さぁ、初フォースバトルの栄冠をイツキは勝ち取れるのか? こうご期待。
(2021/12/19)撃墜されてから復帰までに掛かる時間が流石に短過ぎましたので、十分に修正しました。
「今日のバトルのルール、もっぺん確認しとくぞ」
そうアイアンタイガーが切り出したのは、彼がイツキとトピアと共にZi-ソウルとのフォースバトルの
『今日のバトルは、えーと……“フラッグ奪取戦”って奴だっけ?』
『はい! 今日のバトルはフラッグ奪取戦ですー』
既に仲間達二人はアイアンタイガーの傍を離れ、各々の役割を為すために行動している。
その内の一人であるイツキが、正面モニター右隅に二つ並ぶ通信ウィンドウの内の一つの向こうから思い出しつつといった様子で告げたその答えに、隣のウィンドウに映るトピアが大きく頷いて肯定を返す。
二人の遣り取りの通り、今回のフォースバトルは“フラッグ奪取戦”。各フォース共にバトルフィールドの一定範囲を占める自軍エリアと一本のフラッグが与えられ、この自軍エリア内の何処かに隠したフラッグを探し、奪い合う事
「フラッグ奪取戦の良いトコは、どっちかのフラッグが取られるまで
敵軍のフラッグを奪うか、それとも自軍のフラッグが奪われるか? ――その瞬間が訪れるまで、
ただし、実際に撃墜されてから復帰する場合、どこで撃墜されようとまず自軍エリア内に定められた
兎にも角にも、最終的には――。
『いっぱいやられてもいいから、とにかくZi-ソウルの人たちより先にフラッグをとっちゃえば良いんですー。そしたら、私たちの勝ちですよー』
「そーいうこった! どーよ? 今のオメーにゃピッタリのルールだろ?」
逆に言えば、互いにフラッグを取らない、取られない限り、バトルは終わらない。
故に、他のルールなら開始数分で撃墜されて退場している可能性の高い彼のような初心者でも最後までバトルに参加し続ける事が出来る上に、平行して出来立てのコアガンダムの操縦に慣れる時間も取れる今回のルールは、正しくアイアンタイガーがそう告げた通り、イツキに打って付けであった。
まぁ、フラッグ奪取戦が今のイツキに対して相性が良かったのは結果的な話で、別に彼の事を考慮してそのルールでバトルを行う事が決まったワケでも無いが。
(
コアガンダムを手にしたイツキを加え、俺様とゆかいな仲間達の名を広める。その一環として、今日のZi-ソウルとのフォースバトルに参加させ、Dランクに昇格するために必要なダイバーポイントを
そういう計画の下にイツキを傭兵として招いたというのは既にアイアンタイガーの口から語られた事であるが、実は彼は全てを白状し切ったワケでは無い。
というのも、イツキをフォースに加える事そのものは二週間前のヒロトからの
そもそもの
そう、傭兵だ。今回のイツキとは違う、ちゃんとした実力と経験を併せ持った正規の傭兵を彼は雇うつもりでいたのだ。
だが、いざ調べてみるとそういった、傭兵として雇われる事を生業とするダイバー達への報酬の相場は相当に高く、立ち上げて一ヵ月程度の俺様とゆかいな仲間達にはとてもではないが用意出来るものでは無かった。
そのため、正規の傭兵を雇う事をアイアンタイガーは早々に諦めざるを得ず、半ばダメ元であった
そんな中で見つけた最後のメンバーの補充手段が、正に今回のイツキの編入であったのだが――モニター左上に表示されるバトルフィールドの概略図を見上げたアイアンタイガーは、ニヤリ、とほくそ笑んだ。
簡略化した今回のフィールド内容と、フォースメンバー二人の位置を示す緑色の三角形のマーカーを表すその図に、彼の笑みの理由があった。
今回のフィールドは、
その内、概略図上の上半分を覆う森林地帯は
逆に、概略図上の下半分に広がる荒野エリアは岩壁や崖が多少存在する以外に障害物が無い開け放たれた地形であり、それ故に移動しやすく付近の敵機の動きも察知し易い反面、敵からも発見されやすいために迎撃されやすい。
このような構成のフィールドに対し、アイアンタイガーは元より高い飛行能力を持ちEL TRANS-AMという奥の手を持つトピアに空からの侵攻と敵軍フラッグの探索を任せ、特別機動性に優れない代わりに多数の火器を搭載し、いざという時にはツインサテライトで射線上の全てを消し去れる自身は自軍フラッグ付近での防衛に当たるという配置で挑む事を決めていた。
が、そこにイツキが加わった事で彼らの配置は幾分か変わる。より
その理由は二つ。
『にしても、周り中木ばっかだなぁ。フラッグなんか全然見当たんないや。そっちはどう?』
『こっちも見つからないですー』
一つは、当初トピアしかいなかった敵軍フラッグ捜索の手が増える事。
そしてもう一つは、
(中々悪くねーペースで進んでんじゃねーか。思った通り、今日のフィールドとイツキのコアガンダムは相性バッチリみてーだな)
前述の通り、今回のバトルフィールドは森林と荒野に分かれており、その内森林地帯は林立する木々とぬかるんだ地面から移動がし難く、視界の悪さから不意の敵機と接触が起こりやすい。
しかし、コアガンダムの軽い機体重量は地面のぬかるみに足を取られ難く、小さい機体サイズは入り組んだ木々の間を潜り抜けやすい上に視認性も低くなるため、敵機と遭遇した際の対処がしやすくなる。そのため、森林地帯での問題点の影響を通常のガンプラよりも受け難いのだ。
(空からはガンガンかっ飛べるトピアが、森からは小回りの利くイツキがあっちのフラッグを
一時はどうなるかと思ったが、いざ出来上がったその布陣は存外完璧に思えた。
その事にアイアンタイガーは満足していたのだが、ただ、それでも勝利を確信するには至らない。
二つ程、
(取り敢えず、イツキがヘマしねー事祈っとかねーとな)
一つは、やはり今回が初操縦となるイツキのコアガンダムだ。
ルール上慣れる時間が確保しやすいとはいっても、結局まともに動かすのは今回が初めてである事に変わりは無い。あれだけ独特なガンプラであれば、これまで彼が使っていた陸戦型ガンダムのような通常サイズのガンプラとは勝手の違いが大なり小なりあるであろうから、それがどう影響して来るかという不安はどうしても拭い切れない。
ただ、こちらはまだ何とかなるとアイアンタイガーは思っていた。
最悪の場合だったとはいえ、元々トピアと二人だけ挑む事も想定していたのだ。いよいよとなればイツキ一人分の働きをカバーするくらいは何とかなる。
それよりも気に掛かるのは、もう一つの方。
(後は、あっちのガンプラなんだが……)
開始地点へ向かう道すがら、僅かにだが森の中に並び立つZi-ソウルの面々のガンプラを捉える事が出来た。
問題は、そのガンプラ達も今回のフィールドに比較的適した機体であったという事だ。
特にその内の一体――あの
と、その時であった。
『いたっ! 敵だ!』
通信を介してイツキがそう叫ぶと共に、フィールド概略図上の彼のマーカーのすぐ傍に、敵機を示す赤い三角形のマーカーが現れたのは。
『こっちでも確認したぜ。いんのはどいつだ?』
「ええっと、アレは確か……」
通信を通して返って来たアイアンタイガーからの問い掛けに、正面モニターの先に映る敵のガンプラをイツキは
件の敵機は、腰の辺りから上を前へと傾けた姿勢で、更に臀部の辺りから太い尻尾が伸びた、まるで恐竜のようなシルエットのガンプラだ。まだまだガンプラに対する知識の浅いイツキでもそうと思える程の独特な姿のその機体は、背から二本の長い砲身を伸ばし、両手首から先はそれぞれ短い四門の砲口が円環状に並んでいる。胴から長く伸びた首の先にある頭部は目元がクリアーオレンジのバイザーに覆われており、そこ以外の部分はほぼ全身が白一色に染まっている。
開始地点へと向かう道中でも一度目にしたそのガンプラの名を、既にイツキはアイアンタイガーとトピアから教えられている。
そのガンプラ、
「思い出した! “ダナジン”って奴だ!」
“機動戦士ガンダムAGE”にて主人公達の敵対組織“ヴェイガン”が運用した量産機の一体である“ダナジン”の改造機が、イツキの方へと振り返るや両手の砲門を向けて来る。
それを目にしたイツキは、すぐさまコアガンダムに回避行動を取らせようと両の操縦桿を左へ傾けた。
それ自体は良い。来ると思った敵の攻撃を避け切った事、それ自体は。
問題は、その回避動作の大きさだ。
「うわっ、ととと!」
数発の弾丸が視界の端を通り過ぎて行くのを目にして、よし、と笑みを浮かべ掛けたのも束の間、想定よりもコアガンダムが大きく跳んだ事に気づいたイツキは、しまった、と慌てて操縦桿を右方向へと切り返した。
それにより、どうにか進行先に
「あっぶね~……」
周囲の木々は敵の視界や攻撃から身を隠すための遮蔽物として、ちょっとしたガンプラの攻撃数発くらいは耐えられる程度の耐久性を備えている。誤って衝突しようものなら、それなりのダメージが返って来る事は請け合いだ。
そんな事態を間一髪避けられた事に、ふー、と額をダンダラ羽織の袖で拭いながらイツキは安堵し、同時に握り直した操縦桿に改めて身構える。――返って来る感覚の、その軽さに。
「やっぱコイツ、全然陸戦型ガンダムと違うなぁ」
他に類を見ない小柄で軽量な機体に広い
先程出撃して早々予想外の動きを見せたコアガンダムからその事に気づいたイツキは、当然ながら驚き焦らされたが、しかしそこに不平や不満は無かった。
コアガンダムが扱いの難しいガンプラである事は、既にヒロトから告げられていた事だ。恐らくこの挙動の軽さもその扱いの難しさの一部なのだから、それを分かってなおコアガンダムを欲したからにはそれくらい受け入れて見せるのが道理というものだ。
そう考えるからこそ、イツキは陸戦型ガンダムに乗っていた時よりもずっと操縦桿を握る手に神経を集中させては、極力コアガンダムにおかしな動きをさせないように努めているのだ。
さて、気を取り直したイツキは操縦桿を慎重に捻り、ダナジンのいる方へとコアガンダムの
「って、逃げてる!?」
モニターに映り込んだ当のダナジンは背を向け、尾を揺らしてその場から去ろうとしている真っ最中であった。
『逃がすなイツキ! 今の内にそいつをやっちまえ!』
「分かった!」
バトルの勝敗を決めるのはあくまでフラッグで、更には撃墜しても一分後には復帰するが、だからとせっかく見つけた敵機を放っておく理由は無い。
通信を介してコックピット内に響き渡ったアイアンタイガーの指示にすぐ返答したイツキはコアガンダムにコアスプレーガンを構えさせ、逃げる敵機の足を止めようと追い打ちを試みるが、
「ううぅ、ロックオン出来ない!」
ほんの僅かなズレにさえ反応するコアガンダムの繊細さがここでも
それでも、正面モニター上を忙しなく
そうこうしている内にもどんどん小さくなり、薄暗い木と木の間の空間へ走り去って行こうとするダナジン。
その姿に、ここで狙いが不安定な射撃を続けていては逃げ切られると判断したイツキは操縦桿を――行き過ぎないように気を付けながら――前へ押し出して、コアスプレーガンを構えさせたままコアガンダムを前進。ダナジンの追跡を開始させた。
幸い、バトル直前にアイアンタイガーから受けた説明の通り、この森林地帯とコアガンダムは相性が良い。通常サイズのガンプラならばほんの少しのミスで接触、あるいは衝突し兼ねない程度のスペースしか空いていない木々の隙間も、小柄なコアガンダムならば、まだ操縦感覚に慣れていない今のイツキでも
相も変わらず照準を合わせられないビームは先行くダナジンを
そうして、正面モニターの1/4程まで尾を揺らすダナジンの後姿が拡大した頃、コアスプレーガンから放たれたビームの一発が遂にその機体を捉えた。
「やった!」
背に背負う二門の砲塔の内の一本から起きた小爆発によってバランスを崩し、足を止めたダナジンに歓喜の声を上げたイツキは更に接近。より距離を縮めた事で更に大きく正面モニター上に映り、同時にターゲットサイトを合せやすくなったその機体を落ち着いてロックオンする。
過たず、コアスプレーガンの銃口がダナジンの胴体中央辺り向けて真っ直ぐに構えられる。
そうして、そのままビームを撃ち込むため、右操縦桿の上部ボタンに沿えていた親指を押し込もうとした。
その時だった。
不意に金属同士が接触するような甲高い音と共にコックピットが大きく揺れ、同時に正面に見据えていた筈のダナジンが急にモニター上方へと消えたのは。
「な、何だぁ!?」
突然の事態に困惑の声を上げるイツキ。
そんな彼を置いてきぼりにするように、正面モニターにはダナジンと入れ替わるように下から這い上がって来た地面が大写しになり、かと思えばその地面に出来ていた窪み等が見る見る内に小さくなっていく。
否、本当に離れていた。
地面のみならず、周囲の木々や、先程消えた筈のダナジンが再びモニター内に映り込み、そのままどんどん縮小していく様を目にして、まさか、とイツキは後方へと振り返る。
そして、自分の身に何が起こっているのかを知った。
「な、何だアレ……?」
振り返った先にあったのは、一面に広がる空と、その中央を飛行する
遠目故に朧げなシルエットしか捉えられないその
――
そうイツキが悟るや否やの事だった。
コアガンダムの右足に噛み付いていたワイヤークローが、何の予告も無く開かれたのは。
「うわあぁあああぁぁっ!?」
空中での
慌ててイツキは操縦桿を引き上げて姿勢制御を試みるが、しかし間に合わず、ほんの数秒の後に襲って来た激しい振動に体を大きく揺さぶられて悶絶してしまう。
吊り上げられたコアガンダムと地面との距離が、思いの外離れていなかったがために。
それに加えて地面のぬかるみがクッション代わりになったのか、痛てて、と無い痛みに頭を振ってから見たコアガンダムのステータスにも、これといった損傷や異常は表示されていない。
その事については一安心であったが、
「な、何だったんだよ、今の……?」
敵のダナジンに
と、その時だ。
「ん?」
仰向けになっていたコアガンダムを立ち上がらせようとした最中、左方に佇む
すぐさまそちらの方へと振り返ったイツキは、視界の中央へと移動したその何かの詳細な姿に眉根を寄せる。
「あれって、確か――」
何か――木々の間の薄暗い空間からその姿を覗かせていたのは、一機のガンプラだった。
白を基本色に、首や肩、太腿が艶の無い黒色のフレーム色を晒し、四肢の先が金色の輝きを放つその機体は、真っ先に目に付く大きな特徴が
まずは、その立ち方。
ガンプラがガンダムシリーズ作品に出て来たMSやMAを模したものである事は今更説明するまでも無い事だが、特にMSを立体化した物は、その大半が人間を模した二腕二脚の人型だ。これに当て嵌まらない例外というのは極めて少ない。
件のガンプラは、その数少ない例外――物を持つための腕や手を持たず、代わりに地に立つための足を前後二本ずつの計四本持つ、動物染みた四足歩行の機体であった。
それだけでも大分際立った特徴を持っていると言えるが、もう一つの特徴も負けず劣らず際立ったものだ。
その――異様なまでに小さい機体サイズも。
そう、件のガンプラは小さいのだ。それこそ、イツキのコアガンダムに
いやむしろ、四足歩行故の低姿勢を加味したそのシルエットは、コアガンダムと比較してもなお小さくすら思える。
そんな、度を越しているとさえ思える程の小柄さもあって、そのガンプラを最初に発見した際はアイアンタイガーもトピアもすぐには正体を特定できず首を傾げていたが、それでも四足歩行のガンプラというのはやはり限られて来る。
半信半疑ながらも二人が言っていた、そのガンプラの名は――。
「――バクゥ?」
呟きつつもコアガンダムを完全に立たせたイツキの視線の先で、その小さなバクゥタイプのガンプラが細長い頭部を持ち上げ、ピンク色の
「ありがとうございました、ノフリさん」
右側モニター上の通信ウィンドウに映るノフリに、ヒムロは礼を告げた。
すかさず、良いって事よ、と快活な笑みを浮かべたノフリからの返事が返って来る。
『他でもないヒムロ君の頼みだ。“
そう、そういう依頼だった。
“もしコアガンダムと
その上で何の不平不満も見せない彼の様子に、ヒムロは感謝以外の思いが浮かばなかった。
だからこそ、ノフリが作ってくれたこの機会を無駄にするワケにはいかない。
「――ノフリさんは敵フラッグの捜索に戻って下さい。僕も用を終わらせたら、すぐそっちに回ります」
『ああ、分かったけど……一人で大丈夫? 俺もそっちに向かった方が――』
「大丈夫です」
どこか心配げなノフリからの提案を、
これは、あくまで個人的な
それに、だ。
「
正面モニター越しに真っ直ぐ見据えた先で、仰向けに倒れていたコアガンダムが漸く立ち上がる。
あのコアガンダムに乗っているのが誰なのかは、何となくだが検討が付いている。仮にその検討が外れていたとしても、それでも確かな事が一つだけある。
あれを操縦しているのは、
それさえ分かっていれば十分だ。
その自信が通じたのか、
『……分かった。気を付けていけよ、ヒムロ君!』
まだ不安を拭い切れない様子を見せながらも、待ってるからな、という言葉を最後にノフリからの通信が切断された。
それを確認したヒムロは、続けて通信先を変更し、改めて回線を接続する。
――前方のコアガンダムとの通信回線を。
待つ事ほんの十数秒。通信ウィンドウを伴って正面モニターの横側に現れたのは、
「――やっぱり君だったんだね、イツキ君」
『ええっと……ヒムロ君、だったっけ?』
予想していた通りの顔だった。
「驚いたよ。君のガンプラが、まさかその機体だったなんて」
相手フォースにコアガンダムがいると分かった時、そのダイバーが誰なのかはちょっとした消去法ですぐに思い至った。
まず、トピアは除外だ。僚機のモビルドールが彼女に良く似ていたため、それが彼女の機体であるのは
続けてアイアンタイガーだが、初対面のためあくまで第一印象の話になってしまうが、どちらかといえば彼はコアガンダムのような繊細な機体よりも、隣にいたDXのような火力特化のガンプラを好んでいそうな印象があったため、可能性は低いと見ていた。
よって、残るイツキが最も可能性が高いと踏んではいたのだが――こうしてその答え合わせが行われてなお、ヒムロの内には信じ難い思いがあった。
『もしかして、知ってるの? コアガンダムの事?』
「うん。――良く知ってるよ」
そうとも、良く知っている。
むしろ、知らない理由の方が無い。
何故なら、あの機体は――。
「――だから、連れて来てもらったんだ」
『え?』
通信ウィンドウの向こうで虚を突かれたような表情を浮かべるイツキを
「そのコアガンダム。それと、そのコアガンダムに乗っている君の事が――」
その操作を受け、コアバクゥが動き出す。
「――少し気になってね!」
獲物向けて襲い掛かる猛獣そのままに、コアガンダム目掛けて飛び掛かる。
『うわぁっ!?』
通信を介してイツキの驚く声が聞こえるのが早いか否かというタイミングで、コアガンダムが――
そのまま、進行先に標的がいなくなったコアバクゥの右前足は勢い良く地面を叩き、盛大に泥を跳ね上げるに終わってしまうのだが、
『な、何だよいきなり!?』
「余裕あるんだね?」
『え?』
「まだこっちの攻撃は終わってないよ」
瞬時にヒムロは左の操縦桿を押し込み、まだ着地していない左前足までもを地面へと踏み込ませ、続けて右の操縦桿を前へ、左の操縦桿を後へ、それぞれ半円を描くように捻り動かす。
その操作にコアバクゥが瞬時応答し、地に着けた両前足の支点に機体を左から右へ大きく振って、
『ぐわっ!?』
浮き上がったままのところに勢いを付けた両後足の先をコアガンダムへと叩き込んだ。
『ぐぅううぅ……!』
イツキの呻きと共に、コアバクゥの二連後回し蹴りを頭部と胸部に見舞われたコアガンダムが
同時に、蹴りの反動を利用してコアバクゥを一歩飛び退かせ、一旦距離を取り直したヒムロは通信を通してこう言った。
「話だけしたくて、君をここまで連れて来たワケじゃないんだよ」
さも何か話し合うような雰囲気があったとしても、そこはあくまでガンプラバトルの真っ只中。敵を目の前にしておきながら、その行動に対する警戒を解いてしまうのは悪手と言わざるを得ない。
そこだけを見れば、イツキはやはり最初に彼を見た時に抱いた第一印象のまま――まだまだ実力と経験の浅い初心者ダイバーだ。少なくとも、ロビーでデアールやノフリが言っていたような、ダイバーランク不相応の力を備えたダークホースという印象は全くと言っていい程感じられない。
しかし、一度はそう下した自らの判断を、既にヒムロは切り捨てている。
そんな筈は無い、と。
例え
だから、
「今はバトル中だよ。――話している最中に攻撃するなって言うのなら、それは君の油断だ」
普段ならば口にしないような挑発を、敢えて彼は投げ掛ける。
その言葉に反応し、通信ウィンドウの向こうのイツキの顔がむっとしたものへと変わる。
『言ったな!?』
そう彼が言うや否や、態勢を整えたコアガンダムの右腕が跳ね上げられる。その手に持つコアスプレーガンを構えるために。
だがその動きは、
「遅い」
すぐさま、ヒムロは操縦桿を押し込んで武器スロットを展開。数秒と掛からず必要な武器を選び出し、モニター上に現れたターゲットサイトをコアガンダムへと重ね合わせる。
流れるようなその操作によって、コアバクゥが僅かに身を屈めると共にロックオンが完了した
コアバクゥの背に設けられている二門の小型砲塔――“コアレールガン”を。
刹那、微かなスパークを
『ぐわっ!?』
発射寸前だった自らの武器が起こした爆風に耐えられず、たたらを踏んで後退したコアガンダムの方へとコアバクゥをゆっくりと歩ませつつ、ヒムロは告げる。
「悪いけど、君にも少し付き合ってもらうよ?」
一度握り直した操縦桿を、態勢を立て直すや緑色のツインアイを向けるコアガンダムと、通信ウィンドウの向こうで歯を食い縛るイツキ向けて押し倒し、
「僕達の――僕と、コアバクゥの我儘に!」
突如始まる相手エースとの一騎打ち。チーム戦なの半ばそっちのけの戦いは、さてさてどうなる事やら。
次回も多分また遅々の投稿になるかと思いますが、どうか気長にお待ち頂けますよう、お願いいたします。