歌が歌えないので2次元アイドルに歌わせたら3次元アイドルに絡まれた   作:ほりさか

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思いついたら、予想以上に筆が進んだので初投稿です。


1話 前編

僕は転生者だ。

 

今やありきたりに使い倒され、誰も驚かない”設定”になってきているのだが前世の記憶がある以上、誰がなんと言おうと僕は転生者なのだ。

 

僕を観測できる目の前の貴方も、こんな創作物に数多く触れてきて飽きているだろ?

 

しかしながら僕にはそういった作品でよくある、やれ世界を救う力だ、飯が美味しくて絶対に外れない飯屋を営業させるだ、ディーボやディーヴァになり芸能界を総嘗めだといった能力は全くない。

 

しかも、この世界には類稀なる才能の持ち主がいすぎて飽和状態なので、後発な自分が出ても潰されるのがオチというわけだ。

 

本当にいつの世も不公平でクソッタレだ。と言うのは誰の言葉だっただろう……。

 

完全に同意である。

 

そんな自分がこの世界で生き残るなら、どうしたらよいだろうか。

 

さらに言うなら、ある程度食べるに困らないほどの金銭を稼ぐ事ができるなら上等、むしろ先方からお願いしてくるほどまで登りつめるにはどうすればいいだろう。

 

思いつく事を虱潰しにメモに残し、出来る事をやり続けること10余年。

 

僕はついに、事を成し遂げたのだ。

 

その事を説明する前に、今生きている僕の世界について軽く触れたいと思う。

 

この世界には類稀なる才能を持った人間が、今や飽和状態で存在している。

 

その名も”アイドル”。

 

彼ら彼女らは類稀なるルックスと表現力を持ち、この世界に君臨している。

 

今や伝説となって語り継がれる孤高のアイドル日高舞や、誰も寄せ付ける事ないアイドルの頂点である高垣楓を筆頭に、誰もがそこに登りたいと切磋琢磨しているのだ。

 

だからだろうか。

 

僕にとって慣れ親しんだ、あるコンテンツが全くと言っていいほど育ってないという現実が、たぶんこの世界の唯一の転生者である僕の意識を苛んだ。

 

その事実を知った時は泣いた。大いに泣いた。

 

前世では、あの0と1で構成されているディーヴァに出会って、僕は確かに救われていたのだ。

 

長くなるから過去の事は、ここでは触れないけれども。

 

時に笑い、時に泣いて、いつも僕に寄り添って支えてくれたそのコンテンツが現世ではないのである。

 

誰もが意識をせずに、のうのうと、口を開く言葉は”アイドル”の事だけ。

 

胃が痛くなるほど悩んで、悩んで悩み抜いた結果、僕は決めた。

 

この世界が持つ価値観に、一矢報いてやる---。

 

それは、前世で存在した数多のプロデューサーには失礼な事で、弓を引くことで、何を言われようが思われようが仕方がないだろう。

 

しかし、僕には我慢ができなかった。

 

100万人以上の心を揺り動かし、海外の人達をも魅了するほどの圧倒的な力を持った作品達が、僕の記憶の中で完結して消えていくかもしれないという可能性がある事に我慢できなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前世の鮮明に残る記憶を元にして、開発したバーチャルアイドル『ヴォイスロイド』の歌羽ハナ。

 

前世では、お手本となる存在が世界規模のディーヴァとして君臨していたので、創造やコンセプトを構築するのは容易かった。

 

時間がかかったのが現実に落とし込む為の作業だが、幸い前世ではプログラミングを職に持ちイラストも趣味で書いていたので、これも楽しくやれたのが大きい。

 

さて、僕が前世でいう”ヴォーカロイド”を作ったのには訳がある。

 

それは僕が生きる世界には、アイドルや歌手が履いて捨てるほど溢れていても、ヴォーカロイドという空想世界に生きながらも現実という次元を超えてきたコンテンツがないのである。

 

アイドルだけいればいい。とまで言われているこの世界。

 

そんなのはナンセンスだ。

 

前世もワールドクラス級のアイドルがいるにも関わらず、初音ミクは電子の世界で知名度を上げ遂には日本が代表する自動車のCMまで出演するにいたり、国内外から称賛を受けるにまでなっている事を見てきた身だ。

 

その方程式は壊せると信じているし、自分自身が信じないといけない。

 

未だに後悔と葛藤に押しつぶされながらも、僕は自力でこのコンテンツを復活させる事に決めたのだ。

 

色々なストレスで胃が痛くなるそれも、今日で終わりを迎える。

 

あとワンクリックすれば、彼女は全世界に解き放たれる。

 

彼女がこれから全世界に起こすであろう願いによる高揚感と、今でも公開してよかったのかと苛む焦燥感に振り回されながらも、僕はアップロードのボタンを押した。

 

願わくば、誰もが彼女の事を好きになる事を願って。

 

全世界には、この曲から贈りたいと思う。

 

maloPより、「ハジメテノオト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この1年後、僕はあの346プロダクションに半ば拉致の状態で招待させられていた。

 

「さて、君がこの動画を作った本人で間違いないのだね?」

 

威圧するかのようにこちらを睨んでくる美城常務が、ヤーさんを彷彿とさせるようですごく怖い。

 

「もう一度聞く。この動画は君が作ったもので間違いないんだな?」

 

額に青筋を立てながら今度は脅すようなドスの効いた声で質問してくる彼女に、首を縦に振る事しかできなかった僕を責めないで欲しい。

 

この世界で楽曲を発表したのは確かに僕なんだけれども、元々の著作権は各ボカロPにあると僕は思っている。

 

だから最初にアップした曲は勿論のこと、その後にアップした2曲にもクレジットにはその作品のボカロPの名を入れている。

 

なので、僕が作ったとは堂々というつもりはなく、美城常務の質問に肯定したいとは言えないけれども雰囲気に飲まれ肯定してしまった。

 

しかしどうしてだろうか。

 

動画配信サイトでも、僕の名前は一切出さず歌ってみた系のまとめ風にしてアップしている。

 

誰にも知られているはずはないのだ。それなのに。

 

「どうして私が知っているという顔をしているな…」

 

そんな疑問が顔に出ていたのか、先に切り出したのは美城常務の方だった。

 

「簡単なことだ。情報元は彼女なのだから」

 

---コンコンッ

 

タイミングよく、軽快なノック音が部屋に響く。

 

入ってくれ、と美城常務が声を掛けると失礼します、と可愛らしい声がしながらドアが開かれる。

 

彼女は---。

 

「そう、君は彼女を知っているはずだ。346プロに所属する小日向美穂の事を」

 

空いた口が塞がらないとはこの事をいうのだ。ということを初めて経験した瞬間であった。

 

ことの真相はこうだ。

 

ヴォイスロイドの核となる部分で、一番の問題点は”声”パートだった。

 

女性キャラでデザインをしている以上、声は女性でなければならないと言う僕のこだわりがあったので色々と探していた結果。

 

知り合いの中で、一番キャラクターとイメージが合ったのが彼女だったので、名前を公表しない事を条件に了承を得ることに成功したのだ。

 

少しとは言え、年も離れているから不安にさせるといけないので事情を彼女の両親にも話はしたし、彼女自身にも念の為に再度確認を取った。

 

収録も思っていた以上に長い時間拘束する羽目になったのでお小遣いを渡したし、念の為に皆には内緒にしておくように言ったのにも関わらず。

 

演技が出来ないと思って、素の状態でサンプリングしたのが仇になったようだ。

 

収録後から程なくして、彼女はアイドルデビューしている事から声質も似ていると思う人が表れ始めて、ファンの中では特定班達が、ヴォイスロイドの中の人は小日向美穂だと言う人も多い。

 

アップロード元の僕が黙ってれば、その内特定する人なんて消えるだろうと2作目3作目を更新して放置したところ。

 

「ハジメテノオト」は半年でミリオン再生に到達し、未だ再生数を伸ばし続けている化け物動画となっている。

 

そんな音楽を、業界は放っておくはずがない。

 

なので、いち早く彼女が所属している346プロが声を掛けたのだそうだ。

 

「という訳で、君には作曲作詞を依頼したい」

 

こんな事ってあるのか。僕はこれからの身の振り方を、真剣に考えなければならないようだ。

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