ガンダムビルドライザーズ   作:shisuko

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今回はGBNログイン回。
ダイバーズ二次では毎度お馴染みな感じのあのイベントもあれば、やっぱり毎度お馴染みなあの人も出て来る、そんな回の始まり始まり~。


第3話 ようこそGBNへ

 さて、まずは家庭用の簡易型GBN筐体の使い方について軽く説明しよう。

 筐体は大きく分けて二つの物――本体と、専用のヘッドセットで構成されている。筐体の本体は幅広の長方形の、厚さ大体3cm程のグレーの板状で、左右からMSの操縦桿を模したレバーが一本ずつ上を向いて伸び、中心には角の落ちた三角形の形に一段窪んだダイバーギアのセットスペースが存在している。ヘッドセットの方はクリアーグリーンの幅広のバイザーが付いており、これが身に着けた際に丁度目元を覆い尽くすようになっているのだ。

 これらをネット環境が整った、一定以上のスペックを持つパソコンに接続。更にヘッドセットを頭に被り、ダイバーギアを本体のセットスペースへと置いて筐体に読み込ませる。

 そして、

 

<Please set your Gunpla>

 

ヘッドセットを通じて筐体から流れるその電子アナウンスに合わせ、セットしたダイバーギアの上に使うガンプラを置き、スキャンさせる。

 以上の工程を以てサーバーへのログイン作業は完了となり――晴れてGBNをプレイする“ダイバー”の一人として、イツキは今、広大なディメンジョンへとその足を踏み入れるのであった。

 

 

 

「……ん、ううん……」

 

 一通りのログイン作業を終え、借りたガンプラを筐体にセットしたダイバーギアに読み込ませたのも束の間。

 不意に襲い掛かって来た沈み込むような感覚と共に遠退いた意識が再びハッキリとして来たイツキは、一体何がどうなったのかと、ゆっくりと目を開いていく。

 そして次の瞬間、

 

「わぁ……」

 

開けた視界に映り込んだ光景に度肝を抜かれ、思わず驚嘆の息を吐いていた。

 

「ここが、GBN……!」

 

 首を左右に忙しなく、喜ぶ犬の尻尾の如く振りながら見回すその目に映る、緑掛かった白色の壁に囲まれた円形の広大な空間。その壁には何かのランキングらしき表や、名の知らないガンプラ達が組み合っている様を流している巨大な液晶が隙間なくみっちりと詰められている。

 その景観だけでも既に圧巻だが、それよりも目に着くのはやはりそこにいる人々の姿だ。

 GBNをプレイするに当たって、ダイバーは自らのGBNの姿である“ダイバールック”を決める必要があるのだが、このダイバールックの自由度が如何ほどのものかは、彼らの姿がそのまま証明になっているといっていい。

 何せ、ガンダムシリーズの作品に出て来るキャラクターを模した衣装や容姿の者達もいれば、まるでファンタジー物のゲームから抜け出して来たような甲冑姿の戦士やフサフサの体毛に全身を覆われた獣人、人間に似ているがどこか違う亜人の姿をした者もおり、果ては良く分からない埴輪だとか、スイカ大の球体に楕円の目が付いたロボット?(ハロ) だとかもいる程なのだ。

 そして、そんな千差万別、奇想天外な人々が互いの姿に気圧されるような様子も無く、思い思いに空間の中を行き交い、何かを語らい合っている。

 GBNに幾つも存在するエリアの内の中央部――“セントラルエリア”のロビーのそんな様相に圧倒されたイツキは、続いて視線を今の自らの姿へと移して、おおっ、と感嘆の声を上げた。

 

「ちゃんと設定した(やった)通りになってる……!」

 

 下は白い足袋(たび)と薄茶色の雪駄(せつた)が覗く紺色の袴、上は白の着物の上から袖口に鋭い山形模様が並んだ水色のダンダラ羽織を羽織り、更に現実と大まかな形は変えていない黒髪は後頭部で白紐で結った一束が跳ね、まるでちょんまげのようになっている。

 腰に刀こそ携えていないが、現実で身に着けていた水色の半袖シャツと紺色の短パンから変わったその恰好は――ログインする直前に設定したイツキのダイバールック(GBNでの姿)は、正しく幕末の京都にて活躍した、かの新選組のそれであった。

 

「すげ~ぇ!」

 

 両手を持ち上げてみたり、片足を上げて見たりしながら、今の自らの姿や身に着けている新選組の衣装の感触や肌に感じる感覚をイツキは確かめてみる。

 果たして現実と殆ど遜色の無い各種感覚に、唯でさえ高揚していた彼の心は更に昂っていく。

 そうして、

 

「遂に、遂に俺もGBNにっ……!」

 

遂に自分もあのGBNを始めたのだという事を本格的に認識し、今にも爆発しそうな感激に胸の前で作った両の握り拳をブルブル、と震わせるのであった。

 ともすれば、そのままその場の勢いに任せてどこかへすっ飛んで行ってもおかしくないような心持ちであったが、しかしその気持ちのままに彼がそうする事は無かった。

 自制心が働いたから、ではなく、

 

「おーい、そこの君! 新選組の君ー!」

 

「ん?」

 

ふとすぐ近くから声を掛けられ、意識がそちらの方へ向いたからであった。

 そのまま声のした方に振り向いたイツキは、自分のすぐ近くに立つ、一人の見知らぬ男の姿を見つけた。

 

「……今、俺の事呼んだ?」

 

 自分の聞き間違いかという疑い半分、見ず知らずの人間に声を掛けられた事から来る警戒半分で少し身を強張らせつつ、恐る恐るイツキは男に尋ねる。

 ただし、恐らく聞き間違いという線は無い。

 何故なら、自分以外に新選組のダイバールック(恰好)をしたダイバーは周囲に見当たらないからだ。

 そして実際に、イツキの問いに男が頷いて肯定して見せた。

 

「おーおー、君を呼んだのはこの俺だよー。新選組のボウヤ」

 

 そう答える男は、一言で言えばかなり胡散臭い風貌の男だ。

 丸まって猫背になっている痩せぎすの長身に纏っているのは、ダークグレーのスラックスと皺だらけのシャツ、それに着崩した同色のジャケットに胸元まで下されて皺の寄った赤いネクタイ。その上の顔は頬がこけ、白目が広い三白眼が飛び出しそうになっている。頭に乗っている紫色の髪は後頭部から緩やかに、まるでスカンクの尻尾のように盛り上がり、反り上がっていた。

 そんな見るからに胡散臭いダイバールック(見た目)の男に隠し切れない戸惑いの乗った視線を向けるイツキに、おっと失敬、と何かを忘れていたとでも言いたげに男が広めの額に右手を当てた。

 

「自己紹介がまだだったねえ。俺は“スカンクセイ”。このGBNで日夜有益な情報を集めては他のダイバーにそれを売っている、所謂“情報屋”って奴でねえ」

 

「はぁ」

 

 右手を胸に当て、左手を大きく振る大仰な動作を交えながらそう自らの事を話す男――自称情報屋のスカンクセイに、そんなのもいるんだ、と思いながらイツキは生返事を返す。

 それに特に反応を示す様子も無く、スカンクセイの言葉が続けられる。

 

「こんな身なりしてるんで皆大体警戒しちまうけど、これでも結構なお人好しなんだ。困っている奴に赤字上等の格安で情報売っちゃう事もあるし、始めたばっかりで右も左も分からない初心者諸兄には初心者向けの超簡単ミッションや、簡単に強くなれちゃうすんばらしい裏技なんかの紹介もしちゃったりしてるんだよねえ。そう、丁度()()()()()

 

 そこで一端言葉を区切ったスカンクセイが、ずずい、とイツキの眼前まで顔を近づけて、こう言った。

 

「君、今日始めたばっかでしょ?」

 

「え、何で分かったの?」

 

 間近に迫ったスカンクセイの顔に少し後退ったのも束の間、今さっき会ったばかりの彼に初心者である事を言い当てられた事にイツキは驚く。

 そのイツキの反応に、――彼に見えないところで不敵に笑ってから――そりゃ分かる

よお、と素早く顔を引っ込めたスカンクセイが背中を向け、両腕を大きく広げる。

 

「遠目からでもハッキリ見えたからねえ。ここに現れてすぐのボウヤが物珍しそうに辺りを見回したり、感激してるのが。そんなのは、ほぼほぼGBN入門し立ての初心者がするもんさ。――で、そんなボウヤを見つけてしまった俺はもう親切心が抑えらない。というワケで――」

 

 再び言葉を区切ったスカンクセイが、伸ばした右手の人差し指で目の前の何もない空間を突く様な動作をして見せる。

 すると、それに合わせてA4サイズ台の、半透明のホログラフィ――メニューウィンドウがスカンクセイの目の前に現れた。

 その現象に、おおっ、と驚くイツキの目の前まで、スカンクセイが呼び出したメニューウィンドウを人差し指で引き寄せる。

 

「早速だけど、この初心者向けの超簡単ミッションを紹介しちゃうよー」

 

 そうスカンクセイが言う通り、彼が呼び出したメニューウィンドウに出ているのはどうやらミッションの受注画面らしく、ミッションタイトルや大まかな内容、行われるエリアはクリアー条件、そして実際に受注するか否かを決定する“OK”と“CANCEL”のスイッチが表示されていた。

 

「やる事は超簡単。指定のエリアでヤナギランっていう花を取ってきて、それを納入するだけ! 強制戦闘とかも無いから、ガンプラ動かす練習しながらでも十分出来るし、そこには出てないけど報酬も結構豪華だよお!」

 

「へー……」

 

 正直、メニューウィンドウに記載されている事項のいくつかは良く分からなかったが、スカンクセイの説明や、彼が言った通りらしいミッション内容を見る限りでは、確かに始めたばかりの自分でも出来そうな簡単そうなミッションだ。おまけに、彼が言うにはガンプラを動かす練習も並行して出来るらしい。

 せっかくGBNに来たのだし、早くミッションの一つでもやってみたい、というのが正直なところだったイツキには正に渡りに船だったため、やってみようかな、という気持ちが彼の中で首を(もた)げる。

 が、すぐにその気持ちを思い止めて、伸ばし掛けていた手をイツキは引っ込めた。

 

「せっかくミッション持って来てくれたおじさんには悪いんだけど、俺、今待ってる奴いるから……」

 

 何か準備が必要らしいトピアと、それに付き合うらしいコテツに先んじてログインしていたイツキは、後からログインするという二人にGBNの案内をしてもらう約束になっている。

 今はまだ二人の姿は見当たらないが、だからといって二人に話も無く勝手にミッションを引き受けるのも(はばか)られる。――その旨を、イツキはスカンクセイに伝えた。

 すると、大丈夫大丈夫、と特に気にした風も無く――むしろ好都合だ、とでも言いたげな含み笑いを一瞬浮かべてから――スカンクセイがからからと笑った。

 

「このミッション参加人数とか特に決まって無いから、後から来た友達も一緒に参加出来るよお」

 

「いやでも――」

 

「それにさあ。ぶっちゃけるとこのミッション、期間限定の奴なんだよね。もう締め切り間近だから、今受注しておかないともう二度と受けられないんだよね」

 

「えっ、そうなの?」

 

「そうだよお。だから内容の割に報酬も良いんだよお。今受けておかなかったら、絶対後悔するよお。――悪い事は言わないから、ここは取り敢えず受注しとこうよ? 今の話すれば、きっと友達も許してくれるって」

 

「う、う~ん……」

 

 イツキは、悩んだ。

 確かにスカンクセイの言う通りならば、ここで受注しなければこのミッションはもう二度と出来ないかもしれない。加えて、詳細こそ分からないが期間限定が故に報酬も豪華らしく、後から来るコテツとトピアも参加可能だそうだ。そこまで好条件が揃っているとあれば、逃すのは非常に惜しい。

 しかし、それはそれとして、やはり二人に無許可でミッションを受けるのは気が引けるし、何故かは分からないが、妙に嫌な予感がする。――このミッションを受けたら心底後悔するハメになりそうな、そんな言い知れない予感が。

 そんな二つの相反する気持ちを天秤に掛け、腕を組んで頭の中でその天秤が揺れ動く様を見守っていたイツキは――天秤が一方に傾き切るのを見届けるや、スカンクセイに返答した。

 

「分かった。ミッション受ける!」

 

 やはりこのミッションを逃すのは惜しい。コテツとトピアからは良い顔されないだろうが、二人も参加できるんだし、そこは何とか謝って許してもらおう。

 そう結論付けたイツキの答えに、ほい来たー、とスカンクセイが――見事に獲物が罠に掛かるのを目の当たりにしたかのような笑みを浮かべて――指を鳴らした。

 

「よーし! それじゃあ善は急げ、だ。このOKってところタッチして、早速ミッションを受注しよー!」

 

 そう嬉しそうに声を張るスカンクセイに促されるまま、頷いたイツキはメニューウィンドウ上のOKのボタン向けて、人差し指を伸ばした右手を近づける。

 そうして、OKのボタンに指の腹が触れ、正式にミッションが受注されるまで後ほんの僅かというところまで人差し指の先を迫らせた――その時。

 

「はいストップー」

 

 突如現れた何者かの手が、イツキの右手首を掴んだ。

 突然腕を止められた事に驚いたイツキは、反射的に手が伸びている方へと振り返って、思わず目を見開いた。

 

「コテツ!?」

 

 果たして、そこに立っていたのはコテツであった。

 衣服こそ現実で着ていた半袖パーカーとカーゴパンツから、袖を(まく)った薄灰色のツナギと襟元から覗くオレンジ色のシャツ、そしてつばが後ろ向きになるように被られたシャツと同色の帽子という――“機動新世紀ガンダムX”に登場する天才メカニック少年“キッド・サルサミル”のそれと同じ――格好へと変わっているが、それらを身に着けている焦げ茶色の髪と生意気そうな顔付きは、見間違えようが無い。

 その彼が、今イツキの手首を、決してそこから先へ動かさせまいとするかの如く、強く握り締めている。

 GBNの感覚フィードバックの範囲の関係で現実では発生しているだろう痛みこそ無いが、それでも困惑せざるを得ないイツキは、おい、と彼に声を掛けるが、それが聞こえないかのようにコテツがイツキとメニューウィンドウの間へと顔を突き出す。

 そして暫くした後、やっぱりな、と舌打ち混じりに呟く声が聞こえたかと思いや、今度はグルリ、と彼の顔がイツキの方へと向かれた。

 

「おいイツキ」

 

「な、なんだよ?」

 

「お前、ハメられてんぞ?」

 

「へっ?」

 

 突然の言葉に、訳が分からず間の抜けた声を漏らすイツキ。

 それがどういう意味なのか問い質す間も無く、彼に背を向けたコテツがふー、と大きく息を吸い込み、次いで、

 

皆さーん! 初心者狩りでーすッ!!

 

ロビー中に響き渡る程の大声で、そう叫んだ。

 その突然の行為に、訳が分からず目を瞬かせるイツキを後目に、更にコテツが叫び続ける。

 

ここにー! 初心者狩りがいまーす! 今日始めたばっかのー! 初心者をー! 引っ掛けよーとしてまーす!!

 

「なっ、な、ななっ……!?」

 

 見れば、スカンクセイもまた叫び散らすコテツに、首を左右に振り回して困惑を顕わにしている。

 ――いや、彼の場合は何か違う。

 単純に状況に追い付けないイツキと違い、スカンクセイは、まるで知られてはならない事が現在進行形でバラされているかのように、引き攣った顔を滝のように流れる冷や汗で濡らしている。

 その様子に一瞬不可思議に思ったイツキは、すぐにその理由に思い当たる。

 ――初心者狩り。

 先程からコテツが叫び回っているその言葉が何を意味するのかは、GBNの事に疎いイツキでも字面から何となく察せられる。

 だとすれば、このスカンクセイという男は――。

 確かめるため、イツキはスカンクセイに声を掛けようとする。が、その一歩前に、逆に彼に声を掛ける者がいた。

 

「イツキくーん、お待たせしましたー」

 

 トピアであった。

 そこにふっ、と姿を現した彼女の姿は現実と殆ど変わらないが、しかしあくまでモビルドールの姿であったためにちらほらと見られたガンプラらしい角ばった部分やメカディテールが無くなり、何よりイツキとそう変わらない大きさとなった事で、より人間染みた見た目になっていた。

 その上で、纏っている衣服と同じ赤みの強いピンク色の、広いつばと半ばで頭頂部が折れ曲がったとんがり帽子を頭に被り、身の丈以上の長さの箒を右手に持った、所謂(いわゆる)魔女っ娘のような格好になっている彼女は、暫くしてその場の異変に気付いたのか、あれー、と大きく首を傾げて見せる。

 

「どうしたんですかぁ? 何だかさわがしいような――」

 

「おっ、トピアじゃねーか!」

 

 と、そこで叫び回っていたコテツがトピアの姿に気づき、彼女に叫び掛ける。

 

「トピア! イツキがそこのうさんクセー初心者狩りヤローにハメられかけてた!」

 

「ええっ、そうなんですかー?」

 

 碧色の目を丸くして驚き心配を顕わにするトピアに、え、えっと、と何か返そうとするも言葉が思い付かなかったイツキは、仕方なくその視線をスカンクセイの方へと向ける。

 その視線に気づいたスカンクセイが、ぐむっ、と呻きつつも、慌てて反論を口にした。

 

「なっ、何を人聞きの悪い事をっ……!? お、俺はただ、そのボウヤに初心者向けのミッションを斡旋しただけで――」

 

「初心者向けだぁ? ジョーダン抜かせよオッサン! そのミッション、開始エリアが()()“ヴァルガ”になってんじゃねーかッ!!

 

 スカンクセイの反論に、特に後半のヴァルガなるエリア名を強調してコテツが怒鳴り返す。

 すると、ぐむっ、と痛いところを突かれたようにスカンクセイが三白眼を細めて押し黙った。

 

「どうせ、右も左分かんねーコイツ囲んでボコろうってつもりだったんだろ? セケーんだよ、やる事が! ――おいトピア! お前も一緒に叫べ! 俺に合わせて、このオッサンがやろうとしてた事思いっきり言いふらしてやれ!!」

 

「う~ん……分かりましたー!」

 

 コテツの呼び掛けに、少しだけ唇に指を当てて考え込むような素振りを見せたトピアが、すぐに元気の良い声でそう返した後にコテツの横に並び、彼に(なら)ってに口の傍に両手を寄せて叫んだ。

 

皆さーん! 初心者狩りでーす!

 

イツキくんがー! ヴァルガにー! 連れてかれそうになってましたー!!

 

ここにいるー! 何かうさんクセー! このオッサンがー! その初心者狩りでーす!!

 

イツキくんはー! 今日が初めてなのにー! ひどいですー!!

 

 二人並んで交互に叫ぶ声が、入れ替わり立ち替わりにセントラルエリアのロビー中に響き渡る。

 その度に、反応した周囲の人々がざわつき、その視線を一様にイツキ達の方へと向けて来る。

 未だに状況がいまいち飲み込めず狼狽えるイツキには哀れみや憐憫の視線を。

 そして、見る見るうちに周囲に増えていく人だかりに三白眼を剥いた顔を蒼褪めさせていくスカンクセイには、糾弾と軽蔑の視線を。

 そして、どんどん増えていくその視線の数に遂に耐え切れなくなったのか、

 

「や、止めろっ! このガキ共!!」

 

叫び続けるコテツとトピアを止めんがためか、スカンクセイが拳を振り上げ、二人へと飛び掛かろうとする。

 その様子を認めたイツキは、急いで二人へと呼び掛けた。

 

「コテツ! トピア!」

 

 が、その声に反応したコテツとトピアが振り返った時には、時既に遅し。

 振り上げられたスカンクセイの拳が二人を容赦なく殴り付ける――などという事は無く、それどころか、新たにその場に現れた何者かによって、彼の腕は掴み止められていた。

 

「全くもぅ。何だか騒がしいと思って来てみれば」

 

 その何者かが嘆息する。

 

「この前も同じような事して運営のお世話になったばかりだっていうのに、ホッントに懲りないんだから」

 

「あ、ああ、あ……」

 

 先程までよりも更に蒼褪めた顔で、恐怖に焦点の定まらない三白眼でその何者かを、スカンクセイが見上げる。

 頬のこけた口元が、カクカク、とぎこちなく何かを言おうと上下している。

 

「まっ、どうやら今回は未遂で終わったみたいだし、運営に突き出すのは勘弁して上・げ・る」

 

「ま、まま、ま、ま……」

 

「ウチのフォースの皆で、た~っぷり()()して上げる代わりに、ね。――スカンクセイ?」

 

「ま、“マギー”……さん」

 

 見上げるスカンクセイの震える視線と、突然の現れた事に対して言葉を失っているイツキ達の視線を一身に受けるその何者か――“マギー”が、パチン、とウィンクして見せた。

 

 

 

「いやー。良いトコで来てくれたぜ、マギーさん。マギーさん来てくれなかったら、俺らぶん殴られてたぜ」

 

「ありがとうございます、マギーさん」

 

 口々にそう礼を言うコテツとトピアに、どういたしまして、とスカンクセイの暴挙を止めたその人物――マギーが返事を返す。

 筋肉が隆起する引き締まった褐色の長身。その上に白とダークグレーのぴっちりした、前面に付いたファスナーを全開にしたツナギを纏い、更に赤いボレロに袖を通したその漢女(おとめ)は、しかしすぐに、でもねぇ、と視線が合うように腰を曲げるや、二人を咎めるようにその目を細めた。

 

「アナタ達、もうちょっとやり方を考えなさい。あんな風に大勢いる中で騒ぎまくったら逆上されるのは当たり前だわ。それに、あれはあれで結構な迷惑行為よ?」

 

「んぐ……すんません」

 

「ごめんなさいですぅ……」

 

「友達が初心者狩りにあって気に入らなかったのは分かるけど、それでもちゃんと加減はしないとダーメ」

 

 次からは気を付けるのよ、と締め括り、二人が、はーい、と返事をする様を見て、よろしい、と満足げに頷くマギー。

 それで話が一段落を付いたと判断し――半ば蚊帳の外気味だったイツキは、ようやく、あの~、とマギーに声を掛けた。

 

「ところで、()()()()誰?」

 

ア゛ア゛ッ!?

 

 瞬間、凄まじい勢いで顔を歪ませてドスの効いた声を上げたマギーの迫力に、ひぃっ、と声の裏返った悲鳴を上げてイツキは飛び退く。

 更にそこへ、

 

「ばっ、バカヤロー!」

 

すかさずイツキとマギーの間にコテツが飛び込み、大慌てでイツキを怒鳴り付けた。

 

「マギーさんに向かって何言ってやがんだ! マギーさんはなぁ、()()()()()なんだよ!」

 

「い、いやだってこの人、どう見たってオカ――」

 

()()()()()だっつってんだろッ!!

 

 再三コテツの慌てたような怒鳴り声が耳朶(じだ)を打つ。

 鼻息を荒くする彼の問答無用な態度には正直納得いかないが、しかし長年の付き合いから、これは追究し続けても無駄だと判断したイツキは、分かったよ、と憮然としながら返す。

 丁度それと同じくして、まぁまぁ、と先程の迫力が嘘のような穏やかな表情でマギーもまたコテツを宥めた。

 

「アタシは大丈夫だから落ち着きなさいな、“アイアンちゃん”。――っと、イツキ君で良かったかしら?」

 

「あ、はい」

 

「初めまして。もう知ってると思うけど、アタシはマギー。アナタみたいに始めたばかりの初心者の子にGBNを楽しんでもらえるようにナビゲートを買って出たり、さっきのスカンクセイみたいな奴が悪さしないように見張ったりしてるお節介さんよ」

 

 そう自らの事を話し、仕上げに、はい、とメニューウィンドウを呼び出し、2,3操作してから表示させた自らのプロフィール画面をイツキの方へスライドさせるマギー。

 そのメニューウィンドウを受け取って目を通したイツキは、そこに記載されている内容に、ええっ、と目を見開いた。

 

「個人ランク23位って……これ、凄いんじゃないの?」

 

 総アクセス数二千万人以上のGBNの中での、23位。

 アクセスしている人間の全てが日夜ガンプラバトルをして個人ランキングを上げる事に躍起になっているという事も無いが、それでもその膨大な分母の中での上から23位という順位は確認するまでも無く飛び抜けたもので、同時にそのランクを可能とするマギーの実力も計り知れないものであると、否応なく思い知らされる。

 

「そーだよ。マギーさんスゲーんだよ。分かったら、オメーもマギーさんに変な事言うんじゃねーぞ?」

 

「よしてよアイアンちゃんったらぁ。大した事無い、とは色んな人達に失礼になっちゃうから言えないけど、そんな(かしこ)まられるもんでもないわぁ」

 

「すんませーん!」

 

 イツキに詰め寄ってそう言い聞かせて来たのも束の間、些か気恥ずかしそうに手を扇ぎながら微笑むマギーに、素早い動作で頭を下げた。

 そんな、昔から明らかな格上相手には弱い幼馴染の平身低頭(へいしんていとう)な姿を、なんだかなぁ、と思いながら見ていたイツキは、すぐに気を取り直してマギーへと問い掛けた。

 

「あの、マギーさん? ちょっと聞きたい事あるんだけど良い?」

 

「あらぁ、何かしら?」

 

「さっきの、あのスカンクセイっておじさんはどうしたの? 何か、マギーさんの知り合いっぽい人連れてっちゃったけど?」

 

 まずは、スカンクセイの事だ。

 先程マギーによって彼の暴挙が止められたワケだが、その後顔を酷く蒼褪めさせたスカンクセイは、突如その背後に現れた筋骨隆々の逞しい体におかっぱ頭の漢女(おとめ)――マギーがピーちゃんと呼んでいた――によって羽交い絞めにされ、まるで死刑執行が目前に迫った死刑囚の如く泣き叫んで藻掻きながら、どこかへと連行されていったのであった。

 その時はあまりに突然の事で呆然とするしかなかったワケだが―― 一体、彼はどうなったのか?

 

「ああ、スカンクセイね。アイツならウチのフォースの子達と()()してる頃だわ」

 

「お、()()?」

 

「そう、()()。もう二度と初心者狩りなんてバカなマネしたくならないようになるっていう……そういう、()()()()()()()

 

 微笑みを崩さずそう語るマギー。

 立てた人差し指でリズムを刻んだその顔が、一瞬怪しい笑みを浮かべたような気がした途端、言い知れようのない寒気が襲い掛かって来てイツキは、ブルリ、と体を震わせる。

 ……何となくだが、彼女? の言う()()というのが字面通りのモノでは無いような気がしたが、それを追求してはいけないような気もした。

 なので、何も見なかった事にして流す事にしたイツキは、もう一個良い、とマギーに追加の質問を投げ掛けた。

 

「さっきからマギーさんが呼んでる“アイアンちゃん”って、誰?」

 

「あら!」

 

 その質問に、意外、とばかりにマギーが口元に手を当てて驚いた素振りを見せる。

 

「もしかして、アナタまだ知らないの?」

 

「え? どーいう事?」

 

「だって、アイアンちゃんは――」

 

 と、そこまで言い掛けたマギーを、ちょっと待った、と掌を突き出して止める者がいた。

 コテツであった。

 

「そっから先は俺が言うぜ、マギーさん」

 

 そうマギーに告げたコテツが、次いでイツキの方へと向き直る。

 と同時に向けられた彼の、何やら重々し気な光が宿った視線が目に入って少し怯んだイツキに、続けてコテツが真剣な声色でこう告げた。

 

「イツキ、オメーに言っておく事がある」

 

「な、何だよ……?」

 

 やはり重苦しく告げられた真剣な声に、それこそ言い知れぬ恐ろしさすら覚えて後退りしそうになるイツキ。

 その彼にコテツが、驚天動地の事実を告げた。

 

「今の俺は――コテツじゃねぇ」

 

「へっ?」

 

「今のっ、GBN(ここ)での俺は~ぁ……数多(あまた)の戦場駆け抜ける黄金の獅子、“アイアンタイガー”!!

 

 クルクル~、シュピンッ、とその場で一回転した後に人差し指を伸ばした右手を勢い良く突き出した、“機動戦士ガンダムSEED ASTRAY R”にて傭兵部隊“サーペント・テール”のリーダー“叢雲(ムラクモ) (ガイ)”が取っていた名乗りシーンを髣髴とさせるポーズと共にコテツが――“アイアンタイガー”がその名をロビー内に轟かせた。

 

「あ、アイアン、タイガー……?」

 

「そうよ! それが、この俺様の“ダイバーネーム”よぉ!」

 

 GBNをプレイするに当たってダイバールックに続き必要となるのが、GBNにおけるもう一つの名前――“ダイバーネーム”だ。

 こちらも、いってしまえば匿名の掲示板や他のゲームでのキャラクター名なので当然と言えば当然だが、ダイバールック以上に好きなように決める事が出来る。それこそ、イツキがそうしているように現実と同じ名前を名乗ることも出来れば、逆にコテツのように大きく離れた名前だって可能なように。

 さて、そういうワケでイツキはアイアンタイガー(コテツのGBNで)の名前を知ったワケだが、その名前に対して一言、感想が今、彼の口から飛び出そうとしていた。

 それは、

 

「……ダサッ

 

であった。

 

「ああ? 今何つった?」

 

「ダサいって言った」

 

 すかさず肩眉を顰めたアイアンタイガーの咎める視線が向けられるが、それを気にする事無く、取り敢えず思った事をイツキは返す。

 

「いやだって、アイアンタイガー(鉄の虎)なのに黄金の獅子とか言っちゃってるし、さっきのクルクルしてたポーズもカッコ付け過ぎで意味分かんないし。お前のそのダイバールック(ツナギ)とも合って無いし」

 

「かーっ! 分かってねーなぁ、お前はよぉ! そーいうのがカッコいいんじゃねーか! そーいうのが!」

 

「えぇ……?」

 

 ダメ出しするも、まるで流行に(おく)れている奴を小馬鹿にするように、掌で覆った顔で天を仰ぎながら呆れるアイアンタイガーに、何だか納得のいかない感じを覚えイツキは目を細める。

 その一方で、

 

「アタシは結構好きよ、アイアンちゃんのダイバーネーム(名前)。フラウロスのレールガンにギャラクシーキャノンとかノリノリで付けちゃうノルバ・シノみたいで」

 

うふふ、と微笑まし気にマギーが笑い、

 

「でも、やっぱりアイアン()()()()()()くんの名前ちょっと呼びにくいですー」

 

アイアン()()()()!!

 

続けてそう言ったトピアが名前を間違えていたため、すかさず飛んで来た、誰がニャンニャンじゃあッ、というアイアンタイガーの訂正の叫びによって怯まされていた。

 そんな三人の様子を眺めながら、

 

「なんだかなぁ……」

 

ポツリ、と肩を落としてイツキは呟くのであった。

 




時として無茶苦茶し出すのが子供の怖いところですよね(コーイチ兄さん初登場回のストーカーりっくん達を見ながら
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