伝説はいつだって勝手に始まっている   作:七件

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ほぼ原作通りと言っても差し支えない

 二度目の春が来た。

 思い返せば日々は稲妻のように過ぎ去って行った。

 フットボールフロンティア後に響木コーチから渡されたものは、雷門伝統の必殺技集だった。校外持ち出し禁止の、伝説の秘伝書。その中にはもちろん【イナズマブレイク】や【イナズマ1号】などがある。他にも【ジグザグスパーク】【イリュージョンボール】などの技もあった。

 しかしキーパー技には、穴が空くほど見つめても【ゴッドハンド】系統の技がどこにも見当たらない。

 

 誰よりも真剣に取り組んでいた円堂がモノにした技はかなり多彩だが、しかしゴッドハンドを練習する素振りすら見せていない。無理に聞いても怪しまれるので、結局何も言えることはなかった。

 

 半田は【ジグザグスパーク】【ローリングキック】【サイクロン】と、コンスタントに使い勝手の良い技を覚え、かなり頼もしい。元々ローリングキックに似たようなシュートを小学生の頃得意としていたそうだ。器用貧乏にならないよう、特訓に力を入れている。

 

 土門は【キラースライド】とまさかの【ハリケーンアロー】。どうしても強力なDFの必殺技が欲しいと相談してきたので、話し合いの結果俺と半田と土門の3人技を習得した。

 

 染岡は【グレネードショット】と【スネークショット】を覚えた。時折青龍の姿が見えるので、ドラゴンクラッシュへと進化する気満々だ。とにかくシュートに特化していきたいらしい。

 

 俺と言えば、やっぱり少しでも鬼道に近付きたくて、【イリュージョンボール】【スピニングカット】を習得した。無理じゃろと思っていたが、ボールが分身するようなイメージを保ちつつ相手を翻弄してたらなんか出来た。かなりの集中力が要求される。スピニングカットも足から気のようなものを出すイメージだ。それが衝撃波になるのは意味が分からないが、案外なるようになるものだ。この世界は根性論がかなり理論的に証明できるのかもしれない。

 

 他に、こっそり【皇帝ペンギン1号】を練習している。ペンギンが足を噛みつきクソみたいに痛いので、早く2号と3号を一緒に出来そうな仲間が切実に欲しいが、必殺技集には乗っていないために気軽に誘えないのが現実だ。……そういえば1号ってやり過ぎると二度とサッカーができない身体になるんだっけか。まあ佐久間はその後も元気にサッカーしてたし大丈夫か。……大丈夫だよな?

 

 

 そんなこんなで、俺たちは意外と強くなった。「これなら一軍にヌルッと入れるかもな」そう笑い合って楽観的に始業式を終えて、イナビカリ修練場へと向かう。

 

 

 この時は、今日この日が波乱万丈の幕開けになるとは誰も思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

「よ、よんぐん……!?」

 

 

 

 響木コーチの言葉に、俺たち5人はあんぐりと口を開けた。

 

「う、嘘ですよね?」

「今日からお前たちのコーチは俺ではない。詳しくは四軍のコーチに聞くように」

 

 あんなにも親身になって特訓に付き合ってくれた彼だが、名残惜しげにする素振りすら見せず、事務的な言葉を残して修練場の中へと消えた。あまりにもあっけないお別れに、ロッカーの前で俺たちはしばらく立ち尽くしていた。

 

 すると、半田が円堂のロッカーに何か貼られていることに気付いた。どうやら名簿のようだ。

 

「……えっと、四軍の部員のメンバーが記されてる、な」

 

 俺たちは食いつくように名簿を見る。

 二年生は俺たちだけ。そして一年生は、見覚えがあり過ぎる名前が並んでいた。

 そしてコーチの欄には、“冬海卓”の名が。

 

「誰だっけ」

 半田が呟いた。

 が、俺はその名を知っている。知り過ぎてしまっている。冷や汗が垂れた。

 

 やや遅れて、俺たち5人の部室の扉はガチャリと開かれた。

 入ってきたのは、クタクタのシャツに無精髭を生やした不潔そうな大人と、2人の新入生だった。

 

「今日から四軍のメンバーになる子たちです」

 

 連れられた2人は戸惑いを見せていた。

 

「それと、一ヶ月後練習試合があるので、それまでに必要があればメンバーとマネージャーを集めておくように。集めたらキャプテンを決め、速やかに報告しなさい」

 

 四軍以外のサッカー部員は助っ人にはならない。最後にそれだけを伝えて、彼はなんのフォローもせず、至極面倒くさそうに部室から出て行く。

 

「……なんだってんだよ」

 

 静寂に包まれた部室に、染岡が呟きが嫌に響いた。

 誰も納得いっていなかった。

 後輩も、四軍という低い位置に少なからず驚いていることだろう。それ以上に俺たちのショックは計り知れないほどだった。

 

 けれど後輩たちに不満を悟られないように必死に取り繕う。

 

「と、とにかく今日からよろしくな! とりあえず自己紹介しようぜ! オレは円堂守。好きなものはおにぎりで、ポジションはゴールキーパー!」

 

 円堂の底抜けた明るさに、一年はホッとした顔を見せて、自己紹介を始める。

 

 壁山と栗松。

 

 二人とも知っている。宍戸と少林寺はいないようだ、探せば新入生として雷門に入学していることだろう。

 

 俺は人知れず手が震えていた。

 こんなところで原作に忠実にならなくたって良いじゃないか。そんなどこかやり切れない気持ちがつのる。どうして四軍に落とされたのだろう。どうして彼らは四軍に入れられたのだろう。そもそも去年いた四軍の部員はどこに行ってしまったのだろう。一軍を目指すサクセスストーリーにしては、悪意がある。その悪意に立ち向かうほどの勇気と熱量が、果たして俺たちにはあるのだろうか。

 

 色々な不満、疑問、心配がぐるぐる胸中を渦巻く。

 ……それなのに、俺は心のどこかで、歓喜していた。

 

 

「巳漣、お前が最後だぞ」

 

 

 円堂に声をかけられて、ハッとする。

 

「俺は巳漣有人だ。ポジションは決まっていない。アドバイスは得意だから気軽に相談してくれ」

 

 すっかり5人といて慣れてしまっていたが、俺の目付きの悪さは尋常じゃない。睨まれたと感じたのだろう、壁山と栗松は完全に萎縮してしまった。まあ、まだ初対面だし、仲良くなる機会なんて今後ごまんとある。焦らずに、今解決すべき問題に取り掛かろう。

 

「……自己紹介も終わったし、本題に入ろうか。俺たちは全員合わせて7人しかいない。これではとてもじゃないが試合にならない。加えて、あのコーチはおそらく働く気はないだろうから、練習メニューは今後自分たちで考えていくべきなんだろう」

 

 再び部室は重たい沈黙に包まれた。そんな中、半田が自信なさげに手を挙げる。

 

「練習メニューなら俺、考えようか? 今まで響木コーチから習ったことなら、ノートに全部写してるし」

 

「でかした半田!」

 

 円堂は喜びのあまり半田の背を叩いた。彼は突然の痛みに涙目になっていた。それを尻目に土門も、

 

「それならオレも、去年の練習メニューは全部保管してあるから、コピーして活用できるかもしれないぜ」

 

 と提案する。

 さすが痒いところに手が届く部門上位の土門。俺は半田や土門のようにマメなことはできないので本気で助かった。

 

「じゃあ練習メニューは半田と土門に任せてもいいな?」

 

 誰も異論はなかった。

 

「次に、部員勧誘だが……」

 

「わざわざ四軍に今から入ってくれる奴なんていんのかよ」

 

 染岡は拗ねたように腕を組んだ。

 

「とりあえず俺に任せてもらってもいいか?」

 

 原作知識をフルに使える場面などもう二度と来ないかもしれない。豪炎寺についてまだ不明な点が多いが、部員集めについては俺に任せておけ。

 俺は自信満々に胸を叩いた。

 

 しかし、みんなの反応は悪い。

 

「初対面の印象が最悪な巳漣には無理だろ」

 

 土門の的確な指摘に俺のライフが削れる。

 

「そこはなんとかする」

「なんとかなってなかったぞ、さっきの自己紹介」

 

 半田は呆れたように言った。

 染岡よりはマシだよな? 流石に、な?

 一年は全員目を逸らした。

 円堂すら目を合わせてくれなかった。

 

 結局円堂と共に勧誘することになった。助かったのだが、むしろ不自然さが目立たないように勧誘できるのか不安になる。ちなみに染岡は、一年への筆頭指導係として任命された。

 

 

 

「想像してた雷門サッカー部と違うっス……」

「みんな最初はこうでやんしたか?」

 

 二年が話を詰めている中、壁山と栗松はどんよりとした顔で言った。俺たちはウッと喉を詰まらせる。円堂は「まあ、こうやって一から作っていくのも楽しくないか?」と相変わらずのポジティブ発言で場を和ませた。

 

「壁山、栗松。確かにオレたちは四軍の先輩だし、頼りないかもしれない。けど、一年間地獄のような特訓を耐え抜いてきた。だからとりあえず、今は大船にでも乗った気持ちで気負いなんてしないで、全力でサッカーを楽しんでくれよ。イナビカリ修練場は今まで通り使えるし、練習場所には困らないからさ」

 

 納得いかないまま四軍に落とされてなお、こんな風にサッパリと言える人間は、俺たちの中には円堂しかいなかった。内心どうあれ、俺たちもそれに乗っかり、一年を安心させる。方針は大方決まったので一年の実力を測って、そのまま解散の流れになった。

 

 

 半田はノートを、土門はメニュー表のコピーを家から持ち寄って合流し、イナビカリ修練場に残ってメニューを組み立てるらしい。染岡は「悪いが、今はひとりにさせてくれ」と修練場に篭った。

 

 みんな本当は悔しいんだ。悔しくて悔しくて堪らないんだ。自分の弱さのせいなのか、認めてくれないグズな大人のせいなのか。分からない。分からないから何か別のことを考えていたい、八つ当たりで誤魔化していくしかない。それを一年生に悟られたくないというプライドだけで保っている。

 

 空中分解していきそうな不穏な空気を完全に取り払うには、時間が必要な気がした。

 

 部室に取り残された俺たちは、ゆっくりと帰る準備を終え、ボロボロのバックを俺は肩にかける。

 

「円堂はこの後どうするんだ?」

「……木野にマネージャーを頼もうかと思ってさ」

「あー」

 

 木野は原作通り一年の頃からマネージャーとしてサッカー部を支えている。強豪校ともあって、マネージャーを志望する女子は多かった。その中のひとりに過ぎない関係だったけれど、確か円堂と親しく話している姿を時折見かける機会があった。きっかけは、重そうな荷物を運んでいた木野を円堂が手伝ったとかなんとか。ちゃっかり純情青春ラブしていやがったのである。

 

「じゃあ俺はサッカーに興味がありそうな奴を探してみる。円堂は心当たりとかないか? 頼んだらオッケーしてくれそうな奴」

「う~ん……いない!」

「……ま、まあそうだよな」

 

 この世界では、風丸と交友関係はない、ということになるのか。そうなると陸上部のエースを引き抜くとか無理ゲー極まる可能性が高くなってきた。

 

 俺は円堂と別れて、そのまま部室棟を出る。すると、少女がひとり、入口の前をウロウロしていた。赤い眼鏡をカチューシャのように掛けている。馴染みがありすぎるので、声を掛けざるをえなかった。

 

 

「春奈、帰ってなかったのか」

 

 もしかして友達ゼロ人じゃないだろうな……。そんなお節介が顔に出ていたのだろう。春奈は「そうじゃないから」と先に否定した。

 

「みんな体験入部しちゃっただけ。暇になったからお兄ちゃんの練習してる姿見れるかなって思ったんだけど、部員以外の人は入っちゃダメなんだね」

 

「外部に漏れないようにしているんだ」

 

「ふむふむ、調べ甲斐がありそうですな!」

 

「やめておけ」

 

 サッカーグラウンドはいつも人っ子ひとりいない。イナビカリ修練場でこと足りるからだ。入学式という希望と未来に満ち溢れた日に、放課後の忙しさはなく、だと言うのに喧騒はまるで避けるように遠いので、どこまでも不気味だった。春奈のハキハキとした声は一際大きく響き渡るが、彼女が気にした様子はない。春奈はそういう少女だ。ゲームのキャラ設定は関係ない。そうは頭の中で分かってはいても、彼女の制服姿にしっくり来てしまうのは、もはやどうしようもないのかもしれない。

 

「一緒に帰るか?」

 

 そう提案すると、あっさり頷いた。まだ中学校という場所が非日常的で物珍しいのだろうか、キョロキョロ辺りを見渡しながら、俺のあとをついてくる。

 

「気になる部活はあったか」

「……報道部、とか?」

 

 そういえば彼女は、離れ離れになった鬼道のことを探るためにサッカー部のマネージャーを志望していた。ということは、マネージャーになる未来は完全に潰えてそうだ。家に帰ったら、勧誘する生徒のことだけではなく、音無春奈についても、去年書き起こしたノートで見直しておこう。

 

「でもサッカー部のことを何も書けないんじゃ物足りない。……あ、練習試合は観に行けるんだっけ? 二年生になったしそろそろ出るよね?」

 

 俺は思わず顔を逸らしてしまった。

 

「どうしたの?」

 

 速度を上げて隣に並んだ春奈は、不思議そうにジッと俺の顔を凝視する。

 

 四軍に落ちたことをどんな顔をして打ち明ければいいのか、練習試合はあるにはあるが、そもそも部員が揃わないなんて、説明しようにも己のプライドが全力で首を横に振っている。しかし一方で、彼女がこれを機にサッカー部のマネージャーに興味を持ってくれたりはしないだろうか、という打算的な考えが浮かんでしまう。

 今更ながらこんなにナイーブな気持ちになるのは、どう考えてもいきなり原作軸に物語が傾いたせいだ。

 

「そういえばいつもより帰りが早いよね。もしかして、部活で何かあった?」

「いや別に」

「うそ。お兄ちゃんがそういう顔をする時っていつもサッカーのことじゃん」

「そ、そんなことない」

「そんなことある」

 

 女の勘というやつだろうか。こういう時彼女はしつこくて、追究を諦めない。確かに記者としては一流だ。プライドと打算の天秤など優秀な記者の前ではいとも簡単に蹴っ飛ばされて、俺は全てを話すことになった。

 初めは黙って聞いていた春奈だったが、その理不尽な仕打ちを聞くにつれ、「なにそれ!」と誰よりも怒りをむき出しにする。

 

「そんなの絶対おかしいよ! だってお兄ちゃんは下手くそじゃないし、部員なんていっぱいいるのに集めろなんてどう考えたっておかしいじゃん!」

「……だ、だよなあ」

 

 原作を知っている俺からすれば、強引に原作に持っていったな、という感想がまず一番に湧き上がったが、通常であればこうなるはずだ。……いや、原作に引っ張られるように誰かが仕組んだという可能性もあるのか? 俺と同じような人間がいて、ゲームに忠実になるように動かした? それなら辻褄が合う。そもそも、円堂たちも実力がないと言われるには無理があるのだから。

 

「たしかに、その通りだ。でも何の意味がある?」

 

「不正や裏取引だよ! 大金持ちが気に入らない奴を排除しているの。インボー! そう、誰かのインボーだよ」

 

 勝手に変なスイッチが入ってしまった春奈は「絶対解き明かしてみせる!」と息巻いている。俺はそれを話半分に聞き流しながら、とりあえず今後の展望について思考を巡らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 登校してまず確認したのは、学校の玄関に並べられた靴箱、その辺りに張り出されてある名簿だ。一年生が靴箱の場所を覚えるまで一ヶ月近く番号と名前がズラリと並べられている。そこに、宍戸と少林寺の名前を探した。

 

 結果を言えば、その二つの名前はどこにもなかった。

 俺は自分が不審者であると自覚しながらも、その台紙を前に何分か唸っていた。まさかそもそも入学していないとは想定すらしていなかったからだ。これでは勧誘どころではない。せめて三軍に入っていたとかであれば、一緒にできずともまだ可能性はあったのに。

 

 40年間無敗の雷門に入って一生ベンチよりは、他の学校に入って雷門に一矢報いる方が選手として注目度が上がると考える人がいるのも確かだ。そうでなくとも、強さばかりを求めるのではなく、普通の学校に入ってサッカー部に入部するのだっておかしなことではない。

 

 二人は雷門に入学しなかった、ただそれだけが確かなのだ。

 

 ショックで足取りはどこか重く、チャイムギリギリでようやく教室に辿り着いた。すると、教室はどこかいろめきだっていて、そこで俺は今日が何の日かを察した。

 

 

 

 

 

「サッカー部には入らない」

 

 原作通り転校してきた豪炎寺に、円堂は開口一番にサッカー部に誘い、そして原作通り断られた。

 

「どうしてなんだ? おまえ、サッカー好きなんだろ?」

 

 豪炎寺は何も言わず、踵を返す。

 

「おい! 待ってくれよ豪炎寺」

 

 見事に無視されてガックリ項垂れる円堂。俺は肩を叩き、「これは逆にチャンスかもしれないぞ」と慰めた。

 

「普通にサッカー部に入部すれば、おそらく豪炎寺は四軍なんかには配属されないだろ」

「たしかに!」

「俺たちの強みはなんだ。粘り強さだろ? まだ不慣れな学校生活の手助けをしながら、さりげなく誘っていこう」

 

 とは言ったものの、俺の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだった。去年のフットボールフロンティアで豪炎寺は決勝戦に出場していた。何度も外していたのは気になったが、まさか妹が事故で意識不明になりながらも出場したなんてことはないはずだ。

 

 原因が分かるまで長期戦になりそうな予感をヒシヒシと感じながら、まずは下心アリアリであることを先に宣言して、豪炎寺と仲良くなるための作戦会議を豪炎寺の目の前で行った。本気で呆れた顔をしていたが、何を言っても無駄だと察したのだろう、彼は大きなため息で申し訳程度の抵抗を繰り返していた。

 

 

 放課後になった。

 土門と半田が立てた練習メニューは、響木コーチのものとなんら遜色はないほど完璧だった。そして円堂が誘った木野は今日からマネージャーとしてサポートしてくれるようになった。着々とサッカー部として機能していくなか、問題はやはり人数不足についてだ。豪炎寺について話すとみんなどよめきたつ。

 

「豪炎寺って、あの、木戸川清修のエースストライカー?」

「もし入ってくれたら百人力だな」

「すごいっス! でもなんでサッカーやめちゃったんスかね?」

 

 一応染岡の方をチラリと見やったが、みんなと一緒に会話に交じっており、心境を推し量ることはできなかった。

 

「豪炎寺が入ってくれたとしても、あと3人足りない。有力な情報を掴めたし、俺は勧誘しに行くよ」

 

 

 円堂と俺は練習には参加せず、部員集めに専念することになった。色々な生徒に聞き回って、そして確かにこの2人くらいしかサッカー部に入ってはくれないだろう、という確信に至った。

 

 松野空介、通称マックス。

 彼は頭脳明晰運動神経抜群、どの部にも所属せず、たまに助っ人として参加してどの部でも優秀な成績を残している。四軍の現状を面白がって入ってくれる可能性がある。

 

 影野仁。

 あまりにも影が薄く、サッカー部に入部していたことすら忘れ去られているという噂がある。その噂が本当なら、誘えば入ってくれる可能性が高い。

 

 結局どう足掻いてもこの2人に辿り着くのだから、俺はもはや薄ら寒さすら覚えていた。円堂はホッとした様子で、「じゃあさ、二手に分かれて誘おうぜ。巳漣も早く練習に参加したいだろ?」と提案する。俺の第一印象の悪さを解決するために円堂を足したのに、別れて良いのかと突っ込みたくもなったものの、円堂の方こそいち早くサッカーをやりたいんだと気付き、申し訳なくなった。

 

 影野は見つからない可能性があるので、円堂が先にマックスを勧誘できたら合流して一緒に探そう、ということに話はまとまり、俺たちは別方向へと分かれた。

 

 校舎を探すために陸上部のグラウンドを通り過ぎようとすると、ふいに後ろから肩を叩かれた。振り向いてから、俺は喉から心臓が飛び出そうなほど驚いた。

 

「さっき、円堂と一緒にいたよな」

 

 空のように青く長い髪を後ろに縛ったジャージの少年は、どこか戸惑いをその赤い瞳に押し込めながら尋ねた。

 

「……たしか、名前はミレンだったか」

「えっと、誰」

「風丸一郎太だ。二年の陸上部の」

 

 ですよね。

 

「噂になってるんだ、サッカー部の四軍について。まさか円堂は、」

 

「そのまさかだ。円堂の知り合いか?」

 

 やっぱり2人は関係性があったじゃないか! と円堂に向かって叫びそうになったが、なんだか拗れてそうなので、気持ちを抑えて出来るだけ探りを入れておく。

 

「昔は仲が良かったんだよ。円堂が転校してからは連絡を一切取っていなかったから、直接は話しかけにくくてな」

 

「そうだったのか。あいつはそんな事気にしないと思うけど」

 

「……ああ、そうだろう」

 

 風丸の顔は一層暗くなる。

 ただならぬ事情に、正直俺はドン引いていた。とんだバタフライエフェクトだ。雷門が40年間無敗なだけで、なぜ2人の関係が拗れる。

 

「な、なにか力になれることがあれば言ってくれ。今も何かを探しているようだったし、手伝おうか?」

 

「風丸にこんなことを言うのもあれだが、実は、人数が足りなくて部員を集めてるんだ」

 

 予想だにしていなかったのだろう、風丸は数度瞬きをした。

 

「いっぱいいるんじゃないのか? サッカー部は」

 

「それが、四軍だけでやれって言うんだ。訳がわからないだろう。だから困ってるんだ。もしかしたら、練習試合を行えないという理由で、最悪俺たちは退部になるかもしれない」

 

 冬海は一言も退部について触れなかったが、おそらく、いや絶対ある気がする。想像甚しかったが、その言葉は風丸の琴線に触れたらしい。

 何かを決意するかのように、軽く息を吐いた。

 

「オレ、入ろうか」

 

「えっ、いや。風丸だって陸上部があるけど、いいのか?」

 

「あいつらはそんなにやわじゃない。任せても大丈夫だ」

 

 そういう問題じゃないと思うが。

 期待はしていたが、まさかこんなにも簡単に決断するとはつゆほども考えていなかった。「今度こそ」と彼はうわごとのように呟く。ゲームでも円堂の頼みだからといって、随分とあっさりサッカー部に入部していたが、実際目の前にしてみると、その献身ぶりに畏怖さえ覚える。

 

「……いや待て。オレが入っても円堂は迷惑にならないだろうか」

 

 とさえ心配しだすので、

 

「2人の間に何があったかは知らないが、円堂はそんな奴じゃない。絶対に喜んでくれるさ」

 

 と励ましておいた。

 本当は何があったか知りたくて知りたくて堪らないが、ここは我慢だ。一緒にいたらいつかポロッと話してくれるかもしれないし、それを待つしかないのだろう。

 

 

 

 

 その後、一緒に影野を探してもらい、なんとか発見することができた。とは言っても、いつの間にか背後に回られていて、肩を叩かれたのだが。見つけたというよりも、見つけさせられたの方が正しい。

 噂通り、確かに影野はサッカー部に入部したものの名簿に乗らなかったそうだ。そんなことがあっていいのかと、杜撰すぎる管理に、四軍への冷遇も相まってサッカー部に不信感を抱き始めていた風丸は呆れていた。四軍という形になるが正式に入部して貰えるか尋ねると、二つ返事でオッケーされた。

 

 修練場に戻ると、既に円堂はマックスと、加えてメガネを引き連れ染岡たちと話していた。俺たちに気付いた円堂は、初め「これで全員揃ったな!」と嬉しそうに声を弾ませていたが、風丸の姿を認めると、顔を引き攣らせる。

 不思議な緊張がサッカーコートを走った。壁山と栗松は縮こまりながらも様子を窺い、シュート練をしていた半田は振り向いた。

 

「えんどう。その……」

 

「か、かぜまる……だよな」

 

「サッカー部に入ろうと思ったんだ。大変だって聞いてさ」

 

「そうなのか!?」

 

 その言葉に、円堂は顔をパアッと輝かせる。

 

「すっげえ助かった!! 風丸と一緒にサッカーできるなんて、ほんと、ほんと……」

 

 その後の言葉は続いていなかったが、心底嬉しそうだ。風丸の手を握ってブンブンと上下に振っている。風丸も恥ずかしげに「やめてくれ」と笑った。

 

 なんかよく分からないが解決したらしい。周りもホッと胸を撫で下ろしている。……あの一瞬のピリッとした空気はなんだったんだろう。単なる杞憂かはたまた。

 

 

 風丸は心底ホッとしたように息を吐いているし、円堂も笑顔のまま表情を崩さない。

 

 

 

 ーー本当に解決したんだよな?

 

 

 

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