あと、今回から章分けも少し弄ってみました。
始まって早々だが、まずアガタ模型店の内装についてより詳しく紹介しよう。
まず、2枚の薄汚れた分厚いガラス扉が仕切っている出入口。店内全体でいうところに右下に位置するここから見て正面奥、全体でいうところの右上隅の辺りにあるのが白い木製の台で区切られたカウンター、という感じだ。
一方、出入口から見て左手の方だが、こちらにはエアブラシ用のハンドピースや各種オプションなど、直接的にプラモデルに関わるものでは無いが高級な品々が収められたガラスケースを挟み、全体でいうところの左下から真ん中まで範囲にショーウィンドゥが存在している。残念ながら汚れや曇りが酷いため外から全く分からないが、このショーウィンドゥ内には組立済の見本品が展示されており、ガンプラと、何故かコ〇ブ〇ヤ製のメダ〇ットが大部分を占める、様々なプラモデルが思い思いのポーズでところ狭しと飾られていた。
そして最後に紹介するのが、出入口から見た左斜め奥、各種プラモデルやオプションが置かれた幾つもの棚を抜けた先にある製作スペースだ。
広さは大体7,8㎡ほど。角に沿うように設置された長机が二脚と、そこに収まった計四脚のパイプ椅子が納まったそのスペース内では、購入し立ての物や、あるいは各人が持参したプラモデルの製作を行うことが出来る。些か手狭なのは否めないが、必要になるであろう工具は勿論の事、席の移動こそ必要になるが各種塗料やエアブラシ、塗装・乾燥ブース等も完備されており、製作を行うための十分な設備が揃えられている。
さて、問題なのはこの製作スペースだ。
現在、そこにある四脚の椅子の内の一脚が使用されている。
しかし、同じく使われている長机の上には取り出した工具はおろか、まずあって然るべきプラモデルの箱すら存在していない。
何故かといえば、答えは単純。そこに現在座っている者が、何かを作るためにそこに座っているワケではないからだ。
むしろ、ある意味では逆と言っていい。
今の彼の手元には、作ろうとしていた物それ自体が無いのだから。
故に、今の彼はそうする他無い。
「うっ……うぅうううう~……」
突き付けられたとある残酷な事実に、長机の上に投げ出した腕の中に顔を埋めたイツキは、唯々むせび泣く他無いのであった。
時は遡る事、大体三十分程。
アガタ模型店を訪れ、自分専用のダイバーギアを手に入れ、後はGBNで使う、人生初のガンプラを手に入れるのみ――というところまで事が進んで、いざ、とイツキがその名を告げた直後の事だった。
「……コア、ガンダム……かい?」
「うん! コアガンダム!」
目を丸くして聞き返すヒカルに、握った両の拳を頭のすぐ下まで持ち上げてのガッツポーズを自然と取っている程に興奮しながら、夜空に瞬く星のように明るく目を輝かせたイツキは強く頷いて見せる。
“コアガンダム”――それこそがイツキにGBNデビューを決意させるに至ったガンプラの名であった。
「コアガンダムちゃん、ですかぁ?」
「……何じゃそりゃ?」
しかし、どういう事か?
イツキが告げたコアガンダムの名を、まるで聞いた事が無いとでも言わんばかりにトピアが唇に指を当てて考え込み、コテツが露骨なまでに眉を顰めて胡散臭い物を見るような視線をイツキへと向けて来る。
「何だよー、二人共コアガンダム知らないのかよ?」
「聞いた事も見た事も無ぇぞ、そんなガンダム。何の作品で出てくんだよ? 宇宙世紀か? アナザーか? それともまさか、SD?」
「し、知らないよそんなの!」
ガンプラというのは、そもそもはガンダムシリーズに出て来るMSやMAをプラモデルという体裁で立体化した物である。なので、元はどんな作品に出演した機体だったのかというコテツの質問は至って真っ当なものなのだが、それを問われてもイツキには答えようが無い。
彼の家のガンダム禁止令も勿論その理由の一つではあるが、そもそもコアガンダムの事を彼が知ったのはガンダム作品のアニメや漫画からでは無い。
イツキがコアガンダムの存在を知る事となった、その切欠は――。
「えーっと……あ、ホラ! コレだよ、コレ!」
どうやらこの場でコアガンダムの事をまともに知っているのは自分だけらしいと悟ったイツキは、周囲にコアガンダムの事を説明するために短パンのポケットからスマホ――小学生向けの安い機種。如何わしいサイトに引っ掛からないためのフィルタリング機能も完備されている――を取り出し、画面を何度かスワイプして目的のものを表示させるや、周りにも見えるように前方へ差し出した。
果たして、その画面に表示されているのは――。
「これ、
イツキのスマホの画面を覗き込むや吐き出されたコテツの言葉の通り、そこに表示されているのはGBNの動画配信サービスサイト“G-TUBE”に投稿されている、とある動画であった。
「まさか、これ見て見つけたってのか? 良くおばさん許したな?」
「許すワケないじゃん! バレないように、ちょっとずつ隠れて見てたに決まってんだろ」
そんな事よりも、とまだ始まっていない動画を再生するために、イツキは左手の人差し指をスマホの画面へと近づける。
そうして彼の指先がスマホの画面に触れると共に、表示されている動画――“エルドラバトル”の再生が始まる。
そこにまず最初に現れたのは――。
<今日もいくぜェ! この俺、ジャスティス・カザミのぉ~……エルドラッ、バトォールッ!!>
「ん? これ、カザミの動画かい?」
開始早々に登場した、マゼンタを基調に中央に大きな星の模様があしらわれた袖の無い衣装を筋骨隆々の肉体の上に纏ったアメコミヒーロー風の男――“カザミ”に反応を示したヒカルに、おっ、とイツキもまた反応する。
「知ってんの? ジャスティス・カザミ」
「前に彼のフォースのリハーサルミッションに参加した事があってね。そうでなくても、今や売れっ子G-TUBERの一人だからね、彼」
GBNで知らない人の方が少ないんじゃないかな、と答えるヒカルにイツキが、へー、と感嘆する一方、はん、とコテツが面白く無さそうに鼻を鳴らす。
「偶々当たったってだけだろ。大した事ねーぜ、そんなピンクヤロー」
「何だよ、随分な言い方しちゃって。嫌いなのかよ、カザミ」
「むしろ好きになれるかっての。“ビルドダイバーズ”の名前丸パクリして人気者になろうなんて、しょうもねぇ事してる奴なんかよ」
憮然としながら返すコテツ。
その言葉に含まれていた意外な話に、え、とイツキは驚く。
「ビルドダイバーズってカザミのフォースの名前だろ? パクリってどういう事?」
「もういんだよ、ビルドダイバーズ。“ビルドダイバーズのリク”がリーダーやってるスゲーフォースが、カザミが名乗り出すずっと前からよ」
「ええー、ホントかよ……」
今再生している動画だけでも再生数、投稿コメント数共に途方もない数になっているカザミの事を、良く知らなかったながらもスゴい人だとイツキは思ってはいた。が、まさかそんな彼の実態がそんなせこいマネをする人間だったとは……。
コテツから齎された思わぬ事実に、スマホに映している動画の主に少なからず幻滅するイツキであった。
「あ、その話だけど、彼らがビルドダイバーズ名乗ってるのってちょっとした事故で、本当はその名前にするつもりは無かったらしいよ?」
「何だよ、事故って? うさんクセー……」
カザミについてそんな事をヒカルとコテツがまだ話し合っていたが……取り合えず微妙な疑惑の沸いた投稿者の事について、イツキは意識の外へ追いやる事にした。
本題は、そこじゃないのだ。
<ヒロト! そっち行ったぞ!>
<分かってる!>
ふと、再生の続く動画からそんな遣り取りが飛び出して来る。
片方の声はカザミのものだ。そしてもう片方は――。
すかさずイツキは、これ、と叫びながらスマホをタッチし、動画を一時停止させた上で画面上を指差す。
そこに映し出されているのは、一機のガンダムタイプ。
草木の見当たらない地面が広がる切り立った岩場の中、四又の槍の掲げて迫り来る銀色の、四足歩行の一つ目の機体――その場面で流れているコメントを見るに、デスアーミーという機体の改造機らしい――数体に向け、手に持つダークブルーのライフルを構え、ピンク色のビームを放つその姿は、極めて特徴的な点が一つあった。
「ちっちゃいガンダムですー!」
そう、小さいのだ。
胸部にあしらわれたクリアーグリーンの矢じり上のパーツに、黄色い小さなフロントアーマー以外にスカートアーマーが存在しない腰部。ほぼ一体化しているダークブルーの脛と膝など、特徴的な箇所こそ幾つかあるが、そんなものがどうでも良くなってしまう。
同じ動画内に映るガンダムタイプの機体――動画撮影当時のカザミが愛用していたという“HGCE インフィニットジャスティスガンダム”なるガンプラの改造機“ガンダムジャスティスナイト”の騎士然とした姿と比較して凡そ2/3しかない、極めて小さい体躯。
それこそがそのガンプラ――コアガンダムを見た時、まず真っ先に目に入る大きな特徴であった。
「でしょ! 小さいでしょ! でもそれだけじゃないんだよ。ホラ!」
言いながら、再びイツキはスマホの画面をタッチする。
一時停止を解かれ、再び再生が始まった動画の中で小さなガンダムが放ったビームの火箭が迫っていたデスアーミーの改造機――“エルドラブルート”の一つ目を貫く。
それによって赤く融けた風穴を晒した銀の機体が、一拍置いた後に激しい爆炎を上げて四散したが、すかさずその炎の中から更に二機、新たなエルドラブルートが躍り出るや左右から迫り、掲げる四又槍をコアガンダムへと一斉に振り下ろしてくる。
その小さな体躯を引き裂くには十分な速度と鋭さを持った、挟み込むような二方向からの攻撃。
それに対してコアガンダムが取った行動は、ほんの少し下がるだけだった。
本当に、足裏に一機ずつ備えられたバーニアを吹かす事は疎か大きく飛び跳ねる事も無く、ほんの少しだけ、上体を逸らしながら。
しかし、たったそれだけの動きで十分だった。
瞬間、地面が弾ける。
見るからに固そうな岩盤が粉砕され、激しく撒き上がった土埃が吹き上がる。――
本来粉砕されているべき獲物は、しかし二振りの槍の穂先が埋まったそこにはもういない。
獲物は――四又槍の攻撃の一瞬前に飛び上がったコアガンダムは、弾けた地面の勢いにその小さな身を乗せる事で、エルドラブルート達の頭上まで既に移動し切っていた。
一拍遅れ、エルドラブルート達の丸が幾つも重なったような紫の単眼がコアガンダムの姿を追って上向くが、既に手遅れだ。
向かって右側、湾曲した角が一本生えた兜のようなエルドラブルートの一機の頭部の上へと着地したコアガンダムが、すかさず右手の小型ライフルをもう一機のエルドラブルートへと向け、引き金を引く。
過たず迸った閃光が、先程同様に無防備な横っ面に穴を穿つ様を横目に見るような様子も無く、続けて右脇へと回していた左手で背面のバックパックに二本マウントしている白い棒状の物体――ビームサーベルの柄の内の一本を振り抜く。そして、その先端にピンク色のビームの刃を灯すや逆手に持ち直し、足下――残る一機の脳天へと、その刃を振り下ろした。
深々と、あっという間に根本まで沈み込むビームサーベルの刃。
それを引き抜き、エルドラブルート達を飛び越えるようにその場から跳躍、地面へと危なげなく着地したコアガンダムが、ブォン、と侍が刀の血払いをするように大きく左へとビームサーベルを振り、発振していたビームの刃を掻き消す。
それがまるで合図であったかのように――次の瞬間、コアガンダムの背後で機能を停止させた二機のエルドラブルートが爆散。
その爆炎の激しい光が――トドメを刺されて爆散する怪人を背に、締めのポーズを決めるヒーローという特撮やアニメのワンシーンそのままに――コアガンダムを照らし上げ、輝かせた。
その瞬間を以て再び動画を一時停止させたイツキは、興奮に頬を膨らませた顔をトビアへと向けた。
「ね! カッコイイでしょ!? スッゲェカッコイイでしょ、コアガンダム!?」
「かっこいいですー!」
「でしょー!!」
キラキラ、と目を輝かせて同意を示すトピア。
その反応に満足したイツキは、うんうん、と何度も高揚に頷く。
「実はコアガンダムしか出来ないスッゴイ機能があってさー、この動画だと出て来んのもうちょっと後なんだけど、それもスッゲーカッコ良くってさぁ!」
「そうなんですかー?」
「そうなんだよー!」
そう。コアガンダムには、正にこの機体だけ、と言っても過言では無い、とある機能が搭載されている。
この場ではその機能についての説明は敢えて省くが、それもまたイツキがコアガンダムという機体に惹かれた
そして今、粗方ではあるが、コアガンダムがどういうガンプラであるかをイツキは周囲に知らせる事が出来た。
であれば、
「俺、ずっと前から初めて作るガンプラはコイツだって決めてるんだ! コイツと一緒にGBNをやるんだ、って! ――というワケでヒカル兄ちゃん!」
改めてやる事は一つである。
「コアガンダム! くーださーい!!」
先程も告げた台詞を、もう一度声を張り上げてイツキは叫んだ。
もうどんなガンプラか分かったんだから、次は、はいどうぞ、って感じできっと出て来る、と希望に胸を膨らませながら。
……しかし、どうした事か?
「なぁ、兄ちゃん……このガンプラってよぉ……?」
「……うん……そう、だね」
そんなイツキの視線の先で、何故かコテツとヒカルが深刻気に曇らせた顔を向け合っている。
「カザミの動画が出て来て、ひょっとして、って気はしたんだよね……」
「つー事はー……やっぱ?」
「……うん……」
揃ってお通夜にでも出ているような沈鬱とした面持ちの二人に、何で、とイツキは首を捻る。
コアガンダムの事を、もう二人も知った筈だ。だったら、後はそれを持ってくるだけでいい筈だ。その筈なのに……二人の様子は、まるで……。
不安が、嫌な予感がイツキの胸中に流れ込む。
その予感は、当たっていた。
「……あのね、イツキ君。その、もの凄く言い難いんだけどね……」
果たして、頬を掻きながら困ったような顔を向けたヒカルが告げた言葉は、
「これ、売ってないんだ」
容赦なくイツキを絶望へと突き落とすものであった。
さて、時と場面は戻って再び冒頭。
あのヒカルの絶望の答えが告げられたその直後、一度は止まり掛けた思考で何とかその言葉が“
『そっかぁ……。んまぁ、いいや。他の店で探すよ』
と無念さを覚えつつもまだチャンスはあると自分に言い聞かせながら返答した。
これでヒカルとの会話が終わるのであれば、まだ良かった。しかし、そうはいかなかった。
直後に、更に言い辛そうに表情を曇らせたヒカルが続けたこの言葉が、彼に残っていた最後の希望を粉微塵に粉砕したのだ。
『あ、いや、ウチ以外の店でも無いんだよ、コアガンダム。これ、その、“スクラッチ”品だからさ』
「何だよスクラッチってぇ~! 応募しなきゃダメなんて、そんなの聞いて無いよおぉ!!」
「いや、
うわああああん、と作業スペースの机に突っ伏して号泣するイツキに、そのすぐ後ろにいるコテツはツッコミを入れる。
が、そんな言葉が今のイツキにとって慰めになるかといえばそんな事は全く無く、だったら何だよおおおぉぉ、とぐしゃぐしゃの顔で背後へ振り返った彼の絶叫が店内に木霊する。
その声に顔を顰めつつも、コテツは説明をする。
「……スクラッチっつーのは、プラ板とかパテとか、他のキットのパーツだとか、ともかく色んなモン使って、売ってねー機体だとか、自分だけのガンプラとか作るこった」
実際にはガンプラに限るわけでは無いが、ともかくスクラッチビルドという手法が概ねそういうものである事は間違いないし、既存のガンプラはおろか、数あるガンダム作品のどれにも出演していた記憶が無いあのガンダムがスクラッチされて作り上げられたものである事も、ほぼ疑いようは無い。
詰まりは――。
「つまりぃっ!?」
「あのコアガンダムっつーのは、誰かが一から作ったそいつだけの、どこにも売ってねーガンプラって事だよ」
「そんなぁー!!」
ばっさり、と突き付けた結論に、首根っこ掴まれた鳥のような声を上げながらイツキが作業スペースの机の上に顔を埋め直し、再びうっうっ、と咽び泣き始める。
そんな彼から、隣で腕を組んでいるヒカルへとコテツは顔を向け、どーするよこれ、と彼へ訴え掛ける。
それに対し、ヒカルは浮かべていた困惑の表情を深めつつ、うーん、と唸りながら考え込む様子を見せる。どうやら、ぱっ、と妙案が思い付くような事は無さそうだ。
と、その時二人の背後、カウンターの方から、何かが弾けるような音ともに、あっ、という声が上がる。
トピアであった。
胸の前で両手を打ち合わせた、何か思いついたような様子の彼女が、振り返ったコテツとヒカルにこう言った。
「作っちゃいましょう!」
「あ?」
「コアガンダムちゃんがスクラッチしたガンプラで、どこにも売ってないか困ってるんですよね? だったら、作っちゃえば良いんです!」
スクラッチした機体故に、一般にコアガンダムが売っていない事が現状に至っているそもそもの原因である。なら、思い切ってこっちも
――それが可能か否かに目を瞑れば。
「いや、誰が作んだよ?」
「う~ん……イツキくん?」
「無理に決まってんだろ」
近年ではガンダムベースを中心に各地の模型店で設置されるようになった“射出成型機”のお蔭で、かつてに比べ難易度は下がってこそいるが、それでもなおスクラッチビルドというのは敷居の高い行為だ。
ましてや、今回の対象はガンプラ一体丸々だ。いくら通常の1/144サイズに比べ小さいとはいえ、ちょっとした武器や武装を作り出すのとは比にならない技術と労力、そして資金が必要となるだろう事は考えるまでもない。
そんな求められるレベルの高い行為を、今日からガンプラ始めます、というイツキにやれというのは酷と言う他無い。
「HGどころか、SDすら説明書通りに組めるかも分かんねぇんだぞ、アイツ。そんな奴が、いきなりプラ板だのパテだの切った貼った出来るかよ」
「えー、そうなんですかぁ……」
困りましたー、と右手を頬に当てて首を傾げるトピアに落胆の息を吐きつつも、コテツもまた、何か良い案は無いかと腕を組んで思考してみる。
何だかんだいっても、イツキとは幼稚園の頃からの付き合いだ。それに、自分と同じ趣味を始めようとしている彼に、実のところ嬉しさを感じてもいる。なので、初っ端から躓いてしまっている幼馴染のために、ここは何とかしてやりたいところであった。
とはいえ、妙案というものは早々思い付くものではない。
色々と頭の中で捏ね繰り回してはみるが一向にこれ、と言えるような考えは思い浮かばず、それでもなお唸りながら思考し続けていたコテツであったが、ふと、その思考を止める声が上がった。
「というかなんだけど」
ヒカルであった。
あん、と反応したコテツがトピアと共に視線を向ける中で、彼がこう言った。
「先にGBNから始めちゃうのは駄目かな?」
「つーワケで! まず初GBN行くぞイツキぃ!」
「お、おいっ! ちょっと待てよ!?」
時は少し進み、アガタ模型店、店外。
コアガンダムが手に入らない事実へのあまりのショックに作業スペースを占領していたのも、つい先程までの事。現在イツキはコテツによって強引に作業スペースから引き摺り出され、そのまま有無も言わさず外へと連れ出されたところだった。
「何なんだよ、つーワケで、って!? 何で俺外に引っ張り出されてんだよ!」
「だーかーらー、さっき言ったろ! 取り合えずコアガンダムの事ぁ置いといて、まずGBNやろうっつー話になったってよ!」
「聞いてないぞ、そんな話!」
「オメーが聞いてねーだけだろ!」
何でも、イツキがむせび泣いていた間に残された三人で色々と相談していたらしく、それによって決まった結論が“コアガンダムの事は後にして、まずGBNを始めよう”という事だったらしい。それで、そんな全く自分の預かり知らぬ所――実際は、自らの泣き声で聞こえなかっただけだが――で決まった行動方針の下、コテツに引っ張られるままに何処かへと向かっている、というのがイツキの現状であった。
「そもそもガンプラの方は次いでだったんだ。手に入んねぇガンプラの事でウジウジやってる暇あんなら、さっさとGBN始めた方が良いに決まってらぁ!!」
「何だよそれ! 勝手に決めんな! ――ていうか、いい加減放せよ!」
いい加減ズルズルと引き摺られるのにも嫌気が差して来た。
イツキは首や肩に力を込め、後襟を掴むコテツの手を振り払おうとする。
が、そうしようとした矢先に、着いたぞ、という声と共にコテツの方が足を止め、イツキの後襟から手を離した。
その結果、勢い余ったイツキは思わずバランスを崩してその場で転倒。尻餅を付いてしまった。
「痛ってぇ~……」
「何やってんだお前?」
アスファルトに強かに打ち付けた尻を両手で押え、その痛みに呻くイツキを、呆れたようにコテツが見下ろしてくる。
すかさず、お前のせいだろ、とイツキは涙目で睨み付けたが、それに対しコテツは、へーへー、とどうでも良さそうな声と共にさっさと彼に背を向け、開けた引き戸の向こうへと歩いていく。
そう、
その事に気づいたイツキは、次いで先程コテツから目的地に到着した旨を告げられた事を思い出し、まだ痛む尻を撫でながら立ち上がる傍ら、目の前の開かれた引き戸の周辺を見回して――ん、と既視感を覚えた。
「あれ? ここって、さっきの」
イツキの目の前に建つそれ――古びて所々で劣化したニスが捲れ上がっている木製の壁に、先程コテツによって開かれたばかりの薄汚れたステンレスの引き戸が中心に備えられたその小屋は、つい数十分前にアガタ模型店に到着した際に見た、店の横に建っているあの小屋であった。
何でここに連れて来られたのか? 不思議に思いイツキが首を傾げていると、小屋の引き戸の向こうからコテツの呼び声が聞こえて来た。
「おい、何してんだ? とっとと入って来いよ!」
「お、おう」
呼ばれるがまま、イツキも開け放たれた引き戸の向こうへと慌てて入り込む。
そしてすぐ、視界に飛び込んで来た小屋の内装に、おおっ、と彼は感激の声を上げる事となった。
「こ、これってもしかして……!?」
「ここが
イツキの隣に歩み寄りながら、そうコテツが告げる。
小屋の中にあったのは、彼らが入って来た引き戸のある背後以外の三方全てに敷き詰められた長椅子と、その上、あるいは下に一定間隔を隔てて設置された、五つずつのラックトップパソコンと椅子。そしてキーボードの代わりに各パソコンに繋がれた、二本の
果たして彼の言う通り、小屋の中にあったのはGBNをプレイするために必要な各種設備であった。
「ま、ぶっちゃけあり合わせのしょべーもんだけど」
厳密にいえば、町内会から貰って来た型落ちのラックトップ五台とあまり座り心地の良く無い折り畳み式パイプ椅子五脚。そして
しかし、それはあくまで経験者の視点で見た話だ。
「ここでGBN出来るんだぁ……すげぇ~!」
今日から始める初心者で、尚且つ家庭用だろうが法人用だろうが初めてGBNの筐体を目にしたイツキにとっては、例えそれが外装同様に剥がれたニスが目立つボロボロの小屋の内装の中に収まっていようが、余所から調達してきた中古品によるあり合せだろうが、目の前にあるその全てが光り輝く宝の山同然の存在だ。自然、見渡すその目は爛々と輝く。
しかし、すぐに、あっ、と思い出したある事によって、イツキの目に灯っていた光はふっと消え失せた。
「でも、GBNってガンプラ無いと出来ないんだっけ……」
GBNはガンプラを使って遊ぶゲーム。となれば、ガンプラが無い今はまだ遊べないのでは? ――そういう懸念が浮かび、俯くイツキ。
更に悪い事に、
「ていうか……コアガンダム~ぅ……ううぅ……」
そこから連鎖して、せっかく忘れていたコアガンダムの事まで思い出してしまい、途端に視界が潤み出してしまう。
放っておけば、再び大声で泣き出してしまう。――そうなる一歩手前の状況だったイツキであったが、そこへすかさず、めんどくせーなぁ、とコテツが嘆息と共に彼を叱咤する。
「男が一々泣いてんじゃねーよ! 別にガンプラ無くても出来っぞ、GBN」
「ううっ……って、そうなの?」
「バトルやミッションやんのに必要になるって話だからな、ログインするだけなら無くてもいける。――ま、ガンプラなら心配すんな。
「へ?」
ガンプラが、ある?
コテツの言葉の意味が分からず、間の抜けた声を漏らしたイツキは、すぐにそれがどういう意味なのか問い質そうとしたが、それよりも一足早く、答えは彼の下に到着した。
「お待たせしましたー!」
ふと、そんな声が後ろの入り口の方から聞こえて来た。
それに反応して振り返って見れば、開かれたままの引き戸の向こうに立つヒカルと、その肩の上に座って両手を振るトピアの姿がイツキの視界に入って来た。
「ごめんごめん、持って来る機体選ぶのに思ったより手間取っちゃって」
「いーや良いタイミングだぜ。丁度今話してたところだ」
「そう? それじゃあ早速選んでもらおうかな、っと」
「選ぶ?」
親指を立てた右手を突き出すコテツと、丁度良い、というように頷くヒカルとの会話の中で、ふと気になる言葉が聞こえた。
見れば、ヒカルの両手には先程は無かったプラスチック製の箱が一つずつぶら下がっている。
天面に取っ手が付いた紺色の、簡易的な工具入れにでも使われてそうなその箱を、引き戸を潜り小屋の中へ入るやヒカルがイツキの手前の地面に慎重に置き、パチン、とロックを外して開いて見せた。
果たして、その中に入っていたのは――。
「! ガンプラじゃん!」
そう、ガンプラだ。
1/144の、HGサイズのガンプラが、互いに接触し合って傷が付かないように黒いスポンジの板に仕切られた状態で、箱の中に何体も入っていた。
「ウチの店に置いているレンタル用のガンプラの一部だよ」
「レンタル? ――もしかして、ガンプラ借りれんの?」
もしや、と思い恐る恐る尋ねるイツキ。
その問いに、すかさずヒカルが、そうだよ、と頷いてみせた。
「マジっ!?」
「うん。今のイツキ君みたいに、ガンプラ持ってないけどGBNで動かしてみたい、バトルしてみたいって人は結構いてね。そういう人用にこうやってガンプラの貸し出しもやってるんだよ」
「へー、そーなんだ」
まさか、ガンプラを借りる事が出来るとは。
思ってもいなかったサービスにコクコク、と頭を揺らしてイツキは感心する。
「ま、実際のとこ滅多に借りる奴なんていねーけどな。GBNやる奴なんて大体
「ちょっ、コテツ君!」
それは言わないお約束だよ、と痛いところを突かれたようにバツの悪そうな顔になるヒカルに、ホントの事だろ、と悪戯気な笑みを浮かべながらコテツが返す。
その様子を眺めていたイツキは、自身に廃墟染みた不気味さを抱かせたアガタ模型店の外観を思い出し、
(やっぱり客いないんだ……)
と心中で憐れみを覚えつつ呟いた。
そんな事をイツキに思われているとは露知らず、コテツに崩された調子を整えるためにヒカルが咳払いをする。
「えー、こほん。――ともかくそういうワケで、ここにあるガンプラならどれでも貸し出せるから、一体好きなのを選んでごらん」
「好きなの、かぁ……」
広げた両手でヒカルが指し示す二つの箱の中のガンプラ達に視線を下ろし、うーん、とイツキは考え込む。
正直なところ、困った。
何せ、イツキはコアガンダム以外のガンプラは殆ど知らない。目の前に並ぶガンプラの一体を選べ、と言われても、どのガンプラがどんな性能や特徴を持っているか、引いてはどのガンプラが良いかなど分かる筈も無いし、当然選べもしない。
とそこへ、ちなみに、とやにわに伸びたヒカルの手が並ぶガンプラの一体を手に取った。
「僕のオススメはこの“HGUC ガンダムTR-1[ヘイズル改]”だね」
そう言って彼が持ち上げて見せたのは、一体のガンダムタイプの機体だ。
灰色掛かった白色を基調としたその機体は頭部の
「この機体はTR計画の最初期に作られた試験機“RX-121 ガンダムTR-1[ヘイズル]”を改修した機体でね。股間に追加された多目的ラッチなんかを筆頭に、色々な面が強化されているんだ。ガンプラとしてもなかなか優秀な機体で、特に肘が二重関節になっていてかなり稼働範囲が広いし、背中に背負ったシールドブースターはブースターとしてもシールドとして使えるし、内蔵している推進剤も低燃焼性のものだからいざって時の誘爆の心配も殆ど無い。この機体を運用したT3部隊、そしてA.O.Zっていう作品を代表すると言っても良い、とても便利で素晴らしい装備なんだよ!」
「へ、へー……」
心なしか、どこか弾んだ声で、やや捲し立てるようにそのヘイズル改というガンプラについて解説するヒカルに異様な迫力を覚え、若干引きながらイツキは相槌を返す。
正直彼が何を言っているのかはさっぱりだが、まぁ、ともかくそのガンプラがオススメであるという事は分かった。良く分かった。
なので、じゃあそれにしてみようか、とヒカルの手の中のヘイズルに手を伸ばそうとしたのだが、
「あ! でもこれもオススメなんだよ」
何故かイツキの手が触れるよりも前にヘイズル改は箱の中へと戻され、それとは別のガンプラが、彼の眼前へと突き出されるように現れた。
「こっちのガンプラは“ロゼット”っていってね」
そう言いながらヒカルが新たに持ち出して来たガンプラ――“HGUC ロゼット”は、先程のヘイズル改とは打って変わって、濃紺二色の紺色を基調に、その二色の境界線として黄色いラインが各部に引かれた、ピンク色の一つ目――所謂モノアイが緩く湾曲した兜のような頭部から覗くガンプラであった。
「この機体はアナハイム・エレクトロニクスがハイザックの後に開発した機体で、言ってみればその後に出て来るマラサイとの間を繋ぐプロトタイプのような機体なんだよ。だけどこの機体の一番の特徴は、なんといっても“TR-4[ダンディライアン]”のコアモビルスーツって事だね。ダンディライアンはロゼットに大気圏突入装備を搭載した形態そのものの名前でね、Zガンダムの頃は大気圏突入っていったら大体バリュートが一般的だったんだけど、バリュートって展開したらとにかくスキだらけになっちゃうんだよね。そのせいでカクリコンも堕とされちゃったし。だけど、ダンディライアンの場合はまた別! ダンディライアンは冷却ガスで耐熱フィールドを作って、それで大気圏に突入するんだ。これでバリュートよりもずっと自由度の高い大気圏突入が出来るんだけど、この辺りの話は設定だけじゃなくて、GBNでも有効なんだよ。だから、大気圏突入が必要なミッションやる時はぜひダンディライアンを使ってみて欲しいんだ!」
「あ、ああ、うん、はい……」
先程のヘイズル改よりも更に密度の高いロゼットの、というよりも途中からこの場には存在しない筈のダンディライアンなる機体のものへと当たり前のように移行したヒカルの解説に、頭に“?”をいくつも浮かべながらも、イツキは朧げな頷きを返す。
その傍ら、
「おい、ヒカル兄ちゃん……」
と何か言いたげにコテツが眉を顰めていたが、そんな彼やイツキの様子に気づく素振りもなく、再び、あ、と声を上げたヒカルが、先程と同じようにロゼットを箱の中へと引っ込める。
そして、再び別の機体を箱の中から取り出すかと思いきや、
「そうそう。カクリコンで思い出したんだけど」
今度はエプロンのポケットへと手を突っ込み、何かを取り出して見せた。
若干疲れを覚えつつも
何故か?
その理由は、異様なまでに目を輝かせるヒカルの掌の上に置かれた
「それも……オススメ?」
黒と銀を基調としたボディ。何処となく暗い森の中に潜む魔女を髣髴とさせる後ろに長く伸びた頭部と、右手に持つ鋭い大鎌。長い三角形状の四本足。そして何より――素人のイツキから見てもそうと分かる程、明らかにガンプラとは何か雰囲気の違う、それでいて何かごく最近近いもの見たような気がする、シンプルな造形。
果たして、
「うん、これもオススメだよ。この―― 一昨日発売したばかりのコ〇ブ〇ヤの1/6スケール“カプリコン”もね!」
「って、メダ〇ットじゃねぇかあぁぁ!!」
爛々と、まるで椎茸の傘に下拵えに切り込む十字線のような光を両目から発しながら意気揚々とヒカルがそう告げるや、すかさず叫んだコテツがそのカクリコン、もといカプリコンなるプラモデルを持つ彼の手目掛け、勢い良く振り抜いた右手の手刀をツッこんだ。
次の瞬間、その手刀に弾かれたカプリコンが放物線を描きながら小屋の外の方へ飛んで行き、それを、ああっ、と悲痛な声を上げたヒカルが慌てて追い掛ける。
なお、この際トピアがきゃあ、と驚きつつヒカルの肩から飛び降り、近くの長机の上に着地していた。
「な、何するのさコテツ君!? これ昨日作ったばかりなんだよ? 壊れたらどうするのぉ!?」
「知るかそんなもん! ガンプラの話してるトコにメダ〇ットなんか出してくんじゃねー! 場面考えろこのメダ〇ットオタク!!」
「そこはメダ〇ッターって言ってよぉ!」
どうにかアスファルトの上に打ち付けられる寸前でカプリコンをキャッチしたヒカルからの問い詰めの声にコテツが怒鳴り返し、次いで、つーか、とヒカルが持って来たガンプラの入った箱二つを一瞥する。
箱に収まっている――“HGUC ガンダムTR-1[ヘイズル・アウスラ]、”“HGUC ジム・クゥエル”、“HGUC ネモ・カノン”、“HGUC ゲルググ[シュトゥッツァー]”、“HGUC ガンダムTR-6[バーザムⅡ]”、他多数を。
そこに入っているガンプラは先程紹介のあったヘイズル改とロゼット以外はイツキからすればどれもさっぱり分からない物ばかりなので彼は知らなかったが、実はその大半にある
「やたらA.O.Zの機体多くて薄々そんな気はしてたけどよー。このガンプラ、全部ヒカル兄ちゃんの趣味じゃねーか!!」
そう、そこに用意されたガンプラの半分以上がA.O.Z――“ADVANCE OF Z”という“機動戦士Zガンダム”の外伝であり、同時にヒカルが最も好む作品群に登場する機体であったのだ。
「えっ? これ全部ヒカル兄ちゃんの趣味なの?
思わぬ事実に驚き、箱の中のガンプラを凝視するイツキ。
すると、横の長机の上にいるトピアから、はい、という肯定の声が返って来る。
「ヒカルさん、A.O.Zとメダ〇ットがとっても大好きなんですよー」
「ええ……」
にこにこと場の空気に反した微笑みを浮かべながらのヒカルの趣味に関する言及に、幻滅するままにイツキはヒカルの方を見遣った。
そこへ、いやいやいや、と慌てたヒカルの反論が差し込まれる。
「ぜ、全部が全部じゃないよ! ちゃんとA.O.Z以外のガンプラだってあるよ! ほら、コテツ君が好きなXの機体とか!」
「俺が好きなの持って来たってしょーがねーだろ! ――しかも、よりにもよってエアマスターかよ」
「ん、ダメなの? その、えあますたーっていうの?」
ヒカルに言い返す最中でコテツが箱から取り出した、白地に赤の差し色が入った、背に航空機のような三角形のウィングを一対背負ったガンダム――“HGAW ガンダムエアマスター”を見ながらイツキが問い掛けると、ああ、とコテツが息を吐いた。
「良いか悪いか、つったら良い機体だけど、コイツ変形機なんだよ」
「ヘンケーキ、って事は……変形出来んのコイツ? スッゲー! カッコイイじゃん!」
変形といえば、ガンダムに限らず、男心をくすぐるロボット物の醍醐味、ロマンの代表格だ。
たとえガンダムこそまともに見た事が無くとも、それ以外のロボットアニメは幾つか見た事があるイツキもその辺りのロマンは良く分かるため、変形が出来るというエアマスターに向ける彼の視線もまた自然と期待の籠ったものへと変化していた。
が、そんな彼に反してコテツが、分かってねーなぁ、と肩を竦ませる。
「変形出来るっつ事は、一機だけで普通のMSとそれ以外の別モン――コイツの場合はファイターモードっつぅ戦闘機を、好きな時に使えるようなモンって事だ」
「そんなの当たり前じゃん。だから変形できるロボットって良いんじゃないか。それの何が――」
「つーまーりー、普通のMSとそれ以外の何かの、
「あっ……」
そう言われ、ようやくそのエアマスターという機体の何が問題なのかをイツキは悟った。
二つの機体を、それぞれ必要な時に必要なだけ使い分けられる操縦テク――そんなものを持っているのは、果たしてどんな人間か?
少なくとも、今日からガンプラを始めようとしていた自分のような初心者では無い事は確かだ。
「そうでなくとも、変形機は大体変形のための
「うん、コテツ君の言う通りだね。それに、変形のタイミングは隙になって狙われやすいし、変形出来たら出来たでどっちの形態なのかも自分からは確認し難いから、混乱する原因にもなるしね」
だから、そこのガンプラは殆ど変形機構が無い奴だよ、と再び小屋の中に入ったヒカルがコテツの説明に続いて、そう補足を加えた。
その二人の言葉から得た思わぬ豆知識に、へー、と感心したイツキは頷いていた。
なお、本当はヒカルは今にある以外にも“HGAW コルレル”や“HGUC リハイゼ”、他幾つかの初心者向けじゃないガンプラも持って来ようとしていたのだが、箱に入らなかったため止むを得ず持って来なかった、という裏話があった。
勿論イツキ達の知る由も無い事であり、ここまでの流れを省みるに持って来ていれば更にヒカルへの糾弾が強くなること請け合いだったので、結果的に持って来ない選択が正解であったのは言うまでも無く、その事に内心ヒカルがヒヤリとしていた事も、また彼らの知るところでは無かった。
無かったので、何事も無くイツキは当初の問題へと立ち返る事となり、あー、と箱の中のガンプラへと視線を下ろした。
「結局、どのガンプラ選べば良いんだろ?」
そもそもの問題はそれだった。
ガンダムに関する知識を殆ど持たないイツキだけでは、箱の中のレンタル用のガンプラから借りるべき一体を選び出す事が出来ない。そこでヒカルがオススメの機体を示す運びとなった筈だったが……まぁ、その辺がどうなったかは今更語るまい。
ともかく、改めてイツキは今からGBNで使うガンプラをどれにすべきか首を捻って唸りながら考えるのだが、当然前述の知識量から来る問題は解決してないため、やはり選び出す事は出来ない。
そんな彼を見兼ねてか、ふとヒカルがこう尋ねて来た。
「苦戦してる感じかな?」
「そりゃあ俺、コテツやヒカル兄ちゃんみたくガンダム詳しくないし、どれが良いのかも結局良く分かんなか――」
「えっ、さっきのヘイズル改とロゼットの説明分からなかった? よし、それじゃあもう一回説明するからよく聞いて――」
「ヒカル兄ちゃん」
あわや、再びヒカルによる良く分からない
その視線が突き刺さったヒカルが、うっ、と怯み、それから暫く硬直した後、ワザとらしく咳払いをした。
「か、解説はまた今度にしようか、うん。――と、そうだね。イツキ君が選べないんなら、ここは逆に
「ガンプラから?」
どーいう事、と突然のヒカルの突拍子も無い提案にイツキは目を丸くする。
当然である。ガンプラは喋ったりなどしないのだ。自分から何かを選ぶような事など、当然出来はしないのだ。流石にそれは、ガンプラ初心者のイツキでも考えるまでも無く分かる事であった。
だが、物事には往々にして例外というものが存在するものだ。
例えば、ELダイバーが現実での体としてその魂を宿すモビルドールだとか。
「トピア、頼めるかい?」
「はーい!」
あるいは、
「――あ、この子良いって言ってますー!」
ELダイバーという存在、そのものだとか。
これで現状のストック無くなっちゃうんで、次話は今しばらくお待ちください。