ガンダムビルドライザーズ   作:shisuko

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前回の話の後書きで”次の話でアイツら出て来るよ”、と言ったな、アレは嘘だ(コマンドー並感

真面目な話、書いてたら字数がとんでもない事になってたもので……すまぬ……すまぬ……。


第5話 凶襲! VS初心者狩り!①

 GBNのルールの一つとして、ダイバー同士のフリーバトルは互いの同意の下でのみ認められる、というものがある。

 まずメニューウィンドウからアクセス出来る設定画面にてフリーバトルモードを有効にし、その上で戦う互いが承認する、というプロセスがフリーバトルを行う上で()()()()()必要であり、()()()()()を除いてこのプロセスを無視する事は許されていない。

 ましてや、フリーバトルモードを有効にしていない相手へ、一方的に攻撃を仕掛けてバトルを始めるなどという蛮行は以ての外だ。運営に知られるようなことがあれば悪質ダイバーとして目を付けられる事は避けられないだろうし、最悪アカウントの停止という危険性すらある。

 そんな行為を、高々“ダイバーランク”――F~SSSまで表わされるダイバーの強さ指標――を上げるための“ダイバーポイント”を得るために行うというのは、どう見繕ってもハイリスク・ローリターンでしかない。

 それ故に、通信ウィンドウの向こうで口元をヒクつかせたアイアンタイガーが、困惑混じりにこう吐き捨てたのだ。

 

『おいおい、“ヴァルガ”じゃねーんだぞそこ……? 勝とうが負けようが運営からペナルティ食らうって分からねーのかよ?』

 

「そうなの?」

 

『ハッ! んなモンテメェなんかに言われるまでもねぇんだよクソガキ共!』

 

 直後、正面モニターの隅からアイアンタイガーやトピアが映るものは別の通信ウィンドウが二つ展開する。

 現れたのは、見知らぬ男女一名ずつ。

 男の方は蒼い髪を波打たせ、その下から鋭くもニヤついた視線を覗かせている“ミハエル・トリニティ”似のダイバールックで、女の方は“ネーナ・トリニティ”を真似たらしい左側頭からサイドテールが垂れた赤い髪の隙間から、大きな瞳の吊り上がった目を喜色に歪ませていた。

 通信ウィンドウの下側に映る襟元から肩口までのデザインを見るに、どうやら共にガンダム00のセカンドシーズンから主人公“刹那・F・セイエイ”を始めとした“ソレスタルビーイング”の面々が着用していた制服を纏っているらしいその二人の内、女の方が露骨なまでの溜息を吐いた。

 

『ホンートやんなっちゃう。せーっかくいつもみたく()()()()が引っ掛けたおバカイジめて楽しくダイバーポイント稼ごうと思ってたのに』

 

『急に()()()()に呼び出されたから何があったか訊いて見りゃ、ガキ釣ろうとしたらソイツの連れに盛大にバラされたから今日はもう無理、だってよぉ!』

 

 赤髪の女と、彼女に続いて口を歪めながら青髪の男が吐き捨てたその言葉に、ふとイツキは引っ掛かるものを感じた。

 ごく最近、二人が口にした出来事と似たような場面に遭遇したような……?

 

「まさか、その()()()()とか()()()()って――」

 

『そうよ、そのまさかぁ!』

 

 そう青髪の男が叫んだかと思った次の瞬間、突き付けていたGNバスターソードを振り上げたアルケーが赤いGN粒子を噴き出して急接近して来た。

 いっ、と瞬く間にどアップになったアルケーに驚きつつも、咄嗟に左の操縦桿を上に持ち上げ、陸戦型ガンダムにシールドを構えさせる。

 

『お前らがロビーで騒ぎ立てた、()()()()()()のオッサンよォ!』

 

 その青髪の男の叫びに合わせるように、振り上げる最中に通常形態へと戻ったシールドの表面へと巨大な刀身が振り下ろされ、激しい火花が散った。

 

「うわぁ、わぁっ!?」

 

『イツキっ!?』

 

 大質量の物体が叩き付けられた事による凄まじい振動と轟音に耐え切れず、イツキは激しく前後に体を揺さ振られる。

 それでも何とか操縦桿から手を離さずに済んだ彼は、

 

「やっぱり……さっきのあのオジサン?」

 

調子を整えるため頭を振りながら、先のスカンクセイとの一件を思い返す。

 あのうさん臭かった、自称情報屋のスカンクのような髪型の男を。

 そこに、あー、そーいう事かよ、と何かを悟ったらしいアイアンタイガーの声が耳に入る。

 

「そーいう事?」

 

『あのオッサンのミッションだ。さっきも言ったろ? ありゃ、受けた奴がノコノコやって来たところを、待ち伏せしてる奴らがフルボッコにするっていう、よくある手のヤツだって。つまり――』

 

「あのオジサンだけじゃなくて、他にも俺を待ち伏せてた奴らがいたって事か!」

 

『そーいう事だ! だからそいつらは――』

 

『ピンポーン』

 

 アイアンタイガーが言い掛けた言葉を、そう明るい声で肯定した赤髪の女が代わりに続ける

 

『そうよぉ、オジサンの()()()お話に乗っかったおバカを狩るのがアタシらってワケ。安くないビルドコイン前払いしてあげてね。なのに、キミ達が余計な事してくれちゃったお蔭でもうご破算。“アダムの林檎”のオカマ連中にナニされたか知らないけど、オジサンったら何か悟ったみたいな顔して、暫くこういうの止めるから、ってさっさとログアウトしちゃってさぁ!』

 

『参るんだよなぁ、こういうの! オッサンみてぇに上手く獲物誘い出してくれるヤツ探すの、案外メンドクセーから、さぁッ!!』

 

「うわぁっ!」

 

 ギャリギャリ、と火花を散らして陸戦型ガンダムのシールドにGNバスターソードを押し付けていたアルケーが僅かに浮き上がったと思いや、再び衝撃が走った。

 続けて後方から鳴り響く、バキバキ、という破砕音。

 それが、吹っ飛ばされた陸戦型ガンダムの機体が背後に林立していた木々を圧し折った音だとイツキが気づいたのは、音が止むと共に思わず俯けていた顔を上げた先で、右足の裏を突き出すアルケーの姿を目にしたからだった。

 

『つーワケでツケを払え、クソガキ!』

 

『アタシらが払ったビルドコインの分と、()()()()()()()()()()()()キミのために態々こんなトコ来た労力の分と、あと運営から貰う予定のペナルティ分の、ダイバーポイントをね! そうでもしなきゃ、治まんないの!』

 

『それが、ペナルティ上等で仕掛けてきやがった理由っつーワケか』

 

「……何だよ、それ?」

 

 口々に言う男女と、二人の襲撃の理由を纏めるアイアンタイガーの声が連続してコックピットに響く中、イツキはボソリ、と呟く。

 

『―― 一応言っとくぜ、イツキ。棄権(バトルアウト)しろ』

 

 一拍の後、アイアンタイガーが静かに、感情を排した声で促して来る。

 

『そんな連中、まともに相手してやる必要なんざ無ぇ。とっとバトルから棄権し(おり)て、こっちまで戻って来い』

 

『そうですー! そんな勝手な人達とイツキくんが戦うこと無いです!』

 

 アイアンタイガーに続き、トピアもそう訴え掛けて来る。

 

『イツキくんはもうミッション終わらせてるんです。後はミッションカウンターで報告するだけだから――』

 

「あのさ」

 

 ――しかし。

 

「もしここで棄権したらさ、あの人達が言ってる、えーっと、ダイバーポイント、だっけ? それって、どうなんの?」

 

『え? えっと、それは――』

 

『向こうに払う事になる。――ぶっちゃけ、不戦敗だからな』

 

「そっか。やっぱそうなるんだ。んじゃあ――」

 

 イツキは二人のその進言を、

 

「――俺、そのバトルアウトっていうのしない! ()()()()()()!」

 

迷う事無く切り捨てた。

 当然ながら、ええっ、とトピアから驚きの声が上がるが、それでも彼は意見を変える気など無い。

 

「だって納得いかないもん!」

 

 襲い掛かって来たのは向こうの方だ。それも、初心者狩りなんていう凡そ褒められない行為が思った通りに出来なかった、その腹いせを理由に。

 だのに、こちらは戦いに応じなければダイバーポイントを失う事になるという。

 そのダイバーポイントとやらの価値がどれほどのものか、始めたばかりのイツキにはまだ分からない事だが、それを差し引いても、これはあまりにも理不尽というものだ。

 それに何より――これは、()()()()()()だ。

 例え相手が戦ってやる価値の無い初心者狩りだろうと、例え自分が今さっき初めてGBNでの戦いを経験したばかりの初心者だとしても、それでも売られた喧嘩を買わず、尻尾を巻いて逃げるなどという選択肢は、イツキの中には存在しない。

 一人の男として、この場から背を向けて立ち去るという選択は、何よりも――

 

「アイツら、俺が初心者だからって、大した事ないからってこんな事してるんだ。俺なんか楽勝だって! 玩具呼ばわりして! そんな奴らから逃げるなんて、絶対やだ! そんなの絶対――」

 

――()()()()()()!!

 そう、ハッキリ、とイツキは言い切った。

 それでもなお、でも、と心配げに顔を曇らせたトピアが追い縋ろうとしていたが、

 

『止めとけトピア』

 

()()()()()()()()()()くん?』

 

()()()()()()()()!!

 

それよりも先に、へっ、と鼻を鳴らして笑ったアイアンタイガーが――こんな時までボケてんじゃねぇ、と先に怒鳴りつけてから――彼女を押し止めた。

 

『こうなっちまったら、もうコイツは何も聞かねぇ。言うだけムダだ。――ま、オメーならそー言うだろうって、俺は最初(ハナ)っから分かってたけどな』

 

『けど……』

 

「何言ってんだよ? 最初にバトルアウトしろって言ったの、お前じゃん」

 

()()つったろ? つーか、どうせ――』

 

『何くっちゃべってんだオラァ!!』

 

 そこまでアイアンタイガーが言い掛けるのと同じくして、敵機の接近を告げるアラートと共に再び前方のアルケーが接近して来る。

 それに対し、イツキはすぐさま両の操縦桿を右へ傾けつつ動かし、陸戦型ガンダムを同じ方向へと飛び退かせようとした。

 その操作がどうにか間に合い、地面の上で反転した後に起き上がった陸戦型ガンダムのツインアイの先で、その機体を捉えられなかったGNバスターソードの一撃が圧し折れた木々や土砂を激しく打ち上げていた。

 

『俺ら無視して逃げる相談かぁ!? 言っとくが棄権なんかさせねぇからな!』

 

『キミはアタシらにダイバーポイント払ってくれる玩具でしかないの! 大人しく()()ぃにやられちゃいなよ、ボウヤ!』

 

『――向こうもノコノコ逃がす気なんか無ぇだろうしな』

 

「いーよ、逃がしてくれなくて! だって――」

 

 通信画面の向こうで、まるで弱ったネズミを前にした猫のように嗜虐的な笑みを浮かべる初心者狩りの男女に、辟易(へきえき)とした感情がありありと現れた溜息をアイアンタイガーが吐き出す傍ら、イツキもまた叫び返す。

 そうだ、逃げる気なんて無い。

 されとて、あんな連中の思い通りになんかになってやる気も毛頭無い。

 戦うからには、達するべき結果はたった一つ。

 

「お兄さんやお姉さん達なんかには絶対負けない! 勝つのは――俺だっ!!」

 

 陸戦型ガンダムを立たせたイツキは、通信画面の先の男女へと指を突き付け、威勢良くそう宣言して見せた。

 

 

 

「とりあえずシールドだけじゃ武器が足りねぇ! 足にビームサーベル付いてるから、そいつも使え!」

 

『分かった!』

 

「あと、出してる暇あるか分かんねーけど、ウェポンコンテナの中身もな! ――取り敢えず10分だ! 10分もたせろ!」

 

『えっ? 何で10分――』

 

「良いからやっとけ! あんだけ大見え切ったんだ! 呆気なくやられたりすんじゃねーぞ!」

 

『あ、ちょ……おいっ、()()()――』

 

()()()()()()()()だっつってんだろ!!

 

 そう一通り伝えるべき事をイツキに伝えた後、ギャラリーモードを閉じて彼との通信を終了させたアイアンタイガーが、うし、とすぐさまその場から立ち上がった。

 そして続け様に振り向いて、行くぞ、と声を掛けて来たが、そのアイアンタイガーの言葉に従う事無く、彼の顔を見上げたトピアはこう尋ねた。

 

「どうしてなんでしょうか?」

 

「あん?」

 

「どうして、イツキくんはあの人達と戦う事にしたんでしょうか?」

 

 アイアンタイガーに投げ掛けたその疑問が、今の彼女はどうしても気になっていた。

 

「イツキくんは今日GBNを始めたばかりの初心者です。ガンプラだって、さっきのチュートリアルで初めて動かしたばかりです。どんなにがんばっても、今のイツキくんじゃあの人達にはぜったい勝てないです」

 

 きっと、その事はイツキだって分かっている筈だ。

 だから、どうせ負けるのなら、失うのが変わらないのであればそちらの方が良いとトピアはバトルアウトする事を強く勧めたし、先にそれを進言したアイアンタイガーだって同じ気持ちだと思っていた。

 だが、実際のところイツキは彼女達の訴えを無視するだけでなく勝利を収める事を宣言したし、アイアンタイガーも彼がそうするであろう事を予測していたようだった。

 二人の、無謀ともいえるその行為の理由が、トピアには分からなかったのだ。

 

「どうしてアイアン()()()()――」

 

()()()()()()()()!!

 

「――アイアンタイガーくんは、イツキくんが戦う事に賛成したんですかぁ? あの人たちにイツキくんが傷つけられてもいいんですか?」

 

 少なくとも、トピアにとってイツキが傷つけられるのは許容し難い事だ。

 まだ出会ったばかりだが、それでも仲間(お友達)であるアイアンタイガー(コテツ)の、そのまた幼馴染(お友達)である彼の事も、既に彼女はお友達として認識しているのだ。お友達が傷つけられると分かっていて、何とも思わない程トピアは薄情では無い。

 だからこそ、イツキが戦う事を容認したアイアンタイガーの意思が尚の事分からない。彼らは、自分よりも付き合いのずっと長い幼馴染(お友達)同士の筈だから。

 その胸中の疑問を、途中ダイバーネームの呼び間違えにツッコまれながらも、真っ直ぐにアイアンタイガーの顔を見つめながらトピアは問い掛けた。

 それに対し、あー、と逆向きに被った帽子の上から頭を掻いたアイアンタイガーが、こう返して来た。

 

「そりゃ、アイツが()()だからだ」

 

「――ええ?」

 

 流石に予想外過ぎる返答に、思わず声を漏らすトピア。

 それに構わず、アイアンタイガーが言葉を続ける。

 

「昔っからなんだよ。負けず嫌いっつーか、自分(テメェ)が納得いかねーとか、気に入らねーとか、そーいうモンが前に立ち塞がったら、アイツ絶対に折れねぇ。周りが何言おうが聞かねーし、絶対逃げねー。絶対諦めねーんだよ。バカだから」

 

「それじゃあ、アイアンタイガーくんが賛成したのって――」

 

「さっきも言ったろ? 言うだけムダだ、って」

 

 初心者狩りというフザけた連中に一方的に仕掛けられ、しかもダイバーポイントを寄越すだけの玩具と見下された。

 それだけの条件が揃った時点で、もうイツキに何を言っても無駄だとアイアンタイガーは長年の付き合いから察していた。だから、バトルアウトの勧告も一応程度に、半ば止むを得ず戦闘続行を認める他無かった。――そういう事らしい。

 

「そもそも、あのバカに賛成なんかしてねーっつの。初心者()のアイツじゃ逆立ちしたってあの連中に勝てるワケねーんだから」

 

 オメーだってそんくらい分かってんだろ、とさも当たり前のように言い切るアイアンタイガー。

 その言い分に、トピアは疑問が解消されるどころか、尚の事良く分からなくなってしまう。

 それ故に彼女は更に追究しようとしたが、それよりも前に、

 

「だからホラ、行くぞ! イツキが耐えていられる内によ!」

 

その場で踵を返して駆け出すアイアンタイガーに言われるまま、慌ててトピアも横に置いていた箒を手にその場から走り出した。

 

「……不思議ですー」

 

 そう呟きつつ、佇む自らのモビルドールの方へと向けて。

 

 

 

『オラオラオラッ! どうしたどうしたァッ!?』

 

「ぐぅうううっ……!」

 

 青髪の男の威勢の良い声と共に、アルケーがGNバスターソードを振り下ろす。

 その攻撃を、✕の字に交差させた二振りのビームサーベルの刃で何とか防ぐイツキであったが、そのまま鍔迫(つばぜ)り合う事無く、振り上げてはまた振り下ろされてと連続で襲い来る大剣の勢いに反撃の(いとま)を掴む事が出来ず、彼の陸戦型ガンダムは徐々に後ろへと押し込まれていく。

 

『勝つのは俺だ、とか一丁前にほざいてたのはどこのどいつだぁ!? 守ってるばっかじゃ勝てないでちゅよー? ボクちゃーん!!』

 

「うるっさい、なぁ……!」

 

『それともぉ! さっきのは嘘かァ!?』

 

「ウソじゃ、ないっ! 勝つのは、俺だっ!」

 

『じゃあ俺に攻撃当ててみろよォ!?』

 

 青髪の男がそう罵った直後、不意にアルケーがバスターソードの連撃を止め、それを持つ右腕を右後方へと引っ込めた。

 それによってアルケーの前面がガラ空きになったのを、隙が出来たと咄嗟に判断したイツキは、すぐさまビームサーベルの交差を解き、右腕側を振り被って切り掛かろうとする。

 ――それが、ワザと作られた隙である事に気づく間も無く。

 

『こんな風になぁッ!!』

 

 瞬間、引っ込められていたアルケーの右腕が突き出される。

 右前腕下部にマウントされると共に、刀身が下にスライドしてライフルモードへと移行した、GNバスターソードの先端が。

 

「しまっ――」

 

 しまった、と罠に嵌った事にイツキが気づくのを待たず、大写しになったその銃口が放った真紅の光がモニターを埋め尽くし、構えていた刃を振り下ろす間も無く陸戦型ガンダムを後方へと吹き飛ばした。

 再びコックピット内に走る振動。

 機体の進行方向に林立していたであろう木々が()ぎ倒される音が響き渡り、それが終わると共に、衝撃に歯を食い縛っていたイツキは正面へと視線を向け直す。

 そして、

 

『ちょいさァーッ!!』

 

再び右腕から着脱したGNバスターソードを水平に構えて真っ直ぐ向かって来るアルケーの姿を認めるや、すぐさま左の操縦桿を引き寄せた。

 それによって持ち上げられた陸戦型ガンダムの左腕――シールドが、横薙ぎに振り抜かれたバスターソードの刀身を受け止める。

 しかし、

 

『こいつも耐えやがるか! けどなぁッ!』

 

地面に座り込んでいる今の陸戦型ガンダムではその勢いまでを抑える事は出来ず、力任せにバスターソードが振り抜かれるままに、機体を横に転がされてしまう。

 結果、逆にイツキの方が地面に仰向けの姿勢で投げ出され、隙を晒す事となってしまった。

 

「やばっ……!」

 

 狙って作ったワケでも無いその隙に、ヒヤリ、とした感覚が背に走ったイツキは、何とかしなければ、と大慌てで操縦桿をガチャガチャ、と前後左右に動かしたり引っ張ったりする。

 しかし、半ばパニックに陥りながらのその操縦が功を為す事は無い。

 操縦そのものが無茶苦茶だったものあるが、何よりも、背中のウェポンコンテナがその最たる理由だった。これによって陸戦型ガンダムの本体が地面から浮いた状態になってしまっているせいで、(さなが)ら、自分の甲羅のせいで起き上がれなくなってしまった亀のように、ジタバタ、と動く手足が地に触れる事さえ無い状態に陥ってしまっていたのだ。

 更に間の悪い事に、倒れた際の衝撃で手放してしまったのか、陸戦型ガンダムの両手にあった筈のビームサーベルもいつの間にか無くなってしまっているため、それを振り回して近づけさせないようにする事さえも出来ない。

 そんなあからさまな程の、いっそ無様な程の隙を相手が見逃す筈も無く、

 

『ギャハハハ! 何だその恰好!? 笑わせてんのかよ、オイ!?』

 

『カワイー! 降参した犬みたいー!』

 

「……っ!」

 

初心者狩りの男女の嘲笑する声が響く中、すぐ間近まで悠々と歩いて来たアルケーがGNバスターソードを高々と振り上げる。

 その様を、正面モニターを介して目にしたイツキは顔を引き攣らせ、更に焦燥を募らせながら操縦桿を一層乱雑に動かすが、変わらず陸戦型ガンダムは立ち上がる様子さえ無く、コックピットが忙しなく揺れるのみだった。

 

『しっかし、こんだけやってもシールド一つまともに壊せねぇなんて……。ま、いいや』

 

『倒しちゃダメよー、()()ぃ! アタシの分もちゃんと残しといてねー!』

 

『分かってるとも、マイシスター! ちゃんとトドメは君に譲るって!』

 

『さっすが()()ぃ! 分かってるぅ!』

 

 アルケーの男と、その後方にいるアルケードライの女の、警戒心の欠片も無い遣り取りがオープン通信を通して耳に入って来る。

 紛いなりにも戦闘中。それも隙を晒している真っ只中とはいえ、敵機が眼前に存在しているこの状況下で。女の方に至っては戦闘が始まってからずっと観戦してばかりで、男に加勢するような素振りは今も全く見られない。

 そんな男女の態度が何を意味しているのか、こうしている最中にもイツキに嫌という程に伝わって来る。

 ()()()()()()()のだ。

 だから、襲撃して来た時から何も変わらず、イツキの事を初心者と――敵では無く、ただ自分達が楽しむだけの玩具だと侮っている。

 だから、当然のように笑っていられる。

 だから、2対1の利を活かそうとすることも無く、一機が戦う様をもう一機がショー気分で見ていられる。

 それが納得いかない。

 それが悔しい。

 そんな初心者狩り連中にも、そんな連中にやられてばかりの自分も。

 そうだ。何も変わらない。

 

「動け……!」

 

 あの連中の勝手な物言いも、態度。

 

『さーて、と。』

 

 それに感じた不愉快さも。

 

「動けよ、ガンダム!」

 

『まずは頭、そして手足だ』

 

 その感情をバネに発した勝利宣言も。

 その言葉に込めた、絶対に勝つという意思も。

 

「俺は勝つって言ったんだ! あんな、初心者だからってバカにして、人を玩具呼ばわりするような奴らなんかに負けられないんだ! 男が一度言った事を、破っちゃいけないんだ!」

 

『ウチの姫に変なマネされちゃタマんねぇ』

 

 だからこそ、イツキは操縦桿を動かす手を止めない。

 だからこそ、なおも振動しか返さない陸戦型にも呼び掛ける。

 負けたくないから。

 諦めたくないから。

 初心者だから、弱い者だからと嘲ったあの連中に、目に物を見せてやりたいから。

 何より、

 

『そんな事出来ねぇように――』

 

勝つ、とこの口で言い切ったから!

 だから――。

 

「だから! ガンダム!」

 

『――ぶった切ってやんよオォ!!』

 

「動けえええぇぇぇッ!!」

 

 遂に振り下ろされたGNバスターソードの太く鋭い刀身が迫る中、思いを込めた渾身の叫びをイツキは上げた。

 その叫びが届いたのか。はたまた、叫んだ際に押し込んだ操縦桿が偶然にも武器スロットを開き、無意識に()()を選択した事が功を為したのか。その理由は、事が済んだその時には最早分からなかったが、ともかく確かなのは。

 突如ガチン、という何かが外れるような音が聞こえたかと思った、次の瞬間、

 

「おわっ……!?」

 

まるで滑り落ちるように、陸戦型ガンダムの機体が下方へと下がったという事だ。

 

「な、何だぁ!?」

 

 正面モニターにデカデカと映っていたアルケーが、急に上方へと消え去った事に驚くイツキ。

 しかし、彼に襲い来る驚愕はそれだけでは終わらない。

 続いて響く、重い金属音。

 まるで硬質な金属同士が正面衝突し合ったようなその音に、肩を跳ねさせつつも、反射的にイツキは――問題無く立ち上がっている事に気づく余裕も無く――陸戦型ガンダムを背後へと振り向かせる。

 果たしてそこにあったのは――振り下ろしていた筈のバスターソードを再び高々と、態勢を崩すほどに高く持ち上げていたアルケーと、そのすぐ手前――先程まで陸戦型ガンダムが居た場所――に置かれた、白く巨大な直方体――()()()()()()()()

 表面に先程までは無かったヘコミが入ったそれを目にして、あっ、とイツキは気づく。

 陸戦型ガンダムが今、先程まで背負っていた筈のそれを背負っていない事を。そして、どうやって襲い来る筈だったアルケーの斬撃を掻い潜ったのかを。

 

「そうか、外れたから!」

 

 陸戦型ガンダムのバックパックは上下二本ずつ、計四本の(ラッチ)によって構成されている。この爪によって、ウェポンコンテナやパラシュートパックなどのオプション装備を自在に保持・交換する事が出来るようになっているのだが、先のアルケーの斬撃が迫った瞬間、その爪のロックが外れた。

 結果、イツキの操作のまま藻掻いていた陸戦型ガンダム本体は保持の外れたウェポンコンテナの上を滑り落ち、間一髪で斬撃を避ける事が出来たのだ。

 その一連は、傍から見れば正に偶然の産物だ。

 ――しかし、イツキはそうは思わなかった。

 

「――もしかして、お前が?」

 

 コックピットの上方を――その先にあるだろう頭部を見上げ、イツキは陸戦型ガンダムへと問い掛ける。

 その問いに、答えは返って来ない。

 例え返って来ていたとしても、イツキにそれを聞く術は無い。

 だが、それは()したる問題ではない。

 

「……そうだよな。お前だって、ちゃんと話せるんだよな」

 

 例えそれがELダイバーのみに聞く事が許されたものであろうと、言葉が存在するのであれば、つまりはそういう事だ。

 それはすなわち、何かを話せる()()があるという事に他ならない。

 なら、その陸戦型ガンダムの意思は今、何と言っているのか?

 

「お前も、あんな奴らに負けたくないんだよな?」

 

 初心者(弱い者)だと下に見て、玩具扱いして傷めつけようとするような奴らの思い通りになりたくない。

 例え自分に乗っているのが初めてガンプラを動かした初心者だろうと、諦めたくない。

 負けたくない。

 

「俺と同じなんだよな? ――()()()()んだよな?」

 

 ――そう言っているように、イツキには思えた。

 そう、今の自分と同じ事を思っているからこそ、先程のウェポンコンテナを外しての回避を()()()()()()()()()()()()()、と。

 

「なら――」

 

 だからこそ、

 

『くっそ! 一丁前に手の込んだ避け方しやがって!』

 

攻撃を弾かれた衝撃による硬直が解け切っていないアルケーをじっと見据えたイツキは、

 

「―― 一緒に勝つぞ! ガンダム!!」

 

左の操縦桿を押し込んで武器スロットを展開させ、選択した()()を迷う事無く発射した。

 陸戦型ガンダムの左胸、バルカンの下にあるもう一つの砲口――“マルチランチャー”に装填されていた、ネット弾を。

 白煙の尾を引いて飛び出したその砲弾が、もう一度陸戦型ガンダムに切り掛かろうとバスターソードを振り上げていたアルケーの眼前で炸裂。内蔵されていたネットが獲物を捕らえる寸前の蛸のように広がり、その機体に覆い被さった。

 

『がぁっ! この野郎……!』

 

 すぐさまアルケーが左手でネットを掴んで引き剥がそうとするが、肩部のウィングや背部のコアファイターの機首など、そこかしこに突き出た部分や鋭利な部分が存在している事が災いしてか、簡単に取り払えそうな様子ではない。

 そのまま、狼狽えたように後退していくアルケーをモニター越しに見て、イツキは確信する。――今しかない、と。

 

「いっくぞォッ!!」

 

 雄叫びを上げ、再び左の操縦桿から武器スロットを展開したイツキは、その中からシールドを選択。同時に、陸戦型ガンダムの左前腕に付いたそれが打突形態へと変形する。

 見れば、前へと競り出たプレート部の表面には、断面に焦げ付きや融解跡が残る深い切れ込みが幾つか刻まれていた。

 何度か受け止めたGNバスターソードの斬撃によるものだ。刀身に纏ったGN粒子による高熱と、その質量によって生み出された破壊力に壊されてしまう事こそ何とか防ぎ切れたようだが、この分では盾としても、打突兵装としても限界が近いだろう。

 それでも構わず、藻掻くアルケーへとイツキは陸戦型ガンダムを肉薄させ――特徴的な四ツ目が並ぶその頭部を、思いっきり殴り付けた。

 

『がっ……!?』

 

 青髪の男の呻きが漏れると共に、殴打の衝撃にアルケーの機体がイツキから見て右に大きく傾く。

 先のチュートリアルでのリーオーNPDのように貫く事こそ叶わなかったが、しかしシールドの接触と共に轟音を上げたその横っ面には、決して無視できないヘコミが出来た。

 それに満足する間も無く、続いてイツキは右の操縦桿を引き寄せてから、前へと押し込む。

 それに合わせ、右腕を大きく振り被った陸戦型ガンダムが、続けて紫色のGNコンデンサーが覗く円筒形の胴体へとその拳を叩き込んだ。

 MSのマニュピレータ―()は特にデリケートな部位だ。細かなパーツと、それを繋ぐ幾つもの関節が集中するその部位で敵機を殴りつけるなど、本来ご法度(はっと)も良いところである。

 しかし、殴り付けた陸戦型ガンダムの拳は傷一つ追う事無く、逆にGNドライブ(動力部)やコックピットに近い重要部位であるために他の部位よりも頑強な筈の胴に、小さいながらもその跡をしっかりと押し付けていた。

 その事に疑問を覚える間も無く、

 

「おおおおぉぉっ!!」

 

イツキは左の操縦桿を引き寄せ、再び陸戦型ガンダムにシールドを振り被らせた。

 未だ絡みつくネットの拘束下にあるアルケーは満足に動けない。掲げられてこそいるが、振り下ろされる様子の無いGNバスターソードがその証拠だ。

 このまま、勢いに乗せて、一気に押し込む。

 その思いのまま、三撃目を叩き込もうとしたが、

 

『こ、っのぉ……! ファングゥ!!』

 

不意にアルケーの腰の左右、大きな楕円状のサイドアーマーの、ネットで覆い切れていなかった下側の部分が開く。

 そこから何かが飛び出す様が見えた次の瞬間、何処からともなく赤いビームが飛来。それが陸戦型ガンダムの左肩で弾けたかと思ったその刹那、更に飛び込んで来た幾つかの()()がそこにガスガスッ、と突き刺さった。

 

「んなっ……!」

 

 先端から赤いビーム刃を発振した、白い牙のようなその()()を横目にイツキが認めたその直後、陸戦型ガンダムの左肩が爆発。同時に、その衝撃に揺れたコックピット内が黄色に染まった。

 損傷度(ダメージレベル)――警告域(イエロー)

 最初の不意打ちで、軽微ではあったが左肩には既に右膝と共に損傷を受けていた。それから直接戦闘に入った事で、何とか防ぎつつではあったが攻撃を受け続けた。そしてトドメに、左肩に殺到した()()とそれが原因の爆発――左腕の、肩口から先の消失(ロスト)

 それだけのダメージが蓄積したという証明と、陸戦型ガンダムそのものに残された余裕が左程残されていないという警告の色に歯噛むイツキ。

 その視線の先で、例の()()が赤いGN粒子を煌めかせながら、開かれたままのアルケーのサイドアーマーの中へと()()()()()様が見えた。

 “GNファング”。

 ガンダム00にて、特に敵方のMSに搭載されていたオールレンジ兵器が、その()()の正体だった。

 

『調子こいてんじゃねぇぞガキィ!』

 

 ブチブチ、とネットを力任せに引き千切るアルケーから青髪の男の怒声が響く。

 

『初心者だと思って手加減してりゃあ付け上がりやがって!』

 

「何が手加減だ!? 俺の事ナメてただけじゃんか! 自業自得っていうんだぞ、そーいうの!」

 

『ルッセェ! テメェなんか本当なら楽勝なんだよ! そんな……ムダに出来の良いガンプラ使ってなきゃあなぁ!!』

 

 ブチリ、と一際盛大な音を立ててネットを完全に取り除くと同時に、アルケーがバスターソードを振り下ろす。

 それを、慌てる事無くイツキは陸戦型ガンダムに地面を蹴らせ、飛び退く事で回避。

 と同時に、もう一度マルチランチャーからネット弾を発射し、再びアルケーの機体にネットを絡み付かせる。

 それに青髪の男が舌打ちする声が聞こえたかと思いや、

 

『鬱陶しいんだよォッ! ファングゥ!!』

 

再びアルケーのサイドアーマーから数機のファングが射出。一斉に陸戦型ガンダムの方を向いたそれらが、高速で迫りつつ真っ赤なビームを乱射して来る。

 それらを、背のバーニアも吹かして急速後退する事でイツキは避けようとする。

 しかし、雨の如く降り注ぐ光の矢を、その中に混ざって突撃して来る牙を完全に躱し切る事は出来ず、いくつもの弾痕や傷が陸戦型ガンダムの機体に徐々に刻み込まれていく。

 それでも、ファングによる一撃一撃は大したダメージにはならない。

 一か所に留まって集中砲火を受けるような事態にさえならなければ、まだいける筈だ。

 だからこそ、イツキは探す。

 追い寄せるビームの雨から陸戦型ガンダムを逃げさせる一方で、首を振り回して正面と左右のモニターに視界を行き来させながら、()()を。

 そして――。

 

「――見つけた!」

 

 右のモニターの先、まだ折れていない木々の間に転がっている白い棒――先程紛失してしまったビームサーベルの柄を。

 すぐさま、イツキはそちらの方へと操縦桿を押し込み、陸戦型ガンダムの向きを転換。背のバーニアを全開にして木々の群れの中へと突撃させた。

 メキメキ、と音を立てる木々の抵抗によって、一時的に陸戦型ガンダムの動きが止められてしまう。

 そこへGNファングの攻撃が殺到した事で、更に機体の損傷が増えた事をモニター上にポップアップしたステータス画面が報告して来るが、構わずイツキは陸戦型ガンダムに、正面モニターの先にある柄へと残された右腕を伸ばさせる。

 指の先までピン、と伸ばしたマニュピレーター()が、それを――掴んだ!

 

「いよっし!」

 

 歓喜の声を上げると共に、イツキは操縦桿を一気に引き寄せ、陸戦型ガンダムをその場から急速後退。そのまま、大きく右腕を振り回させながら機体の向きを再び転換させる。

 左側――ネットを取り払おうと藻掻くアルケーの方へ。

 

「いっけええぇぇッ!!」

 

 陸戦型ガンダムの手の中のサーベルが、再び光の刃を灯す。

 同時に全速前進。追って来る粒子ビームの雨を背に、アルケー目掛け一目散にイツキは飛び込む。

 彼我(ひが)距離はおよそ100m弱。地面に横倒しされたままのウェポンコンテナを挟んだその距離はあっという間に縮まり、再び陸戦型ガンダムとアルケーが肉薄する。

 

『バ、バカなっ!? これじゃあ、俺がっ!?』

 

 青髪の男の、動揺したような声が聞こえる。

 あり得る筈の無い敗北が迫った故だろう、信じられない、と言わんばかりの声が。

 その声に、イツキもまた確信する。

 この勝負――。

 

『こ、こんなガキにっ、俺が!?』

 

 ――勝った、と。

 

「貰ったあああぁぁぁっ!!」

 

 イツキの口から叫びが上がる。

 目前に迫った勝利が故の、勝鬨(かちどき)の叫びが。

 その勢いのままに、押し込んだ操縦桿に合わせて陸戦型ガンダムが右腕を振り上げる。

 真横に向けられていたビームサーベルの刃が、ブォン、と音を上げる。

 

『このっ、俺がっ! 負け――』

 

 長く伸びたミノフスキー粒子の刃が、藻掻(もが)くアルケーへと迫る。

 ネットの網目から覗くGNコンデンサーの紫ごと、その胴を、逆袈裟に切り上げて、仕留める。

 それで、少なくとも目の前の敵機は排除出来る筈だ。

 そう――。

 

『――るワケねぇだろ、バーカ』

 

 ――その筈だった。

 




というわけで(VS初心者狩り編は)もうちっとだけ続くんじゃ。

今度こそ、今度こそアイツら出て来る予定なんで! もうちょっと待っててください!
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