ガンダムビルドライザーズ   作:shisuko

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漸く今回で終わりとなります第三章。
今回はエピローグ兼、次章への繋ぎ回となりますので大した内容にはなりませんが、どうかお付き合いの程を。


第24話 ()に落ちない勝利と二つの悩み

『ちょっと右に寄ってますー』

 

「分かってるよ……っとと」

 

 ギャラリーモードで観戦しているトピアからの指摘に返答しつつ、イツキは傾けていた操縦桿の角度をほんの少しだけ、慎重(しんちょう)に引き戻した。

 それにより、コアガンダムが両腕で左右から持ち上げていたコンテナの位置を僅かに修正。既に4個、微妙に位置がズレてジグザグに積み上がっている同じ大きさのコンテナの塔を崩してしまわない位置になったのを確認してから、持たせている方のコンテナを静かにその上に下ろさせる。

 そうして、ゴト、と5個目のコンテナを積み上げたイツキは、より一層神経を尖らせてコアガンダムの両手をコンテナから離させ――。

 

<MISSION COMPLETED>

 

 ―― 一瞬だけ時間を置いて電子音声が告げたミッション終了のアナウンスを聞いてから、ふ~、と額に(にじ)んだ汗を(そで)(ぬぐ)った。

 

『え~っと、いまのは……8分とちょっと!』

 

 通信ウィンドウの向こうでトピアが何かを確認するような素振りをした後、新記録ですー、と我が身に起きた事の様に嬉し気に声を張り上げる。

 彼女が告げたのは経過時間だ。

 イツキも正面モニター右上に表示されているタイマーを通して確認する事が出来る――今のコンテナ5個を一から積み上げるのに要した時間であり、今彼が受注している初心者向け操作トレーニングミッションの通算24回目の記録である。

 

『そりゃ早くなんだろ』

 

 当然の結果だから一々騒ぐな、とばかりにトピアの隣の通信ウィンドウから顔を覗かせていたアイアンタイガーが鼻を鳴らす。

 

『もう20回越してんだ。こんだけ数(こな)してりゃ、よっぽどのヘタクソでもなけりゃコンテナ積み上げんの()()()は上手くなって当たり前だっつの』

 

 んな事より、と一旦(いったん)言葉を区切ったアイアンタイガーが、ぐっと身を乗り出してイツキへと目を向けて来る。

 

『おいどうだイツキ? ちったぁコアガンダムの(くせ)掴めて来たのかよ?』

 

 そう、それが本題だ。

 工場の敷地をモチーフにした、狭めのミッションフィールド内に散らばるコンテナを積み上げるだけ。――そんな極々簡単な内容のこのトレーニングミッションは、その名の通りGBN入門し立てでガンプラの操作に自信の無い初心者の操作練習を目的としたものだ。本来ならば、既に幾つかのミッションやバトルを経験し、一通りガンプラの操作の仕方を身に着けた今のイツキが態々(わざわざ)やらなければいけないようなミッションでは無い。

 そんなミッションを()えて、しかも24回も連続して挑んでいるのは何故かといえば、それはコアガンダムの操縦に慣れるために他ならない。

 小型軽量のコアガンダムは過敏(かびん)なまでに応答性(レスポンス)の良い機体だ。緊急時等でそれが災いして想定よりも大きく動き過ぎてしまい、結果振り回されてしまっているのが今のイツキの現状なのである。

 それではいけない。ガンプラバトルではそういった咄嗟(とっさ)の操作が求められる場面が存外(ぞんがい)多い事は、これまで行って来たミッションやバトルの経験で嫌でも分かる。それだけコアガンダムの操作を誤ってしまう事態も引き起こしやすいという事なのだから、今後もそんな有様ではまともに戦っていけない。

 そういうワケで、その日GBNにログインしてからずっとこのトレーニングミッションを続けているイツキであったのだが、

 

「――結構慣れてきたと思う。普通に動かすだけなら、もう大丈夫だよ」

 

始めてすぐの段階では下のコンテナの端にコンテナを置いてしまったり、勢いが強くなりすぎて叩き付けてしまったりで20分近く要していたコンテナの積み上げも、数を重ねた今では上記の通り8分まで短縮出来るようになった。(あわ)せて、コアガンダムの癖もある程度は掴めて来ており、平時での操作ならもう大きなしくじりも無く安定して動かせるだろうという手応えを掴めていた。

 とはいえ、

 

「けどなぁ……ホントにただコンテナ積んでただけだから、こう、攻撃避けたりだとか、そーいうイキナリ動かさなきゃいけない時とかはまだちょっと」

 

コンテナをただ積み上げるだけのトレーニングミッションでは咄嗟の機転が求められる事態というのは起こり様が無いため、そういった場面に直面してなお安定した操縦が出来るかについてはまだ自信は無かったのだが。

 

『――まー、その辺はしゃーねーな』

 

 後はもうミッションなりバトルなりで実戦通して(きた)えてくしかねーだろ。

 腕を組んで(うな)ってからそう()(くく)った後、取り敢えず戻って来い、とアイアンタイガーが指示を寄越(よこ)して来る。

 イツキ自身、トレーニングミッションで出来る事は取り敢えず終わった、と感じていたため、その指示に分かった、と返答し、ミッション中断の(むね)を問うウィンドウを正面モニター上に呼び出した。

 ウィンドウ内に表示されているYESのボタンを押せば、速やかにミッション中断の処理が()り行われ、コアガンダムのコックピット内から見ていたフィールド内の景観が視界からふっと消え失せる。

 そして何事も無く、人々が周囲を行き交うセントラルエリアのロビー内へと彼の体と意識は移動する事となったが――そうなる前のほんの一瞬、それにしても、とイツキはふと思い返す。

 

「あれって、結局どーいう意味だったんだろなぁ?」

 

 そう呟く彼の脳裏に浮かんでいたのは、コアガンダムの初陣にして、その操作性の癖を彼が思い知らされる事となった一戦。

 昨日行われたフォースバトルの最中で耳にした、ある言葉であった。

 

 

 

 (さかのぼ)る事一日。

 コアガンダムの完成から間を置かず、アイアンタイガーとトピアの(ハッキリ言って口に出したくない名前の)フォースに傭兵としてイツキも参加する事になった、Zi-ソウルとのフラッグ争奪戦。

 初めて扱う機体に何度か振り回されたイツキを筆頭(ひっとう)に、ほんの僅かな間とはいえ全滅してしまう機会もあった程に苦しい戦況に立たされる事もあったが、最終的にはEL TRAN-SAMも使用して急速侵攻したトピアがZi-ソウル側のフラッグを奪取。あわやイツキが二度目の撃墜を迎えるかと思われたその間際で、何とか勝利を収める事となった。

 そうしてバトルを終えてから十数分後、イツキ達三人はZi-ソウルの面々とフィールド中央に集まって顔を合せていた。

 

「いやー、参った参った! ちっとも攻撃当てられなかったぜ。本当に速いなぁ、トピアちゃんのモビルドール!」

 

「えへへ、ありがとうですー。デアールさんのザムドラーグちゃんもいっぱい攻撃うててスゴかったですー」

 

「良いトコまで行けたんだけどな~ぁ。まさか、あんなタイミングで撃墜(おと)されるなんて思ってもみなかったよ。もう“必殺技”使えるなんてスゴいな、()()()()()()()君!」

 

アイアンタイガー!! ――いやいや、大した事ねーっすよ! 全然ねーっすよ! たまたま使えるってだけっすから! へっへっへっへー!」

 

 各々の健闘を(たた)え合うデアールとトピア、ノフリとアイアンタイガー。

 あの時こうしていれば、という後悔や、アレはやらないでおくべきだった、という反省。(ある)いはアレは予想外だった、という称賛。――バトル中の自分達や相手方の戦法や行動を思い出し合っては盛り上がる彼らの様子は、傍から見ても和気藹々(わきあいあい)としており、そこに勝利した事への喜びはあっても(おご)(たかぶ)りは無く、また敗北した事への悔しさはあっても憎悪も無かった。

 そして、

 

「ヒムロ君!」

 

そんな周囲に(なら)ってイツキもまた、ヒムロへと声を掛けていた。

 

「――ああ」

 

 他の者達から少し離れたところで立っていたヒムロが、一拍遅れて呼び掛けに反応し、振り向く。

 その様子にふと気になるものがあったイツキは、駆け寄りつつ彼にその事を問い掛けた。

 

「どーしたの?」

 

「え?」

 

「さっきから何かムズカシー顔してるけど?」

 

 イツキの声に反応するまで、ヒムロは(うつむ)き加減で眉間に(しわ)を寄せた、(いささ)(けわ)しい表情を浮かべているように見えた。まるで、何か深刻な問題について思案しているかのように。

 それを指摘してみれば、丸っきり自覚が無かったと言わんばかりに、あ、という(ほう)けた声がヒムロの口から(こぼ)れたが、すぐに――取り(つくろ)うように――その顔に微笑みを浮かべた。

 

「――大した事じゃないよ。ちょっと……()を思い出していただけだから」

 

「昔?」

 

 反射的にオウム返ししたその言葉が少しばかりイツキは気になったが、()えてそれについて彼は追究しなかった。

 それ以上に訊きたい事が一つ、彼にはあった。

 

「ねーヒムロ君? ()()ってさ、どーいう事?」

 

「? アレ、って?」

 

「ほら、言ってたじゃん。 あー……()()()()()()()()()()()()とか、何とか?」

 

 バトル終了間際、それも二度目の撃墜直前という逼迫(ひっぱく)した状況だったために正確に聞き取る事は出来なかったが、確かにあの時、ヒムロはそんな感じの事を叫んでいた気がする。

 正しくは何と言っていたのか、どういう意図で出て来たのか? ――バトルが終わって一段落した今、あの時の台詞が妙に気になったのだ。

 ところが、

 

「――そんな事言ってないよ」

 

少しの間を置いてヒムロから返って来たのは、身に覚えが無いとでも言いたげな首を傾げる仕草だった。

 

「え? いや、言ってたよ?」

 

 当然ながら、すぐにイツキはそう反論する。

 確かにあの時、少なくともヒムロは何かを言っていた。その時の声が今も耳に残っているのだ。間違い無い。

 それに今、一瞬だが見えた気がしたのだ。

 否定の言葉を口にする直前、彼の瞳が――逡巡(しゅんじゅん)するように――横へ()らされるのを。

 しかし、

 

「いいや、言ってないよ」

 

それでもなお返されるのは(いな)だけであった。

 

「バトルの真っ最中で色々な音がしていたから、それを聞き間違えたんじゃないかな?」

 

「いや、違うって! そんなんじゃないよっ、俺ホントに――」

 

 続くヒムロの言い分に納得出来ず、半ば意地になりながらイツキは食い下がろうとする。

 だが、もうその時にはヒムロの顔は彼の方を向いていなかった。

 

「デアールさん、ノフリさん。僕、今日はもうログアウトし(上がり)ます」

 

 不意に告げられたその言葉に、イツキは勿論(もちろん)の事、投げ掛けられたデアールとノフリも思わずといった感じで振り返り、目を()く。

 そんな彼らのリアクションに動じる様子一つ無く、淡々とヒムロが手近な空間にメニューウィンドウを呼び出し、手早く操作を進めていく。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!? まだ話は――」

 

 慌ててヒムロを止めようとイツキは手を伸ばす。

 しかし間に合わず、後1,2センチでその指が腕に触れるというところで操作を終えた彼の体は細かなデータ片へと分解され、その場から消え去った。

 

「また会えるかは分からないけど、次こそは見せてもらいたいな。――君の()()を」

 

 最後にそんな言葉を残して。

 

 

 

 結局、バトルの終わり際にヒムロが言っていた言葉の意味は訊けず仕舞(じま)いとなり、残されて困惑するデアールとノフリから一方的に話を打ち切られた事を謝られた後に、一同は解散。

 こうして、当初は負けたとしても“()いや遺恨(いこん)の残らない敗北”に終わると思われていたイツキの初フォースバトルは、“幾つかの引っ掛かりを残した、()に落ちない勝利”で(まく)を閉じる事と相成(あいな)ったのだ。

 そして、時は再びバトルの翌日である現在へと戻る。

 トレーニングミッションを終え、セントラルエリアのロビー内で観戦していたアイアンタイガーとトピアと合流したイツキであったが、いつの間にか時刻は午後4時を過ぎていたために三人揃ってGBNからログアウト。現実へと戻って来たところなのだが――今の彼には二つ、大きな悩みがあった。

 その一つは――。

 

「しっかしよー。昨日のバトルでやたらコアチェンジコアチェンジ(わめ)いてたの、どーいうつもりか気になっちゃいたけどよぉ」

 

 相変わらずガラガラのアガタ模型店の店内。その入り口から見て左奥の製作スペースにて、椅子に座るイツキの正面の机の上に置かれたスマホの画面を彼の左隣りから(のぞ)き込んでいたコテツがぼやく。

 正確にはG-TUBE――ご存じエルドラバトルの、最初に投稿された動画を。

 

『――やはりパワーが足りないか』

 

 朱色のドラゴンのようなガンプラ――当時パルヴィーズが使っていた“ヴァルキランダー”へとビームサーベルを展開し迫っていた“エルドラブルブルート”なる機体の前にコアガンダムが立ちはだかり、コアスプレーガンの四連射で押し返すが、傷付けるには至らない。

 すかさずそこへ両腕のガトリングガンを連射しながら、“エルドラホバーブルート”と呼ばれる別の敵が接近して来る。先のエルドラブルブルートと同等程度の装甲を備えている事は想像に容易(たやす)いこの相手にも、コアガンダムが出せる出力で損傷を与えるのは難しいだろう。

 しかし、直後に二筋のピンク色の火箭(かせん)が飛び、エルドラホバーブルートを直撃。その装甲に傷を付け、黒煙を噴かせて見せた。

 更に続けて走るもう二筋のビーム。それが放たれたるはコアスプレーガンの発射口――ではなく、それを左手に握るコアガンダムの後方。その彼方(かなた)より目にも止まらぬスピードで飛び込み上空へと舞い上がる、一機の戦闘機であった。

 その戦闘機に続き、右手に握っていたコアサーベルの柄をバックパックへと戻したコアガンダムもまた、空高く飛翔していく。

 その最中で、ヒロトが淡々(たんたん)と呟く。

 

『コアチェンジ。――ドッキング、ゴー』

 

 その音声コードに反応し、戦闘機――専用サポートメカである“コアハンガー”が後退しつつ、懸架(けんか)していたスカイブルーの装甲群――“アースアーマー”を排除(パージ)。四方へと散らばったアースアーマーは、続けて先頭へと躍り出たコアガンダムの周囲に寄り集まり、次々にその機体の各部へと装着されていく。

 そうして最後に額中央にV字型の追加アンテナが装着され、緑色のツインアイを鋭く(きら)めかせたその機体の換装が完了する。

 アースアーマーを装着し、通常のガンプラと同等の(18m)サイズとなったコアガンダムの基本強化形態――“アースリィガンダム”への換装(コアチェンジ)が。

 

「合体しちゃったですぅ! 昨日のコアバクゥちゃんみたいですー!」

 

「おー、ホントだー。マジで昨日のコアバクゥって奴みてぇじゃねーよォ!!

 

 すごいですー、と机の上で女の子座りして観賞(かんしょう)していたトピアがはしゃぐのに同調したのも(つか)の間、動画へと向けていた目をイツキへと向け直したコテツが口角泡(こうかくあわ)を飛ばす勢いで吠える。

 耳元で発されたその爆音に、(たま)らずうわっ、とイツキは怯んだ。

 

「ウッサイなぁ! イキナリ傍で大声出すなよ!」

 

「んな事ぁいいんだよ! それよりどーいうこったオイッ!? コアガンダム(こっち)も換装機とか聞いてねーぞ!」

 

 すぐさま睨み付けて文句を言うが、間髪(かんぱつ)入れず投げられたコテツからの叱咤(しった)に、逆にイツキの方がうぐっ、と言い(よど)むハメになる。

 言われてみれば、プラネッツシステムについて彼やトピアに話した覚えが無い。

 

「で、でも! 昨日も、アーマーまだ出来てない、って俺言ったし! G-TUBEでエルドラバトル見ればすぐ分かるし!」

 

「そのアーマーってのが換装に使うパーツだなんて俺が知るかっつの! G-TUBEだって、こちとらオメーみたく頻繁(ひんぱん)に見てねーんだよ!」

 

「う~ん……私もあんまり見ないですー」

 

「うぐぐっ……」

 

 反論してはみるも、悪足掻(わるあが)きにしかならない。

 結局それ以上返す言葉も見つからず、(しばら)く唸った後、ゴメン、と観念(かんねん)したイツキが頭を下げた事でその場は(おさ)まる事となった。

 

「そーいう事はもっと早く言っとけよな。――んで、どーすんだ?」

 

「どーする、って?」

 

「アーマーって奴だよ」

 

 ったく、と手近な椅子に乱暴に腰を下ろすや、頬杖を突いたコテツが間を置かずそう尋ねて来る。

 今のイツキが抱えている二つの悩み、その一つ目について。

 

「そのアーマーっての付けたり外したりして戦うのが、コアガンダムのマジの使い方なんだろ? だったら、いつまでもコアガンダムだけってワケにゃいかねーだろが」

 

 コアガンダムという機体の真価はプラネッツシステム――アーマーと組み合わせて様々な戦況に対応出来る、その万能性、及び()()()()()にある。――少なくとも、イツキ自身はそう考えている。

 だからこそ、その真価を発揮させるためのアーマーを用意する事が至急の課題である事は、コテツに指摘(してき)されるまでも無く彼自身も理解していた事だ。

 だが、そのために一つクリアしなければならない課題がある。

 “アーマーをどうやって手に入れるか”、だ。

 この課題に対し、イツキの中では一つ、(かく)とした考えがあった。

 

「もちろん、()()()()()

 

 ()()である。

 

「イツキくんがコアガンダムちゃんのアーマー作るんですかー? わぁ、スゴいですー! それじゃあ安心――」

 

出来るかァ!!

 

 手を合わせたトピアからの素直な称賛の言葉を(さえぎ)って繰り出されたコテツのツッコミが、店内に響き渡った。

 

「お前っ、分かってんのかよ!? このアーマーっての、どー考えたってスクラッチしてんじゃねーか!」

 

 そもそもコアガンダム本体そのものが、ヒロトが0から生み出したフルスクラッチモデルである。

 であれば、その専用装備であるアーマーもまた同様。かつて自分では作れないからとBUILD DiVERSの面々を追い回し、紆余曲折(うよきょくせつ)の果てにパーツデータを受け取って(ようや)くコアガンダムを手に入れる事が出来たイツキがそれを作るというのがどれ程の難題かは、今更言葉にするまでも無い。

 そんな事も、当のイツキ自身が一番理解している。

 

「そんなの分かってるよ! でも、コアガンダムの時はヒロトさん達に散々迷惑(メーワク)掛けたんだ」

 

 そもそも、そうやってヒロトにコアガンダムを作ってもらおうとした事だって、自分では作れないと思っていたからこその妥協案(だきょうあん)。自分のものなのだから自分で作るべきだ、という考え自体は最初から既にイツキの内にあったものだ。

 それに、当のヒロトがかつて言っていたのだ。――自分の知らないところで勝手に作り、使う分には何も言わない、と。

 ヒロトのコアガンダムには、彼が込めた“想い”が詰まっている。だからこそ、イツキからの製作依頼を(がん)として彼は断り続けた。そんな彼だったからこそ、最終的にパーツデータを(ゆず)ってくれた事にしても妥協に妥協を重ねてくれた末の案だったであろう事を想像に難くない。

 だからこそ、せめてアーマーだけは自分の手で作り上げる。ヒロトの知らないところで、少なくとも彼にだけは絶対に頼らずに。――それが、一人のダイバーとして本来あるべき姿勢であり、彼がしてくれた(ほどこ)しに(むく)いる事に(つな)がるのだから。

 

「それに、どんなアーマーにするかも大体決まってるんだよね」

 

 まだ“何となく”レベルのあやふやなものでこそあるが、最初に作りたいアーマーのイメージは既にイツキの中で固まって来てはいる。

 それを実現するための具体的な方法、およびそれを実行に移せる技術が無い事こそ、正に一つ目の悩みの内容そのものになるのだが――ともかく、そのイメージを形にするという意味でも、アーマーだけは絶対に自分の手で作らなければならないのだ。

 ――というところまで説明して、なおコテツの顔にはもの言いたげな渋面(じゅうめん)が浮かんでいたが、もうイツキはそれに取り合う気は無かった。

 今度は、彼が尋ねる番だ。

 

「ていうか、俺も訊きたい事あるんだけどさ」

 

「あん?」

 

「フォースの名前って変えられないの?」

 

「………………あ゛?

 

 質問の内容をすぐに理解出来なかったのか。数分の硬直を挟んでから、()じ切れんばかりに深くコテツの首が傾げられた。

 

「フォースの、名前だぁ?」

 

「うん」

 

「――何で、んな事訊くんだよ?」

 

「いやだって、いくら何でもダサすぎるだろ今の名前」

 

 唇を尖らせ返答するイツキ。

 そう、これこそが彼が抱えている悩みの二つ目。――コテツのフォース、俺様とゆかいな仲間達の、その名前(フォースネーム)である。

 昨日のZi-ソウルとのフォースバトルとの直前、これまた色々と過程を経てからDランクになった後にコテツのフォースに入る事をイツキは約束したが、その時点で彼はその名前を知らなかった。

 男の言葉に二言は無い。そして、細かい部分はどうあれZi-ソウルとのフォースバトルに勝利したイツキは、それによって得たダイバーポイントでフォース制度の利用権限がアンロックされるDランクへの昇格を果たした。となれば、コテツとの約束通り彼のフォースに加入する事となり、今後はその一員としてフォースの名前も名乗る事になるのだが……。

 

()だよ、あんなバカみたいな名前。何が悲しくてお前のゆかいな仲間なんて一々名乗らなくちゃなんないんだよ」

 

 というか、フォースの名前がこんなフザけたものだと分かっていたなら、絶対にこんな約束していなかった。――そう心の底から思うくらいには、俺様とゆかいな仲間達という名前(フォースネーム)はイツキにとって受け入れ難いものであった。

 だが、もう一度言うが男の言葉に二言は無い。今の名前を名乗る事は心底嫌だが、されとて一度交わした約束を反故(ほご)にするという選択もまた、イツキの内には無い。

 そういうワケで、コテツとの約束通りにフォースに加入しつつ、あのバカみたいな名前を名乗らずに済むにはどうすれば良いか悶々(もんもん)と考え続けた果てに思い付いたのが、フォースの名前そのものを変える事であった。

 そして今、そもそもそれが可能なのか確認すべく口にしたのだが、

 

冗談(ジョーダン)じゃねぇ!!

 

座っていた椅子を吹っ飛ばす勢いで立ち上がったコテツから返って来たのは、激しい否定であった。

 

「俺様とゆかいな仲間達は俺のフォースだ! 名前変えるかどうかも俺様が決める事だ! ちゃんと入ってもいねぇ奴が、横からしゃしゃり出て来んじゃねーよ!」

 

 そう怒鳴り散らされるコテツの言葉は正しい。

 そもそもフォースを立ち上げたのが彼なら、その名前を決める権限があるのだって彼だ。まだ正式な加入手続きさえ済ませていないイツキには、とやかく言う筋合いも権利も無い。それについては彼も重々承知している。

 その上でなお、イツキは名前(フォースネーム)の変更を主張しているのだ。

 だから、でも、と彼は食い下がろうとするのだが、

 

「大っ体、俺様とゆかいな仲間達がダセェだとぉ? はっ! んなモン、()()()()()()()()()だけじゃねーか!」

 

続けて放たれたこの言葉には我慢ならなかった。

 

何だとォ!!

 

 カチン、と来るや否や、イツキもまた座っていた椅子を激しく弾き飛ばしながら立ち上がり、コテツへ詰め寄った。

 

「俺がセンス無いだってぇ!? お前、よく言えるなそんな事!」

 

「ホントの事だろが! 俺様が付けた名前(フォースネーム)にウダウダケチ付けてやがんの、テメーだけじゃねーか!」

 

「だったら俺とトピア以外の人にも聞いてみろよ! 絶対皆言うぞ! “スゲェダサい名前。こんな名前のフォース入りたく無い”、って!」

 

「言いやがったなテメー!?」

 

「あー言ってやったよ! でもお前の事だしちっとも分ってないだろうから、もっかい言ってやる! お前の付けたフォースの名前、スッゲェダサい!!

 

 そうなれば、もう後は()すがまま。

 互いに罵詈雑言(ばりぞうごん)をぶつけ合い、終いには鼻先を突き合わせて熾烈(しれつ)な睨み合いへと移行だ。

 

「ふ、二人ともぉ! ケンカはダメですぅ!」

 

 机の上から15cm超の小さな体を必死に振り回してトピアが仲裁(ちゅうさい)しようとするが、剣呑(けんのん)な空気を立ち込めさせる二人の視界の端にさえ、その姿は映らない。

 そうしてそのまま、イツキとコテツがどちらともなく腕を伸ばして取っ組み合いの喧嘩が始まるかと思われた、その時。

 

「イツキ君まだいるー? ちょっと頼みたい事あるんだけどー!」

 

 店の奥からカウンターへと駆け込んで来たヒカルの慌ただし気な声が、アガタ模型店の店内に強く響き渡った。

 




そんなこんなで第3章は終了。次回より第4章となります。
というワケで、今回バトルしたZi-ソウルの面々の簡単なプロフィールを紹介。各項目については

【Diver Name】:ダイバーネーム。
【Use GUNPLA】:使っているガンプラ。
【Form Variation】:ガンプラの形態バリエーション。換装・変形等による、通常とは異なる形態。

となっております。それでは。

【Diver Name】:ヒムロ
【Use GUNPLA】:コアバクゥ
【Form Variation】:バクゥマッハイェーガー

 イツキの初フォースバトルの相手を(つと)めたフォース、Zi-ソウルのエース。(少なくともダイバールック上は)イツキ達と同年代。
 コアガンダムを使うイツキの事を気に掛け、自らもコアガンダムのプラネッツシステムとよく似た換装機構を搭載したガンプラを使うなど、いやにコアガンダムと繋がる要素が多いような……?

【Diver Name】:デアール
【Use GUNPLA】:ザムドラーグ(黒を基調に、部分部分で赤色に。背に大口径のビームカノンとバルカン砲を背負っている。どこかで見た気がしないでもない?)

 イツキの初フォースバトルの相手を(つと)めたフォース、Zi-ソウルのリーダー。何だかぺリシア辺りにいそうな恰好をしている人その1。

【Diver Name】:ノフリ
【Use GUNPLA】:ダナジン(全体的に白く、頭部のセンサー部をクリアーオレンジのバイザーアイに変更。背にHGAGE ドラドのビームライフルを二門、両手にアームバルカンを追加している。どこかで見た気がしないでもない?)

 イツキの初フォースバトルの相手を(つと)めたフォース、Zi-ソウルのサブリーダー。何だかぺリシア辺りにいそうな恰好をしている人その2。
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