の扉が開け放たれる。

 なんだ? と顔を扉の方へ向けると顔を真っ赤にし、怒り心頭な様子の美穂がズンズンとこちらに近づいてきていた。

 上田さんは、「はぁー」とため息をつき、やれやれといった様子で美穂の方へ目を向けている。

 

 「全部佐々木さんから聞いたわよ! 絶対ダメだからね!」

 

 そう言いながら上田さんを無理やり俺の上から引きはがしてくる。上田さんも抵抗しようとするが、美穂の力には敵わずそのまま引きはがされていく。……あぁ、上田さん、もっと抵抗してくれよ。

 

 「ちょっとー、かなー? 邪魔が入らないようにしてって言ったじゃーん。」

 「ごめんごめん。でも藤崎さんめっちゃ怖くて思わず話しちゃったよ。」

 

 上田さんは責めるように佐々木さんに文句を言い、佐々木さんも申し訳ないと、手を合わし謝っている。

 ……くそっ、よくわからないけど美穂さえいなければ今頃凄いことになってたってことだよな。美穂め……どう責任を取ってくれるのだ。一生に一度のチャンスだったかもしれないのに。

 

 「ほら、かず。もう帰るわよ。これでわかったでしょう? この二人はあんたを厭らしい目で見てるのよ?」

 

 美穂は俺にそう言うと、俺の腕を取り起き上がる手助けをしようとしてくる。

 俺はそんな美穂をじっと見つめ、口を開く。

 

 「……あの美穂? 昨日も言ったけど、これは俺の夢でもあるんだ。俺的には大歓迎なんだが?」

 

 当たり前だ。理由はよくわからんが可愛い子が俺に迫ってくるという世の男子高生が涎を垂らして羨ましがられるこの状況を嫌がる奴なんていないだろう? ……いないよな?

 

 「はあっ!? あんた何言ってるの!? ビッチじゃあるまいし!」

 

 美穂は何言っているのと、心底驚いたようにそう言い放ってくる。

 一方、俺の言葉を聞いた上田さんと佐々木さんはお互いに顔を合わせるとニンマリと笑い合い、小さく頷き合う。

 

 「ねえねえ、藤崎さん? 森宮君もこう言ってるし問題ないよね?」

 「ねー、お互い合意だもんね? 文句ないよね? 別に森宮君と藤崎さんは恋人同士ってわけでもないでしょう?」

 

 二人は美穂の両サイドに立ち、そう攻め立てる。美穂は「うぅっ」と反論できずに徐々に後ずさりをしていく。

 いいぞ、その調子だ! 

 俺が二人を心の中で応援しながら見つめていると美穂が急に俺の方にキッと鋭い視線を向けてくる。そのあまりの眼圧に思わず「う」と委縮してしまう。

 ……なんか今の俺、凄い情けない屑な人間みたいに見えるな。まあ、気のせいだろう。

 

 「とにかく! 無理やりにでもかずは連れて帰るから! 反論は聞かないから!」

 

 そう言い切り、俺の方へ近づいて来ようとする。

 しかし、上田さんと佐々木さんはそれで大人しく黙るどころか

 

 「まあまあ藤崎さん。藤崎さんってさ、森宮君のこと好きなんでしょ?」

 

 佐々木さんが可愛らしい声でそう問うと、ボンッと美穂の顔が茹蛸のように真っ赤になった。凄いな……どうやったんだ今の?

 

 「な、ななな。何のこと!? べ、別に好きとかじゃ……」

 

 先ほどまでの威勢はどこへやら、美穂は目をぐるぐると回しながら、噛みまくりの小さな声でそう呟く。それを見た上田さんは勝利を確信したかのように小さな笑みを浮かべると美穂の肩に腕を回し

 

 「……ふふふ、図星みたいね? まあ二人は幼馴染らしいもんね。こんな格好いい幼馴染がいたら好きにもなるよね~?」

 「だ、だから違うって……。」

 

 すげー、あの美穂がどんどん小さくなっていく。

 しかし、美穂はなんでこんなに取り乱してるんだ? まさか本当に俺のことが好きとか? まさかな。俺たちはどっちかというと姉弟みたいなもんだしな。単純に美穂はこの手の恋愛の話に疎いだけだろう。

 

 「じゃあさ、ここは藤崎さんに一番手を譲るよ。それでいいでしょう?」

 

 ここで佐々木さんが爆弾発言。一番手って何の? ……まさかさっき俺と上田さんがしようとしていたこと?

 

 「な、ななな!? い、一番手ってな、なな何の?」

 

 佐々木さんの提案に美穂が顔から湯気が出るのではないかというくらい、さらに顔を真っ赤にし狼狽えている。美穂のこんな取り乱すところ初めて見たよ。

 

 「ふふ、そんなこと分かってるでしょ? ほら、腹くくって服脱ぎなよ。服脱いだら色々覚悟も決まるよ。」

 「ちょ、ちょっと待って! わ、私はそのちゃんとした雰囲気で……。」

 「えー、いいの? ここでしなかったら私たちが森宮君の童貞をもらっちゃうよ?」

 

 ……うん? 私たち? 上田さんだけじゃなくて? 

 佐々木さんの放った言葉に疑問が浮かぶ。

 というかさっきから話を聞いていたら佐々木さんも上田さんも美穂と俺をくっつけたがっているように聞こえる。しかも自分たちも俺と色々するみたいないことを言っている。

 いや、まあ俺的には大歓迎な状況であることに間違いはないんだが。

 

 ……でも、やはりおかしい。何かがおかしい。

 

 改めて今日一日の行動を振り返ってみても違和感の連続だった。

 女性に向けられる視線。

 美穂との記憶の差異。

 裕太の俺へのビッチ発言。

 男子と女子の服の着こなし方の変化。

 突然声をかけてきた上田さんと佐々木さん。

 

 

 

 ……あれ?

 

 

 

 これって……

 

 

 

 

  

 男女で色々逆転してるんじゃね? 

 

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