この世界には、魔法と呼ばれる力がある。それぞれの人間に適した属性があり、火、水、雷、風の4種類のがある。これらを基本属性魔法と言う。この中から適した属性のみを使用することができる。
複数の属性の魔法を使うことが出来る者もいる。その者たちを複数魔術師、通称『マルチ』と呼ぶ。
基本の4属性以外の属性も存在し、土、氷、光、影の4種類である。これを上位属性魔法と言う。
更に、属性魔法以外にも特質魔法というものがあり、治癒魔法などがこれに当てはまる。
ただし、複数魔術師や上位属性魔法、特質魔法を持つ者はごくごく稀であるーーー。
「ふぅ」
俺は一息つき、読んでいた本を机に置いた。
今読んだ内容を振り返る。
「魔法、か」
魔法の発現は生まれてから5年目。そして俺は明日、5回目の誕生日を迎える。つまり、明日が俺の魔法の発現日なのだ。
どのような魔法が使えるようになるのか、とてもワクワクしていた。
物思いにふけっていると、ドアが音を立て開かれる。
「なんだカイラ、また本を読んでいたのか」
そう言ってきたのはガタイが良く優しそうな顔つきの男性。名前はズオラ=ランペイジ、俺の父親だ。
「はい、ズオラお父様。申し訳ありません」
「はっはっは。別にいいさ」
ズオラは優しく笑うと、俺が読んでいた本に目を落とす。
「それにしてもカイラは賢いな。もうこんな難しい本を読んでいるのか。俺が小さい時とは大違いだ」
「そんな‥‥賢いなんて、恐縮です」
俺が読んでいたのは魔法についての本。俺は本が好き‥‥というよりも色々な知識を得るのが好きで、父の書庫に入っては本ばかり読んでいた。
「いよいよ明日だな。カイラ」
「ええ、お父様」
明日、ついに分かる。何度妄想を膨らませたことか。魔法を使っている自分の姿を。
「ただな。別に魔法なんて使えなくてもいいんだ」
「‥‥と言いますと?」
俺は父の言葉の意味が分からなかった。使えないより使える方がいいではないか。当然ながらそう思っているからである。
「俺はな、家族4人で幸せに暮らせれば、それで十分だ」
「ーーーっ!」
それを聞いた瞬間、俺は心の底から思った。
ああ、この人が父親で良かった。この人の子供でよかった、と。
次の日、俺たちは適正属性を鑑定してもらうため、教会に向かっていた。
教会には属性を鑑定する魔法を使える人物がおり、俺たちは見てもらうことになっていた。
ちなみに俺たちというのは、俺と双子の妹、セイラの事である。
セイラは俺とは正反対のでとても愛想が良く、元気がいい。
俺が書庫にいるとよく入ってきては、俺に遊んで欲しいとせがんでくる。
俺もセイラとの時間は楽しいので、よく外に出て遊んだりする。
「ねえねえ、お兄様!お兄様は使うならどの属性がいいですか?」
「うーん、どうだろう。全部がいいかな」
「あはは、欲張りですね!でも、お兄様らしいです!」
俺が冗談で言うと、セイラもそれに乗っかって可愛く笑って見せた。
本当、よくできた妹だと思う。
教会に着くとシスターに案内され、主祭壇のところに連れられた。主祭壇には神父が立っており、綺麗な水晶玉が置いてあった。
自己紹介をし、説明を聞く。
簡単なことに俺らはその水晶玉に手を置くだけでいいらしい。
「まずはセイラ=ランペイジ、君からだ」
神父に呼ばれ、セイラが主祭壇に立つ。
固唾を飲んで見守る。自分の番ではなくても、緊張してしまう。
対してセイラは、希望に溢れた顔で水晶に手を当てていた。
「!」
その上から神父が手を重ね、突如、水晶が激しく光り出した。
あまりの眩しさに俺は目を瞑ってしまう。
かろうじて薄目でセイラの後ろ姿を見守る。
手を置いて1分ほど経った頃だろうか、セイラに異変が起きる。
なんと、セイラの体が赤い光に包まれていたのだ。そこから色は、青、緑へと変化し、最後にはキラキラと輝き出した。
「こ‥‥れは‥‥!」
神父が驚愕の表情を浮かべていた。また、周りのシスターたちもどよめいている。
光が徐々に収まり、全て消えた。
どうやら終わったらしい。水晶にもヒビが入っている。それと同時にセイラがフラフラとよろける。
「セイラ!大丈夫か!」
俺はセイラの近くに駆け寄り、肩を貸す。
「ご心配ありがとうございます、お兄様。大丈夫です‥‥!」
そう言いながらも目を閉じ、気を失ってしまった。
「大丈夫だよ、少し疲れているだけだ。時期に目が覚める」
神父にそう告げられ、ホッとする。
実は鑑定の際、よくある事らしい。
「頑張ったな、セイラ」
父はそう言うとセイラを抱き、神父の方を見る。
「どうでしたか?セイラは」
「‥‥‥‥‥驚かずに聞きなさい。その子は‥‥複数魔術師、マルチでした」
「ーーーっ!」
この言葉にはここにいる誰もが驚愕した。父も、母も、シスターたちも、もちろん俺も。
マルチとはすなわち、複数の属性魔法を使えると言うこと。稀有な存在だ。だが、驚くべき内容はこれだけではない。
「それだけではありません。彼女が使える魔法は全部で4つーーー。本当、信じられません。適正属性は、火、水、風、最後に光です」
4つも使える上に、1つは光、上位属性魔法だ。
本で読んだことを思い返す。マルチ、又はハイパーは一騎当千。その両方を持っているセイラはもはや‥‥。
また、一つの属性しか使えない者と複数魔術師マルチでは使える魔力量に差がある。2つなら2倍。3つなら3倍というふうに増えていくらしい。
つまり、セイラの魔力量は普通の人の4倍‥‥ということだ。
魔法に優れている父と母も驚いている。セイラの規格外さ、正真正銘の生まれ持っての天賦の才に。
神父は震えた口調で続ける。
「末恐ろしいですよ。こんな子は初めてだ」
あまりの事に、神父の顔は青ざめていた。
そして周りのシスターたちもざわざわと騒ぎ出し、やがて視線は俺へと移る。
セイラと俺は双子なのだ。当然、セイラと同様の結果を出しても不思議ではない。
よく、『魔法は遺伝子で決まる』と言われてる。俺の両親は優秀だったと聞いている。つまりセイラの結果は突然変異でもなく必然だったのかもしれない。
「カイラ=ランペイジ、次は君だ。上がりなさい」
ドクン、俺の心臓が突き上がる。
俺はどのような結果になるのだろうか。楽しみで仕方がない。
セイラと同じ、あるいはそれ以上かーーー。
期待を込めて水晶に手を置いた。
「こ‥‥これは?」
神父の声が聞こえると同時に、意識が霞んでいく。
結果を聞くまえに俺の意識は落ちてしまった。
ここから始まったのだ。思えばこの時、セイラが使った水晶同様、俺たちの家族にも亀裂が入っていたのかもしれない。