ガンダムビルドライザーズ   作:shisuko

21 / 25
長らくお待たせ致しました、やっと20話目公開です。

あ、それと今回の話を書くに当たって、第18話を少し訂正してます。大した変更ではないのですが、一応。


第20話 初フォースバトル! VS Zi-ソウル!! ③

 “プラネッツシステム”――そう呼ばれる機能が、コアガンダムには搭載されている。

 コアガンダム本体とは別に用意した専用装備の集合体――“アーマー”を搭載した専用サポートメカ――“コアハンガー”との連携、及びコアハンガーに懸架(けんか)したアーマーをコアガンダムに纏わせ強化を行う合体換装機構であり、纏うアーマーによってコアガンダムはその姿のみならず、得意な地形や戦闘スタイルなどを様々に変化させる事が出来る。満遍(まんべん)なく各能力を上げた万能型から、格闘能力に秀でた近接特化型へ。あるいは、深海等での活動に秀でた潜水型から、宇宙での活動に特化した空間戦闘特化型へ、といった具合に。

 当然ながら、このプラネッツシステムはイツキのコアガンダムにも組み込まれている。

 というか、これこそがその機体サイズと並んでコアガンダムをコアガンダムたらしめている最重要要素。この独自の機構あるからこそ、コアガンダムは唯の小さいガンプラでは終わらない、他のガンプラとは一線を(かく)した機体足りえるのだ。

 そう、()()なのだ。

 本格的にGBNを始め、装備を換装する機構を持ったガンプラ自体はコアガンダム以外にもいる事を知った今でも、プラネッツシステムはコアガンダムだけが唯一持つ、コアガンダムのみの機能であると、そうイツキは認識していた。

 だからこそ、彼は愕然(がくぜん)とした。

 

「こ……“コアチェンジ”だって……?」

 

 ――エルドラバトルの動画内でヒロトが叫ぶのを何度も耳にした、プラネッツシステムの起動音声コード。

 それと全く同じ言葉をヒムロが叫ぶや、空高く跳び上がったコアバクゥが追従していたサポートメカから分離したアーマーを全身に装着し――まるで、ヒロトのコアガンダムのように――姿を変えた、その光景に。

 

「ど、どーいう事だよ? まさか、あのガンプラにも……?」

 

 似ている、とは思っていた。

 名前も、通常のガンプラに比べて明らかに小さい機体サイズも、とてもコアガンダムに似ている、と。

 だが、ここまでとは思わなかった。

 プラネッツシステムまで――コアガンダムのものと酷似(こくじ)した換装機構まで備えているなどとは、(つゆ)程にも思っていなかった。

 あまりにも予想外の事態。それが(もたら)した衝撃に呆然とするしかない今のイツキを知ってかは定かでは無かったが、通信を介したヒムロの声がこう告げた。

 

『“マッハイェーガー”だよ』

 

「マッハ……イェーガー……?」

 

『“イェーガーアーマー”を装備した、コアバクゥの高速機動形態。――これが、僕達の()()の一つだ!』

 

 ヒムロから伝えられたその名をたどたどしく復唱してから、正面モニターの向こうに映るコアバクゥ、改め、“バクゥマッハイェーガー”へとイツキは目を向ける。

 元のコアバクゥよりも一回り、二回り大きくなった機体。その頭部、四肢、肩や太腿などの様々な部分にはヒムロが“イェーガーアーマー”と呼んだ、(エッジ)が殆ど立って無い曲面と、様々な方向へと突き出た小さな制御翼(スタビライザーウィング)の群れで構成された藍色(あいいろ)のアーマーが装着されている。その(なめ)らかなシルエットはイツキに、以前車のCMか何かで耳にしたエアロフォルムという言葉を連想させた。

 だが、そんな空気抵抗というものとは無縁そうな全体像以上に目を引くものが、その機体には備わっている。

 背中だ。

 コアバクゥの時は短い砲身が二本並んだ小型のレールガンがあったそこには、今は機体全長よりやや短い程度の大きさを持つ直方体状の物体が二つ、横に並んで背負われていた。

 正面側からは、水色の枠を挟んで四角形の大きな穴が開いている以上の事は分からない。他の武装に比べて明らかに巨大なその物体が何であるのか掴めぬまま、ただただその異様から目を離せないイツキであったが、程無くしてその正体は明らかになった。

 マッハイェーガーが四肢を左右に広げて身を屈めたその刹那、物体の後端部から激しく噴き出した青白い炎――ブースター炎によって。

 そのブースター炎で、物体の正体が大型のブースターであったという事に(ようや)くイツキが気づいた、その刹那――。

 

『いくよ』

 

 ――マッハイェーガーが、()()()

 前足が動き出す様が一瞬見えたかと思った、その瞬間に視界の中から、忽然(こつぜん)と。

 ブースター炎に巻き上げられた僅かな砂煙のみが残ったそこを思わずイツキは凝視し、次いで、居なくなった敵機の位置を探るために周囲を見回そうとした。あれ、という呟きを口から(こぼ)し掛けながら。

 だが、いずれも彼には出来なかった。

 ほんの一瞬、微かにだが、藍色の何かが左隣りを通り抜けたような気がした――その次の瞬間に発生した、モニター全体を覆い尽くす程の凄まじい砂塵(さじん)

 それと共に激しく揺れ出すコックピットに一瞬閉じてしまった目を開けるや、視界一面に広がる青空と太陽。体を覆う浮遊感。

 その光景に、まさか、とイツキが思う間も無く、マッハイェーガーが再び姿を現す。

 ワケも分からぬ間に()()()()()()()()()()コアガンダムの頭上方向――姿を消す直前までいた方向と()()()()()から、左前足を振り被りながら。

 アーマーの装着によって延長されたその足先から、折り畳まれていた銀色の爪が展開される。収納していた爪を引き出すネコ科の動物(さなが)らに。

 そうして、瞬時に赤熱化した三本の爪を振り下ろしたマッハイェーガーによって、為す術無くイツキはコアガンダム共々地表へと叩き落され、その衝撃に襲われる中で一瞬だけコンソール上に“DAMAGE OUT”の文字が表示されるのが見えた後――イツキは目の前が真っ暗になった。

 

 

 

『ゴメン! 撃墜さ(やら)れた!』

 

 そんな通信がイツキから掛かって来たのは、正面モニター左上のフィールド概略図上で大体中央近くにあった彼のマーカーが一旦消え、右上側――自軍エリア側の森林地帯内の復帰地点(リスポーンポイント)がある辺りに再び出現した、すぐの事だった。

 その撃墜報告に対し、特に声を荒げるような事も無く、おー、と逆さ被りの帽子の上から頭を掻きながらアイアンタイガーは応える。

 

「ま、しゃーねーわな」

 

 片や、GBNどころかガンプラを始めてまだ一ヵ月も経ていない初心者。

 片や、自分達より明らかに年上の大人達から頼られる程の腕前らしい、相手フォースのエース。

 そんな二人がぶつかり合ったのだ。この結果自体は――欲を言えば、もう少し引き留めておいてほしかったところではあるが――当然の帰結であると共に、想定内であった。

 加えて、あくまで今回のバトルで重要なのは互いのフラッグ。それさえ奪われなければ負けではないのだから、その過程で発生した個人の撃墜や敗北について一々怒りや不満を覚える必要も無い。

 そして何より、

 

『――あ! ()()()()()()()()くん!』

 

()()()()()()()()!! ――は置いといて、どした!?」

 

『見つけましたぁ! ()()()()ですー!!』

 

「よっしゃあッ!」

 

そのフラッグの奪い合いについて既に王手を掛けていた俺様とゆかいな仲間達にとって、そんなのは些末(さまつ)な事でしか無かったのだから。

 

「でかしたぜトピアッ! そのまんまザムドラーグは無視して、向こうのフラッグ()(さら)っちまえ!」

 

 トピアからの報告から一拍置いて、フラッグの位置を示す旗のマークがフィールド概略図上の左上――敵軍エリア側の森林地帯の、モビルドールトピアと相手のザムドラーグのマーカーからそう離れていない地点に現れる。

 それを目にするや、アイアンタイガーは歯を剥いて勝ち誇った笑みを浮かべ、間を置かずサムズアップした右手をトピアの映る通信ウィンドウへと突き出しながら、彼女へ称賛と指示を飛ばした。

 すかさず返って来る、はいですー、というトピアからの了解。

 それに満足し、後は彼女が相手フラッグを奪取してバトル終了のアナウンスが鳴り響くのを待つのみ、と高を(くく)るアイアンタイガーであったが、

 

『気を付けてトピア!』

 

そんな彼の心持ちとは対照的な警告がイツキから上がった。

 その不意の声に怪訝(けげん)さを覚えたアイアンタイガーは、ああ、と眉を(しか)めたが、それに構わずイツキが言葉を続ける。

 

『さっきやられる前に、あのデアールってオジサンから助けてくれ、って通信があったんだ! 今、そっちに向かってる筈なんだ! あのコアバクゥってガンプラ――ヒムロ君が!!』

 

「おいおい、何言ってんだよオメーは?」

 

 必死の口調で述べられたイツキの警告を、半ば呆れつつアイアンタイガーは一笑に付した。

 

「そのヒムロってのとオメーが戦ってたのがどの辺か、もう忘れちまったのか? 全然離れてただろーが、トピアんトコからよぉ」

 

 撃墜される直前までイツキがヒムロと戦っていたのは、バトルフィールドのほぼ中央だ。それに対し、現在モビルドールトピアとザムドラーグが交戦しているのは敵軍エリアの中腹辺りであり、フィールド概略図で見る分にはこの二地点間の距離は然程(さほど)離れていないように見えるが、実際には50km程度は離れている。俺様とゆかいな仲間達のガンプラの中で最も優れた機動性と飛行能力を持つモビルドールトピアでも、急いで横断して五分近くは掛かる距離である。

 先程イツキの口から出たコアバクゥという言葉を省みるに、恐らくヒムロのガンプラはあの小さなバクゥタイプだ。見たところ、通常の“モビルバクゥ”や、その発展機である“ラゴゥ”や“ケルベロスバクゥハウンド”に備わっている無限軌道(キャタピラー)も装備していないようだったから、それを使った高速移動は十中八九不可能。となれば、そのまま四足を使っての疾走(しっそう)以外に移動する手段は無くなるのだが、それだけでは時間を掛けずに走り切る事はまず出来ない。――トピアが相手フラッグを奪取する前にヒムロがそこへ辿り着くのは、まず有り得ない事だった。

 その事実は、実際にそのコアバクゥとやらと戦ったイツキの方が実感出来ている筈なのだが……?

 通信ウィンドウの向こうでいやに焦った様子さえ見せるイツキに、次第に不可思議ささえ覚え始めるアイアンタイガーだったが、そこへ放たれた更なる言葉は、より一層彼を困惑(こんわく)へと導く。

 

『コアチェンジしたんだ!』

 

「ああ?」

 

『アーマー付けたんだよ、コアバクゥが! プラネッツシステムみたいなのが使えるんだ! コアガンダムみたく!!』

 

「……ああん?」

 

 ()()()()()()……ってアレか? 機動戦士ガンダム(初代)の、コアファイターと上半身(A)下半身(B)パーツ合体(ドッキング)させて、RX78-2(ガンダム)にする時の。

 何で、んな言葉が出て来る?

 つーか……()()()()()()()()()

 ……何だそりゃ?

 ――という具合で、全く以て意味不明なイツキの発言に呆気に取られるしかないアイアンタイガー。

 そんな、明らかに自分の発言が通じていない彼へとイツキが更に声を上げて叫ぶが、それでも意味が分からないものはなお分からないままであったし、何なら面倒臭くさえ思えた。

 なので、がなり立てるイツキの声に些か辟易(へきえき)しつつ、何気なくフィールド概略図の方へとアイアンタイガーは目を遣ったのだが、

 

「――は?」

 

瞬間、彼は呆けた声を漏らす。

 敵機を示す赤いマーカーが一つ、()()()()()()モビルドールトピアとザムドラーグが交戦している地点へと近づいているのを見つけたがために。

 そして、その直後だった。

 

『きゃああぁっ!?』

 

 爆発音の連鎖と共にトピアの悲鳴がコックピット内に響き渡ったのは。

 

 

 

 その瞬間、自分の身に何が起こったのか、トピアには全く分からなかった。

 下方に広がる森の奥の方――生い茂る緑の僅かな隙間の向こうに相手フラッグを見つけ、それを確保するために、眼下の木々の中からザムドラーグが絶え間なく放って来るバルカンやビームを避けつつ進もうとしただけだった。

 そのために操縦桿を一気に押し込もうとして――突然、金属が(ひしゃ)げるような甲高い音と共にコックピットが激しく揺れた。

 まるで、攻撃を受けたように。――敵機や攻撃の接近を知らせるアラートが()()()()()()()()()()

 その不意を打つような衝撃に、一瞬目を閉じてしまうトピア。

 その僅かな間に、本来ならば何の苦も無く悠々(ゆうゆう)と回避できていた筈のザムドラーグの攻撃が一気に肉薄し、そして――再び開いた視界一杯を埋め尽くす爆炎の連鎖によって、自らのモビルドール共々彼女は吹き飛ばされてしまったのだ。

 そうして現在、爆発の衝撃に流されるように墜落していたモビルドールの態勢を何とか整え、その場に座り込ませる形で軟着陸させる事で事無きを得ていたトピアは、

 

『おいトピアッ! どうした、何かあったのか!?』

 

「……うう~ん……攻撃されたみたい、です~ぅ……」

 

揺さ振られてくらくらする頭に目を瞬かせながら、焦った様子のアイアンタイガーからの通信に応えていた。

 

「えっと……ダメージは、ちょっと大きいですぅ。それに荒野エリアのほうまで来ちゃいましたぁ。――でも、まだいけますー」

 

 まず前方下部のコンソールに、続いてモニターへと目を遣りつつ、順にトピアは現状を報告していく。

 コンソール上に表示されている機体ステータスは、機体のほぼ全体に被弾があった事を報せており、それによるダメージ総量は機体総エネルギーの大体二、三割程度に達するようだ。

 その中でも、特に腰部のスカートアーマーと、そのすぐ傍のGNスラスターユニット、それにGNブルームメイスの後部から内蔵GNコンデンサーの一部に掛けてのダメージが大きく、その影響でモビルドールそのものの飛行速度や機動性にほんの数%だが性能の低下が見られる他、GNブルームメイスのフライトモードが使用不能になってしまっていた。

 加えて、モニターに映る周囲の景観は先程までの森林エリアの上空のそれではなく、どこまでも乾いた土地が広がる荒野エリアのそれへといつの間にか切り替わっている。直前のザムドラーグからの攻撃を回避出来ず直撃してしまった事までは覚えているため、それによってここまで押し出されてしまったのだろう。お蔭で、せっかく発見した――事によってフィールド概略図上にも位置を示すマーカーが新たに加えられた――相手フラッグから幾分か離されてしまった。

 だが、まだ大丈夫だ。

 飛行能力が多少()がれただけで、モビルドールを飛ばす事自体は全く問題無い。離されたとはいえ、相手フラッグとの距離もそう大きいワケでは無い。――今からでも、挽回(ばんかい)は十分に可能だ。

 ――ただ、一つ気がかりな事があった。

 

『何だよ、ビビらせやがって……。まー、良いや。そんなら、今度こそフラッグを――』

 

「でも、分からないんですぅ」

 

『あん?』

 

「攻撃して来たのがだれか、分からないんですー」

 

 モビルドールの目を通して確認してみれば、ブルームメイスやGNスラスターユニットには鋭利な刃で引き裂かれたような裂傷が出来ていた。この傷がモビルドールの飛行性能の低下やフライトモードの使用不可の原因なのは間違い無いのだが、しかしザムドラーグが撃っていたバルカンやビームではこういった傷にはならない。

 つまり、先程のあの瞬間にいたのだ。ザムドラーグとは別の場所からトピアを攻撃した()()()が。

 そうなれば、その何者かの正体が問題となるのだが――その答えを考える時間はトピアには無かった。

 一瞬だけ、視界の右端を藍色の影が横切ったように思えた――その一拍後にけたたましく鳴り響くアラートと共に突如吹き込むや激しくモビルドールを揺らした砂塵が、思わず身を屈めてしまった彼女からその(いとま)を奪い去った。――等間隔の三本の切創(せっそう)を残して消失した、モビルドールの肩の装甲の一部諸共に。

 損傷としては至って軽微だが、しかしほんの一瞬注意を外した、その僅かな間に付けられたその傷は、それが()()()()()()()のかを察するには幾らか時間を要した。

 それ故につい、あれ、と呆け掛けてしまうトピアであったが――(しばた)かせた碧の瞳の片隅に微かに映った()()姿()に、彼女は咄嗟に傷への思考を中断して操縦桿を持ち上げ、モビルドールにGNブルームメイスを持ち上げさせようとした。

 その動作が完了するか否かのタイミングであった。

 モビルドール目掛けて急接近していた()()――先の攻撃を行った()()()であろうガンプラが跳び付くや、眼前に横向きに掲げたブルームメイスの柄にその爪を立てたのは。

 同時に、漸くトピアもその姿をしっかりと目に入れる事が出来たのだが、意図せずしてその口から呟きが漏れた。

 

「おっきくなってる?」

 

 相手の――Zi-ソウルのガンプラにそのタイプの機体がいる事は既に分かっていた事だったし、直前のイツキからの警告もあったので、襲って来たのはその機体であろうという事は何となくだが予想出来ていた。

 ただ、いざ現れたそのガンプラは件の――トピアの記憶の中にある機体とは些か以上に違っていた。

 赤く熱が(こも)った両前足の三本爪をGNブルームメイスの柄に引っ掛けたまま、細長い頭部を振り被ったかと思いや、インテークらしきパーツが付いた側頭部の下側から一対のビームの牙を発振する――白色と藍色の装甲に彩られた、そのバクゥタイプのガンプラは。

 

 

 

 頭部を振り被らせ、その左右に搭載した“ビームファング”から光の牙を灯させるや、それを眼前のモビルドールへと突き立てんがために、ヒムロはマッハイェーガーに頭部を勢い良く振り下ろさせた。

 果たしてその攻撃が読まれていたのか、それとも咄嗟(とっさ)の判断だったのかまでは分からなかったが、ビームファングの先端が微かに胸部のリボン状のパーツに触れた瞬間、モビルドールがその手に持つ箒状の武器を突き飛ばすような勢いで押し出して来た。

 取り付くマッハイェーガーを引き剥がすためのその行動に対し、ヒムロは逆らう事無く、ほんの少しだけ前足を屈伸させて自身の機体を跳び退かせ、更に宙を滑空している間に両前足の三本爪――“フォールディングヒートクロー”の赤熱化を止め、爪先の中へと折り畳んでおく。

 そうして後方の地面に着地するが、そのタイミングを狙ったようにモビルドールが左腕を伸ばし、そこに装備したポシェット型の手甲から二門の砲身を伸ばして来る。

 (あやま)たず、それぞれの砲身からGN粒子の尾を引く砲弾が発射されるが、

 

「遅いよ」

 

それに気を取られる事も無く、ヒムロは冷静にマッハイェーガーを右向かせ、流れるように(よど)み無い手付きで両の操縦桿を前へと押し込んだ。

 刹那、ゴゥ、という爆音が背後から上がる。

 フレキシブルアームを介してマッハイェーガーがその背に背負う一対の大型ブースター――高機動戦闘用に調整したイェーガーアーマーの最大の特徴にしてその根幹(こんかん)たる、“マッハブースター”の点火音が。

 その大出力が発生させた爆炎の如き勢いのブースター炎に押し出されるようにマッハイェーガーが一歩踏み出し、そして――藍色の流線と化す。

 恐らく、そういう風にしか相手には見えていない。あるいは、視界からマッハイェーガーの姿そのものが()()()様にしか。

 そう思わせる程の圧倒的速度と、その速度に一瞬で至る程の爆発的な加速性能。それこそが、先のイツキとの戦闘を終えてからこの場に極短時間で辿り着くに至った理由であり、バクゥマッハイェーガーという形態の最大の持ち味なのだ。

 それを(もっ)て駆け出したマッハイェーガーを、モビルドールから放たれた砲弾が(とら)える事は不可能。つい先程まで立っていた、しかし既に大きく離れたところまで駆け去った地面に着弾するや、GN粒子の混ざった爆発を空しく発生させるに終わる。

 その様子を視界の端に収めつつも、ヒムロが正面モニターから目を離す事は一切無い。

 マッハブースター、及び各部に内蔵したスラスターの後押しを受けて走るマッハイェーガーのモノアイを通して見た周囲の景観は、最早、正面から現れては即座に後方へと流れていく線の集合体にしか見えない。が、実際には進行を阻害する大き目の岩盤や、(はま)れば足を取られかねない(くぼ)み等がちらほらと存在している。相手にまともに視認させない程の速度で動いているために、そういった障害に引っ掛かるのはそのまま致命傷に繋がり兼ねない。確実に避けられるように、常に目を光らせておく必要があるのだ。

 さて、そのマッハイェーガーの弾丸染みた機動を以て易々と攻撃を避けたヒムロは、ほんの数秒と掛からずモビルドールとの距離を大きく開けたところで、前へ押し込んでいた操縦桿の左側を少しずつ引き寄せていく。

 その操縦により、速度を維持したまま大きく弧を描くようにマッハイェーガーを走らせて進路を変更。再び正面――モニターの中央にモビルドールの姿を据えると共に、再度前進させ、素のコアバクゥのままならどれだけ速くても数十秒は掛かっているだろう距離をほんの一瞬で走り切る。

 そうして、目と鼻の先まで接近したマッハイェーガーの存在に気づかないまま背を向けているモビルドールの隙だらけの背中を目前にしたヒムロは――特にその隙を突くような事も無く、その左隣りを通り抜けた。

 ――いや、この表現は正確ではない。()()()()()()()()のだ。

 通り過ぎたマッハイェーガーの、その後ろ姿を狙おうと左腕を持ち上げたモビルドールへと襲い掛かる砂嵐――マッハブースターや各部スラスターの後押しを受けた超高速疾走によって圧縮された気流が後方へ流れ、急速的に膨張する事によって発生する()()をすれ違い様にぶつける事によって。

 極端に機体重量の軽い機体――SDサイズのガンプラや、それこそコアガンダムのような――ならばそれだけで空高く()()()()()事が可能な程の強力な風だ。通常のHGサイズのガンプラ程度には機体重量があるだろうモビルドールを吹き飛ばす事は流石に叶わないが、それでも辺りの砂や砂利を巻き込んで吹き荒ぶそれには、放たれる直前だったモビルドールの攻撃を中断させ、巻き上がる砂が作るカーテンの中に押し込める程度の力はあった。

 そんなモビルドールを後目に、先程と同じように大きく円弧を描くようにしてヒムロはマッハイェーガーの進路を変更。もう一度正面にモビルドールの姿を据えると共にマッハブースター及び各部スラスターを一旦停止させ、その後も掛かっていた慣性に機体が横滑(よこすべ)りするのも構わず武器スロットを展開し、使用武器の選択を行う。

 そして、踏ん張るように四本足を広げてマッハイェーガーが完全に静止するのと同じくして、新たに選択した武器のトリガーを引いた。

 コアチェンジに際して、背部から胸部へと移設されたコアレールガン。及び、側頭部に新たに追加された“ビームバルカン”のトリガーを。

 過たず放たれる、一定間隔置きの砲弾の連射と、隙間無く連なる無数のビーム。

 降り注ぐ雨の様にそれらがモニターの向こうで蹲っているモビルドールの装甲を叩くと共に、周囲を漂っていた砂埃を更に濃密なものにし、その姿を見る見る内に覆い隠していく。

 最も、これだけでは倒せないだろう。

 機動性と最高速度を特化した形態であるマッハイェーガーの武装は取り回しの良さや牽制(けんせい)能力を優先しているため、威力についてはどれも大したものでは無い。

 加えて、向こうのモビルドールは見ただけでそうと分かる程に完成度が高い。相応に耐久力も高いだろうから、その装甲をマッハイェーガーの攻撃のみで削り切って撃墜(ダメージアウト)まで持っていくのは極めて難しいのだ。

 そう、容易く倒し切れる相手では無い。

 先の――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(……いや)

 

 きっと違う、とヒムロは心中で否定する。

 先程のイツキとの戦闘の、その終わり際の流れを思い出すや、何かの間違いだったんだ、と頭を振る。

 そうだ、そんな筈は無い。

 コアガンダムが――()()()のガンプラが、あんな――すれ違い様の暴風に訳も分からず(あお)られて、そのまま何の反撃も無く撃墜されるなんて――呆気無い終わり方をする筈が無い。

 きっと……そうだ、()()だ。

 互いにフラッグが取られるまでは何度でも復帰出来る今回のバトルだからこそ、一度やられて見せて、こっちが油断したところで本気を出す。そういう作戦だったんだ。そうに違い無い。

 そうでも無ければ、アーマーの一つも見せない内からあんな無様を……。

 ――と、思考に(ふけ)っていたヒムロであったが、その視界の端にチラリ、と映ったものにはっと意識を現実へと引き戻した彼は同時に操縦桿を引き、マッハイェーガーをその場から跳び退かせる。

 直前まで立っていた辺りが盛大に爆ぜたのは、その直後の事であった。

 激しく巻き上がる土砂。その一部が着地したマッハイェーガーの足下付近に降り注ぎ、前方の空間に薄らと砂埃の(とばり)を敷く。

 その帳の向こう――コアレールガンとビームバルカンの弾幕から突如飛び出すや、その勢いのまま突進すると共に手に持つ箒型の武器を振り下ろして来たモビルドールの()()()()()()姿をじっと見据えながら、ヒムロは呟く。

 

「トランザム……!」

 

 頭部左右の、金色のツインテールの根本辺りに増設されていた二基のGNドライブを見た時から、その可能性自体は頭に浮かんでいた。

 だがそれでも、元からGNドライブを搭載しているガンプラでも一定以上の完成度が無ければ使えないそれを、後から付け加えたモビルドールが何の問題も無く発動しているその光景には、分かっていても目を見張るものがあった。

 だが、その衝撃にいつまでも(ひた)っている余裕は無い。

 周辺の石や土塊を巻き上げながら、砕けた地面に穂先が根本近くまで埋まっていた箒型の武器をモビルドールが引き抜いた――かと思った次の瞬間には、()()()()()()()()()()それを腰溜めに振り被っていた。

 

「っ! 今度は速いね!」

 

 トランザムの恩恵(おんけい)あってこそとはいえ、ほんの一瞬の内に態勢を整え、肉薄して見せたモビルドールの機動性にヒムロはそう称賛を送り、その傍らで両の操縦桿を思い切り引き寄せた。

 その操作を受け、マッハイェーガーが背のマッハブースターの噴射口を前方へと向け、その爆発的なブースター炎をモビルドールへ吹き付けるように噴射。先程よりも大きく、素早くその場から後退した事で、その直後に紅の残像を伴って振り払われた箒の横薙(よこな)ぎを危なげ無く回避する。

 そうして、後方十数mの辺りに着地すると共に噴射を止めたマッハブースターを元の向きへと戻したヒムロは、その視線を再びモビルドールへと合わせる。

 

「けど――」

 

 箒を振り抜いたモビルドールは、その慣性のままに機体を捻って背を向けていた。今にも、その場からどこかへ飛び去ろうとしているかのように。

 その敵機の様子に対して、ヒムロは特に驚きを感じもしなければ、動じたりもしなかった。

 分かっていたからだ、モビルドールがまだ自分達のフラッグを狙っている事を。マッハイェーガーの弾幕から抜け出してから二回行われた攻撃の、そのどちらも()()()()()()()()という意思が何処となく弱いような気がしたために。

 だから、彼は間髪入れずに武器スロットを呼び出し、新たな武器を選択。すぐさまそれら――両肩に一基ずつ搭載しているワイヤークロー、“パンツァーアイゼン”を、

 

「――僕達から逃げ切れるほどじゃない!」

 

紅に染まる機体をブレさせて飛び立つ間近であったモビルドール向けて撃ち込んだ。

 過たず、放たれた二つのクローがそれぞれモビルドールのツインテールの右側と、箒の柄にそれぞれがっしりと食らい付く。

 こうなれば、こちらが指示を送らない限りクローは――それこそ、トランザムによって全性能が大幅に増加しているガンプラの力であっても――決して外れない。

 そう、決して、だ。

 よって、自らに噛み付いたクローをチラリ、と緑色のカメラアイで見遣ったモビルドールが紅の残像を尾に空高く飛び上がった後も、クローは外れず、そこから伸びるワイヤーも千切れたりはしない。

 よって――パンツァーアイゼンを介して高速で飛行するモビルドールに、マッハイェーガーが引っ張られる。引っ張られるままに、その場から走り始める。――()()()()()

 元より、マッハイェーガーは機体出力には優れない形態だ。トランザム中のモビルドールを力で押し留めようとしたところでまず不可能。無駄だ。

 だからこそ、その力を利用する。

 足が地面から離れてしまわないよう、少しずつパンツァーアイゼンのワイヤーを伸ばしながら、トランザムの後押しのまま強引に飛び続けるモビルドールの力と速度をそのまま牽引力(けんいんりょく)として、加速に活かす事で。

 そうして、ある程度マッハイェーガーを走らせたところでヒムロはマッハブースターを最大出力で点火。十分に初速の乗った機体を一気に加速させつつ、更にワイヤーの伸長(しんちょう)をストップさせる。

 するとどうなるか?

 本来なら長い距離を走らせてやっと得られる程の速度を極短時間で得たマッハイェーガーが、紅蓮を纏いながら先行していたモビルドールの横に並び、そのまま追い越す。それと共に、距離が縮まるに連れて一旦は(たわ)んでいたワイヤーが再びピン、と張り詰める。

 そのままいけば、今度はマッハイェーガーがモビルドールを牽引する形になるだろう。

 しかしそうなる前に、ヒムロは両の操縦桿を持ち上げて疾走中のマッハイェーガーを跳躍。四本足が一度に地面から離れると同時に、パンツァーアイゼンのワイヤーの巻取りを始める。

 これにより、機体に掛かっていた慣性とマッハブースターや各部スラスターからの噴射のみを推進力に、そして張り詰めたままのワイヤーで繋がったモビルドールを支点(中心)に、マッハイェーガーが大きく旋回しつつ急上昇。高空を飛行していたモビルドールと同等の高度へとあっという間に迫りつつ、機体に掛かる遠心力によって速度を一気に高める。

 そうして、螺旋(らせん)の軌道を描きながらモビルドールよりも更に上の高度へと達した時、機体速度が遂に――音速(マッハ)へと到達した。

 同時に()()()()()

 コンソール上にポップアップした、あるコマンド。

 最初にこの場に辿り着いた際、フラッグへと向かっていたモビルドールを止めるために放ったのと同じ――“FINISH MOVE”の表記が冠されたその一撃の、発動条件が。

 それを合図に、ヒムロは武器スロットを引き出し、フォールディングヒートクローを選択。瞬時に両前足の爪先から展開・赤熱化した三本爪を()()()()()()()()()()()()()()()モビルドール向けてマッハイェーガーに振り被らせ、そして、

 

「デアールさん! モビルドールの動きを止めます! 後は――」

 

『おう! 任せてくれぃ!』

 

丁度森林から抜け出るや、既に背のビーム砲とバルカンをザムドラーグに構えさせていたデアールへそう追撃を要請(ようせい)してから、躊躇(ちゅうちょ)する事無くその場で振り下ろさせた。

 

「いけッ! “マッハストライザー”!!」

 

 

 

『ごめんなさーい! やられちゃいましたー!』

 

 フィールド概略図上からマーカーが消えたかと思いや、その数秒後に開いた通信ウィンドウと共に姿を現したトピアが頭を下げて来る。

 その姿に、意図せず、は、という声がアイアンタイガーの口から零れ出た。

 

「お、おいおい、ちょっと待て? やられた? どいつにだよ?」

 

 震える声でそう尋ねるも、直前に状況報告を受けていたアイアンタイガーはトピアが誰に撃墜されたか既に知っていた。

 知ってはいたが、聞かずにはいられなかった。

 そうしてしまうくらいに、彼は動転していた。

 

『えっと、ザムドラーグちゃんなんですけど、でも、ザムドラーグちゃんだけじゃなくて、あの――』

 

「コアバクゥ、って奴か?」

 

『あ! はいですー!』

 

 ああ、知っていたとも。

 ザムドラーグだけならば、トピアは撃墜されていなかった。火力は結構あったようだが、それをモビルドールトピアにぶつけるには動きが遅かった。だから翻弄(ほんろう)され切っていた。今頃、トピアが相手のフラッグを奪い取って、このバトル自体に勝利を収めていた筈だった。

 その土壇場での逆転が起こったのは、間違いなくコアバクゥが介入して来たからだ。

 

『さいしょに見たときよりおっきくなってたんですぅ。それにもの凄くはやくなってて』

 

 ああ、それも聞いた。

 トピアの前に現れたコアバクゥは、バトル前に偶然見た時のような、極端に小さい姿では無かったらしい。更には、目で追い切れない程にその動きも速く、逆に彼女の方が翻弄され掛かっていた。

 そして極め付けに、

 

『それに、さいごの攻撃が見えなくって……』

 

相手は遠距離まで届く、不可視の攻撃を持っている。

 その威力自体は大したものではない――と言っても、トランザムで耐久力も一時的に増してたモビルドールトピアの動きを止められる程度にはある――ようだが、しかしどうやって行われたのか全く正体の掴めない攻撃というのは、それだけで厄介極まりない。

 

『だから言ってるじゃん! あのコアバクゥってガンプラ、コアチェンジしたんだって! イェーガーアーマーってアーマー付けて、マッハイェーガーってのになったって!』

 

 コアバクゥは、ヒムロは強敵である。

 トピアが映るウィンドウの隣の通信ウィンドウからそうがなり立てるイツキの言っている事は相変わらず意味が分からないが、詰まる話、彼が伝えたいのはそういう事であるというのは分かった。

 ああ、強敵だ。間違い無く強敵だ。

 初心者のイツキと出来立てのコアガンダムはともかく、俺様とゆかいな仲間達のガンプラで最も出来が良いモビルドールトピアすら、僚機の協力込みとはいえ、左程時間を掛けずに倒してしまったのだから。

 ああ、強敵だとも。エースと呼ばれていたのも頷ける。厄介極まりない。

 ……だが、今の問題はそこじゃあない。

 

「いや、つーか、ちょっと待て? トピアお前……撃墜さ(やら)れたんだよな?」

 

『はいですー』

 

「復帰まで、あとどんくらいだ?」

 

『えっと――まだ9分と50秒くらいありますぅ』

 

「……イツキ、オメーは?」

 

『ええっと俺は――7分だ、もうちょっとで残り7分になる』

 

 その時間差は大体三分弱であり、それがイツキを撃墜したヒムロとコアバクゥ、もといバクゥマッハイェーガーがトピアの元まで辿り着き、彼女も撃墜するまでに掛けた時間となる。

 それを為すためには、その時点での二人の間の距離約50kmをそれよりも短い時間で走破する必要があり、実際にそれを行うだけの機動性がマッハイェーガーには備わっているという事実を示してもいる。

 となれば――モビルドールトピアを墜としたマッハイェーガーが次に狙うのはこちらのフラッグであり、そのためにこちらのエリアに侵攻してくるまでに、精々五分程度しか時間は掛からないという事だ。

 

「……って事ぁ、何だ? つまり、アレか?」

 

 それに、こちらのフラッグを狙っているのはマッハイェーガーだけじゃない。コアバクゥと接敵する前にイツキが追っていたダナジンだって健在だ。

 流石にザムドラーグまで侵攻してくる事は無いだろうが……少なくとも、二機の敵機がこちらの懐まで差し迫って来ている状態である。

 (ひるがえ)って、こちらは三機中二機が撃墜され、復帰までに早くとも7分程度は掛かる状態だ。マッハイェーガーがこちらのエリアに侵攻して来る大凡(おおよそ)の時間である5分には、間に合わない。

 つまり、

 

「俺一人って事か? オメーら復帰するまでの間、こっち俺一人って事か?」

 

守らなければならないのだ。

 僚機が復帰し切るまでの間フラッグを。

 多少損害が発生しているのみのダナジンと、未だ無傷な上に異常な速さで走り回れるというマッハイェーガーから。

 

俺だけで何とかしろってかぁーっ!?

 

 ――DXフルバスター、一機のみで。

 




次回、コテツ孤軍奮闘!?

また遅くなるかと思いますが、どうかのご期待の程を。
では。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。