ガンダムビルドライザーズ   作:shisuko

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やった! やったぞ! やっとここまで来たぞ!
というワケで第6話、ようこそGBNへ編 最終話となります。
どうぞお目通しを。


第6話 凶襲! VS初心者狩り!②

 その瞬間、何が起こったのか、イツキにはまるで分からなかった。

 唯一出来たのは、稲妻に打たれたように走った嫌な予感から、反射的に操縦桿を引き寄せる事だけ。

 そのせいで、敵の機体に触れる直前だったビームサーベルの刃を引っ込めてしまう事となったが、結果的にそれで良かった。

 そうしなければ――今の陸戦型ガンダムにほぼ唯一残された攻撃手段である右腕を、失っていただろうから。

 最も、

 

「くそっ! 足が……!」

 

代わりに膝関節の半ばから右足を断ち切られ、その場に尻餅をついて以降立ち上がれなくなってしまった事が見合うだけの犠牲だったか否かは、(はなは)だ怪しかったが。

 

『ったく、てこずらせやがって』

 

 青髪の男が吐き捨てる声に、イツキは前方、斜め上を見上げる。

 そこに浮かぶ、アルケーを。

 

「何で……?」

 

 あの瞬間まで、確かにアルケーは眼前にいた。

 絡まったネットを剥ぎ取ろうと、陸戦型ガンダムのビームサーベルが間近に迫ろうとしていたその時も、必死に藻掻(もが)いていた。

 最早対応できる筈が無かった。王手を掛けていた筈だった。

 なのに、いざビーム刃がその胴に食い込むかと思われた、あの瞬間。

 それまで足掻いていたのが嘘のように、アルケーが自らに纏わり付いていたネットをあっさりと千切り取った。

 そして、束縛が無くなったその勢いのままGNバスターソードを振り下ろし、陸戦型ガンダムの足を切断すると共にその場から上昇したのだ。

 そう。――今まさにそうなっているように、オレンジ色だったその機体が()()()()()()、あの瞬間から。

 

『まさか、“トランザム”まで使うハメになるんてなぁ』

 

「とらん、ざむ?」

 

 聞き慣れない単語に、思わずイツキはオウム返しする。

 そう、それが答え。

 “TRANS-AM(トランザム)”。――それが、()()()()の形勢逆転劇を引き起こしたカラクリの正体だ。

 機体内で高濃度に圧縮されたGN粒子を全面開放する事により、機体出力を一時的に3倍前後に強化する、GNドライブ(太陽炉)搭載機専用の自己強化スキル。

 ガンダム00劇中において、アルケーガンダムはこのシステムを使用した事が無い。搭乗者であった“アリー・アル・サーシェス”の意向のためとも、彼の危険性から敢えて搭載されなかったためとも言われているが、いずれにせよそれは設定レベルでの話。GBNにおいては純正、疑似を問わず、GNドライブ(太陽炉)を搭載していて、尚且つ()()()()()()()をクリア出来ていれば、どのような機体でも発動させる事が出来る。

 この機能を発動させ、3倍近くに引き上げられた膂力(りょりょく)を以て、機体に絡まるネットを強引かつ速やかに排除。間を置かず、同じように強化された反応速度のまま陸戦型ガンダムの足を切りつつその場から離脱した、というのが()()()()に起きた一連の出来事だったのだ。

 最も、そもそもトランザムという機能の存在すら知らないイツキに、その答えに辿り着けというのは無理難題というもの。

 それ故、結局ワケの分からないまま目を(しばた)かせるしかない彼の視界の隅に、うっそー、と意地の悪い笑みを浮かべた赤髪の女の顔が映った通信ウィンドウが現れる。

 

『何ー? もしかしてキミ、トランザムも知らないワケー? ウケルんですけどー!』

 

『言ってやんなって、マイシスター。()()()()()()()()()()()()()()()んだから、知らなくても仕方ないって』

 

「なっ……!?」

 

 続けてモニターに顔を出した青髪の男の小馬鹿にしたような顔に、反射的にイツキは食い入るような眼を向ける。

 男は今、確かにイツキが自分のガンプラを持っていない、と言った。

 何故、その事が分かった?

 その答えは、イツキが疑問を投げ掛ける間も無く、男の方から続けて告げられた。

 

『はっ! 分からないと思ってんのかよ? そんな、無駄に()()()()()()()()()使っといてよォ!』

 

「ガンプラの、出来?」

 

 GBNにおいて――いや、前身である“GPD”の時代から、ガンプラバトルにおいて変わる事の無い絶対の法則が存在する。

 それは、“ガンプラの性能は、その出来栄えによって決定する”、というものだ。

 例えば、キットをそのまま説明書通りに組み上げただけの状態――所謂“素組み”で済ませるよりも、成形や安全の関係から丸まってしまっているパーツの先端や(エッジ)などを鋭角に削り上げた方が装甲や駆動性、攻撃力の強化に繋がる。更に塗装等でより上の出来栄えを目指せば、先のトランザムのような、一部の機体が持つ特殊効果を発動させる事も出来るようにもなるが、逆にパーツ同士がしっかりと組み付けられず隙間が空いてたり、ランナーから切り離した(ゲート)跡が残っていたりすればそこが弱点になる――といった具合にだ。

 ここまでの戦闘で、イツキは何度か陸戦型ガンダムにアルケーの斬撃を受け止めさせていた。

 GN粒子による高熱と大質量、その長大さから得られる遠心力をそのまま破壊力へと転じられるGNバスターソードによる強力無比な斬撃を、盾としてはそう大きく無く、また打突形態への変形機構という耐久面での弱点に繋がりかねないギミックを持つ、陸戦型ガンダムのシールドで。

 その上で、シールドそのものは最後まで壊される事無く、GNファングの突撃によって左腕もろとも吹き飛ばされるその時まで健在であったが、これは全て陸戦型ガンダムのガンプラとしての出来栄えが高かったからこそ成し得た事。

 

『最近多いんだよなぁ! 自分(テメェ)でガンプラ作んのメンドクセーからって、他人に借りたり作ってもらったりして満足してる奴がよぉ!』

 

『そういうのに限って、バトルの腕もガンダムの知識も大した事無いんだよね。楽して強くなった()()()()だけだから』

 

『目障りなんだよなぁ、そういう軟弱者! そういう――テメェみてぇに勘違いした、クソガキはよぉ!!』

 

「……っ!? 違う!」

 

 初心者狩り達のその物言いに、奥歯を噛んだイツキはすぐさま言い返そうとする。

 

「コイツは確かに借りたガンプラだけど、でも、楽したくて借りたんじゃない!」

 

 今こうして陸戦型ガンダムを借りているのは、決して陸戦型ガンダムが出来が良くて強いガンプラだったからでも、それを良い事に横着しようしたからでもない。

 ただ、心から欲しかったガンプラが無くて、止むを得ず借りただけだ。

 本当なら、ちゃんと自分のガンプラを使っていた筈だった。

 

「ホントは、俺だって……コアガンダムを……!」

 

 自分の手で作った、自分だけのコアガンダムで、GBNを始めたかったのに……!

 そう、言葉を連ねる程に目頭が熱くなり、比例して重くなっていく口をなお動かして続けようとしたイツキを、

 

『知らねぇな、そんなモン!』

 

はっ、と青髪の男が一笑に付す。

 

『結局テメェがその実力に見合わねぇガンプラ持ってきて調子こいてる、クソ初心者って事に変わりねぇんだ! そんな奴はな、GBNには要らねぇんだよ!』

 

『そーそー、()()ぃの言う通り。キミみたいな、良いガンプラ使ってるだけのええかっこしいはささっと消えちゃってよ? ダイバーポイントだけアタシらに置いてって、さ』

 

「――まだだぁ!!」

 

 初心者狩り達の嘲笑を、借り物のガンプラを使っている事への口撃にイツキは叫び返し、陸戦型ガンダムに発振したままのビームサーベルを振り払わせる。

 

「まだ終わってない! まだ俺は負けてない!」

 

 そうだ。まだ負けてない。

 トランザムとやらでアルケーの能力は先程までよりも強化されてしまっている。――それがなんだ?

 よしんばアルケーを倒せたとしても、まだアルケードライが控えている。――それがなんだ?

 そもそも、手足を一本ずつ失ってしまった陸戦型ガンダムはもう満足には動けない。――それがなんだ?

 まだ右腕が残っている。左足だって、背中のバーニアだって残っている。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()

 

「俺は、勝つんだ!!」

 

 垂直に立てたビームサーベルをアルケーへと構え、変わらない意思をハッキリ、とイツキは突き付けた。

 それに対し、一拍置いて、は~ぁ、と心底呆れたような溜息が初心者狩り達から吐き出された。

 

『おいおい、聞いたかいマイシスター? このガキ、まだ俺らに勝つつもりらしいぜ?』

 

『信じらんないー! まだアタシだっているのに、バカ過ぎじゃない?』

 

『ホント、信じらんねぇバカだぜ。自分が良いガンプラ使ってるからって、俺ら二人だけならやれるって、調子こいてんだぜ、きっと』

 

『何それ? バカの癖にアタシらの事にバカにしてない? ムカつくんですけど?』

 

『だよなだよな。だからさ、()()()()()()()()()()?』

 

『そうね。()()()()()()()()()()()?』

 

「……?」

 

 何やら二人で話し合っていたかと思えば、共に意地の悪い笑みを浮かべて何かを示し合わせる男女。

 その様子を訳が分からないまま通信ウィンドウ越しにイツキが眺めていると、赤髪の女の方が矢庭(やにわ)にこう叫んだ。

 

『カモーン、()()ぃーズ!!』

 

 かと思った、その次の瞬間。

 

『『『イエス! マイシスター!!』』』

 

 何処からともなく、聞き覚えの無い声が幾つも響いた。

 同時に、陸戦型ガンダムのコックピット内にアラートが鳴り響き、空から何かが現れる。

 その姿に、えっ、とイツキは目を見開いた。

 

「が、ガンプラ!?」

 

 そう、ガンプラだ。

 イツキと、初心者狩りの二人しかいなかった筈のその場に、新たなガンプラが降り立ったのだ。

 

「な、何でまたガンプラが?」

 

 現れたのは三機。

 一機は放射状に広がるアンテナを額から生やし、所々が割れたようになっている各部の装甲から内部フレームが露出するガンダムタイプ――“ユニコーンガンダム2号機 バンシィ・ノルン”。

 一機は各部に増加装甲を施し、背にX字状に伸びる四本の砲身を背負ったRX-78-2(初代ガンダム)のバリエーション機――“フォーエバーガンダム”。

 そして最後の一機は、右肩に腕全体を覆うようなL字の盾を、左肩に三方に鋭く伸びるスパイクを三つ備えた一つ目(モノアイ)の機体――“ザクⅡ改”。

 いずれも眼前のアルケーのように濃いオレンジ色に機体を染めたそのガンプラ達が、奥のアルケードライを守るようにその周囲へと着地していく。

 その様を愕然(がくぜん)としながら見ていたイツキに、アッハッハ、とおかしそうな赤髪の女の笑い声が浴びせられる。

 

『そーそー、その顔! そういう顔するよね、やっぱ!』

 

「な、何だよそいつら!? お姉さん達、二人だけじゃ――」

 

『ああん? いつ二人だけなんて言ったよ? ここにいる全員が()()なんだよ、ボケ!』

 

「なっ……!?」

 

 明かされた事実に、イツキは思わず絶句する。

 その様がなお面白いのか、ケラケラ、と笑いながら赤髪の女が言う。

 

『アタシら皆大学のサークル仲間なんだよね。()()ぃズの皆に、紅一点で()()()のアタシって感じで。皆でいっつも楽しく初心者狩ってんのよ。ねー、()()ぃーズ?』

 

『『『『イエス! マイシスター!』』』』

 

 赤髪の女に呼応して、青髪の男も含めた四人分の男の声が、一切ズレの無く合わせたタイミングで一斉に轟く。

 一人の女と、その身を守る騎士の一団とでも言わんばかりのその有様は、(さなが)らオタサーの姫、ならぬ初心者狩りサーの姫、といったところか。

 が、そんな事など今はどうでもいい。

 重要な点は、もっと別のところにある。

 

「な、何だよそれ……? 二人だけじゃ、ないって?」

 

 そう、()だ。

 これまで、イツキは敵が二人だけだと思っていた。アルケーと、アルケードライさえ倒せば、こっちの勝ちだと。

 もちろん、二人だけならば勝てる、とまで思っていたわけでは無い。

 むしろアルケー 一機にここまで追い込まれたのだ。勝てるか否かは、その時点で二の次になっている。

 重要なのは、それが分かっていても、なお無視して“絶対に勝つ”と言い切り、戦いを続行できるかどうかという意思――()()の問題だ。

 何とかしてアルケーを倒し、そしてアルケードライも倒して、勝つ。――達成できるか否かは別として、そういう目標があったからこそ、これまでイツキは戦意を失う事が無かった。

 しかし今、敵の側に増援が現れてしまった。アルケーとアルケードライ以外にも、倒さなければならない相手が増えてしまった。

 戦意を保つための目標が、崩れてしまったのだ。

 

「あ、アリかよ……そんなの?」

 

 そうなってしまった今、先程までの戦意を――絶対に勝つ、という意思を、イツキは保てない。

 紅く輝くアルケーを先頭に、一様にこちらへとカメラアイを向ける初心者狩り達の、計五機へと増えてしまったガンプラを前に、呆然と立ち尽くす他無い。

 そうなって仕方ない。

 そうなってしまう事もまた、向こうの狙いなのだから。

 

『アハハ、(たま)んなーい! やっぱ良いわぁ、この瞬間! 二機だけでもしかしたら勝てるかも、って思ってるところに、ドーン、と勢ぞろいさせちゃうとさ、みーんな今のキミみたいな顔しちゃうんだよね! それがホンット面白くってさぁ!』

 

『分かるよマイシスター!』

 

 手を叩いて笑う赤髪の女に、青髪の男が同意を示す。

 それに続いて、俺も、私も、俺も、と追加の三機に乗っているのだろう男達の声も続き、最後に全員が一斉にゲラゲラ、と盛大かつ下卑た笑い声を上げて大笑いし出す。

 その声にはいずれも(おご)りがあったが、その驕りは決して勝利を確信したからではない。

 そもそも、勝ち負けなど最初から彼らの眼中には無い。

 あるのは、右も左も分からない初心者をどれだけ調子付かせて、どれだけ酷い落差に突き落とした上で甚振(いたぶ)って楽しめるかという、勝負とは全く無縁の嗜虐心(しぎゃくしん)だけだ。

 それが嫌という程分かるから、悔しさにイツキは強く奥歯を噛みこそすれど、もう何かを言い返そうという気にはなれなかった。

 理不尽な増援は勿論(もちろん)の事だが、それも含めて最初から勝負でさえ無かった事実に、完全にでこそ無いが、彼は折れてしまった。

 オープン通信を通して辺りに響く笑い声が剣山のように彼の心に傷を付けるも、それに抗う気力も無く、もう憔悴(しょうすい)のまま俯くしかなかった。

 

『はっはっは! ――さぁてぇとぉ』

 

 青髪の男が他の連中に先んじて笑うのを止めるや、中空に浮くアルケーが再び動きを見せる。

 

『全員揃った事だし、そろそろ続きといくかぁ』

 

 そう言ってニヤリ、と口を釣り上げる青髪の男を、いいぞー、と他の男達が(はや)し立てる。

 彼が言う“続き”が、()()の続きでは無い事は、もはや考えるまでも無い。

 

『残ってる手足と、それから背中のバーニアを、だ。全部ちょん切って、芋虫みてぇに這う事も出来なくしてから、俺ら全員でフルボッコにしてやんよぉ』

 

 ヒューヒュー、と下手な口笛の声援を受けながら、アルケーがGNバスターソードを高く掲げる。

 宣言通り、陸戦型ガンダムに残された手足を断ち切って、抵抗の術を完全に潰すために。

 

()()ぃー! フィニッシュはアタシが決めるんだからね? 分かってるよね?』

 

『分かってるって、マイシスター!』

 

 そうなってしまえば、後はもうやられるのみ。

 ミッションカウンター前でアイアンタイガーに言われたように、(てい)の良いサンドバックにされて、最悪の初GBNを味わいながら倒されるだけだ。

 そんなのは――いやだ。

 

『へへっ。――つーワケで、マイシスターに仕留められるまで』

 

 やっとの思いで始められたGBNなのだ。

 コアガンダムこそ手に入れられなかったが、それでも念願は確かに叶ったのだ。

 それなのに、思い描き続けたGBNデビューをこんな連中に汚されるなんて。

 そんなの、あんまりだ。

 

『身の丈に合わねぇガンプラでGBNに乗り込んで来た事――』

 

 だから、まだだ。

 まだ、終わっていない。

 まだ――。

 

「――負けていない……俺は、俺はっ」

 

『――後悔しながらボコられろやァ! クソガキィ!!』

 

「俺はっ、勝つんだああぁぁっ!!」

 

 心に僅かに残された、なけなしの戦意。

 タンクの隅に僅かに残った蒸発し掛けの燃料のようなそれを、赤い粒子と残像を連れて接近するアルケーへと、涙の滲んだ双眸をかっと見開いてイツキは叩き付けた。

 何かの操作を同時並行して行っているワケでは無い。当然、それそのものは逆転に繋がるものではない。

 しかし、それは間違いなく心からの叫びであった。なけなしの戦意が形となったものであった。

 だからこそ、その叫びは、届いたのだ。

 

『――えっ? 何? ――高熱源反応、接近!?』

 

 突如響くアラートと共に赤髪の女がそう告げた刹那、イツキの視界を覆い尽くした青白い光の奔流と、続け様に発生した大規模の爆風が、その返答だった。

 

『よぉイツキ! 待たせたな!』

 

 そう、威勢の良い声と共にモニターに現れたその顔は、果たして――。

 

「こ……()()()ぅ!?」

 

だから()()()()()()()()!!

 

 先程通信を切られて以来顔を見せなかった幼馴染、アイアンタイガー(フジカブト・コテツ)その人だった。

 すかさず驚き混じりにその名を叫ぶイツキ。

 それに反応して、いい加減覚えろコノヤロー、と即座に怒声が飛ばして来たアイアンタイガーが、すぐに、へっ、と鼻を鳴らして笑い掛けて来た。

 

『まぁたぴーぴー泣いてたのかよオメーは? なっさけねーツラしてんなぁ、おい』

 

「う、うっさい!」

 

 目尻に溜まった涙の事を指摘されるや、文句を返しながら、そそくさとイツキはダンダラ羽織の袖で目元を擦った。

 正直、安堵(あんど)した。

 ここまで、たった一人で、初心者狩り達の心無い暴言を浴びせ掛けられる中で戦っていただけに、暫く顔の見えなかった幼馴染の登場は、それだけで彼の心に大きな安心を(もたら)していた。

 ただ、それを悟られてしまうのは酷く気恥ずかしかった。それ故の、このぶっきらぼうな対応であった。

 

『ま、ちゃんと10分もたせられただけヨシとすっか。どうにかこっちも間に合ったしな』

 

 袖で視界が塞がっている中、そうアイアンタイガーが言うのが聞こえた。

 それで、ふと思った。

 

「お前、どこにいるんだよ?」

 

 目元から袖を離すや、イツキはアイアンタイガーにそう問い掛けつつ、彼の姿が映る通信ウィンドウを見遣った。

 見れば、あん、と返す彼の背に広がっているのは、先程までの薄暗い格納庫の壁面では無くなっていた。

 代わりに広がっているのは、下方から緑色の光がぼんやりと照らし上げている、黒い空間。

 既に損傷度(ダメージレベル)警告域(イエロー)に達してしまったため今は違うが、その空間が先程まで自分が立っていたのと同じ場であったため、イツキはすぐに勘付いた。

 そう。今アイアンタイガーがいるその場が、ガンプラのコックピット内であるという事に。

 ならば、どこかにいる筈だ。

 彼が乗っているであろう、ガンプラが。

 その位置を知ろうという意図をあちらも察したのか、ああ、と得心したように頷いたアイアンタイガーが、こう答えた。

 

『後見ろ、後。オメーの後、五時方向の、上だ』

 

「後?」

 

 親指を立てた右手で後方を指し示すジェスチャーをしながらのアイアンタイガーの言葉に従うまま、イツキは陸戦型ガンダムを後方へと振り向かせ、更に自分自身も顔を後方へと向けつつ、上方を見上げた。

 そして、あっ、と見つけた。

 後方斜め右、地表から約80mの空。そこに浮かぶ、一機のガンプラ。

 格納庫にてアイアンタイガーが己のガンプラだと言っていた、あのガンダムDXフルバスターの姿を。

 同時に、いざ見つけるや拡大したその姿に、ん、とイツキは首を傾げる。

 モニターに映るDXフルバスターの姿が、格納庫で見た時から色々と変化していたためだ。

 具体的には、背中から一対生えていた翼状パーツは左右と、その上下斜めに広がる三対の形に変形していたし、左右前腕と両足脹脛の紺色のカバー部分、肩の外側が開き、中に畳まれていたらしい薄いフィン状のパーツがそれぞれ二枚ずつ放射状に展開している。更に、翼と同じく背中にマウントされていた細長いパーツが左右の()()()()展開し、長大な二門の大砲としてその砲口を前方へと向けていた。

 そして何より目に付く変化として、

 

「何か、スッゲェ光ってない?」

 

その機体が、光り輝いていた。

 背中の三対に増えた翼が、展開した手足や肩のフィン部分が、頭部のブレードアンテナ()や頬部の(ひげ)が。そして、全身に走っている金色のラインが。

 その全てが、(まばゆ)い黄金色の輝きを放っていたのだ。

 その様はイツキからすれば驚くべきものであったが、当のアイアンタイガーからしてみれば別段大したことでは無いのか、

 

『そりゃ光んだろ。ついさっき“マイクロウェーブ”チャージしたばっかなんだから』

 

さも当然とばかりにそう返して来る。

 それで更に訳が分からなくなり、目を白黒させるイツキにようやく何かを悟ったのか、あー、とアイアンタイガーが額に手を当てた。

 

『そっか。オメー、“サテライトシステム”知らねーんだな。いーか、コイツは――』

 

 と、アイアンタイガーが説明しようとした、その時。

 

『オラアアアァァァ!!』

 

 先程の光による爆煙が未だ絶えずモクモク、と立ち込める中から、雄叫びを上げて何かが飛び出した。

 

 

 

()()()!』

 

「だーかーらー!」

 

 もうもうと立ち昇る煙を突き破って何かが出て来るや、それに対してイツキから警告の声が叫ばれるが、その時には既にアイアンタイガーは動いていた。

 左右の操縦桿を押し込み、武器スロットを展開――選択。

 その操作を受け、DXフルバスターが左右の脇下より展開していた二門の砲口――“ツインサテライトキャノンカスタム”の側面に備えられた砲身保持用のグリップを、大きく左右に引き抜いた。

 原形機(ガンダムDX)の腰部左右からそこに移設した、“ハイパービームソード”の持ち手を。

 瞬時に展開される、黄緑色の高出力ビーム刃。

 近接戦の邪魔になるツインサテライトの砲身を背に収納しつつ、

 

()()()()()()()()っだっつってんだろォッ!!」

 

猛然と向かって来る何か目掛けて、アイアンタイガーはその二振りの刃を振り下ろした。

 その刃が、あっという間に肉薄したその何かと接触し――激しく散った火花とスパークの中でアイアンタイガーはその正体を捉えた。

 その何かは、

 

『テメェ! よくもやってくれたなァッ!!』

 

あの青髪の男が駆る、アルケーだった。

 

『さっきの光、そのDXのツインサテライトかッ!?』

 

 二振りのハイパービームソードと、アルケーのGNバスターソードが甲高い音を立てて押し合う中、多分に怒りを滲ませた声で男が吠える。

 その言葉の通りだった。

 イツキとの通信を切ったあの後、急いでDXフルバスターを出撃させて現場へと向かったアイアンタイガーは、いつの間にか五機に増えていた初心者狩り側のガンプラと、左腕と右足が消失した満身創痍(まんしんそうい)の陸戦型ガンダムを見つけるや、すぐにツインサテライトキャノンカスタムを展開。イツキを巻き込まないように出力を調整しつつ、それを撃ち込んだのだ。

 だから、はっ、と小馬鹿にした笑いでアイアンタイガーは肯定しつつも、挑発した。

 

「だったら何だっつーんだよ?」

 

『フザけた事してんじゃねぇぞテメェ!? 月も出てねぇこんな真っ昼間にサテライトキャノンぶっ放すとか、何の()()()だコラァ!!』

 

「は?」

 

 一瞬男が言った事の意味が分からず、呆けた声がアイアンタイガーの口から洩れる。

 が、すぐに、ああ、と得心した彼は、得意げな気分でその間違いを指摘して見せる。

 

「何だよ知らねぇのか? GBNじゃ、いつでも“スーパーマイクロウェーブ”をチャージ出来るんだぜ?」

 

 DXフルバスターの原形機たるガンダムDX、及びその前身たるGX――“ガンダムX”には、“サテライトシステム”と呼ばれる機能が搭載されている。

 これは月面の発電施設にて生産され、“スーパーマイクロウェーブ”へと変換された膨大なエネルギーを受信し、武装及びMS本体のエネルギーとして再変換・供給するシステムの事だ。

 機動新世紀ガンダムX劇中においても、発射に膨大なエネルギーを要するサテライトキャノンの使用のためなどで幾度となく使用されたこのシステムは、その供給方法の関係から特定の時間帯と環境――平たく言えば、月の見える夜間の屋外や宇宙空間でのみ使用する事が可能となっている。その条件を満たしていない現時刻での使用を指して、この男はチートと言ったのだ。

 しかし、アイアンタイガーが言った通り、GBNにおいてそのサテライトシステムの使用条件は存在しない。二千万人以上が日々時と場所を問わずアクセスするGBNにおいて、特定の時間帯や場所でしか使えないシステムなど産廃でしかない。

 そのため、サテライトシステムは――スーパーマイクロウェーブそのものが遮られてしまう悪天候下のステージや屋内、水中等の一部の状況を除く――殆どの場所や時間帯で使える仕様になっているのだ。

 最も、ガンダムX劇中において時間帯や環境の制限が存在するのは、物語開始前にマイクロウェーブ中継用の人工衛星が全て宇宙革命軍に破壊されてしまっているからであり、その人工衛星の設定を反映したと思えば、まだこちらは原作の設定に沿っているだけだと言えなくもないのだが。

 

「そんな事も知らねーでチート呼ばわりかよ。初心者狩りなんてしょーもねー事してる暇あんなら、もちっと勉強した方がいーんじゃねーのか? え゛え゛っ、兄ちゃんよー!?」

 

『――っ!? こ、こんのガキぃ!』

 

 アイアンタイガーがこの場に到着したのは先程だ。それまで通信を切っていたから、それまでの初心者狩り達とイツキの遣り取りを彼は知らない。

 しかしその言葉は、トランザムの事を知らなかったイツキを嘲っていた青髪の男に対して、見事なまでのカウンターとなっていた。

 

「はっ、ムカついたか? けどなー、俺はもっとムカついてんだよォッ!」

 

 半分は戦闘続行を選んだ当人の自業自得とはいえ、幼馴染を良いように(もてあそ)んでくれた初心者狩り達の所業には、アイアンタイガーも激しく立腹していた。

 その怒りを握る操縦桿に乗せ、DXフルバスターにハイパービームソードを押し込ませようとするが――。

 

『調子こくなクソガキッ! こちとらまだトランザム続いてんだ! 力比べなら、まだまだこっちに分があんだよォッ!!』

 

 悔しいが、男の言う通り。

 ツインサテライトの極光に巻き込まれてか、今のボロボロになったアルケーは腰から下と左腕の肘から先が丸々無くなってこそいる。

 が、それでもトランザムによる機体の強化は未だ持続しており、その後押しを受けたバスターソードの刀身は徐々に、本当に徐々にだが、鍔迫(つばぜ)り合っているハイパービームソードを押し返して来ている。

 向こうの限界時間(トランザム終了)まで後どれくらいかにもよるが――この状況が続けば、逆にアイアンタイガーの方が押し切られかねない。

 その事はアイアンタイガー自身も分かっている。

 分かっているからこそ、

 

「誰が力比べするっつったァッ!!」

 

再び彼は武器スロットを展開し、すぐさま選択したそれを発動させたのだ。

 刹那、DXフルバスターの全身に走る金色のラインが一際強く発光し、

 

『うおおぉっ!?』

 

驚く青髪の男の声を尾に引きながら、眼前で鍔迫り合っていたアルケーが突然後方へと弾け飛んだ。

 否、弾き飛ばしたのだ。

 全身の金色のライン――かつてGPDの時代に活躍した“心形流(しんぎょうりゅう)の魔王”が使っていたGXの改造機を参考に組み込んだ、“リフレクトスラスター”。それに貯蓄されたエネルギーを全身から発して作り上げた、防護フィールドによって。

 

「もーいっちょお!!」

 

 間髪入れず、アイアンタイガーはもう一度両の操縦桿から武器スロットを展開し、その中からダメ押しの一手を選び出す。

 と同時に、反応したDXフルバスターの両肩前面と、左右膝のブロック部分がそれぞれ展開。“HGAW ガンダムレオパルド”から流用したそれらに格納されていた“ショルダーミサイル”、及び“ホーネットミサイル”が白煙と噴射炎を上げてアルケーへと殺到。

 

『ふっ、フザけんなっ! 俺が、俺が、こんなガキなんかに、やられるワケ――』

 

 青髪の男の――今度は嘘ではない――負け惜しみの言葉諸共(もろとも)、未だ紅に染まっていれど損傷の(かさ)んだその機体を、盛大な爆炎の連鎖が飲み込んだ。

 粉々の破片と化して四散し、そして程無くしてテクスチャ片と化して爆炎諸共その場から消失するアルケー。

 その様を確認したアイアンタイガーは一息吐こうと――したのも束の間、コックピット内に鳴り響くアラートに、新たな武器を選択。

 DXフルバスターにビーム刃の発振を止めたハイパービームソードの柄をツインサテライトの砲身側面へと戻させてから、腰の後ろから左右へと移動した“ディフェンスバスターライフル”を両手に取らせ、機体を90度反転させて振り返った。

 刹那、

 

『こんのガキいいいぃぃッ!!』

 

猛然と赤紫色の影が飛来し、肉薄するや否や赤いビーム刃を振り下ろして来た。

 その斬撃を、焦る事無くアイアンタイガーはDXフルバスターに左手側のバスターライフルの()()を突き出させ、そこに据え付けたディフェンスプレート()で受け止める。

 更に間髪入れず、右手側のバスターライフルをビーム刃の主に向けさせ、その引き金を引いた。

 瞬時にバスターライフルの銃口から黄緑色の火箭(かせん)が放たれたが、それよりも一瞬早くDXフルバスターから離れたビーム刃の主をそれが射抜く事は叶わず、青空の彼方へと空しく消えていく。

 それに構わず、バスターライフルの照準を向け直しながらアイアンタイガーはビーム刃の主の姿を確認して――ちっ、と舌を打った。

 

「おいおい、何でまだ生き残ってんだよ……?」

 

 思わず、そんな文句が口を突いて出て来る。

 何故ならば、そのビーム刃の主の正体が、

 

『よくもアタシの()()ぃズをやってくれたわね! もう許さないんだから!!』

 

他の機体諸共、ツインサテライトキャノンで消し去ってやった筈の、赤紫色のアルケードライだったからだ。

 

 

 

「あのガンプラ、あの赤い髪のお姉さんの――!」

 

 アイアンタイガーによって、自分では歯が立たなかったアルケーが見事撃破された事に陸戦型ガンダムのコックピット内でガッツポーズを取っていたのも束の間。

 突如現れるやDXフルバスターに背後から切り掛かったアルケードライの姿に、イツキもまた目を見開いていた。

 

『ちっとも当たらなかった、ってワケじゃねーみてーだけど……どうやって俺様のフルバスターのツインサテライト防いだんだ、姉ちゃんよー? 確かに出力は抑えてたが、そう簡単に逃げらんねーくらいのはぶち込んでた筈だぜ?』

 

 そうだ。

 確かにアイアンタイガーが現れる直前に放ったあの青白い光――ツインサテライトだったか――に、仲間のガンプラと一緒にあのアルケードライも飲み込まれた筈だ。あの中に消える、その瞬間だけは確かにイツキも目にした。

 実際、モニター上に拡大した、右腕から赤いビーム刃を伸ばしているアルケードライの機体は所々が黒く焼け焦げたり、溶解して盛り上がったりしており、ツインサテライトの光が放たれるまでの傷一つ無かった姿からは一変している。が、それでもあの凄まじい光を浴びた後にしては、損傷が少なすぎるのも確かだ。

 それ故の二人の共通の疑問に、憎々し気に赤髪の女がこう返した。

 

()()ぃズに助けてもらったのよ。キミのサテライトキャノンが当たる直前に、アタシだけでもって、放り投げてもらってね』

 

『それでもまだ逃げらんねーだろ?』

 

『そうよ? それだけじゃぜんぜーんダメ。だから――()()()()のよ!』

 

 そう赤髪の女の怒声が響いた直後、アルケードライの機体が、先程までのアルケーのように紅に染まる。

 その現象が如何(いか)なるものか、辛酸を舐めさせられたばかりですぐに分かったイツキはアイアンタイガーに呼び掛ける。

 

()()()! トランザムだ!!」

 

だから()()()()()()()()!!

 

 そうアイアンタイガーが怒鳴り返した時には、既にDXフルバスターは両手のディフェンスバスターライフルをアルケードライへと向け、引き金を引いていた。

 (あやま)たず、放たれた四本の光の矢がアルケードライ目掛けて猛全と飛んで行く。

 しかし、あと少しで着弾というところでそれらが一様に弾けて消滅。

 まるで見えない壁にでも阻まれたかのようなその現象に、イツキは何で、と思わず身を乗り出す程に驚き、アイアンタイガーが不愉快気に舌を打った。

 

『“ステルスフィールド”かよっ! メンドくせーモンを……!』

 

 “GNステルスフィールド”。

 アルケードライ、及びネーナ・トリニティがガンダム00劇中にて乗機としていたアルケードライのモチーフ元――“ガンダムスローネドライ”に搭載されている、GN粒子の広域散布機能である。

 元来(がんらい)は散布したGN粒子によってレーダーの阻害等を大範囲に引き起こすジャミングフィールドを形成するための装備だが、アルケードライに搭載されているものは更にビームの拡散効果も備えており、今まさにやって見せたように、自機に飛来したビームを防ぐような使い方も可能になっているのだ。

 

『ピンポーン、大正解ー! そこまで分かってるんなら、もう言わなくても良いよね?』

 

 正体が分かれば隠す必要は無い、とばかりに、アルケードライが――トランザムの発動を隠れ蓑に展開していた――背に一対背負った大型バインダーと腰左右の大型アーマーからGN粒子を大量放出。アルケードライ自身からDXフルバスターの後方数十メートルまでに渡って、空が薄らと赤く染まる。

 更に間髪入れず、アルケードライが右腕――クリアーパープルのブレードが銃口上下に並んだ“GNハンドガン”から発振しているビームサーベルを振り上げるや、赤い残像を引き攣れながらDXフルバスターへと急接近する。

 それに対し、DXフルバスターが両手のディフェンスバスターライフルを垂直に立て、それぞれに据え付けられたディフェンスプレートを正面に向けて防御を固めるが、

 

『もうキミの攻撃は、アタシには効かないってさぁッ!!』

 

『ぐおぉ……っ!』

 

横薙ぎに振るわれたアルケードライのビーム刃の勢いに耐え切れず、アイアンタイガーの呻き声と共にDXフルバスターの機体が後方へと押し込まれる。

 

『コテツ!?』

 

『だからアイアンタイ――おわっ!?』

 

 後退させられるDXフルバスターの姿に、反射的にイツキは叫んだ。

 それにアイアンタイガーが名前の訂正を求めようとしたのも束の間、返す刃で再び切り掛かって来たアルケードライに、DXフルバスターが更に奥へと追いやられる。

 

『ホラホラァ! 余所見してる暇なんか無いんだからァ!』

 

『んにゃろォッ!!』

 

 すぐさま、DXフルバスターが側面を向けていたバスターライフルの一丁の銃口をアルケードライへと向け、発砲。

 しかし、放たれた黄緑色のビームは先程と同じくGNステルスフィールドに阻まれて霧散。その間に大きく横へと回り込んだアルケードライの再三の突撃によって、三度DXフルバスターの機体が大きく吹き飛ばされた。

 

「――っ! くそぉ!」

 

 このままじゃコテツが危ない!

 何とかしなければ、とイツキはDXフルバスターとアルケードライから一旦目を離し、辺りを見回した。

 まず目に付いたのは、陸戦型ガンダムの右手に握られたままの、今はビーム刃の発振が止まっているビームサーベルの柄だったが――ダメだ。近付かなければ当てられない。

 ならば、離れていても当てられる武器は無いかと考えて、その脳裏に胸部のバルカンとマルチランチャーが浮かぶが――これもダメだ。ネット弾ではまだ射程が足りないし、バルカン程度では大したダメージにはならない。

 もっと射程があって、もっと威力がある――()()()()()()()が必要だ。

 そんな武器がどこかに無いかと、イツキは首を振り回し、必死に探し回る。

 そして、右往左往する彼の視界が、ふと()()()()を捉えた。

 陸戦型ガンダムの背から外れるや、そのまま地面に横たわったままになっていた、ウェポンコンテナを。

 

「そうだ。確か――」

 

 格納庫からの通信が切られる直前にアイアンタイガーが言っていた言葉が、イツキの頭の内に蘇る。

 

――あと、出してる暇あるか分かんねーけど、ウェポンコンテナの中身もな!――

 

 そう。シールドだけでは武器が足りないというところで、ビームサーベルの在り処に続いて確かそんな事を言っていた筈だ。

 あの時の流れを省みるに、あのコンテナの中身はもしかしたら……。

 幸いにして、ウェポンコンテナが置いてあるのはすぐ近くだ。手足を一本ずつ失って歩けなくなった現在の陸戦型ガンダムでも這う事くらいは出来るし、辿り着くまでの時間もそうは掛からないだろう。

 中身が分からない不安はあったが、

 

「……よし!」

 

頭を振ってそれを振り払ったイツキは、迷わず操縦桿を傾け、陸戦型ガンダムをウェポンコンテナの方へと向かわせた。

 

 

 

「クソッたれッ! そんならコイツだッ!」

 

 吐き捨てつつも、アイアンタイガーは両の操縦桿から武器スロットを呼び出し、同時にモニター端にウィンドウを開きながら、新たな武器を選び出す。

 呼び出すは、胸部”ブレストランチャー”及び頭部”ヘッドバルカン”。

 共に実体弾を放つこれらの装備ならば、GNステルスフィールドの影響を受けずに攻撃できる。

 すかさず、アイアンタイガーは親指部のボタンを押し込み、連続する発砲音と共にDXフルバスターの頭部左右と胸部インテーク下から無数の弾丸を発射する。

 しかし、

 

『アハハハ、甘い甘ーい!』

 

想定通りGNステルスフィールドの影響を受ける事無く滑空するその群れは、真紅の残像を連れるアルケードライに易々(やすやす)と避けられ、虚空の彼方へと消えて行ってしまう。

 

「ちぃっ!」

 

『アタシ、トランザム中だよ? そんな豆鉄砲、当たるワケ無いじゃん!』

 

 更に回避の勢いのまま、再び距離を詰めて来るアルケードライ。

 残像を引きながら振り被られるその右腕を見るや、すぐさまアイアンタイガーは左手のディフェンスバスターライフルの側面を突き出し、続く振り下ろしを防ごうとする。

 が、

 

『それいけファングー!』

 

赤髪の女のその叫びが聞こえるや否や、アルケードライが左右腰アーマー裏に一機ずつ格納しているGNファングを射出。

 ビーム刃を先端から展開したそれらが、目にも止まらない速度でDXフルバスターの左前腕を下から突き上げた。

 

「んがっ!?」

 

 GNファングの突撃によって半ばに大穴を穿たれたDXフルバスターの左前腕は、脱落しないまでもコントロールが消失。握力の失せたマニュピレーター()からバスターライフル()が零れ落ち、真正面のアルケードライにガラ空きの胴体を晒す事となってしまう。

 敵機は目下トランザム発動中だ。強化されているその動作速度を前に、右手側のバスターライフルをカバーに割り込ませられる猶予など最早無い。

 決定的な、隙だ。

 

『今度こそ終わりね。それじゃあ、バイバーイ』

 

 だから、アルケードライが振り下ろすビーム刃には、余裕があった。

 トランザムによる速度強化状態にあって、なお緩慢(かんまん)さを感じられる程の、余裕が。

 それを目にしても、なお打つ手が無く、髪と帽子に覆われた額にじんわり冷や汗を滲ませるアイアンタイガーは――口端を釣り上げて、笑った。

 

「こっちこそじゃーな、姉ちゃん。――終わんのは、テメーだッ!」

 

 アイアンタイガーがそう返した次の瞬間。

 轟音が響いた。

 まるで、大質量の金属塊を別の金属塊に全力で打ち付けたような、そういう轟音が。

 その轟音と共に、ビームサーベルを振り下ろそうとしていたアルケードライの姿が、アイアンタイガーの視界から消えた。

 その事に彼は驚かない。

 ()()()()()()()に、驚く必要など無い。

 故に今、彼がやるべきは唯一つ。

 

「よっしゃあ! でかしたぜトピア!」

 

 アルケードライに代わり正面に現れた相手――モビルドールトピアに、サムズアップと共に称賛の言葉を送る事であった。

 

 

 

「どういたしましてですー」

 

 通信ウィンドウの向こうで歯を剥いて笑うアイアンタイガーの言葉に、えへへ、と嬉しさから笑い返しつつ礼の言葉を返したトピアは、押し込んでいた操縦桿を初期位置(ニュートラル)まで引き戻した。

 それに合わせ、本物のそれのように後部側が膨らんだ箒状のメイン武器――“GNブルームメイス”を両手で振り下ろした前のめり姿勢のままその場に静止していた彼女のモビルドールが、上半身を立てた直立の姿勢へと態勢を戻す。

 と、そこへ、

 

『な、何なのアンタ!?』

 

何処からか上擦った声が掛けられ、それに反応したトピアは下の方へと目を遣った。

 モビルドールトピアとDXフルバスターが並ぶその斜め下から、四つ目の並ぶ頭部で見上げているアルケードライの方へと。

 見れば、後部――DXフルバスターとアルケードライの戦闘へ介入すると共に打ち下ろしたGNブルームメイスによって、コアファイターを兼ねたバックパックはその機首部分が完全に潰れてしまっている。その左右に並ぶ大型バインダーも同様に上部内側が大きく抉れ、展開したままの粒子噴出孔からは大量のGN粒子ではなく、揺らめく白煙が吐き出されていた。

 腰左右のアーマーも含め、GNステルスフィールド発生用の粒子噴出孔は四ヶ所ある。その内二ヶ所が文字通り潰れた今、ステルスフィールドそのものは維持出来るとしても――ビーム拡散効果も含めた――その機能が大きく落ちる事は避けられない。

 

『増援なの!? 一体、どこから!?』

 

 そのアルケードライから困惑したような赤髪の女の声が放たれたため、特に抵抗も感じる事無くトピアはその問いへの答えを返した。

 

「上ですー!」

 

『はぁ!?』

 

「ずっと上空(うえ)にいましたー!」

 

 そう。上空だ。

 格納庫を出てからアイアンタイガーに加勢するまで、トピアはずっと彼の近く――正確には、DXフルバスターの上空150m程の位置で待機していた。

 出撃と共にそのポジションに着き、現場に到着するやアイアンタイガーがツインサテライトキャノンによる強襲を掛け、敵機の全滅を目指す。それで万が一ツインサテライトから逃れた残党が発生するようであれば、()()()DXフルバスターのみでその掃討に掛かる。

 その上で、もし残った初心者狩りの機体にアイアンタイガーが苦戦するようであれば――そこでトピアの出番。独自判断で上空からの不意打ちを掛けつつ、戦闘に参加。二機で残党を捻り潰す。

 ――そういう作戦だったのだ。

 

『待機させといて正解だったぜ。姉ちゃんも俺の方にしか目がいかねーから、不意打ちもバッチリ決まった』

 

 アルケードライの機体は、今もトランザム中である事を示す紅に染まっている。

 あるいは、強化されたその機動力で強引にGNブルームメイスによる一撃を(かわ)される可能性もあったのだが、実際には見事にそれは決まった。

 それは、体を張ったアイアンタイガーの囮演技が嵌ったのもあるが、何よりも、まともに戦える敵が目の前にいる一機しかいないと思い込んだ赤髪の女の油断が要因として大きかった。

 それ故に、通信ウィンドウの向こうでしたり顔で、へへっ、と鼻を鳴らすアイアンタイガーに、アルケードライからの流れる女の声が更に上擦った。

 

『な、何よソレっ? 後から出て来るなんて……卑怯よ、そんなの!』

 

『あ? こっちが最初(ハナ)っから三人いんのは、イツキにちょっかい掛けて来た時から分かってたこったろ? つーか、そー言うそっちはどーなんだよ? いつの間にか五人くらいに増えてたけどなー?』

 

「そーですぅ! ひきょーなのはそっちですー!」

 

 女の言葉を一笑に付すアイアンタイガーに続いて、トピアもそう指摘する。

 すると、

 

『……っ! うるっ、さい! うるさい! うるさいうるさい、うるさーいッ!!』

 

癇癪(ヒステリー)を起こしたように叫び散らかす女の声と真紅の残像を引き連れて、アルケードライが猛然と迫って来た。

 それを見たトピアは、すぐさま操縦桿を左に倒し、モビルドールを同じ方向へと向かせる。

 同時に、先端部プロペラが高速回転しているツインテールの根本に増設された“GNドライブユニット”後部の白いコーンスラスター、及び腰部左右の“GNスラスターユニット”後部の黄色い円筒部から緑色のGN粒子が噴射。

 その勢いのまま、逆方向へとバーニアを噴かせたDXフルバスターと離れ合うように飛んで、やって来たアルケードライの突撃を回避した。

 

『うるっさいのよガキがァッ! 大人に生意気(ナマ)吹いてんじゃないわよォ!!』

 

『ハッ! ちょっとセーロン言っただけで逆ギレしといて、なーにが大人だ! 笑わせんじゃねーよ!!』

 

 そう言い返す傍ら、アイアンタイガーがDXフルバスターに右手のバスターライフルを構えさせ、即座に二連続発砲。黄緑色に瞬く二筋の閃光が、弱まったステルスフィールドに打ち消される事無く、真っ直ぐアルケードライへと向かっていく。

 それに対し、アルケードライが逆にDXフルバスターへと進行方向を変更。身を捻じって飛来するビームを避けつつ肉薄するや下半身を向け、その機体に蹴りを叩き込んだ。

 

『うおぉっ……!』

 

()()()()()タイガーくん!」

 

 通信ウィンドウを通じて聞こえたアイアンタイガーの呻き声に、反射的に呼び掛けるトピア。

 すぐに、()()()()タイガー!! 、というツッコミが彼から返って来るが、それに気を向けている余裕は彼女には無い。

 蹴り付けたDXフルバスターを踏み台に、今度は彼女の方へとアルケードライが向かって来ていたからだ。

 急ぎ、トピアは操縦桿を引き寄せてモビルドールを後退。

 更に左腕に装備したポシェット状の追加パーツ――“GNポシェットランチャー”のチャック状になっている展開部を開き、その中に仕込まれた二連ランチャーから弾頭を一発ずつ発射する。

 撃ったのはナパーム弾。

 近接信管により直接当たる前に炸裂したそれらから焼夷燃料が広範囲に広がるが、それすらもトランザムで強化された機動性によって、アルケードライは躱し切って見せる。

 

『だからトランザムしてんのよ! アンタらの攻撃なんか当たんないって、二度も三度も言わせんなああぁっ!!』

 

 そのまま、赤髪の女の絶叫染みた怒声を乗せて、右腕のビームサーベルを左越しに構えたアルケードライがすぐ目の前まで辿り着く。

 トランザムの強化が乗った薙ぎ払いが、もう間もなく行われる。

 とある二人の男の手で作られたモビルドールの出来栄え、引いてはその性能は並みのガンプラを凌駕するものでこそあるが、その性能を以てしても、アルケードライの斬撃から逃れる事は最早不可能であった。

 だから――迫るアルケードライの姿を前に、トピアは()()()を叫んだ。

 

「“エルトランザム”ー!!」

 

 その起動コードの発令によりコンソール上に浮かび上がる文字を見る間も無く、トピアは操縦桿を引き上げる。

 それに従い――頭部のGNドライブユニットを皮切りに、全身がアルケードライのように()()()()()()モビルドールトピアが急上昇。瞬く間に、発生した赤い残像以外何も無くなったそこを切り払ったアルケードライの、その頭上の空間を奪い取る。

 そう。トランザムは向こうだけのものではない。

 並のガンプラを歯牙(しが)に掛けない出来栄えを誇るモビルドール。そこに、ヒカル謹製(きんせい)のGNドライブユニットを始めとした、大容量GNコンデンサー内蔵の専用増設パーツ。

 その二つの要素が揃って初めて行う事が出来る、モビルドールトピア専用の“EL(エル) TRAN-SAM(トランザム)”だ。

 

『なっ!? い、いない……?』

 

 向こうがELダイバーの使うモビルドールについてどの程度知っているのかは分からないが、ただ純正太陽炉を後付けしただけ()()()()()()()機体がトランザムまで使えるとは思っていなかったのだろう。

 呆気に取られたような女の声から一拍置いて、アルケードライが頭部を右往左往させ、モビルドールトピアの姿を探そうとする。

 が、もう遅い。

 GNブルームメイスを振り被ったモビルドールトピアは、既にアルケードライ目掛けての急降下を開始していたからだ。

 

「やああああああぁぁぁぁっ!!」

 

 GN粒子の重量軽減効果を解き放った、GNブルームメイスそのものの大質量。

 エルトランザムによる速度と腕力の強化。

 そして、高度差による位置エネルギー。

 その全てを詰め込んだ渾身の振り下ろしを、見上げる間も無いアルケードライへと、裂帛(れっぱく)の叫びを上げてトピアは打ち込んだ。

 

 

 

 轟く金属音。

 まるで間近で落雷が発生したようなその凄まじい音と共に激しく揺れた機体が、操縦に関係なく急降下を始める。

 そして程無くして、モニター全面に広がった森の緑色の中に突入したその刹那、再び発生した轟音と振動、そして激しい土埃と共にアルケードライが動きを止めた。

 

「こ、このっ……」

 

 機体が地表に打ち付けられた際の衝撃で自らも前面のコンソールへと飛び込む事へとなった赤髪の女は、わなわなと体を震わせて上半身を持ち上げる。

 GBNの感覚フィードバック範囲の関係で痛みや傷こそ無かったが、そんな事は今の彼女には気休めにさえならない。

 

「よ、よくもやってくれたわねクソガキどもぉ……!」

 

 前髪に隠れた額に青筋を浮かべ、歯軋りをしながら女は上空を――宙に浮くDXの改造機と、モビルドール(見た事の無い人形染みたガンプラ)を睨み付ける。

 特に、モビルドールの方を。

 

「何なのよそのガンプラぁ……? GNドライブぽん付けしただけの機体でトランザムなんて、フザてんの?」

 

 そうだ、あのガンプラだ。

 あのガンプラが飛び入りしなければ、あんなガキの作ったDXなんか簡単に捻り潰して、残っている陸戦型ガンダムの方も大手を振って甚振(いたぶ)っていたのだ。

 それが、今はどうだ?

 

「――ああ、最っ悪!」

 

 コックピット内が黄色に染まっていたためそんな気はしていたが――コンソールに表示された乗機のステータスに目を通して、赤髪の女は顔を歪ませる。

 アルケードライの現状は、あまりに酷いものだった。

 元よりDXのツインサテライトの余波で受けていた分の損傷に加え、あのモビルドールの不意打ちによって文字通り潰されてしまった背部のコアファイター機首と左右バインダー。

 それに加え、先のトランザム発動後の一撃によって胴体部左上に大きなヘコミが出来、左腕が肩口から脱落。地表に打ち付けられた際の衝撃で、機体全体が少なく無いダメージを受けている。

 更には、胴体部のダメージが動力炉(GNドライブ)にまで響いてしまったのか、まだ限界時間まで余裕があった筈のトランザムが解除され、挙句機体各部への粒子供給量そのものが低下してしまっている。これでは、機体の動作にも悪影響が出てしまうだろう。

 とてもじゃないが、左腕が使えなくなっただけのDXと、無傷の上にトランザム持続中のモビルドールを相手に戦える状態ではない。

 

「何で、こうなんのよ? ――何で、アタシがこんな目に遭ってんのよ!?」

 

 いつものように、右も左も分からないまま誘い込まれた初心者(ザコ)を玩具にして遊ぶだけの筈だったのに。

 絶望してぴーぴー泣き喚く玩具をサークルの取り巻き共(兄ぃ兄ぃズ)と一緒に煽りながら、楽しくダイバーポイント頂く筈だったのに。

 それが、何でこんな事に?

 

「ふっざけんなァッ!! こうなってるのはアンタらなのよ! アタシがッ、アンタらを見下ろしてんのがッ、正しいのよッ!!」

 

 運営からペナルティなんて最初からどうでもいい。

 そもそもが腹いせだ。思惑通りに事が進んでいれば、少なくとも気分的には帳尻が合っていた。

 だが、ペナルティがほぼ確定している上で、実際はこの現状である。

 これでは気分の面でも最悪だ。

 胸糞悪い。

 

「もう絶対許さないッ!」

 

 こうなったら、何が何でも倒してやる。

 上空の二機をあそこから引き摺り下ろして、足蹴にしてやる。

 それぐらいしなければ、気が済まない。

 そういう怒りに、もうどう足掻いても勝てっこない、どうせ負けるなら逃げるが勝ち、という理性の判断を飲み込まれた赤髪の女は、ぐいっと操縦桿を引き寄せる。

 それに従い、(うつぶ)せっていたアルケードライが残った右手を地に着き、軋む機体を震わせながらも片膝立ちの姿勢になる。

 そうして、DXとモビルドールの方へと突撃させるため、女は操縦桿を前へ押し込もうとして――。

 

「今すぐそこから引き摺り落として――きゃあっ!?」

 

 ――突如襲い来た横殴りの衝撃に、それを阻まれた。

 

「今度は何なのよぉっ!?」

 

 今の衝撃によってか、損傷度(ダメージレベル)が危険域に達した事を示す赤色にコックピット内が染まる。

 もう撃墜(ダメージアウト)まで猶予が無くなった事を伝えるその色の中で、赤髪を振り回して女は右へと振り返り――黄色い双眸を驚愕にかっと見開いた。

 

「アンタはっ……!?」

 

 その目に映ったのは、残った右腕に握った大砲を大きく跳ね上げる、()()()()()()()であった。

 

 

 

「うおぉっ……っとととと!?」

 

 何とか構えさせた()()を撃たせるや、即座に襲い掛かって来た反動に右腕ごとその長砲身を大きく跳ね上げた陸戦型ガンダムに驚きつつも、何とかイツキは右の操縦桿を力任せに押し込んで、その反動に耐えさせる。

 ウェポンコンテナの中に四つ分けになって入っていた()()――陸戦型ガンダムという機体の最大火力たる、“180mmキャノン”の反動を。

 

「うえぇ~、何だこの大砲ぉ……?」

 

 下手をすれば地に座らせていた機体そのものが後ろに倒れ込みかねなかった凄まじい反動に、思わずイツキは目を白黒させる。

 本来、180mmキャノンは長距離からの支援砲撃用の装備である。両手での保持に加え、膝部のスパイクによる機体の固定を行ってから放つ事が推奨されるそれを、碌に機体を固定していない状態から片手で撃ったのだから、反動をもろに受けてしまうのは当然の結果といえた。

 しかし反動が強いという事は、威力もまたそれに比例したものであるという事。

 その威力がどれ程のものかは――眼前のアルケードライから、既に拉げていたバックパックと大型バインダーが丸々吹き飛んでしまった事実が証明していた。

 

『おうおう! いつの間にか良いモン持ってんじゃねーか、イツキよぉ?』

 

 もう一度180mmキャノンを構えさせようとしていたイツキの視界の端に、二つ分の通信ウィンドウを伴ってアイアンタイガーとトピアの顔が現れる。

 

『イツキくん、大丈夫ですかー!?』

 

()()()! トピア!」

 

()()()()()()()()!! ――は置いといて。ウェポンコンテナの中身か、そのキャノン?』

 

「おう! お前言ってたろ? コンテナの中の武器も使え、って」

 

『そーいや言ったかもな、そんなの』

 

 そう言葉を交わし、どちらからともなく、へへっ、と笑い合うイツキとアイアンタイガー。

 そこへ、不思議そうな面持ちをしたトピアがこう言う。

 

『どうして笑ってられるんですかぁ?』

 

「え?」

 

『私達が来るまで、イツキくんあの人達にいっぱいいじめられたはずです。陸戦型ガンダムちゃんだって、そんなにボロボロになってるのに、どうして笑ってるんですか?』

 

「いや、どーしてって言われても――」

 

『やっぱり、イツキくんってバカなんですかー?』

 

「ええっ!?」

 

 碧色の目を丸くしながらの突然の罵倒――言った当人にそんなつもりは無い――に、思わずイツキはすっとんきょな声を上げる。

 が、その隣でくっく、と笑いを堪えるアイアンタイガーを目にし、すぐに彼が何がしか吹き込んだのであろう事を察したイツキは、アイアンタイガーを睨み付け、何を言ったのか追究しようとする。

 

「おいコテ――」

 

『こんのガキイイイィィッ!!』

 

 しかし、直後にオープン通信に乗せられてきたその凄まじい怒声によって、うおぉっ、と反射的に肩を跳ねさせた彼の頭からその思考が丸々すっぽ抜ける。

 そのまま、慌てて正面へと向き直った彼の目に映ったのは――ガタガタ、と機体を震わせながら陸戦型ガンダムの方へと向き直る、アルケードライ。

 

『よくもやってくれたわね! ガキの分際で! 自分のガンプラ一つ持ってない初心者の分際でェッ!!』

 

 既にアルケードライの機体は、イツキでさえそうと分かる程に満身創痍だ。

 背部バックパックと左腕が捥げ、円筒形だった胴体も胸部の装甲ごと大きく陥没している。それ以外の部位もサテライトキャノンの余波と墜落の衝撃によって、ところどころ焦げたり溶解したり、潰れたり折れたりしている。

 

『何よ、その大砲! ちょっと黒くてぶっとくてデカくて長いからって、調子乗っちゃって!』

 

 それでもなお、アルケードライが立ち上がる。

 クリアーパープルのブレードの下側が折れたGNハンドガンから、先程よりもずっと短いビームサーベルを発振する。

 

『そんなモンでか弱い女の子相手にイキってる男はサイテーだってェッ! アンタごとちょん切って! 教えてやるうううぅぅ!!』

 

 ナイフのような長さのビーム刃を掲げ、アルケードライが飛び掛かって来る。

 先程までよりも噴出されるGN粒子が薄くなったせいか、迫るその機体の動きは打って変わって鈍い。

 それこそ、

 

「何をォッ!」

 

再び構え直した180mmキャノンの先端を、向こうのビーム刃が振り下ろされるよりも前にその胴体――紫色のレンズに罅が入ったGNコンデンサーに押し付け、つっかえ棒のようにその動きを止められる程に。

 

『こ、このぉ!』

 

「弱い者イジメするお姉さんみたいな大人の方が――」

 

 斜め上に向いた180mmキャノンの砲口のすぐ上で藻掻くアルケードライをしっかりと見据え、迷わずイツキは右の操縦桿のボタンを押し込む。

 それに、速やかに陸戦型ガンダムが反応。

 過たず、その右手が180㎜キャノンの引き金を引き――次の瞬間。

 

「――もっと最低だああぁぁぁっ!!」

 

 ゴウン、という轟音と共に砲口とGNコンデンサーの間から爆炎が吹き上がり、アルケードライが浮き上がる。

 と同時に、再び砲身が跳ね上がり、――度重なる損傷と、片手で180㎜キャノンを撃つ無茶を二連続でやったせいか――陸戦型ガンダムの右肘の関節が砕け、そこから先が180mmキャノンごと後方へと吹っ飛んでいく。

 今度こそまともな攻撃手段はイツキの手から無くなってしまったが――問題無い。

 何故ならば、

 

『ちっ……!』

 

接射状態で放った弾頭は、外れたり無効化されたりする事など勿論無く、確かにアルケードライを射抜いた。

 そう。――触れていたGNコンデンサーのレンズから、GNドライブを挟んでバックパックが失われた背中までを貫通した、巨大な風穴を開けて。

 そのアルケードライが、陸戦型ガンダムのすぐ先の地面に立って揺ら揺らと揺れていたが、暫くして――爆散。

 

『畜生オオオオオォォォォッ!!』

 

 機体から散った赤いGN粒子と、まるで本物のネーナ・トリニティが放ったかのような赤髪の女の迫真の断末魔ともどもアルケードライがテクスチャ片と化し、

 

<BATTLE ENDED>

 

最初からそこに何もいなかったかのように、速やかにその場から消失した。

 

 

 

「これでよし、っと」

 

 時と場所は変わり、セントラルエリア、ロビー。ミッションカウンター前。

 初心者狩りとの思わぬ激戦を終えたイツキは、移動能力を失った陸戦型ガンダムをアイアンタイガーとトピアに運んでもらいながら格納庫へと帰還。そのまま三人揃ってこの場へと戻り、チュートリアルミッションの完了報告ついでに、先の連中の所業に関する運営への報告を行っていた。

 といっても、実際に三人分の戦闘ログを纏めて報告作業を行ったのは彼ではなく、アイアンタイガーであったが。

 何故かといえば、始めたばかりのイツキにはそういう作業はまだ出来ないという(もっと)もらしい理由もある。

 が、一番の理由は、

 

「うううう~……コアガンダムぅ……ゴ ア゛ガ ン゛ ダ ム゛う~ぅ……!」

 

しくしくと泣き喚いている今のイツキがそれどころでは無いという事だった。

 

「……何でまたぶり返してんだよ?」

 

 そう顔を引き攣らせて問うアイアンタイガーに、ぐすぐす、と鼻を鳴らしながらイツキは答える。

 

「だってだってぇ! アイツら、陸戦型ガンダムが借り物だからって! 良いガンプラ使ってるだけのええかっこしいって! 勘違いしてる軟弱者って! 違うのに! コアガンダムが無かったから、仕方なかっただけなのに! ……ううううぅ~ぅ!」

 

「よしよーし、大丈夫ですよー。イツキくんはええかっこしいでも、なんじゃくものでないですよー」

 

 そう、原因は初心者狩りの連中の数々の罵倒だ。

 バトルの最中こそ戦いに、勝つ事にのみ意識が集中していたおかげでまだ耐えられていたが、いざバトルが終わったならば、その集中も当然途切れてしまう。

 結果、例の連中の心無い言葉が頭の内に蘇る事となり――よしよし、と赤子をあやす様に頭を撫でてくれるトピアの胸に顔を埋めて泣き続けるイツキと、

 

「余計な事言ってくれやがって、あの連中……」

 

その後で、はー、と深い溜息を吐くアイアンタイガーという構図が出来上がる事となっていたのだ。

 とはいえ、こうしているのももう暫くの間だろう。

 何せ、今日は色々とあったのだ。

 現実でダイバーギアを手に入れたと思えば肝心のコアガンダムは無く、代わりに陸戦型ガンダムを借りていざログインすれば、今度は胡散臭い初心者狩りに引っ掛かりそうになる。

 偶々通り掛かったマギーの助力もあって、どうにかそれもやり過ごした後でチュートリアルミッションに挑めば、今度は別の初心者狩りに襲われる。それも何とか退けるも、待っていたのはこの現状だ。

 本当に色々あった。お蔭で、すっかり疲れてしまった。アイアンタイガーも、トピアも、何よりイツキ自身も。

 だから、あくまでもう暫くだ。もう暫くすれば、いずれイツキ自身も泣き疲れ、ログアウトしよう(現実に帰ろう)という話になる。

 そう。そうなる筈だ。

 そろそろ泣くのにも疲れを覚えて来たイツキの耳に、

 

「ごめーん、遅れちゃって! 部活がちょっと長引いちゃった」

 

「大丈夫ですよ。僕達も今来たところでしたから」

 

「そーそー! 全然大した事無いって」

 

どこかで聞いた覚えのある声が入り込んで来るような事が無ければ。

 

「っ!」

 

 瞬間、イツキはトピアの胸元からガバリ、と頭を上げ、すぐに周囲を見回した。

 そして――見つけた。

 

「――あの人達だ」

 

「イツキくん?」

 

「トピア」

 

 となれば、善は急げ、だ。

 突然の挙動に、碧の瞳を丸くするトピアに、振り返る事無くイツキは一言だけ告げた。

 

「ちょっと行って来る」

 

「え?」

 

 言うや否や、間の抜けた声を漏らすトピアと、背を向けていてそもそも気づいていないアイアンタイガーを置いて、イツキはその場からダッシュ。

 

「すいません! すいませーん!!」

 

 あっという間に距離が縮まるその一団を呼び止めた彼は、何事かと振り返る彼らのすぐ傍まで辿り着いたところで、両膝に手を置いて立ち止まった。

 

「? どうしたの、君?」

 

「私達に何か用か?」

 

 イツキが呼び止めたのは、五人の男女。

 一人は、イツキと同じか、少し年が上くらいの褐色肌の少年ダイバー。右目が隠れる青緑色の髪の間と、纏っている緑色の民族衣装の裏から、それぞれふさふさとした毛が生えた獣の耳と尻尾を生やしている。

 一人は、イツキより明らかに年上の少女ダイバー。赤と白のゆったりとした袖とロングスカートの巫女風衣装に身を包んでおり、赤い紐飾りを茶髪に乗せた顔の位置を下げて、目線をイツキに合わせようとしている。

 一人は、やはりイツキより年上の女性ダイバー。緑色のラインが所々に走るぴっちりとした黒のアンダースーツに、大きく張り出た胸元の上から両の袖口までを覆う白い上着を纏った彼女は、長い黒髪が垂れ下がる顔に浮かべた仏頂面で、じっとイツキを見て来る。

 だが、こう言っては何だが、この三人にイツキはハッキリ言って用は無い。

 彼の黒目がじっと見つめるのは、それ以外の二人だ。

 

「あの! ジャスティス・カザミさんですよね!?」

 

「お、おう?」

 

 まずはそのうち片方。

 筋骨隆々の体の上から、黄色い星を中心に置いたピンク色のノースリーブと薄い灰色の長ズボンを履いた、()()の中での姿そのままの恰好をした巨漢――カザミ。

 そのカザミは、突然姿を見せたイツキに呆気に取られてか目を白黒させていたが、その横で彼とイツキを交互に見遣っていた獣耳の少年が、あっ、と何かに勘づいたように手を叩いた。

 

「ファンじゃないですか? カザミさんの」

 

「あ! あー、ナルホド!」

 

 少年にそう言われ、納得したように拳と掌を打ち合わせたカザミが、次いで、ゴホンゴホン、と咳払いをする。

 

「如何にも! 俺はジャスティス・カザミ! またの名をジャスティスナイトだ! いきなりでちょっと驚いたが、ファンは誰でも大歓迎だぜ! とりあえず、お近づきの印に握手でも――」

 

 そう立てた親指で自らを指して名乗ったカザミが、そのまま言葉通りに握手するため右手を差し出そうとしたが、

 

「あの! ヒロトって人いませんか!?」

 

その手を無視してイツキは、張り上げた声で目当ての人物の所在を尋ねた。

 それに対し、え、と瞳の小さい目を瞬かせたカザミは、

 

「ヒロト? ヒロトは――」

 

思わぬ名を告げたイツキへの驚きか声を上擦らせつつも、ゆっくりと振り返る。

 彼の隣に立つ、最後の一人。

 

「……俺、だけど?」

 

 覚束ない口調でそう答えながら一歩前に歩み出た、上半身を砂色のポンチョで覆った青年の方へと。

 黒髪を後頭部で結わえたその青年――“ヒロト”の、困惑が見え隠れする顔を目にしたイツキは、

 

「お願いします!!」

 

迷う事無くその場で床に手を着き、額すらも引っ付けた土下座をして、渾身の思いで彼にこう訴えた。

 

「俺に! コアガンダムを! ()()()()()()!!」

 

 ロビー中にその声が響き渡り、そして訪れる、暫しの静寂。

 それが過ぎ去った後、土下座したままのイツキの耳に最初に聞こえたのは、

 

「……え?」

 

なお一層困惑を深めたヒロトの声であった。

 




 そんなワケで、遂に出会ってしまったBUILD DiVERS(ビルドダイバーズ)
 果たして、この出会いが吉と出るか凶と出るか? 果たして、イツキは念願のコアガンダムを手に入れられるのか?
 全ては次回より始まる第二章にて! こうご期待!



 というわけで、今回の敵役だった初心者狩りサーの連中のパーソナルデータついでに置いてきますね。

【Diver Name】:ヒーメ
【Use GUNPLA】:アルケーガンダムドライ(色をスローネドライのような赤紫に。それ以外は特に変更無し)

 イツキ達を襲った初心者狩りサーの姫。小学生に負けた超情けない大学生その1。
 見た目はまんまソレスタルビーイングの制服を着たネーナ。だから断末魔もネーナ。
 なお、他の連中が呼ぶ際に使っていた“マイシスター”は、彼女がそう呼ぶように言い付けていたもの。曰く、アタシって皆の妹だから、との事。

【Diver Name】:ミハ兄ぃ
【Use GUNPLA】:アルケーガンダム(色をスローネツヴァイのような濃いオレンジに。それ以外は特に変更無し)

 イツキ達を襲った初心者狩りサーの兄ぃ兄ぃ(という名の下僕)その1。小学生に負けた超情けない大学生その2。
 まんまソレスタルビーイングの制服着たミハエル。元ネタと違ってMSの中で死ねた(死んでない)。やったねミハ兄ぃ!

【Diver Name】:リディ兄ぃ
【Use GUNPLA】:ユニコーンガンダム2号機 バンシィ・ノルン(色をスローネツヴァイのような濃いオレンジ色に。それ以外は特に変更無し)

 イツキ達を襲った初心者狩りサーの兄ぃ兄ぃ(という名の下僕)その2。小学生に負けた超情けない大学生その3。
 多分リディ・マーセナス似。出て来て早々サテライトキャノンで消し飛んだので影が薄い人その1。

【Diver Name】:シャウ兄ぃ
【Use GUNPLA】:フォーエバーガンダム(増加装甲の色をスローネツヴァイのような濃いオレンジに。それ以外は特に変更無し)

 イツキ達を襲った初心者狩りサーの兄ぃ兄ぃ(という名の下僕)その3。小学生に負けた超情けない大学生その4。
 多分ボリス・シャウアー似。出て来て早々サテライトキャノンで消し飛んだので影が薄い人その2。

【Diver Name】:バー兄ぃ
【Use GUNPLA】:ザクⅡ改(色をスローネツヴァイのような濃いオレンジに。それ以外は特に変更無し)

 イツキ達を襲った初心者狩りサーの兄ぃ兄ぃ(という名の下僕)その4。小学生に負けた超情けない大学生その5。
 多分バーナード・ワイズマン似。出て来て早々サテライトキャノンで消し飛んだので影が薄い人その3。
 何となく仲間外れ感が無いでも無い。
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