リディアン音楽院の問題児(✌️る〜と) 作:dedicates545
「あいつ……大丈夫かな……」
クリスが言う
●
「えぇ!?今年の合宿2週間もあるの!?」
驚愕する謳歌
「あぁ……何でも今年から中等科と合同でするみたいだな」
「じゃ、じゃあ……2週間クリス居ないの……?」
「そうなるな」
固まる謳歌
「無理ぃ!2週間も居ないなんて耐えられないよぉ!」
「おい!引っ付くなこのバカ!」
すがり付く謳歌を引き剥がすクリス
「だって!未来ちゃん以外みんな声楽科なのに!
キャロルちゃんとエルフナインちゃんは里帰りしてるし!
エルザちゃんは修学旅行だし!
誰を触れば良いのさ!」
「良い機会だ、少しは我慢するんだな」
クリスの発言に絶望の表情の謳歌
「わっ、私も合宿行く!」
「はぁ?お前声楽科じゃないだろ?」
呆れた声を出すクリス
「お願い……せめてクリスだけでも一緒に……」
「無茶言うなよ……」
ガックリとうなだれる謳歌
「そんなぁ……」
●
「謳歌さ〜ん!遅刻しますよ〜?」
謳歌の部屋の前で呼び掛ける未来
クリス達声楽科が合宿に向かってから1週間が過ぎていた
「やぁ……おはよう未来ちゃん……」
げっそりとしている謳歌、心なしか頬がこけたようにも見える
「大丈夫ですか……?」
「無理……もう限界……」
そう言うと、ジッと未来を見つめる謳歌
「なっ、何ですか……?」
ゆらぁっと未来に近づく謳歌
「ちょ……ひっ……」
そのまま謳歌抱きつき未来の胸に顔を埋める
未来は全身がゾワっとするような感覚に襲われる
「あぁ……未来ちゃんも結構イケるかも……」
「もっ、もう……何してるんですか……早くいきますよ?せっかく初等科に行くんですから」
謳歌をグイっと引き離す未来
「うん……」
声楽科の合宿中は、教員も多数学校を離れているため、特定の教科以外は初等科の学習支援に参加する事になっている
「あっ!みくちゃんだー」
わらわらと未来の元に集まる子供たち、
謳歌はと言うと……
「あっちいけ!」
「へんたいさんだー!」
こんな調子である
「こら!そんな事言っちゃ駄目でしょ?」
「ごめんなさーい」
子供たちを教室に入れる未来
「もう……どこであんな言葉覚えたんだろ……?
謳歌さん?早く中入りましょう?」
未来が謳歌に視線を向けると、ベンチに体育座りしている謳歌の姿が目に入る
「いいもん……別にさ……」
「もう……拗ねないで下さいよ……」
ため息をつく未来
「ほら、行きますよ謳歌さん」
「はぁ……もう駄目……未来ちゃんが慰めてくれないと頑張れないなぁ……?」
チラチラこちらを見ながら言う謳歌
「もう……」
どうするか未来が思慮していると、小さな人影が近づいてくる
「また来たのー?とくしゅせーへきさん」
「あっ……旋律ちゃん……」
低学年位の少女は、謳歌の膝にちょこんと座る
「誰ですか?その子?」
未来が尋ねる
「そっか、初めてだもんね、旋律ちゃん自己紹介して?」
「はーい!おとなしせんりです!」
音無旋律(おとなしせんり)と名乗る少女
「どういったご関係ですか……?」
未来が尋ねる
「あのねー ゆーかいされたの」
「へ?それはどういう……?」
いぶかしむ視線を謳歌に投げる未来
「ちょっ!旋律ちゃん!人聞きの悪いこと言わないでよ!」
「えー?でもつるぺたのお姉ちゃんがね?言ってたんだよー?」
「おっ、謳歌さん……?」
さすがの未来も露骨に引いている
「ちっ、違うんだよ?避難訓練の時少しだけ身柄を預かったというか……」
「ねーねーとくしゅせーへきさん」
旋律が謳歌に呼び掛ける
「旋律ちゃん……そろそろ名前で読んでくれても……」
「えー?でも名前でよぶとつけあがるから、やめたほうが良いってきんぱつのお姉ちゃんが言ってたよー?」
うなだれる謳歌に旋律が続ける
「よしよし、このよのなかはふじょーりなことでいっぱいなんだよー?」
「せめて今はこのつむじの匂いを堪能しよう……」
そう言うと、謳歌は旋律の後頭部に顔を埋める
「いくらくれるのー?」
「ん?どういうこと?」
謳歌が問う
「キャロルちゃんがねー?“触られたらお金が貰える”ってねー?言ってたのー」
「もう……みんな旋律ちゃんを毒し過ぎだよぉ……」
「それ……謳歌さんもですから……」
未来が突っ込みを入れる
その背後から近づく人影
「はぁはぁ……こんな所にいたワケだ……」
息を切らしながらやって来たのは、初等科の寮監であるプレラーティ
「あっ!ごーほーろりさん!」
そう呼ぶとサッと身を隠す旋律
「旋律……遊びはおしまいなワケだ……」
「いや!もっと遊ぶもん!」
そう言うと、旋律は謳歌の方を向く
「ねぇねぇ?ここからにげよー?」
「えっ?えぇっと……」
謳歌はプレラーティの方を向く
「謳歌……旋律の味方をするなら、お前のパソコンに入ってる“楽譜4”のファイルをクリスに見せるワケだ」
「えぇ!?それとこれとは関係無いじゃないですか!」
「何です?また盗撮ですか?」
しれっと言う未来
「とーさつってなーに?」
「うーん……勝手に写真を取ること……かな?」
困ったように説明する未来
「せんり知ってる!せーへきさんのとくいわざ!」
「得意技って……違うよぉ旋律ちゃん……」
旋律は不思議そうに言う
「えぇー、でもクリスちゃんのしゃしんがたくさんあったよー?」
旋律は続ける
「あのねー?ぱそこん?のなかにねー?はだかんぼのクリスちゃんがねー?たくさんいたの!」
「旋律ちゃん!秘密って言ったじゃない!!」
慌てる謳歌
「えぇー?でもねー?けーすばいけーすだってエルフナインちゃんが言ってたの」
「秘密に時と場合も何も無いよ!!」
謳歌がそう言うと同時に、首もとに悪寒が走る
「ひっ……!」
「ちっ」
謳歌の首もとスレスレに、ピッチフォークが突き刺さっていた
「あっ!つるぺたさんだー!」
「調ちゃん……」
「……その呼び方やめてって言ったよね?」
にっこりしながら、謳歌に中指を立てる調
「どうしたの調ちゃん?」
未来が尋ねる
「あぁ、今日休みなのでクリス先輩が一旦学院に戻るって言うので……」
「クリス戻って来てるの!!?」
飛び上がり調にすがる謳歌
「ちょっと!何どさくさに紛れてさわって……」
「今どこにいるの!?」
間髪入れずに問う謳歌
「部屋じゃないかと……」
「わかった!ありがとう!!」
駆けていく謳歌
「行っちゃった……」
未来の袖がクイッっと引っ張られる
「……どうしたの?」
そこには、今にも泣き出しそうな旋律の姿があった
「おーかちゃん……行っちゃった……」
「旋律?また遊べるワケだから……な?」
プレラーティが慰めている
「全く……あんな変態のどこが良いんだか」
ため息を付きながら調が言うと、携帯を旋律に手渡す
『旋律、泣くな泣くな』
「クリスちゃん……?」
画面には、クリスが映っている
『また遊んでやるから、な?』
「ほんとうに……?」
『本当に本当だ、だからもう戻りな?良い子だから』
「うん……わかった……またね?」
携帯を調に返す旋律
「旋律?行こう?」
「うん……バイバイ……」
去り際に、プレラーティが一言
「今日は助かったワケだ、お礼と言ったらなんだが、後は私が勉強会見とくから、遊んでくるワケだ」
「えっ、でも……」
未来がためらっているとプレラーティが続ける
「その代わり、また旋律と遊んでほしいワケだ」
「分かりました」
ためらっている未来の代わりに調が答える
「さぁ未来さん行きますよ、切ちゃんと響さんも戻って来てるので」
「あっ!ちょっと調ちゃん!?」
そのまま未来を引っ張り、その場を後にした
「クリス〜」
そう言いながら、部屋に入る謳歌
「おう、ちょっと座れよ」
「ん?なに?」
謳歌をパソコンの前に座らせるクリス
「ちょっと待ってろな」
「うん……」
そう言いながらパソコンを操作するクリス
そしてデスクトップのフォルダ【楽譜4】をクリックする
「なんだ?これ?」
まるで菩薩のようなにこやかな表情とは裏腹に、謳歌の肩を掴む手は、皮膚に食い込まんとばかりに強く握られている
「いやぁ……あはは……」
力のない笑い声を上げる謳歌
「なっ、何で知ってるの……?」
クリスはおもむろに、携帯を見せる
そこには、調が映っている
「ざまぁみろ♪」
そう、にこやかな表情で言いながら、中指を立てる調
「まさか……ずっと見てた?」
「ずっと見てた」
しばしの沈黙
「おい!まて!」
突如脱兎のごとく駆け出す謳歌
「逃がすか!!」
「ふぇ〜!許してよ〜!」
一部始終を見ていた未来
「はぁ……何してるんだか……」
「良いんですよ、自業自得なんですから」
調はご機嫌の様子である
「あっ……あれじゃないかな」
未来の視線の先には、猛スピードで駆ける謳歌とそれを追いかけるクリス
「逃げ足だけは速いんですよね、あの変態」
そう言いながら、調はピッチフォークを構え、投てきの姿勢をとる
「うわ!?」
謳歌は慌てて身を翻し、角を曲がる
「ちっ!!」
その後を追う調
「ひぃ!クリスはともかく調ちゃんのは本当に危ないからぁ!!」
「喋るなぁ!空気が汚れる!」
未来は大きくため息を付く
「どうしていつもこうなの……」
なおも逃走を続ける謳歌
視線の先には小さな人影
「ちょっと借ります!」
謳歌の手には、半べそをかいている旋律の姿
「あれ!?なんで泣いてるの!?」
謳歌にそう問われると、目をグシグシとこすり旋律は言う
「ううん!何でも無いの!」
そう言う旋律は、満面の笑みになっていた