ガンダムビルドライザーズ   作:shisuko

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長らく失踪してしまって申し訳ありませんでした。漸く新話投稿出来ました。
長い空白を取り戻していきたいと思っておりますので、どうかよろしくお願いいたします。


第22話 初フォースバトル! VS Zi-ソウル!! ⑤

「もう来やがったかっ……!」

 

 思わぬ事態に一瞬虚を突かれたのも(つか)の間、頭を振って調子を取り戻したアイアンタイガーは舌を打った。

 引き()るその視線の先に存在するのは一機のガンプラ。

 両腕のバルカンを奪い、その勢いのままあと一歩で撃墜というところだったノフリのダナジンを(かば)うように四本足で立ち(ふさ)がり、彼のDXフルバスター向けてピンク色のモノアイを油断無く向けて来る――バトルが始まる直前に見た、あの白一色機体とは丸っきり違う大きさの――白と藍色のバクゥタイプ。

 

(マジで違うガンプラじゃねーか! 一体どーなってやがる!?)

 

 デアールとノフリのガンプラが、それぞれザムドラークとダナジンである事は既に割れている。となれば、今回のバトルは3VS3なのだから、残るあの小さい――コアバクゥというらしいガンプラこそがヒムロの機体となる筈だ。

 なのに、実際にこうして目の前に現れたのは、同じバクゥタイプという以外は機体サイズも装備もまるで違うガンプラである。

 確かに、事前にイツキやトピアからの話は聞いていたし、異常な速さでフィールドを横断するマーカーという証拠もあったが、それでも、あのコアバクゥは何だったのか、今目の前に立つこのマッハイェーガーという機体はどこから現れたのか、という疑問と困惑がアイアンタイガーの内から沸いて出て来るのは避けられなかった。

 ……ただし、その疑問と困惑の原因はモニターの向こうのガンプラとは別にもう一つあるのだが。

 

『気を付けろ、コテツ! コアバクゥは()()()()()()出来るんだ! もしかしたら、他にもアーマーがあるかも!』

 

 モニター右の通信ウィンドウの向こうから身を乗り出すイツキのその訴えがそれであった。

 

()()()()()()()()!! ――はともかく、オメーはさっきから何ワケ分かんねぇコト言ってんだ!」

 

 消えたコアバクゥと、何処からともなく現れたマッハイェーガー。

 その謎の答えを知っていて、尚且つ今アイアンタイガーにそれを伝えられる可能性があるのは、恐らく最初にヒムロと会敵したイツキだけだ。

 だから、彼もその答えを伝えようとしているのだろうとはアイアンタイガーも察しているところなのだが……肝心(かんじん)のその内容がどうも分からない。

 

「さっきからコアチェンジコアチェンジうるせーんだよ! 何で今RX78-2(初期ガン)の話が出て来んだっつーの!?」

 

 コアチェンジといえば、“機動戦士ガンダム”にてコアファイターと上半身(Aパーツ)下半身(Bパーツ)をRX78-2へとドッキングさせる際の掛け声の筈だ。割とマイナーよりな劇中用語のため、まだまだガンダム初心者のイツキがそれを知っていた事自体がまず驚くべき事ではあった。

 が、それはともかくとして、そのコアチェンジを何故バトル真っ最中のこの状況で彼がしつこく連呼しているのか、その言葉に一体何の意味があるのか? ――その辺りの事がアイアンタイガーにはまるで分からなかった。

 同時に、そんなイツキの言動にいい加減(いら)つきを溜めていた彼はそう怒鳴り返したが、

 

『何言ってんだよ!? コアチェンジって言ったらコアガンダムとアーマーの事に決まってんだろ! 何でそこで普通のガンダム出て来るんだよ!? 意味分かんないのはお前だ!!』

 

すかさず、打てば響くとばかりに怒声が彼から返された。

 

「あ゛あ゛!? んだとテメー!?」

 

『何だよォ!?』

 

 そうして、互いに言い返し合い、それが自然の流れとばかりにウィンドウ越しに睨み合いを始める二人。

 その勢いは凄まじく、ケンカはダメですー、というトピアの困ったような仲裁の言葉もまるで耳に入らなかったが――今は(まが)いなりにも戦闘(バトル)中。

 

『あうぅ~……あ、ダナジンちゃんが!』

 

「何ぃっ!?」

 

 続くトピアの敵機を名指した言葉までは流石に捉え損なうような事は無く、反射的に正面へと振り返るアイアンタイガー。

 その目が、マッハイェーガーの後方で林立する木々の方へ駆け込もうとしているノフリのダナジンの姿を捉えた。

 

「行かせるかっつの!」

 

 ここでノフリを逃がせばフラッグ捜索を再開される。

 そうはさせまいと、すぐさまアイアンタイガーは武器スロットからブレストランチャーを選択し、瞬時に照準を合わせて発射しようとする。

 しかし、

 

『させないよ』

 

「うぉっ……!?」

 

不意の声と共に走った振動と金属音に溜まらず(ひる)んだ事によって、それは叶わなかった。

 何だぁ、とすぐさま顔を振り上げるアイアンタイガーの目が、(あやま)たずその姿を捉えた。

 つい一瞬前まで正面で立っていた――動き出すような素振りなどちらりとも見られなかった――筈のマッハイェーガーが、(すべ)るように低空を後退していく様を。

 

「いつの間に……!」

 

 これについても事前にイツキとトピアから聞かされていたとはいえ、文字通り目にも止まらない動きを見せる敵機の素早さには舌を巻かざるを得ない。

 そうして驚愕に目を歪ませるアイアンタイガーの視線の先、十数m離れた地面の上に舞い落ちる羽のような軽さでマッハイェーガーが着地する。

 と同時に、辺りに声が響く。

 

『ノフリさんが君達のフラッグを見つければ、このバトルは僕達Zi-ソウルの勝ちだ』

 

 ヒムロの声だ。

 オープン通信によってマッハイェーガーから放たれるその声が、淡々と告げる。

 

『邪魔はさせない。暫くの間、僕達に付き合ってもらうよ』

 

「――冗談(ジョーダン)じゃねー!」

 

 言い返すや否や、アイアンタイガーはトリガーを引いてブレストランチャーを発射。

 放たれた砲弾は速やかにマッハイェーガーへと飛んで行き、その白と藍色の機体――ではなく、その数m前方の足下に着弾。砲弾そのものの炸裂による黒煙と巻き上げた土埃(つちぼこり)による、()()()()()を発生させる。

 それを目にする間も無く、すぐさまアイアンタイガーはDXフルバスターを右方向へ反転。正面モニターの先に森林エリアの木々を映すと共にスラスターを点火し、機体を急速前身させつつ叫び返す。

 

「こちとらのんびり付き合ってやる気なんて無ぇんだ! とっとと行かせてもらうぜ!」

 

 既にノフリのダナジンは森林エリアの方へと戻ってしまっている。急いで対処せねば、その内フラッグを見つけられてしまう。そんな状況で、イツキとトピアを数分と掛からず倒せてしまえる――自分自身もヘタすればやられかねない――ヒムロを真正面から相手取っている余裕など無い。目くらましでも何でもして、速やかにこの場から離脱すべきだ。

 それに。

 

(あーゆー動きの速ぇ奴は細かい動きが出来ねぇって相場(そーば)が決まってる! 森ん中に入っちまえばこっちのモンだ!)

 

 確かにマッハイェーガーの加速性能は恐るべきものだが、それが十全に発揮出来るのは障害物らしい障害物が無い荒野エリア内だけの筈。

 そこら中に立ち並ぶ木々がそのまま無数の障害物と化す森林エリアならば、あの加速性能は(むし)足枷(あしかせ)になる。如何にヒムロの操縦技術が秀でていようと、一切木々に接触させる事無く、あの目にも止まらない速度で動き回るなど到底不可能だろうから、追跡を()く事も出来る筈だ。

 ――そういう打算から飛び込もうとしていた木々の合間まで、あとほんの少しというところだった。

 不意の短い金属音と共に、スラスターの勢いのまま赤土の地面の上を進んでいたDXフルバスターの機体が、ガクン、と()れ、その動きを止めたのは。

 何事かと振り返って見れば、背中から垂れ下がっていたツインサテライトの砲身二門の半ばにUの字型のクローが噛み付いており、更にその後端から伸びるワイヤーを目で追った先に、四肢の先から展開した三本爪を地面に突き立てて踏ん張るマッハイェーガーの姿があった。

 

「俺様のフルバスターと綱引きでもしようってか!? 上等だぁ!」

 

 そう叫び返しつつ、アイアンタイガーは両の操縦桿を更に前へ押し込もうとする。

 最初の不意打ちと、逃走するダナジンへの攻撃を妨害された際の二撃目のみが判断材料なので確証は無いが、恐らく敵機は加速性能や速度に反して、火力や出力は然程(さほど)高くは無い。逆にそういった方面の方が優れているDXフルバスターならば、こんなワイヤークローの拘束(こうそく)など簡単に振り解けると、そう踏んでの判断だった。

 だが、彼はその操作を行えなかった。

 

『コアチェンジ! ――()()()()()!』

 

 オープン通信越しにそんな声が聞こえた。

 かと思ったその刹那――マッハイェーガーが()()()()()()()()()()

 比喩(ひゆ)でも何でもない。

 こちらに繋がるワイヤーが伸びたままの肩の部分も含めた、敵機のあらゆる部位が唐突(とうとつ)に、文字通りの意味で四方八方へと、勢い良く飛散したのだ。

 その光景は、傍から見れば異常事態としか言い様が無い。それをモニター越しに展開されたアイアンタイガーが、直前まで頭に描いていた行動も忘れて呆気に取られるしかなかったのも止むを得ないというものだ。

 (むし)ろ、そんな心理状態にありながらも、飛び散る無数の藍色の中から()()()()が飛び出した事に気づき、無意識にそれを目で追う事が出来ただけ上出来というものであった。

 

「がっ!?」

 

 不意に走る衝撃。

 それ自体は大したものでは無かったが、呆けるあまり背部スラスターすら一時的に停止させてしまっていたDXフルバスターが耐え切れず、未だ噛み付いたままのワイヤークローから牽引力もあって、その場で尻餅を突いてしまう。

 その際に発生したズゥン、という重低音と微かな揺れの中、正面モニターの奥へと後退していく()()を目にしたアイアンタイガーは、反射的に身を乗り出していた。

 

「何だとぉ!?」

 

 驚愕の叫びが彼の口を突いて出る。

 それもまた止むを得ない事だった。

 何せ、その原因となった()()は――白い頭部と胴体に、グレーの四肢と金色の(やじり)状の爪を持った、その()()()()()のガンプラは――あの()()()()()()()()()()()()

 当然ながら、アイアンタイガーの脳裏に疑問が噴き出す。――何処からともなく現れたマッハイェーガーと入れ替わるように何処かへと消えてしまった筈のコアバクゥが、何故今になって、何処から現れたのか、という疑問が。

 しかし、その答えを悠長(ゆうちょう)に探る暇は無い。

 直後に小気味良い音を連鎖させ、コアバクゥの後方に広がる木々の隙間から白煙の尾を引いて空へと飛び出した無数のミサイルが、その疑問ごと思案の時間を奪ったがために。

 

「げっ!?」

 

 反射的に上空を見上げるアイアンタイガー。

 それに続くようにして、上昇していたミサイルの群れが一様にヘの字の軌道を描いて、その進行方向を変える。

 斜め下方――DXフルバスターとコアバクゥへ降り注ぐ進路へと。

 それを察知したアイアンタイガーは、すぐにミサイルの着弾範囲から逃れるために、操縦桿を力一杯引き寄せる。

 それによって急速後退を始め――るのとほぼ同じくして、噛み付いていたワイヤークローが外れ――たDXフルバスターとすれ違うように、その右隣りを目にも留まらぬ速さで何かが通り過ぎる。

 その何か――所々に藍色の装甲を纏った、サポートメカらしき鏃型の戦闘機が、すでに左方へと駆け出していたコアバクゥに追従するように、その後方5m程度の位置に着き、そして。

 

『コアチェンジ! アーマーコール――イェーガー!』

 

 高く跳躍(ちょうやく)したコアバクゥと共に飛び上がったその機体が、()()()()()()()()()()。――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だが、今度はこれだけでは終わらない。

 続けて、先頭を滑空するコアバクゥの各部が変形。四散したサポートメカのパーツをビット兵器か何かのように呼び寄せ、部分部分で形状が変わったその機体に(まと)っていく。

 そうして、全てのパーツを装着し終え、再び地面へとその足を下ろしたコアバクゥは――。

 

『ゴー! ――()()()()()()()()!!』

 

 ――つい先程、入れ替わるようにアイアンタイガーの目の前から消えた筈のバクゥマッハイェーガーへと、その姿を変えていた。

 

 

 

『かっ、換装だとぉ! うおっ!?』

 

 地面に降り注ぐミサイルの雨。その炸裂によって連鎖発生する爆炎と、それらが巻き上げた土片に(あお)られつつも、森林エリアから離れる方向へ後退する事で直撃を回避していたDXから聞こえたその驚愕の(こも)った声に、ん、とヒムロは片眉を上げた。

 少し意外な反応だった。

 市販のモビルバクゥからしてバックパック(ウィザード)の換装機構を持つ機体であるとはいえ、あちらとは装備の換装範囲が大きく異なるのだから、コアバクゥの換装機構そのものに驚かれる事自体に別に不思議は無い。割と良くある事だ。

 ただ、今回の相手の場合は僚機(りょうき)にコアガンダムがいる。チームメイトのガンプラがどういう機体かは当然把握(はあく)しているだろうから、コアガンダムと近い要素の多いコアバクゥが似た換装機構を備えている事にも既に行き付いていてもおかしくない。――そういう想定をしていたのだが、実際に返って来た相手からの反応は、今やっと知った、と言わんばかりのものであった。

 無論、思い(すご)していただけ、と言われればそれだけの話でしかないのだが。

 なので、すぐに自らの内に沸き掛けた疑問をヒムロは振り払い、両の手に握る操縦桿を前へ強く押し込んだ。

 それにより、再びの換装(コアチェンジ)によって背に再装着されたマッハブースターが点火。ゴゥ、と音を立てて吐き出されたブースター炎に後押しされるままに、マッハイェーガーが脱兎の如く駆け出す。

 向かう先は当然、変わらず後退を続けて迫るミサイルの群れから逃れているDX!

 

『ちぃっ!』

 

 鋭く響くアイアンタイガーの舌打ち。

 それとほぼ同時に、DXの各部に彫り込まれた金色のラインが一際強く輝き――迫っていた数発のミサイルが独りでに(ひしゃ)げ、爆発した。まるで、見えない壁か何かに阻まれてしまったかのように。

 

「防護フィールドか……!」

 

 スーパーマイクロウェーブの受信時、放熱した余剰エネルギーが結果的に敵機の接近を阻む壁としても機能するガンダムDXの能力。原形機ではあくまで放熱時の副次的機能だった筈だが、どうやらあのDXの改造機はそれを意図的に発生させる事が出来るらしい。

 その事を悟ったヒムロは(わず)かながら驚き、そして笑い掛けた。

 

()()()()()()。もう少し使われるのが早かったら、ミサイルだけじゃなくてマッハイェーガーも止められてたよ」

 

『ぐぉおおぉ!』

 

 後方――既に大きく距離の離れた場所で、防護フィールドの範囲内にマッハイェーガーを巻き込めず、逆にその疾走によって発生した暴風に機体を(かが)めて耐えているDXと、その中で呻き声を上げているアイアンタイガーへと。

 とはいえ、マッハイェーガーが発生させる暴風に通常(18m程度の)サイズのガンプラを巻き上げられる程の力は無い。そこに加えて、明らかに原形機よりも機体重量や出力が上がっている事が見受けられるあのDXが相手では、風による拘束もそう長くは続かないだろう。

 

『……っ! んにゃろぉ、やってくれんじゃねぇか!』

 

 案の定というか、即座に態勢を立て直したDXが疾駆し続けるマッハイェーガーの方へと向き直り、間を置かず展開した両肩と両膝からミサイルを一斉発射して来る。

 

(あれは――レオパルドのショルダーミサイルとホーネットミサイルか?)

 

 両肩から20発以上、両膝から2発飛び出したミサイルは、どちらも想像通りの物なら高い威力と、それを確実に標的にぶつけるための追尾力を備えているだろう。実際、白煙の尾を引きながら正確にマッハイェーガーの後を追い駆けて来る。

 厄介な攻撃になっていた事だろう、()()()()()()()()()()()()()

 悲しいかな、マッハイェーガー相手に使うにはミサイルの群れの飛行速度は余りに遅く、肩越し見えるその機影は見る見る内に小さくなっていく。

 そうして、走り続ける内に遂に追尾範囲を抜けたのか、まっすぐにマッハイェーガーへと先端を向けていたミサイル達の動きがブレ出し、それぞれが地面へ、上空へ、森林エリアへの境界に並ぶ木々へと進行方向を乱れさせて爆散した。

 

「当たらなければどうという事は無い――って、言いたいところだけど」

 

 視界の隅で幾つも花開いた爆炎に油断も安堵もする事無く、ヒムロはゆっくりと操縦桿を右へと傾け、マッハイェーガーを旋回させていく。

 遥か後方――自らが放ったミサイルが敵機を仕留めたかどうかなどまるで気にならないとばかりに、再びバーニアを噴かせて森林エリアの方へと急行するDXの方へと。

 最初から気づいていた。アイアンタイガーの狙いは未だにフラッグ捜索に向かったノフリで、ミサイルは自らもそちらへ向かう時間を稼ぐための囮だ、と。

 

「言った筈だよ? 僕達に付き合ってもらうって」

 

 バクゥ本体の背とフレキシブルアームで繋がったマッハブースターは前後左右自在に動く。その微調整も加える事で、速度を落とす事無くほんの数秒でマッハイェーガーが旋回を終えると共に、ヒムロは一旦操縦桿から離した右手をコンソールへと向かわせ、指を走らせる。そこで必要となる操作を終わらせ、再び操縦桿握り直すや、力一杯前へと押し込んだ。

 刹那、既にマッハブースターから放出されていた莫大なブースター炎の勢いが更に増し、マッハイェーガーを更に加速させる。

 一歩地を踏む毎に周囲の景色が流線と化して流れ、豆粒の様に小さくなっていたDXの像が見る見る内に拡大していく、その最中にも速度が増していく。全力疾走で山を駆け上がっていくかのように。

 そうして、遂に機体速度が音速(マッハ)という頂点へと達した瞬間、ヒムロは両の操縦桿を持ち上げ、上空目掛けてマッハイェーガーを高く跳び上がらせた。

 同時に、マッハイェーガーの両前足の爪先からフォールディングヒートクローを展開。瞬時に赤熱化が完了したそれを中空で振り被らせる一方で、自らはすぅと息を吸い込む。

 物体が音速へ到達する時に発生するとされる衝撃波(ソニックブーム)。それをフォールディングヒートクローに乗せ、振り下ろす事によってクローに(こも)っていた高熱諸共(もろとも)放つ事で遠く離れた敵機を溶かし裂く、()()()()

 マッハイェーガーへと換装(コアチェンジ)している時限定で使う事が出来る、コアバクゥの“必殺技”――その音声コードの入力のために。

 

「いけ! マッハストライザー!!」

 

 その叫びを合図に、マッハイェーガーが振り下ろした前足から不可視の刃が放たれ、一目散に向かっていく。

 森林エリア内へ突入しようとしたその直前、木々を突き破って飛び出して来た二筋の高出力ビームによってその場から上昇と後退を余儀無くされたDXの、ガラ空きになっているその背中へと。

 

 

 

 敵機が換装機構を、それもバックパック(ウィザード)のみを交換する通常のバクゥタイプとは異なり、ほぼ全身に渡って追加装備を加える大規模なものを備えていたという事実には、正直言って面食らった。その後の、何処からともなく現れた無数のミサイルからの回避に追われ、隙だらけになっていたこちらの背後を素通りして、明後日の方へと走り去って行くという、予想外の行動にも。

 だが、奇行としか言い表せないその行動は、一度は阻まれた森林エリア内への突入を再敢行(かんこう)する絶好のチャンスでもあった。――そう見えた。

 だから、見る見る内に距離を離していく敵機の圧倒的な速度には追い付けない事を承知で、すぐにこちらもミサイルを一斉掃射。案の定、ほんの数秒後には追尾が途切れてそこかしこへ散ってしまったそれらから発生した爆発を隠れ蓑に、すぐさま彼は木々の中へと愛機を滑り込ませようとした。

 正にその時だった。木々の隙間の先の薄暗い空間を引き裂いて、赤い光が飛び出して来たのは。

 咄嗟にバックパックのバーニアを噴かせ、愛機を後方の空へと浮き上がらせた彼の視界を横切る、白いプラズマを伴った二筋の高出力ビーム。それらが何処から放たれたかを考える間も無く、続けて襲い来た背後からの衝撃。爆発。

 すぐさま襲って来る浮遊感に、機体をその場に浮遊させていたバーニアがやられたと察したところに、更に続く衝撃と激しい金属音。それによって左の脹脛辺りを損傷させられると共に愛機の姿勢が崩されてしまい、そのまま仰向けの形で地面へと落ちてしまう。

 そうして、背中から落下した故の激しい振動に歯を食い縛りつつも何とか愛機をその場に膝立たせたその先で――アイアンタイガーは見た。

 ビームが通り過ぎ去った後の、黒く焼け焦げた地面の向こう側で彼の方へと向き直るマッハイェーガーを。

 そして――ビームによって幹の中央辺りが半円状に抉り抜かれて脆くなった木々を(なぎ)倒しつつ森林エリアの方から現れた“何か”を。

 キュラキュラ、と下部に備えられた四基の無限軌道(キャタピラ)を鳴らして動くその“何か”は、全体に深緑色の分厚そうな装甲を纏い、その全長と同等の大きさを持つ大型砲塔を二門上部に搭載する“戦車”であった。

 

「ソイツの仕業ってワケか……!」

 

 先程、コアバクゥがマッハイェーガーへと再換装する直前に飛んで来たミサイルの雨。

 そして、今しがた行く手を阻んだ高出力ビーム。

 それらを放ったのがその戦車であると察し、アイアンタイガーは歯噛んだ。

 

『! アレって、まさか……!』

 

 その一方で、通信ウィンドウの中でイツキが何やら驚いた様子を見せていたが――今は、それを気にしている時ではない。

 唯でさえ眼前の先のバクゥは厄介な相手なのだ。それを遣り過ごして森林エリアへ入り込むのは難しいというのに、実際にはもう一機立ちはだかる存在がいたのだ。

 恐らく、あの戦車はサポートメカの類で、それをヒムロがバクゥを操縦する傍らで遠隔操作しているのだろう。であれば、一人で二機分操作するという高難易度行為故のミスを突きたいところだが――ここまでの攻防で既に二度も妨害を成功されている事を省みるに、そういうミスはあまり期待出来そうにない。

 かといって、ここで立ち往生し続けていては相手の思う壺。既に探索を再開しているノフリにこちらのフラッグを奪われてしまう。

 敗北必至だ。何とかしてこの状況を打破しなければならないが……。

 

(つったって、真正面からぶっ倒すのもなぁ……)

 

 マッハイェーガーの機動性はもう嫌という程見せられた。あの速さを相手にしては、単発のバスターライフルは勿論の事、複数の弾をばら撒くブレストランチャーやバルカンでさえ一発(かす)らせる自信も起きない。おまけに今は、見るからに重厚そうなあの戦車もいる。倒してから先へ進むという正攻法は、ほぼほぼ無理だ。

 モニター越しにマッハイェーガーと戦車を睨みつつも途方に暮れるしかなく、くっそ、と毒づくアイアンタイガーだったが――そこへイツキの声が掛けられる。

 

『おい、コテツ! ()()って撃てないのか!?』

 

()()()()()()()()!! ――って、アレ? 何だよ、アレって!」

 

『アレだよアレ! えーっと……()()()()()()()()!』

 

 そう告げるイツキの声は、これしかないと言わんばかりに確信の籠ったものだった。

 

『ほら! アレメチャクチャ攻撃範囲広いじゃん! アレならマッハイェーガーだって避けられないかも!』

 

 確かに彼の言う通り、ツインサテライトキャノンの攻撃範囲は非常に広い。その攻撃範囲内に捉える事さえ出来れば、大概のガンプラは一瞬で蒸発出来るだろう、暴力的な威力もある。更に言えば、発射に必要となるエネルギーも後四、五発程度は撃てる程に残っているので、使用時に最も大きな隙を晒すタイミングであるスーパーマイクロウェーブの受信も不要だ。

 だが、

 

()()()()

 

『え?』

 

「ツインサテライトは、撃てねぇ」

 

イツキのその提案を、アイアンタイガーは却下せざるを得なかった。

 まず、ヒムロがツインサテライトを易々撃たせてくれるか、という問題がある。いくら広大なまでの攻撃範囲を誇るといっても、並外れた機動性を持つマッハイェーガーが本当にそこから逃れられないのか、という問題も。

 だが、それ以上に()()()()があった。

 DXフルバスターが()()()()()()()()()()()()()()()()()()という、決定的な問題が。

 莫大な威力と範囲を持つサテライトキャノンは、同時にそれを放つ砲身と機体にも相応に負荷が掛かる。現に、DXがツインサテライトを搭載する事となった理由の一つとして、サテライトシステムMk-Ⅱの搭載によって出力等が向上した事により、GXのような一門だけの砲身では耐え切れなくなったから、というのもある。

 無論、それは設定での話。出来栄えや作り込み次第で、ツインサテライト級の威力を一門だけの砲身で連射するGXという、機動新世紀ガンダムXの登場人物が目にすれば噴飯(ふんぱん)必死な代物とて実現可能なのが、ガンプラという物である。

 つまりは、その逆だ。

 

『さっき一回撃っちゃってますぅ。だから、もう――』

 

「ああ、次は耐えらんねぇ。――フルバスターが()()()()()()()

 

 エネルギーの貯蓄量と放熱効率を上げる事を目的とした改造が施されているDXフルバスターは、確かに総エネルギー量の方面()()見れば、一度のマイクロウェーブの受信で六発程の連射は可能だ。

 が、そちらの方へ意識を向け過ぎた事が仇となった。――肝心のツインサテライトの砲身は素組に多少手を加えた程度にしかならず、その耐久性に不安が残るものとなってしまったのだ。

 結果、爆発的なまでに貯蓄量・供給量の上がったエネルギーからの連射はほぼ不可能。二発目はまともに撃てるかさえ半々で、例え撃てたとしても発生する負荷に砲身が、そして機体そのものが耐えられず、自壊は(まぬが)れない有様となってしまったのだ。

 

『で、でもさっき! ノフリのおじさんにもう一発撃てるみたい事言って――』

 

「ありゃハッタリだ」

 

 確かに、さももう一発以上撃てるような事をノフリに言って見せたりもしたが、アレは彼をこの場に引き留めておくために吐いた嘘でしかない。実際はこの通りである。

 そう伝えれば流石に言える事も無くなったらしく、ホントかよぉ、とイツキが項垂(うなだ)れる。

 最後に、こう呟いて。

 

『くっそ~、()()()()()()なのになぁ』

 

「あん? あとちょっと? 何が?」

 

『俺が復帰出来るまでの時間』

 

 (うつむ)いたまましょぼくれた声で返された答えに、ああ、とアイアンタイガーは納得する。

 切羽詰まった状況のせいで、つい忘れ掛けていた。今回のバトルで勝敗を決めるのはあくまでフラッグ。撃墜は勝敗には影響せず、故に何度でも復帰可能である事を。

 故に――()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事も。

 

「――ッ! そーだよ!」

 

 一つ、手が思い付いた。

 それを実行するため、アイアンタイガーは両の操縦桿から武器スロットを呼び出し、()()()()を選択する。

 その武器は――。

 

『っ!?』

 

『おいっ!? それ()()()()()()()()じゃんか!』

 

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

『何してんだよ!? お前、今撃てないって言ったばっかじゃんか!?』

 

『フルバスターちゃんが壊れちゃうですー!』

 

 当然ながら、通信ウィンドウから様子を見守っていたイツキとトピアから驚愕と静止の声が飛ぶが、アイアンタイガーはそれを無視し、逆に二人に問い掛けた。

 

「オメーら後どんだけだ!?」

 

『えっ!?』

 

「後どんだけで復帰出来るって訊いてんだよ!?」

 

 怒鳴り付けるようなその問い掛けに一瞬気圧された様子も見せる二人であったが、すぐに各々の復帰までの残り時間を申告していく。

 それを耳に入れて、ニヤリ、とアイアンタイガーは笑った。

 

「よーし! 良いかお前ら! 今から俺は“奥の手”をぶっ放す! そいつを使っちまった後はもうオメーら次第だ! 一回しか言わねーから、テメーがやる事しっかり覚えろよぉ!!」

 

 そう、アイアンタイガーは今から“奥の手”を切る。

 ツインサテライトを撃つのと同等以上の負荷を強いるため、DXフルバスターの自壊はどの道免れ得ない。しかし上手くやれば、ただツインサテライトを撃つよりも相手の意表を突き、尚且つより広範囲を一掃出来る可能性のある、今の彼にとっての最強の“切札”を。

 

「――って感じだ! 分かったな!?」

 

『お、おう、分かった!』

 

『はいです! がんばりますー!』

 

「おーし! そんじゃあ――」

 

 ここからは賭けだ。

 DXフルバスターの自壊そのものは避けられない以上、一旦アイアンタイガーも戦場から離脱せざるを得ない。出来るだけ保たせるつもりではあるが、自壊のタイミング次第では仲間達の復帰が間に合わず、誰もいない無防備な状況を晒してしまう事にもなり得し、そうなる事は避けられたとしても、後の事を仲間達に全てを(ゆだ)ねなければならない事にも変わりない。

 ここからは、イツキとトピア次第だ。

 その二人からの返事を確認し、アイアンタイガーは操縦桿を握り直す。

 それを合図とばかりに、DXフルバスターの両脇からツインサテライトの砲身が展開。既に眩い金色の光を放っている背部リフレクターや全身に走るリフレクトスラスター、各部のエネルギーコンダクターやラジエータプレートが、より一層強く輝く。

【挿絵表示】

 

 “切札”を使う準備は全て整った。後は、

 

「――ぶちかますぜェーッ!!」

 

賭けに勝つ事を信じて、発動するのみだ。

 




遂に切られる“奥の手”! 果たして反撃なるか?
長かった初フォースバトルも次回で決着(予定)です。こうご期待!

あ、後DXフルバスターの実機完成したんで載せときますね。
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