ガンダムビルドライザーズ   作:shisuko

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長らくお待たせ致しました第13話。
今回でヒロト戦も決着! やたら難産となってしまいしましたが、どうか何も言わず読んでやって下さい。
それでは。


第13話 コアガンダムをこの手に! VSヒロト!②

 コアガンダムのデータを賭けた運命のミッションが始まって、まだ6分。

 30分という制限時間全体のたった1/6程度しか経過していないというのに、たったそれだけの時間で二人もいた味方が撃墜されてしまった事実を前にして、誰よりも経験も実力も(とぼ)しいイツキが呆然自失(ぼうぜんじしつ)に陥ってしまうのは仕方の無い事だ。

 それこそ、

 

『どうした?』

 

「……え?」

 

障害物一つ無い中空に浮かぶ絶好の標的を前に攻撃一つ行えず、その事を訝しんだヒロトの顔が通信モニターと共に現れても反応出来なかったのもまた仕方の無い事で、彼の問いが何に対してなのか分からなかったイツキは、えっと、や、あっと、と言葉にならない声を漏らしてあたふたするしかない。

 そんなイツキの様子を見兼ねてか、一拍間を置いてヒロトが言葉を告げる。

 それを耳にしたイツキが硬直する一言を。

 

『――()()()()()?』

 

「っ!?」

 

 ……諦、める?

 

『それならそれで俺は構わない。まだ時間はあるけど、それでも無理だと思うのなら別に棄権(リタイア)してくれても良い』

 

 ――もちろん、ミッションは失敗になるが。

 最後にそう付け足されたヒロトの言葉が、それが意味する事がズシリ、とイツキの胸に圧し掛かる。

 ミッション失敗。――そうなれば、コアガンダムのパーツデータはイツキの手に入らない。

 いや、それだけじゃない。

 まだアダムの林檎に居た時、ミッションの概要を聞かされて、いざ受注するか否かを問われた際にイツキはヒロトと()()()()を取り交わしていた。

 今だけでは無く、イツキの今後を定める事になってしまう。それを分かった上で受け入れる事を決めた約束を、だ。

 だからこそ――今回のミッションを失敗で終わらせる事は、絶対に出来ない。

 だからこそ――。

 

「……諦めない!」

 

 諦めるなど、

 

()()()()()()()()! 諦めたりなんて――」

 

絶対あってはならない。

 

「――するもんかァーッ!!」

 

 咆哮。そして陸戦型ガンダムにビームライフルを構えさせ、発砲。

 ロックオンを省いて行ったその攻撃自体はコアガンダムⅡから大きく横に逸れた空間を通過していったが、しかし全く無為な結果に終わったワケでは無い。

 間髪入れず、操縦桿を前へと押し倒すイツキ。

 その心に生まれた戸惑いは、ヒロトとの圧倒的な実力差への怖れは消えてこそいないが、それでも、もう止まりはしない。

 諦めないと言ったのだ。

 ならば――自らの口が放ったその言葉に従うのみ。

 残された時間一杯、

 

『――そう来なくちゃな』

 

通信ウィンドウ諸共モニターから消える直前、(かす)かに笑みを浮かべたような気がしたヒロト向けて、

 

「うおおおおおぉぉッ!!」

 

撃ちまくるのみだ!

 

 

 

 そうして――イツキ達の側からすれば――思わぬ波乱を見せる事となったミッションは再開する事となり、それから少しばかり時が進んだ現在。

 制限時間がもうじき半分を超えようかというミッションの現状を一言で言い表すならば、()()()という言葉が相応しいだろう。

 

『くそっ! 当たらない!』

 

 勿論、イツキの攻撃が一発も当たる事無く、ヒロトが圧倒的に優位に立ち回っている、という意味で。

 今の瞬間にしてもそう。戦いの場を空中から、DXフルバスターのツインサテライトによって黒く焼け(ただ)れた更地と化した地表へと移しての銃撃戦――と言っても、ハンデもあって撃っているのは陸戦型ガンダムのみだが――も、先程までのような身を隠せる岩塊がほぼ全て消失したにも関わらず、コアガンダムⅡには一切の攻撃が当たらない。何度も照準を直しては連発されるビームも、隙間の無い銃声を響かせるバルカンも、合間合間に挟まれるマルチランチャーからのネット弾も、その全てが(かす)るどころか、動きを止める事さえ出来ない。

 その事に悔し気に呻くイツキを、アイアンタイガーは手元のウィンドウを通して、隣のトピアと共に怒鳴り付ける勢いで応援を送っていた。

 

「バカっ、そっちじゃねー! もっとライフル右に寄せて――だーっ! 言わんこっちゃねー!!」

 

「イツキくん、おちついてくださーい! 大丈夫ですー! 焦るなラリー、よく狙え! って陸戦型ガンダムちゃんも言ってますぅ!!」

 

 場所は移り、再びアダムの林檎。

 一足先にヒロトに撃墜されてミッションリタイアとなってしまった二人は再びこの場へと送還され、それ以降、今の様に残されたイツキの様子を観戦していた。

 最も、二人の声は当のイツキには一切伝わっていない。そのため、現在彼がたった一人で、一切の助言や助力も無くヒロトに食らい付こうとしている現状にも変化は無い。

 故に、傍から見ても明らかな隙が陸戦型ガンダムにいくつも現れる。

 いっそ開けっ広げな程のそれを、容赦無くヒロトが突いて来る。

 例えば丁度今、モニターの向こうで再び飛行(コアフライヤー)形態へと変形したコアガンダムⅡが陸戦型ガンダムの攻撃の最中を易々と潜り抜けて急接近し、肉薄するや変形を解いてその左肩に取り付いて見せたように。

 その行動に、ぃいっ、と驚愕の声を上げながらもイツキが陸戦型ガンダムのライフルの銃口をコアガンダムⅡへと向けさせ、引き金を引かせる。

 が、そうする事を見越(みこ)していたように、陸戦型ガンダムの胴と左肩を踏み台にしてコアガンダムⅡがその場から離脱。一瞬遅れて放たれたビームは間近にいた筈の敵機を逃しただけでなく、あろう事かその向こう――陸戦型ガンダムが背部に背負ったウェポンコンテナの、上端の角に命中してしまった。

 

『うわあぁあぁっ!?』

 

 (あやま)たず、着弾部を中心に爆発が発生。

 小規模だったために大きな損壊こそ発生しなかったが、それでも極至近距離から炸裂した爆炎が生み出す衝撃は無視し切れず、大きく機体を揺らした陸戦型ガンダムがガクン、とその場に片膝を着いた。

 それに一拍遅れ、飛び退いたコアガンダムⅡが陸戦型ガンダムから少し離れた正面の地面に着地したが――当然ながら、こちらは全くの無傷である。

 そんな二機の対照的な有様をウィンドウ越しに見ていたアイアンタイガーは、ぐぬぬ、と渋面(じゅうめん)を作って呻く。

 

「どーなってんだよコレ!? ちっとも当たる気がしねーぞ!」

 

 当初はイツキの強引過ぎる行動に明らかに難色を示していたヒロトが、掌を返したように好条件でのコアガンダム入手のチャンスを用意してくれた。――コアガンダムを渡しても良い、と言っているようなもので、実際にアイアンタイガーはそう受け取っていた。

 であれば、もう静止に回る必要は無いと判断し、ついでにちょっとした()()()()が思い浮かんだのもあって、ヒロトからのチャンスをより盤石(ばんじゃく)なものにするためにトピアと共にイツキに協力する事にしたのだ。

 それがどうだ?

 いくつもハンデが積み重ねられて楽勝だと思っていた筈のミッションは、開始数分で呆気無く自分達は墜とされ、たった一人残されたイツキは今もヒロトを追い掛けるので精一杯。攻撃こそされてないが、それでも良い様に弄ばれてしまっている。

 

「残り13分ですぅ……。このままじゃ――」

 

 ―― 一撃与える事無く、ヒロトに逃げ切られる。

 そうなってしまえば、イツキはコアガンダムを諦めなければいけなくなる。

 データが手に入らないから、今だけ――ではなく、()()()()()()()()

 そう提示されたのだ。ミッションの参加条件として、ヒロトから。

 

 ――君が俺を認めさせる事が出来たなら、コアガンダムのパーツデータは君に渡す。だが、それが出来なかったなら、その時は今度こそコアガンダムを諦めてもらう。今だけじゃなく、これからずっと――

 

 これまでのようにヒロトや、他の誰かに製作を依頼する事だけでは無い。自らの手のみで作り上げる事も含めた、イツキがコアガンダムを手に入れる事、関わる事()()()諦める。――それが、今回のミッションを行う上で最後にヒロトが課した条件であり、それをイツキが受け入れたからこそ、こうして今も二人の戦いは続けられているのだ。

 無論、こんなものはただの口約束だ。誓約書の類を交わしたワケでも無いのだから、それを守るイツキ自身のモラル以外には何の強制力も無い。その気になれば、いくらでも反故(ほご)に出来る。

 実際、

 

「あの、さっきの約束なんだけどね? 多分、ヒロトも別に破られても良いと思ってるよ」

 

それくらいの覚悟で掛かって来い、ってくらいのつもりなんじゃないかな、と傍に寄って来たヒナタから伝えられ、彼女の意見に他のBUILD DiVERSのメンバーも頷いて見せるという場面もつい先程あった。

 だが、それはあくまでヒロトの側の意識だ。例え彼が許そうと、当のイツキがそんなマネをする事は絶対に無いだろう。

 彼は、一度交わした約束を、己の口から吐いた言葉を取り下げるようなマネは絶対に出来ない。そういう気質の持ち主である事は、幼稚園から幼馴染であるアイアンタイガーだからこそ熟知するところであった。

 だからこそ、彼も焦っていた。

 純粋にイツキを心配するトピアよりも、いっそ開けっ広げに。

 

『くっ、そぉ……まだだ!』

 

 陸戦型ガンダムが爪状のバックパックを開き、自らのビームによって赤く焼けた上部から白煙を立ち昇らせるウェポンコンテナを背から地面へと下す。

 これによって機体は身軽になり、反応速度の向上も見込める。

 それを証明するように、態勢を立て直すやビームライフルを構え直す陸戦型ガンダムの動きは先程までよりも幾分か速かったのだが……イツキとヒロトとの圧倒的な実力差の前には、そんなものは焼け石に水。放たれた二筋の閃光は今までと何ら変わらずコアガンダムⅡに避けられ、直前まで立っていた地面を空しく抉り飛ばすのみに終わる。

 それでもなお止まらず、胸部のバルカンで追い打ちを掛けるが――それが当たるか否かは、確認するまでも無い。

 

「ぬぐぐぐ……マギーさん!」

 

 溜まらず、ウィンドウから目を離したアイアンタイガーは後のカウンター席で足を組んでいるマギーへと振り返る。

 助けを()うようなその声に、マギーが、えー、と困ったように眉を顰めて見せた。

 

「ここでアタシに助け求められても困っちゃうんだけど?」

 

「んな事言わないでさぁ! 何か無ぇのかよ、イツキが勝つ方法!?」

 

「って言われてもねぇ……」

 

 そもそも、ミッションの設定により外部から参加者への通信は不可能になっている。仮に逆転の一手があったとしても、それをイツキに伝える事は出来ないし、その事はアイアンタイガーももう分かっている。

 故に、マギーから返って来るだろう答えも何となく予想は付いていた。

 

「見守るしか無いわ。イツキ君のコアガンダムへの()()を信じて、ね」

 

「いや、()()っつったってよぉ」

 

 “想い”の強さが最後にガンプラバトルの勝敗を決める、とはヒカルも言っていた事であるが、それは実力が拮抗(きっこう)する者同士での場合だ。実力に圧倒的な開きがあるイツキとヒロトには当て嵌まらない。

 例えイツキの“想い”がどれ程強くても、オールドタイプの新兵が熟練のニュータイプに挑むに等しいこの差を引っ繰り返す事など、早々出来は……。

 とその時、

 

「――ん?」

 

自らの手元に呼び出していたウィンドウに視線を落としていたマギーが、ふと訝し気に眉間に皺を寄せ、続いて何やら意味深な微笑みを顔に浮かべてからこう言った。

 

「……ひょっとしたら、何とかなっちゃうかも知れないわぁ」

 

「えっ!?」

 

 思わぬマギーの発言に、反射的にアイアンタイガーは身を乗り出していた。

 その言葉がどういう意味か即座に確かめようするが、それを待たずマギーがバチン、とウィンクしてもう一度言う。

 

「ひょっとしたら、だけどね」

 

 残り時間――11分。

 

 

 

 今回集まった面々の中で、最も強いダイバーはマギーだ。

 ワールドランキング23位に昇り詰める程の実力者だからこそ、真っ先に彼女? は気づいた。一見してヒロトが圧倒的有利のまま膠着(こうちゃく)しているように見えた彼とイツキとの闘いにおいて現れ始めた、ある()()について。

 では、その()()に二番目に気づく事になったのは誰だったのか?

 それはやはり、今回の面々の中で二番目に強いダイバー ――イツキと戦っている当事者、ヒロトであった。

 

(……これは)

 

 彼が()()に気づいたのは、変わらず陸戦型ガンダムが放つ攻撃を回避していた最中の事で、最初は本当に感じたのか自分でも疑う程の微かな違和感だった。

 だが、その違和感はその後も回避行動を続ける度に走り続け、その度に強まっていく。

 そして残り時間が10分を遂に切った頃、コアガンダムⅡ目掛け飛来して来た二本のビームと、その一発が掠めた事で僅かに岸壁から崩れ落ちて来た瓦礫を纏めて回避したところで、違和感は確信へと変わった。

 

(ついて来ている? ――俺の動きに)

 

 少しずつ、本当に少しずつだったために気づくのに随分と時間を要してしまったが、間違い無い。

 イツキが、まるでコアガンダムⅡの動きが追えず翻弄されるばかりだった彼の動きが、()()していた。――徐々に、徐々にヒロトに迫りつつあったのだ。

 勿論、その変化には理由がある。

 ヒロトは知らぬ事ではあるが、彼がチャンスを提案してから今に至るまでの一週間、イツキはエルドラバトルの動画を一から見直し続けていた。特に、ヒロトが操るコアガンダムの雄姿――その動きを、だ。

 それが予習になった。今日初めてヒロトが伝えたミッション――彼とのバトルの、その予習に。当のイツキ自身が全く知らぬ間に。

 そしてミッションが開始してから遂に20分を超えた今、当初は目で追うのがやっとだったヒロトの動きにイツキは次第に慣れ、それに伴って彼が行っていた予習がいよいよ実を結び始めた。意図したものだったか、それとも必死になるあまりの無意識下だったのかは定かでは無かったが、今のビームと落石による二段構えの攻撃など十分その証明になり得た。

 とはいえ、その変化は二人の間をナチュラルとコーディネイターの確執よりも大きく隔てる実力差を埋め切る程に激しいものでは無い。結果的にヒロトの動きに対する予習が出来ていたとしても、だからと容易く尻尾を掴ませてしまう程彼も甘くは無いのだ。

 ――変化がイツキのみに起こっているのであれば、だが。

 

「……何でだ……?」

 

 ポツリ、と自らの口から漏れ出たその呟きにヒロトは気づかなかった。眉間に険しい皺を寄せている自らの表情にも。

 気づきようが無かった。

 モニターを睨み付けるその視界の裏で見え出していたもののせいで、そんな余裕が無かったために。

 

『おおおぉぉ!!』

 

 撃ち込まれたネット弾を横に跳んで避けるや、その瞬間に割り込むように猛然と飛び込み、両の脹脛(ふくらはぎ)から抜き打ち様にビームサーベルを振り払って来る陸戦型ガンダム。

 それ自体は踵のバーニアを噴かせて何とか後方へ避けるも、次の挙動への移行がし難い回避運動の最中のタイミングを突いて来た攻撃には、先程までは無かった避け辛さをヒロトは感じずにはいられなかった。

 同時に、その感情がある種の刺激となって、より明確なものにする。

 彼の脳裏にちらちらと映っては消える、かつての記憶を。

 その中に映る、とある姿を。

 ビームライフルとバルカンの連射でコアガンダムⅡへと追撃を掛けつつも後退していく陸戦型ガンダムの中のイツキとは似ても似つかない筈だが、しかし彼に対してどこか近い印象を抱いてしまう、()()()を。

 それに知らぬ間に気を取られてしまった事はおよそヒロトらしからぬミスで――だからこそ、決定的だと言えた。

 

「――っ」

 

 両の操縦桿を握る手が緩んでしまっていたのは、ほんの僅かな間だった。モニター越しの状況が視界から消えていた時間に至っては、ほんの一瞬と言っていい。

 しかし、そのほんの一瞬の間に――白煙の尾を棚引かせる一発の砲弾が、コアガンダムⅡのすぐ間近まで飛来していた。

 正面モニターの大範囲を埋め尽くす程に接近していたその砲弾の存在を認めるや、ヒロトは反射的に操縦桿を押し下げ、コアガンダムⅡをその場でしゃがみ込ませる。

 それによって、砲弾が位置の下がったコアガンダムⅡの頭部よりやや上を通り過ぎて行ったため、何とか事無きを得た、とヒロトは安堵の息を吐き掛ける。

 ――自らの背後に聳え立つ岸壁の存在を思い出し、それと共に砲弾が炸裂して砕けた岸壁からコアガンダムⅡへと岩塊の雨が降り注いで来たのは、ほんの数舜後の事だった。

 

(流石にマズいか……!)

 

 一目見て判断出来た。いくら並み以上の出来栄えを誇るコアガンダムⅡでも、岩塊をまともに浴びれば多少の損傷は免れ得ない――墜ち(ダメージアウトし)てしまう、と。

 すぐさまヒロトは操縦桿を前へ押し込んで背部バーニアを点火し、しゃがんだ態勢のままコアガンダムⅡを急速発進させる。

 その甲斐あって、どうにか落石によってコアガンダムⅡがダメージを負う事は避けられた。

 しかし、大範囲に広がった岩塊の全てを避け切る事までは出来ず、

 

「くっ……!」

 

咄嗟の急発進で地面に倒れ込んでいたコアガンダムⅡの右足が積み重なった落石に埋まってしまい、身動きが取れなくなってしまっていた。

 更に間の悪い事に、無理な回避行動のせいでコアスプレーガンが右手から抜け、機体から幾らか離れた場所へと飛んで行ってしまう。

 

(機体に損傷は無い。どの道こっちからの攻撃は許されないから、スプレーガンもこのまま捨ててしまって問題無い。それに、これくらいなら抜け出せないワケじゃないが……)

 

 しかし、多少なりとも時間は要る。

 その時間が問題だった。

 

『今だ!』

 

 すかさず、とばかりに聞こえたイツキの威勢の良い声に続き、モニターの向こうに立つ陸戦型ガンダムが閃光を(またた)かせる。

 胸部バルカン、及びマルチランチャーからのネット弾。

 そして、先程まで手にしていたビームライフルに代わり――恐らく、傍で横倒しになっているウェポンコンテナに入っていたのだろう――両手で構えた、180mmキャノン。

 その時点で陸戦型ガンダムが扱える火器全てによる、一斉掃射だ。

 

『いっけえぇーっ!!』

 

 通信を通して聞こえて来たイツキの裂帛(れっぱく)の叫びには、これで終わりだ、と言わんばかりの気迫が感じられたが、恐らく間違いではない。

 何せ、動きが封じられてしまっているのだ。十全に動ける状態ならば容易く回避できるような攻撃でも、今のコアガンダムⅡではそうしようが無い。

 かといって、コアディフェンサーによる防御も難しい。

 一発一発の威力が小さいバルカンや、そもそも攻撃力の無いネット弾なら問題無く防げるだろうが、180mmキャノンの砲弾はそうはいかない。あの陸戦型ガンダムの――恐らくレンタル品なのだろう。初心者でも扱えるレベルに留まっていはいるが、それでも並み以上の――出来栄えを省みれば、最低でも今の姿勢が整わないコアガンダムⅡの手からコアディフェンサーを弾き飛ばす程度、最悪ならば防いだ際の余波で機体が傷付くかもしれない程の威力はあると見て良い。

 であれば、イツキの視点から見たこの状況は今度こそヒロトを捕まえられる千載一遇のチャンスと言えた。

 ――しかし、それでもまだ足りない。

 

「――舐めるな!」

 

 例えバトルへの集中を欠いてしまう程の何かが起きていたとしても、ヒロトにその手を届かせるには、まだ。

 それを証明するように、すぐさま右の操縦桿を押し込んで武器スロットを引き出したヒロトはコアサーベルを選択。バックパック左右から伸びるサーベルラックの右の方から引き抜くやビーム刃を発振したそれを、猛然と飛んで来る砲弾目掛けて躊躇せずにコアガンダムⅡに投げさせた。

 これにより、投げられたサーベルがフリスビーの様に回転しながら砲弾と接触。コアガンダムⅡと陸戦型ガンダムの間を隔てる空間の、ややコアガンダムⅡ寄りのところで炸裂させる事で、砲弾の進行を阻み切る。

 続けて、ヒロトはコアガンダムⅡにコアディフェンサーを振り下ろす様に構えさせ、コアフライヤー時の姿勢制御翼が伸びるその後端を地面へと突き立てる。

 そうして、目に捉えられない列を作って飛んで来るバルカンの弾の群れが固定したコアディフェンサーの表面を連打している間に、空いた左手で残ったもう一本のコアサーベルを抜かせた彼は、すぐさま右手へと持ち直させたその光刃で右足の上に積もる瓦礫を斬り付け、その半分程を吹き飛ばした。

 これにより総重量の下がった瓦礫の山から右足を引き抜かせたヒロトは、そのまま(うつぶ)せっていたコアガンダムⅡを仰向かせる要領でコアサーベルを空の方向けて一閃し、足を広げた蛸の様に展開して迫っていたネットのど真ん中に大穴を開ける。

 そして最後に、パックリと開かれたその穴を潜り抜けてネットをやり過ごすやコアガンダムⅡを横へと寝転がらせ、180mmキャノンからビームライフルへと持ち替えた陸戦型ガンダムによる追撃のビーム3発も掠らせる事無く回避し切って見せた。

 そのまま、中腰の姿勢でコアガンダムⅡを立ち直らせたヒロトの耳に、くそぉ、とイツキの悔し気な声が伝わって来る。

 

『あと少しだと思ったのにっ……!』

 

「……」

 

 確かにな、と心中で同意しながらヒロトは息を吐いた。

 今のは完全に自分のミスが招いた展開だった。回避し切れたが、余裕を持って出来た事で無かったのは(いささ)か荒くなった息遣いが証明していた。

 いやそもそも、別の事柄に気を取られて目の前のバトルへの集中が乱れてしまった事自体が大きな問題だ。一介のファイターとして、あってはならない失敗だ。

 だからこそ、ヒロトは大きく息を吐き出す。

 

(残り時間は――)

 

 チラリ、とヒロトは正面モニターの左隅を伺う。

 そこに表示されているミッションの残り時間は――7分弱。

 この時間の間に、ヒロトに触れられるだけの変化をイツキが遂げられるか否か、そしてヒロトが今のような隙を見せずにいられるかどうかが勝敗の分かれ目だ。

 だからこそ、ヒロトは気を取り直し、脳裏にチラつく記憶への意識を断とうと努める。

 

『おおおおおぉぉぉっ!』

 

 雄叫びと共に接近、いや突進して来る陸戦型ガンダムへと、睨み付けるように鋭い目を向けて集中を固め直す。

 

 

 

「そこだぁッ!」

 

 叫びながら、イツキはボタンを押し込んだままの右操縦桿を捻り上げる。

 その操作に応じた三角形状のターゲットサイトがモニター上を動き、その向こうに立つコアガンダムⅡをロックオンする。

 とほぼ同時に、その瞬間を知っていたかのように、右のサーベルを失い、取りこぼしたライフルも拾わず捨てたままのコアガンダムⅡが機体を右に揺らし、掛かった筈のロックを解除してしまう。

 既に何度も起きた現象、いや、見せつけられたテクニックだった。

 このせいでロックが外れた事に気づかないまま発砲し、その度にまともな回避運動すらされずにあらぬ方向へと消えていくビームやバルカンを空しい思いで見送るしかなかった数など、もう数える気も起きない。

 だが、それも最早数分前までの話。

 

「おおぉッ!!」

 

 ロックが外れたその瞬間、イツキはボタンから親指を離さないまま操縦桿を僅かに動かし、ターゲットサイトを再びコアガンダムⅡへと重ね合わせ、ロックオンし直した。

 (よど)み無いその操作はイツキ自身が意図した通りのものであったが、しかしターゲットサイトの色がロック未完了を示す黄色に戻るのを目にして行ったわけでは無い。

 ただ、コアガンダムⅡが――ヒロトがそうして来るであろうという()()があった。

 今日に至るまでの一週間、ずっとG-TUBEで見直し続けて来たエルドラバトル。その動画内でのコアガンダムの動きと、目の前のコアガンダムⅡの動きがようやくイツキの中で重なり出して来た。その重なる動きを根拠に立てた()()が。

 その()()が、次にヒロトがどういう行動を取るかを直感的にイツキに伝える。

 ターゲットサイトの色が再びに赤に変わるの確認する間も無く操縦桿のボタンから親指を上げて発射したビームが、ブレる事無く真っ直ぐにコアガンダムⅡ目掛けて突き進んで行く。

 それに対してコアガンダムⅡは、

 

(次は――右だ! 右に動いてビームを避ける!)

 

更に右に動き、飛来した光条を回避する。

 

(体を捻って!)

 

イツキに対して左側面を見せるように機体を捻って向きを変え、

 

(跳んで!)

 

更に踵のバーニアを一瞬だけ噴かし、その場から跳躍して。

 一連の行動全てが、イツキの()()の通りだった。

 だからこそ、

 

「そこぉッ!!」

 

回避行動を終えたコアガンダムⅡが着地すると()()していた位置へ先んじて銃口を向け直しておいたビームライフルを、何ら迷う事無くイツキはもう一度発射した。

 過たず、放たれたビームが向かう。

 今まさに()()の着地位置に辿り着こうとしているコアガンダムⅡへと、一直線に。

 そして、二発目のビームをコアガンダムⅡが被弾――する事は無く、もう一度踵のバーニアを点火して着地する事無く更に右へと飛ぶ事で回避する。

 

「くっそ……!」

 

 ()()に反した結果に、イツキは思わず吐き捨てる。

 しかし、その頭に何故、という疑問は湧かない。

 ()()は所詮予想でしかない。未来を予知しているワケでも無ければ、そもそも根拠にしているのはエルドラバトルの動画内でのヒロトの()()の動きだ。そんなものが当たる確率など、どれだけ高く見積もっても五割を超えはしない。今の様にあと一歩と思える場面もあれば、最初から全くの的外れで終わる事だってあった。

 だから、今更()()が外れたからといってめげはしない。

 ――もうそんな暇なんて無い。

 

「残りは……!」

 

 顔を正面から左上へと急いで振り上げたイツキは、そこに表示されるミッションの残り時間を確認する。

 残り時間は――今、3分を切った。

 ミッション開始より約27分。()()が出来る事に気づいてから約7分が経過した今、イツキに残された猶予はもう無い。

 攻撃を当てなければいけない。()()が出来るようになってもなお触れる事さえ出来ないヒロトに、残された2分と数十秒の内に。

 それが出来なければ……。

 

「当てなきゃ……攻撃をっ!」

 

 そのためには()()だけでは足りない。

 必要なのだ。自らの身を削ってでも攻撃を当てに突っ走る()()が。

 そのために、深呼吸を一つしてイツキは腹を決める。

 すぐにビームライフルの照準を合わせ直し、それと共に操縦桿を前へと押し出して背のバーニアを点火して、陸戦型ガンダムをその場から急発進させる。

 ビームライフルを、バルカンを連射しながら、その先に立つコアガンダムⅡ目掛けて、捨て身の勢いで。

 そうすれば、当然ヒロトは回避行動を取る。

 記憶に残る過去の彼の動きと照らし合わせた()()では、恐らく右に。

 その()()通り、幾重にも重なるビームと実弾の群れを、暴れ牛をあしらう闘牛士(マタドール)のように無駄の無い動きでヒラリ、と右に躱すコアガンダムⅡ。

 その動きに応じ、イツキは陸戦型ガンダムの進行方向を調整する。もう彼我距離(ひがきょり)が殆ど無いコアガンダムⅡのいる方向へと、変わらず真っ直ぐに進むように。――()()()()()()()()()()()()()()

 そう、捨て身の()()では無い。()()()()()捨て身なのだ。

 自らが操る機体その物さえ武器に、否、砲弾に変えてでも攻撃を優先する。

 そのくらいはやらなければならない。そこまでもやっても、ヒロトに攻撃が当たるかは分からない。

 現に、もう間近に迫っていた陸戦型ガンダムのその突進さえも、瞬発的に身を捻ったコアガンダムⅡには引っ掛かりさえしない。

 そして間の悪い事に、コアガンダムⅡを超えたすぐ先にあるのは――立ち塞がる岸壁だ。

 それを前にして、機体をぶつけるつもりで飛び込んでいた陸戦型ガンダムが停止出来る筈も無く、

 

「うわあああぁぁぁぁぁ!」

 

モニターを埋め尽くす瓦礫とコックピットを襲う激しい振動、轟音を立てて、岸壁へと追突してしまう。

 固い岩壁へと見事な捨て身タックルを決めたその機体は、如何に出来が良かろうと無傷では済まない。むしろ、性能の良さが災いして必要以上にダメージを負ってしまうだろう。

 実際、今の追突の衝撃でビームライフルが機体から離れ、コンソールに映るステータス画面にも機体が受けた様々な損傷を報せるポップアップが幾つも表示されていた。

 ――それでも止まらない。

 

「ぁぁぁあああああ!!」

 

 巻き上がる土煙が視界を覆う中、岸壁に埋まった機体を出力に任せて強引に引き剥がしたイツキは向きを反転させ、雄叫びを上げながら傷付いた陸戦型ガンダムを再び急発進させる。

 センサーを頼りにもう一度コアガンダムⅡ目掛けて、打突形態に変形させた左腕のシールドを振り被らせながら。

 そうして、そう間を置かず砂埃の幕を抜けるや再び目の前に現れたコアガンダムⅡに、イツキは左の操縦桿を下へ押し込んでシールドを振り下ろさせた。――機体のバランスが大きく崩れるであろう事を、完全に無視して。

 刹那、その場からコアガンダムⅡが飛び退いて迫るシールドの先端を避け、続けて案の定バランスが崩れた陸戦型ガンダムが転ぶように中空で回転し、横向きになってしまう。

 そのままでは失速した機体が地表に叩き付けられ、更に慣性に引っ張られて転がる事になってしまうが――その前にイツキは右の操縦桿から武器スロットを開き、ビームサーベルを選択。即座に右の脹脛から抜刀されたそれに機体の回転の勢いを乗せて、振り向き様にコアガンダムⅡへと切り掛かった。

 ()()通りに動いた相手へ放った斬撃は、やはりというかもう一歩飛び退いたコアガンダムⅡには当たらない。

 しかし向こうも無茶をしたのか、その回避運動の後コアガンダムⅡは上手く着地出来ず、少しグラついた後に片膝を地面に付けてしまう。

 再び現れた、明確な隙だった。

 すかさず、イツキは陸戦型ガンダムにバルカンを放たせる。

 しかし、中空でバランスを崩している状態での発砲だったため、放たれた弾丸はコアガンダムⅡに一発も当たらず、その傍の地面に砂埃の柱を連鎖発生させるだけに終わってしまう。

 そして間を置かず、機体が大地に落ち、更にゴムボールのように跳ねながら転がっていく振動と轟音の連鎖がコックピットを著しく揺らした。

 

「ぐぅ……まだまだぁ!」

 

 焼け爛れた地面と青い空をモニター上に激しく入れ替わらせて転がり続ける陸戦型ガンダムを止めるため、(さいな)む音と振動に耐えながらイツキは左の操縦桿を外側へと押し出す。

 それに応じた陸戦型ガンダムが左腕で地面を叩き、慣性に引っ張られる自らに制動を掛ける。

 それにより、暫しの間叩き付けた腕の周りから砂埃と砕けた破片を巻き上げて、どうにか機体が静止する。

 それに安堵する間も、また損傷度(ダメージレベル)が警戒域に達した事を報せる黄色にコックピット内が染まった事を気に留める間も無く、イツキは操縦桿を引いて、陸戦型ガンダムを立たせようとする。

 それに応じて、先程までは無かったギシつきを伴いながらもすぐに立ち上がった陸戦型ガンダムが、右手に握ったままビームの発振が止まっているビームサーベルの柄を一振りし、もう一度ビーム刃をその先に灯して見せた。

 そして、もう一度突撃させるためにイツキは操縦桿を押し込もうと――。

 

『無茶をするようになったな』

 

 ――した矢先に通信ウィンドウを伴ってモニターの右端に現れたヒロトの顔に、思わずその手を止めた。

 

『時間が無くなって焦るのは分かるが、だからって自分の身を(かえり)みない攻撃の仕方に変えたところで、俺に当たりなんてしない。そのまま続けるなら、時間切れよりも前に機体の限界が来るぞ?』

 

 ここまでの2回の岸壁や地面との激突だけで、既に陸戦型ガンダムは大きく傷付いている。

 残り時間は――約1分30秒。

 その間に後どれだけ出来るかは分からないが、それでもこの勢いのまま捨て身の突撃を続ければヒロトの言う通り、残されたこの僅かな時間が無くなるまでも無く、陸戦型ガンダムの方が耐え切れなくなるかもしれない。

 しかし、それでもだ。

 

「それでもやるんだ!」

 

『――そうまでして、コアガンダムが欲しいのか?』

 

「あったり前だァッ!!」

 

 イツキは両の操縦桿を押し込み、今度こそ陸戦型ガンダムを飛び出させてコアガンダムⅡとの距離を一気に詰めるや、右にビーム刃を下ろしていたビームサーベルを振り上げて袈裟切りにしようとする。

 しかし、腹部へ迫り掛けていたその刃は、左脇下を経由して左のサーベルラックから右手で引き抜かれたコアサーベルに受け止められてしまう。

 

「コアガンダムは、俺にGBNを始める切欠をくれた! ガンプラを始める勇気を俺にくれたんだ!」

 

 それでも構わず、イツキは操縦桿を内側へと捻り上げようとする。

 ビームサーベルを止められているが故にいつもよりも重い操縦桿を力任せに動かし、逆にコアサーベルを押し切ろうとする。

 

「まだミッションは終わっていない! まだ俺はコアガンダムを手に入れられるんだ! だったら、何だってやってやる! 俺のせいで陸戦型ガンダムが傷付く事になっても、そのせいで時間が無くなる前に終わったとしても、絶対にヒロトさんに攻撃を当ててやる! 俺はっ!」

 

 その甲斐あってか、バチバチ、と接触部からスパークを上げてばかりで微動だにしなかった二振りのサーベルが、徐々にコアガンダムⅡの側へと動き始める。

 小柄故にコアガンダムは通常のガンプラよりも出力が劣る。一度膠着(こうちゃく)が解けてしまえば、もう止めることは出来ない。

 

()()()()()()()()ッ!!」

 

 そういうコアガンダムの弱点を一番理解しているのはヒロトだ。

 だからこそ、鍔迫り合いの風向きがイツキ側に向いたと見るや、彼はコアガンダムⅡをその場で反転させて陸戦型ガンダムのビーム刃を受け流す事にしたのだろう。

 それにより、勢い余った陸戦型ガンダムもイツキの意思に関係無く右手を振り上げた姿で反転する事となってしまい、その隙にコアガンダムⅡの後退を許した事で再び距離を大きく離されてしまう。

 くっ、と歯噛みながらも、もう一度距離を詰め直すためにイツキは陸戦型ガンダムをコアガンダムⅡの方へと向け直させる。

 その時だった。

 

『――絶対諦めない、か。その台詞を聞くのも、もう三度目だな』

 

 ふと、ヒロトがそう言ったのは。

 

『残り時間は――1分を切ったか。良いだろう』

 

「へっ?」

 

 そう何やら意味深げな発言をしたかと思った、次の瞬間であった。

 コアガンダムⅡがその場で跳び上がり、コアディフェンサーを被るようにして飛行(コアフライヤー)形態へと変形したかと思いや、あっという間に遠く離れた上空へと飛んで行ってしまったのは。

 

「しまった!」

 

 ほんの一瞬とはいえ気を取られたせいで、更に距離を大きく広げられてしまった。

 その結果を招いた己の迂闊さに思わず叫んだイツキは、慌ててコアガンダムⅡを追おうと操縦桿を握る手に力を込める。

 しかし、彼はその手を実際に前へ押し出さなかった。

 何故なら、

 

「……あれ?」

 

 目を丸くした彼の視線の先、ある程度離れた上空で、コアガンダムⅡが機首を彼の方へと向けた状態で静止していたからだ。

 てっきりもっと遠くへと飛び去っているか、そうでもなくともこちらへ後部を向けて飛んでいる最中だと思っていた。それ故に、実際にはそうしていなかったコアガンダムⅡにイツキは疑問を覚える。

 その疑問に答えるようにヒロトからの通信が入ったのは、その時だった。

 

『これから、俺はコアガンダムを君の陸戦型ガンダムとすれ違わせる』

 

「ええっ!?」

 

 思わぬ言葉に声を上げるイツキ。

 それに構わず、ヒロトの言葉が続く。

 

『最高速度でギリギリまで接近させて、そのまま君の右隣りを通り抜ける。――多分、その辺りで時間が来るだろうから、俺に攻撃を当てるならそれまでを狙うしかないな』

 

「な、何でそんな事を……何で、俺に教えるの!?」

 

 これからの行動指針を、そこを狙ってくれとばかりに淡々と伝えるヒロトへと問い返す声に、イツキは困惑を滲ませずにはいられない。

 それに対し、変わらず平静とした口調でヒロトがこう返して来る。

 

()()をつけるためだ』

 

「決着?」

 

 オウム返しするイツキに、ヒロトが更に言葉を続ける。

 単に自分の勝利でミッションを終わらせるためならば、このまま制限時間が来るまで上空に適当に居座り続けていればいいだけだ。だが、それではいけない。それでは、今回のミッションを行った意義が、イツキにチャンスを与えた意味が無くなってしまう、と。

 

『君にコアガンダムのデータを渡しても良いと俺が認めるか、それとも君がコアガンダムを諦めるか? その()()をつけるためにこのミッションをやっている』

 

 つまり、敢えて次の行動を教えたのは、これが()()をつけるためにヒロトからイツキに与える最後のチャンスであり、物に出来るかを試す最後の試練という事だ。

 そして、彼からのこの試練を断るという選択肢はイツキには無い。

 残り時間――30秒。

 その僅かな時間でコアガンダムⅡに攻撃を当てる事を考えれば。

 

『話はもう良いな? さぁ――行くぞ!!』

 

 声を張り上げたヒロトのその宣言を合図に、空中で静止していたコアガンダムⅡがバーニア炎を吐き出してその場から飛び出す。

 すぐさま、イツキは左の操縦桿のボタンを押して胸部バルカンを発射。小気味良く連鎖する発砲音を伴って飛び出した銃弾の群れが、高速で迫るコアガンダムⅡへと襲い掛かる。

 それに対し、速度を落とす事無くコアガンダムⅡは機首の向きを僅かに上げ、初弾を飛び越えるように躱す。

 更に、そこから機体を横に回転させる事で渦巻く様なバレルロールの軌道を展開。陸戦型ガンダムが胴を動かす事で鞭のように(しな)るバルカンの列の追撃も、難無く避けて見せる。

 残り時間――25秒。

 

「まだだッ!」

 

 それでも諦めず、イツキは次の瞬間にコアガンダムⅡが来るだろう位置を()()し、その都度操縦桿を動かしては陸戦型ガンダムの胴の向き――バルカンの発射方向を微調整していく。

 その甲斐あってか、時に下方へ落ちるように、時に左右にジグザグに飛んで避けていたコアガンダムⅡの動きにイツキでもそうと分かる程段々と(かげ)りが見え出す。

 そして遂に、数発の弾丸が低空を飛んでいたコアガンダムⅡを捕らえた。

 残り時間――20秒。

 

「やった!」

 

 遂に当てた、と操縦桿のボタンから指を離してバルカンの連射を止めたイツキは思わず身を乗り出し――すぐに違うと察した。

 バルカンの弾が当たったのは、飛行(コアフライヤー)形態時に機体の上部全面を覆うコアディフェンサーだった。

 飛行(コアフライヤー)形態のままであればそこは機体の一部であるため被弾扱いとなるが、MS形態時は手持ちの盾となるためそうはならない。

 よって、被弾直前に変形を解除したコアガンダムⅡは撃墜される事無く、未だ健在であったのだ。

 

『惜しかったな。――今のは少し危なかった』

 

「っ、くっそぉ!!」

 

 吐き捨てながらも、イツキはバルカンの連射を再開する。

 連なる弾丸の列をコアガンダムⅡが構えたコアディフェンサーで防ぎ、同時に背部バーニアを噴かせて再び急接近して来る。

 残り時間――15秒。

 

『またバルカンか……。それじゃあコアガンダムの守りは破れないぞ?』

 

 ヒロトの言う通り、バルカンの弾はコアディフェンサーに当たる度に幾重も火花が弾けさせるが、その表面にまともな傷を付ける様子も無ければ、コアガンダムⅡの手から弾き飛ばすような気配も無い。多少その動きを制限するだけで、本体にダメージを与えるには程遠かった。

 だが、陸戦型ガンダムが今使える武器はバルカンだけではない。

 

「だったらこれだッ!」

 

 バルカンの連射を維持したまま、右の操縦桿から呼び出した武器スロットでマルチランチャーを選択したイツキは、過たずそれを発射。白煙の尾を引く砲弾がコアガンダムⅡへと迫るが、

 

『ネット弾も届かなければ意味が無い!』

 

それを見越していたようにコアディフェンサーの端から頭部を覗かせたコアガンダムⅡが側頭部のバルカンを発射し、飛来中の砲弾を射抜く。

 そのせいでコアガンダムⅡへと到達する事無く砲弾は爆発してしまうが、次の瞬間。

 

『っ――!?』

 

 光が弾けた。

 爆散した砲弾から、飛び散る破片や煙を押し退けるような勢いで、辺り一帯を埋め尽くさんばかりに(まばゆ)い閃光が。

 

『これは……閃光弾か!』

 

 陸戦型ガンダムのマルチランチャーは様々な砲弾が発射出来る。これまで度々使って来たネット弾も、そして今使って見せた閃光弾も、その内の一種でしかない。

 そして今、近距離で炸裂した閃光によってヒロトは視界を塞がれている。

 イツキの側から近づく絶好の機会だった。

 

「うおおおぉぉぉ!!」

 

 閃光の眩しさに自らも目を閉じてしまいそうになるも、何とかそれに耐えながらイツキは陸戦型ガンダムを走らせ、コアガンダムⅡへと肉薄させる。

 そうして、打突形態を取らせた左腕のシールドでコアディフェンサーを殴り付けさせ、コアガンダムⅡの手から弾き飛ばした。

 残り時間――10秒。

 

「ま、だ、だあぁぁ!!」

 

 邪魔な盾が無くなったこの時を逃す手は無い。

 イツキは右の操縦桿を引き上げ、陸戦型ガンダムの右手に握られたビームサーベルによる切り上げを繰り出す。

 その攻撃を、当たる直前に上半身を逸らす事でコアガンダムⅡが回避。

 続けて繰り出した逆袈裟方向への切り払いも、左手で引き抜き様に振り下ろされたコアサーベルで受け止められてしまう。つい先程と同じように。

 ――()()通りに。

 

「ぉおおりゃああぁぁ!!」

 

 その瞬間が正に狙い目だった。

 ビームサーベルに注意が向き、もう一度振り上げた左腕――シールドに対しての意識が途切れる、その瞬間こそが。

 その瞬間を逃さず、イツキの意思のままに陸戦型ガンダムがシールドを振り下ろす。

 残り時間――7秒。

 

「――っ!」

 

 次の瞬間、シールドの先端が砕き割った。

 コアガンダムⅡでは無く、その機体が直前まで立っていた地面を。

 すぐさまイツキは視線を上げる。

 その場で跳び上がる事でシールドの攻撃を擦り抜けたコアガンダムⅡの方を

 残り時間――5秒。

 

「うぉおおおおおぉぉぉ!!」

 

 雄叫びを上げながら、イツキはもう一度操縦桿を引き上げる。陸戦型ガンダムに、ビームサーベルを切り上げさせる。

 最早思考も()()も無い、反射神経のみに身を任せたが故の、これまでで最も速く強い斬撃を。

 残り時間――3秒。

 

『おおおおぉぉぉ!!』

 

 ヒロトもまた、叫んでいた。

 叫ぶままに、コアガンダムⅡにコアサーベルを振り下ろさせていた。

 振り下ろされた光刃が、下から襲い来る光刃とぶつかり――弾き上げられる。

 

『な――!』

 

 残り時間――2秒。

 

「おおおおお!!」

 

 陸戦型ガンダムの右腕が、限界まで振り上げられる。

 一瞬とはいえコアサーベルに阻まれた事で切り上げはコアガンダムⅡには届かなかったが、次は違う。

 コアディフェンサーもコアサーベルも失った今のコアガンダムⅡに、攻撃を防ぐ手段は何も無い。

 次で終わる。

 返しの刃――この、振り下ろしで。

 残り時間――1秒。

 

「おおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」

 

 緩やかに(しな)りながら、ビーム刃が飛び込んで行く。

 見上げるコアガンダムⅡの頭部へ。

 額に飾られたブレードアンテナへと。

 その先端へと、迫る。

 あと少し。

 あとちょっと。

 あと、ほんの僅か。

 そして今、遂にアンテナの輪郭とピンクの光が触れ、そして――。

 

<TIME UP! MISSION――F()A()I()L()E()D()!!>

 

 ――電子ガイダンスの無情な終了宣告が辺りに響き渡った。

 




まさかのミッション失敗……!?

次回で第二章も最終話になります。どうぞご期待の程を。
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