あのクソ烏に今までの鬱憤を晴らした翌日。
零はいつも通りに学校へと通学していた。
しかし、零は一つ忘れている事があった。
それもこれも全てはアザゼルのせいなのだが。
いつも通りの鬱陶しい朝日。
眠そうな学生達。
校門前で挨拶をしている先生。
そして、3階の教室の窓からこちらを見つめる紅い髪の女生徒。
そう、リアス・グレモリーである。
たった一晩で、あの公園でリアスから逃げた生徒が零だとバレたのだ。
何故そんなことになったのか。
それは一つの見落としがあったからだ。
零は距離的に、制服がバレても問題ない。顔は見られていない。
そう思っていた。確かにそこに関しては安心しても良かったであろう。
しかし、この学園で髪の色が白銀なのは零ただ一人だけなのだ。
あの時リアスは、走り去る前の零の後ろ姿を見ており、「駒王学園の制服」「男子生徒」「白銀の髪」この三つの情報を得ていた。
頭二つの情報。「駒王学園の制服」と「男子生徒」これだけならば特定される事も無かったはずだ。
しかし、「白銀の髪」たった一つ。この情報が加わっただけで一晩という短い時間で、零はリアスに、昨夜の生徒が零だということがバレたのである。
髪の色は時として、人を見つけるのに役に立つという事を読者の皆様は学べましたね。
こちらを見つめる、リアス・グレモリーから視線を外し、あぁ、絶対めんどくさいことになる。そう確信するのだった。
そして、何故バレた?いまだに理解出来ていない零はそんな事を思いながら校舎へと入っていったのであった。
そんな確信を抱いた日のお昼。
編入してから早2週間目に入ろうとしているが、何だかんだで友達もでき、そして、昨晩お腹に愉快な大穴を開けていたはずの男子生徒、兵藤一誠も、昨日のおなくなり一直線とは裏腹に、元気に登校してきていた。
うむ。今日も今日とて不思議がいっぱいなことである。
この世界には死という概念が無くなってしまったので有ろうか。
神様、仕事してください。まぁ、もう死んじゃってますし、俺も不死なんで人のこと言えないんですけどね。
そんな日々を過ごし、また1週間過ぎた頃だろうか。
いつも通りの日常、いつも通りのお昼休み。
嘘です。翌日でした。ちょっと日数稼ごうかなって思いました。
お昼休み、そんな兵藤一誠の元へ、他クラスの木場祐斗なる者が訪ねてきていた。
ん?周りの女子生徒が話しているのが聞こえたから、名前がわかったのである。
そもそも、他クラスの生徒なんぞ誰一人として知らん。
何か会話をしていると、ふとこちらを見るではないか。
待とう。そこの優しそうな顔をしたイケメン。
こちらを見るでない。やめなさい。とてつもなく面倒事の匂いしかしてこないから。
この間死にそうだった子が、まるで何も無かったかのように登校してきた次の日に、何の接点も無さそうなイケメンくんが来て話しかけるとか怖すぎるから。
ギャルゲか、ラノベの設定でもあるまいし、そんなモノに巻き込まれた暁には、俺は俺の全ての力を使って抗うと決めているんだぞ。
だから、そのにこやかな顔でこっちに寄ってこないで下さいませんか。
それに君、明らかに人間じゃない匂いがするんだもん。
しかし、そんな零の願い虚しく、しっかりと目の前で停止する木場祐斗。
「こんにちは。初めまして、僕は木場祐斗。君は上城零くんでいいよね?」
「あぁ。初めまして。俺が上城零であってるが、何か用か?」
周りからの視線、兵藤一誠からの視線、そして湧き出る貴腐人の方々。
やめて頂けないだろうか。うちの主人公様は決して淫夢よろしい趣味は無いのである。
生まれてこの方、女性以外をそういう対象に認識したことは一切ない。
「よかった。今日の放課後少し時間をくれないかな?うちの部長。
あぁ、僕はオカルト研究部って言う部に所属してるんだけど、そこの部長が君たちに話しがあるそうなんだ」
何が良かったのだろうか。
明らかにわかっていてこちらに来ていたとしか思えない。
完璧にロックオンされていたのは認識している。
そして部長と言うのも、きっとあの紅い髪の女子生徒の事なので有ろう。
彼と同じ匂いがしていたから、人ならざるモノからしたら丸わかりである。
「オカルト研究部?なんでまた。俺、そういうの興味あるって話もした事ないし、誰一人として知り合いは居ないのだが?」
三十六計逃げるに如かず。
厄介事に巻き込まれそうなら、そこから逃走する手段を一つや二つ用意していない訳が無かろう。
俺は絶対にこいつらとお関わりになりたくはない!!!
「そうだな。君にわかりやすく言うのなら、一昨日の放課後過ぎ、公園にいたよね?」
明確な日時とシチュエーションを提示してくるイケメン。
しかし、この男伊達に600年以上生きてきただけはあるのだ。
「いや?俺はその日公園じゃなくて、住宅街の方から帰ってたから公園には寄ってないが?」
その日、人払いの結界を通過して帰時に着いていたことが幸をなした。
自分をみた者は居ないということ。
これならば逃げ切ることができると確信していた。
「え?そうなんだ。んー。来てくれないと僕が困るんだけどな…。まぁ、部長に呼んできて欲しいって頼まれてるし、上城くんも申し訳ないんだけど、放課後残っててくれるかな。よろしくね」
そう言うとイケメンはしれっと自分のクラスへと帰って行った。
「いや、は?」
最近の若いやつは言いたいことを言って去っていくのか?
零の心に浮かんだことはそれだった。
しかし、よくよく思い返して欲しい。
お前もヴラド二世に言うだけ言って、君主を譲り渡しどこかへ行って無かったか?と。
デジャブである。
因果応報である。
唖然としたままの顔で、木場祐斗を送り出した数秒後予鈴が鳴るのであった。
帰りのSHRも終わり、木場祐斗から待つように指定があった放課後。
教室には、数人の生徒が喋りながら帰宅の準備を整え、校庭からは部活動に勤しむ生徒たちの声がきこえてくる。
そんな2年1組の教室で、兵藤一誠は木場祐斗を待っていた。
微かに廊下がざわついている。
主に聞こえる声は、女子生徒のものだろう。
自分から近い、教室の後ろ側の扉が音を立てて開くと、お昼休みに待つように伝えてきた木場祐斗が笑みを浮かべ立っていた。
「やあ。兵藤くん。待たせたかな?」
「いや。そんな事ないぜ。早く行こうか」
「そうかい。所で、上城くんは?」
「あいつなら帰ったぞ?」
「は?」
もう一度言おう。
三十六計逃げるに如かず!!
我らが主人公、レイ・ドラクレシュティは帰路へと着いていた!!!
木場祐斗が教室を去ってから、零は気づいたのである。
いや、普通に帰っちまえば良くね?と。
その結果、SHRが終了後何食わぬ顔でカバンを手にしれっと下駄箱まで歩き、靴を履き、校舎内からの脱出に成功。
その後、視線を感じぬうちに、学校敷地内から撤退。
無事に自宅へとたどり着いていた。
後に零はこう語っていたとか。
「待つように言われたが、待っているとは答えていない」
しかし、零は知らない。
例え零がその場に行かなかったとしても、厄介事は向こうからやって来ることを。
物語は勝手に進んでいくことを。
認識阻害と防音の陣を敷いてある家へと帰宅した零は、いつも通りにご飯を食べ、シャワーを浴び、特に誰も来ることなく睡眠を取るのだった。
駒王町の上空にて、人が一人街を見下ろす形で浮いていた。
その視線の先は、先程零が通り過ぎた閑静な住宅街。
その姿を目に入れ、後を追うように視線を動かしていたが、瞬きをした一瞬のうちにその姿は消えてしまっていた。
当たりを見回すが、周囲にその姿を見つけることは出来なかった。
それが、約2時間ほど前の事だ。
その人物は、約2時間この場所で浮いていた。
「我。見つけた」
そう言葉を残すと、2時間浮いていたその身体を、まるで初めからそこに存在しなかったかのように消滅させたのだった。