fate/”S S”-ダブルエス-   作:歌楽須

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お久しぶりですね。アヴァロンルフェ楽しみ更新。


ドキドキ家庭訪問!?

<<<八ヶ山市・しののめ荘<<<

 

 

 

 

 

 普段よりも高い視線で街を眺める。ボロアパートの二階から見える屋根の大地の向こう側。銀嶺の摩天楼が日差しを浴びて俺の眼を眩ませた。その反対側にはサガラの教会がある。そういえば後片付けしてねぇな。礼拝堂の硝子と血溜まり、消えた聖遺物、倒れた木々...おお怖忘れよ。

 

 

(此処がマスターの根城か。うん、屋根があるのは有り難い)

 

 

 シールダーの呟きを聞いて、その壮絶な人生を思う。羨ましい様な、可愛そうな様な、他人事なら面白いんだろうけど。

 ざらざらした黒腕に触れると棘状の鱗が指先に引っかかり薄く線を引いた。最後に置き土産をくれやがったシールダーは兎も角、帰ってきたよ俺の家!十年位経った気がするわ。

 

 

 腹減ったなぁ、とか情報処理で頭が痛い、とか全てを脳内ダストシュートに放り込んでドアを叩き壊すように開けた。田舎臭い畳臭が鼻孔を擽る。薄暗い玄関が、陰陽術を解いて銀髪と黒腕を顕にした男を受け止める。

 か、体が動かねぇ...。一度横になってしまえば力が抜けるのは一瞬だった。意識を飛ばしかけた所でシールダーの叱責が掛かる。筋肉が傷んでいく恐ろしい音を堪えながら立ち上がって靴を脱いで障子をずらす。

 

 

「あ、おかえり」

 

 

「うーぃ...たでいま」

 

 

 白塗りの壁に凭れ掛かってスマホを眺めていた少女がこちらを見た。袖の長い白シャツにデニムのズボンで胡座をかいているので後ろで纏まった髪が流れる首筋が見えた。

 ゾンビみたく覚束無い足でその向かいに腰を据える。体の排ガスを一気に吐き出して顔を立てた両膝の間に埋める。光が遠くなり藺草が強く香る。まずは水でも飲んで休んで...

 

 

「え」

 

 

「え?」

 

 

 脳がぐぁんと揺れる。こちらを向いていたのだろう衣沙と目が合う。頭を無茶に動かして首筋が熱くなった。いや、待てまてマテ。

 

 

「は、はあ!?なんでおまい、お前が此処に居る!」

 

 

「今更!?」

 

 

 ど、どうしてだ。サガラが裏切った?にしては早過ぎるだろ。サガラじゃない。じゃあ誰だ。そこまで考えて思考が止まる。脳味噌が疲労でガチガチに固まってしまった。もう無理...と歪んだ顔を乱暴に右手で拭って、重力に身を任せることにした。

 

 

「はい、水」

 

 

 ハッ!水だぁ!

 腹筋と背筋を駆使しただんご虫もびっくりの高速回転で衣沙の転がしたペットボトルを抱きしめる。キャップを千切って破れた開け口で烏龍茶を呷った。くぁぁっ生き返るゥ!

 

 

「はいおにぎり」

 

 

 あざす!うめぇー!全身を巡るビタミンが燃え滾るッ!ヌメッとした謎の具材を食べて体は絶好調!ところであれの具材何なの?

 ごそごそと肩掛けの鞄を漁った衣沙は一本の試験管を出した。白濁した液体が半ば入ったそれを突き出して言う。

 

 

 

「イモリの内蔵。媚薬作りで余ったやつ」

 

 

「」

 

 

「これさっきまでそれ入れてた奴ね」

 

 

「」

 

 

 

 

 

 数十分後。河童もびっくりの濡れ鼠になった俺と衣沙は若干焦げた畳の上で互いに忙しく視線を送っていた。焦げ臭い藺草と麦茶の匂いを窓が出している横に立って衣沙を伺う。

 向かいの壁の端で澄ました顔をしているが、偶にこっちを見てくる。

 ううん、口を濯ぐ為に水を出そうとしたら予想外に水が出て、乾かそうと火を焚いたら衣沙も同じ事をしようとしていた結果火力が強まり過ぎて畳が焦げた。事の顛末はこんな感じなんだが、これは俺が悪いよなぁ。まぁもう髪も畳は乾いたしこのまま話を続けていいのか?いやでも...。

 

 

 延々と時間が浪費されていく。早く着替えたい。そんな願いを壊れた空気が重力の様に阻む。事態を見ている筈のシールダーはさっきから何も言ってこないし、衣沙はずっと黙ってるし。いや、仕方無い。俺が聞くしかないか。

 

 

「なぁ、どうして此処に来た」

 

 

 此方を見るその視線にほんの少し鋭さが混じった。衣沙はそれ以上に何も変わらなかったが、それだけで俺が居なくなって色々とあったと察した。言葉選びを間違えた事を、遅れて理解する。

 

 

「こんな所に来たのはあんたを連れ戻す為。此処が分かったのは母さんが色々と伝を使ってくれたから」

 

 

 それだけを簡潔に言い切って、少し目を伏せて付け加える。

 

 

「本当は兄さんが来る筈だった。でも一昨日安倍の人が来て、兄さんは連れて行かれたの。理由は知らない」

 

 

 本家が?思わず口に出す。兄貴は無事なのか?

 

 

「兄さんが良いようにされるわけないでしょ」

 

 

 にべもない。だが反論材料が見つからず口を閉じる。あのゴリラマジシャンが勝てる奴が居るとは簡単には思えなかった。

 質問が終わる。そして反撃に出たのは衣沙だ。

 

 

「で、あんたは何で此処に来たの。理由と、方法と、ついでに謝罪もキッチリ話してよね」

 

 

 まぁ、そうなるよな。乾いた息を奥歯を噛み締めて、んー、と唸る。正直に話すのは無理だが、旅行とでも嘯いたら後が怖い。しかもゆっくりシンキングタイムはくれなさそうだ。ひやりと背中を汗が伝う中、頭の中に自分以外の声が響いた。

 

 

(マスター。お話があります故、どうかお聞き願いたい)

 

 

 なんだよ。願っていた助け舟が存外遅い事への感謝と不満を込めて、少しぶっきらぼうに言ってやった。しかしシールダーは意にも介さず声を重ねる。

 

 

(先んだって謝罪を。それを踏まえて、彼女は我々には必要な存在である事をお伝えしたい。マスターは霊体化という現象をご存知か)

 

 

 最初は、何を言っているのか分からなかった。一応妹の前なのだから無様はこれ以上晒せない。顔に出す事無く念じる。知ってるよ。サーヴァントが実体を消す事だろ、とそこまで言い返してやっと気づく。シールダーの提案に。

 

 

(サーヴァントは激しい魔力消費を抑える為に霊体化するが、俺たちはそれが出来ないから魔力が不足する。だから妹を利用するってことか?.........あっそ。言い切られちゃあ、誤解も無いよなぁ!)

 

 

  衣沙は聖杯戦争の参加者じゃない。加えてサガラの手によって此処に来たのでないなら、まだ逃げられる可能性がある。後悔と、それ以上に憤りを隠さない声色でシールダーを問い詰める。

 

 

 散々に怒鳴った後で我に帰った。あの夜のような皮肉は無く、弱気な謝罪も無い。ただ静かに押し黙っていたシールダーは真摯、ともすれば倨傲とも言える風にその口を開く。

 

 

(勿論其れも。しかし、それに加えて彼女の身の安否を守るためでもあります)

 

 

 シールダーは言った。既にこの街には何らかの結界が貼られていると。それが何なのかは分からない。しかし、この街全体を籠の様に覆うそれに加え、中央の都市部を覆うものの二つがあるという。

 その話を聞いて、反対に黙ったのは俺だった。その話を鵜呑みには出来無いが、既に手遅れという可能性が頭にちらついた。

 

 

 衣沙の安全を確保する為には、外部から強力な増援を呼び衣沙と共に脱出してもらうのが最も良い方法だと言う。

 

 

(加えて、我々は昨日教会を荒らし回ってしまいました。監督役に協力を頼むのも…難しいでしょう。妹君を安全に守る為には、増援が必要だと存じ上げます。マスター、ご英断を)

 

 

 奥歯を噛み締めて考える。思案する。熟考する。推し量る。残りのサーヴァントは六騎。結界。聖杯。頭を抱えて悩んで、体に残る疲労が後押ししてそして俺は。その提案に折れた。

 弱々しい頷きに応えたシールダーが意識を奪う。魂が体を離れるとでも言うような、まともに生きていたら感じないだろう感覚が襲う。視線が動き、こちらを黙って睨む衣沙を捉える。そろそろ限界だったようで目つきが尖り始めている。火蓋が切られる直前、ぎりぎりでシールダーが先手を取った。

 

 

「妹君、此処からは私がご説明を」

 

 

 カーディガンを羽織った肩が止まる。立ち上がるのを止めた顔が大きな?マークを浮かべていた。あ、代わってくれるんだ。助かるわぁ。自分の口が勝手に動くのを聞きながら、益々顔を曇らせる衣沙を眺めて他人事のように欠伸した。それを後悔するまで、後二時間。

 

 

 

 

 

 そーな。俺が悪かったわ。お前の事をよく知らなかったもんな。それに俺が勝手に寝こけてたのも駄目だったよな。そうそう。

 

 

(すまない...本当にすまない...)

 

 

 よーし、この話は一旦終わりな?後は俺が説明するから。6月の封印蔵の湿気よりもどんよりとしたシールダーが、このままでは謝罪妖怪になってしまうという所で話を切り上げて衣沙の反応を伺う。あのクソ...控えめに言ってお排泄物な説明で何処まで分かったのかは不明だが、概要くらいは分かってくれてほしい。願わくば、その後俺の願いを聞いてくれればいいんだけれど。

 ゆっくりと言葉を噛み砕いていた衣沙がそれを終えて、要領が得ない中で何とか情報を反芻させる。途切れ途切れで酷く鈍いものではあったが伝えたかった事は一応全部分かってくれた。身の危険が迫っているところについては一応、懐疑的だったが。

 

 

「...だからよ、俺が聖杯戦争に出てるっていうのは皆には黙っててくれねぇか。律さんに聞かれるとぶっ殺されちまう」

 

 

「はぁ?何で叔母さんが出てくるのよ」

 

 

 

 

 

「...............待て。もしかして覚えてないのか?」

 

 

 顔を曇らせるのと反比例して、俺のテンションが上がっていくのが分かった。衣沙はあの時大体3歳位か。兎も角こりゃあラッキーだ.........あんなの、知らなかったほうがマシだ。

 

 

「いや、身内の恥っつう話だよ。もう分かったろ、俺は聖杯に選ばれたんだ。願いを叶える聖杯に。だから帰らない。俺は此処で戦う」

 

 

 じっと黒の双眸を見据える。互いの視線が交差する。石を投げた池のように、静寂の波紋が広がる。右手を膝の上で握りしめ、途方も無い時間の重しに耐え続ける。丸く、緩く、空気が撓んでいく。終止符は彼女が打った。

 そう、良いよ。一言吐き捨ててだらんと両腕が垂れ下がる。違う、何かを鞄から取り出した。真四角の紙だった。何が書かれているかは手に隠されて端しか分からない。だがそれで十分。元々そうする気だったんだろう、なら、お前らの許可なんぞ要らない。

 

 

 右腕に力が籠もる。心臓から湧き上がる魔力が俺を鎧う。吹き出す影が鋼となり、布で覆われたそれを握る。虚空から這い出るように刃が生まれる瞬間、顔に紙が叩きつけられた。先手を取られる、弾けた思考が体を後ろに飛ばせる。だが既に背後には壁。距離を取ることも出来ずに、ぱらりと紙が落ちた。

 黒塗りのそれは、予期していた幾何学模様や術式文字ではなく、慣れ親しんだ現代日本語で書かれていた。珍しい符もあるんだなと考えて、漸く中身に目が行った。

 

 

「...予約券?」

 

 

 一瞬警戒が解ける。次いでに武装も解ける。訝しんで視線を上げると、呆れたような、諦めたような顔の衣沙が居た。どういうことだと問い詰める。どうもこうもない。それが立ち上がった衣沙の答えだった。

 

 

「あんたが何かに巻き込まれてたのは分かってた。帰れなくかもしれないって母さんも言ってたし、元々母さんは私にこれを渡しに行かせるだけのつもりだったんだって。まぁ、今となっちゃ意味ないけどさ」

 

 

 興味が失せたように衣沙は部屋を出ようとする。それを引き止めて、文句を言う権利は俺にはなかった。それに感謝する権利すら、俺にはなかった。深い恥と悔しさが俺の中にあった。破り捨てるのは簡単だ。それでも此処よりも安全な場所というのは魅力的で、いいや言い訳するな。

 未だに俺は子供だった。庇護される側だった。此処に来ても、聖杯に選ばれても、俺の評価は1ミリも上がっちゃいない。寧ろ下がったかもしれない。玄関から聞こえる声で、一週間後には兄貴が来ることも分かって、益々殴られたような恥が上塗りされた。

 

 

 がむしゃらに荷を詰め込んで鞄を背負う。玄関を出たら部屋の外に立つ衣沙に足を蹴られて、転びかけた。呑気に俺を急かしてぶつぶつと言っているが、それがある種の意趣返しである事はすぐ分かった。だが怒りは湧かない。それができるほど俺は体調が良くなかったからだ。一刻も早く眠りにつくために、俺はトタンの階段を音を立てて下っていった。

 

 

 

 

 

<<<八ヶ山市・県道22番<<<

 

 

 

 

 

 バスを乗り継いで大凡二時間。ビル街を避けたコースをシールダーが提案し、それに乗った形で話は進んだ。衣沙の編んだ幻術の効果は抜群で、一度ちらっと視線を向けられて直ぐに視線を戻す。という光景を何度も見ることになっただけで済んだ。金髪のちゃらい外人観光客とは誰のことだろうか全く分からん。

 

 

 バスを流れる観光案内のアナウンスを聞きながら窓の外を眺める。発展した中央と比べると緑...畑が多い。目まぐるしく何もかもが変わる中央の面影が此処には見られない。しみじみと感傷に浸っていると風景が切り替わる。丁度、山に入ったみたいだ。

 

 

 青青と葉を広げる大樹が脇を固めた山道は山頂までに葛折りになって、右に左に忙しい事なかった。乗客たちは自然に翻弄される振り子となって坂の終わりを待ち続けた。サーヴァントが混ざっている俺は全く酔わなかったが、横の妹は違うので普通に酔った。

 

 

「ねぇ、酔い止め、持ってない?」

 

 

 顔色悪っ。白いレース柄のスマホカバーを閉じた手が肩を揺する。その手が余りに弱々しく、良心に耐えかねて鞄を探ってみるが保存食用のフルーツ飴しかなかった。運の悪い事に衣沙好みのりんご味だけない。

 そういや車の中で食ったな、サガラに二個も三個もあげなきゃよかったぜ。適当に取り出すと、顎をしゃくったのでその右手に置く。

 

 

「山道でスマホ見るのは馬鹿の行為だぞ、はい飴ちゃん」

 

 

「いちいちきしょいんだよ...ありがと」

 

 

 何故俺はこういう嬉しくないイベントCGばっか回収すんの?

 納得できない蟠りを抱える横で、衣沙がもぐもぐと飴を舐めている。それが終わる頃にホテル前に着いた。二人分の(正確には押し付けられた)旅行鞄とバックを持ち上げてバスを降りる。

 標高の高さ故なのか、冷涼な風が一団の熱を冷ます。街全体を見下ろせるこの場所は索敵には丁度良い。とシールダーが言うのを、風情が無ぇ奴だな。と返すと少し凹んだ声になった。

 

 

「立派なホテルねぇ...」

 

 

 外装やら花壇やらを写真に収めて満足した衣沙の呟きを聞かれたのか、一人のホテルマンがこっちに近づいてきた。

 スーツ姿の男は、ようこそいらっしゃいましたと笑顔で言うと、当ホテルをご利用の際はエントランスの右手、受付カウンターをご利用下さい。と重ねた。

 

 

「あわっそうです。え、荷物ですか?」

 

 

 おい、逃げ道塞がれてんじゃねぇか。慌ただしく髪を梳いていた衣沙がいつの間にか増殖したスーツに囲まれてしまっている。子供を言いくるめようとする大人と言う社会の構図を目の当たりにした様だった。

 シールダーの非難の声もあり、そのまま他の客と一緒にホテルに吸い込まれていく白い腕を掴んで濁流から引っ張り出す。受付に着く前に困憊は情けないと思ったが、そっと水筒を渡してやった。

 

 

「はっ、これだから田舎は嫌いなのよ」

 

 

 周囲に誰も居なかった事が何よりの救いだった事はぜいぜいと息を切らすこいつは気づいていないようだ。バスに乗っていた時よりも顔色が悪い。ふらふらと患者のように歩いていく横に立つ。並んで大理石の床を通り、風が突き抜ける玄関口を跨いだ。

 

 

「ほーん。こりゃ良いや」

 

 

 白磁の床は誇張無く輝いているし、壁の装飾品も上品に飾り立てられてて、美術館のようだった。

 

 

「美術館みたい」

 

 

 危なっ。ハモりかけたぞ今。辺りを見渡すのも子供っぽいと思ったんだろう。視線を揺らさず、真っ直ぐ受付まで歩く後ろに付いて行く。受付カウンターにいたのは、白髪混じりの痩躯の男だった。

 スーツもきまっていて、顔立ちも凛々しい感じなのだが、何だか顔色が悪いし肌が白い。大丈夫だろうか?

 

 

 当然杞憂だったみたいだ。男の指示でてきぱきと必要事項を決めていくとものの数分で鍵を受け取れた。一番の難所だと思っていた個人情報の部分は、適当な偽名を書いたのだがばれなかったので肩透かしだ。

 

 

「ねぇ」

 

 

「何」

 

 

「さっきのエレベーター何。人がいたんだけど」

 

 

 何処か感動したような口調だ。というか知らないのか。あれはあれだよ、エレベーターガールだ。行き先聞いてボタン押してくれんだよ。自分で押せば良いじゃんとは衣沙の談。まぁそうだけどさ?金かかってんなーって思っときゃ良いんだよ。

 

 

「そういうもん?」

 

 

「そういうもん」

 

 

 それっきり会話は無く、正直直ぐにでも寝たかったので互いに無言で壺やら絵画やらが飾られた廊下を歩く。手元の札と見比べて五つ目位で部屋を見つけた。

 鍵を開けるのに一秒もかけられねぇ!

 開けるっ!飛ぶっ!寝るぅ!

 じゃあ後よろしく...

 

 

 

 

 

<<<???・???>>>

 

 

 

 

 

 柔らかな白絹が波打つのはほんの僅かで、それも意識の彼方に飛べば見えるのは無間の闇。体は鉄球を結び付けられた囚人を思わせる程固く重い。

 遠近感覚の壊れた視界が、不意に赤く染まる。がらがらと大きな物が砕けていく。在るべき姿を失う世界で、只一人が笑っている。

 

 

 笑っていた。

 

                         

 最初に目に写るのは黒髪。端が焼け切れて半端に長く、(なり)は浮浪者のようだ。そしてこっちを見る目。視線が霞んでいるにも関わらず、合った。と感じた時、先の偏見は消し飛んだ。

 

 

 燃えていた。真っ赤な炎が眼球の形をしていた。煤こけた頬を歪ませて其れは笑った。死すであろう今でさえ、其れを恐れさせるには足りないのだ。あれは人ではない。僅かな思考がはっきりと弾き出す。其れが歩いてくる。背丈が安定せず、小柄な少女程から大男のような背にもなる。

 

 

 目の前に立つ。未だ視界は定まらないが、音だけは明瞭に聞こえた。頬を歪ませて其れは言う。それを聞いている間は何故か違和感を感じた。とても口の動きと言っている事が同じだとは思えない。

 いや、もう一度言ってくれたら分かるかも。

 

 

 口に出してはいないはずなのだが、其れには伝わったらしい。態とらしく口を押さえて咳払い。また朗らかな口調で言った。其れ曰く、

 

 

「ようこそ!ホテル本能寺へ!」

 

 




==Tips==
登場人物:秋近衣沙(あきちかいさ)
性別 女身長 162cm
誕生日 5/10
好きなもの 静謐とした空間、兄(いい方)
嫌いなもの 兄(駄目な方)、意思も覇気も無い人
イメージカラー 紺色
魔術系統 幻術
魔術回路 質B 量B
マテリアル1
 地方の陰陽師一家に生まれた少女。それなり才覚に恵まれたが、天才には一歩届かない。それでも不断の努力によって才女と呼ばれた秀才。他人に厳しく自分に厳しく。倹約を良しとする多少頭の硬い気質だが、それを他者に強要することは無い、言うなれば出来た子。
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