ガンダムビルドライザーズ   作:shisuko

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今回より新章突入です。
遂に真・主人公機を迎えた物語は、果たしてどのように進展していくのか?

それでは、本編へどうぞ。


もう一体の“コア”
第15話 完成! コアガンダム!


 某日の午後2時、アガタ模型店。

 多くの人間が学校や職場の拘束(こうそく)から逃れて羽を伸ばせる土曜日の、それも大概(たいがい)の者が昼食を終えて街に繰り出しては(にぎ)わう時間帯だが、そんな事は知らんとばかりに、この(さび)れた外観のプラモデル屋を訪れる人影はまるで見られない。

 割といつもの光景であり、そう言ってしまえば、そんな有様で良く店を維持(いじ)できるものだ、と不思議がる者もいるかもしれないが……その辺りの事情は、店そのものやすぐ近くのGBNプレイスペース(ボロ小屋)、そして店の向かいで荒れ放題になっている駐車場を見て大体察して欲しい。

 さて、店の外側はそんな感じで平常運転といった感じのアガタ模型店であったが、その内側――店内の方はいつもと少し違う空気が流れていた。

 具体的には、観音開(かんのんびら)きのガラス扉が嵌め込まれた出入り口から見た左奥――製作スペースの辺りが。

 角に沿わせるように並べられた二脚の長机と四脚のパイプ椅子、それに工具やエアブラシ、塗装ブース等が一通り用意されたそのスペース内には、今、四人の人物の姿があった。

 パイプ椅子の一脚に逆向きに座るコテツに、腰に両手を当てて立っているヒカルと、長机の上で女の子座りしているトピア。

 そして彼らに囲まれるその中心で、

 

「ランナーからパーツを切り取る時は、いきなりパーツと繋がっている細い所(ゲート)を全部切り取らずに少し残す様に切って、それから残ったところをパーツにニッパーを沿わせるようにして切り取るんだよ」

 

「えっと……ちょっと残して、それから――こう?」

 

「そうそう、そんな感じ」

 

初めて握るニッパーの慣れない扱いに四苦八苦しながらも、長机の上に敷かれた緑色のカッティングマットに置いた数枚のランナーから少しずつパーツを切り出していくイツキの姿があった。

 

紙ヤスリ(ペーパー)掛けんのも忘れんなよ? ちょっとゲート跡残ってるだけでも、一気に装甲脆くなっちまうからな」

 

()()()() ――って、何か色々あるけど、どれ使えば良いんだ?」

 

「まず400番。それが終わったら600番で、最後に800番って感じで、番数の小さい(目の粗い)奴から順に掛けてきゃ良い」

 

「400番は……これ?」

 

「そーそー、そいつだ。後、削る時ゃパーツの角(エッジ)に向かって動かすようにしろよ?」

 

 ヒカルの指示通りの二度切りでパーツを切り出したイツキは、続くコテツの指示に従って、カッティングマットの先に用意されている耐水ペーパーへと右手を伸ばす。

 耐水ペーパーは五種類あり、いずれも背に黒色、赤色、黄色、緑色、青色の細長いアクリル板がそれぞれ当て木として貼り付けられている。その内、400と油性マーカーで書き込まれている黄色の物を手に取ったイツキは、恐る恐るザラつく研磨面(けんまめん)を左手に持つ胴体部のパーツに沿わせ、パーツの角を丸めないよう一方向のみに動かす事を意識しながら、慎重にゲート跡の研磨作業を行っていく。

 そうして、600と書かれた緑色、800と書かれた青色のアクリル板が貼り付けられたペーパーへと順に交換しては磨いてを繰り返していき――全てのパーツに一通りの処理を終えたイツキは、やっと終わったー、と一息吐く。

 その傍らで、うしっ、とコテツが手を打ち合わせた。

 

「パーツの切り出し終わったな。んじゃ、次はいよいよ組み立て――」

 

 そこまで言い掛けたコテツの言葉を、ちょっと待ってくださーい、とトピアが(さえぎ)る。

 

「くみ立てる前にここと、ここと、それからここも塗っておいた方が良いですー」

 

「あー、ツインアイとセンサーか。そんくらいは確かに組む前に塗っといた方が良ーか」

 

「それじゃあ、次は部分塗装だね」

 

 という風に、カッティングマットの上を歩いてイツキが切り出したパーツの幾つかを指差すトピアと、それに頷くコテツと遣り取りを交わしたヒカルが、イツキが使っている長机の隣のもう一つの長机の上の棚から何かを取り出していく。

 そのままイツキのすぐ手前まで運ばれたのは、金属製の塗料皿が三枚に、“M〇.C〇L〇R”という文字が書かれた青いラベルが貼られた、黒と緑の蓋がそれぞれ上部に付いた塗料瓶が一つずつ。それに白く細い毛の束が先端から生える面相筆(めんそうふで)と金属製の撹拌(かくはん)棒が三本ずつに、小瓶と似たラベルが巻かれた薄め液のボトルとスポイトが一本ずつであった。

 それらの内、蓋が黒い――つや消しブラックと塗料名が書かれた塗料瓶と撹拌棒を手に取ったヒカルが、手慣れた手付きで瓶から蓋を取り、開け放たれた口に差し込んだ棒でその中をかき混ぜていく。

 

「最初はツインアイ周りの黒を、それが乾いた後でツインアイその物とセンサーをメタリックグリーンで塗っていこう」

 

「分かったけど……うーん、細かいなぁ。はみ出さずに塗れるかなぁ?」

 

「大丈夫だよ、修正はいくらでも効くから」

 

 そう返す傍ら、塗料皿を一つ取ったヒカルは撹拌棒から(すく)い取った少量の塗料をその中に垂らし、更にボトルからスポイトで吸い取った薄め液を一滴(いってき)垂らして混ぜ合わせる。

 そうして濃度を調整した塗料入りの塗料皿と、その中身をほんの少し毛先に付けた筆をヒカルから受け取ったイツキは目を見開き、ゆっくり、ゆっくりと筆先をパーツへと近づけていく。

 震える手で塗った黒は、案の定塗るべき範囲から少しはみ出た。

 うっ、とそれに顔を引き攣らせつつも、事前のヒカルの指示に従ってイツキは塗料が乾くのを待ってから、先程と同じ要領でヒカルがもう一つの塗料皿内に用意しておいたメタリックグリーンと、それを付けたもう一本の筆を受け取って、先程よりも更に慎重にそれをパーツへと近づけていく。

 その甲斐あってか、今度は目立ったはみ出しは無い。

 その結果に安堵したイツキは、最後に残った塗料皿にスポイト内に残っている薄め液を全て注ぎ込んだヒカルの指示を受け、それを吸い取らせた最後の筆で最初の黒がはみ出た箇所を撫でていく。

 それによってはみ出た塗料を溶かして拭い取った後、もう一度乾燥のための時間を置いて、指示された箇所の塗装を完了させ――残る最後の工程、パーツの組み立てへと着手する。

 

「パーツはちゃんと奥まで、パチン、っていうまで押し込めよ? 動かしてる途中で分解したなんてなったら笑えねーからな」

 

「わ、分かってるよ! ――と……これがここで……こっちが……あれ、(はま)んない?」

 

「それは膝だから――合うのはこっちと、こっちのパーツだね」

 

「どれどれ……あ、ホントだ。ちゃんと嵌った」

 

 時に組み合わせるパーツを間違え――。

 

「えっと、次はこっちに……これを……」

 

「おいちょっと待て! こっちのパーツまだ付けてねーぞ!」

 

「え? ――げっ、ホントだ! ど、どーしよっ!?」

 

 時にパーツを組み込む順序を間違え――。

 

「これにこれ――ってアレ? 隙間が出来る? おっかしいなぁ、今度は間違えてないのに……」

 

「見せてくださーい。――あ、なかのポリキャップがちゃんと入ってないですー」

 

 時にパーツ同士を正確に噛み合わせないまま嵌め込もうとしたり――。

 そんなミスを何度か繰り返しては周りから指摘されたり助力を受けたりしながらも、少しずつイツキは組上げていく。

 そして遂に、

 

「で、出来たぁ……」

 

僅かに息を切らしたイツキの見下ろす先で、バラバラだったパーツは一つの完成形としてカッティングマットの大地の上に立つ。

 G-TUBEでその姿を始めて目にした数か月前から、こうして間近で目にする時をずっと待ち望んで止まなかった、その姿として。

 

「やっと出来た……。やっと手に入った……! 俺の……俺の!」

 

 その姿を前にしたイツキの脳裏で、今この時までにあった様々な出来事が浮かび上がって消えていく。

 思えば、本当に色々あった。何度も苦しい事態に直面したし、何度も諦め掛けた。先程までの組み立ての時だってそうだ。

 そのいくつもの苦難も、全てはこの瞬間のためにあったのだと、込み上げて来る感動や達成感にイツキは悟った。

 悟ったままに張り上げた声で、呼ぶ。

 

「“コアガンダム”!」

 

【挿絵表示】

 

 長く険しい道の果てに、遂にその手に収まった自らのガンプラ。

 かつてヒロトがエルドラバトルの初期から中期の頃に掛けて、コアガンダムⅡへの強化前に使っていたのとほぼ同等の姿の機体。

 これより先、共にGBNの広大なディメンジョンを駆け抜け成長していく事となる、自らの相棒の名を。

 

 

 

「はあぁぁ~~ぁ……」

 

 顎と腕をカッティングマットの上にへばり付けて脱力したイツキは、鼻先10cm程度の位置に立つその姿に、うっとりと目を細めて深い溜息を吐き出していた。

 “コアガンダム”。――遂に完成した念願の、初めての自分のガンプラ。

 コテツ達三人のサポートも受けながら作り上げた機体の率直な出来栄えは、()()()()といったところだろう。

 念願のガンプラを前にして早く組上げたいと(はや)る気持ちを抑え、可能な限り慎重な処理と組立を行うよう努めた甲斐(かい)あって、機体を構成する各パーツにはいずれも処理し忘れて出っ張ったままのゲートや、雑な処理のせいで発生する()()()()は特に見られない。組立順序を誤ったせいで嵌め込んだパーツ同士を()じ開ける事態も何度か発生したが、そのせいで出来た傷も特に無い。そういった意味では、比較的良く使われる賛辞(さんじ)である“丁寧に作られている”という評価を受けるくらいは十分に可能だ。

 その一方で、その機体はヒロトから(ゆず)られたパーツデータから出力したパーツを丁寧に組み上げた()()。その過程でやったのは、あくまで基本的なゲート処理や一部の部分塗装等のガンプラを作る上で極々基本的な作業だけ。ほぼほぼ素組みであり、そういう辺りも省みた結果として、“まぁまぁ”という評価が相応(ふさわ)しいのだ。

 勿論、今回のコアガンダムが初めて作るガンプラである今のイツキにそれ以上を求めるのは高望み以外の何でもないし、所詮(しょせん)その“まぁまぁ”というのも他人が見た時が下すであろう評価でしかなく、作った当人であるイツキにとっては()したる価値のある言葉でも無い。

 では、当のイツキ自身は自らのコアガンダムにどんな評価を下しているのか?

 それについては何度も記載するが、イツキにとってのコアガンダムは念願の初ガンプラであると同時に、自らがGBNとガンプラの世界に本格参戦する切欠である英雄(ヒーロー)同然の存在――ヒロトのコアガンダムと全く同型の機体である。

 しかも、その機体をこうして組み上げるまでには多くの困難や苦労があった。

 手に入れられなかった悲しみを抱えたまま挑んだGBNへの初ログインに、パーツデータを賭けたヒロトとのミッション。

 そして極め付けの、何とか手に入れたデータで実際にパーツを出力するための資金(ビルドコイン)集めだとか。

 特に、最後の資金集めがツラかった、という印象がイツキの中にはある。

 あのアダムの林檎でのミッションを終えてパーツデータを見事手に入れ、遂にコアガンダムを手に入れられる、と意気込んでいたところで不意を突くように突き付けられた40000BCという莫大な想定金額に受けた精神的ダメージも(しか)り。

 そこから何とか立ち直ってミッションカウンターへ向かうも、今の自分達の技量で挑めるミッション一つ一つの報酬金額の少なさに受けた絶望も然り。

 それでもめげず、出来るだけ得られる金額が高いミッションを選んでは片っ端から挑み続けていった苦労も然り。

 無論、続けていればいずれ報われると確定しているので、前者二つと比べた資金集めの苦労は全く大したものでは無い。

 しかし、何分最も近場の出来事で、尚且つ金儲けを第一優先に挑むミッションは前者二つのような良くも悪くも強い刺激が無い唯の作業と化していたため、イツキからすれば特に苦痛に感じられたのだ。

 ともあれ、そんな苦労を必死に重ねた甲斐あって、データ受領より二週間が経過した今日この日、遂にイツキは想定金額40000BCを稼ぎ切ってパーツを出力。

 その果てに(ようや)く自らの手で作り上げる事が出来たその機体は光り輝く黄金同然、いや、それ以上の価値を持つ存在として、今正に彼の目に眩しく映り込んでいた。

 だからこそ、

 

「えへへ~、コアガンダム~ぅ」

 

「……何やってんだオメー……?」

 

手に取ったコアガンダムに頬擦(ほおず)りするイツキは、気色悪ぃなー、とドン引きするコテツなど気に留めず、溶け掛けたアイスの(ごと)く顔を緩ませ、恍惚(こうこつ)としているのだ。

 

「それにしても――ヒロト君()のコアガンダムから結構色変えたんだね?」

 

 ふと、イツキの後ろから彼のコアガンダムを眺めていたヒカルがそう尋ねて来る。

 それに対して、頬擦りを止めたコアガンダムをヒカルの方へ振り返るや突き出したイツキは、へへっ、と笑い返す。

 

「良いでしょこの色? 前からこんな感じにしようって思ってんだ」

 

 今の彼らの遣り取りの通り、イツキのコアガンダムはその姿こそヒロトがかつて使っていた初期のコアガンダムと同じだが、その色合いは幾らか違う。

 具体的には、フロントスカートと胴体部、バックパックとブレードアンテナ。それに右手に握らせたコアスプレーガンと、左手に持たせた小型の盾――“コアシールド”もだ。

 ヒロトの物に比べ、黄色かったフロントスカートは白色に、赤かった腹部はグレーになった。ダークブルー 一色だった胸部とバックパックはそれぞれコックピット部が赤く塗り分けられた青色と白色に変わり、逆に白一色だったブレードアンテナは黄色一色になっている。更に、やはりダークブルー 一色だったコアスプレーガンは部分部分で白とグレーが入り混じるカラーパターンとなり、コアシールドもダークブルーだった箇所が胴体部と同じ青色になっている。

 今回の部品はヒロトから譲り受けた例のパーツデータを基に射出成型機で出力した物だが、その射出成型機には出力するパーツの色を自由に変えられる機能が存在する。この機能を使って出力直前に各パーツの色を調整した事がこの機体色の違いの理由なのだが、その機体色にした理由についてはまた別のものがある。

 その理由を、前から、と片眉上げて尋ねるヒカルに説明するため、頷き返したイツキは一度コアガンダムのカッティングマットの上に戻し、続けて長机の右側へと腕を伸ばして掴んだ()()を隣に並べて見せた。

 こうしてコアガンダムを手に入れるまで、GBNへ向かう度に何度も借り続けて来た()()()()()()()を。

 

「コイツの色を参考にしてみたんだ」

 

 思えば、最初に借りる事となった初ログインの時から、前述した資金繰りのために挑んだ幾多ものミッションまでずっと陸戦型ガンダムを借り続けて来たが、それ以外のレンタルガンプラを借りようという気持ちは一度も思い浮かんだ事が無かった。

 それが何故なのか、ふと気になったイツキはこれまでの事を思い返しつつ自問して、すぐにその答えは明らかになった。

 ――()()()()()()()()からだ。

 

「初GBNの時さ、トピアにガンプラの声聞いてもらったでしょ? あの時、俺に使われてくれるって真っ先に言ってくれたのがコイツだった。――だったよね?」

 

「ハイですー。陸戦型ガンダムちゃん、すっごくノリノリでしたー」

 

 今にして思えば、それが嬉しかった。

 あの時のイツキは、GBNもガンプラも正しくこれから入門というところであった。

 そんな、まともにガンプラを触った事も無い、まともに動かせるかも分からない初心者に付き合うなど、借りられるガンプラの側にしてみれば大抵は御免被(ごめんこうむ)るというもの。現に、直前にヒカルから勧められた別のガンプラ達はイツキに使われる事にかなり難色を示しているようだった。

 だからこそ、悪感情一つ見せずに率先して力を貸してくれた陸戦型ガンダムの好意は、思い返せば相当に有り難かった。

 

「それに、バトルの時なんかも色々俺にアドバイスくれてたみたいだったし、コイツじゃなかったら危なかったところもいっぱいあった」

 

 初ログイン時の、初心者狩りの一団に襲われた時なんか正にそうだった。

 あの連中は非常に質が悪かった。人格や素行の面は勿論の事、チュートリアルミッションを終えたばかりだった当時のイツキとは大きく離れた操縦技術の面でも。

 本来なら負けていた。コテツとトピアが増援に辿り着くのを待たず、体の良いサンドバックにされて、惨めに。

 そうならずに耐え切れたのも、また陸戦型ガンダムのお蔭だった。

 初心者が扱うのに向く基本的(ベーシック)な武装類に加え、ヒカルがその手で作り上げた事によるガンプラとしての並み以上の出来栄えが生み出す性能の高さ。そして、何より協力的な姿勢を持ち合わせていた陸戦型ガンダムだからこそ、一歩間違えば唯の蹂躙劇(じゅうりんげき)に終わっていたかもしれないあの戦いにイツキは勝てたのだ。

 そして、ヒロトのチャンスも、それ以外のミッションも。

 

「ずっとコイツの世話になりっぱなしだった。コアガンダムだって、コイツの力が無かったら手に入らなかったかもしれない」

 

 故に、イツキは陸戦型ガンダムの事を気に入っていた。

 それこそ、コアガンダムを知る事が無かったなら、同型のガンプラを購入して自身の愛機にしていたかもしれないと思える程に。

 何より、感謝していたのだ。

 

「だから、コアガンダムの色もコイツに似せてみたんだ。“お前が助けてくれたから、俺はコイツを手に入れられたんだ”、って伝えたくって」

 

「なるほど、陸戦型ガンダムへのリスペクトでその色にしたって事なんだね」

 

「それそれ、そーいう事! だからそーいうワケで――」

 

 そう結論付けるヒカルに頷いたイツキは、その視線をカッティングマットの上へと戻す。

 そこにコアガンダムと共に並び立つ陸戦型ガンダムに、改めて言葉で感謝を伝えるために。

 

「――あの時お前が俺に借りられてくれたから、力を貸してくれたから、俺、ここまで来れたんだ。こうやって、ちゃんとした俺のガンプラだって手に入ったんだ。だから、もうお前に乗る事も無くなると思うから、最後に言っとくな? ――今までありがとう、陸戦型ガンダム」

 

 微かに微笑みながら、そう感謝の言葉を告げるイツキ。

 それに対し、陸戦型ガンダムが彼を見上げるような事は無く、変わらずカッティングマットの上でビームライフルとシールドを両手に握った姿で佇むまま。

 現実でガンプラが動く事は無いため、当然といえば当然の事である。

 故に、反応が返って来ない事をイツキは特に気にする事は無かったのだが――。

 

「今日までよく頑張ったな!」

 

「ん?」

 

「これからも頑張れよ! 応援しているからな、ラリー!! ――って、イツキくんに言ってますよー? 陸戦型ガンダムちゃん」

 

 ――どうやら、返事はちゃんと返してくれていたらしい。

 

「――だから、誰だよラリーって?」

 

 相変わらず名前を間違っている事にはつい呆れてしまうが、それでも返答してくれた事自体は嬉しかった。

 だから、その事を陸戦型ガンダムにツッコんだイツキは、同時に笑い掛けていた。

 

 

 

「ところでよー?」

 

 ふと、コテツから声が掛けられる。

 それに反応してくるりと彼の方を向いたイツキは、直後に視界に入って来た彼の顔に、思わず片眉を(ひそ)めた。

 

「お前が世話んなったのはその陸戦型ガンダムだけかー? 他にもいるんじゃねーのぉ? 俺とかー、トピアとかー?」

 

 そう身を乗り出して尋ねて来るコテツの顔には、笑みが浮かんでいた。

 ――幼馴染としての経験と勘が告げていた。ニヤニヤ、としたその笑みが、何かを企んでいる表れであると。

 

「わ、分かってるよぉ。――二人も、その、ありがとう」

 

 コテツが言っている事それ自体は間違っていない。

 なので、彼への警戒からぎこちない口調になりつつではあったが、イツキはコテツとトピアにも感謝を述べる。

 それでトピアの方はすんなり納得してくれたようで、

 

「どういたしましてで――」

 

と返事を返してくれ掛けたのだが、

 

「――んむ?」

 

「だーれがんな言葉一つで済ませて良いっつったよぉ?」

 

すかさず彼女の口に人差し指の腹を当てて強引に黙らせたコテツの方は、そういうワケにはいかなかった。

 

「初GBNで初心者狩りの連中に絡まれた時ゃ参ったよなー? ――俺らが助太刀しなかったら、オメーどーなってんたんだろーなぁ?」

 

「うぐっ」

 

「BUILD DiVERSの人らに会ってすぐも大変だったよなー? あん時ゃ俺らもオメーにゃ随分振り回されたなぁ? 一緒に謝ってやったりしてよー?」

 

「うぐぐっ」

 

「後、ヒロトさんのミッションにも一緒に参加してやったよなー? そりゃー、俺もトピアもさっさとやられちまったけどよー、それはそれとして協力してやったことに違いは無ぇよなー?」

 

「うぐぐぐっ」

 

「コアガンダムのパーツ出すのに足んねぇ(ビルドコイン)集める手伝いだってしてやったよなー?」

 

「うぐぐぐぐっ」

 

「あ、つーかそもそも? ガンプラとGBN始めたいっつったオメーのためにアガタ模型店(ここ)紹介してやったり、ヒカル兄ちゃんに連絡してやったりしたのも、俺じゃなかったっけなー?」

 

「うぐぐぐぐぐっ」

 

「いやー、こうやって思い返してみりゃ、オメーがGBN始めてから三週間ちょっとで俺ら随分色々やってきたんだなぁ? こんだけやってきてやった俺らに、ありがとうの言葉一つで済まそうなんてのはちぃーとばっかし虫が良過ぎる気がすんだけどよぉ、そこんトコどう思ってんだ? え? ギンジョウ・イツキ君よー?」

 

「うぐぐぐぐぐ、ぐふぅっ!?

 

 浮かべる笑みのニヤケを強めつつ、これまでにあった出来事を羅列(られつ)しては徐々に詰め寄って来るコテツ。

 彼が挙げてくる過去の全てが事実であるために一つも反論出来ず、呻くしかないままに少しずつ後退っていくイツキ。

 (ついで)に、そんな二人の遣り取りを眺めては、借金をかたに詰め寄っているヤ〇ザみたいだなぁ、とコテツに苦笑しているヒカル。

 そんな追い詰められた状況に加え、紛いなりにも恩があるのは間違いないため、それを踏み倒すマネも出来ないという心理もどうしても働いてしまう。

 そうなってしまえば、後はもう時間の問題だ。今も感じる嫌な予感に口を紡ごうとしても、そう遠からず限界が来る。

 よって、

 

「……わ、分かった! 分かったよ! 分かったから離れろよ! 近いって!」

 

「よーし、良く言った!」

 

遂に耐え切れなくなったイツキが折れてしまっても、それは仕方の無い事だった。

 

「……で、何しろって言うんだよ?」

 

 コテツには、何か企みがある。今回までの恩を利用して、その企みにイツキを巻き込もうとしているのは最早考えるまでも無かった。

 では、彼は一体何を企んでいるのか?

 それを知るため、ジトッ、と目を細めたイツキは渋々ながらそう尋ねる。

 すると、待ってましたとばかりにコテツが立ち上がり、ビシッ、と人差し指をイツキの鼻先に突き付けて来る。

 

()()()に参加してもらおうじゃねーか!」

 

「バトル?」

 

 思わぬ解答に面食らい、何の、と目を瞬かせるイツキ。

 それに対し、へっへー、と歯を剥いた不敵な笑みを浮かべたコテツが返した答えはこうだ。

 

「これから俺とトピアは他の“フォース”と会う約束してんだ。そいつに、オメーも来てもらうぜ」

 

「他のフォース……っておいっ! それって!?」

 

 まさか、とイツキもまた椅子から立ち上がって目を剥く。

 コテツが言わんとしている事について一つ思い付いたが、しかし、あり得ないとも思った。

 今のイツキのダイバーランクはまだE。()()が出来る段階にはまだ至っていない筈だ。

 だが、そーよ、と自らの顔を立てた親指で指差したコテツからの意気揚々とした返答は、正しく有り得ない筈の()()が目的だと告げるものであった。

 

「付き合ってもらうぜ、イツキ! これからやる“フォースバトル”によぉ!!」

 




アイエエエ! フォースバトル!? フォースバトルナンデ!?(NRS並感

というワケで、今回の章で扱うのはちょっと早い挑戦の機会が回って来たフォースバトル! 出来上がったばかりのコアガンダム片手に、果たしてイツキは生き残れるのか? こうご期待!

……あ、あと実際に作ったコアガンダムの写真どうでした? 
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