俺は毎日道場に通い、師範にアドバイスをもらいながら必死に剣を振っていた。
他の人に少しでも追いつくため、いいと思った人の振りを盗んだり、剣の本を読んだりしながら必死に剣を振った。
家に帰っても木刀を握り、日が暮れても素振りを振り返していた。
ただ振るうだけではなく一振り一振りの質を意識し、常に理想に近づけるようにしていた。
模擬戦では、俺は相変わらず誰にも勝つことが出来ていない。
火心流の相手には力で押し切られ、水心流にはカウンターを叩き込まれ、雷心流にはスピードで勝てず、風心流の太刀筋は全くもって読めないでいる。
圧倒的な差を見せつけられる毎日である。
そうこうして1ヶ月ほどだった時ーーー。
セイラが入ってきた。
セイラはここ1ヶ月両親によって魔法を教えてもらっていたのだが、ついに剣も習うらしい。
「セイラ。驚くことに君は複数魔術師マルチだと聞いている。どの属性が使えるんだい?」
道場の主、スーザンがそう言って周りの視線が一気にセイラに集まる。
この道場に複数魔術師マルチはいないらしい。当然の反応である。
「使える属性は4つーーー。火、水、風、光です」
セイラの言葉にみんなが静かになる。そして誰か1人が笑うと同時に全員が笑い出した。俺の時と同様、多くの笑い声が飛び交っていた。
「あはははは、なんだその冗談」「おもしれー!」「なにを夢見てんだよ!4属性とか!」「しかもちゃっかり上位属性魔法ハイパーだし!」
バカにするような声が響き渡る。
複数魔術師マルチは通常、『2つの属性を使える』という認識だ。何故なら2つ以上の複数魔術師マルチなど聞かないからだ。4つと聞いた周りは嘘だと思ってしまったのだ。
スーザンも困惑している。
「それが本当だったら大変なことだよ。最高権威トップフォースや剣聖ですら4つも使えないというのに。カイラ‥‥君はセイラの兄だろう?この子が言ってることは本当なのかい?」
「嘘に決まってるだろ師範代」
俺が「はい」と言うよりも早く、別の誰かの声が響き渡った。
「その無属性のヘッポコが兄だって言うんだったら、妹も無属性に決まってるだろ」
そう言ってきたのはウィーゴという背の高い男だ。彼はこの道場で1番強いため、顔も名前も知っていた。
ウィーゴの言葉に今度は俺に視線が集まる。ちなみに魔法が使えないのはこの道場では俺しかいないため、俺の名前もある程度知られていた。
哀れみの視線が俺と妹に向けられる。
俺はセイラが馬鹿にされ、腹が立っていたが言い返せずにいた。俺みたいな無属性の言うことなど誰も信じてはくれないと思い、さらに馬鹿にされると思ったからだ。
そんな俺をよそに、口を開くものがいた。
「無属性のヘッポコーーー?それは誰のことでしょうか?」
そう言ったのはセイラだった。
俺は凍り付いてしまう。
セイラのこんな表情見たことない。本気で怒っている。
セイラは若干のつり目をさらに吊り上げてウィーゴを睨みつける。
その男はセイラの目が気に入らなかったのか、睨み返してくる。
「あ?なんだお前。ガキのくせに」
「私が聞いているのです。あなたは誰に対して『無属性のヘッポコ』とおっしゃったのでしょうか?」
セイラも引く気がなく、まくし立てる。
「さすがはヘッポコの妹だな。そいつしかいないに決まっているだろ?そんなことも分からないのか?」
ウィーゴはそう言って俺を指差してきた。
「だいたい、なんだよ4属性って。冗談にもなりゃしねぇ。この雑魚の妹なんだからどうせお前も無属性だろ?」
「‥‥‥こじゃない」
「あ‥‥?」
セイラは声を震わせていた。
唇を噛んで拳を握りしめている。
本当にこんなセイラは見たことない。
「お兄様は雑魚じゃないッ!ヘッポコでもないッ!なにも知らないクセに、私のお兄様をバカにするなァ!!」
ものすごい剣幕でそう言い放つ。
「私を馬鹿にするだけなら多めに見ましたが、もう許しません!」
それを聞いたウィーゴはフッと鼻で笑っていた。
「だったらなんだよ?やんのか?」
まずい。男が木刀を持ってセイラに近づいていく。
俺は急いで間に割り込み、頭を下げた。
「俺の妹が失礼なことを言って申し訳ありませんでした!しっかりと言い聞かせておきますんで‥‥」
「うるせぇ。お前に用はねえよ」
ウィーゴは俺を一瞥したかと思うと横に吹っ飛ばしてきた。
「ガッ‥‥!」
「お兄様‥‥!‥‥この下衆が。絶対に許さない」
セイラも怒りが浸透し、距離を詰めていく。
その時、ここまで黙っていたスーザンが口を開いた。
「はい、やめやめ。全くウィーゴは‥‥。その気性の荒さを直しなさいと言っているだろう」
「師範代、このガキと模擬戦をやらせてくれ」
「冗談を言うんじゃない。この道場で1番強いお前と、今日入ったばかりの女の子を戦わせるわけないだろう」
スーザンはもちろん止める。そんなのはセイラが圧倒的に不利だ。
というよりも勝負にならないだろう。
セイラは剣を握ったことすらないのだ。
誰もがそう思う‥‥いや、1人だけそう思っていないらしい。
「師範。私からもお願いします。そこの下衆男との模擬戦、受けて立ちます」
その言葉に、全員が驚く。もちろん、俺も。
ウィーゴは口の端を吊り上げ、セイラを見下ろした。
「セイラ!やめるんだ!」
「お兄様‥‥心配していただきありがとうございます。ですが私はこの下衆男がどうしても許せないのです」
「チッ。まずは言葉遣いから教えてやる。ガキが」
『下衆男』と何度も呼ばれ愉快そうにしたウィーゴが目を閉じて何やらブツブツ言い始めた。
「雷よ纏え‥‥雷よ纏え‥‥雷よ纏え‥‥」
それを見たスーザンがギョッとする。
周りもだんだん気づいてきてウィーゴから距離を取る。
詠唱‥‥本来模擬戦では禁止されている行為のはずだ。
「よさないか!ウィーゴ!」
「雷光!」
スーザンが止めに入ろうとするが、もう遅い。
ウィーゴは動き出していた。
早い動きでセイラの後ろに回り込む。早すぎて目で追うのがやっとだった。
「ガキが調子に乗った罰だ」
ウィーゴがそう言って木刀を振り下ろした瞬間ーーーセイラとウィーゴの間に竜巻のような風が吹いた。
「なっ‥‥!」
突如現れた竜巻は次第に激しくなり、ウィーゴが押されて後ずさる。
「なんだッ‥‥この風は!?」
ウィーゴは強風に耐えていたが、やがて後ろに吹き飛ばされた。
「何って‥‥ただの風に決まってるじゃありませんか」
尻餅をついているウィーゴを見下ろし、睨み付けながらセイラがそう言った。
セイラの起こした風‥‥の強さにも驚きだが、恐るべきはそのプロセスだ。
「‥‥無詠唱‥‥!」
驚いた俺はつい口に出してしまう。
スーザンもポカンと口を開けている。
ーーー無詠唱魔法ーーー
魔法は通常、詠唱しなくては発動することができない。
詠唱することによって魔力が纏い発動する、いわば準備が必要なのだ。
強い魔法になればなるほど詠唱は長くなり、力を発揮する。
その段階を吹っ飛ばしたのが無詠唱魔法だ。
本来10年以上厳しいを鍛錬し、それでもなお一握りしかたどり着けない境地と言われている。
それをセイラはやってのけたのだ。魔法が発現してから1ヶ月ほどで。
あまりにも規格外すぎるセイラの才能。
驚かずにいるのが無理な話だろう。
「そこまで!!!」
スーザンが声を張り上げ間に入る。
「全く‥‥殺し合いでも始める気かい‥‥お前たちは」
この状況はスーザンも予測していなかったらしく、焦った表情をしていた。
「ウィーゴ!」
スーザンにそう言われた長身の男、ウィーゴはビクッとする。
「お前は今日から道場周りを100周してから稽古に入りなさい」
そう言われたウィーゴは納得のいかない表情で目を逸らす。
「そしてセイラ。君は今日から私が剣を教える」
スーザンがそう言い、周りが騒がしくなる。
「正直、驚いたよ。ウィーゴをここまで圧倒するなんて。恐ろしい才能だ」
「ありがとうございます。ですが師範代、私は兄と同じ『1の部屋』から教えていただこうと思います」
誘いを簡単に断られたスーザンは、これまた驚いた顔をしていた。
「はっはっは、面白い。確かに特別扱いはいけないね。よし、セイラ。今日から『1の部屋』で頑張りなさい」
「はい。今日からよろしくお願いします」
セイラはスーザンに頭を下げると、今度はウィーゴの方を向いた。
「それと、そこの下衆男‥‥私はまだ許していません。またお兄様を馬鹿にしたような言動取ったら」
セイラが言葉を止めるとウィーゴの周りに風が吹いた。
「今度は容赦しませんから」
そう言い放つとともに木刀が細切れになったのであった
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