翌日。
零はしれっと登校していた。
昨日の呼び出しを無視したのにも関わらず。まるで初めから呼ばれていないかのような顔をして、教室の自分の席に座っていた。
木場祐斗は通りかかった零たちの教室にそんな零が居ることに気づき、いつも通りのにこやかな笑顔を浮かべながら、そんな零へと近づいていった。
「やあ、上城くん。昨日はなんで待っててくれなかったんだい?」
朝から面倒事に直結する奴が来た。
心底うんざりした表情を浮かべなかっただけ、良しとして欲しい。
顔は笑顔で、心ではうんざりしながら木場祐斗へと顔を向ける。
「おはよう。悪いな、昨日は他に予定があってな、待ってることは出来なかったんだ」
もちろん嘘である。
こやつ、昨日は帰宅してからいつも通りに過ごし、寝ている。
予定なんてものは全く存在していなかった。
「あぁ、そうだったんだ。それじゃあ仕方ないよね。今日は特に予定はないんでしょ?」
「今日は大丈夫だ」
「そっか。なら今日は放課後、ここで待っててくれるかな。迎えに来るから」
そう言うと、木場祐斗は笑顔を浮かべたまま自分の教室へと帰って行った。
だが、敢えて言おう。
皆様ならお気づきであろう。
全くもって、行く気の無い零は今日もしれっと帰ろうと思っている。
予定がないと言っただけで、誰も行くとは言っていないのだ。
言質を取られていない以上、この男、なんとしてでも行かない姿勢は崩さない。
誰が好き好んで、面倒事っぽいものにホイホイついて行くんだよ。
都市伝説部だか何だか知らんが、俺は行かん!!
そう心に決めた零は今日も今日とてSHRが終わって直ぐに、帰宅するのであった。
そんな事が1週間程続いただろうか。
帰路での視線に加え、学校での木場祐斗の誘いを悉く無視を決め、一週間。
木場祐斗もついに気づいてしまった。
「いや、上城くん来る気ある!?」
逆に何故一週間もそれに気づかなかったのかが不思議で仕方がない。
行く気なんてものはそもそも存在していないのだから!
「いや、全くないな」
「そんな、何を当たり前な?みたいな顔しないでくれるかな!?」
だが、残念なことにこの日はついに木場祐斗に捕まってしまった。
いつも通りに、しれっと帰ろうと下駄箱へと向かうと、少し引き攣った笑顔の木場祐斗がそこで待ち構えていたのだ。
逆に、一週間よく逃げ切ったと褒めて欲しいくらいである。
「はぁ、まぁいいや。今日は来てもらうからね!」
これ以上、逃げ回っていたら直に自宅まで来そうだと判断した零は、致し方なくついて行くことにした。
確かに、認識阻害の陣を引いてはいるが、そこまで本気で掛けているわけでは無いので、探知が特にな者がいればすぐにでもバレてしまうだろう。
それに、自宅までの帰路を追跡されたら確実にバレる。
「あぁ、わかった。今日は行こう」
そして、一週間という時間を費やし、やっと木場祐斗はオカルト研究部へと零を連れていくことに成功したのだった。
零が連れてこられた部屋は、旧校舎の一室。
その部屋に置かれたソファーへと腰掛けていた。
対面にあるソファーには、紅髪の女生徒が座り、その後ろに木場祐斗、兵藤一誠、黒髪のポニーテールの女生徒、小柄な白髪の女生徒が立って此方を見ている。
ふむ。面接か?面接官が多いのだが?何をそんなに警戒している?
そんなくだらない事を考えていた零へと、目の前の紅髪の女生徒が口を開く。
「初めまして、でいいかしら。上城零くん。私は3年のリアス・グレモリーよ、よろしくね」
「あぁ、初めましてだな先輩。で?俺に何の用だ?」
簡潔に簡単に話を終わらし、さっさとこの面倒事を持ってきそうなメンバーから離れたい零は、早々に話を切り出した。
「そうね。イッセーの事は知っているわよね?」
「うちのクラスメイトだろ?俺が編入してきた日に血涙流しながら、睨んでたから覚えているぞ」
リアス・グレモリーの後ろに立つ兵藤一誠を見ながらそう述べる。
そんな兵藤一誠を苦笑しながら、一目見たリアス・グレモリー。
「貴方、イッセーが殺されそうだった時に、あの場所に居たわよね?」
「ほぉ、そんな事があったのか。一生徒が殺されかけるとは、通り魔か何かか?」
零の言質を取られないようにした発言。
恐らく、零は昔の君主としての経験から、不利となる発言はしないようにしているのだろう。
一種の職業病である。居たとも言わず、居ないとも言わない。
「えぇ、一週間ちょっと前かしらね。その時その場所で、私は貴方の後ろ姿を見ているのよ」
「後ろ姿、ね。何故後ろ姿だけで俺だと判断した?」
皆様、覚えているであろうか。
この男いまだに理解していないが、校内で白銀の髪は自分しかいないことを。
「俺を呼んだと言うことは、恐らくこの学園の制服を着た男子生徒だったんだろう。しかし、学園の制服と男子生徒という情報だけで、なぜ俺を呼び付けた」
髪の色です。零。
君が気づいてないだけで、髪の色でバレてますよー!
「そうね。私が見たのは駒王学園の制服を着た男子生徒よ」
「それならば、他にも数多くいるだろ」
「そうね。でも、貴方以外有り得ないのよ」
「それは何故だ?」
「私が見たのは、駒王学園の制服を着た白銀の髪をした男子生徒だからよ。この学園で、白銀の髪をしているのは貴方以外いないのよ」
この瞬間、零はやっと理解した。
いや、させられたと言ってもいいだろう。
いくら言質を取られないようにしようが、全くの無駄。
全ては己の髪の色一つでバレていたのだ。
リアス・グレモリーのその発言から、何分経っただろうか。
真顔のまま固まった零と、そんな零を見つめる10個の瞳。
あれ?これ無理くね?
逃げ道は絶たれた。
他の学園生と言うことも出来る。
しかし、この学園に姉妹校が無いのは知っているし、この付近に、この学園の制服と見間違えるような、似た制服の学校は存在していない。
そう、完璧に退路は無いのである。
「……確かに、俺だな。だからといって何か問題があるのか?
確かに、あの瞬間何故救急車も呼ばずその場から逃げたのかと言われたら、人道に反する行いかもしれないが、あの場には人が居たのだから俺でなくても良かったはずだろ?」
「そこに関しては何も言うことは無いわ。でもね、貴方、見てたわよね?あの堕天使と私の事を」
「ほぉ?堕天使ね。そんな伝説みたいな存在がこの世界に存在するとでも言いたいのか?」
「貴方は知ってるはずよね?貴方だってこっち側の筈なのだから」
リアス・グレモリーのその一言に、一瞬眉が動く。
しかし、それを否定しようと口を開きかけた零に、更にリアス・グレモリーは言葉を続ける。
「否定しようとしても無駄よ?この子、貴方が人間じゃないって教えてくれたの」
そういい、後ろに立った白髪の女生徒に目を移す。
この部屋に入った瞬間から、零は人外の存在しか居ないことに気づいていたが、その中でも二つの気配を発する二人の人物がいる事に気がついていた。
その内の一人である白髪の女生徒。
「塔城小猫です…よろしくお願いします…」
塔城小猫。そう名乗った女生徒から感じるのは、
目の前のリアス・グレモリーや、木場祐斗から感じる気配と、俺や京都に居るあいつと同じ気配の二つ。
それが混ざったに気配がしていた。
なるほど。感知に特化した妖なんだな。
「確かに俺は人では無いな。だからなんだ?この学園にも居るじゃないか。お前らと、生徒会のメンバーもそうだな」
「気づいていたのね。そうよ、私たちと、生徒会のメンバーは悪魔なの」
そう言うと、リアス・グレモリーを筆頭に、後ろで立っていたメンバーの背中から蝙蝠のような羽が生える。
俺の翼に似ているな。
「それで、貴方はどこの勢力の人なのかしら?それともはぐれ?」
リアス・グレモリーのその一言で、後ろに控えていた木場祐斗や塔城小猫、黒髪ポニーの女生徒が何時でも動けるように芯をズラしたのがわかった。
「ふむ。どこの勢力、と言われても俺にはイマイチ分からないんだが?」
「悪魔で無いのは分かるわ。もし悪魔からこの学園に生徒が来るなら、お兄様が教えてくれるはずだもの。でも、お兄様からはそんな連絡は来なかった、ということは、貴方は天使、もしくは堕天使の可能性があるわよね?私が思うに、貴方は堕天使勢力じゃないかしら?」
見当違いもいい所だが、一応そう思う理由くらい聞いてもいいだろ。
無駄に話していたせいで、外ももう暗くなり始めているし、もう18時過ぎだ。
もう満足いくまでお付き合いしてやろうじゃないか。
「何故そう思った」
「ここにいるイッセーは2度堕天使に狙われたの。何でかは、まぁ、理解しているわよね?ちょうど貴方がこの学園に編入して一週間後に起こったの。恐らく貴方はこの学園に入って、イッセーの動向を向こう側に伝えていたんじゃないの?でも、イッセーは死ななかった。だからきっと、近々貴方がイッセーを殺そうとする。違うかしら?」
タイミングが悪かったとしか言いようが無いだろう。
間が悪かった、だから俺が疑われ、今警戒されているのだろう。
ならば、その間違いを訂正するのが俺の仕事になるのだろう。
「確かに、そう考えられなくもないな」
「じゃあ、貴方は堕天使なのね!」
その一言で、先程体制を整えていた二人がこっちに向かって迫ってくる。
1番早く俺に攻撃してきたのは木場祐斗だった。
いつから持っていたのか、その手に持った剣で俺の肩を狙って突きを放つ。
その剣を、人差し指をそっと当て、軌道をずらし、顎へと衝撃を与え脳震盪を起こさせる、その後を追うように迫っていた塔城小猫の拳を受け止め、腹に手を当て発勁を使う。
最後に、動かなかったが、リアス・グレモリーの後ろで何か陣を発動させている、黒髪ポニーの女生徒を背後から膝を崩し、腕を取って無力化する。
この間約、5秒の出来事である。
「俺の話も聞かずに殺そうとするのは少し早計じゃないか?」
「っ!?…貴方いつの間に!?」
リアス・グレモリーと、兵藤一誠は俺がソファーから動いて女生徒を無力化したのが見えていなかったのだろう。
さっきまで俺が座っていたソファーでは、木場祐斗が上半身を預ける形で、崩れ落ちており、塔城小猫はソファーの下で崩れ落ちている。
兵藤一誠に置いては横で驚いて固まっていた。
「俺はそういう考え方が出来ると言っただけで、俺が堕天使だとは一言も言っていない」
「私の可愛い眷属をよくもっ!!」
その一言と共に、リアス・グレモリーの手の平に陣が現れ魔力弾が飛んでくる。
少し位置をずらす事によって、その魔力弾を避け、リアス・グレモリーの両腕を取り、クロスするようにリアス・グレモリーの腕で首を絞める。
「話を聞く気があるのか?そもそも、この結果は貴様が招いたものだろ?俺は一言も堕天使だとは言っていないにも関わらず、貴様の憶測で俺を堕天使だと決めつけた結果が目の前の結果だ。1度目は見逃そう。だが、次は無いぞ?いいな?」
そう問いかければ、リアス・グレモリーは納得したのかしてないのかは分からないが、一応頷いてみせた。
それを見て、零は両腕を掴んでいた手を離す。
咽るリアス・グレモリーを横目に、ソファーへと戻り話を続ける。
「さて、それじゃあさっきの話を続けようか。
確かにお前が考えていた事も一理ある。しかし、俺は堕天使でも無ければ、その堕天使陣営ってやつでもない」
あまり強くやらなかったからだろう。
木場祐斗は脳震盪が治った用で立ち上がり、こちらを警戒しながらリアス・グレモリーの方へと下がっていく。
塔城小猫も、向こう側へと下がっていた。
黒髪ポニーの女生徒に関しては、俺がリアス・グレモリーの拘束を解いた後位に立ち上がってこちらを警戒している。
「じゃあ、貴方は何だって言うのよ」
そんな零を睨みながら、リアス・グレモリーは問いかけた。
俺睨まれすぎじゃない?
そのリアスの問いかけとともに、零の背中から蝙蝠に似た、悪魔とはまた違う大きな翼が生える。
「俺はヴァンパイアだ。日本だと吸血鬼って言うな」
それを見たリアス達は、少し唖然としていた。
恐らく予想していなかったのだろう。
悪魔だの堕天使だの言っていたのに、いざ蓋を開ければ目の前にいるのは妖。
「で?俺への疑いは晴れたのか?」
零の言葉に、今まで警戒していた黒髪ポニーやこちらを睨んでいた木場祐斗、塔城小猫が警戒をやめ、申し訳なさそうに視線を下げる。
それはリアスも一緒だった。
「ごめんなさい。本当に私たちの勘違いだったわ」
「まぁ、疑いが晴れたのならそれでいい。さっきの事は水に流してやるよ」
さて、話は以上のようだし俺は帰らせて貰おう。
そう思い、零がソファーから腰をあげようとした時、ふとリアスが言葉を漏らす。
「ねぇ、上城くん。貴方、私の眷属にならない?」
唐突に何を言ってるんだこいつ?
眷属にならないか、だと?
「それはどういう意味だ?」
リアスは零を見ながら、スカートのポケットから紅いチェスの駒を出す。
「貴方は知らないと思うけど、これは
それをどうにかする為に、魔王様の一人、アジュカ様が作った駒なの」
「悪魔は面白い物を作るな。それを使って、お前の眷属にってことか?」
「えぇ、そうよ。悪魔になる気はないかしら?」
「それはお前の手駒に慣れって意味か?」
「そういう意味じゃ無いのだけど、まぁ、そう捉えられてしまうわよね。他にも理由はあるのよ?態々貴方を監視しなくてよくなるし、貴方が私の眷属になれば、貴方を疑うようなことも無くなるわ」
「悪いが断らせて貰う。」
その誘いを零は即答で断った。
「俺は俺より弱い奴につくつもりは無い。とは言わないが、眷属と言うことはお前を頭に据えるという事なんだろ?悪いが、憶測で物事を判断し、早計な判断を下すような王で、その王の決断によって落さなくてもいい命を落とすかもしれない。そんな王の元には着きたくは無い。失礼かもしれないが、それは最早愚王と言っても過言ではない。俺ほどとは言わんが、せめてヴラド三世位の王になら着いてやらんことも無い。それじゃあ、俺は帰らせて貰うとする」
驚いた表情をするリアス達を置き去りに、その場で蝙蝠へと変化し窓から外へと飛び去って行く零であった。
零が去った後の部室ではこんな会話が繰り広げられていた。
「部長。彼の最後の言葉は」
「えぇ、まるで昔は王様だったみたいな発言だったわね。しかも、態々
「ですが、ツェペシュ公位と言うことは、彼の眷属であったわけではありませんね」
「少し、調べてみましょうか。それと、皆、今日はごめんなさい。私のせいで…」
「大丈夫ですよ部長。お気になさらないでください」
黒髪ポニーの女生徒の言葉に、同意とばかりに塔城小猫や木場祐斗、兵藤一誠は頷く。
「朱乃、それにみんなもありがとう」
こんな予定では無かったのだが…