憂鬱、とはまさにこの事だろう。
昨日の放課後のオカルト研究部での一件で、零は少し反省していた。
いくら王としての格が低いからと言っても、あれはなんでも、初めましての女性への対応ではなかった。
あんな事を言ってしまった翌日の登校なんぞ、地獄でしかない。
しかも1人は同じ教室なのだから、なお最悪である。
それでも、自分が言ったことが間違っているとは思ってはいない。
王の判断が、家臣の命を左右するのだ。
早計な決断を下し、裏ずけも確証も無いうちに物事を決めてしまえば、失わなくていい命を失う。
確かに、そういう確認を取る時間がない場合もあるが、昨日の事に関していえばいくらか早計過ぎたと言わざるをえないだろう。
兵藤一誠の命が狙われていたのなら、護衛を付けるなり、数人で行動するなりの対策を取りつつ、俺の身辺調査を行い、確証を得てから話し合いの場を設ければ良かったのだ。
そんなことを考えながら、今日も今日とて教室の席で窓の外を眺める零。
今まさに零が考えていた確証や、裏ずけをとるためにオカルト研究部が動いているとはつゆ知らず、いつも通りに過ごしていく。
最近は、特に誰かが家に来ることも無く、穏やかな日常を過ごしている。
時折、帰路にて視線を感じるが、それそはそれである。
それからまた2週間ほど経ったであろうか。
何時もより賑わっている教室。
周りの声から察するに、転校生がこのクラスへと来るらしい。
担任の教師と共に入ってきたのは、金髪慧眼の女生徒だった。
可愛らしい見た目に浮かれる男子生徒を他所に、その体から発せられる、悪魔の気配に零は、また一人増えた。と、ため息をついた。
さて、その転校生、アーシア・アンジェルトが加わったオカルト研究部へと二度目の呼び出しを受けた零。
呼び出しを受けたと言うより、ほぼ強制的に木場祐斗、兵藤一誠に連れてこられたと言っても過言ではないが、前回のようにソファーに座りながら目の前のメンバーを見つめる。
「この間はごめんなさいね」
「いや、気にしないでくれ。俺もあれは言いすぎた」
始まりの会話は、リアスからだった。
前回のように警戒されているわけではなく、こちらをただ見つめるだけのメンバーと、比較的穏やかな雰囲気を纏ったリアス。
そして、イマイチなんで呼ばれたのか分からない零。
その理由は、すぐに分かった。
「きっと気づいていたと思うけど、この子。私の新しい眷属のアーシアよ。仲良くしてあげてね」
「クラスメイトだからな。まぁ、話すような事があれば仲良くはしよう」
「そう。改めて聞きたいのだけど、私の眷属になる気は無いかしら?」
またその話か。
前回断っただろうが。
「答えは変わらん。断わらせてもらう」
「どうしてもなりたくないと?私たちとしても、今のところ不穏因子である貴方に監視として人員を割くより、眷属として私の元に来てくれた方が少し気が楽になるのだけど」
「それはそっちの事情だろ。俺にはメリットがない」
「貴方も毎日監視されるのは嫌じゃないかしら?」
この事は、零も考えていなかった訳では無い。
零も色んなツテを使い、リアス・グレモリーの事を調べていた。
この駒王町の管理者らしく、現魔王サーゼクス・ルシファーの妹。
性格はワガママらしく、我儘姫なんて言う渾名まで着いている。
そして、グレモリー家は愛情深い悪魔であり、眷属に深い愛情を注いでいるのは、前回のリアスの行動を見ればよく分かる。
そんなリアスが、不穏因子である零を放置しておくわけが無い。
それを考えた時に、零は一つ妥協案を考えてきていた。
「確かに、毎日毎日監視されるのは俺としても気分が悪い。
だから、一つ案を持ってきた」
「その案というのは?」
「眷属にはならんが、何かしら困った事があれば力をかそう。
それと、この部屋へ放課後は可能な限りは顔を出す。それでどうだ」
監視されるくらいなら相手の懐にいた方が楽というもの。
少し面倒事に巻き込まれそうではあるが、協力するという条件付きなら、まぁ何とかなりそうなものである。
「そうね。まぁ、それで良しとしましょうか」
「交渉成立だな。それじゃあ、よろしく頼むわグレモリー先輩」
「ええ、こちらこそよろしくね上城くん」
お互い握手を交わす2人と、それを見つめるメンバー達。
これで、零が物語へと巻き込まれることは決定した瞬間である。
さてさて、その後は話した通り放課後は頻繁にオカルト研究へと顔を出すようになった零。
元々、人付き合いが苦手な訳では無いので、オカルト研究メンバーとも親交を深めつつ、まったりした学園生活を過ごしていた。
別段悪魔になった訳でもないので、悪魔稼業の手伝いやらなんやらは一切しないが、それが終わるまでは部室待機をしながら、黒髪ポニテ女生徒、姫島朱乃のお茶を飲みつつ、リアスとチェスを打ったり、木場祐斗、兵藤一誠と日常会話をしたり、塔城小猫を餌付けたりと有り得ないくらいその場に馴染んでいた。
学園に通い、夜はオカルト研究と親交を深める。
そんな日々が続いたある日。
零がオカルト研究の部室へと向かうため、旧校舎へと向け歩いているとふと、旧校舎側からいつもとは違う気配を感じた。
どこかで感じたことのある気配だな。どこだっけか。
そんなことを考えながら、オカルト研究へと向け足を進めるていると、不意に気配が一つ増える。
あ、絶対面倒事だろ。
確信を抱きつつ、しれっと窓から室内へと侵入。
そこには、ソファーに座るリアスの横で、まるでホストみたいな見た目をした男が肩に腕を回していた。
そんな事よりも気になったのは、リアス達の近くに立つメイドの姿だった。
「ライザー!私は貴方と結婚する気は無いわ!」
そんな零を他所に話は進んでいたらしく、リアスはホスト崩れの手を払い声をだいにして宣言していた。
さて、それでは久々に面倒事に首を突っ込むとしましょうか
「んで?俺にもわかるように説明してくれないか、グレモリー先輩?」
今気づいたとばかりに、その場にいたオカルト研究部メンバーとホスト崩れ、それと銀髪のメイドがこちらへと振り向く。
「上城くん。来てたのね」
「誰だその人間は?」
少し驚いた表情をしたリアスが言葉を投げかけ、ホスト崩れがこちらに向かって睨みつけてくる。
銀髪メイドは本当に驚いたとばかりに、少し目を大きく開き口元に手を当てている。
はて?この子どっかで見たことあるような?
「誰だか知らないが、今少し虫の居所が悪いんだよ。失せろよ人間」
ホスト崩れから言葉に、表情を変えることなく零はホスト崩れを見る。
「俺からすれば、お前の方が誰だか知らんやつなんだがな?
挨拶のひとつもまともに出来ねぇのか?ホスト崩れ」
「あぁ?テメェ、今なんて言った?」
どうやら沸点が低いようだ。
実に見た目通りである。
「耳も悪きゃ、頭も悪いって救いようがねぇな。ホスト崩れ」
「はっ!死ねよ人間!!!」
その一言と共に、ホスト崩れから炎が巻き上がり、零へと向かって炎の玉が飛んでくる。
そのまま返してやろうと、手をあげようとした目の前に人影がスっと入ってきた。
それは、先程まで向こう側で立っていた銀髪メイドだった。
ホスト崩れが飛ばして来た炎を消し去り、こちらへと振り向くとまるで何年も離れていた恋人へ接するかのように零の頬へと手を添え、少し涙ぐんだ瞳で真っ直ぐに見つめる。
あ、思い出した。この子あの時の───
「お久しぶりです。レイ様…。あれから500年、もう会えないかと思っていました……」
「グレイフィア、だったよな?久々だな。姉妹揃って元気にしてたか?」
「はいっ。あの時は本当にありがとうございました。姉共々助けていただいて…」
昔、銀髪の姉妹を助けたことあったわ。
その時の子だ。うん。思い出した。
「しかし、昔よりまた綺麗になったな?一瞬誰か分からなかったぞ」
「そうですか。綺麗、ですか。ありがとうございます」
優しく微笑むグレイフィア。
その笑みへと笑みを返す零。
因みにだが、未だにグレイフィアは零の頬へと手を当てたままである。
なんですか?ラブコメですか?
そんな二人を唖然と見つめるオカルト研究部メンバーと、ホスト崩れ。
周りが空気と化してますよー!!!
「あ、グレイフィアそういえば、さっきのグレモリー先輩の結婚がどうとかって教えてくれるか?」
「はい。それはですね────」
そうして語られたのは、純血悪魔の繁栄の為の婚約と言う。
そして、その婚約をリアスが拒否した場合にはレーティングゲームなるもので決着を付けるらしい。
なんだ、政治的なあれか。
しかし、手を貸すと言った手前、一応は聞いておかねばならぬだろう。
「グレモリー先輩。手を貸しましょうか?」
「そ、そうね。お願いしてもいいかしら?」
「そういう約束ですからね」
今まで空気だったリアスに零が問いかければ、少し動揺した様子で返答を返す。
どうやら、目の前で起こっている零とグレイフィアのやり取りが衝撃的だったようだ。
しかし、この話し合いにはもう一人当事者がいる。
そう、腐れホスト崩れだ。
「はっ!?…リアス。ここにいる奴らが君の眷属か?」
「上城くんは違うけど、他の子達はそうよ?」
どうやら腐れホスト崩れは、零とグレイフィアのやり取りを記憶の彼方に消し去る事にしたようだ。
ついでに存在も。全くこっちを見ない。
「そうか。君の
腐れホスト崩れの一言と共に、部室内に燃え盛る魔法陣が現れる。
あれ、部屋の備品とか燃えないのか??
渦巻くように消えゆく炎。
その中から現れたのは、15人の美女、美少女達だった。
それを見た、兵藤一誠は大号泣である。
いや、なぜ泣いた?え?なんで泣いてんの?
「ん?そこの奴はなんで泣いてるんだ?」
ホスト崩れも同じ疑問を抱いたようだ。
俺も気になる。なぜ泣いている?
「イッセーの夢はハーレム王になることなのよ。だから、貴方の眷属を見て泣いてるんじゃないかしら?」
リアスのその言葉に、向こう側の女性陣から野次がとぶ。
しかし、リアスのそんな言葉より気になることが一つある。
それは───。
「ところで、上城くんとグレイフィアはいつまでそうやってるのかしら…?」
そう。
みんな忘れているかもしれないが、未だに零とグレイフィアは見つめあったままなのだ。
時折、ホスト崩れがこちらをチラチラ見てきたり、ホスト崩れの眷属達が、少し頬を赤らめながらこちらを凝視していたり、グレモリー先輩も少し笑みが引き攣っていたりするが、俺は悪くない。
俺の顔からてを離さない、グレイフィアが悪いと思うんだが?
「あぁ、すまん。グレイフィア、手を離してくれると嬉しいんだが」
「すいません。少し感情が爆発してしまったみたいで」
そう言うと、グレイフィアは零の頬から手を離す。
しかし、そっと零の後ろへ控えるようにして佇むと、零の制服の袖をキュッと摘むのであった。
「後ほど少しお話がしたいのですが、よろしいですかレイ様?」
「ん?あぁ、問題ないぞ」
そう返答すれば、まるで花が咲いたかのような笑みを浮かべるグレイフィアであった。