ガンダムビルドライザーズ   作:shisuko

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長らくお待たせ致しました、第19話!
最近ちょっと文が進められなくて参ってましたが、何とか投稿出来ました。

引き続きVSZi-ソウル戦! ヒムロと半ば一騎打ち状態のイツキはさてどうなる事やら?


第19話 初フォースバトル! VS Zi-ソウル!! ②

 フライトモードのGNブルームメイスに(またが)らせたモビルドールで空を飛んでいたトピアが、正面モニター右上に映していたバトルフィールドの概略図の変化に気づいたのは、フィールドの左側――敵エリアの空を飛びながら敵フラッグを捜索していた、その最中の事だった。

 すぐさま、彼女は報告のためにアイアンタイガーへと通信を繋げる。

 

()()()()()()()くん、イツキくんが敵と交戦中ですー!」

 

()()()()()()()()!!

 

 通信が繋がると共に状況を伝えて早々、(こす)ってもランプの精とか出ねーっつの、と怒声を返して来るアイアンタイガー。

 その迫力に思わず縮こまるトピアを後目に、ったく、と逆さ被りの帽子の上から頭を掻きながら彼が言う。

 

『こっちでも確認してる。やり合ってんのは、あのヒムロって奴だな』

 

「あっちのエースって人ですぅ!」

 

 確か、先のロビーでの待ち合わせの際にデアールとノフリがそう紹介していた。

 あの大人二人にエースとまで呼ばれるからには、あの少年はかなりの実力を持っていると見て良い。そんな相手と、まだまだ実力も経験も(とぼ)しいイツキを一人で戦わせるのは荷が重いのではないか?

 そう不安を感じたからこそ判断を(あお)ごうとしたのだが――腕を組んで考えるような素振りを見せたアイアンタイガーから返って来たのは、(いささ)か無情なものだった。

 

『――助けに行く必要は無ぇ』

 

「ええ? でも、このままじゃイツキくんが――」

 

『今回のバトルは撃墜さ(やら)れても復活出来るし、向こうのエースってのの気がイツキのヤツに向いてんなら、そいつを利用しねー手は無ぇ』

 

「だけど――」

 

『忘れんな。俺らが今やってんのはフォースバトルで、しかもフラッグ奪取戦だ。誰が何べんやられよーが、最後にフラッグ取った方が勝ちだ。イツキの方はアイツに任せて、オメーはともかくあっちのフラッグ見つけて分捕(ぶんど)る事だけ考えろ』

 

「……」

 

 アイアンタイガーの言う事は分かる。

 あくまでこれはフォースバトル。最後にフォースとして勝利出来るか、それとも敗北に終わるかが大事なのであって、その過程でメンバーが何人倒し倒されたかは――特に今回のようなルールでは――あまり重要ではない。

 そういう理屈は分かるのだが――それでも、半ば仲間(お友達)を見捨てるような彼の判断には、トピアはすぐに頷く事が出来なかった。

 が、そんな彼女の煮え切らない心境など、刻一刻と変わる戦況は()み取ってくれなどしない。

 それを示す様に、不意のけたたましいアラートと、それに一瞬遅れてやって来た轟音と振動がモビルドールごとトピアを揺さ振った。

 

『どうした!?』

 

 意図せず漏れ出た、きゃあ、という悲鳴に反応したアイアンタイガーからの声に、大丈夫ですー、と返答しつつトピアはコンソールに目を遣り、状況を確認する。

 どうやら、被弾したらしい。機体ステータスを見るに、左の二の腕とスカートアーマーに大した数値でこそ無いがダメージが入っている。

 となれば、どこかに攻撃をして来た敵機がいる筈。

 その敵機の位置を探るため視界を巡らそうとするトピアであったが、それを待たずに再び鳴り響くアラートが更なる攻撃の接近を報せる。

 十時方向――連なって迫る実体弾の群れの事を。

 すぐさまトピアは左の操縦桿を引き寄せ、モビルドールに上半身を左斜めへ傾けつつ左折させる事で、その攻撃を紙一重で避ける。

 それでも(しな)(むち)のような軌道を描きながら弾丸の群れが追い(すが)って来るため、そのままモビルドールの進行を維持させる事で逃れようとするトピアであったが、その最中で彼女の双眸はようやく()()姿()を発見する。

 

「敵機みつけましたー!」

 

『今度はどいつだ!』

 

「えっと……」

 

 下方の、鬱蒼(うっそう)と生い茂る密林の中から実体弾を連射してくるその敵機の詳細を知るため、トピアは目を細める。

 生い茂る木の葉に紛れているせいで輪郭が朧げだが、それでもその独特の――ボールのように丸く大柄なシルエットは誤魔化し切れない。

 巨大な球体のような胴から太い手足と長い尻尾を生やした、ゴリラを連想させるフォルム。黒を基調に赤の差し色を加え、背に大口径の発射口がぽっかりと開いたビーム砲と、細いバレルが円環状に六本並んだ大口径バルカン砲を背負った、そのガンプラは――。

 

「――“ザムドラーグ”ですー!」

 

 先程イツキが接敵したダナジンと同じく、機動戦士ガンダムAGEにてヴェイガンが運用したMSの一体である“ザムドラーグ”。そのカスタマイズ機に他ならなかった。

 

 

 

 白い影が、迫る。

 あっという間に肉薄し、金色の煌きを鋭く放つ足先を振り被る獣が。

 

「う、おおおおっ!」

 

 すぐさまイツキは右の操縦桿を力任せに押し込み、失ったコアスプレーガンに代わって右手に握らせたコアサーベルをコアガンダムに振らせ、迎え打とうとする。

 しかし、それよりも一瞬早く地に着けたままの三本足をバネのように屈伸した獣がその場から飛び跳ねたために、横薙ぎに振り払ったビーム刃の斬撃はかすり傷一つ付ける事無く、何も無い空間を空しく通過する。

 そして、単純に攻撃が空振ったというだけで事態は終わらない。

 

「あ、やべっ!」

 

 コアサーベルを振り切ったコアガンダムが、それでもなお止まらず、自らの腕に引っ張られる様にその身を左回りに(ひね)り出す。

 咄嗟の操作であった事が災いした、全く意図外の挙動であった。

 その動きに虚を突かれると共に、コアガンダムの高過ぎる応答性(レスポンス)が僅かな操作の誤差を拾わないための注意を一瞬とはいえ緩めてしまったしくじりに歯噛むイツキであったが、しかしそんな暇すら彼には無い。

 ふっと視界に差す影。それに疑問を覚える間も無く、続いて襲い来る重い衝撃。背後からのその衝撃にかはっ、とイツキは空気を吐き出し、正面モニターに映るコアガンダムの両腕が地面へとへばり付く。

 一体何が、とコアガンダムを後方へ振り向かせてみれば、そのツインアイを通して右モニターに真っ先に映り込むものがあった。

 ピンク色の光を放つ獣の一つ目――倒れるコアガンダムのバックパックを右前足で踏み付けながら見下ろす、コアバクゥのモノアイが。

 先程コアサーベルの一閃を外した勢いで態勢を崩した隙を突かれ、上方に回避していたコアバクゥに背中から踏み付けられ、押し倒された。――そう察するや、

 

「こんのっ!」

 

すぐにイツキは操縦桿を引いてコアガンダムに胴を(ひね)らせ、左手に握ったままのコアシールドでコアバクゥを殴り付けようとする。

 再び僅差で飛び退かれたため、残念ながらその反撃は当たるどころか(かす)めすらしなかったが、それでも背に乗っていたコアバクゥを振り払って拘束を解くには至ったため、その流れのままイツキはコアガンダムを仰向けさせ、バルカンを発射させた。

 軽妙な発砲音を連鎖させ、コアガンダムの両側頭部より飛び出す弾丸の群れ。その先頭が突き進む先にいるコアバクゥはまだ四本の足を着けられない中空を慣性のまま浮遊し、尚且つ、その進行方向にはコアバクゥの全長以上の太さを持つ木の幹が(そび)え立っている。

 このままならコアバクゥは幹に衝突、それで損傷を負うことは無くとも動きは確実に止まるから、そのタイミングでバルカン弾が直撃する筈。――やっとこっちの攻撃が当たる!

 そう確信し、良し、とイツキは笑みを浮かべ――かけた刹那、ぎょっと目を見開く。

 幹に衝突する直前、四本足の裏をそちらへ向けるようにコアバクゥが中空で反転。地上に下りたかの様に幹の上に難無く着地するや前方へと跳び出し、背に突き刺さる直前だったバルカン弾の群れを紙一重で(かわ)したがために。

 

「そんなのアリかよ……!」

 

 木の幹を利用した壁蹴りという予想外の回避行動に、思わず毒づくイツキ。

 そんな彼と、幹に次々突き刺さっては樹皮を細かく砕き散らしていくコアガンダムのバルカンを後目に、悠々(ゆうゆう)とコアバクゥが地表へ着地し、モノアイが光る頭部を向けて来る。

 と同時に、

 

『どうしたの?』

 

通信を介して、疑問の(こも)ったヒムロの声が掛けられる。

 

『まだ僕達は一度も君の攻撃を受けてないよ? いやに動きが粗いけど、ひょっとして、手加減でもしているのかな?』

 

「……っ! そんなワケないだろ!」

 

 何処か含むものを感じさせるヒムロの物言いに、むっとなりながらイツキは叫び返す。

 手加減などしていない。慣れないコアガンダムの操作に振り回されそうになりつつではあるが、それでも今出せる全力は出している。

 その上で、攻撃が当たらない。その上で、良いように翻弄(ほんろう)されている。

 ヒムロに。――あのコアバクゥという、機体サイズだけでなく名前さえもコアガンダムとよく似た彼のガンプラに。

 それこそ、手加減してんのはそっちじゃんか、と疑い、言い返してしまいたくなる程に。

 だが、イツキがそれを口にする(いとま)は無かった。

 それを待たず、そう、とヒムロが息を吐くのが聞こえたからだ。

 

『なら君は、ビルダーとしてはそれなりでも、ファイターとしては大した事無い人、って事なのかな?』

 

 コアガンダムを中心に、獲物の様子を伺う獣のように周囲十数m辺りをゆっくりと旋回するコアバクゥから流れて来たその声には、心なしか落胆(らくたん)が滲んでいるように聞こえた。

 その意味の分からない落胆に呼び起こされた焦燥に突き動かされるまま、イツキは叫び返す。

 

「だ、だったら何だよ!?」

 

『もしそうだって言うのなら――』

 

 正面モニターを介したイツキの睨みの先で、コアバクゥが足を止め、再びコアガンダムの方へと向き直る。

 その挙動を目にしたイツキは、反射的に操縦桿を握る手に力を込めた。

 

『――がっかりかな』

 

 刹那、コアバクゥが急接近して来る。これまでと同じように、四本足のバネを十全に活かした、弾かれたような勢いの飛び掛かりで。

 ともすれば、また反応し切れず攻撃を受けてしまいかねない素早さであったが、しかし攻撃間際の予兆を感じ取れた今回はそうはならない。コアバクゥが動き出した瞬間には、既にイツキはコアガンダムに左手のコアシールドを前面へと突き出させ、右手のコアサーベルを右下に刀身を下ろした状態で構えさせている。

 シールドでヒムロの攻撃を受け止め、その瞬間を逃さずにサーベルを切り上げてカウンターを見舞う。――それが、攻撃の予兆を感じ取った瞬間に連鎖して浮かんだイツキの一手だ。

 その目論見(もくろみ)通り、飛び掛かり様に高く掲げられていたコアバクゥの右前足がコアシールドの表面へと吸い込まれるように振り下ろされる。

 そして、衝撃と火花を伴って、叩き付けられたその前足をコアシールドが受け止め切る――事は無かった。

 

「――あれ?」

 

 正面モニターの向こうで起きたその瞬間を目の当たりにして、イツキは思わず呆けた声を漏らした。

 止むを得ない事であった。

 コアバクゥの前足がコアシールドに接触したかと思ったその刹那、突如コアシールドが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という、全く予想外の事態が起きたのだから。

 そうして、持ち手の周辺部分を除いてバラバラ、と地面へ落ちていくコアシールドだった板切れを目で追うイツキであったが、すぐに彼ははっと気を取り直し、慌てて右の操縦桿を力任せに押し込んだ。

 その操作に反応し、コアガンダムが(すく)い上げるように右手のコアサーベルを振り上げに掛かる。未だ地面から足を浮かせたまま、肉薄しているコアバクゥを切り付けんがために。

 だが、円弧の軌跡を描いて迫ったビーム刃がその胴体に傷を付けることは無かった。

 受け止められたからだ。

 胸部の表面まであと少しというところで、コアバクゥが頭部左右――頬の辺りに設けられた薄い円筒部分から発振した、ビームの()によって。

 

「なぁっ!?」

 

 自らのサーベルの刀身とぶつかり合い、スパークを散らすコアバクゥの()に、目を剥くイツキ。

 立て続けに起こった予想外の事態に驚愕する彼に、更に追い打ちとばかりに頭部を振り上げてコアサーベルを押し返したコアバクゥがその場で反転。矢庭(やにわ)に背を向けるや、僅かな流線のみを残して地面から離した両の後脚をコアガンダムの腹部へと叩き込んで来た。

 

「うわああぁぁぁ!!」

 

 足のバネを活かしたギャロップキックを耐え切る事など出来ず、問答無用で弾き飛ばされるままにコアガンダムが十数m程後方の地面へと背中から転がされる。

 その際の凄まじい衝撃と振動に揺さ振られてぐわんぐわんとする頭を何とか持ち上げながら、何が起こったのかを把握しようとイツキは正面モニターに映るコアバクゥへと視線を戻した。

 そして、ふと気づく。

 コアバクゥの両前足の先端、金色の矢じり状になっていた部分が三又に開き、三本の鋭い()になっていた事。心なしか開く前よりも赤くなった爪と地面の間から、微かに白煙が立ち昇っている事に。

 それで何となくだが察した。先程コアシールドがバラバラになったのが、その爪によって()()()()()()()ためであると。

 

「くぅ……!」

 

 蹴り飛ばされたせいで、コアガンダムはまだ地面の上に寝そべっている状態だ。その上シールドも失っている今、未だビームの牙と赤熱化した爪を共に展開したままのコアバクゥに対して、あまりにも隙だらけだ。ボサッ、としている場合ではない。

 急いでイツキは――途中途中で操作の行き過ぎから機体をグラつかせつつも――コアガンダムをその場に立たせ、左手にまだ持ったままだったコアシールドの残骸を放り捨てさせると共に、右手のコアサーベルの刀身を斜めに傾けて構えさせる。

 そしてモニターの向こうのコアバクゥをじっと睨み付け、再び襲い掛かって来るその瞬間を逃すまいと神経を集中させた。

 しかし、そうして緊張に強張(こわば)る彼の意思に反し、コアバクゥの口元からビームの牙が掻き消え、前足の爪も閉じられて元の矢じり状へと戻る。――攻め込むつもりが無いとでも言うように。

 そんな敵機の様子に一瞬拍子抜けし掛けるも、すぐに頭を振って緩み掛けた緊張を取り戻そうとするイツキであったが、そこへ更にこんな言葉が投げ掛けられる。

 

『そろそろ、君の()()の一つくらいは見せてもらいたいかな』

 

「え?」

 

 思わず、そんな間の抜けた声が口を突いて出た。

 

「俺の、本気?」

 

 復唱したその言葉がどういう意味なのか、イツキにはさっぱり分からなかった。

 改めて記載するが、本気なら、既に出し続けている。

 唯でさえまだ慣れていないコアガンダムで、初のフォース戦で、尚且つ今相対しているヒムロは攻撃一つまともに当てる事が出来ない格上だ。これだけの条件が揃って、どうして本気を出さないでいられようか? どうして、まだこちらが本気を出していないなどと思えるのか?

 困惑に目を丸くせざるを得ないイツキ。

 そんな彼の状態を余所(よそ)に、通信を介したヒムロの声が更に続ける。

 

『コアガンダムを使っているのなら、それが()()()()ガンプラなのか知っている筈だ。今の姿が、コアガンダムの()()()姿()じゃないって事は』

 

「本当の姿……って、まさか」

 

 その言葉を聞いて、漸くヒムロが何を言わんとしているのかをイツキは悟る。

 コアガンダムの()()()姿()――その言葉から連想される、()()

 それに該当するのは一つだけ。

 

『もう君も分かっているでしょ? 今のコアガンダムのままじゃ、僕とコアバクゥには勝てないって。これ以上出し惜しみする必要なんか無い筈だ。――見せてよ、君の“アーマー”を』

 

 “アーマー”。

 それはいわば、コアガンダムというガンプラに与えられた()()()()を解放するための()だ。その()を使った時、コアガンダムは今の小柄な体躯とは違う、()()の姿へとその機体を変える事になる。

 ヒムロが口にする()()とは、正しくその()()の姿の事なのだ。

 だが、そうであるならばイツキはヒムロの願いに応える事は出来ない。

 まだアーマーは無いからだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! 俺、アーマーは――」

 

『それとも』

 

 だからイツキは声を張り上げてその事を伝えようとするが、続くヒムロの言葉がそれを(さえぎ)る。

 

()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

「――まだ無――え?」

 

 意表を突く様な、思わぬ言葉が。

 と、その時だ。

 

『ヒムロ君! 助けてくれ!』

 

 何処からともなく、救援を要請する叫びが響いたのは。

 

『こっちのエリアに侵入して来たモビルドールと戦闘中なんだが、コイツ、とんでもなくすばしっこいんだ! どうにか今は足止め出来てるが、このままじゃ抜けられちまう!』

 

 声の主は、デアールだ。

 どうやら、彼がヒムロへと繋いでいる通信が、ヒムロと繋いでいる回線を介してイツキにも聞こえている状態のようだ。

 更にその言葉を聞くに、どうもデアールは敵エリアに侵攻しているトピアと交戦中らしく、確かに見上げてみたフィールド概略図の上でも、彼女の位置を示す緑色の三角形のマーカーに隣接するように、敵機を示す赤い三角形のマーカーが表示されている。

 再三記載するが、今回のバトルはあくまでフラッグ奪取戦。相手のフラッグを取った方が勝ちであり、トピアは既にバトルフィールドの左側、つまり敵エリアの半ばの辺りまで侵入している。その上で彼女の応戦に当たっているらしいデアールが苦戦している様子を見るに、このままならトピアが彼の妨害を抜け、敵フラッグを発見するのも時間の問題だろう。

 つまり、王手。勝利は目前という事だ。

 その事実に、おおっ、と歓喜の声を上げるイツキ。

 その一方で、自分達の敗北が迫っている事にこれといって焦った様子など無い声色で、ヒムロの声がデアールへと返答する。

 

『分かりました。すぐ戻りますから、もう少しだけ抑えていて下さい』

 

『急いでくれ! もう余裕が……うぉっ!?』

 

 驚いたような声と、鉄塊が叩き付けられたような激しい轟音を最後に、デアールの声がパタリ、と止む。

 それに代わって、呟くようなヒムロの声が微かに聞こえた。

 

『――どうやら、ここまでみたいだね』

 

 その直後だった。

 不意にコアバクゥが猛然と駆け出し、その勢いのままコアガンダムの頭上を跳び越えたのは。

 

「あれ? ――って、しまった!?」

 

 反射的に攻撃が来ると身構えたイツキはヒムロのその行動に一瞬きょとんとしたが、即座にその真意に思い至り、急いでコアガンダムを背後へと振り返らせた。

 果たして、イツキなど最早眼中に無いかのように薄暗い森林の奥へ消え行こうとしているコアバクゥの後姿がそこにあった。

 

「待てーっ!!」

 

 すぐさまイツキは操縦桿を押し込み、背部と踵のバーニアを点火したコアガンダムにその後姿を追わせる。

 先程の通信――トピアと交戦中のデアールからの救援要請に応じようとしているヒムロを、逃がすまいと。

 だが、その目的に目が行き過ぎてしまっているために、今の彼は幾つか見逃している事があった。

 コアバクゥと、それを追う自身のコアガンダムの進行方向が、フィールド概略図上に表示されているトピアと、恐らくはデアールのものであろうマーカーが表示されている方向に対してほぼ垂直の、別方向であるという事。

 如何にコアバクゥが機動性に優れたガンプラであろうと、その四本足の疾走だけではすぐに追いつけない程度には、現在地からトピアとデアールがいる地帯までは距離が離れているという事。

 そして、デアールの救援要請が入る直前にヒムロが告げた、あの妙な発言が()()()()()()()という事。

 それらに気づかぬまま、時折周囲の木々に接触しそうになりながらも何とかコアバクゥの後を全速力で追い続けたイツキは、気づかぬ間に()()へ足を踏み入れていた。

 バトルフィールドのほぼ中央――森林地帯と、そこを抜けた先に広がっている荒野地帯の、境界の辺りへと。

 生い茂る木々とぬかるんだ地面が(もたら)していたジメッ、とした空気から一転、遮る物の無い太陽のギラギラ、とした光の下で熱風が乾いた地面から土埃を巻き上げる。

 そんな荒野地帯に入った後も背を向けて走っていたコアバクゥが、急にその足を止めてイツキの方へと機体を向けて来た。

 それに、うぉっと、と一拍遅れて自らもバーニアを停止させたコアガンダムをその場に制止させたイツキの下へ、再びヒムロからの通信が入って来る。

 

『君も聞いたかもしれないけど、僕はデアールさんを助けに行かないといけないんだ。悪いけど、先へ進ませてもらうよ』

 

「行かせるもんか! このままいけば、トピアがそっちのフラッグを見つけて、俺達の勝ちなんだ! 絶対ここから逃がさないぞ!」

 

 ヒムロからの言葉に、気合を込めた声を張り上げて言い返したイツキは、コアガンダムに右手に握ったコアサーベルを構えさせる。

 自ら宣言した通り、絶対にヒムロを逃がさないという意思を込めた目で、コアバクゥをじっと睨み付けながら。

 それに対してヒムロが、

 

『逃げる、なんて誰も言ってないよ?』

 

フッ、と微かに笑いながらそう返して来た。

 

『先へ進むとは言ったけど、君から逃げて、ってワケじゃないんだ』

 

「じゃ、じゃあ何だよ? どーいう意味だっていうんだ!?」

 

 問い返すイツキであったが、その答えは既に彼の頭の中に浮かんでいた。

 だから、その声は些かながら荒くなっていた。

 ()()()()()がヒムロにとって容易(たやす)い事であるのは、これまでの見せ付けられた彼の戦いぶりを見れば嫌でも想像が付いたからだ。

 そして、実際に返って来た答えは全く想像通りのものだった。

 

()()()()()()()()()――そう言ったんだよ』

 

「――っ」

 

 ただし、そうして息を呑んだイツキの想像通りだったのはそこまでだ。

 ここから先起こるのは、全てが彼の想定の外の事。

 その皮切りとなったのが、

 

「そいつ! さっき俺を連れて行った――!」

 

上空からコアバクゥの隣へゆっくりと降下して来る形で再びイツキの眼前に現れた――先程ワイヤークローを使い、ダナジンを追跡していたコアガンダムをヒムロのところへと強制的に運んだ、あの(やじり)状の()()であった。

 その()()を認めるやすかさずイツキは目を剥いて身を乗り出すのだが――同時に、最初に現れた時と違って比較的落ち着いた状況故に知る事が出来たその詳細に、ふと彼は違和感を覚える。

 正確には、()()()を、だ。

 ()()――背部にその全長より僅かに短い程度の巨大な藍色の直方体を二つ乗せ、それ以外の各部にも同色の装甲を備えた、戦闘機のようなサポートメカは、何処となく見覚えがあった。

 特に、全体のベースとなっている、コアバクゥの関節部等と同じ色合いのグレーのフレーム。その先端の上部に配された、緑色のV字型のセンサー部なんかが。

 そうだ、良く似ている。あのエルドラバトルの動画群で何度も目にした、あの――。

 ――と、イツキが思考に(ふけ)っていたのもそこまでの事。

 

『ここまで来れば、もう邪魔になる物は無い。――今から見せてあげるよ、僕達の()()を』

 

 ヒムロのその台詞に、イツキは意識を現実へと呼び戻される。

 と同時に、コアバクゥが背を向け、今度は隣に浮遊していたサポートメカを後につけながら駆け出すのが目に入ったため、咄嗟に彼は叫んだ。

 

「逃がさないって言ったろ!?」

 

 すぐさまコアガンダムを追わせるため、再びイツキは操縦桿を握る手に力を込める。

 そのまま操縦桿を押し込もうとして――しかし、出来なかった。

 直前に、()()()()が耳に入って来た。

 その言葉によって齎された驚愕が、イツキの手を押し留めたのだ。

 そう、

 

()()()()()()!』

 

「えっ!?」

 

通信を介してコアガンダムのコックピット内にも伝わって来たヒムロの、その驚かざるを得ない宣言によって。

 

 

 

「アーマーコール――“イェーガー”!」

 

 後方に留まるコアガンダムと、その中のイツキの様子など気に留める事も無く、ヒムロはその音声コードを入力し切ると共に両の操縦桿を引き上げ、荒野を疾駆させていたコアバクゥを空中高くへと思い切り跳躍させた。

 それに続き、コアバクゥの後に続かせていたサポートメカ――“コアハンガーB”もまたコアバクゥと同じ高度まで上昇する。

 そして程無くして、その各部に懸架していた藍色のパーツが、一斉にコアハンガーBからパージされた。

 そのまま、一定距離を保ちながらコアハンガーBの周囲に滞空するパーツ群を後目に、先頭を行くコアバクゥにもまた変化が現れる。

 前方へ、或いは後方へピン、と伸ばしていた前足と後脚の先端が折り畳まれ、内部に仕込まれていたジョイントが露出。胴体と各脚の根本が伸長し、更に背中からコアレールガンも外れ、そこに隠されていたジョイントも(あら)わになる。

 そうしてコアバクゥの準備が完了すると共に、後方に控えていたパーツ群が殺到。各脚のジョイントへ、グレーのフレームが剥き出しになっていた肩や太腿へ、胴へ、背中へ――それぞれの対応部位へと、導かれるように接続されていく。

 そして最後に、一度外されたコアレールガンが胴の下部へ、残されたパーツが頭部へと接続され、全ての工程が完了して着地するや、ヒムロは後方へと振り向かせる。

 呆然とした様子で乾いた地面の上に立っているコアガンダム――イツキへと、自分達の()()の一つを示して見せるために。

 

「ゴー! ――“マッハイェーガー”!!」

 

 コアハンガーBに懸架(けんか)していた、藍色の“イェーガーアーマー”。

 その全てを身に(まと)い切った事を報せるために、或いはヒムロの一声に応えるように、新たに一対のスタビライザーウィングが備わった頭部が持ち上げられる。

 まるで百獣の王が遠吠えをするかのように、その姿を変えたコアバクゥ――“バクゥマッハイェーガー”が、一際強い光をモノアイから放った。




コアチェンジ……だと?

先に披露されてしまったアーマー換装。本気を見せたヒムロとコアバクゥを前に、果たしてイツキとコアガンダムは生き残れるのか? 最終的に勝つのはどちらのフォースなのか?

次回もこうご期待です!
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