ちょっと野暮用があって、暫くSSの方に手が付けられない状況が続きました。
何はともあれ、本編をどうぞ。
「ここがこうなるから――答えは3、っと!」
宿題として出されていた算数のドリルの最後の問題を終えるや、終わった~ぁ、と持っていた鉛筆やら消しゴムやらを勉強机の上に放り捨てて、イツキは背伸びをした。
パキパキ、と心地良さの伴った音が背中の辺りから鳴るのを暫し
その日の分の宿題を全て終えた今、後は翌日に備えて
「母さんは……いない、よな?」
自室の入り口のドアの真ん前に立つや右耳を押し付け、近くに母の声や存在を報せる類の音が無いのを確認したイツキはこれ幸いとばかりにほくそ笑み、後のベッドの方へと振り返る。
そして、そちらの方へと向かうや布団の上に腰掛け、パジャマのポケットから取り出したスマホの液晶に指を走らせた。
彼の日課の一つ――G-TUBEでの動画鑑賞のために。
「さーて、何見よっかな、っと」
トップページを開くやずらりと並べられる幾つもの動画をイツキは鼻歌混じりに見て回り、その中から目に着いた物を適当にタッチしては再生させていく。
例えば、緑色のAの文字が胸元に
あるいは、全身赤色タイツに青いマントを棚引かせたアメコミヒーローのような“キャプテンジオン”なる人物が、モヒカンやらサングラスやら鋭利な棘の付いたパンクファッションやらを身に着けた世紀末感溢れる三人組を
敢えてガンプラバトルから離れたところでは、金髪を後頭部で纏めた“アセム・アスノ”と茶髪にピンク色の髪留めを着けた“ロマリー・ストーン”、更に銀髪を肩まで伸ばした“ゼハート・ガレット”と薄い紫色の髪をツインテールにした“フラム・ナラ”の四人組が、揃いのスージー・マスコビー・ハイスクールのダークブルーの制服姿で
他にも、それぞれ青と白を基調とした“レギンレイズ”なる機体の改造機を使うカップルを妬んで物理的に爆発させようと挑んだ投稿者が、“ドモン・カッシュ”と“レイン・ミカムラ”もかくやとばかりの二人の熱々ラブラブパワーの前に、逆に爆発させられてしまう動画だとか。
ともかく、そういった様々な動画を見て回ったイツキは、声を上げて興奮したり、思わぬ展開に思わず吹き出しそうになったりしながら、それらを心行くまま楽しんでいた。
が、暫くそうしていた彼の口から洩れたのは、憂鬱気な溜息であった。
「やっぱり俺もやりたいなぁ、GBN」
一通り動画を見た後にそう呟くのも、また彼の日課の一つだった。
「良いよなぁ。コテツの奴なんかずっと前からやってるって言うし、他の奴もやってるらしいし」
その一方で、自分はGBNどころかガンプラ一つまともに触った事も無ければ、ガンダムのアニメだってちゃんと見た事も無い。
完全に周囲の流行に乗り遅れてしまっている。
単純な興味や欲求が大部分を占めているのは間違いないが、その事への不満や不安も確かにイツキの中にはあったのだ。
しかし、
「……母さん、絶対良いって言わないしなぁ」
単にやりたいからとか、周囲から取り残されてしまうとか、そんな理由でイツキがGBNやガンプラを始める事を母は許さないだろう。
何せ、ガンダムのガの字が出て来ただけでも、“乱暴で下品なロボット”と呼んで
何より、普段は温和な姿を見せている母が滅多に見せないその怒髪天に触れる事を、イツキ自身が心底恐れてしまっている。とてもではないが、興味や周りとの話題を理由に許可を求める勇気は今の彼には無い。
その自覚があるからこそ、もう一度、はぁ、と深い溜息を吐いたイツキは諦観に肩を落とす。
そうして、
が、その日は少し違った。
「――んん?」
また一つ動画を見終え、次で最後にしようかとトップページへと戻って来たところで、反射的にイツキは肩眉を上げた。
ページが表示し直されると共に目に入った動画の再生数が、何やら凄まじい事になっていたからだ。
と言っても、単に再生数が多いから反応したワケでは無い。ここまでとなるとそう多くは無いが、同程度以上の再生数を保持している動画が無いワケでは無いし、幾つかはイツキ自身も視聴した事がある。
問題なのは、その動画のタイトルと投稿者名だ。
「エルドラバトル……キャプテン・カザミ……?」
その動画が人気シリーズであるとか、有名G-TUBERが投稿した物であるとかならば、イツキも違和感を覚える事は無かっただろう。
しかし、読み上げた投稿者の名は全く覚えが無い。
動画タイトルの方についてはそうでもないが、それはあくまで毎度スマホの画面の外へと早々に追い払う対象としてであり、シリーズの動画を再生した事は一度も無い。表示されていた再生数にしても毎回一桁と信じられないくらいに少なく、とてもじゃないが画面に出ている動画と同じシリーズとは思えない。
だからこそ、その動画にイツキは酷く訝しさを覚えた。
だからこそ――興味を惹かれた。
「――まっ、ツマンなくってもいっか」
流石にもう寝ないといけない。面白かろうが詰まらなかろうが、これが最後だ。
その動画に指の腹を這わせた時、イツキの頭にあったのはそんな気楽な考えだった。
だから、この時の彼は露ほども想像していなかった。
その判断こそが、後に自らが大きな決意と勇気を抱く事になる、その第一歩になるという事に。
――ギンジョウ・イツキ、11歳の誕生日の四ヵ月程前。
同時に、その日に与えられるプレゼントとして彼がガンプラとGBNを始める事を両親に進言する運命の日より、三ヵ月程前の事であった。
時は現在に戻り、アガタ模型店、店内。
出入口から見て左奥の製作スペースでは、計四脚ある椅子の内の三脚が現在使用されていた。
ただし、今それらが使われているのは本来の設置目的であるプラモデル製作のためではなく、別の理由からであった。
「……」
三脚の内の一脚に膝に手を置いて座るイツキは、憮然と口を
何故か?
現在製作スペースが利用されているその理由が、GBNから半ば強制的に現実へ連れ戻された彼への糾弾であったからだ。
「コテツ君から話は聞いたよ。BULID DiVERSの子達追い駆け回したんだって?」
対面に配置した椅子に座るヒカルが、いくらかトーンを下げた声色で告げる。
腕を組んだ姿勢でイツキへと真っ直ぐに向けられるその視線は心なしか鋭く、これまで彼に対して抱いていた温和な印象とは打って変わったものだった。
そんなヒカルにより一層居心地の悪さを覚えたイツキは、
「どうして、そんな事したのかな?」
「……コアガンダムが、欲しかったから」
問い掛ける彼から少しでも逃れようと視線を合わせないまま、少しずつ言葉を紡いでいく。
「ヒカル兄ちゃんだって分かるでしょ? 俺、ガンプラ作った事無いし、スクラッチなんて出来っこないんだ。だから、俺がコアガンダムを手に入れようと思ったら作った人に――ヒロトさんに作ってもらいでもしなきゃ、ダメだって」
「それ無理だって、俺言った筈だけどなー?」
不満の籠った声でそう言ったのは、コテツであった。
イツキから見て右、彼とヒカルの間からややヒカル寄りの位置で三脚目の椅子に逆向きに座り、その
「だって、他に無いだろ? 俺がコアガンダム手に入れる方法は」
「だから、現実で会った事も無ぇヒロトさんやBUILD DiVERSの人らに迷惑掛けても良いってか? んなワケねーだろが」
「それは……そう、だけど……」
今日の、いや昨日BUILD DiVERSの面々を見つけてからの自分の行動が彼らの迷惑になっている事くらい、イツキとて分からないワケでは無い。分からないワケでは無かったが、だからと行動しない理由にもならなかった。それだけだ。
とはいえ、迷惑であったという自覚があるからには罪悪感が全く無いワケでも無く、
「……それでも、俺は……」
「俺はコアガンダムが欲しいんだ――ってか?」
それ故言い切る事無く尻すぼみになってしまう返事の先をコテツに引き継がれた後、それに頷いたイツキはそのまま俯き、黙りこくってしまう。
そんなイツキに、呆れたようにはー、とコテツが深い溜息を吐き、それに入れ替わるようにして二人の遣り取りを静観していたヒカルが再び口を開く。
「他のガンプラじゃダメなのか、とかは敢えて訊かないよ。イツキ君がコアガンダムがどうしても欲しいっていうのは、もう僕達も知ってる事だから。――だから、代わりに
「これから? これからって……この後どーするか、って事?」
唐突な質問の意図が掴めず尋ね返したイツキに、ヒカルが頷いて肯定する。
つまり彼は、この場を終えた後の未来――明日や明後日はどうするつもりなのかを訊いているのだ。
であれば、イツキが返す解答は一つだけだ。
「どーするって……またヒロトさんを探すよ。それで、今度こそコアガンダム作ってもらえるように、頼んでみる」
それしかない。
あくまで、コアガンダムを手に入れる手段はそれしか思いつかないのだ。
当然ながら、こう返事をした瞬間にずるりと顎から手を滑らせたコテツが、お前なぁ、と心底呆れたような顔を向けて来たが――例えどんな反応されようが、それしかもう遣り様が無いのだ。
だから、やる。
明日も、明後日も、その先も。ヒロトが引き受けてくれるその時まで、イツキは延々と彼を追い続け、コアガンダムの製作を頼み込み続けるつもりで――。
「それじゃあ駄目だよ」
「え?」
「いくらヒロト君に頼んだって駄目だよ。彼は、
目を伏せ、ゆっくりと首を振ってイツキの答えをきっぱりと否定するヒカル。
そんな彼に、咄嗟にイツキは椅子から腰を上げ、彼に食って掛かる。
「な、何でそう言い切れるんだよ!? 分かんないじゃん! 続けていれば、いつかヒロトさんだって――」
「いいや、分かるよ。だって今の君は、コアガンダムに込められたヒロト君の
「!」
ヒカルから告げられたその言葉は、イツキにとって、強い衝撃を感じずにはいられないものだった。
それが何故かは今の時点では分からなかったが――ともかく、それ故に硬直してしまう彼に構わず、続けてヒカルが諭すように言う。
「ガンプラにはね、作った人の
自らが丹精込めて作り上げた機体への“愛”。
この機体でバトルに勝ちたい、強くなりたいという“意地”や“意思”。
誰にも負けない機体を作り上げたという“誇り”や“自負”。
時には、歯向かう奴らを粉々に粉砕したい、跪かせたいといった、些か同意し難い“嗜虐心”の類まで。
その
その
「ガンプラバトルでもね、上手い人ほど言うんだよ。ガンプラ作りの上手さや操縦の腕も大切だけど、それ以上に大切なのは
どれだけ出来のガンプラを用意し、どれだけ戦闘技術を高めようと、意味の無い余剰データでしかない筈の
何故なら、上へ行けば行く程にそういった
「それに昨日話したよね? ELダイバー ――トピア達が、
「……ガンプラに込められた、
まっすぐにイツキと合わせていた視線を、すぐ傍の机の上から二人の様子を見守っていたトピアの方へと移してからのヒカルの問いに、少し重くなった唇を動かしてイツキは答える。
電子生命体ELダイバー。その命を生み出す源こそ、正にそうやってガンプラのスキャン時に削ぎ落されるその
そのデータは、容量にすればスキャンし立てのガンプラのデータ総量の百万分の一程度でしかないが、つまりそれは、そんな僅かな量から新たな命を生み出すという神の如き偉業を為し得ているという事でもある。
それを可能とし、それ故にGBN崩壊の危機の一端を担い、かつての“第二次有志連合戦”が起こる要因の一つともなってしまった
――では、コアガンダムについてはどうだろうか?
「僕はヒロト君じゃないからハッキリとは言えない。けど、ヒロト君がコアガンダムに込めた
コアガンダムというガンプラが、ヒロトが手ずから作り上げたオリジナルの機体であるという事をイツキは既に知っている。一体のガンプラを0からスクラッチするという行為が、今の自分には想像もつかない程に大変な技術と労力を要するものであるという事も。
それ程の苦労を掛けて作り上げたであろう愛機にヒロトが込めた
それが分かった今だからこそ、先程の彼の言葉がどういう意味だったのかを、薄々ながらイツキは理解して来た。
「だから、改めて訊くね、イツキ君。コアガンダムを作ってもらうようにヒロト君に頼んだ時、ヒロト君がコアガンダムに込めた
「……それ、は……」
「考えて無かったよね?」
ヒカルの言う通りだった。
何としてもコアガンダムを手に入れる。――そればかりに意識が向いていて、一方的に愛機の製作を頼まれたヒロトの気持ちや、彼がコアガンダムに込めた
だが、こうしてガンプラに込められた
これまでイツキがやって来た事は、
「ちょっとキツい言い方になるけど――今のイツキ君は、ヒロト君がコアガンダムに込めた
出来るだけ傷つけないように配慮してか、やや
「……ち、違うよ! 俺、そんなつもりじゃなかった! ただ、ただ俺は――」
「コアガンダムが欲しかっただけ、なんだよね?」
かろうじて絞り出した声での訴えに、ヒカルも頷き返してくれる。
しかしそれでも、事実は何も変わりはしない。
迷惑を掛けている事こそ分かっていたが、自覚があったのはそこまでだった。ヒロトの
あるいは一度でも自分でガンプラを作る機会があれば、
あるのは、自分がしていた行為の予想だにしていなかった卑劣さに気づいた結果、急激に重さを増した罪悪感だけだった。
「……俺、は……」
まだ反論を続けようとして、しかし息が詰まるような感覚にイツキは口も思考も閉ざされてしまう。
そうしてそのまま、ただ自分の行為への嫌悪に項垂れるしかなくなってしまうのであった。
「――取り敢えず、今日はもう遅いからお帰り」
「……」
どうするかはまた明日考えよう、と先程よりも幾分か柔らかくなった口調で告げられたヒカルの提案に、イツキは顔を上げる事無く、ただ力無くぼんやりと頷く事しか出来なかった。
その後の、アガタ模型店を出てから自室のベッドの中に入り込むまでの間の事を、イツキは殆ど覚えていなかった。
何となく、落ち込む自分を昨日以上に気に掛けた様子で見送ったヒカルとトピアや、何処となく居心地悪そうな顔をしたコテツ、それに心配げな顔をした両親の顔まで思い出せるのだが、それ以外の事はまるで頭に浮かばなかった。
だが、暗闇の奥の天井をぼんやりと眺める彼にはどうでも良かった。
(……謝るっきゃ、ないよなぁ……)
そんなつもり毛頭無かったとはいえ、ヒロトがコアガンダムに込めた
加えて、コアガンダムの入手を優先するために、迷惑を掛けている事にも見て見ぬふりをした。
それらを自覚した上で、なおコアガンダムの製作を要求できる程イツキは
故に、恐らく明日以降の方針はヒロト達BULID DiVERSを探して謝罪する方向へと舵を切っていく事になる。
そうする事にイツキとしても当然に思えたので不満は無い。
無い筈なのだが……。
「……はぁ」
明日の事を考えた時、心が酷く重かった。
その重さが何なのか、何となくイツキは分かっていたが、されとて彼にはどうしようもなかった。
どうしようもないまま――翌日の学校を終えた彼は、どんよりとした気分のまま重い足取りでアガタ模型店の敷地に入り、そして気の進まぬまま、コテツとトピアと共にGBNへとログインしていた。
「うんじゃ、まずマギーさんの店行くぞ」
昨日はイツキが驚異的な感覚を発揮した事で二度目のBUILD DiVERSとの邂逅を果たす事となったが、アレはハッキリ言って奇跡や偶然の類である。総アクセス数二千万人以上のGBNで、フレンド登録もしていない特定の人物を何の宛ても無く探し当てられる可能性など、本来は限り無く低い。
なので、彼らと個人的に親交もあり、ひょっとしたらフレンド登録も結んでいるかもしれない――現在地や、そもそもログインしているかどうかも判断出来るかもしれない――マギーの下をまず尋ねようという
そして同時に、これが正解でもあった。
というのも、アイアンタイガーとトピアに続くままに再び訪れたアダムの林檎の店内では、既にヒロトを始めとしたBUILD DiVERSの面々が勢ぞろいしていたのだ。
まぁ、
「「「出ぇたああぁぁぁぁぁ!!」」」
入店早々、何故か目の下に黒々とした隈を作ったカザミとパルヴィーズとヒナタからの絶叫という歓迎を受ける事になったが。
「ハァーイ、イツキ君にアイアンちゃんにトピアちゃん。ウェルカムようこそいらっしゃーい」
悲鳴を上げたかと思いや、ヒナタとパルヴィーズが呆気に取られたような表情を浮かべたヒロトの背に、カザミが仏頂面のままのメイの背に、まるで天敵に遭遇したトカゲの如く素早く逃げ隠れる。
そして、そんな
「今日はどんな用――と言いたいところなんだけど、ひょっとしてヒロト君がお目当てかしら?」
傍まで来るや、腰を曲げて目線を合わせ来たマギーに、う、うん、と言い難さを感じながらイツキは頷き返す。
すると、やっぱりねぇ、とマギーは困ったように苦笑し、姿勢を戻すや先程まで座っていたカウンター席に再び腰掛けた。
「昨日の事は聞いたわ。コアガンダム欲しさに、この子達追い駆け回したんですって?」
「うん、まぁ……」
「何ていうか、フレンドでも無いのにそんな事出来たって事がもう驚きだわ。よっぽどコアガンダム欲しいのね、アナタ。――でも、だからって人の迷惑になる事しちゃダメよぉ。ヒロト君だって断ってるんだし、何かカザミン達もトラウマ植え付けられちゃってるし、悪いけど今回はアタシもイツキ君の肩は――」
どうやら、マギーからもまたヒロトにコアガンダムを要求しに来たと思われているらしい。
組んだ足の上に右肘を置き、頬杖を突くや物憂げに溜息を吐いた彼女? からもまたお説教の言葉が投げ掛けられそうになったが、
「あのっ、違うんだ!」
咄嗟にイツキは一歩踏み出して、声を張り上げて待ったを掛けた。
「違う?」
目を丸くするマギーにイツキは頷き返し、――いやに上手く回らない口で――今日訪れた理由を伝える。
「その……今日は、違うんだ。コアガンダムの事、頼みに来たんじゃないんだ」
「あら、そうなの? それなら、ごめんなさいね。昨日の事聞いたばかりだったから、そっちの件だと思っちゃって」
先程まで説教ムードから一転、違う用件で来たと知るや決め付けた事への謝罪を述べたマギーから、次いで、となると、今日はどんな用事かしら、と小首を傾げながら尋ねられる。
その問いにイツキは、彼女? だけでなく、その向こうに立つヒロトにも目を向け、一拍置いてから答えた。
「――謝りに、来たんだ。昨日と、あと一昨日の事の」
「まぁ!」
イツキの答えが意外だったのか、マギーが口元に手を当てて目を丸くし、続けて肩越しにヒロトの方を見遣った。
そのヒロトも、彼やメイの背で縮こまっているカザミとパルヴィーズとヒナタもまた、驚いたように目を見開いていた。
そんな彼らに、更にイツキの隣へと歩み出たアイアンタイガーとトピアが補足を加える。
「流石に昨日のはやり過ぎだったからよー。先にマギーさんに場所教えてもらってから、ってつもりでこっちに来たんスよ。――コイツ、自分のガンプラまだ持ってねーから、ヒロトさんがコアガンダム作んのにどんだけ苦労したとか、どんだけ根詰めてたとか、そーいうの全然想像出来て無かったんだよ。そのクセ、一回やると決めたらなっかなか諦めねーヤツで」
「でも、昨日もヒカルさんに怒られて、イツキくんもすごく反省してるんですー」
「まー、そーいう事なんスよ。だから、許す許さねーは置いといて、とりあえず話だけでも聞いてやってくんねーかな?」
その懇願を最後に、アイアンタイガーとトピアが二人揃ってBUILD DiVERSの面々向けて頭を下げた。
下げる必要の無い頭を下げた二人にこの場で最も驚いたのはイツキだったが、それが二人なりの
「ごめんなさい!」
彼もまた、ヒロト達の方へと頭を振り下ろした。
「俺、どうやったらコアガンダム手に入れられるかって事ばかりで、ヒロトさんがどんな想いを込めてコアガンダムを作ったとか、全然考えて無かった! そー言う事も知らないで、コアガンダム手に入れるためならちょっとくらい迷惑になったってって、自分の事しか考えて無くて!」
キツく食い縛った瞼の中で、これまでの事が淡く浮かび上がる。
G-TUBEで偶々見つけてから視聴を続けたエルドラバトルでの、コアガンダムの数々の雄姿。
GBNを始める事に鬼のような形相で反対した母に、負け時と怒鳴り返した時の事。
コアガンダムが非売品だと知らされて絶望した、初GBNの直前の事。
ヒロト達を見つけ、一度は失った希望をもう一度見つけたと思った、初ミッションの後の事。
そして、ヒロトからの拒絶と、ヒカルから諭されたその理由――コアガンダムに込められた
それらの記憶を噛み締めるように、イツキは懺悔を叫び、最後に一際強い声で締め括った。
「本当に、ごめんなさい!!」
その一声を最後に、アダムの林檎の店内がしんと静まり返る。
立ち込める沈黙。暫し立った後、それを最初に掻き消したのは、
「――話は分かった」
ヒロトだった。
「ちゃんと反省しているみたいだな」
そう告げる彼の声は、昨日までより幾分か穏やかなものだった。
その声に、なんとか彼から許しを得られたと思ったイツキは、ゆっくりと顔を上げていく。
その顔は安堵に緩んでいた――が、次の瞬間、別の感情に強張る事となる。
「それで、
「へ?」
「コアガンダムの事だ」
ヒロトから投げ掛けられたその質問の意味が、一瞬イツキは分からなかった。
そのせいできょとんとする彼に、ヒロトが言葉を続ける。
「元々、コアガンダムが欲しくて君は俺に迫っていたんだろ?」
「そ、そうだけど……」
「その事をこうして謝ったんだ。俺にコアガンダムの製作を頼むつもりは、
「っ!?」
その瞬間、イツキは悟った。
昨日の寝る間際から心に圧し掛かるこの鉛のような重さの発生源が、今正にヒロトが口にした事であるという事に。
そう。彼やBUILD DiVERSの面々への迷惑を省みずにコアガンダムの製作を頼み続けて来た事を謝罪した今、コアガンダムの製作を彼に依頼するという選択はもはや出来ないのだ。
となれば、コアガンダムを手に入れるには他の方法が必要となるワケだが……そもそも、他に方法が無いからヒロトを頼ったのだ。もう彼を頼ることが出来ないのなら、コアガンダムを手に入れる手段はイツキには残されていない。
そうなれば――。
「自分では作れない、と昨日言っていたな。ならコアガンダムは――
「っ!」
――そうするしかなくなってしまう。
「だっ、ダメだよ! そんなの、出来ない! 諦めるなんて出来ないよ!」
だが――そうする事をイツキは決して良しと出来ない。
決めていたのだ。最初のガンプラはコアガンダムだと。
「出来ない、けど……」
無論、こんなのは意固地な子供の我儘でしかない。冷静に事態を受け止め、コアガンダムを
しかし、そんな判断が出来るのであれば、こうして謝りに訪れる事も、そもそもヒロト達を追いかけ回すようなマネもしていない。
少なくとも、そしてどこまで行っても、今のギンジョウ・イツキは、正しい判断よりも自分の意思と意地を最優先する子供でしかないのだ。
「……」
だから、ヒロトの問いにイツキは答えられない。
俯き、ただ沈黙するしかなかった。
――だから、
「分かった。なら―― 一週間後だ」
「え?」
「一週間後の今くらいの時間に、俺はまたここに来る。もし、その時になってもまだコアガンダムの事が諦め切れないようなら、君もここに来い。
「ちゃ、チャンス……って、何の?」
「そんなの決まっているだろ?」
一度目を伏せた後に告げられたヒロトのその言葉は、イツキにとって、
「――コアガンダムを手に入れるチャンスだ」
あまりにも予想外過ぎる提案だった。
意外ッ! それは掌返し!(ジョジョ並み感
一体ヒロトに何があったのか? それは次回にて!
あ、後今回余所様のキャラクターをちょっとお借りしてます。次回もちょっとだけですがまた登場してもらう予定なので、どなた様のどの作品のキャラクターなのかの紹介もまた次回に纏めて、という事で。それでは。