今回は原作キャラ二名+新キャラ一名の投入回。
原作キャラ二人は特に公式の名前とか無かった筈なので半分以上捏造気味ですが、多分読んで頂ければ誰なのかは大体想像が付くかと。
それでは、本編へどうぞ。
時と場所は移り変わり、格納庫。
ガンプラを納める仕切りがずらりと並ぶ広大な空間は、始めて来た時と変わらず点在する緑やオレンジの蛍光灯のぼんやりとした光のみが辺りを照らしていた。
辺りを漂う重く緊張を
『いーか、座標送っといたスタート地点に全員着いてからバトルは始まっからな? 相手の人ら待たせるワケにいかねーんだから、ちゃんと遅れねーでついて来いよ?』
「分かってるよ……」
モニター隅の通信ウィンドウに映るアイアンタイガーの注意の言葉に、
先程も同じ内容を聞かされたからというのもあるが、それ以上に心中でのたうつ不満が彼にそうさせていた。
『何だよオメーは。まだ文句あんのか、俺のフォースの名前によー?』
「当たり前だろ!」
通信ウィンドウの向こうで嘆息するアイアンタイガーに、すぐさまイツキは叫び返す。
「何だよ、俺様とゆかいな仲間達って!? ゆかいな仲間って誰だよ!?」
『そりゃートピアとオメーの事に決まってんだろ。オメーは今傭兵だから取り敢えずだけど』
「誰が
そう。今のイツキが抱えている不満の発生源は、明らかになったアイアンタイガーとトピアのフォースの名前――“俺様とゆかいな仲間達”にあった。
まず、ぱっと見がダメだ。具体的には、あまりにも
名付けた張本人であろうアイアンタイガーは間違いなく例外だろうが、この名前をフォースの一員として胸を張って名乗れ、と言われてそれが出来る者は殆どいないだろう。イツキ自身にしても、恥ずかしくてとてもじゃないが名乗れない一人である。
続いて、“俺様”と“ゆかいな仲間達”に分けてしまっているのがダメだ。特に、“ゆかいな仲間達”が。
この文言があるせいで、フォースに入った者は自動的に“俺様”――つまりはアイアンタイガーの“ゆかいな仲間”認定されるのである。その
そして極め付けにダメなのが、
『分っかんねーなぁ? こんなイカした名前の何が気に入らねーってんだ?』
こんな問題のある名前にも関わらず、名付け親であるアイアンタイガーが“サイッコーにカッコイイ名前”だと心から信じ切ってしまっている事だ。
『名前だけなら今日の相手どころか、“
「……」
心底意味が分からないとでも言いたげに首を傾げながら、今日のバトルの相手フォースと、もしかしなくとも俺様(以下略)なんぞよりも遥かに上位の存在なのであろう、ネーミングセンスの時点で
そんな、とんでも無く失礼な事を平然と
「ねートピアー!」
『はい?』
隣に並ぶ別の通信ウィンドウに映るトピアに相手を変える事にした。
「トピアも何か
『何か、ですかぁ?』
「何かあるでしょ? フォースの名前について、色々言いたい事とかさ!」
自分よりも前から俺様(以下略)に入っているトピアならば、絶対このフザけた名前について
――という思考の下、
『……とくに無いですけどー?』
とんがり帽子の先を傾けて不思議そうにする彼女の姿であった。
その、何でそんな事訊くのか分からない、とでも言いたげな様子には、逆にイツキの方が、へ、と思考を一瞬ストップさせてしまう。
「――い、いや、何かあるでしょ絶対!?
『いやなんですかー?』
「え?」
『イツキくんはいやなんですかー、
「い、イヤに決まってるじゃん! 何が悲しくて
『でも、イツキくんは
「いやいや、そーいう話じゃなくて――」
『不思議ですー』
ここまでの、どこか要領を得ないトピアとの遣り取りを交わす中で、イツキは思い出していた。彼女は生まれてまだ二ヵ月――正確には、もうそろそろ三ヵ月目に入る――しか経っておらず、それ故にまだまだ
イツキが俺様(略)をダサい、問題ありと断じられるのは、そう判断出来るだけの知識と経験と感性があるからだ。
それと同じものを、まだトピアは身に着けていない。よって俺様(略)というフォース名に対して何も疑問を抱く事は無い。
むしろ、
『私はすきですよー、俺様とゆかいな仲間達。いまは私と
という具合に好感さえ抱いてしまう程だ。
よって、トピアも事実上アイアンタイガーの味方であると知らされたイツキは、むぐぐ、と口を噤んで呻くしかない。
そんなイツキの様子を見てか、へっへっへ~、と通信ウィンドウの向こうのアイアンタイガーが勝ち誇るように笑う。
『ほれみろ! トピアも俺様とゆかいな仲間達めちゃくちゃイカしてるって言ってんじゃねーか!』
「そこまで言って無いだろ!」
『どの道文句があんのはオメーだけって事に違ぇ無ぇだろ! それはそれとしてお前ら、
ニヤニヤとした鬱陶しい笑顔から一転し、当たり前みてーに間違えてんじゃねーぞ、と怒鳴るアイアンタイガー。
それに、ごめんなさいですー、とトピアが頭を下げていたが、イツキは逆に、あー、もう、と唇を尖らせつつ漂って来る煙を払う要領で右手を振って、
「分かった、分かったよ。お前のフォースの名前がスゴいのは分かったから、早く出ろよな! 後ろ詰まってるぞ!」
とっとと先へ進むようアイアンタイガーに
『へーへー、
へっ、と通信ウィンドウの向こうのアイアンタイガーが鼻を鳴らした次の瞬間、ガコン、という重い駆動音が辺りに響く。
それを皮切りに、連続するブザー音と振動を格納庫内に響かせながら動く影があった。
アイアンタイガーのガンプラ、ガンダムDXフルバスターだ。
ディフェンスバスターライフルのグリップを両手に握った姿で一番奥に並んでいたDXフルバスターが、側面をこちらに向けた直立姿勢のまま、ゆっくりとその足元を固定するラッチベースに運ばれていく。
上下に開く
そうして、ガクン、と一際大きく機体を揺らしてDXフルバスターが射出位置に辿り着いたところで、うっし、と通信ウィンドウの向こうで拳と手を打ち合わせたアイアンタイガーが操縦桿を握り直し、叫んだ。
『アイアンタイガー! ガンダムDXフルバスター! 出るぜッ!!』
彼のその宣言を合図にモニターの隅からその姿を映していた通信ウィンドウが消え、同時に身構えるような中腰の姿勢になったDXフルバスターの足下で一瞬眩いスパークが走る。
そして次の瞬間には、僅かな残像と火花を残して、DXフルバスターは射出されていた。
『それじゃあ、お先にー』
続けて、アイアンタイガーのものとは別の通信ウィンドウから顔を覗かせていたトピアがとんがり帽子の広い
そのまま射出位置まで運ばれたモビルドールトピアが、先程のDXフルバスターと同じように身構え、
『トピア、行ってきまーす!』
トピアのその宣言と共に、一瞬の内にイツキの視界外へと弾き出されて行った。
そして最後は、
「やっと俺の番か」
ふーっ、と息を吐いて気を取り直したイツキと、彼が乗り込んでいるコアガンダムの番だ。
「あー……遂に来たんだなぁ、この瞬間」
ラッチベースの自動移動によって独りでに左から右へと流れていく格納庫の内装をモニター越しに眺めながら、イツキは握り拳を胸の高さの辺りまで掲げる。
カタパルトからの射出シークエンスそのものは別に初めてではない。三週間近く前の初ログインの時から、もう何度もやっている。
コアガンダムで、漸く手に入った念願の愛機でやるのはこれが初めてで、だからこそ
「後は、バトルだけど……」
これから行うフォースバトルへと、イツキは思いを
俺様(略)のせいで一時は穴の開いたボールのように気が抜けてしまっていたが、それでも本来ならばまだ挑む事が出来ない筈の戦いを、それも出来上がったばかりのコアガンダムで挑むのだ。愛機の初陣となるバトルがいよいよ間近に迫って来たと思えば、自然とその胸中は渦巻く緊張と不安で満たされていくものである。
だが、その一方でイツキはある種の安心感を覚えてもいた。
(……大丈夫だよな、悪い人達じゃ無さそうだったし)
格納庫へと移動する直前に顔を合わせた、対戦相手のフォースの面々を思い出す。
最初に現れた二人と、後から現れたもう一人の事を。
時は少し巻き戻り、セントラルエリア、ロビー。
唐突なフォースへの参加要請に、コアガンダムの話題性に目を付けた客寄せパンダというあんまりな採用理由。それを何とか乗り越えた後に判明した、俺様(略)というツッコミ待ちかと疑いたくなる程に残念なフォース名が判明した事により混乱がピークに達していたイツキであったが、しかし彼はその事に対する追究の矛を
現れたからだ。
「あー……取り込中だったかな?」
そう困った様子で頬を掻きながら尋ねて来たのは、顔に口周りと顎周りを覆う
その隣には彼よりやや小柄の別の中年ダイバーも並んでおり、褐色の顔の外周に茂らせた顎鬚と三白眼が特徴的なその男も、やはり鈍色のトーブとグトゥラを合わせた中東風の恰好で、気まずげに苦笑していた。
急に声を掛けて来たその見知らぬ二人組を、誰、と訝しむイツキを後目に、彼の対面にいたアイアンタイガーがその二人組の方へと進み出て返答する。
「やー大丈夫大丈夫! 全っ然大丈夫っス! 俺らの事とか全然気にしなくって良いっスから!」
彼にしては珍しい、妙に
明らかな目上相手には腰が引ける
しかしそれは、件の中年男達が、アイアンタイガーがそういう態度を取る程の人物である事を意味してもいるのだ。
その事実が故に男達の事が一層気になったイツキは、こんにちはですー、と彼らに一礼して挨拶するトピアの肩を軽く叩いた。
「ねぇ、あのオジサン達誰?
その問いに、振り返ったトピアが、あ、と何かに気づいたような声を上げる。
「そういえば、イツキくんは“デアール”さんと“ノフリ”さんと会うの今日がはじめてなんですねー」
「デアールさんに、ノフリさん?」
「はいですー。デアールさんとノフリさんは、今日戦うフォースの人たちなんですよぉ」
「ええっ!? あのオジサン達が!?」
トピアから返って来た解答に、思わずイツキは声を上げる。
相手フォースについて何も情報を聞いていない状態だったため、
と、その声に反応したアイアンタイガーが、そーよ、と二人の方へと振り返った。
「この人らは今日俺らとバトルしてくれる“
そう声を張り上げ、片手で中年男達の方を指し示すアイアンタイガー。
それに従って男達――フォース“Zi-ソウル”の、黄色いトーブを着ている方の“デアール”と、鈍色のトーブを着ている方の“ノフリ”が、順に自己紹介をしていく。
「ご紹介に預かったデアールだ。今日君達……あー、俺様とゆかいな仲間達、で良かったかな? と戦わせてもらうZi-ソウルのリーダーをさせてもらってるよ」
「それで、俺がサブリーダーのノフリです」
「この人らはなぁ、募集掛けてもちっとも捕まらなかった俺らの対戦相手を進んで受けてくれた親切な人らなんだよ。分かったら、オッサンなんてシツレーな呼び方、二度とすんじゃねーぞ?」
そうイツキの方へ顔を突き出し釘を刺して来るアイアンタイガーに、まぁまぁ、と両の掌を向けてデアールが
「対戦相手が見つからなかったのは俺達も同じだったし、今日のバトルを受け入れてくれた事はこっちも感謝しているんだ」
「そうそう。そういう事だから、そんな気を遣わなくてもいいから、
デアールに続いてノフリも気を遣わないように言うが、その直後、
「
そこに含まれていた
「お前の方が失礼じゃん……」
シツレーな呼び方をするな、と言ったその口が乾かない内からのその反射行動に呆れて呟くイツキ。
とそこで、ところでそっちの君は、とデアールとノフリの顔が一様にイツキの方へと向けられる。
「この前会った時は居なかったから名乗ったけど、もしや、新しいメンバー?」
「あ、俺は――」
デアールからの問い掛けにイツキは答えようとするが、それを待たずして、そーなんスよー、とアイアンタイガーが横から三人の間へと滑り込んで来る。
「コイツは俺様とゆかいな仲間達に入る予定のイツキっス! まだGBN始めて三週間ちょいしか経ってねード初心者でEランクだけど、今日のバトルから参加してくから、どーぞお手柔らかにお願いしますっス! ――ホレ、ボサッとしてねーで、オメーも二人に名乗りやがれ」
「……今名乗ろうとしてたってのっ!」
ニコニコ、と気持ち悪いくらいの笑顔でZi-ソウルの二人にイツキの事を紹介した後、打って変わって唇を尖らせ、しょーがねー奴、とでも言いたげに自己紹介を
そんな彼に文句を返したイツキは、
すると、一度顔を見合わせたデアールとノフリが揃って、へー、と感心気な声を上げた。
「成程なぁ。――君、もの凄く強いんだな!」
「え? もの凄く強い?」
俺が、二人の思わぬ感想に驚いて自らを指差すイツキ。
何でそう思ったのか、という疑問を言葉に代わり表すその素振りに対し、何故かデアールとノフリは一斉に噴き出した。
「いやいや、
「いや、別に謙遜なんて――」
「まだEで、しかもGBN始めて三週間しか経ってないんだろ? それで態々傭兵になってまでフォースバトルに参加するって事は、つまり
傭兵とは、本来ミッションやバトル等で必要な人数にメンバー数が満たないフォースが頭数を補うために設けられた制度だ。故に、傭兵として招き入れられるダイバーは自分達と同等か、それ以上の実力を持つ者というのが通常である。
そのため、ダイバーランクだけで無く実力や経験も劣る者を態々傭兵として、それもフォースバトルを目前に控えたタイミングで迎え入れるなどいうのは普通行われない行為であり、それを考え付けというのはなかなか難しいものがある。
それはZi-ソウルの二人の同じようで、
「こりゃ油断できませんねぇ、アニキ」
「だな」
顔を向き合わせ、互いに気合を入れ直すように頷き合う彼らには、イツキがまだEランクだとか、経験の浅い初心者だとかという事に対する侮りや嘲りは全く見られず、むしろ彼の事を思わぬ強敵として評価している様子すら見受けられた。
それ自体はまだ、というか全然良い。いつかの初心者狩り達のような、ただ
だが、それはそれとして、その対応への根拠が自分への誤解であるというのが、どうにもイツキはこそばゆかった。
なので、何とか二人の誤解を解こうとするのだが、それを待たず、彼だけでなくアイアンタイガーとトピアにも視線を巡らせたデアールとノフリが更に言葉を連ねる。
「ま、君達が子供だからって油断も手加減もする気なんて、最初から無いけどな」
「そうそう、子供でも強い奴は本当に強いからね。かくいう、ウチのエースも――」
と、ノフリが何かを言い掛けたその時だ。
「僕がどうかしましたか?」
ふと、聞き覚えの無い声が聞こえた。
比較的音程の高い、
その声が聞こえた辺りへと、小首を傾げつつイツキは視線を移動させる。
見れば、同じように声に反応して肩越しに背後を見遣っているデアールとノフリの体に隠れて、その奥の空間に何者かが立っていた。
その何者かに、おお、とデアールとノフリが
「“ヒムロ”君! 遅かったじゃないか!」
「すいません。最終調整に少し手間取っちゃって」
「丁度君の事話そうとしてたトコなんだよ。さ、君もこっちに」
そう二、三、デアールとノフリと言葉を交わした後、一人分入れる程度に広げられた二人の間の空間に招き入れられて、何者かがイツキ達の前にその姿を見せた。
「丁度今、俺達のフォースの最後のメンバーが到着したから紹介させてくれ」
そう告げるデアールが右手で指し示した何者かは、イツキ達と同じくらいの年恰好の少年ダイバーであった。
「最後のメンバー、っスか?」
上は黒色のシャツと深い青色の長袖ジャケット、下は赤い長ズボンというデアールやノフリとは
「彼はヒムロ君。我がZi-ソウルの三人目のメンバーにして、ウチのエースダイバーだ」
そうデアールから紹介された少年――“ヒムロ”が、続いて自らも一歩前へと出て、一様に彼へと視線を注ぐイツキ達へと軽く頭を下げて一礼する。
「ヒムロです。今日は僕達Zi-ソウルとのフォースバトルを受けてくれて、ありがとうございます。それと、この前の打ち合わせの時は顔を出せなくてすいません。えっと……俺様とゆかいな仲間達? の皆さん」
そう一言一言丁寧に告げてから、微笑みを浮かべた顔をゆっくりと左右に動かして、黒髪の奥の青み掛かった瞳をイツキ達三人と順に交わしていくヒムロ。
左右に
「言っておくがヒムロ君は強いぞぉ? 俺達はもちろん、そこら辺のちょっとランクの高い大人なんかじゃ手も足も出ないくらいだ」
「俺やアニキがこうして真っ当にフォースやってられるのも、ぶっちゃけヒムロ君がいてくれるからこそだ。――なっ、ヒムロ君」
「二人共、
これ見よがしに褒め称えて来るチームメイト達を苦笑混じりに
それが分かってか、或いは分からずともであったかは不明だったが、いやぁ、スマンスマン、とノフリと共に笑いつつ謝るデアール。
「せっかく良いところで君が来てくれたから、つい対抗したくなっちゃってな。イツキ君――そこにいる新選組の恰好の彼も、どうもかなり
そう彼が言うや、つられる様にヒムロがイツキへと顔を向ける。
それにより、向けられた彼の視線と不意打ち気味に目が合う事となったイツキは、思わずドキリ、と肩を跳ねさせた。
そんなイツキの反応に気づく素振りも無く、彼がGBNを始めて間もない初心者である事と、その上で傭兵として今回のバトルで戦う事をデアールとノフリが説明する。
「へぇ、初めてまだ三週間で、Eランクのまま……」
「普通はまだDになっていない奴なんて誘わないだろ? つまりは――って事なんだよ」
最後にそう取り纏めるデアールに、感心気に頷くヒムロ。
そんな彼らに、だから誤解だよ、とツッコみたかったイツキであったが、しかしそれは出来なかった。
そうしようとした刹那、不意に向けられたヒムロの双眸と再び目が合ったために、つい吐き出そうとした言葉を飲み込んでしまったからだ。
そのまま、ほんの数秒だけ僅かに細めた目でヒムロはイツキの事を眺めていたが、それが終わると――何か合点がいったような――微笑をその顔に浮かべ、こう言った。
「気負わなくていいよ」
「え?」
「誰だって最初は初心者なんだ。君が
そう、どこか懐かしむように――あるいは、どこか寂し気に――語るヒムロ。
今のこの場所、この時とは別の何処かを見ているようなその眼差しがイツキは少し気になったが、それ以上に、
(酷い目に遭った……か)
初GBNの時に悪質な初心者狩りに絡まれた自分と重なるその言葉に、少しばかりだが共感を覚えていた。
「――でも、安心して」
調子を切り替えるように、イツキへと真っ直ぐに視線を戻したヒムロが言葉を連ねる。
「
言葉を続ける傍らで、すっとヒムロが右手を差し出して来る。
「――きっと、お互いに良いバトルが出来るから」
「……良いバトル、か」
眼前に掲げた右の掌を眺めながら、イツキは呟く。
あの後、アイアンタイガーとデアールが代表してバトルのルールや細かな質疑について互いに確認し合い、それが終わってから先にバトルフィールドへ向かう事となっていたZi-ソウルの面々と別れたのだが――差し出されたヒムロの手を握り返した時の感覚がまだ残る手を握り締めたイツキは、改めて確信する。
そうだ、何も心配する必要なんて無い。
ヒムロは、Zi-ソウルの面々はいつかの初心者狩りの連中とは違う。交わした言葉こそ
彼らとなら、きっと良いバトルが出来る。勝とうが負けようが。絶対に悔いや
「――っと」
ゴウン、という重い機械音が響き、同時にコックピット内が揺れる。
それに反応して正面モニターを見遣れば、奥まで長く広がるカタパルトレールの内装がそこに映っていた。
どうやらコアガンダムが射出位置に着いたらしい。
「――良し!」
カタパルトレールの先に小さく見える出口を前に、イツキは自らの両頬を叩く。
現実のような痛みは無いが、それでも顔に広がる衝撃と、パン、という小気味良い音は十分な効果を発揮してくれる。
「いよいよお前の初バトルだ。俺がお前をちゃんと動かせるかどうかもまだ分かんないし、あの人達だってきっともの凄く強い」
それでも、自分達なりの全力は出していこう。
初めてのフォースバトルを全力で楽しみ、
だから、余計な事など考えずに――。
「
そう告げるや、イツキは左右の操縦桿をぐっと握り直す。
それに合わせて――あるいは彼の意気込みに応えるように――コアガンダムが機体を屈めて射出態勢を整えるのと同じくして、カタパルトレール上部から飛び出している六角形のシグナルランプの色が、赤から緑へと変わる。
出撃が可能となった事を報せるその変化を認めたイツキは、一つ深呼吸をして腹に空気を溜めてから――その全てを吐き出す勢いで、宣言した。
『イツキ! コアガンダム! 行っきまーす!!』
『――おっと?』
「やっと来たな」
自らが搭乗するガンプラのコックピット内に鳴り響くアラート音と、正面モニター右下隅の通信ウィンドウからのノフリの声を合図に、デアールは上方へと目を向ける。
それに合わせてモニター上方の一部が
「こりゃまた、珍しいガンプラだなぁ……」
二機が先頭を行き、残りの一機が少し離れた後方につく逆三角形の配置で三機は飛行しているのだが、その中でデアールが機体ベースを判別する事が出来たのは、先頭を行く二機の内の一機であるガンダムDXの改造機のみ。他の二機――箒らしき武器に
――と思い掛けたところだったが、
「何か、見覚えがある気がするぞ……?」
ふと、そんな気がした。
その見覚えが、果たしていつ、どんな状況での事だったかを、額に人差し指の先を当て、う~ん、と唸りながらデアールは記憶を探るが――不意に通信ウィンドウの向こうで掌を打ち鳴らしたノフリの、ひょっとして、という声が、その思考を途切れさせた。
『あの人形みたいなガンプラ、モビルドールじゃないっすか?』
「モビルドール?
『じゃなくて! ほら、例の――ELダイバーが現実での体にしてるっていう――』
「ああ!」
それか、とデアールは得心する。
GBNが生み出した噂の電子生命体、ELダイバーが現実で活動するための体としてモビルドールと呼ばれるガンプラを使っている、という噂は彼も耳にしたことがある。流石にそのELダイバーに出会った事は――かつての、知らぬ間の
「となると……あの子達の中にいるって事か! 噂のELダイバーが!」
導き出したその結論に、思わず両手を握ってデアールは歓喜する。
その存在が確認されてから既に100人近くまで数を増やしているELダイバーであるが、それでも総アクセス数二千万以上という膨大なGBNの総プレイ人口に比した人口密度はまだまだ小さく、
そんなELダイバーとこれから刃を交えられるとなれば、正にそれは滅多に無い機会という奴だ。
現にノフリなど、
『こりゃ、バトル終わったらサイン貰わないといけないっすね!』
と興奮し出す始末である。
そんな彼に、だな、と頷きつつ、棚から落ちて来た
「こりゃあ色々と楽しみが増えて来た! 君もそう思うだろ、ヒムロ君!」
そこに映るヒムロからも、ええ、と笑顔の同意が返って来るものと思いながら。
――しかし、実際にヒムロから返って来た反応は、そんなデアールの予想とは違っていた。
『……』
ヒムロは、かっと目を開いていた。
まるで、そこにあってはならない、存在している事が到底信じ難い物を目にしたかのような、凄まじい形相で硬直していた。
明らかに
「……お、おいっ! どうしたんだヒムロ君!? しっかりしろ!」
一体何が起こったというのか?
訳が分からずノフリ共々困惑せざるを得ないデアールであったが、それでもリーダーとして異様な変化を見せるメンバーを見過ごすワケにはいかないと、慌てて彼はヒムロへと叫び掛ける。
その呼び掛けが効いたのかは定かでは無かったが、開け放たれたままだったヒムロの口がポツリ、と言った。
『……コア……ガンダム……?』
「え?」
『いや……――の機体じゃ……けど……何で……?』
通信越しでは一部が聞き取れない程に
そのコアガンダムとやらが、こうもヒムロが取り乱している理由なのか?
次々湧いて出て来る疑問に戸惑いを強めるデアールであったが、その一方で気になる事も一つあった。
その気になる事を、同じように当惑を強めていたノフリが通信越しに代弁する。
『
そうだ。
コアガンダム。――その名前は、
二人
『……デアールさん、ノフリさん』
その機体が、自らの存在を指し示すように一歩進み出る。
『他の二機――DXとモビルドールの相手は、お二人に任せて良いですか?』
自身とノフリにそう尋ねて来るヒムロに、デアールはすぐに返事を返せなかった。
横目に見遣った通信ウィンドウに映る彼の顔には、先程までのような異常さは無くなっていたが、代わりに何かを思い詰めたような緊張が見て取れた。
その表情の変化が、言い知れぬ不安をデアールに感じさせた。
『あのコアガンダムは
彼やノフリのガンプラと比べて半分程度しかない小さな体躯から、根本から足首の辺りまでグレーのフレーム部が露出した四本の足を下ろしてぬかるんだ地面の上に立つ、白を基調とした機体。
細長い頭部を上へと
他の二機と共にコアガンダムが飛び去っていった空へと。
『――“コアバクゥ”が』
ウィンドウの奥で鋭く目を細めるヒムロに呼応するように、彼が乗るガンプラ――“コアバクゥ”のモノアイが、一際強い光を放つ。
獲物を見定めた獣の眼光を連想させるような、鋭い光を。
次回、VS Zi-ソウル戦、開幕!
何だか雲行きが怪しくなってきた初フォースバトル、果たしてイツキは生き残れるのか? 次回はちょっと遅くなりそうですが、それでもこうご期待!