それではどうぞ。
モニターの向こうでDXが脇下からツインサテライトの砲身を展開する様を目にした瞬間、違和感をヒムロは抱いた。
「ツインサテライト? まだ撃てたのか?」
先程までのノフリとの戦闘の際、既に一度ツインサテライトを発射している筈。あのDXの出来具合から見て、その一発でもう打ち止めだと彼は判断していた。
勿論、それはあくまでヒムロの見立てに過ぎない。実際のところ二発以上の連射が可能だと言われてしまえばそれまでの話に過ぎないし、発射の阻止も今からでも十分可能だから、何も問題は無かった。
だから、ヒムロは即座に武器スロットを呼び出してビームバルカンを選択。流れるように照準をDXに合わせ、発射しようとする。
発射しようとして――思わずその手を止めた。
「――
気づいたのだ。――DXが構える砲身の発射口が、自身の方を向いていない事に。
二本ある砲身の内、一本はマッハイェーガーの頭上を通る斜め上へ、もう一本は同程度の角度のまま真横、森林エリアの方へ。いずれにせよ、丸っきり
だが、そんな明後日の方向を向いた砲身が修正される様子など見られないまま――次の瞬間、青白い極光が吐き出された。
触れたもの全てをたちまち押し流し、消滅せしめる光の
ガンダムシリーズに登場する武装の中でも指折りの威力と攻撃範囲を持つサテライトキャノンは、常にマイクロウェーブのチャージが必要な莫大なエネルギーの消費と、その威力相応の負担が掛かる代物だ。そのエネルギーを垂れ流し、無駄な負担を機体に強いるようなこの
それが決定的な隙となった事に彼が気づく切欠となったのは、変わらず空の彼方へと昇っていくツインサテライトの光に覚えた違和感だった。
「――何だ?」
ツインサテライトの二筋の光の内、自分の頭上を通っている方だ。
その幅が、心なしか、つい先程よりも太くなったように感じられた。
――否、気のせいではない。
実際に太くなっている。少しずつだが、先程よりも。確実に今、
それに気づいた時、
アイアンタイガーの意図――徐々に幅を広げていく
「違う……
そこまで言い掛けて、もう一つヒムロは気づく。
DXが放つ光の柱――自身に向けられている一筋とは別の、もう一筋が向けられている方向に、果たして何が存在するのかを。
「ノフリさん!」
通信を繋ぐのが早いか、それともそう叫び掛ける方が早かったのか。
いずれにせよ、すぐに開いた通信ウィンドウの中の――青白い光に照らされる顔に困惑の表情を浮かべた――ノフリに、矢継ぎ早にヒムロは警告する。
「急いでそこから離れて下さい! これは――この光は
『やぁっと気づいたみてーだな!』
そこに割り込む新たな声。
その勝ち誇ったような声が誰のものかは、確認するまでも無かった。
『だがもう遅ぇ! 大人しく食らってもらおーじゃねーか、フルバスターの奥の手ェ!』
『おっ、おいヒムロ君!? 何だ? あの光がツインサテライトじゃないって!? じゃあ、何だって言うんだ!? あの光は――おい、ちょっと待て? 光が、上から……』
どうやら、ノフリも気づいたらしい。
正確には、砲身を支えるDXによって、徐々に彼やヒムロの方へと
そう、この極光は
それが出来るという事は、つまり眼前の二筋の極光は既に
つまり、ツインサテライトだと思っていたこの極光の正体は――。
『俺様の
――ツインサテライトの攻撃力と攻撃範囲をそのまま転用した、
巨大な柱の如きその刀身が迫る速度を更に増し、今、モニター一面を青白く染め上げ――。
DXフルバスターが今、ハイパービームソードの柄を介してその両手に持つツインサテライトの砲身を完全に振り下ろし切った。
途端、砲身の先端から固定されていた巨大な刀身が地面と、或いは木々と触れ合い、地を震わせるような轟音と共に辺り一面を青白く染め上げる。
それから一拍の間を置き、波が引くように光が弱まった事で戻ったアイアンタイガーの視界に広がったのは――正面と斜め右の地面が遥か彼方まで
「……ふーっ」
と、そこで
イツキであった。
『おい
「
『必殺技っ!? 何だそれ!? GBNって、ガンプラバトルってそんなのもあるのか!?』
一仕事終えた後故の気だるさを隠す事無く返したアイアンタイガーに、興奮していたイツキの目が更に輝き出す。
唯でさえ存在すら知らなかったド派手な技を見せられたばかりのところに、更にそれが初めて耳にする新たな要素によるものだったと判明すれば、ガンプラ初心者としての興味を刺激された彼が食い付くのは当然の事であった。
で、そんなイツキに、あのですねー、とトピアが
「おいオメーら」
即座にアイアンタイガーはそれを
「そーゆーのはバトル終わった後だ、後。つーか言ったろが、こっから先は――」
と、そこまで言った時だ。
爆発音が響き、ガクン、と大きな揺れが走ったのは。
続けて、コックピット内を照らしていた緑色の光がほんの一瞬だけ黄色になり、そして赤色へと変わる。
しかし、色の変化を以てそれを報せた光そのものが、更に続く大小入り混じった爆発音と振動の
その急激な変化に、イツキとトピアが取り乱したり、心配げな表情を浮かべたりしているが、当のアイアンタイガーは至って平静のままだ。
当然だ、
DXフルバスターが耐えられるツインサテライトの負荷は一発分。既に一発放っているところに、もう一発撃つのと同等の負荷を強いる“必殺技”を発動したのだから、耐えられる負荷の許容量はとっくに超えてしまっている。そうなれば、その先に待っているのは負荷に耐えられなくなった機体の
今まさに、DXフルバスターが自壊し始めているのだ。
完全に自壊し切れば、それは撃墜されたのも同じだ。今回のバトルのルール上、それだけならば後からいくらでも復帰できるが、それでも10分間の
(ま、大分もった方だな)
運が悪ければ、発動しようとした瞬間に大爆発を起こして
それを思えば、今回のように、最後まで“必殺技”を発動し切り、その後もこうして自壊し切るまでに仲間達と言葉を交わす
なので、その猶予が残っている内にと、ノイズが走り出した通信ウィンドウの方へアイアンタイガーは向き直る。
「いーかオメーら! さっきも言ったが、こっから先はオメーら次第だ! 何やるかもさっき言っといた通りなんだから、絶対ぇ間違えんな!」
ここから先は二人の行動次第だ。
事前に伝えておいた作戦――と言って良いのか迷ってしまう程、無茶で力任せなものだが――を、イツキとトピアが
それは何も、アイアンタイガー自身がもう間もなく事実上の退場をしてしまうからだけではない。
「もう時間も余裕も無ぇ! 絶対にフラッグ奪い取れ!」
正面モニターへと勢い良く振り返るアイアンタイガー。
それと時同じくして、壊れ掛けのブラウン管テレビのように砂嵐が飛び交うようになってしまったモニターの向こうで、幾らか薄くなった白煙の幕を破って
フラッグへと迫っていたノフリのダナジン諸共、ツイン魔王剣によって
背の大型ブースターを丸々失い、纏っている藍色の装甲も黒々と焦げてしまっているボロボロの姿は、相応に
だから、モニターが完全に消えてしまう直前、彼は叫んだ。
「アイツよりも、先に!!」
コンソール上の機体ステータスを一通り確認し終えたヒムロは、次いで正面モニターの方へと顔を上げ、くっ、と歯噛んだ。
「やられた……!」
アイアンタイガーの繰り出した“必殺技”――ツイン魔王剣というらしいあの巨大ビームソードの直撃を、
その中でも最も目立つ傷は、背部のジョイントから先が消し飛んでしまっているマッハブースターだ。メインブースターであるこれが消失してしまった以上、イェーガーアーマー最大の特色である機動性と速度を十全に発揮するのは最早不可能。そこ以外の他の部位の損傷もかなり酷く、その一部がコアバクゥ本体にまで
「――コアチェンジ、コアバクゥ」
ここまで盛大な被害を被ってしまった以上、イェーガーアーマーはもう使い物にならない。
止むを得ず
とはいえ、彼はまだ良い方だ。まだ、戦闘続行自体は可能なのだから。
『済まねぇ、てっきり唯のツインサテライトだとばかり……』
駆け付けたヒムロがアイアンタイガーと足止めの戦闘を始めるのと入れ替わりにフラッグの捜索を再開した彼のダナジンの位置を示すマーカーは、直前まで森林エリア内にあった。
しかし、二振りあったDXのツイン魔王剣の片方に狙われた彼は、それをもろに受けて撃墜。そのままZi-ソウル側の森林エリア内に設けられている
『DXは確かぁ……
『やっぱり子供だからって油断は出来ねぇっすね』
『だな。――だが、これで今回のバトルは貰ったな!』
予想外のものを見せられたための神妙な面持ちでノフリと頷き合っていたデアールが、一転して勝利を確信した笑みを見せた。
その笑みの根拠は、ヒムロのすぐ近くにあった。
正面モニターの向こう――赤黒く融解した地面と薄くなり出した白煙の向こうで、
例のツイン魔王剣を振り下ろし終えた後、一拍の間を置いてツインサテライトの砲身を中心にDXの機体各部で爆発が発生。その場で膝を着いて沈黙したかと思えば、そのまま機体の端々から細かなテクスチャ片と化していき、つい先程完全に消失したのだ。
そもそもアイアンタイガーの“必殺技”がそういうものだったのか、はたまた、やはり当初の見立て通り撃てるツインサテライトは一発だけだったのか? ――正確な理由は分からないが、ともかく、無茶をさせたためにDXが限界を迎え、自壊してしまったというのは確かだった。
『コアガンダムとモビルドールは撃墜済み。残っていたのはDXだけで、そのDXも今自滅した! もう邪魔する奴はいない!』
そう、最後の一機であったDXが消えた今、向こうは完全に
――そう
“必殺技”を使えば自滅するなんて事は、恐らくアイアンタイガーが一番良く分かっていた筈だ。その上での
という事は――。
と、その時だった。
左斜め方向、森林エリア内を埋め尽くす木々を突き破り、無数の枝葉を巻き込みながら上空向けて何かが飛び出した。
突然の事態に二人揃って驚愕するデアールとノフリを
何か――ツインテールの根本に付いたGNドライブから緑色のGN粒子を放出しながら、箒型の武器の柄に
『あのガンプラ! 確かヒムロ君と俺で
「復帰したんですよ。――考えてみれば、そろそろ10分経ちます」
今回のバトルは、撃墜されても10分の
そして、その
一つは、自分達のフラッグに間近まで迫って来ているヒムロの迎撃。
もう一つは、
『よーし! そのままかっ飛んでいけぇ、トピアッ!!』
『はいですー! ――ELトランザムー!!』
トランザムによる強化を加えた機動力に物を言わせてフィールドを横断し、こちらのフラッグを奪取する事だ。
実際に選ばれたのは二つ目。それを証明するように、機体を紅に染めたモビルドールがZi-ソウル側のフラッグがある方へ向きを変え、獲物を補足した
『や、やべぇ!』
デアールが切迫した声を上げる。
先程交戦した際に良い様に
だが、ヒムロは違った。
「大丈夫です。――まだ打つ手はある」
言いながら、ヒムロは右手を手元のコンソールへ向かわせて操作する。
程無くして、大きく抉れた地面の向こうからキュラキュラ、という
念のためと、ヒムロは“それ”に目を遣り、
幸いにして、ツイン魔王剣の直撃はこちらも避けられたらしい。攻撃の余波によって全体的に黒焦げ、部分部分で溶解したせいで一部も失われている機能もあったが、それでもこれからやる事に必要となる部位は無事だった。
となれば、やる事は一つだけだ。
『……』
すぐさまヒムロは操縦桿を傾け、コアバクゥをモビルドールの方へと向ける。
既に遠く離れた空域まで飛び去ったモビルドールは豆粒大の大きさしかなく、
(大丈夫だ。今ならまだ、
そう確信し頷くや、ヒムロは操縦桿を前へ押し込み、追従するアーマーと共にコアバクゥを駈け出させた。
『……ぉ……』
「コアチェンジ!」
『……ぉぉ……ぉぉぉ……』
そして、コアバクゥにアーマーを纏わせるために音声コードを
「アーマーコ――っ!?」
思わずその口を止めた。
『……ぉぉぉぉぉぉ』
……思えば、先程から妙な音がずっとしていた。
極々微かな、耳を澄ませば漸く聞き取れるかもしれない小さな音だったし、そんなものよりもモビルドールの侵攻を止めるが最優先事項だったため全く気にしていなかった。
それがとんでもない見落としであったのだと気づいた時、もはやヒムロは
その音の正体が、
『ぉぉぉおおおおおっ、おぉりゃああああアアアァッ!!』
どんどん小さくなっていくモビルドールと入れ替わるように、同じ方向から
あっという間にモニター一面を埋め尽くしたコアガンダムとの衝突によって、彼は為す術無くコアバクゥ
あの時――“必殺技”とやらを使うためにツインサテライトの砲身をDXフルバスターに構えさせる直前、一回しか言わないと前置きしてから指示を下して来たアイアンタイガーと、イツキとトピアとの遣り取りは次の通りだった。
『まずイツキ! オメーはもうすぐ復帰出来るな!?』
「ああ! 俺はあと5秒も――てか、今復帰出来た! 今からそっちに――」
『んじゃオメーはそのまま待機だ!』
「――行ける……って、えーっ!?」
漸く正面モニターの左上に表示されていた残り
それに構わず、更にアイアンタイガーの問い掛けが飛ぶ。
『トピア! オメーの方はもうちょい掛かんだったな!?』
『はいですぅ。えっと、あと……2分とちょっとだけですー!』
『2分ちょいだな!?』
再三のアイアンタイガーからの確認に、通信ウィンドウの中のトピアが頷く。
すると、
『……ギリギリなんとかなるか……?』
アイアンタイガーが不敵な笑みを浮かべながら呟き、そしてこう言って来た。
『よーし! 良いかお前ら! 今から俺は“奥の手”をぶっ放す! そいつを使っちまった後はもうオメーら次第だ! 一回しか言わねーから、テメーがやる事しっかり覚えろよぉ!!』
そうして、イツキはトピアと共にアイアンタイガーから作戦の説明を受けた。
まずアイアンタイガー。彼が“必殺技”を使い、ヒムロと、フラッグを捜索中のノフリを一度に襲撃。叶うなら両方を、それが出来なくともせめてどちらかをその一撃で撃墜しつつ、時間を
次はトピア。彼女は復帰次第にZi-ソウル側のフラッグへと向かう。アイアンタイガーの攻撃から逃れた敵機、俺様(ry)側のフラッグの事等は全て無視し、辿り着く前に限界時間が来てしまうのも承知でEL TRAN-SAMも発動して、一目散にフラッグを――
勿論、相手も自分達のフラッグへ一直線に迫る彼女を見す見す逃しはすまい。妨害して来るだろう。
それでもモビルドールトピアの機動力ならば――例え、EL TRAN-SAMの限界時間を迎え、能力が著しく落ちた状態であっても――上手くやれば切り抜けられるかもしれないが、それはあくまで可能性であって、絶対ではない。
故に、こちらも相手の妨害を抑える役が必要になる。――その役を担うのが、イツキという事になるのだが、それには少々問題があった。
『あのー、それってイツキくんとコアガンダムちゃんも一緒に来るってことですかぁ?』
『そうだ!』
「いや無理だよっ!!」
トピアの進路を妨げる者への対処に当たるのであれば、それを一早く察知し、すぐに対処に当たれる位置を維持しなければならない。つまり、彼女に
コアガンダムは小柄・軽量で機動性に優れた機体だが、だからといってモビルドールトピアに付いていける程の速さは流石に持っていない。EL TRAN-SAMを発動した文字通りの全速力など、以ての外。思わず声を張り上げたイツキの訴えの通り、無理だ。
だが、この問題を解決する手がアイアンタイガーにはあった。
『
「は?」
『トピアが動けるようになったら、オメーはコアガンダムをモビルドールの、あー、
『はいですー!』
『イツキから連絡来たら、オメーは一回止まって、
「お、おい! ちょっと待てコテツ! まさかお前――!」
『妨害しようとしてる奴目掛けて、思いっきり
『分かりましたー! ……あれ?』
……これはこれで問題のある手であったが。
かくして、予定通りアイアンタイガーがツイン魔王剣を発動し切り、ノフリを撃墜しつつ多くの時間を稼ぎ、その時間内ギリギリのところで何とかトピアが復帰。それに続き、嫌々ながらもコアガンダムをモビルドールトピアのGNブルームメイスの後部側にしがみ付かせたイツキは、彼女と共に離陸。上空へ上がるやEL TRAN-SAMを発動させて全速力で飛び出すトピアに代わって周囲の警戒を始めたところで、早々に
そして、これまた予定通りに、EL TRAN-SAMによる能力強化で
「うぉわあぁあぁあぁあぁぁ!?」
ただし、その際に殺し切れなかった
そのまま、再び地面に頭部から突っ込み、暫く土の上を滑ったところでどうにかコアガンダムの
「し、死ぬかと思った……」
それまで四方八方から襲い来る衝撃に身を強張らせて耐えていたイツキは、漸く一息吐く事が出来た。
『イツキくん、だいじょうぶですかぁ?』
「な、なんとか……」
頭を振りながらトピアからの心配げな声に返答しつつ、まだ衝撃が抜きらない故の
(そりゃそうなるよなぁ)
ついさっきコックピット内に灯ったばかりの光がもう緑色から黄色に変わっていた時点でそんな気はしていたが――突撃の衝撃によって
少しでも機体への反動を抑えられれば、とモビルドールトピアから打ち出される直前にコアシールドごと前面に
機体そのものを砲弾にするような無茶苦茶なマネをしたのだから、当然といえば当然の結果だ。むしろ、打ち所が悪くてまた撃墜なんて事にならなかっただけ御の字ですらある。
だが、それはそれとして復帰早々のこの有様には物申したくなるというものだ。
なので、そもそもこんな無茶を作戦と称してやらせた下手人であるアイアンタイガーに文句の一つでも言ってやろうと、イツキは通信ウィンドウの中の彼をきっと睨み付ける。
そして、いざ
「おいコテ――っ!?」
直後にコックピット内に鳴り響いたアラートに、口から出掛かっていた言葉を咄嗟に飲み込んで振り返った。
同時に影が差す。
アラートの発生元――コアガンダムの頭上へと向けた彼の視界を覆うように、掲げた右前足を振り下ろさんとしている白い影が。
それを認め顔を引き
一拍遅れて響く破砕音。
一瞬前まで寝そべっていた地面が砕かれ、破片が巻き上げられる様を――反応が強すぎて倒れ込んでしまいそうになり掛けながらも――転がりの勢いを利用して膝立ちさせたコアガンダムのツインアイを通して見たイツキは、同時にその目に捉える。
「ヒムロ君……!」
赤土を叩き砕いた影――コアバクゥを。
『やってくれたね』
通信を介してヒムロの声が響く。
『まさか、仲間に自分を放り込ませるなんてね。完全に予想外だった』
お
恐らくアイアンタイガーのツイン魔王剣の余波によるものだろう、黒い焦げ跡が機体の各所に散らばっているし、飛び込んだコアガンダムと直接接触したのだろう頭部右側面は、そこに設置された円筒状の部分――ビームの牙の発振器も巻き込んで大きく凹んでいる。極め付けに、背部に背負っていた筈の二連想の小型砲塔が根こそぎ無くなっており、代わりに出来た痛々しい断面がスパークを
そんな状態のコアバクゥが、空を見上げるように首を擡げた。
『――もうモビルドールは見えないか』
若干ながら諦めが
確かに彼の言葉通り、モニターを介して確認できる空域内にはもうモビルドールトピアの姿は無い。
どうやら、身を挺しての妨害は上手くいったようだ。――そう確信し、よっしゃ、とイツキは拳を握った。
「後はトピアがフラッグを取るだけ……俺達の――」
『勝ちだ、って言い切るのは早いんじゃないかな?』
そのヒムロの問いと共に、ピンクのモノアイがイツキへと向けられる。
『僕達のフラッグまで辿り着く前にトランザムの限界時間が来る筈だし、まだデアールさんだっている。そう簡単にはいかないよ』
「それでも、トピアならフラッグを取ってくれる!」
確かな自信を以て言い返すイツキ。
それに対し、そう、とだけヒムロは返し、続けてこう告げた。
『そこまで言うのなら、むしろ
「え?」
そう呆けた声が漏れるのが早いか否かというタイミングだった。
一瞬だけコアバクゥの後方で
「っ!?」
すぐさまイツキは操縦桿を押し込み、コアガンダムのバックパックと踵のスラスターを全開で噴出させた。
間一髪でその回避行動は成功し、右方向へ飛び退いたコアガンダムの足先から数十cm程度の空間を白いスパークを伴う高出力ビームが猛スピードで通り過ぎていく。
だが、まだ手を
緊急で噴かせた各部のスラスターを停止させて着地させようとしたその時には既に、白い機影が目前に回り込んでいた。
くぅ、と引き攣った声を上げながらも、イツキはコアガンダムの右手に握らせていたコアスプレーガンを放り投げさせる。
間髪入れず、
軽妙な音を上げて連なる弾丸は狙い通りに爆煙の中へと飛び込んで行くが、しかしそれを待たずに煙の向こうからコアバクゥが高く跳び上がった。
すぐにバルカン弾の軌道修正のため、コアガンダムの頭部を上方へ傾けさせるイツキ。
しかしこれも間に合わず、着弾点が上へ上がっていくバルカン弾の列を飛び越えるようにしてコアバクゥが降下。位置エネルギーを乗せて両前足を突き出して来る。
「ぐううううっ!」
『君の仲間より先に、僕が君達のフラッグを奪わせてもらう。ここまで来たら、それ以外に僕達が勝つ方法は無い』
バチバチ、とけたたましく散る火花の音と、操縦桿を通して伝わる鍔迫り合いの押し込みに歯を食い縛って耐えるイツキに、通信を介してヒムロが叫ぶ。
『そのためにも、まずは邪魔者にいなくなってもらうよ。――
「ぐぅうう……! やら、れる、もんかぁ!!」
気合一閃。
イツキの咆哮に後押しされたように、コアガンダムがコアサーベルを大きく振り抜き、コアバクゥを後方へ追い遣った。
『そう言うのなら、いい加減君の
コアガンダムが振り払った力に身を任せるように後退していくコアバクゥからヒムロがそう言った刹那、その背後から軽妙な発泡音の連鎖と共に無数の白煙の線が上へ飛び上がった。
ミサイルが放たれたのだ。先程撃ち込まれた二筋の高出力ビームと同じように、コアバクゥの後方で待機していた戦車型のサポートメカ――ゴツゴツ、とした深緑色のアーマーを
すぐさま踵のスラスターを点火したイツキは、更にバルカンを連射。コアガンダムをその場から後退させつつ、弾頭を向けて来るミサイルの群れへの
幸いにして、大半のミサイルは撃ち落とす事には成功したが、それ以外の数発はバルカン弾の弾幕を
「ぐぅ! マズい!」
既に後退していた事もあり、そのまま背中から地面へと倒れ込んでしまいそうになるコアガンダム。そのバランスを戻そうと、慌ててイツキはバックパックのスラスターも噴かせ、その場で後退を止めさせた。
そのタイミングを狙っていたかのように、突如視界の左側からコアバクゥが出現。猛然と駆け込む勢いを乗せて右前足を突き出し、鎌で雑草を刈るかのような呆気無さでコアガンダムの右手からコアサーベルの柄を弾き飛ばした。
コアハンガーに撃たせたミサイルを誘導に、確実に視界から消えるように大きく回り込んでからの不意打ち。それに、あ、とイツキが呆けた声を上げる間も無くコアバクゥが後部を向け、両の後脚による蹴り上げを繰り出す。
響き渡る金属音。
敵機の連撃に対応出来ず、為すがままに打ち上げられたコアガンダムはほんの僅かな間宙を浮かび、そして自重に引かれるまま背から地面へと落ちた。
コックピット内を襲う轟音と振動。それに何とか耐えたイツキは、急いで立ち上がらせねばと操縦桿を引く。
しかし、すかさず
『さぁ、追い詰めたよ』
「このっ!」
王手を宣言するヒムロを振り払わんがために、イツキはコアバクゥの横っ面目掛けてコアガンダムに左腕を振り上げさせる。
手首から先は拳すら握れない状態だが、それでも腕その物をぶつける事は出来る。――そう踏んでの反撃の一手は、しかしそれよりも早く動いたコアバクゥの右前足に肘を踏み付けられて止められてしまう。
更にダメ押しとばかりに、コアガンダムの胸部を踏み付けていた左前足も右肩へ移動するや、両前足先の爪が三又に展開し、急激に発熱。そのまま装甲ごと左肘と右肩の駆動部が溶かされてしまった事で、両腕の動きが完全に封じられてしまった。
『後は君にトドメを刺すだけ。――それが嫌なら見せてみろ! 君の
「まだだぁ!」
それでも負けじと、イツキはコアガンダムにバルカンを撃たせようとする。すぐ真上に敵機がいる今の状況ならば、威力の低いバルカン弾でもそれなりの
だが、発射直前に動いたコアバクゥの右前足がコアガンダムの顎下を蹴り付けた事で、強引に射線が変更。いざ側頭部から放たれたバルカン弾の群れは敵機の鼻先すら
「ぐ、ぐぅ……!」
『証明して見せろ!』
もう打つ手が無い。
既に赤く染まったコックピットの中で噛み締めた歯の隙間から呻きを漏らすしかないイツキの前で、ピンク色の一つ目を向けていたコアバクゥが無事な左側頭側の発振器からビームの牙を展開し、頭部ごとそれを振り被る。
狙いがどこなのかは、考えるまでも無い。
『そのガンプラが、
そして振り下ろされる牙。
猛然と迫るその先端が、ブレる事無く一点目掛けて迫る。
全てのガンプラの弱点――コックピットへと。
最早誰にも止めようが無い最後の一撃。それが一秒にも満たない極僅かな時間を掛けてコアガンダムの胸部を貫き、息を呑み、目を見張るイツキに引導を渡そうとしたその刹那、
<BATTLE ENDED! WINNER――
不意に告げられたバトル終了のアナウンスが、その一撃を止めた。
何だか意味深な事を言われつつ追い詰められたりもしたけど、何とか勝利?
次回にて第3章は終了となります。どうか次回もお楽しみに。