あ、それと今回の話を書くに当たって、第18話を少し訂正してます。大した変更ではないのですが、一応。
“プラネッツシステム”――そう呼ばれる機能が、コアガンダムには搭載されている。
コアガンダム本体とは別に用意した専用装備の集合体――“アーマー”を搭載した専用サポートメカ――“コアハンガー”との連携、及びコアハンガーに
当然ながら、このプラネッツシステムはイツキのコアガンダムにも組み込まれている。
というか、これこそがその機体サイズと並んでコアガンダムをコアガンダムたらしめている最重要要素。この独自の機構あるからこそ、コアガンダムは唯の小さいガンプラでは終わらない、他のガンプラとは一線を
そう、
本格的にGBNを始め、装備を換装する機構を持ったガンプラ自体はコアガンダム以外にもいる事を知った今でも、プラネッツシステムはコアガンダムだけが唯一持つ、コアガンダムのみの機能であると、そうイツキは認識していた。
だからこそ、彼は
「こ……“コアチェンジ”だって……?」
――エルドラバトルの動画内でヒロトが叫ぶのを何度も耳にした、プラネッツシステムの起動音声コード。
それと全く同じ言葉をヒムロが叫ぶや、空高く跳び上がったコアバクゥが追従していたサポートメカから分離したアーマーを全身に装着し――まるで、ヒロトのコアガンダムのように――姿を変えた、その光景に。
「ど、どーいう事だよ? まさか、あのガンプラにも……?」
似ている、とは思っていた。
名前も、通常のガンプラに比べて明らかに小さい機体サイズも、とてもコアガンダムに似ている、と。
だが、ここまでとは思わなかった。
プラネッツシステムまで――コアガンダムのものと
あまりにも予想外の事態。それが
『“マッハイェーガー”だよ』
「マッハ……イェーガー……?」
『“イェーガーアーマー”を装備した、コアバクゥの高速機動形態。――これが、僕達の
ヒムロから伝えられたその名をたどたどしく復唱してから、正面モニターの向こうに映るコアバクゥ、改め、“バクゥマッハイェーガー”へとイツキは目を向ける。
元のコアバクゥよりも一回り、二回り大きくなった機体。その頭部、四肢、肩や太腿などの様々な部分にはヒムロが“イェーガーアーマー”と呼んだ、
だが、そんな空気抵抗というものとは無縁そうな全体像以上に目を引くものが、その機体には備わっている。
背中だ。
コアバクゥの時は短い砲身が二本並んだ小型のレールガンがあったそこには、今は機体全長よりやや短い程度の大きさを持つ直方体状の物体が二つ、横に並んで背負われていた。
正面側からは、水色の枠を挟んで四角形の大きな穴が開いている以上の事は分からない。他の武装に比べて明らかに巨大なその物体が何であるのか掴めぬまま、ただただその異様から目を離せないイツキであったが、程無くしてその正体は明らかになった。
マッハイェーガーが四肢を左右に広げて身を屈めたその刹那、物体の後端部から激しく噴き出した青白い炎――ブースター炎によって。
そのブースター炎で、物体の正体が大型のブースターであったという事に
『いくよ』
――マッハイェーガーが、
前足が動き出す様が一瞬見えたかと思った、その瞬間に視界の中から、
ブースター炎に巻き上げられた僅かな砂煙のみが残ったそこを思わずイツキは凝視し、次いで、居なくなった敵機の位置を探るために周囲を見回そうとした。あれ、という呟きを口から
だが、いずれも彼には出来なかった。
ほんの一瞬、微かにだが、藍色の何かが左隣りを通り抜けたような気がした――その次の瞬間に発生した、モニター全体を覆い尽くす程の凄まじい
それと共に激しく揺れ出すコックピットに一瞬閉じてしまった目を開けるや、視界一面に広がる青空と太陽。体を覆う浮遊感。
その光景に、まさか、とイツキが思う間も無く、マッハイェーガーが再び姿を現す。
ワケも分からぬ間に
アーマーの装着によって延長されたその足先から、折り畳まれていた銀色の爪が展開される。収納していた爪を引き出すネコ科の動物
そうして、瞬時に赤熱化した三本の爪を振り下ろしたマッハイェーガーによって、為す術無くイツキはコアガンダム共々地表へと叩き落され、その衝撃に襲われる中で一瞬だけコンソール上に“DAMAGE OUT”の文字が表示されるのが見えた後――イツキは目の前が真っ暗になった。
『ゴメン!
そんな通信がイツキから掛かって来たのは、正面モニター左上のフィールド概略図上で大体中央近くにあった彼のマーカーが一旦消え、右上側――自軍エリア側の森林地帯内の
その撃墜報告に対し、特に声を荒げるような事も無く、おー、と逆さ被りの帽子の上から頭を掻きながらアイアンタイガーは応える。
「ま、しゃーねーわな」
片や、GBNどころかガンプラを始めてまだ一ヵ月も経ていない初心者。
片や、自分達より明らかに年上の大人達から頼られる程の腕前らしい、相手フォースのエース。
そんな二人がぶつかり合ったのだ。この結果自体は――欲を言えば、もう少し引き留めておいてほしかったところではあるが――当然の帰結であると共に、想定内であった。
加えて、あくまで今回のバトルで重要なのは互いのフラッグ。それさえ奪われなければ負けではないのだから、その過程で発生した個人の撃墜や敗北について一々怒りや不満を覚える必要も無い。
そして何より、
『――あ!
「
『見つけましたぁ!
「よっしゃあッ!」
そのフラッグの奪い合いについて既に王手を掛けていた俺様とゆかいな仲間達にとって、そんなのは
「でかしたぜトピアッ! そのまんまザムドラーグは無視して、向こうのフラッグ
トピアからの報告から一拍置いて、フラッグの位置を示す旗のマークがフィールド概略図上の左上――敵軍エリア側の森林地帯の、モビルドールトピアと相手のザムドラーグのマーカーからそう離れていない地点に現れる。
それを目にするや、アイアンタイガーは歯を剥いて勝ち誇った笑みを浮かべ、間を置かずサムズアップした右手をトピアの映る通信ウィンドウへと突き出しながら、彼女へ称賛と指示を飛ばした。
すかさず返って来る、はいですー、というトピアからの了解。
それに満足し、後は彼女が相手フラッグを奪取してバトル終了のアナウンスが鳴り響くのを待つのみ、と高を
『気を付けてトピア!』
そんな彼の心持ちとは対照的な警告がイツキから上がった。
その不意の声に
『さっきやられる前に、あのデアールってオジサンから助けてくれ、って通信があったんだ! 今、そっちに向かってる筈なんだ! あのコアバクゥってガンプラ――ヒムロ君が!!』
「おいおい、何言ってんだよオメーは?」
必死の口調で述べられたイツキの警告を、半ば呆れつつアイアンタイガーは一笑に付した。
「そのヒムロってのとオメーが戦ってたのがどの辺か、もう忘れちまったのか? 全然離れてただろーが、トピアんトコからよぉ」
撃墜される直前までイツキがヒムロと戦っていたのは、バトルフィールドのほぼ中央だ。それに対し、現在モビルドールトピアとザムドラーグが交戦しているのは敵軍エリアの中腹辺りであり、フィールド概略図で見る分にはこの二地点間の距離は
先程イツキの口から出たコアバクゥという言葉を省みるに、恐らくヒムロのガンプラはあの小さなバクゥタイプだ。見たところ、通常の“モビルバクゥ”や、その発展機である“ラゴゥ”や“ケルベロスバクゥハウンド”に備わっている
その事実は、実際にそのコアバクゥとやらと戦ったイツキの方が実感出来ている筈なのだが……?
通信ウィンドウの向こうでいやに焦った様子さえ見せるイツキに、次第に不可思議ささえ覚え始めるアイアンタイガーだったが、そこへ放たれた更なる言葉は、より一層彼を
『コアチェンジしたんだ!』
「ああ?」
『アーマー付けたんだよ、コアバクゥが! プラネッツシステムみたいなのが使えるんだ! コアガンダムみたく!!』
「……ああん?」
何で、んな言葉が出て来る?
つーか……
……何だそりゃ?
――という具合で、全く以て意味不明なイツキの発言に呆気に取られるしかないアイアンタイガー。
そんな、明らかに自分の発言が通じていない彼へとイツキが更に声を上げて叫ぶが、それでも意味が分からないものはなお分からないままであったし、何なら面倒臭くさえ思えた。
なので、がなり立てるイツキの声に些か
「――は?」
瞬間、彼は呆けた声を漏らす。
敵機を示す赤いマーカーが一つ、
そして、その直後だった。
『きゃああぁっ!?』
爆発音の連鎖と共にトピアの悲鳴がコックピット内に響き渡ったのは。
その瞬間、自分の身に何が起こったのか、トピアには全く分からなかった。
下方に広がる森の奥の方――生い茂る緑の僅かな隙間の向こうに相手フラッグを見つけ、それを確保するために、眼下の木々の中からザムドラーグが絶え間なく放って来るバルカンやビームを避けつつ進もうとしただけだった。
そのために操縦桿を一気に押し込もうとして――突然、金属が
まるで、攻撃を受けたように。――敵機や攻撃の接近を知らせるアラートが
その不意を打つような衝撃に、一瞬目を閉じてしまうトピア。
その僅かな間に、本来ならば何の苦も無く
そうして現在、爆発の衝撃に流されるように墜落していたモビルドールの態勢を何とか整え、その場に座り込ませる形で軟着陸させる事で事無きを得ていたトピアは、
『おいトピアッ! どうした、何かあったのか!?』
「……うう~ん……攻撃されたみたい、です~ぅ……」
揺さ振られてくらくらする頭に目を瞬かせながら、焦った様子のアイアンタイガーからの通信に応えていた。
「えっと……ダメージは、ちょっと大きいですぅ。それに荒野エリアのほうまで来ちゃいましたぁ。――でも、まだいけますー」
まず前方下部のコンソールに、続いてモニターへと目を遣りつつ、順にトピアは現状を報告していく。
コンソール上に表示されている機体ステータスは、機体のほぼ全体に被弾があった事を報せており、それによるダメージ総量は機体総エネルギーの大体二、三割程度に達するようだ。
その中でも、特に腰部のスカートアーマーと、そのすぐ傍のGNスラスターユニット、それにGNブルームメイスの後部から内蔵GNコンデンサーの一部に掛けてのダメージが大きく、その影響でモビルドールそのものの飛行速度や機動性にほんの数%だが性能の低下が見られる他、GNブルームメイスのフライトモードが使用不能になってしまっていた。
加えて、モニターに映る周囲の景観は先程までの森林エリアの上空のそれではなく、どこまでも乾いた土地が広がる荒野エリアのそれへといつの間にか切り替わっている。直前のザムドラーグからの攻撃を回避出来ず直撃してしまった事までは覚えているため、それによってここまで押し出されてしまったのだろう。お蔭で、せっかく発見した――事によってフィールド概略図上にも位置を示すマーカーが新たに加えられた――相手フラッグから幾分か離されてしまった。
だが、まだ大丈夫だ。
飛行能力が多少
――ただ、一つ気がかりな事があった。
『何だよ、ビビらせやがって……。まー、良いや。そんなら、今度こそフラッグを――』
「でも、分からないんですぅ」
『あん?』
「攻撃して来たのがだれか、分からないんですー」
モビルドールの目を通して確認してみれば、ブルームメイスやGNスラスターユニットには鋭利な刃で引き裂かれたような裂傷が出来ていた。この傷がモビルドールの飛行性能の低下やフライトモードの使用不可の原因なのは間違い無いのだが、しかしザムドラーグが撃っていたバルカンやビームではこういった傷にはならない。
つまり、先程のあの瞬間にいたのだ。ザムドラーグとは別の場所からトピアを攻撃した
そうなれば、その何者かの正体が問題となるのだが――その答えを考える時間はトピアには無かった。
一瞬だけ、視界の右端を藍色の影が横切ったように思えた――その一拍後にけたたましく鳴り響くアラートと共に突如吹き込むや激しくモビルドールを揺らした砂塵が、思わず身を屈めてしまった彼女からその
損傷としては至って軽微だが、しかしほんの一瞬注意を外した、その僅かな間に付けられたその傷は、それが
それ故につい、あれ、と呆け掛けてしまうトピアであったが――
その動作が完了するか否かのタイミングであった。
モビルドール目掛けて急接近していた
同時に、漸くトピアもその姿をしっかりと目に入れる事が出来たのだが、意図せずしてその口から呟きが漏れた。
「おっきくなってる?」
相手の――Zi-ソウルのガンプラにそのタイプの機体がいる事は既に分かっていた事だったし、直前のイツキからの警告もあったので、襲って来たのはその機体であろうという事は何となくだが予想出来ていた。
ただ、いざ現れたそのガンプラは件の――トピアの記憶の中にある機体とは些か以上に違っていた。
赤く熱が
頭部を振り被らせ、その左右に搭載した“ビームファング”から光の牙を灯させるや、それを眼前のモビルドールへと突き立てんがために、ヒムロはマッハイェーガーに頭部を勢い良く振り下ろさせた。
果たしてその攻撃が読まれていたのか、それとも
取り付くマッハイェーガーを引き剥がすためのその行動に対し、ヒムロは逆らう事無く、ほんの少しだけ前足を屈伸させて自身の機体を跳び退かせ、更に宙を滑空している間に両前足の三本爪――“フォールディングヒートクロー”の赤熱化を止め、爪先の中へと折り畳んでおく。
そうして後方の地面に着地するが、そのタイミングを狙ったようにモビルドールが左腕を伸ばし、そこに装備したポシェット型の手甲から二門の砲身を伸ばして来る。
「遅いよ」
それに気を取られる事も無く、ヒムロは冷静にマッハイェーガーを右向かせ、流れるように
刹那、ゴゥ、という爆音が背後から上がる。
フレキシブルアームを介してマッハイェーガーがその背に背負う一対の大型ブースター――高機動戦闘用に調整したイェーガーアーマーの最大の特徴にしてその
その大出力が発生させた爆炎の如き勢いのブースター炎に押し出されるようにマッハイェーガーが一歩踏み出し、そして――藍色の流線と化す。
恐らく、そういう風にしか相手には見えていない。あるいは、視界からマッハイェーガーの姿そのものが
そう思わせる程の圧倒的速度と、その速度に一瞬で至る程の爆発的な加速性能。それこそが、先のイツキとの戦闘を終えてからこの場に極短時間で辿り着くに至った理由であり、バクゥマッハイェーガーという形態の最大の持ち味なのだ。
それを
その様子を視界の端に収めつつも、ヒムロが正面モニターから目を離す事は一切無い。
マッハブースター、及び各部に内蔵したスラスターの後押しを受けて走るマッハイェーガーのモノアイを通して見た周囲の景観は、最早、正面から現れては即座に後方へと流れていく線の集合体にしか見えない。が、実際には進行を阻害する大き目の岩盤や、
さて、そのマッハイェーガーの弾丸染みた機動を以て易々と攻撃を避けたヒムロは、ほんの数秒と掛からずモビルドールとの距離を大きく開けたところで、前へ押し込んでいた操縦桿の左側を少しずつ引き寄せていく。
その操縦により、速度を維持したまま大きく弧を描くようにマッハイェーガーを走らせて進路を変更。再び正面――モニターの中央にモビルドールの姿を据えると共に、再度前進させ、素のコアバクゥのままならどれだけ速くても数十秒は掛かっているだろう距離をほんの一瞬で走り切る。
そうして、目と鼻の先まで接近したマッハイェーガーの存在に気づかないまま背を向けているモビルドールの隙だらけの背中を目前にしたヒムロは――特にその隙を突くような事も無く、その左隣りを通り抜けた。
――いや、この表現は正確ではない。
通り過ぎたマッハイェーガーの、その後ろ姿を狙おうと左腕を持ち上げたモビルドールへと襲い掛かる砂嵐――マッハブースターや各部スラスターの後押しを受けた超高速疾走によって圧縮された気流が後方へ流れ、急速的に膨張する事によって発生する
極端に機体重量の軽い機体――SDサイズのガンプラや、それこそコアガンダムのような――ならばそれだけで空高く
そんなモビルドールを後目に、先程と同じように大きく円弧を描くようにしてヒムロはマッハイェーガーの進路を変更。もう一度正面にモビルドールの姿を据えると共にマッハブースター及び各部スラスターを一旦停止させ、その後も掛かっていた慣性に機体が
そして、踏ん張るように四本足を広げてマッハイェーガーが完全に静止するのと同じくして、新たに選択した武器のトリガーを引いた。
コアチェンジに際して、背部から胸部へと移設されたコアレールガン。及び、側頭部に新たに追加された“ビームバルカン”のトリガーを。
過たず放たれる、一定間隔置きの砲弾の連射と、隙間無く連なる無数のビーム。
降り注ぐ雨の様にそれらがモニターの向こうで蹲っているモビルドールの装甲を叩くと共に、周囲を漂っていた砂埃を更に濃密なものにし、その姿を見る見る内に覆い隠していく。
最も、これだけでは倒せないだろう。
機動性と最高速度を特化した形態であるマッハイェーガーの武装は取り回しの良さや
加えて、向こうのモビルドールは見ただけでそうと分かる程に完成度が高い。相応に耐久力も高いだろうから、その装甲をマッハイェーガーの攻撃のみで削り切って
そう、容易く倒し切れる相手では無い。
先の――
(……いや)
きっと違う、とヒムロは心中で否定する。
先程のイツキとの戦闘の、その終わり際の流れを思い出すや、何かの間違いだったんだ、と頭を振る。
そうだ、そんな筈は無い。
コアガンダムが――
きっと……そうだ、
互いにフラッグが取られるまでは何度でも復帰出来る今回のバトルだからこそ、一度やられて見せて、こっちが油断したところで本気を出す。そういう作戦だったんだ。そうに違い無い。
そうでも無ければ、アーマーの一つも見せない内からあんな無様を……。
――と、思考に
直前まで立っていた辺りが盛大に爆ぜたのは、その直後の事であった。
激しく巻き上がる土砂。その一部が着地したマッハイェーガーの足下付近に降り注ぎ、前方の空間に薄らと砂埃の
その帳の向こう――コアレールガンとビームバルカンの弾幕から突如飛び出すや、その勢いのまま突進すると共に手に持つ箒型の武器を振り下ろして来たモビルドールの
「トランザム……!」
頭部左右の、金色のツインテールの根本辺りに増設されていた二基のGNドライブを見た時から、その可能性自体は頭に浮かんでいた。
だがそれでも、元からGNドライブを搭載しているガンプラでも一定以上の完成度が無ければ使えないそれを、後から付け加えたモビルドールが何の問題も無く発動しているその光景には、分かっていても目を見張るものがあった。
だが、その衝撃にいつまでも
周辺の石や土塊を巻き上げながら、砕けた地面に穂先が根本近くまで埋まっていた箒型の武器をモビルドールが引き抜いた――かと思った次の瞬間には、
「っ! 今度は速いね!」
トランザムの
その操作を受け、マッハイェーガーが背のマッハブースターの噴射口を前方へと向け、その爆発的なブースター炎をモビルドールへ吹き付けるように噴射。先程よりも大きく、素早くその場から後退した事で、その直後に紅の残像を伴って振り払われた箒の
そうして、後方十数mの辺りに着地すると共に噴射を止めたマッハブースターを元の向きへと戻したヒムロは、その視線を再びモビルドールへと合わせる。
「けど――」
箒を振り抜いたモビルドールは、その慣性のままに機体を捻って背を向けていた。今にも、その場からどこかへ飛び去ろうとしているかのように。
その敵機の様子に対して、ヒムロは特に驚きを感じもしなければ、動じたりもしなかった。
分かっていたからだ、モビルドールがまだ自分達のフラッグを狙っている事を。マッハイェーガーの弾幕から抜け出してから二回行われた攻撃の、そのどちらも
だから、彼は間髪入れずに武器スロットを呼び出し、新たな武器を選択。すぐさまそれら――両肩に一基ずつ搭載しているワイヤークロー、“パンツァーアイゼン”を、
「――僕達から逃げ切れるほどじゃない!」
紅に染まる機体をブレさせて飛び立つ間近であったモビルドール向けて撃ち込んだ。
過たず、放たれた二つのクローがそれぞれモビルドールのツインテールの右側と、箒の柄にそれぞれがっしりと食らい付く。
こうなれば、こちらが指示を送らない限りクローは――それこそ、トランザムによって全性能が大幅に増加しているガンプラの力であっても――決して外れない。
そう、決して、だ。
よって、自らに噛み付いたクローをチラリ、と緑色のカメラアイで見遣ったモビルドールが紅の残像を尾に空高く飛び上がった後も、クローは外れず、そこから伸びるワイヤーも千切れたりはしない。
よって――パンツァーアイゼンを介して高速で飛行するモビルドールに、マッハイェーガーが引っ張られる。引っ張られるままに、その場から走り始める。――
元より、マッハイェーガーは機体出力には優れない形態だ。トランザム中のモビルドールを力で押し留めようとしたところでまず不可能。無駄だ。
だからこそ、その力を利用する。
足が地面から離れてしまわないよう、少しずつパンツァーアイゼンのワイヤーを伸ばしながら、トランザムの後押しのまま強引に飛び続けるモビルドールの力と速度をそのまま
そうして、ある程度マッハイェーガーを走らせたところでヒムロはマッハブースターを最大出力で点火。十分に初速の乗った機体を一気に加速させつつ、更にワイヤーの
するとどうなるか?
本来なら長い距離を走らせてやっと得られる程の速度を極短時間で得たマッハイェーガーが、紅蓮を纏いながら先行していたモビルドールの横に並び、そのまま追い越す。それと共に、距離が縮まるに連れて一旦は
そのままいけば、今度はマッハイェーガーがモビルドールを牽引する形になるだろう。
しかしそうなる前に、ヒムロは両の操縦桿を持ち上げて疾走中のマッハイェーガーを跳躍。四本足が一度に地面から離れると同時に、パンツァーアイゼンのワイヤーの巻取りを始める。
これにより、機体に掛かっていた慣性とマッハブースターや各部スラスターからの噴射のみを推進力に、そして張り詰めたままのワイヤーで繋がったモビルドールを
そうして、
同時に
コンソール上にポップアップした、あるコマンド。
最初にこの場に辿り着いた際、フラッグへと向かっていたモビルドールを止めるために放ったのと同じ――“FINISH MOVE”の表記が冠されたその一撃の、発動条件が。
それを合図に、ヒムロは武器スロットを引き出し、フォールディングヒートクローを選択。瞬時に両前足の爪先から展開・赤熱化した三本爪を
「デアールさん! モビルドールの動きを止めます! 後は――」
『おう! 任せてくれぃ!』
丁度森林から抜け出るや、既に背のビーム砲とバルカンをザムドラーグに構えさせていたデアールへそう追撃を
「いけッ! “マッハストライザー”!!」
『ごめんなさーい! やられちゃいましたー!』
フィールド概略図上からマーカーが消えたかと思いや、その数秒後に開いた通信ウィンドウと共に姿を現したトピアが頭を下げて来る。
その姿に、意図せず、は、という声がアイアンタイガーの口から零れ出た。
「お、おいおい、ちょっと待て? やられた? どいつにだよ?」
震える声でそう尋ねるも、直前に状況報告を受けていたアイアンタイガーはトピアが誰に撃墜されたか既に知っていた。
知ってはいたが、聞かずにはいられなかった。
そうしてしまうくらいに、彼は動転していた。
『えっと、ザムドラーグちゃんなんですけど、でも、ザムドラーグちゃんだけじゃなくて、あの――』
「コアバクゥ、って奴か?」
『あ! はいですー!』
ああ、知っていたとも。
ザムドラーグだけならば、トピアは撃墜されていなかった。火力は結構あったようだが、それをモビルドールトピアにぶつけるには動きが遅かった。だから
その土壇場での逆転が起こったのは、間違いなくコアバクゥが介入して来たからだ。
『さいしょに見たときよりおっきくなってたんですぅ。それにもの凄くはやくなってて』
ああ、それも聞いた。
トピアの前に現れたコアバクゥは、バトル前に偶然見た時のような、極端に小さい姿では無かったらしい。更には、目で追い切れない程にその動きも速く、逆に彼女の方が翻弄され掛かっていた。
そして極め付けに、
『それに、さいごの攻撃が見えなくって……』
相手は遠距離まで届く、不可視の攻撃を持っている。
その威力自体は大したものではない――と言っても、トランザムで耐久力も一時的に増してたモビルドールトピアの動きを止められる程度にはある――ようだが、しかしどうやって行われたのか全く正体の掴めない攻撃というのは、それだけで厄介極まりない。
『だから言ってるじゃん! あのコアバクゥってガンプラ、コアチェンジしたんだって! イェーガーアーマーってアーマー付けて、マッハイェーガーってのになったって!』
コアバクゥは、ヒムロは強敵である。
トピアが映るウィンドウの隣の通信ウィンドウからそうがなり立てるイツキの言っている事は相変わらず意味が分からないが、詰まる話、彼が伝えたいのはそういう事であるというのは分かった。
ああ、強敵だ。間違い無く強敵だ。
初心者のイツキと出来立てのコアガンダムはともかく、俺様とゆかいな仲間達のガンプラで最も出来が良いモビルドールトピアすら、僚機の協力込みとはいえ、左程時間を掛けずに倒してしまったのだから。
ああ、強敵だとも。エースと呼ばれていたのも頷ける。厄介極まりない。
……だが、今の問題はそこじゃあない。
「いや、つーか、ちょっと待て? トピアお前……
『はいですー』
「復帰まで、あとどんくらいだ?」
『えっと――まだ9分と50秒くらいありますぅ』
「……イツキ、オメーは?」
『ええっと俺は――7分だ、もうちょっとで残り7分になる』
その時間差は大体三分弱であり、それがイツキを撃墜したヒムロとコアバクゥ、もといバクゥマッハイェーガーがトピアの元まで辿り着き、彼女も撃墜するまでに掛けた時間となる。
それを為すためには、その時点での二人の間の距離約50kmをそれよりも短い時間で走破する必要があり、実際にそれを行うだけの機動性がマッハイェーガーには備わっているという事実を示してもいる。
となれば――モビルドールトピアを墜としたマッハイェーガーが次に狙うのはこちらのフラッグであり、そのためにこちらのエリアに侵攻してくるまでに、精々五分程度しか時間は掛からないという事だ。
「……って事ぁ、何だ? つまり、アレか?」
それに、こちらのフラッグを狙っているのはマッハイェーガーだけじゃない。コアバクゥと接敵する前にイツキが追っていたダナジンだって健在だ。
流石にザムドラーグまで侵攻してくる事は無いだろうが……少なくとも、二機の敵機がこちらの懐まで差し迫って来ている状態である。
つまり、
「俺一人って事か? オメーら復帰するまでの間、こっち俺一人って事か?」
守らなければならないのだ。
僚機が復帰し切るまでの間フラッグを。
多少損害が発生しているのみのダナジンと、未だ無傷な上に異常な速さで走り回れるというマッハイェーガーから。
「 俺だけで何とかしろってかぁーっ!?」
――DXフルバスター、一機のみで。
次回、コテツ孤軍奮闘!?
また遅くなるかと思いますが、どうかのご期待の程を。
では。