fate/”S S”-ダブルエス-   作:歌楽須

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どーぞ。


第一話 微睡み、春の終わりを

<<<???・???<<<

 

 

 

 

 

 シャワシャワミンミンシャワシャワミンミン。

 

 

 怒鳴り散らすように鳴き続ける。奴らのジャズをヘッドホンでカット。

 

 

 つーか今5月だけど?いま一瞬くらっと。

 

 

 でも俺は負けないめげない。暑さに負けずに奏でるビート。

 

 

 いつか来るはずモテ期をゲット。

 

 

 Yo。Yo。

 

 

 気になるあの娘に振られてサッド。心はレッド。

 

 

 Yo。Yo。

 

 

 そう俺はSHU-RI。クールな男さ。

 

 

 明けない夜はねぇ。

 

 

 

 

 

<<<秋近家・裏庭<<<

 

 

 

 

 

 人生。オワタ。\(^o^)/

 

 

 

 

 

<<<秋近家・封印蔵<<<

 

 

 

 

 

「間の悪さが俺の取り柄だぜ。イェァ.........」

 

 

 死んだ。死んだわこれ。裏庭でラップしてたら妹に見つかるって...ええー?んな事ある?まじで??ええーーー?

 薄暗くカビ臭い蔵の中で体育座りして悶えながら首を傾げる。まるで実家のような安心感の実家です。やーでもなー。無い。無いわー。有り得る?ラップしてる兄見つけて動画にとって、しかも後でそれを教えるってさぁ...てかあいつすげぇ式神使うの上手くなってたな。いや前からか。

 

 

「死にてー。まじ死にてー」

 

 

 パラパラとその辺に積まれた本を手にとって眺める。複雑な図形の横に並ぶ草書体。ぐちゃぐちゃすぎて読めない。此処そういう大切なガラクタ多すぎ。苦し紛れの気分転換に此処に来たけどさっぱり効果無いわ。まじで。これなら本屋行ってエロ本買ったほうがマシだわ。

 ...見つかったら今度こそ酷い目に合いそう。むごい目に。

 

 

「ぶえっくしぃ!埃っぽいんだよガラクタ置き場のくせによっ、こちとら人間様だぞ!!」

 

 

 無性にむしゃくしゃするので蔵を支える柱に蹴りを入れる。鈍い音とともに柱が軋んだが、特に気にしなかった。脇に抱えた本を元の場所に置いて蔵を出る為に出口へ向かう。花瓶、刀、本にその他よく分からん物。見慣れたそれらを通り過ぎてポケットの錆びた鍵で扉を開ける。

 砂を噛みながら少しずつ扉が開き、闇に慣れた俺の目を陽光が刺す。何故かとても歌いたかった。

 

 

「立ち止まっても始まらねぇ。

 俺の心は燃えてるぜ。

 照りつく太陽。此処は東方。

 I'm a Onmyouzi!Yeah!!」

 

 

 クルッと回って右手を上げてクソカッコイイポーズを取る。

 無表情の妹とバッチリ目が合う。

 黒いボディのハンディカメラのレンズが、光を反射してキラリと煌めいた.........。

 

 

 

 

 

<<<秋近家・居間<<<

 

 

 

 

 

「殺してくれ.........」

 

 

 居間の机に撃沈した俺を見る妹の眼は冷たい。ちらりと視線を送れば、道端で転がる蝉を見るような目が向けられていた。死にたい。死にたい。死にたtttttt...。

 

 

「.........なぁ。さっきの動画なんだけど」

 

 

 上半身を起こして声を掛けると、衣沙はにっこり微笑んだ。そしてお茶を啜った。

 え?何?何なの?何の笑顔ですか??問い直しても微笑むばかりだ。怖すぎる。どうせ嫌な妄想の域を出ないと分かっていながら、脳裏は俺の行く末を想像し続ける。その大半で俺は学校で自称天才ラッパーとして孤立しており、顔を上げた先では廊下の曲がり角から顔を出す衣沙が魔女のように嗤うのだ。冷や汗が止まらなかった。

 このままでは殺される。

 俺は苦し紛れに兄貴の話題に持っていく。

 

 

「そ、そうだ兄貴のことなんだけどさ...来月『時計塔』から帰ってくるってよ」

 

 

「!本当!?」

 

 

 それまでマイナスだった瞳が温度を取り戻し頬を紅潮させて衣沙が俺に詰め寄る。分かりやすい奴なので有り難いんだが...将来大丈夫かこいつ。俺は妹の未来を案じたが、本当に案じるべきは自分の現在だ。俺は素早く思考した。

 

 

「そうそう。それで兄貴が喜ぶプレゼントの一つでも考えようと思ってよ」

 

 

「へぇ!あんたにしては殊勝な考えね。まぁ当然だけど」

 

 

 一言多いんじゃバカタレ。顔はにこやかに。心は真っ黒に。女性との会話は真剣による勝負に似ている。何だ?何かが掴めそうな気がした。だが気がしただけだった。思考を切り替えて言葉を選ぶ。

 

 

「だろ〜?それでな、イギリスの飯も良いとは思うんだが、やっぱり和食を食べさせてやりたいって思ってさ。サプライズで食事を作ってやろうと思うんだ」

 

 

「えっ...と。食事かぁ...」

 

 

 よしよし。心の黒い笑みを浮かべる。

 

 

「うんうん分かるぜ。お前は料理下手だからな!」

 

 

 腰の入った右ストレートォ!危なーい!!

 

 

 攻撃を予測していた俺は顔を右に傾けて回避する。耳がぢっ!と音を立て、後ろの壁が嫌な音を立てた。こいつ術式で速度上げやがったな。

 やんわりと笑顔を取り繕って、振り抜かれた白い手を包む。

 俺は言う。

 

               

「まぁまぁ落ち着けよ。勿論お前だけにやらせればどうなるかは見えてる。さりとて俺が手伝ってもお前は兄貴からの好感度を稼げねぇ。ならどうするか?」

 

 

 俺は包んでいた右手をピンと伸ばし、人差し指を立てる。

 

 

「交換条件といこう。お前は俺にさっきのデータを渡し、俺はお前に封印蔵の秘伝のレシピを渡す。これでどうだ?」

 

 

 敵意を持った衣沙の視線が緩まる。手を振り払うと正座に戻り両手を祈るように組む。俺は心の中で察した。ああするのは衣沙が熟考する時の癖だ。俺と衣沙との間に沈黙が降りる。 

 衣沙は俺の提案を飲むかどうか決めあぐねている様子で、さっきから手を解いたりまた組み直したりしている。

 決めに掛かるか。

 

 

「ヤモリの尻尾」

 

 

 不意に掛けられた言葉の意味が分からず、衣沙が不審な表情を見せる。交渉とは正しく真剣勝負。弱みを見せれば急所を突かれて当然だ。ここからが俺の勝負所、悪く思うなよ。俺は心の中で小さく詫びを入れてから早口になる。

 

 

「睡蓮の根。牝鹿の角。魔術髄液の濾過液...」

 

 

 それ以外にも立て続けに単語を重ねる。話に追いていけないようで、業を煮やした衣沙が俺を問い詰めようとする直前。俺は人差し指で額を抑えて、

 

 

「媚薬の材料さ」

 

 

 ガシィィッッ!!!と強く握手が結ばれる。.........恋する乙女に不可能は無いのだ。

 俺と衣沙はこの瞬間固い絆で結ばれていた。衣沙が笑った。俺も笑い返す。どちらともなく立ち上がり、叫んだ。

 

 

「さぁ行くぞう!!ゴールは目前だ!」

 

 

「おー!」

 

 

 俺達は走り出した。キラキラと太陽が輝き、俺らの道を祝福してくれた。その後、スマホとカメラからデータを消した事を確認し、封印蔵の奥から媚薬レシピを引っ張り出した俺は顔をアイスの様に緩ませる衣沙に渡した。今頃は自室で幸せな妄想でもしているだろう。兄貴には悪いことをしたと思っている。今は反省している。俺は勝手に反省して心の罪悪感を滅した。

 一時はどうなるかと思ったが...兄の貫禄ってやつを衣沙に見せることができて満足だ。俺は上機嫌のまま本屋に行き、最近注目のエロ本を買った。クソッタレな友人が教えてくれた店だ。店主は爺さんだったし特に覚えられても無い筈。夕暮れの帰り道、ラップを歌いながら家へ向かう。

 

 

Yo。Yo。

 

 

俺は愁利。特技は推理。

 

 

いつか来る筈モテ期をゲット。

 

 

エロいことの為に命賭けるぜベット。

 

 

Yo。Yo。

 

 

明けない夜はねぇ。

 

 

 

 

 

<<<秋近家・畳広間<<<

 

 

 

 

 

「自分が何をしたか。分かってますね?」 

 

 

 はい。勿論です。

 

 

「なら尚更ですね。こんな巫山戯た真似がよくもまぁ......」

 

 

 くそっ。何でこんな羽目に...怨嗟を込めて右を見れば衣沙がこちらを睨んでいた。まるでお前が悪いとでも言うかのようだ。元はと言えばお前がババアに見つかるようなヘマするからだろうが!俺は口パクで叫んだ。頭に声が響く。衣沙の陰陽術だ。

 

 

(元はと言えばあんたがあんな物渡すからでしょ!?ほんっと馬鹿!馬鹿馬鹿バーカ!!)

 

 

 はぁ!?オメーだってあんっっな顔緩ましてたじゃねえか!?

 

 

(別に?兄さんの為に何作ろうか考えてただけだから)

 

 

 きっ、とこちらを睨む眼は憎悪に塗れている。ふーん?仮にも兄にそんな目を向けるとは...。

 

 

「よく言うじゃん。世間じゃてめぇ見てぇな奴を何て言うか知ってるか?このムッツリスケベ!!」

 

 

「やんのか魔法使い確定童貞!!」

 

 

 言ってくれるじゃねえかぁ!!心の最もデリケートな部分を抉られたので素早くズボンから符を抜き打つと目の前に翳す。もう片方の手は口元に置き、両腕に魔力を流して唱える。

 イメージは、風。

 

 

「『吹っ飛べ』っ!!」

 

 

 淡い光に包まれる符を起点として突風が吹き荒れる。そこまでの魔力は込めてない、精々吹っ飛ばす程度。だが衣沙は俺よりも優秀だった。何時の間にか左手には符が収まっており、俺と同じように淡く輝く。俺の風を受け止めたのち、収まっていたもう一枚が輝きを増す。

 

 

「『転』」

 

 

 あべべべっ。ごろごろと畳を転がった俺を追い打ちの水と氷が襲う。濡れ鼠になって震える俺を周囲に符を浮かべた衣沙が鼻で笑った。そして頭をぶっ叩かれた。

 もんどり打って呻く衣沙を見ながら、立ち上がって俺は自身の優位性を確信した。久しぶりに勝ったな。その勝利の愉悦に浸る間もなく、

 

 

「『沈みなさい』」

 

 

 俺は二秒で沈んだ。畳ペロした俺と、呻く衣沙にババアが呆れたように溜息をついた。強制的に正座させられ、正座したババアと向かい合う。無駄に艶の良い黒髪と、時代錯誤な若草の着物を着たババアは人でも殺してそうな三白眼をいつも以上に尖らせる。

 まずは衣沙からだった。

 

 

「衣沙。貴方の技量が卓越している事、貴方の知識への関心もよく理解しています。しかし弁える所は弁える。その判断がつかないようであれば、私は貴方の術を使用を認めません。どれ程高い技量を持ったとしても、その力は貴方が傲慢に振る舞うためのものではない。ですので罰則を設けます」

 

 

 それと、これは預かります。そう言ってババアは書物を横に置いた。衣沙はややあってから、はい。と小さな声で言った。次の標的は勿論俺だ。衣沙の時はまだあった僅かな優しさすら消えた目で俺を見る。

 

 

「愁利。貴方にはほとほと愛想が尽きました。貴方は仙利から封印蔵の

管理を任されている立場なのですよ?罰として厳しい(・・・)修練を積んでもらいます」

 

 

「..母さん、兄貴は俺に蔵をくれるって言ったんだ。中身をどうしようが俺の勝手だろ」

 

 

 しかしババアはにべもない。その両目を狐のようにして俺を睨めつける。

 

 

「あの蔵は先祖代々伝わる由緒正しい蔵。平安から今までの多くの財が眠っているのです。貴方の役目はそれを次代に引き継ぐ事だけ。言い訳も反論も無用。恨むならば、非才の己を恨みなさい...衣沙。愁利。貴方方には『剥離縄』を解いてもらいますよ」

 

 

「はぁ!?」

 

 

「待ってよ!お母さん!」

 

 

 クソババアが。あんな拷問紛いのことやれってか!?幼少の頃に一度だけ解かされた時があった。あの時を思い出しているのだろう、衣沙の顔が真っ青になっている。

 

 

「では行きましょうか。日が昇るまでに終わらなくても結構。学校には連絡しておきますので」

 

 

「やっ!やだぁ!!」

 

 

 俺だって御免だ。それでもババアは術士として憎たらしい程俺達より上だった。ババアが喋れば俺達はそれに従うしか無い。

 泣きながら懇願する衣沙を見ながら.........こんちきしょうが。

 

 

 

 

 

「『爆ぜろ』!!」

 

 

 炸裂音に続き白煙が視界を埋め尽くす。いざという時のために常に袖には符が織り込んである。そいつを使って目晦ましを仕掛ける。ババアの術は視界に入ることが条件。錯乱する衣沙を引きずって走る。

 

 

「衣沙!いいか!?此処は俺がなんとかすっからとっとと逃げて親父を呼んで来い!」

 

 

「えっ?で、でも...」

 

 

「いいから、行け!!!」

 

 

衣沙が走り出したのと、煙が晴れたのは同時だった。ババアが右手を上げ、襖を開ける衣沙を射線に入れる。そして、

 

 

「『乱』!」

 

 

 部屋全体に符の竜巻が吹き荒れる。衣沙のばら撒いた符と俺が持っていた符。渦巻いていく流れは部屋を二分する。俺の背後に丁度壁が生まれる。

 ババアの恨めしい目が俺に刺さる。クソババアが。

 あん時から、ずっとこうだ。

 

 

「これで...勝ったつもりですか?」

 

 

 『燃えろ』、と命じるババアの一言で部屋を渦巻く符は全て焼け落ちる。残りはもう無い、全部使い切っちまった。虚仮威しにすらならないボクシングポーズを取りながら、全力でババアを睨みつける。焦げ臭い部屋に二人の視線が交差する。俺はハッタリをかました。

 

 

「いや、俺の負けだ。でもよ、こうも考えられるぜ?それくらい強ぇえあんたが、俺みてぇなゴミ陰陽師に一杯食わされたんだ。あんたも大したことねえんだなぁ!!」

 

 

 馬鹿息子が。ババアは吐き捨てるように言い、俺に右手を向けて...。

 

 

 

 

 

本日の教訓。ラップやめるか。




==Tips==
家系:秋近家
 京都近くに居を構える陰陽術の一族。格としてはそれ程の落ち目の一族だったが、二百年程前に当時の当主が安倍晴明の血脈を加えることに成功。その箔によって晴明の遺品が残されたという封印蔵の管理権を手に入れた。
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