ガンダムビルドライザーズ   作:shisuko

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 ビルド二次作品読み込んでいる内に、遂に欲に負けて投稿してしまいました。
 現状ストックとか殆ど無い状態だわ、そもそも私が遅筆だわガンプラ作りも並行してるわ体力無いわで次話以降の投稿も盛大に遅れるかと思いますが、どうか生暖かい目でお付き合いの程、宜しくお願い致します。


ようこそGBNへ
第1話 今日からガンプラ始めます!


 ガンプラバトル・ネクサスオンライン――略して“GBN”。

 ガンダムシリーズに登場するMS・MA、及びそれらをモチーフにしたキャラクターのプラモデル“ガンプラ”を読み込み戦わせる“ガンプラバトル”を始めとした、様々なミッションを電脳仮想空間“ディメンジョン”内で楽しむ事が出来るフルダイブ式ネットワークゲーム。

 近年Ver.1.78へのアップデートを終え、プレイ中の感覚のフィードバックを筆頭に様々な要素が加えられ、二千万人以上という膨大なアクセス数を抱える程の人気を博している本ゲームにおいて、昨日今日から始めた新人ダイバーというのは何も珍しいものではない。

 不動のチャンプ“クジョウ・キョウヤ”を始めとした有名ダイバーへの憧れだとか、学校や職場の友人・知人に誘われただとか、かつてGBNの前身として活躍していた“GPD”からの出戻りだとか、あるいは二年程前に勃発した“第二次有志連合戦”と、それに伴って知られる事となった世界初の電子生命体の存在に惹かれてだとか――ともかく個々人がそれぞれの理由を胸に、日々GBNの門戸を叩いている。

 そう。その日、ある思いを胸に広大なディメンジョンへの一歩を踏み出そうとしていたとある少年もまた、その一人であった。

 

 

 

 始まりは日本某所。とある小学校の、5年生の教室内での事だった。

 

「なーなーコテツ! 昨日、俺誕生日だったんだ!」

 

 そう彼――ギンジョウ・イツキが意気揚々と切り出したのは、朝のホームルームが始まる午前8時半の少し前。教室後方の棚に押し込んで来たランドセルから抜き取った教科書や筆箱を抱えながら、自分の席の傍まで足早に駆け込んですぐの事だった。

 水色の半袖シャツと紺色の半ズボンを身に着けた黒髪の彼の、大きく丸い黒い瞳を欄々と輝かせながらのその声に、彼の隣の席で頬杖を突いていた少年――フジカブト・コテツが、あ゛、と首を向けた。

 

「朝っぱらから突然何言ってんだオメー?」

 

 逆立った焦げ茶色の短髪に、オレンジ色の半袖パーカーとモスグリーンのカーゴパンツを身に着けている幼馴染の、些か目付きが悪い双眸が胡乱気に細められるが、それを一切に気にせず、というか気にする余裕も無くイツキは声を張る。

 

「だから、昨日誕生日だったんだよ! 11歳になったんだよ俺!」

 

「だーかーらー、それが何だっつーんだよ?」

 

「やっと出来るようになったんだよ! GBNが!!」

 

 そう告げるや、はぁ、と意味が分からないようにコテツが首を傾げたが、暫くしてイツキの事情を思い出したのか、ああ、と得心したように頭を上下に揺らした。

 

「そーいや、お前ん()ってガンダム禁止だったっけ?」

 

「そーなんだよ! うちの母さんガンダムスッゴイ嫌いでさ~!」

 

 そうなったのは、かれこれ5年くらい前、小学校に上がって最初の年だったか。

 正月の家族団らんの場で、面白い番組が無いかと新聞のテレビ欄を探していたところ、偶然その時間にガンダムシリーズの作品がやっているのを見つけた。それですぐにチャンネルを合わせて見ていたのだが、それが終盤に差し掛かったところで、何故か慌てた様子の母にリモコンを奪われ、別のチャンネルへと変えられたのだ。

 それなりに楽しんで見ていた事もあり、当然ながらこの突然の蛮行に当時のイツキは腹を立てて問い詰めたのだが、母からは、子供があんなもの見ちゃいけません、の一言が返されたのみで、一緒に居合わせた父もそんな母を咎めるような事も無く、どこか居心地が悪そうにしているだけであった。

 何故、母がそんな事をしたのか? 何で父は黙っていたのか? その理由を、未だにイツキは知らないが、ともかく、その時の事を切欠に母はガンダムを嫌うようになり、気づけばギンジョウ家ではガンダムという言葉、及びその関連の話題は禁句になっていた。

 

「ホッント大変だったんだぜ、母さん説得すんの? いっつもおっとりしてんのに、ちょっとでもガンダムの名前出したらスッゲェ怒るし! 父さんも何とかこっち側に引き込んで、やっとの思いで今年の誕生日プレゼントはGBNってところまでどうにか持ってってさ」

 

「相っ変わらずだな、お前んトコのおばさん」

 

「ホントだよ!」

 

 頬杖を突く腕を入れ替えながら呆れ半分に言うコテツに、腕を組み、不満を込めた荒い息を鼻から吐きながら、自分の席から引き出した椅子の上にイツキはやや乱暴に腰を下ろした。

 母のガンダム嫌いは本当に困ったものだ。コテツに語った通り、今年の誕生日プレゼントをGBNデビューにする事を認めさせた時も、大分渋っていた。成績が落ちたら禁止と、それらしい条件をしっかり付けて来るくらいには。

 一体、何が母にそこまでさせるのか? イツキには皆目見当がつかないし、ならばと理由を聞き出そうとすれば途端に怒らせてしまう事になるので、聞くに聞けない。なまじ普段はおっとりしていて滅多な事じゃ怒らない母だから、怒った時は本当に恐ろしいのだ。

 そんな母だけに、本来ならGBNやガンダムの話なんて口が裂けても出さない。イツキだってむやみに怒られたくはないのだから、周りがやってるから俺もやりたい程度の理由であったならば、怒った母の恐ろしさを思い出してあっさりと諦めていた事だろう。

 そう、GBNを、ガンプラを始めたいと心から彼が思うに至った、()()()()と、そして()()()()()()に出会って無かったならば。

 

「ま、母さんの事は置いといて。ともかく、そんなこんなで今日から俺もGBN始められるようになったワケ!」

 

「ふーん、良かったじゃねーか。――で、()使うんだよ?」

 

「へっへーん、だろ――って、え? 使う? 何を?」

 

「ガンプラに決まってんだろ!」

 

 問い掛けの意味が分からず聞き返すや呆れたような声を上げるコテツの言葉に、ああ、と合点がいったイツキは小刻みに頷き返す。

 その様子が気に入らなかったのか、は~、と深い息を吐きながらコテツが言葉を続ける。

 

「お前、GBNが何のゲームか分かってんのかよ? ガンプラバトルするゲームだぞ」

 

「わ、分かってるよそんな事!」

 

「ホントかぁ~? ガンプラ無しで始める気だったんじゃねーのぉ?」

 

「ち、違うし! ガンプラだって、ちゃんと何使うか決めてるし!」

 

 疑いに眉を顰めるコテツに、咄嗟にイツキは反論を返す。

 が、すぐに、あっ、と彼は言葉を詰まらせざるを得なかった。

 何故ならば、彼がGBNを始めるに当たって解決すべき課題がそこにあったからだ。

 

「……あのさぁ、コテツ」

 

「ぁん?」

 

 というか、むしろその課題こそこの場で彼にGBNの話題を振った、その本題であると言っても良い。

 なので、少々ばかり感じる言い難さから両手の人差し指をつんつん、と突き合わせていたイツキは、意を決して本題を切り出す事にした。

 

「その~、ちょっと頼みたい事があるんだけど……」

 

 

 

 時と場所は移り変わり、午後2時半。

 その日の授業を全て済ませて帰宅し終えたイツキは、現在先を歩くコテツに続く形で住宅街の道路を歩いていた。

 

「しっかし、GBNのやり方だけならともかく、ガンプラの作り方も分かんねぇとはなぁ」

 

「仕方ないじゃん。俺、今までずっとガンダム禁止だったんだぞ? ガンプラなんて作れるワケないじゃん」

 

 アスファルトの上に引かれた白線で自動車道と分け隔てられた歩道の上を進む傍ら、組み合わせた両手を後頭部に当てながらしみじみといった感じで言うコテツに、唇を尖らせてイツキは言い返す。

 

「だから教えてくれって言ったんだぞ。GBNのやり方と、あとガンプラの作り方と!」

 

 そう、“ガンプラを作った事が無い”。――それこそが、GBNを始めるに至ってイツキが抱えていた課題であった。

 前述した通り、イツキの家では彼の母親の意向の下、ガンダムに関する事が全て禁止状態にある。ここに誕生日という一年に一回の特別なイベントを利用して、どうにかGBNデビューと――こちらの代金はイツキ自身の小遣いから捻出という事になったが――そのためのガンプラ、及びガンプラ作成のための工具類の購入をどうにか母に認めさせるに至ったのが現状なのだ。

 なので、それ以前まで彼はガンプラはおろか、ガンダムに関するものは一つも手に入れたことは無いし、当然ガンプラの作り方も、必要な工具も分からない。それこそ、パーツをどうやってランナー(外枠)から切り離すか、どころでは無く、ガンプラが箱に入っているのは知っているが、開封前のガンプラはパーツがほぼ全てランナーに繋がった状態で入ってるとか、説明書やシールも一緒に入っているという事すら分からないレベルで。

 だからこそ、ガンプラを作るに当たって、その作り方を知る人間の教えが必要だとイツキは考えた。そして、それが出来る人間が思いの外身近にいる事にすぐに気づいた。

 そう、コテツである。

 幼稚園からの付き合いである彼はイツキと違ってガンダムが禁止されておらず、むしろ小学生に上がった頃にはイツキを始めとした同年代の子供達が及び付かない程にはガンダムに精通していた。

 実際、比較的近くにあるコテツの家に何度か遊びに行った事があるが、いつも彼の部屋に入る度に彼が作った何体ものガンプラやそれ以外のグッズに出迎えられたものだし、もううろ覚えになってしまっているくらい僅かな頻度だったが、彼が所有するガンダム作品のブルーレイなんかも何回か見せてもらった事がある。極め付けに、かれこれ一年くらい前に、遂にGBNを始める、と自慢げに話していた覚えもある。

 これだけのものが揃っていて、尚且つそれなりに長い付き合いのあるコテツならば、頭の一つでも下げて頼み込めば何のかんの言いつつも教えてくれる筈だ。――そういう目論見がイツキにはあり、そして今朝の学校のあの場で実行した。その結果が、こうして二人揃って互いの家から少し離れた住宅街を歩いている現状であった。

 

「ていうか、そろそろドコ行くか教えてくれよ?」

 

 学校終わったら金持って(ウチ)に来い。――それが、丁度担任が教室に現れて周囲のクラスメート達がそれぞれの席に座っていく傍ら、しゃーねーなぁ、とまるで世話の掛かる弟か何かを相手にするような調子ながらも、一応了承の意を示したコテツからの言葉であった。

 その言葉に従って財布を手に彼の家に向かい、既に出入口の前で待っていたコテツと合流するや、付いて来な、と何処へ行くか告げる事も無く先へ行こうとする彼に訳が分からずも付いて行き、そして現在に至っているのだが……いい加減、イツキは痺れを切らしていた。

 てっきり、コテツの家でガンプラの作り方やGBNのやり方を教わるものと思っていたのだ。

 だのに、実際はこうしてどこへ行くかも分からず歩き続けている。歩いた距離こそ大したものでは無いし疲れも左程では無いが、それはそれとして不満を覚えざるを得ないというものだ。

 これで、GBNやガンプラと全く関係ない場所へ向かっていたならば、一体どうしてくれようか?

 とりあえず文句の一つ二つ言う準備をしつつイツキが身構えていると、肩越しに彼の方に目を向けたコテツが、カーゴパンツのポケットから何かを取り出し、顔の横に掲げて見せた。

 

「イツキ、お前コレ持ってるか?」

 

 そう訊いて来たコテツの手にあったのは三角形の板だった。

 一片の長さは大体20cm程。三つの角が一様に落とされたガンメタルの全体の、その真ん中にやはり角の落ちたクリアグリーンの三角形が配されたそれは、よくよく見てみると何かの端末のようにも見える。

 とりあえず見た事の無い代物であったことだけは確かだったので、何ソレ、と素直にイツキは尋ね返した。

 すると、何故かコテツから、は~、という深い溜息が吐き出され、次いで、んなこったろうと思ったぜ、と予想通り半分呆れ半分という感じの言葉が返って来た。

 

「“ダイバーギア”っつぅんだよ。GBNの個人データだとか、手に入ったアイテムだとかをコレに入れとくんだ。コレ無かったらGBN出来ねぇんだぞ」

 

「えっ!? マジ!?」

 

 知らなかったそんなの、と目を見開いてイツキは驚きに顕わにする。彼自身の言葉通り、そんなツールがGBNに必要だとはこれっぽっちも知らなかった。

 そのイツキの反応に再び嘆息しつつも、コテツの言葉が続けられる。

 

「そんくらいまず調べとけ! ……ともかく、オメーがGBNやるにはオメーのダイバーギアが必要なんだよ。だから貰いに行くんだよ、オメーのガンプラも見に行くついでによぉ」

 

「え!? もう俺のガンプラ買っちゃうの!?」

 

「もう、って何だよお前!? もう、って!? いつガンプラ作るつもりだったんだよオメーは!?」

 

「いつって……取り合えずお前に作り方教えてもらってから、どっか、デパートの玩具売り場とかでゆっくり探そうかなって……?」

 

 コテツの家に集合という事になった時点で、イツキの中でのガンプラ作成の順序は既にこういう流れになっていた。

 三度(みたび)、コテツが溜息を吐いた。

 

「……ともかく、今俺らが向かってんのは、お前のダイバーギアとガンプラが手に入るトコだよ。行くって事ももう電話してある」

 

「ふーん、俺の、ダイバーギアっていうのと、ガンプラが手に入るトコねぇ。――あ! ひょっとして、それってガンダムベースってトコじゃ――」

 

「はいハズレー」

 

 疲れたようにやや精彩を欠いたコテツの言葉に頷いていたところにふと閃いた考えをイツキは口にしたが、すかさずそれはコテツに否定される。

 

「ガンダムベースなんざ、ここから一番近いトコでも電車で一時間掛かんだよ。んなトコ今から行くワケねーだろ」

 

「じゃーどこ行くんだよ?」

 

 ガンダムベースでは無いとしたら、一体どこへ行くのだろう? どこかのデパートや家電量販店だろうか?

 しかし、イツキの記憶の中ではそういった類の店は――あまり来た事の無い場所のため、本当に目立つものに限られてしまうが――無かった筈だ。

 一体どこに手に入れに行くのだろう、とイツキが首を傾げていると、へへん、と元気を取り戻したらしいコテツがニヤリ、と笑みを浮かべた顔を向けて答えた。

 

「行き付けの店だ! 俺のな!」

 

「行き付けー?」

 

 声を張るコテツに首を傾げる角度を更に深くしたイツキはどういう事か問い質そうとしたが、そうするよりも前に、着いたぞ、と彼の足が止まる。

 それに倣って足を止めたイツキは、そのまま右の方へと顔を向けるコテツに続くように、同じ方向へ向き直った。

 そうして彼の視界に広がったのは、

 

「ここが俺の行き付けのプラモ屋――“アガタ模型店”だー!」

 

大きなショーウインドゥが前面に張られた白いペンキの建物とその1/2程度の大きさの小屋が並び立つ、一件の模型屋であった。

 

 

 

「こんちはーッス!」

 

「こ、こんにちはー」

 

 コテツの案内の下辿り着いたアガタ模型店。

 周囲の家々の大体2倍強くらいの幅の、曇りや汚れだらけで中が全く覗けない幅広のショーウィンドゥと薄汚れた白いペンキ塗りが特徴の建物と、その隣に立つくすんだ茶色の小屋を合わせた模型店。道路との境の所々に生えた雑草や、部分部分でペンキが剥がれ落ちた、良く言えば年季の入った、悪く言えば寂れた様相の店の、その内の白い方の右側にあったガラス張りの扉の前に立つや、それを押し開けたコテツに一歩遅れて、イツキは恐る恐るその中へと踏み込んだ。

 そして視界に入って来た建物の内装に、ほっ、と胸を撫で下ろしていた。

 

「良かった~、廃墟とかじゃなかったぁ」

 

 割れて光を灯す事の無くなった電灯。そこら中に張られた蜘蛛の巣。辺り一面に転がる瓦礫。

 お世辞にも綺麗とは言えなかった外観から、内部もそんな廃墟染みた光景が待っているのではないかと内心気が気でなかったイツキであったが、実際に内装を目にしてその考えは拭い去られた。

 実際にあったのは、ちゃんと点灯する蛍光灯の列に照らされた、大小様々なプラモデルの箱やオプションパーツ入りの袋、工具の袋が乗せられたり掛けられたりしている棚やショーケースが一定間隔で並んだ、少なくとも“普通”という言葉で済ませられる程度には綺麗な、よくある模型店の内装であった。

 

「どんなの想像してたんだよ?」

 

「だって、見た目スッゲェボロボロだったじゃん! 駐車場だって酷い事になってたし!」

 

 道路を挟んだ店の向かい側にアガタ模型店の駐車場が存在するのだが、これがまた凄まじい事になっていた。

 地面に敷かれたアスファルトの所々が剥がれ、更に雑草が生い茂っていた、などというのは序の口。こちらについては更に車止めのブロックが幾つも砕けていたりそもそも無かったりしたし、周囲を覆っているフェンスも所々穴が空いたり拉げていたりという具合で、店の内装に対する不安を一層膨らませてくれたものだ。

 

「まー、いい加減直すべきだわな」

 

 そう同意の言葉を返した後、んな事よりも、とコテツが唐突に頭を左右に振り出す。

 まるで、何かを探すために視界を周囲へ巡らせるようなその行動を暫く続けていたコテツは、それを止めるや口の傍に右手を近づけて叫んだ。

 

「おーい、兄ちゃん! いねーのかッ! ヒカル兄ちゃーん!!」

 

 店内中に響く、コテツの呼び声。

 しかし、暫く待っても彼に呼び掛けに応える者が現れる様子はどこにも無い。

 その結果に、ったく、と不満げに吐き出すコテツに、イツキは問い掛けた。

 

「誰? ヒカルって?」

 

「この店の店員だよ。大っ体いつも向こうで暇そーにしてんだけどよぉ……」

 

 店の奥のある、レジスターの乗った白い台で区切られたカウンターを指差しながらそう説明するコテツに、ふーん、とイツキは気の無い声を返す。店の扉を開けっぱなしにしたままこの場から居なくなったらしいヒカルなる店員に、不用心だなぁ、と呑気に考えながら。

 そんな感じだったために、

 

「こっちにいねぇんだったら多分外だな。連れて来っからちょっと待ってろ!」

 

「えっ? お、おいコテツっ!?」

 

唐突に踵を返したコテツにイツキは反応することが出来ず、慌てて呼び止めようとした時には既に幼馴染はその場から外へと駆けて行った後であった。

 

「……ええ~……」

 

 何だか訳も分からない内に一人その場に取り残されてしまったイツキは、まだコテツに押し開けられた時の力が残っているのか、キィキィ、と軋む音を鳴らしながら揺れる出入口の扉を眺めながら、肩を下ろして呆然とする他無かった。

 が、そうやっていても所在ないので、仕方なくイツキは一息を吐いて気を取り直す事にした。

 

「にしても……プラモ屋かぁ」

 

 初めて来たなぁ、こういうトコ、と店内を見回したイツキは感慨深さを感じながら呟く。

 先程ざっと見た時もそうだったが、人二人横に並んで通れるかどうか程度の間隔で配された棚の上に並べられたいくつものプラモデルの箱の物量には思わず圧倒される。自分より小さな子供も尋ねるためか、比較的物の数が抑えられているデパートの玩具売り場の棚なんかとは比較にならない密度だ。

 車、飛行機、戦車、フ〇ーム〇ームズ、メガ〇デバイ〇、Z〇IDS、ボ〇ムズ、メ〇ルギア……本当に様々だ。色々な字体を(もち)いられた多種多様な名前がデカデカと書き込まれた大小の箱が、それこそ天井まで届くかという程に並べられている。どれもこれも聞いた事も見た事も無いものだったが、少なくとも、無意識に棚の間を歩き回りながら見て回るだけでも面白いと思えるくらいには、それらはイツキの目を楽しませていた。

 そんな様々なキット群の中で、特にメダ〇ットなるシンプルな絵のロボットのプラモデルがやたら多く置かれている事に不思議さを覚えつつも足を進めていたイツキは、遂に()()へと足を踏み入れた事に気づいて、ぱぁっ、と目を輝かせた。

 

「ガンプラだ……!」

 

 位置にして、店内右奥よりの棚。

 先程コテツが指し示していたカウンターの、通路を挟んだその向かいの場所に、果たしてガンプラのコーナーはあった。

 その規模は、先程最も多く箱があると感じたメダ〇ットと同等、或いはそれ以上。最も一般的で、GBNにおいて使用できるガンプラの基本サイズとして定められている――という事をまだ彼自身は知らないが――1/144サイズのものは勿論の事、それより上のサイズである1/100、果てはそれらよりは更に上の1/60サイズのものまで、様々なガンプラがそこに所狭しと並んでいた。

 そんな、やはり天井まで届くかという程に積み上げられたそれらを、下から上へ、上から下へと視線と首を動かして見渡していたイツキは、無意識に、おお……、と感嘆の声を漏らしていた。

 

「すっげぇ……」

 

 ガンプラは今回のお目当ての一つだ。

 それが、メダ〇ットを除く他のプラモデルとは比にならない規模で、無数とも思える程の数が鎮座している。

 その様に圧巻されると共に、これなら、とイツキの心中で期待が膨らむ。

 これだけのガンプラが並んでいるなら、きっとどこかにある。

 自分に、母の説得という難題の達成を課してまでGBNを始めようと思わせた、()()()()()()が。

 

「……コテツの奴、まだ帰って来ないよな?」

 

 後方の出入り口の方に目を遣り、未だ幼馴染が戻る気配が無い事を確認したイツキは、もう一度棚のガンプラ群の方へと視線を戻して、ゴクリ、と唾を飲んだ。

 待ってろ、と言われた。が、何もせずにいろ、とまでは言われていない。

 どうせガンプラの購入も今日の目的の一つだ。なら、彼が戻って来るまでのその間、一足先に――。

 

「――探しちゃおっかなぁ?」

 

 別に良いよな? 良いよね? ――と、まるでこれから物を盗み出す空き巣か何かのように周囲を見回したイツキは、改めて店内に自分一人だけである事を確認するや、顔の横まで両手を持ち上げ、指をワキワキ、と忙しなく動かし始める。

 そして、目当てのガンプラを探さんがため、いざ、と怪しい動きをさせているその両手を目の前のガンプラの山へと接近させようとした。

 その時であった。

 

「あれ~、お客さんですかぁ?」

 

 声が、掛けられた。

 思わず、ビクッ、と手近な箱にあと10cmというところまで近づけていた両手が止まった。

 

「どうしましょう? 今、ヒカルさんお外でお仕事中ですし」

 

 その――恐らく自分とそう歳の変わらない少女の声が、困りましたぁ、とおっとりした口調で言う。――おかしい事に。

 だってそうだろう?

 さっき確認したばかりなのだ。今、店内にはイツキ以外誰もいないのだ。コテツも、彼が今探している筈のヒカルなる店員も。

 そう。誰もいない。

 この場に――間違いなくイツキ以外の()()は誰もいない。

 

「――あ、そうでしたぁ」

 

 だが、それでも声は聞こえる。

 イツキ以外の、聞き覚えの無い少女の声が、なおも聞こえ続ける。

 

「すいませ~ん。コテツくん知りませんかぁ? さっきコテツくんの声が聞こえた気がしたんですけど」

 

 聞こえる筈の無い声が聞こえる。

 する筈の無い声が、この場に居ない幼馴染の名前を口にする。

 分からない。ワケが分からない。自分を取り巻く今の状況がさっぱり分からない。

 分からない事だらけで、故に段々と重苦しい感情が募っていくイツキは、油の切れた機械のようにぎこちない動きで、声をする方へゆっくりと顔を向けていく。

 

「えっとですねぇ……コテツくんっていうのはわたしのお友達で、私達の“フォース”のリーダーなんです。茶色の頭のぉ、えぇっとぉ……」

 

 せめて、声の主の正体だけでも確かめようと思ったのか? それとも、所謂怖い物見たさだったのか?

 それは、もはやイツキ自身にさえ分からない。

 確かなのは、もう彼の思考は完全に凍り付いてしまっていて、何かを考える事が出来ない状況に陥っていたという事。

 そして、もう一つ。

 首ごと向けた視界の先、カウンターにはやはり()()()誰もいなかった、という事だ。

 では、何がいたのか?

 

「あ! そうです! ちょうどあなたくらいの大きさの男の子なんです!」

 

 声の主は、確かにそこにいた。

 あるいは、そこに()()()、というべきなのかもしれない。

 

「ん~? あれぇ? そういえば、コテツくんがお友達連れて来るってヒカルさんが言ってたようなぁ……? あ、もしかして――」

 

 声の主が、何かを思い出したように口元に手を当て、上半身ごと首を傾げる。

 カウンターを形作る白い台の上で、台の上に鎮座するレジスターの横で、台の上に掛けられた薄汚れた透明ビニールシートの上で。

 フルフル、と震え、自分でもそうと分かる程に急激に顔を蒼褪めさせていくイツキの視線の先で。

 激しく泳いで焦点が定まらない両の目でその姿を見る彼に、過去にコテツの部屋で見た何体もの彼のガンプラを思い出させながら。

 そう。声の主は、果たしてその正体は――。

 

「ギンジョウ・イツキさんってあなたですかー?」

 

 ――少女の姿をした、プラモデルであった。

 

 

 

「“EL(エル)ダイバー”ぁ!?」

 

「く、くく……そ、ELダイバー」

 

 告げられた答えに、まだ震えの止まらない体を両手で抱きながら叫び返したイツキに、笑いを堪えながらコテツが頷き返す。

 

「GBNで生まれた、ぷぷっ、世界初の電子生命体って、ぷふぅ、奴だ。ぷく、く、何だぁ、知らねぇのかぁ?」

 

「知らないよぉ! そんなのいるなんて!」

 

 ていうか、いい加減笑うの止めろよ、と半ば涙声で訴えるようにイツキは叫び返す。

 再三繰り返すが、彼の家ではガンダム関連の話は禁止事項である。知りようが無かったのだ。

 

「ていうか、何で、その、デンシセーメータイ? っていうのが現実(ここ)にいるんだよ!?」

 

 ()()()()()というくらいだ。それこそ、生まれ故郷であるGBNを始めとした電子の世界の住人であろうそのELダイバーとやらが、何故現実に、しかもプラモデルの姿で存在しているのか。

 そこに納得が出来ず、プラモのオバケだと思ったじゃんか、と半泣きで怒鳴るイツキに、クク、となお笑い出しそうになっているコテツが説明を続けようとするが、

 

「それはね、この“モビルドール”がこの娘の現実での体だからだよ」

 

それよりも先に彼の隣に歩み出る者がいた。

 

「体ぁ?」

 

「そう。“ビルドデカール”っていう、うーん、まぁ、シールみたいなものかな? そのシールの中にこの娘のデータが入っていて、そのシールがこのモビルドールっていうガンプラに付いてるから、こうして現実で僕達みたいに自由に動いたり喋ったり出来るんだよ」

 

 そう語るのは、黒髪をボブカットで整えた一人の青年であった。

 歳は20前半くらいだろうか。イツキ達に比べ頭三つ程高い背丈の細い体に赤いTシャツと青いジーパン、そしてその上からオリーブグリーンのエプロンを身に着けている青年に、へー、とイツキは感嘆の声を上げる。

 

「そんな事出来るんだ。スゴいじゃんGBN。――あ、えっと……ヒカル兄ちゃん、で良いんだっけ?」

 

 ついさっき出会ったばかりの青年に、まだ慣れない故の覚束ない言葉で呼び返すイツキに、はは、と青年が穏やかそう顔に笑みを浮かべる。

 

「そういえば、自己紹介まだだったね。僕はサワコシ・ヒカル。もう知っていると思うけど、このアガタ模型店の店員をやっているんだよ。宜しくね、イツキ君」

 

 エプロンの胸元に付けているプラスチック製の名札を左手で指し示しながら名乗った青年――サワコシ・ヒカルが、次いでカウンターの上に顔を向け、で、とその上で足を左右に広げた女の子座りをしている小さな少女の方を右手で指し示す。

 それに合わせて、んしょ、と少女もその場で立ち上がった。

 

「こっちが、僕が後見人やっているELダイバーのトピア」

 

「初めまして。トピアですー」

 

 ヒカルに続き、少し間延びした口調でそう名乗って頭を下げる少女――トピア。

 大体17,8cm程の、1/144サイズのガンプラとそう変わらない小さな体の彼女は、胸元の大きな赤いリボンと、膝下までを覆うスカートから覗く足や露出する二の腕、大きな円筒状のツインテールが左右から下りる金髪の下のおっとりとした面持ちの顔の白み掛かった肌色以外は、ほぼ赤みのあるピンク色に覆われている。

 そんなトピアをヒカルに促されるままに見ながら、ああ、うん、と先程の事もあって覚束ない調子でイツキが頷き返していると、不意に彼女の丸く大きな碧色の瞳が細められる。

 

「それと、さっきはごめんなさい」

 

「え?」

 

「イツキくん、さっきすごく怖がってました。驚かせるつもりじゃなかったんですけど、あんなに大声で叫んで……」

 

 そのトピアの言葉で、彼女が何を言わんとしているのか、イツキはようやく察した。

 先程の、初めてトピアの姿を目にした時の、恐怖のあまり外にいた筈のコテツやヒカルが大慌てで店内に駆け込む程の大音声で上げた絶叫の事を、彼女は言っているのだ。

 確かに、あの時は本当に怖かった。初めて見るELダイバーを化けたプラモデルだと本気で勘違いし、出入口に現れたコテツとヒカルの方へ泣き叫びながら這いずっていく程に。

 おかげで、ぶふぉっ、と一際大きく噴き出してプルプル、と肩を震わせているコテツの姿が不愉快でしょうがない。

 が、それはそれとして、本当に、ごめんなさい、とそう申し訳なそうに告げて頭を下げるトピアの姿には、謝られている側である筈のイツキも逆に申し訳なさを覚えてしまう。

 なのでイツキは、

 

「あ、いいよ。その、俺も、オーバーな反応し過ぎたっていうか……んまぁ、ごめん」

 

頭を掻きながらトピアに謝り返した。

 すると、

 

「どうしてイツキくんも謝るんですかぁ?」

 

「へ?」

 

「悪い事したら謝るんですよね? だからわたし謝りましたけど、イツキくんも何か悪い事したんですかぁ?」

 

「いや、俺は別に……流れ、っていうか……」

 

「じゃあ、何もしてないのに謝ったんですか?」

 

不思議ですー、とトピアが碧色の目を更に丸くして首を大きく傾げる。

 その、本気で不思議がっているらしい反応が予想外で困惑に言葉を詰まらせるイツキであったが、ふと、その肩が叩かれる。

 何事か思って振り返れば、さっきまで向かいで笑いを堪えていた筈のコテツがすぐ隣に立っていた。

 

「トピアな、生まれてまだ2ヵ月くらいしか経ってねぇんだわ」

 

「2ヵ月、って……まだ赤ちゃんじゃん!? 普通に喋ってるけど!?」

 

「そーいうもんなんだよ、ELダイバーっつぅのは。だから、まだ分かってねぇ事とか、俺らからしたらおかしいトコとか色々あんだよ」

 

 細かく考えんな、と最後にそう付け足すコテツの言葉にまだ引っ掛かりを覚えつつも、もう一度イツキはトピアの方へ視線を戻した。

 見れば、彼女は彼女で中腰になって顔を近づけたヒカルから、先程のイツキの謝りの言葉がどういう意味であったかという説明を受けている。

 そんな二人の様子に、そんなもんか、とイツキが思っていると、全員の中央へと移動したコテツが唐突にパンパン、と手を叩き、つーかよ、と皆の注目を集める。

 

「そろそろ本題入ろーぜ? 今日は俺ら、イツキの初GBNのために来てんだからよ?」

 

 そのコテツの言葉を聞いて、そうだった、とイツキはアガタ模型店を訪れたそもそもの理由を思い出す。

 全てはGBNデビューのため。そのために必要となる、ダイバーギアと“あのガンプラ”を手に入れる事こそが今日の最大の目的だ。

 

「用意は出来てんだよな、兄ちゃん?」

 

「もちろん。ほら、イツキ君」

 

 コテツの問い掛けに、ヒカルが頷き返しつつエプロンのポケットから何かを取り出して、イツキへと差し出す。

 果たしてそれは、例の角が落ちた三角形の板状の端末――ダイバーギアであった。

 

「おお! これが、俺の……!」

 

 目的の一つである自分のダイバーギアの目に入れるや、急激に沸き立つ興奮のあまりヒカルの手から半ば奪い取るように受け取ったイツキは、すかさず両手でしっかりと握ったそれを頭上に掲げて見上げた。

 持ち上げた灰色とクリアーグリーンの端末は、薄い板状の見た目に対して以外と重みがある。本来ならば腕の負担にしかならないその感覚が、今は待ちに待ったGBNデビューの時へと着実に一歩進めた事を実感させてくれるようで、とても嬉しい。

 

「必要な設定は大体こっちで済ませておいたよ。残ってるのはダイバーネームとかダイバールックだとかそれくらいだから、後は自分でやってね」

 

「うん! 分かった!」

 

 説明を付け足すヒカルに頷き、ありがとう、と最後に礼を告げるイツキ。

 そんな彼の姿に、どういたしまして、と微笑ましいものを見るような笑みを浮かべて返したヒカルが、続けて、さてと、と問い掛けて来る。

 

「次はガンプラだけど――確か、もう何のガンプラ使うかは決めてあるんだったっけ?」

 

 コテツ君からそう聞いていたんだけど、とイツキと、うんうん、と頷くコテツを交互に見遣りながらのヒカルの問い掛けに、うん、と大きく頷いてイツキは肯定する。

 

「何のガンプラ使うかは、俺もまだ知らねーけどな」

 

「そーなんですかー? じゃあ、イツキくんが使いたいガンプラが分かるのって今からなんですね」

 

「そうみたいだね。――で、イツキ君はどんなガンプラが欲しいのかな?」

 

 いよいよだ。

 GBNを始めるために必要となるもう一つのもの。

 いや、GBNを始めようと思った切欠になったという意味では、むしろそちらの方が本命と言えるかもしれない。

 ――“あの動画”の中でその雄姿を目にして以来、ずっと欲しくて溜まらなかった“あの機体”。

 今までガンダムに触れる事が出来なかった自分の11年の人生で最初に手にする、初めての機体。そうなるのはこれしかないと決めていた、“あのガンプラ”。

 その名前を今、意を決して。

 深呼吸して肺一杯に溜め込んだ空気を吐き出す、その勢いに乗せて。

 イツキは、叫んだ。

 

「“コアガンダム”ッ! くーださーい!!」

 




やっぱりホビー物の主人公は小学生が一番だと思うんですよ(コロコロ・ボンボン読者並み感
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