ガンダムビルドライザーズ   作:shisuko

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どうもどうも、長らくお待たせ致しました! リアルで精神的に打ちのめされてたり、コアガンダム三兄弟の色塗ってたりしてたらすっかり遅くなっちゃいまして。

今回よりVSヒロト。コアガンダムのデータを賭けた原作主人公との対決は、果たしてどちらに軍配が上がるのか?


第12話 コアガンダムをこの手に! VSヒロト!①

『おいお前ら、ちょっと耳貸せ』

 

 通信ウィンドウ越しにアイアンタイガーがそう呼び掛けて来たのは、びゅう、という風の音に混じって無機質な電子音声がミッションの開始を告げるのが聞こえた、その直後の事であった。

 

『どうしましたー?』

 

「何だよ? もうミッション始まってるんだぞ?」

 

 いくら有利な条件が幾つも積み重なっているといえど、今回のバトルはあくまで制限時間付きだ。

 正面モニター左下に表示されているその制限時間もまだ1分弱しか経過していないが、それでもすぐに攻撃を始めねばと意気込んでいたイツキは、何の気無くアイアンタイガーの呼び掛けに応じたトピアとは対照的に、片眉を上げてウィンドウの向こうの彼の顔を睨み返す。

 それを特に気にした様子も無く、良いから聞け、と身を乗り出したアイアンタイガーが歯を剥いて笑い、こう言った。

 

『俺に良い考えがある!』

 

 

 

 所変わってアダムの林檎、店内。

 イツキ達とヒロトがミッションの為にエリア移動した事によって残されたBUILD DiVERSの4人は現在、カザミ達が座っていたテーブル席へと集まっていた。

 彼らが一様に各々の目を向けているのは、一同の中央でカザミが開いているメニューウィンドウ――ギャラリーモードによって中継されているイツキ達とヒロトの状況だ。

 

『それじゃあイツキくん、作戦通りにー!』

 

『うう~ん、コテツの言う通りにするって何か納得いかないけど……分かった!』

 

 ミッションが開始してから一拍置いて、ウィンドウの中からそんなトピアとイツキの会話が聞こえた次の瞬間、先端がローター状になったツインテールが特徴的なモビルドールとベーシックな仕様の陸戦型ガンダムが一斉に右腕を上げ、前腕に装備したポシェット型の手甲から伸びた砲身を、あるいは右手に握った白いカバーのビームライフルを構えた。

 (あやま)たず、それぞれの砲口からGN粒子の尾を引く砲弾とピンクの火箭が撃ち出され、対面のコアガンダムⅡ目掛けて一直線に飛んで行く。

 それに対し、コアガンダムⅡはすぐさま踵裏のバーニアを噴かしてその場から跳躍。二機の攻撃を避けつつ、更に草木一つ生えていない赤土の大地に覆われた戦闘区域(ミッションフィールド)に点在する大小様々な岩塊の、その内の一つの影へと転がり込む。

 これにより、続けて放たれていたビームと砲弾の追撃が岩塊にその進行を阻害。間を置かず炸裂した爆発も、岩塊の表面を削って巻き上げたのみで、その奥のコアガンダムⅡには届かない。

 その事に、くっ、とイツキが歯噛む声がウィンドウから聞こえて来たが、

 

『大丈夫ですー! まだ時間はいっぱいありますー!』

 

『そうだよな、まだ時間はあるんだよな!――よーし、もっとだ! もっと撃つぞトピア!』

 

『はいですー!』

 

それにめげる事無く、むしろ更に勢いの増した陸戦型ガンダムとモビルドールの攻撃が、コアガンダムⅡの隠れる岩塊目掛けて続けられる。

 そうして殺到するビームと砲弾によって少しずつ岩塊が削り取られ、比例して、巻き上げられた破片による砂埃が濃くなっていく。

 その様をウィンドウ越しに見ていたメイは、隣に立つパルヴィーズと視線を向け合いながらイツキとトピアのガンプラについて言葉を交わす。

 

「あの陸戦型ガンダム、かなり作り込まれてますね」

 

「ああ。それにトピアの方も。モビルドール本体はコーイチ達が作っただろうから当然として、各部の追加パーツもかなりの出来だ」

 

「そんな奴らがこれだけ攻撃して岩一つ砕けないってなると――ヒロトの奴、結構()()()()

 

 二人の言葉に頷きながら、カザミが得心したように顎に手をやる。

 メイがパルヴィーズと共に言った通り、陸戦型ガンダムもモビルドールもガンプラとしての出来はかなりのものだ。当然、その攻撃の威力も並のガンプラ以上の物を持っている筈。

 その威力を以てしてもなかなか粉砕されない岩塊の強度はともすれば異様に見えるが、そもそもこのミッションはヒロトが作ったものだ。であれば、その理由はカザミの言った通り、そういう風に彼が設定したと考えるのが妥当なところだろう。

 それが卑怯であると、メイは特に思わない。

 そもそものルールとして、一撃でも当たればヒロトは撃墜なのだ。散らばる岩塊自体、通常のガンプラに比べて小さいコアガンダムがその身を隠し切れるかどうかという大きさなのだし、他にも不利を背負っているのだから、これぐらいの仕掛けは設定者の特権として認められて然るべきだろう。

 それに、頑丈だといっても所詮は岩。その耐久には限界がある。

 そう。

 

『――いよっし! やっと岩が砕けた!』

 

 丁度今、もうもうと立ち込める砂埃の奥に見えていた岩塊の影が、イツキ達の攻撃に耐え切れなくなってその形を崩したように。

 間髪入れず、立ち込めた土煙の中から飛び出してくるコアガンダムⅡ。

 その機体を追って、陸戦型ガンダムとモビルドールの腕が瞬時に動き、再びビームと砲弾が――。

 

「なん~か皆、あんまりヒロト君の事心配して無さそうねぇ?」

 

 近くのカウンター席で足を組んでいたマギーから、ふとそんな疑問が投げ掛けられたのはその時だった。

 

「心配っスか?」

 

 その声に反応し、一様にウィンドウから視線を離してマギーの方に振り返ったBUILD DiVERSの面々を代表して問い返したカザミに、艶のある唇に人差し指を当てながらマギーが言う。

 

「一発当たれば終わり。その上でイツキ君への攻撃はナシで、アイアンちゃんとトピアちゃんも一緒の3対1。おまけに、“アーマー”無しの素のコアガンダム。戦況にしたって岩に隠れて防戦一方って感じだけど、実際のトコ、アナタ達どう思ってるの?」

 

「どう、って……」

 

 片眉を上げ、他の面々の顔を見回したカザミが、特に悩むような様子も無く答えた。

 

「全然心配してないッスよ?」

 

 その答えは、メイを含むこの場に残されたBUILD DiVERSメンバーの意見を代表するものであった。

 

「そりゃあ、色々それっぽいハンデ付けてるけど……」

 

 それでも、戦っているのはヒロトだ。

 BUILD DiVERS結成当初から最も高い実力を持ち、尚且つ、あのエルドラでの文字通り命を賭けた厳しい戦いを共に潜り抜けて来た彼が、いくら不利を背負っているといえど、あんな小学生くらいの子供達に負ける姿など想像出来ない。

 

「エルドラで戦ってた時は今よりずっと難しい状況だって沢山あったし、今更このくらいじゃ、って言いますか……」

 

「それにヒロト、昔()()()()? の()()()()()? だっけ? えっと、とにかくもの凄く大きいガンプラに、えーと、()()()()()()()()? のガンダムで勝った事だってあったし、正直、あの時に比べたら……」

 

 カザミに続き、パルヴィーズとヒナタが順に告げてから、ねぇ、と顔を向け合って頷き合う。

 メイやカザミと同じくエルドラでの戦いを共にしたパルヴィーズは当然ながら、現実で幼馴染故に付き合いそのものは三人より長いとはいえ、その戦いを終えた後に加わったヒナタでさえもほぼ同意見なのだから、ヒロトの敗北を懸念(けねん)する必要があるかなど、考える間でもない。

 

「そもそも、今回の件はあの少年とヒロトとの問題で、このミッションにしたってアイツからの提案だ。ミッションそのもののルールもそうなら、加えたハンデもヒロト自身が了承して決まっているのだから、仮に負ける事になったとしても、その結果を受け入れる事だって織り込み済みだろう」

 

 であれば、今回の件について自分達は外野なのだから、どうこう言ったところで仕方ないというものである。

 ――それはそれとして。

 

「そういうママはどうなんだ? ママもあまり心配しているようには見えないが?」

 

 先程尋ねて来た時から変わらず、不安のふの字も無さそうな微笑みを浮かべたままのマギーに、メイはそう指摘する。

 すると、

 

「あら、バレちゃった?」

 

うふっ、とマギーは悪びれる様子も無く肩を竦めて見せた。

 

「そりゃあ、アタシだってヒロト君の事は心配しちゃいないわよぉ。今しがたメイちゃんも言ったけど、当人が分かっててハンデ背負ってるんだから、外野(アタシ達)がとやかく言う事でも無いし。――むしろ、心配なのはイツキ君達よぉ」

 

「アイツらか」

 

 ヒラヒラ、と右手を扇ぎながら当然とばかりに言うマギーが最後に付け加えた言葉に、ふむ、メイは腕を組み、少しだけ思考してみた。

 

「――実際のところどのくらいなんだ? アイツらの力は?」

 

 あくまで、メイ達が知っているのはヒロトの実力のみだ。イツキ達の力がどれ程かは全く知らない。

 それでも、彼が子供の三人組に負けるようなヘマはすまいという信頼は揺るがないが、それはともかくとして、今の多重にハンデを背負ったヒロト相手にどれだけ戦えるのかは気になるところである。

 というところで、以前から彼らの事を知っているマギーならその実力が如何ほどかも知っているだろうと踏んで尋ねてみたのだが、そうねぇ、と重ね合わせた両手の甲の上に顎を置いて考えるような仕草を取った彼女? は、少しだけ間を置いた後にこう返して来た。

 

(かろ)うじて光明が見えている――ってトコかしら?」

 

「――アイツらがヒロトに勝てる可能性は極めて低い、と?」

 

 半ば予想通りの返答に対する確認に、ええ、とマギーが頷く。

 

「イツキ君についてはアタシもどれくらい戦えるか知らないから、あくまでアイアンちゃんとトピアちゃんの力と比べたら、って話だけどね。ハッキリ言っちゃうけど、あの子達じゃ普通に戦ってたら逆立ちしたってヒロト君には勝てないわ」

 

 むしろ、とっくにバトルが終わっててもおかしく無いわね。――そうマギーが言い切った後、メイは彼女? からカザミの手元へと視線を移動させる。

 そこに展開されているウィンドウからは、未だに爆音と破砕音の連鎖が引っ切り無しに続いていた。ミッションが未だ継続中である証拠だが、マギーの言う通りなら、各種ハンデが無い通常のバトルであったなら今頃この音も止んでいたのだろう。

 

「流石に今回は条件が条件だから、ヒロト君も簡単には動けないでしょうね。そこを上手く突いていけばあの子達でもどうにかなる、かも? ってトコだけど、もし、ハンデがいっぱいだからって調子に乗ったり、焦ったりしちゃったら――」

 

 と、マギーが言い掛けたその時だった。

 

『よーし! チャージ完了! もう良いぜお前ら! こっちまで上がって来い!』

 

 威勢の良い、そして勝利への確信が滲んだアイアンタイガーの叫びがカザミの手元のウィンドウから飛び出して来た。

 それに反応して再びウィンドウの中を覗き込んでみれば、全身に走る金色のラインや展開したラジエータプレート、背のリフレクターから黄金の輝きを放ちながら上空に浮遊するガンダムDXの改造機の姿が――。

 瞬間、額に手を当てたマギーが、あちゃー、と落胆の声を上げた。

 

「言ってる傍からやっちゃってるわぁ」

 

 そんな彼女? の言葉が伝わる事など当然無く、次の瞬間。

 DXの改造機が脇下から展開したツインサテライトの砲門から青白い極光を放ち、ウィンドウに映る全てを瞬く間に飲み込んだ。

 

 

 

 目の前の一切合切が、DXフルバスターの放った光の波濤(はとう)塗潰(ぬりつぶ)される。

 一面に広がっていた赤土の大地も。その中に点在していた岩塊も。

 その裏に身を隠していた、コアガンダムⅡの姿さえも。

 当たらなくても良いから、とにかく撃ちまくれ。マイクロウェーブのチャージが終わるまで、ヒロトを地面に縫い付けろ。――そのアイアンタイガーの指示のまま、とにかく陸戦型ガンダムにビームライフルを乱射させてヒロトを地表に縫い付ける事に従事していたイツキは、いざDXフルバスターのチャージが終わった連絡を受け取るや、トピアに手を引かれて上空へと退避。モビルドールトピアに掴まれた左腕から宙吊り状態になっている陸戦型ガンダムのツインアイを通して見下ろしたその凄まじい光景に、うへ~、と呆気に取られていた。

 

「……こんな風になってたんだアレ」

 

 イツキがツインサテライトキャノンを目にするのは、一週間と少し前の初心者狩りの連中に追い詰められていた時と合せて、二度目となる。

 あの時は唐突に光が降って来たかと思いや、初心者狩り達のガンプラがいた辺りが突然爆発したようにしか見えなかったため何が何だかさっぱりだったが、――DXフルバスターの脇下の砲口から光が放たれている間は勿論の事、それが終わった後に残された地表の、赤土も岩塊も何もかもが溶解して赤く煮え(たぎ)っている様も含めて――こんな凄まじい事が起きていたとは……。

 夢にも思っていなかった事態を前に驚くしかないイツキ。

 そんな彼を後目に、通信ウィンドウの向こうでへへん、とアイアンタイガーが鼻を鳴らして笑っていた。

 

『どーよ! 俺様のフルバスター必殺のツインサテライトは!!』

 

 避けられっこねーだろ、と焼け爛れた地表を見下ろしながら勝ち誇るアイアンタイガーに、やりましたー、とトピアも歓声を上げる。

 眼下の一帯を丸々焼き払ってしまう程の広大な攻撃範囲と威力を発揮して見せた、DXフルバスターのツインサテライト。それに加え、その射程内にヒロトを閉じ込めておくために直前まで行っていた、陸戦型ガンダムとモビルドールトピアによる切れ目の無い弾幕。

 そして何より、盾にしていた岩塊諸共影も形も消え失せたコアガンダムⅡ。

 アイアンタイガーの作戦通り、ツインサテライトの光に飲み込まれて消滅したと、傍から見ればそんな状況だった。だからこそ、二人が勝利を確信して喜ぶ姿は当然の有様だし、自分もそうすべきところだとイツキは思った。

 だが、そうはしなかった。

 

(……何だろ、これ?)

 

 違和感があった。

 こうと言い表せられるほどはっきりしたものではないが、しかしアイアンタイガーやトピアのように手放しで喜ぶのに支障を感じる程度には拭い切れない、違和感が。

 だから、イツキは陸戦型ガンダムに首を巡らせさせ、自らも周囲を見渡して違和感の正体を探ろうとした。

 その行動が正しいと証明されたのは、

 

「……っ! ()()()! 後ろ!」

 

『だから()()()()()()()()!!

 

()()姿()を視界の端に捉えるや発した警告に、名前の訂正を叫んでから、んだよ、と怪訝そうに肩眉上げたアイアンタイガーの操作に随って悠々とDXフルバスターが背後へと振り返った。

 それによって後方へと向けられた胸部――中央上下に配されたクリアーグリーンのマイクロウェーブ受信部の上側に、何処からともなく飛来したビームが突き刺さったのは、その直後であった。

 

『……へ?』

 

 通信ウィンドウに映るアイアンタイガーの顔が、口を半開きにした間の抜けた表情で固まる。

 何が起こったかまるで分からない、と言わんばかりに漏らしたその声に続くように、射抜かれたDXフルバスターのマイクロウェーブ受信部が激しい音を上げて()ぜた。

 

『お、おいおいっ』

 

 あまりに予想外の事態だった。

 襲って来た驚愕に言葉を失うイツキとトピアにも、困惑の滲む表情を通信ウィンドウの向こうに見せながらも、何とかDXフルバスターの両肩の装甲を開き、内部に格納されているショルダーミサイルで迎撃を行おうとするアイアンタイガーにとっても。

 故に、致命的だった。

 DXフルバスターの両肩からその姿を現した計22発のミサイルの群れは、しかし瞬時に二度走ったピンク色の光条に貫かれ、放たれる間も無く誘爆を起こす。それによって連鎖した爆発は逆にDXフルバスターの機体にダメージを与え、その両腕を肩口から粉々に散らしてしまう。

 

『じょっ、冗談じゃねーぞこんなの。何で』

 

 結果、後腰にマウントしたままのディフェンスバスターライフルを手に取っての防御も行えなくなってしまい、無防備を晒す事になったDXフルバスター。

 それを見計らったように、()()()がその懐へと飛び込む。

 背にマウントしたビームサーベルを抜刀し、ピンク色のビーム刃を灯すや、その先端をまだ無事な下側のマイクロウェーブ受信部まで下してから、

 

『まだ、やられてねー ――』

 

コックピットブロックの上面まで、一気に刺し貫いた。

 

「コテツっ!!」

 

()()()()()()()()くん!!』

 

 目を見開いて驚く姿を最後に通信ウィンドウ諸共モニターから消えたアイアンタイガーに、咄嗟にイツキとトピアは叫び掛けるが、時既に遅し。

 全てのガンプラの共通弱点であるコックピットを的確に貫かれたDXフルバスターから返事が返って来ることは無く、()()()がビームサーベルを引き抜きつつその胴を蹴って距離を置いた、その一拍後に爆散。発生した爆炎諸共テクスチャ片と化して、欠片一つ残さず消え失せた。

 そうして、DXフルバスターに代わってその空域に佇む事となったその()()()を、イツキとトピアは驚愕に見開いた目で凝視した。

 ――ビーム刃の発振を止めたビームサーベルの柄を(おもむろ)に背のサーベルラックへと戻す、コアガンダムⅡを。

 

「な、何で……?」

 

 左手に携えていた大型シールドを変形させて後腰へと装着したコアガンダムⅡのボディは、変わらず傷一つ無かった。

 トピアと共にあれだけ弾幕を浴びせ、半ばダメ押しに近い形でアイアンタイガーがツインサテライトを放ったにも関わらず。

 その姿を前に瞠目するイツキの頭には、否応無しに疑問が浮かぶ。―― 一体、どうやってあれだけの攻撃を凌ぎ切ったのか?

 勿論、本命はツインサテライトで、弾幕はそれを当てるための足止めの意味合いが大きかった。それが当たればラッキーくらいのつもりで撃っていたし、そもそも岩塊に遮られていたのだから、弾幕でダメージを負わなかった事はまだ分かる。だが、その後のツインサテライトの、眼下に映る地表一体を焼き払った極光の大範囲攻撃を以てしても傷一つ与えられなかった事については全く別の話だ。

 困惑するイツキとトピア。

 そのせいで彼らのガンプラもまた動きを止めてしまうが――そんな暇は無いとでも告げるように、コアガンダムⅡの右手に握られた小型ライフルの銃口がイツキ達へと向けられる。

 それにイツキがはっとした刹那、不意にコックピットがガクン、と揺れた。

 同時に、モニターに映る周囲の情景が上へと流れていき、浮き上がるような感覚が発生する。

 それが、陸戦型ガンダムが落下を始めたが故であると察したイツキが慌てて操縦桿を引き上げたのは、直前まで陸戦型ガンダムと(マニュピレータ)を繋いでいたモビルドールトピアが、コアガンダムⅡが放ったビームを上昇して躱す姿を視界の上端に捉えたからだ。

 

「トピア!」

 

 背部バーニアの点火によって陸戦型ガンダムの落下が止まった事で再び起きた振動に体を揺らされつつも、すぐさまイツキは頭を振り上げる。

 見上げた上方では、

 

『きゃあっ!』

 

続けて放たれたビームを前に更に上昇するも、躱し切れずスカートアーマーに被弾するモビルドールトピアの姿があった。

 

 

 

「――直撃は避けられたか」

 

 流石にさっきのようにはいかないか、とつい今し方墜としたばかりのDXの改造機と、モニターの向こうで緑色のGN粒子を特徴的なツインテールの付け根に搭載した増設パーツ後部のコーンスラスターから放出しながら滞空するモビルドールを比較して、ヒロトは呟いた。

 恐らく、あの三人の中でGBNに、そしてガンプラバトルに最も慣れているのはアイアンタイガーだ。ここまでの振る舞い方もそうだが、今のバトルでも弾幕張りを僚機二機に任せている間にスーパーマイクロウェーブのチャージを済ませる立ち回りの手慣れ方からも、それが察せられた。

 ただ、あくまで()()()()()()()()経験があるという話だ。

 今回のような攻撃の威力よりも当てる事そのものが重要となるルール下で、サテライトキャノンのような発射までに工程が掛かる装備はどちらかといえば有用ではないし、使うなら使うで、その射程範囲を相手から警戒される事も視野に入れなければいけない。

 チャージ完了までのラグを味方の弾幕で稼ぐ選択それ自体は間違っていなかったが、そもそもサテライトキャノンは使用せずに、自分も弾幕に参加するか、僚機とは別方向から、より隙の少ない別の攻撃を行うのが最善手だった。そうしなかったから、味方を下がらせてからサテライトキャノンを撃ち込むまでの()()を晒し、()()()()()()()()コアガンダムⅡの機能を駆使して回避する余裕をヒロトに与えてしまう事になったのだ。

 さて、そうして一機墜とした今、続いてヒロトが行うべきは残る二機への対処だが――。

 

『ええええぇいっ!!』

 

 両手で箒型の武器の長い柄を握り締めたモビルドールが、それを振り上げながら上昇した後、ヒロト目掛けて斜め下へ降下する軌道で飛び込んで来る。

 それに対する迎撃として、ヒロトはコアガンダムⅡの右手に持たせた“コアスプレーガン”のロックを合わせるや三連射させ、その全てを迫る敵機に命中させる。

 しかし、突き刺さった火箭によって装甲の一部が捲れ上がりこそするも、モビルドールの接近の勢いは一切衰える様子を見せない。

 半ば予想していた結果だった。

 ELダイバーの現実での体も兼ねているモビルドールは、その大半がELバースセンターの職員でもあるコーイチが作った物だ。かつてのGPDの時代には知る者ぞ知る実力派ビルダー“ケイワン”としてその名を馳せた彼の作品ならば、これくらいはやってのけて当然だ。実際、先程スカート部に命中した一発も白煙こそ上がっていれど、大した損害には至っていない。

 そして、その機体が繰り出す攻撃も―― 一撃で撃墜される設定の有無に関係無く――アーマー一つ装着していない素のコアガンダムⅡでまともに受ければ致命傷になり兼ねない。

 勿論、まともに当たれば、の話だ。

 だから、迎撃を止めたヒロトは、もう目前へと迫ったモビルドールの攻撃を回避するために――DXのツインサテライトから逃れた時と同じく――()()()()()を口にした。

 

「“コアチェンジ”。――“コアフライヤー”!」

 

 そう告げた刹那、コードを認識したコアガンダムⅡが腰裏に接続していた大型シールド――“コアディフェンサー”を前面に展開。コアスプレーガンと共にモビルドールとの間に放り込むように手放した傍ら、自らの頭部と腰を180°回転させ、手足を折り畳む。

 その後、コアスプレーガンを先端側に装着したコアディフェンサーが覆い被さるようにその機体へと接続され――小型の戦闘機のような飛行形態――“コアフライヤー”への変形が完了したのを確認する間も無く、ヒロトは両の操縦桿を前方へと一気に押し込んだ。

 瞬間、変形によって顕わになった足首部のバーニアを点火してコアガンダムⅡが急速発進。モビルドールが振り下ろした箒の一撃から逃れつつ、あっという間に彼我距離を大きく開ける。

 無論、向こうとてそれで攻めの手を止める事など無い。

 その意思を示す様に、

 

『エルトランザムー!!』

 

箒を振り切った姿勢のモビルドールがその身を紅に染め上げる。

 

(モビルドールがトランザムを使う、か)

 

 態々GNドライブ付の増設ユニットを装着している時点でその可能性は予想していたが、それでも、基本的にGN粒子に対応していないモビルドールがトランザムを発動する姿は――身内にトピアと同じELダイバーのメイがいるヒロトにしてみれば殊更(ことさら)に――目を見張るものがあった。

 そして、モビルドールの変化はこれだけで終わらない。

 トランザムの発動によって一挙一動に紅の残像が追従するようになったモビルドールは、更に振り下ろしたままの箒の柄の上に飛び乗った。

 すると、箒後部のブラシに当たる膨らみから三角形のウイングが四方へ展開。つい先程まで武器しか無かった筈のそれが、後端から大量のGN粒子を噴射するSFS(サブフライトシステム)と化して、上に乗ったモビルドールと共に猛然と迫って来た。

 明らかにそういうイメージが盛り込まれたモビルドールのデザインもあり、その姿は正しく箒に乗って飛ぶ魔法少女そのもの。

 そして、そのギミックもどうやら見栄えだけのもので無いらしい。

 

(――速いな)

 

 唯でさえ、トランザムの発動によって機体性能そのものが強化されている。その上でSFSと化した箒による補助が加わったモビルドールの追跡速度は、コアフライヤー形態への変形でMS形態時よりも増したコアガンダムⅡの推力を以てしても、振り切れないどころか、むしろ彼我距離差が見る見る内に狭まる程に高まっていた。

 このままでは、そう間を置かずモビルドールはコアガンダムⅡに追い付く。そうなれば、今度こそ一撃貰い兼ねない。

 

(だが――)

 

 ――その一方で、迫るモビルドールの動きを肩越しに見ていたヒロトはこうも思っていた。

 

(――動きが(つたな)い)

 

 紅の残像を引き連れるモビルドールの軌道は、それを操るトピアの操縦は、どうも直線的でぎこちない印象を受ける。

 例えば、ヒロトが緩やかな弧をコアガンダムⅡに描かせれば、それに続いたモビルドールがおよそ円弧とは呼び難いカクついた軌跡を描くと言った具合に。

 恐らくは、トピアが自らの機体を扱い切れていない事がその理由だ。

 ガンプラの性能は出来栄えによって決まる。その点で言えば、コーイチ謹製の本体と、ヒロトの目から見ても一つ一つが本体に匹敵する作り込みが為された増設ユニットで(よろ)われたトピアのモビルドールは、間違い無くガンプラとして高い性能を持っている。

 それでも、そこはモビルドール。ELダイバーにとってのもう一つの体でもあるという配慮はコーイチも、増設ユニットを作った誰かも怠っていないだろうし、普通に動かす分には性能が高過ぎて操縦に支障が出るような事態はまず起きないだろう。

 しかし、トランザムのような瞬発的な性能強化が加わったならば話は別だ。

 問題無く動かせるレベルだった性能は途端に()()()()レベルまで跳ね上がり、その性能に引っ張られて操縦が雑になってしまう。それ故のあの大味な動きなのだろう。

 それでも、完全に振り回されて制御を失ってしまうような事態にまで至っていないのは大したものだったが――どの道、ヒロトがこれからやろうとしている事を凌げるほどでは無い。

 だから、一切迷わずヒロトは操縦桿を前へと押し込む。

 どこまでも広がるかに見える赤土の大地の先に高く聳え立つ崖。

 まるで闘技場の壁のようにミッションエリアを囲んで区切るその険しい岩肌の一画である壁面へと、コアガンダムⅡを衝突させる勢いで。

 無論、本当に衝突させるつもりなど毛頭無い。

 機体が岩肌へと突っ込むかどうか、そのギリギリの瀬戸際を見極めていた彼は操縦桿を持ち上げ、機体を垂直に上向かせる。

 これにより崖に対して機首の向きが平行になったコアガンダムⅡは、その壁面のほんの僅か上を滑るように飛んで上昇。更にヒロトの操作により、再びMS形態へと姿を変えてその場に滞空しつつ、眼下を見下ろした。

 

『きゃあああああっ!!』

 

 ――直前までコアガンダムⅡが飛び込もうとしていた壁面へと、岩肌を砕く轟音と砂埃を伴って突っ込んでしまった、モビルドールの姿を。

 

『トピアっ!? 大丈夫か!?』

 

『うぅっ……動けませーん!』

 

 オープン通信を介して、心配するイツキと困ったようなトピアの応答が聞こえた。

 機体の正面半分が丸々壁面の中に埋まってしまったモビルドールは身動(みじろ)ぎする様子こそ見せるが、そこから脱出出来そうな気配はまるで無い。

 なまじトランザム発動下であった事もそうなった原因だ。推力だけでなく機体出力そのものが強化されていたために、硬い岩肌の中へとより深く埋まり、より強く食い込む事になってしまった。

 そのトランザム自体はまだ持続しているが、その上でこの現状なのだから壁面からの脱出にはまだまだ時間は掛かるし、それを呑気に待ってやる気もヒロトには無い。

 詰まりは、()()だ。

 

『こ、このっ! トピアから離れろ!』

 

 少し離れた空に滞空したままの陸戦型ガンダムが、ビームライフルを連射して来る。

 それによって放たれたビームの本数は数こそ多いが、しかし、狙いが甘い。

 行動不能に陥ったトピアのカバーを優先しているためか、それとも味方の危機にイツキ自身が焦った結果ロックが(おろそ)かになってしまっているのかは分からなかったが――いずれにせよ、飛来するピンクの光に対して、時折かすりそうになる物を僅かな動きで回避する以上の行動をヒロトが起こす必要は無かった。

 そのまま、依然壁面の中のモビルドールへとコアガンダムⅡにコアスプレーガンを構えさせたヒロトは、過たずそれを発射。

 一発、二発と続けて放ったピンク色の火箭は次々にモビルドールの隙だらけの背中へと突き刺さり、見る見る内にその装甲を剥ぎ取っていく。

 そうして最後に、砕けた岩肌の破片を巻き込んで、その機体を膨れ上がる爆炎の中へと消滅せしめるのであった。

 

 

 

「トピアっ!?」

 

 モニターの向こう、高く切り立った崖の壁面の上で爆発し、テクスチャの塵と化して消え去るモビルドールトピア。

 その光景に思わずイツキは手を伸ばしたが、しかし、それが覆る事は無い。

 これで、アイアンタイガーに続いてトピアも撃墜(リタイア)だ。

 

「……嘘だろ……?」

 

 伸ばした手を力無く下したイツキは、呆然と呟く。

 現時点でのミッションの残り時間は25分弱。開始より、まだ制限時間全体の1/6程度しか経過していないというのに、その僅かな時間の間に二人は倒されてしまった。――イツキだけでは終ぞ敵わなかった初心者狩りの連中をほぼ二人だけで倒してしまいそうな勢いだった、あのアイアンタイガーとトピアが。

 勿論、カザミの動画を通してヒロトの活躍ぶりを見て来たイツキは、彼が相当な実力者であると分かっていた。しかし、それでも数の不利など無いかのように、素のコアガンダムⅡのみでこうも容易くアイアンタイガーとトピアを排除してしまう程とまでは思っていなかった。

 その事実が、大きなプレッシャーとなってイツキに圧し掛かる。

 

『これで君の味方は居なくなった』

 

 モニターの奥の中空で背を向けていたコアガンダムⅡが、イツキの方へと向き直る。

 自らが乗る陸戦型ガンダムよりも小さい筈のその機体がいやに大きく感じるが、きっとそれは気のせいではない。

 何故なら、今からは一人きりだ。

 一人きりで、立ち向かわなければいけないのだ。

 例え攻撃される事は無かろうと、例え一発当てれば十分であろうと、今やそんな有利点がどうでも良くなってしまう程の力の差を見せ付けてくれたコアガンダムⅡに。

 ――ヒロトに。

 

『後は――君だけだ』

 

 残り時間――凡そ24分。

 まだたっぷりと時間は残っているが、それに対する余裕などイツキは最早微塵も感じられない。

 通信を介して聞こえたヒロトの宣告にも何も返せず、ただ、無意識に唾を呑むしかなかった。

 




お願い、負けないでイツキ!

あんたが今ここで倒れたら、未だに顔一つ見せてない主人公機はどうなっちゃうの?

時間はまだ残ってる。とにかく撃って撃って撃ちまくれば、ヒロトに勝てるんだから!

次回、イツキ死す! (GP)デュエルスタンバイ!!
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