キャプテン・リベリオン 作:国債ウルトロン
1940年、リベリオン合衆国は広大な国内の開発に工業力のほとんどを投じており、無数の資源と強大な工業力を保持していた。
やがてネウロイ戦役最前線の欧州各国を支援する有力な後背地として世界情勢への影響力を強めてゆくこととなった。
リベリオン合衆国内は戦争特需によって大量の外貨を獲得し、高度経済成長期を迎えた。
文化、軍事、科学。
そのどれもが目を見張る勢いで発展し、国民はネウロイへの対抗意識を燃やすことで同胞との一体感を育んだ。
多くの少年は兵士に憧れ、
多くの少女は
スティーブ・ロジャース(本名スティーブン・サミュエル・ロジャース)もまた、兵士に憧れた少年の一人だった。
幼少期から人一倍正義感と愛国心が強かった彼は、兵士としてネウロイと戦い戦死した父親と、従軍看護婦だった母に習い、常に正しく、勇敢である事を心がけた。
例え相手がどれほど強大で、複数で、悪辣であったとしても、彼が悪党だと判断すれば勇敢に立ち向かった。
故に、彼はガラの悪いクラスメートとは犬猿の仲であった。
例え相手がどれほど脆弱で、孤独で、鈍物であったとしても、彼が弱者と判断すれば迷わず手を差し伸べた。
故に、彼は少し変わり者の友人が多かった。
その高潔な精神は、まさしくリベリオン合衆国が掲げる理念『自由・平等・博愛』そのものであった。
しかし、
最も勇敢な青年は、最も貧弱な青年でもあった。
身長160cm、体重40kg。
喘息、猩紅熱、リウマチ熱を患い、副鼻腔炎、慢性風邪症、高血圧、動悸、易疲労性まで抱えていた。
彼は誰よりも人類のためにネウロイと戦う事を望んでいたにも関わらず、徴兵基準が満たせなかったがために、その戦場に赴くことさえも許されなかった。
ある日、幼馴染にして大親友とも呼べるブキャナン・バーンズ(スティーブはブキャナンをバッキーの愛称で呼んだ)と、同じく幼馴染にして密かに想いを寄せていたペギー・カーターが、自宅に訪ねてきた。
「バッキー、ペギー……どうしたんだ?」
二人は玄関先で中に入ろうともせず、ただ静かに立っていた。
バッキーは目を泳がせながら口を開き、何かを言いかけた後、力なく項垂れた。
ペギーはスティーブの瞳を真っ直ぐに見つめながら、黙っていた。
「何だよ一体、…まぁ、とりあえず中に」
「スティーブ」
困惑を隠せない表情を見て意を決したのか、バッキーは今度こそ真っ直ぐ顔を上げた。
「整備兵になった。そしてペギーはウィッチに」
「……………………そんな」
やっと漏れ出た言葉は、それだけであった。
やがて少しの沈黙があった後。
スティーブは泣いた。
いつも一緒に苦難を乗り越えてきた大親友を死地に見送ることしかできない自分が、とても情けなかった。
密かに想いを寄せていた初恋の相手が、遠く空の果てへ旅立ってしまうことに、悲しみが抑えられなかった。
バッキーはその華奢な肩に手を置きながら静かに語った。
「いいか?よく聞け…なにも戦場で銃をブッ放したり、戦車や軍艦に乗ることだけが戦いじゃないんだ」
「そうよスティーブ…貴方には、私たちの故郷を守って欲しい。それが貴方の戦い…貴方しかできない戦い」
ペギーはその痩けた頬に手を添え、白く小さな額にキスをした。
「…ッ!……ああ、そうだな」
3ヶ月後、
ポストに死亡通知が届いた。
見慣れた二つの名が書いてあったが、今度は泣かなかった。
代わりに、ネウロイへの強烈な義憤と使命感が生まれた。
もう一度、入隊審査を受けよう。
机に広げた新聞紙を丁寧に折りたたみ、彼は家を出た。
1面の右端の広告欄には、こう書かれていた。
新部隊設立
隊員募集