ガンダムビルドライザーズ   作:shisuko

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長らくお待たせ致しました第7話。今回より新章突入です。


コアガンダムをこの手に
第7話 邂逅(かいこう)! BUILD DiVERS(ビルドダイバーズ)


 現在のGBNにおいて、ビルドダイバーズの名を持つ“フォース”は二つ存在する。

 一つは、不動のチャンプ“クジョウ・キョウヤ”に最も近いと(うた)われる男――“リク”が率いる“本家”。

 勃発(ぼっぱつ)より二年、いやもうじき三年前になる第一次・第二次“有志連合戦”にて、それぞれでの立場は違えど大きな役割を担い、今日(こんにち)のGBNの発展や、もうじき100人に達するELダイバーという存在への認知に無くてはならなかった数々の偉業を成し遂げた、伝説のフォース――BUILD DI()VERS。

 もう一つは、全くの無名から一躍有名G-TUBERへの仲間入りというスターダムを駆け上がる事となった時の男、カザミ率いる――BUILD Di()VERS。

 今や、どちらのビルドダイバーズもGBNにおいて知らぬ者などいない有名フォースであるが、それぞれに対する周囲の認知にはいくらか差異がある。

 というのも、ネット上に詳細が(つづ)られた個別ページが存在する程にその偉業が周知されている前者と違い、後者は何かと謎や奇妙な点が多いのだ。

 例えば、カザミが有名G-TUBERとなるに至った切欠である“エルドラバトルシリーズ”。

 この動画群は一般的にはVer.1.78へのアップデートに続いてGBNに実装される事となった“ストーリーミッション”の攻略動画として認知されているが、そのストーリーミッション自体が動画撮影当時はまだ実装段階では無かったという話もあれば、そもそもミッションの舞台であった“エルドラ”なるディメンジョンがGBN内には存在しないという噂もある。

 他にも、そのエルドラバトルの総仕上げとでも言うべき数か月前の大規模レイドバトルにおいて、無数とも思える規模の戦艦やガンプラを率いて現れたレイドボスが、実はGBNを介して地球侵略にやって来た異星からの侵略者(インベーター)であったという話もあるし、更にそこから数か月(さかのぼ)って世界規模で起きた電波障害の発生時期が、例のエルドラバトルの動画内で敵側から衛星砲が放たれたのとほぼ同じだったという話もある。

 それ以外にも変わったところでいえば、後者のメンバーの一人が、まだELダイバーの存在が確認されてなかった時期に一部で噂になっていた“ガンプラの声が聞こえる少女”と共にいた少年ダイバーと似ているとか、似ていないとか。

 ともかく、そんな眉唾過ぎる噂がいくつも周囲に漂っていたのだが、当然荒唐無稽(こうとうむけい)が過ぎるそれらの話をまともに信じている者などいる筈も無い。

 故に、殆どの者は知らない。

 BUILD DiVERSに(まつ)わるそれらの噂の、大半が()()()()()()という事を。

 彼らが、地球から30光年離れた惑星エルドラにて、犬の獣人とでも表すべき姿をした“山の民”の人々を、彼らが“ヒトツメ”と呼ぶガンプラの姿を模した敵と、それを従える防衛プログラム“アルス”の脅威から救った、英雄であったという事を。

 地球上でそれを知るのは、当事者たるBUILD DiVERSのメンバー達と、彼らを通じてその事実を知る事となった一部の人々。そして、件のストーリーミッションやエルドラがGBNの仕様外の存在であると知るGBN運営のみだ。

 さて、時として己の命すら危険に晒しかねなかった文字通りの修羅場を潜り抜けて来たBUILD DiVERSだが、そのメンバーの一人であるヒロトは今、迷いを抱えていた。

 彼自身が使うガンプラについての迷いだ。

 

(そろそろ“アーマー”だけじゃ厳しいかもしれないな)

 

 今は詳細を省くが、ヒロトのガンプラの特性を大まかに説明するならば、様々な装備を自在に付け替える事により、状況・戦況を選ばず一定以上の立ち回りが出来る汎用機(オールラウンダー)とでもいうべき機体だ。

 その不得手がほぼ存在しない特性から、時には味方の援護等の裏方に回り、時には自らが前に出て戦況の牽引を行うなど、その都度に応じた役目を柔軟に担う遊撃役を務める事が多いヒロトだが、例のエルドラでの一件や、その後の様々なミッションやバトルの中でその役割を(こな)していく内に、ある問題が彼の中で浮き彫りになって来たのだ。

 その問題というのが――。

 

(これ以上手を加えるとなると……やっぱり、()()か)

 

 そう、彼のガンプラの()()

 その機体特性や戦法上、(コア)となる()()の性能は特別秀でた箇所や劣った箇所の無いバランスの取れたものになるように作られている。それ故、各種装備を纏った際の彼のガンプラの性能は、常に()()の性能を基盤として求められる性能が上乗せされる形になるのだが、逆に言えばそれは、どれ程特定の場面や性能に特化した装備を纏おうと、常に()()の性能を基準に置いた()()()()()()()()()()()()()()という事を意味する。

 つまり、本当の意味で装備が定めた方向性に特化し切れないのだ。

 今はまだ大きなものでこそ無いが、これからもミッションやバトルを挑戦し続けていく中でいずれはこの問題が勝敗を分ける大きな足枷になる。そうなる事を思えば、まだ明るみに出ていない今の内にこの問題に手を着けておくべきだろう。

 幸い、この問題について、既にヒロトの中では解決策が生まれていた。

 単純な話だ。()()の性能が基準(足枷)になるのであれば、その()()の性能そのものを一定方向に特化させれば良い。

 より正確に言うならば、今使っている()()とは別の――例えば、宇宙戦や地上戦に特化した性能を持たせた、()()()()()を作り上げれば良いのだ。

 しかし、

 

(……いや、それは……)

 

その解決策こそが、正にヒロトが抱える悩みの種でもあった。

 何故か?

 その理由は、今彼の手元にある()()にある。

 そのガンプラを作り上げたのは、確かにヒロト自身だ。しかし、ヒロトの独力だけで今の形になったワケでは無い。

 エルドラに住まう人々を救おうとした思いに、BUILD DiVERSの仲間達からの助力。

 そして何より――もう会う事は叶わない、一人の少女との掛替(かけが)えの無い日々が、今の()()を作り上げたのだ。

 ならばこそ、新しい()()を作るという行為は、その少女との大切な思い出が詰まった品の()()()を作る事に他ならない。

 その事が、少女との思い出に自ら泥を塗る行為のように思えてしまい、新しい()()を作るという行為を彼に躊躇させていた。

 しかし、それでもそうするべきであるという必要性も感じていたが故に、新しい()()を作るべきか否かについて彼は迷い悩むに至っていたのだ。

 その悩みについて、揃った他のメンバーがこれから何をするか話しながらロビーを歩いていた只中(ただなか)悶々(もんもん)と彼は考え続けていたのだが、その思考は不意に途切れさせられる事となる。

 

「俺に! コアガンダムを! 作って下さい!!」

 

 唐突に現れるや土下座し、そうヒロトが持つ物と同じガンプラの製作を頼み込んで来た、ダンダラ羽織姿の見知らぬ少年によって。

 

 

 

「コアガンダムを……作れ? 君に?」

 

 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしつつもそう問い返して来た黒髪にポンチョの青年ダイバー ――ヒロトに、(おもて)を上げるや、はいっ、と威勢良くイツキは返事を返した。

 

「俺、自分でガンプラ作った事まだ無くって、えーと……スクラッチ、ってヤツ? それ、出来ないんです! それでコアガンダムを、その、スクラッチっていうのして作ったの、お兄さんなんでしょ?」

 

「あ、ああ……」

 

 自らが投げ掛けた確認の言葉に戸惑いながらも頷くヒロトを見て、反射的にイツキはよし、と拳を握っていた。

 思った通りだ。

 やはり、目の前のこの青年こそがコアガンダムを作った人間だ。

 であるならば、これは唯一残されたチャンスだ。

 ガンプラをまともに作った事も無ければ、オーブンで温めたら縮むヤツ(プラ板)とか、肉や魚を固めた料理っぽい名前のヤツ(パテ)とかで一から作り上げるなどという行為がまず不可能なイツキにたった一つ残された、コアガンダムを手に入れるための最後のチャンスだ。

 

「だから、お願いします!」

 

 そのチャンスを決して逃すまいと、イツキはヒロトの青色掛かった灰色の瞳を食い入るように見つめてから、

 

「俺に! コアガンダムを! 作って下さい!」

 

もう一度、ゴン、と音が鳴る程勢いで頭を床に打ち付けつつ、腹の底から出した声で訴え掛けた。

 痛覚までは再現されないGBNだからこそ出来た真似だ。そうでなければ、今頃(ひたい)に襲い掛かって来た苦痛に見悶えていた事だろう。そういう痛覚に関する計算はイツキの頭に無かったが。

 むしろ、無かったからこそ、だ。

 そんな小賢しい計算など無く、ただ純粋にコアガンダムが欲しいという思いのみが形となったからこそ、今の彼のその訴えは真摯(しんし)なもので、そこに込められた願いを一切の虚飾(きょしょく)無く伝えるものであった。

 故に、イツキのコアガンダムを欲する想いは一切の劣化無くヒロトへと伝わったのだが、

 

「ちょっと待ってくれ」

 

果たしてそれが聞き入られるかはまた別の話である。

 

「一体、誰なんだ君は? 知らない人間にいきなりそんな事を言われても困る。そもそも、俺はコアガンダムを幾つも作る気は今は――」

 

「お願いしますッ!!」

 

 しかし、だからとイツキも引き下がれはしない。

 掌を向け、やんわりと彼の頼みを断ろうとするヒロトに、すぐさま土下座の姿勢から飛び跳ねるように立ち上がったイツキは距離を詰め――逃がすまいと、彼のポンチョにしがみ付いた。

 

「……っ!?」

 

 その突然の行為に、当然の事ながらヒロトが目を剥く。

 が、その反応を敢えて無視して、固まる彼の顔を見上げながらイツキは懇願を続けた。

 

「どーしてもコアガンダム欲しいんです! コアガンダムが良いんです!」

 

「お、おいおいおい!?」

 

「ちょっと、何やってるの君!?」

 

 流石にその行為は見かねたのか、それまで呆気に取られたまま二人の様子を見ていたカザミと、赤と白の巫女風の恰好(ダイバールック)の少女が左右からイツキの肩と二の腕を掴み、ヒロトから引き剥がしに掛かる。

 どう見ても年上な相手の二人掛かりだ。本来ならば、イツキの手は呆気無く砂色のポンチョから手を離させられていただろう。

 しかし、実際はそうはいかなかった。

 

「んぎぎぎぎぎっ……!」

 

 今のイツキの内で燃え上がる、絶対にコアガンダムを手に入れるという想い。

 その想いが、それを成就させるチャンスを逃すまいという意地が、今の彼に、冷静に自らを省みる余裕があったならば自分でも信じられなかったであろう程の力を発揮させていた。

 ある種の火事場の馬鹿力というべきか。

 ともかく、平時では考えられないような力でポンチョを掴む今のイツキは、左右のカザミと少女がいくら力を掛けて来ようと決して離れはしない。まるで岩に貼り付いた(あわび)のように、歯を剥いて二人が引き剥がそうとするのを必死に耐えながら、顔を引き攣らせて後退しようとするヒロトに密着し続けた。

 何としてもコアガンダムを手に入れる――その一心のために。

 しかし、イツキの必死の抵抗が生んだこの状況も長くは続かなかった。

 

「いい加減に……!」

 

「お願いだからぁっ! 俺にコアガンダムを――」

 

 なおもヒロトにしがみ付き訴え続けていたその最中、

 

「オラァッ!!」

 

「んぎゃっ!?」

 

突如、()()()()()()()()と共に脳天に襲い掛かって来た鋭い衝撃に、思わずイツキがポンチョを掴む手を離してしまったがために。

 次の瞬間、

 

「おわぁっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

イツキの体は、それまで掛けられていたカザミと少女の力に引っ張られるままに驚き体勢を崩す二人の頭上を飛び越え、そのまま半円の軌跡を描くように頭から床へと落下。

 そのまま、その場に背中から倒れ込んだ二人の伸びた腕の先で大の字に投げ出された彼は、無い筈の痛みを錯覚してしまう程の激しい衝撃に、痛ってぇ~、と思わず両手で頭を押さえて呻いた。

 と同時に、横から自身の上に影が差した事に気づき、目尻に涙を滲ませながらもその影の方を睨み付けて怒鳴った。

 

「何すんだよ()()()!」

 

()()()()()()()()!!

 

 それに怒鳴り返した影の主――これ見よがしに右手をピンと伸ばして手刀を作っていたアイアンタイガーが、すかさずイツキのダンダラ羽織の襟元を両手で掴み上げ、乱暴に立たせるや眉尻を吊り上げた顔を間近に近づけて来た。

 

「何すんだ、はこっちの台詞(セリフ)だバカヤロー! ちょっと目ぇ離した隙に居なくなったと思ったら、知らねー人らにちょっかい出して何してんだテメーは!?」

 

 怒りを(あら)わにするアイアンタイガー。

 彼を良く知らない人間が相手ならばその迫力に十中八九がたじろいでいるところだろうが、しかし幼馴染である故に喧嘩に至る事も多かったために、自然と彼が怒る姿に耐性が付いているイツキはそうはならない。

 むしろ、ヒロトへの説得(コアガンダムゲットのチャンス)を邪魔された事や先程の攻撃もあって、即座に返したその言葉にはあからさまな怒気が籠っていた。

 

「何って、頼んでるんだよ! コアガンダム作ってくれって!」

 

「あ゛あ゛!? 意味分かんねー事言ってんじゃねーよ!!」

 

「分かんないなら邪魔すんなよな! 俺、今忙しいんだ!」

 

「んだとォ!?」

 

「何だよォ!?」

 

 そう言い合うや否や、遂には互いに剥いた歯の間から威嚇の唸りを漏らしながらの睨み合いへと移行するイツキとアイアンタイガー。

 目まぐるしく変わったその状況にすっかり置いてきぼりにされたBUILD DiVERSの面々が一様に唖然(あぜん)とした視線を向ける二人の間の空気は、見る見る内に剣呑(けんのん)なものへと変わっていく。

 それこそ、放っておけばそのまま取っ組み合いの殴り合いへと発展しかねない程に。

 そうして、何方(どちら)からともなく額を打ち合わせたイツキとアイアンタイガーが遂に互いに手を出すかと思われた、その刹那。

 不意に誰かに後襟を掴まれる感覚が走り、そのまま強く引っ張り上げられたイツキの足は床から浮き上がっていた。

 

「え? ええっ!?」

 

 突然の事態に、それまでの怒りも忘れて辺りを見回すイツキ。

 見れば、向かいのアイアンタイガーも同じように床から浮き上がり、自らの思い掛けない現状に目を丸くしている。

 そんな二人の間に、ぬっと何かが割り込んで来た。

 

「ちょっとアンタ達~?」

 

 そう言いながらイツキとアイアンタイガーの顔に交互に咎めるような視線を向けて来た何か――見覚えのある横顔に、あっ、とイツキは驚きの声を上げた。

 

「「マギーさん!」」

 

「ダメじゃないの、こんなトコで喧嘩しちゃ! なんかカザミン達まで一緒にいるし、一体全体何があったっていうのよぉ?」

 

 イツキとアイアンタイガーが揃ってその名を呼んだ横顔の主――二人を後襟から()まみ上げているマギーが、二人とBUILD DiVERSの面々、それから彼女? に続いてその場に現れたトピアを順に見やってから、んも~、と嘆息した。

 

 

 

 時と場所は変わり、セントラルエリア――BAR”アダムの林檎”。

 上空には時折ガンプラが優雅に飛ぶ姿が見られる青空が広がり、左右には木々や様々な店が立ち並ぶメインストリートの一角に居を構えるその店の出入り口の扉には、林檎の絵と共に“CLOSED”の文字が記入された掛け看板がドアノブから下されている。

 現時刻はまだ閉店時間ではない。ならば何故その看板がそこにあるのかといえば、その理由は店主が現在店内に招いている特別な客達にあった。

 まずは、入り口から入って前方奥。

 

「へー、それじゃあトピアちゃんもELダイバーなんだね」

 

「はいですー」

 

「とすると――この前ママが言っていた新しい妹というのは、もしやお前の事か?」

 

「いもうと、ですかぁ? もしかしてお姉さんも――?」

 

「ああ、()()だ。――“メイ”という。こっちは――」

 

「“ヒナタ”です。私はメイさんやあなたと違ってELダイバーじゃないけど、でも宜しくね」

 

「メイお姉さん、ヒナタさん、よろしくですー」

 

 そこにあるテーブル席の一つに並んで腰を下ろしている黒い長髪の“メイ”と、巫女服姿の“ヒナタ”が、対面で被っていたとんがり帽子を隣の席に置いて座っている金髪ツインテールの少女――トピアと和気藹々(わきあいあい)と打ち解け合っていた。

 その一方、入り口から見て右側の方のテーブル席では、

 

「もー、スンマセン! ウチのバカがメーワク掛けてホントスンマセン!」

 

「まーまーまー、落ち着けって」

 

「そうそう、落ち着いて。僕達は大丈夫だから。――えっと、アイアンタイガー君?」

 

カザミと、獣耳を頭に生やした“パルヴィーズ”が、対面の席でペコペコと頭を上げ下げしているキッド・サルサミル風のツナギ姿の少年――アイアンタイガーに揃って掌を見せ、宥めようとしていた。

 そんな仲間達と、思わぬ遭遇をする事となった少年少女達の遣り取りを肩越しに見ていたヒロトは、自らに差し出されていたミルク入りのグラスを手に取りながら、その視線を左へと向けた。

 入り口から見て左側、様々な色や形の酒瓶が幾つも収まる棚の設けられた壁を背に、鼻歌混じりにグラスを磨くおかっぱ頭の漢女との間を長大なカウンターテーブルが区切るカウンター席。その一席に座っている彼の隣に、順に並んで腰掛けるダンダラ羽織の少年――イツキと、マギーの方を。

 

「嫌な予感がしたのよねぇ」

 

 マギーが、イツキの方を向きながら唇に人差し指を当て、何かを思い返す様に言う。

 

「あなた達と別れてからお店に戻って、()()が終わって反省したスカンクセイも解放して、これで一件落着ってお酒飲んで(くつろ)いでたんだけど、そうしてたら急に、ね。()()の勘ってニュータイプ並みに良く当たるから、あなた達に何かあったんじゃないかって、慌てて探しに行ったのよ。まさか、アイツと組んでた奴らに襲われてたなんて……油断してたわ」

 

 そこまで口にしたマギーが、はぁ、と遣る瀬無さそうな溜息を吐き、次いで、ごめんなさいね、と目尻の下がった顔を下げてイツキへと頭を下げた。

 完全に自分の落ち度だった、と言わんばかりの彼女? のその様子に、謝られた当のイツキが、何で、と若干困ったような顔で首を左右に振った。

 

「別にマギーさんのせいじゃないじゃん。いいよ、謝んなくったって」

 

「でも、あなたを襲った連中、解放した後のスカンクセイと接触していたんでしょ? アタシがもっと気を付けていれば防げていたかも知れないわ。なのに――」

 

「だから、いいって」

 

 それでもなお自分を責めようとするマギーに、今度は両の掌を見せてイツキが彼女? を宥めようとする。

 二人の、というよりもイツキとアイアンタイガーとトピアの三人と、マギーとの間に何があったのかを、彼女? に半ば強引に招かれるままこの場に辿り着くまでの道中でヒロトは大体聞かされたのだが――確か、今日始めたばかりのイツキが初心者狩りに遭い、それにアイアンタイガーとトピア、更に二人に続いてマギーが介入。カウンターの向こうの漢女に件の初心者狩りを連行させた事でその場を治めるも、後にその仲間がチュートリアルを終えたばかりのイツキを狙って一悶着(ひともんちゃく)あった、というところだったか。

 特に、後半の別の初心者狩りの襲撃がマギーにとって寝耳に水だったようで、その話がイツキ達からされた時の彼女? が驚きを顕わに取り乱した物珍しい様は記憶に新しい。

 

「そりゃ色々あったし、俺一人じゃどうなってたか分かんなかったよ。けど、コテツとトピアが助けてくれたお蔭で、なんとかだけど勝てたし」

 

 ただ、当のヒロトはその辺りの話自体にはあまり強い印象を抱いていない。

 もちろん、初めてのGBNのそんな悪質な連中に絡まれてしまった彼の不幸は――()()()()()()()()()()()()()()()()が脳裏に(よぎ)った事もあって――同情を禁じ得ないところであったが、そんな感情は数舜後には風に吹かれた紙切れのようにどこかへと飛んでいってしまった。

 初心者狩りに遭った彼が、その後どうしてヒロトに接触して来たかという、その理由によって。

 

「ていうか、今俺、スッゲェ燃え上がってるんだよね」

 

「あら、それはどうして?」

 

「アイツらに色々言われたんだ。俺が借り物のガンプラ使ってたから、俺だけのガンプラ持ってないからって」

 

 そうマギーに語るイツキの目は――背を向けているため、横目に見ているヒロトには、チラリ、チラリ、としか伺えないが――キラキラ、と期待と興奮に輝いているように見えた。

 何でも、彼はGBNでだけでなくガンプラも初心者らしく、まだ自分のガンプラも持っていないそうだ。

 そのため、今回は借りたガンプラでログインしているとの事だったのだが――問題は、彼が自分の物にしたがっているガンプラだ。

 何故なら、そのガンプラこそ先程彼が接触して来た理由であり、またヒロトにとっても無関係では無かったからだ。

 

「けど、もう気にする必要なんか無いもんね。だって――」

 

 何せ、そのガンプラは、

 

「コアガンダムを作った人が、ここにいるしね!」

 

他ならぬヒロト自身の愛機――彼が抱える悩みの根本たる()()、コアガンダムなのだから。

 

「というワケでヒロトさん!」

 

 サッ、とイツキが座っている椅子を回転させ、マギーからヒロトの方へと素早く向き直る。

 何でも、カザミの動画を通じてコアガンダムの事を知ったらしい彼は、当初コアガンダムが市販品であると思っていたらしい。それで、GBNを始めるに当たって、初めて手にするガンプラもコアガンダムに決めていたのだそうだ。

 しかし、コアガンダムはヒロトが己の手で作り上げたオリジナルの機体。使うガンプラのレプリカが市販される場合もあるクジョウ・キョウヤ(かつての古巣の隊長)のような有名人ならまだしも、あくまで一介のダイバーでしかない彼のガンプラにそんな機会が回って来るワケも無いため、当然イツキが店頭で購入する事は叶わない。

 されとて、ガンプラ自体一度も作った事が無いという彼に、ヒロトが実際に作った時のようにコアガンダムをスクラッチするなどという芸当が出来る筈も無い。

 もはや手に入れる術など無く、更に間の悪い事に先の初心者狩りの連中から自分のガンプラを持っていない事を散々指摘され(けな)されたイツキは悲嘆の渦中にあっただが、そこに差す一筋の光明があった。

 偶々目に入った、ログインしたばかりのコアガンダムの製作者(ヒロト)という光明が。

 

「お願いします! 俺に、コアガンダムを、作って下さい!!」

 

 それこそが正にイツキがヒロトに接触した理由。

 あの場で土下座をしてまで、コアガンダムを作るよう訴えて来た、その経緯であった。

 そして今、自らの事情と願いを粗方伝え終えた彼は、改めてヒロトへと頭を下げて懇願して見せた。

 その願いが叶うか否か――イツキがコアガンダムを手に入れられるか否かは、続くヒロトからの返答に全てが掛かっていると言っていい。

 そして、既にヒロトの内には返すべき答えは出来ていた。

 故に、口にしていたグラスを机に置き、頭を下げるイツキの方へと顔を向けた彼は、

 

「断る」

 

一片の迷いも躊躇も無く、そう答えた。

 




まぁ、そうなるよね、っていう話ですね。
これで諦めてくれたら何事も無く終わるんですが……そう問屋が卸すかどうかは次回にて!
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